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マスター:小田由章
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/10/18


みんなの思い出



オープニング

 憎い。

 この感情が生まれたのは、一体いつからだろうか。
 憎みたくなど無かった。
 そんな後悔の言葉も、今は記憶の波に飲まれるばかりで。
 自分が何も知らないでいられれば、こんな事にはならなかったのかもしれない。

 ――愚かであることは、高尚であるよりも尊いんだって。
 
 よくわからないよね。
 そう言って微笑んだ兄を。自分はどんな顔をして見つめていたのだろう。思い出すことは、もう無いけれど。
「……ええ、兄さん。俺にはわかりますよ」
 愚かになれなかった自分。
 この道を選ぶことでしか、抗う術を見いだせなかった。

 だからせめて――見捨てて欲しかったのに。

●久遠ヶ原学園

「再び種子島が襲われた。今度は冥魔だ」
 緊急招集された生徒達を前に、学園教師九重 誉(ここのえほまれ)は普段通りの淡々とした様子で告げた。
「現在南種子町を天界が制圧しているのは、知っての通りだな。奴らの北上を阻止した矢先にこれだ。報告に寄れば突然現れた冥魔が北部の要地西之表市を占拠したらしい」
 彼の話に寄れば、現在ヴァニタス率いるディアボロの大群が南下を始めているらしいと言うのだ。
 ざわつく生徒達に構わず、誉は続ける。
「とは言え、やることは変わりはしない。西之表市住民の避難は現地に滞在中の者が行ってくれている。我々が行うのは南下する冥魔どもを防ぐこと」
 鋭い視線で全員を見渡し。
「今回も必ず我々だけで勝つ。それだけだ」
 その声には有無を言わさぬ響きを含んでいる。
 出来ないと言わせるつもりは無い、と言わんばかりに。

 ※※

 彼方の水平線を見つめる、紅い瞳。
 心火を帯びたその視線は、赤々と燃える夕焼けに溶け込んでゆくかのようで。
「……行くか」
 黒髪が潮風に煽られるのも構わずに。
 軽く頭を振ると、八塚 楓(jz0229) は立ち上がる。
 視線の先にはディアボロの群れと集落の家々。
 この先に待ち受けるのは――

●パンデミック・ゴールド

 これは時間を遡った話。
「ああ、これ?つっかえないのよねぇ。不細工だし当初の狙いなんて何一つ…」
「……これでいい」
 相手の言葉を遮るように、楓は淡々と返した。
 何時だかも誰だかも、もう覚えていない。戦力をやろうと言われて、せっかくだからと1つ選んだ。
 リストに挙げられたディアボロの内、役立たずに分類された個体。
 これが良い。いや…、これこそが良い。
「え、でも…。味方まで巻き込んじゃうから目的地まで護衛も出来ないよ?」
「……運用次第だ。目と手を引きつけてくれればいい」
 別に生まれた瞬間に役立たずと決まったそいつに、同情した訳じゃない。
 ただ都合が良かった。
 ただ、都合が良かったのだ。
 人間に、思い知らせる為に。
 人間に、自分で自分の首を締めさせる為に……。
「合図すれば解放できるようにしろ。別に弱点や対処法を知られても構わない」
「アンタがそれで良いなら別に構わないけど…。マジで知らないよ?」
 己の身を焼く炎の上で、楓は嘲笑った。
 向けられたのは誰だろう?でも、きっと彼女はその笑顔を忘れない…。


●緊急依頼、例え生きる糧を捨てたとしても…

「指揮官である九重先生によると、前線の大部隊は恐らく攪乱目的。本当の目標はその後方にいるはずという見方だ。
 自分たちが受け持つのは後方から混乱に乗じて前線へ上がってくる、主力と思われる部隊の一つ。それを迎え撃つ」
 作戦管理用のホワイトボードに、大枠を描いたサインが描かれる。
 言葉と共に前線を示す大きな線が描かれ、後ろに2つばかり小さな円を描く。
「こちらの円は単体で行動する厄介な相手です。……ディアボロ自体は…そう強くは無いようですわね。ですが、能力の方が…」
 変わって解説を受け負った少女が、暗い顔でこちらを見ていた。
 地元出身の撃退士だと言う少女は、へし折れた腕とリハビリでつけた傷をものともせずにこちらを見ている。
 ただ、その顔は暗い。
 何かを耐えるように、何かの決断を迫らされるように、暗い顔で思案していた。
「能力と言うのも語弊がありますね。…おそらくはただの呪詛キャリアーでしょう。敵は自分達でも使いきれない厄介なモノを、こちらに放って来ました」
「斥候の撮った画像ですと、…触れた者に感染させる、呪いを所持しているようです」
 少女の隣に居た男が、画面を点ける。
 まず映ったのは牛男型のディアボロが、捕まえた一般人を金色の彫像に変えている姿だ。
 次の画面では、組みつかれた撃退士を助けようとした女撃退士が、彫像化の呪いを受け…目に見えて動きを遅くさせた事である。
 最後にこの牛男が池の中の鯉を貪り食べているのは、微笑ましいと言うべきなのだろうか?
 アウルを持つ撃退士には効かない事もあるし、効いても進行度が低いので脅威ではないようだが、大きな問題があった。

「この呪いは伝染によって一定時間残った上に連鎖するようで…。人だけでなく動物にも連鎖するようなのです。その解除を得意とする術者を集めるのには時間が掛かるとのこと。
 …ただ一つ、水の中ではこの能力は発揮されないのですわ。それで最悪の場合、進撃ルートの橋を落として海中に沈めて始末する予定ですわ」
「あの辺は海流の問題で、今の時期は静かなもんです。落としちまえば、処分する魚はそこだけですむでしょう…」
 少女が言うには、進撃路の途中に橋があり、そこを落とせば南方に抜けられる事は無くなると言う。
 男の話では、そこは流れの少ない…養殖に調度良い場所だから生け簀だけで被害は収まると言う。
 泣き笑いと評するべき顔で、それでも南の牧場に抜けられるよりはマシですわ…。と辛そうな顔で言う。
 一度『感染した』となれば、風評被害は免れない。
 水の中にある物は大丈夫なようだが、それですら処分するのが妥当だとも言う。
「これが我々の描いた最悪のシナリオです。…みなさんにお願いがあります。どうか、排除をお願いできませんでしょうか?」
 少女は、何度か逡巡した後でそう口にした。
 足を折り曲げ、腰を低くして平身…低頭した。
 土下座と言うのは、ちょっとばかり歪で、みっともない格好だった。だからきっと土下座では無いのだろう。
 だけれどもプライドとか、そんなモノの為に躊躇ったのではなく…、もっと別の理由で躊躇っていた。
「作戦に成功しても皆さんを温かく迎える者は居ないかもしれません。ですが、なにとぞ…牛や魚を育てている皆の生活を、どうか守ってください」
 この敵を放置すれば危機だ。
 だから、最悪のシナリオが用意されている。
 それが誰かの生活を犠牲にするとしても…。
 だから、この少女は養殖に従事する人々を守ってほしいと頭を下げた。

 ここで問題が一つ、だから少女は躊躇った。

 呪いの内容が内容だ。
 感染すれば排除に成功しても、助けた住民から歓迎されないかもしれない。
 石を投げられたりはしないだろうが、露骨に避けられれば良い気分はしまい。少なくとも助け甲斐は感じないかもしれない。
 貴方はそれでも、助けますか?


リプレイ本文

●呪詛
「伝染ですか。似た状況で何度か呼ばれた事がありますが、厄介ですね」
「なんと傍迷惑な『でぃあぼろ』でござろうか…」
 誘導に従って逆行する人々はパニック気味に後方へ…。
 自分の暮らした山奥との違いは潮風くらいか?峰山 要太郎(jb7130)は周囲より泡立つ気配を感じ取る。
 エイネ アクライア (jb6014)の呟きに頷きつつ、その抱えた荷物に目を向けた。
「野営の準備ですか?」
「備えあれば嬉しいなでござる!拙者も感染せぬよう気をつけるでござるが…」
 要太郎の問いに応えつつ、エイネは唸った。
 伝染病は狭いコミュニティだと致命傷になり易いが、もう一つ懸念がある。
 上手く完封できるとは限らないし…。
「不慮の事態は常にあり得るのだし、距離を詰めるなり遠間を攻撃できる可能性もあるものね」
「それに信じる信じないは住んでる連中だからよ。触らなくても何人かは泊まっとく必要があるだろうな。んで、酒の備えがあれば俺も嬉しいな。なんて言えるんだが…」
「勿論!焼き魚を頬張りつつ、勝利の一杯をキューっと行くでござる」
 懸念を別の仲間が引き継ぐ。
 山科 珠洲(jb6166)や庵治 秀影(jb7559)が言う様に、自称では意味が無いのだ。
 自分たちが冷静に対処し、その姿を周囲が認めてこそ完封と言えよう。
 エイネも拳を握り締めて必勝を誓う。

「来ぃた〜よー。そろそろ迎撃しないと!」
「もうちょっと待ってね。いま別の組が場所を探してるんだけど…」
「きちんと対策しませんと、既に感染した人や遅れてる人まで風評被害が及びますからね…。ちょっと行ってきます」
 向こうから飛んで来るスピネル・クリムゾン(jb7168)が、牛男を確認して帰還。
 珠洲は出迎えながら、別組が探しまわる立地を心待ちにする。
 その時間を有効に使う為、要太郎は最後尾の方へできるだけ雅げな様子を造って、声を掛けて行く。
「これは、神宮より取り寄せた呪い除けの札です。必ずや倒して見せますが、念の為にどうぞ」
「あ、ありがたや〜。なんまんだぶ、なんまんだぶ」
「お心遣い、ありがとうございます」
 要太郎は年かさの人達を中心に、用意してきたお札を手渡して行く。
 特段に効果など無いが、余裕がある姿を見せ、十分に対策を整えているという態度には意味があるのだ。
 そして…。
「おっまたせー!流石に噴水とかは無かったけど、それなりに広くて障害物もある場所なんだよ!」
「よろしいか、おのおの方!いざ出陣でござる!」
「「おお!!」」
 待ちわびた吉報がようやく届く。
 四方八方を駆けまわっていた白鳳院 珠琴(jb4033)達が、迎撃に適した場所を見つけて来た。
 水道が利用でき、場所によっては建物の上に陣取って射撃できる場所である。

●開戦
「被害にあった人や犬の形状が変化してました…。最初は彫像ディアボロでも増殖させる実験用だったのかもしれませんね。上手く行かなかったので、色々と弄ったり足したり…」
「それでも使える物にはならなかったってか?廃棄物を押し付けるたぁ面倒臭ぇ真似をしてくれるぜ」
 公園まで引き寄せながら、各自が配置へと着いて行く。
 交替で引っ張って来た番場論子(jb2861)が、位置に着くと声を掛けた。
 人を異様な彫像に…。それがここまでパニックを助長したのだろうと、状況を説明する事で考えを整理する。
 対する秀影もソレを判っているのか、肩を竦めながら応じて見せた。
「もぉ〜!あんなのが来たら美味しいご飯が食べれなくなっちゃうんだよっ!!だって牛さん達とってもデリケートなんだもん」
「ということは牛乳が飲めなくなるのね…それは、とても困るわ」
 ぷんすこプンプン!
 怒りの声を上げるスピネルに、静かに燃える柘榴姫(jb7286)達。スタンスこそ違えども、それぞれにて闘志を高め始めた。
 視界の端に巨漢が映り、近寄るにつれ、その異様な牛頭に区別が付き始める。
 弓を引き絞るような時間は此処まで、後は矢弾となって飛んで行くのみ!
「くくくっ。まあ、触らなければ感染もしねぇよな?後はコイツと俺が引き受けるよ」
「そうですね。では前衛をお任せしますが、くれぐれも気を付けてください」
「…乳牛には、触らせない。それは保障する」
 気だるげに首を回した秀影が面倒くさそうに吠えると、隣に何かが召喚され顕現。
 その姿が防御型のストレイシオンと知って、論子は納得してもう一度飛翔する。
 飛び立つ彼女の影に柘榴姫はポツリと届かぬ言葉を呟いた。

「あれだけの力を持って不要品ですか…」
「手加減できる相手ではありません。背負った人の数を考えれば、情け無用です!」
 悲しそうにも見える牛男に、要太郎は一瞬だけ指先を揺らがせた。
 だがそれも論子が一声掛けるまで。
 撃退士をも彫像化させたり、逆に犬猫でも抵抗・感染するレベルならば、躊躇なく倒せていたのか?そうじゃない、ならば…。
「せめて苦しみは手早く終わらせます!」
「では、予定通りに!」
 弓を引き決意を載せて、哀れな生き方からの解放を目指す事にした。
 要太郎の矢が森の香りと共に先駆ける。
 その軌跡を確認して、論子は宙空より魔書へ指を滑らせた。
 草木を捲れあがらせる魔導の衝撃波が、牛男の周囲に炸裂。
 土煙りの中で、何か巨体と巨体が激突する音が…。
「頑張れよ。俺ぁ戦場を見渡しておくからな……くっくっく、別にサボろうってわけじゃねぇぜ?」
 それは時を同じくして突進を掛けたストレイシオン。
 秀影は月弓の光を解き放ち、追撃を掛ける。

「見た感じタフで防御力もそれな…なんとおっ!」
「そりゃ無策じゃないわよね…。でも拳圧には能力が無いみたいね、安心したわ」
 うぬれー!
 左右に分かれて空中戦を仕掛けるエイネと珠洲。
 先行した論子と同じ様に、白閃や光の羽を飛ばして様子を見る。
 これで反撃できないなら話は早い、地上組を下げて…と思っている処へ、拳圧が飛来する!
 連弾衝撃破が乱れ咲いたが、直撃したエイネに変化は無い。
 変化の兆しも無かった事を考えれば、感染しなかっただけという可能性もないだろう。
 取れたデータを考慮して、珠洲は次なる一手へと考えを巡らせ始めた。

●阻止せよ!
「ちぃ、抜けて来やがった!」
「…させない」
 ブモー!!
 舌打ちする秀影の眼前に、包囲網を抜けて来る牛男の姿。
 彼が脳裏に描いた槍を展開するよりも早く、何者かが鋭い踏み込みを掛ける。
「…っ。痛い、けど耐えられない程じゃない」
 にじむ血潮は、細い指先に掛かる負荷か…。
 割って入った柘榴姫のワイヤーが牛男に、拳が彼女へ…双方に少なからぬ傷を付ける。
 だが、なんと皮肉なことだろう。
 白と赤の世界で彩られた彼女に…、呪詛が金色の化粧を施し始めた。
 やはり撃退士には効果が薄いのか、彫像化も異形の姿にも成らないが、目に見えて動きは遅くなる…。
「結界内とはいえ。あんま無理スンナ。…あんがとよ」
「善処はする」
 秀影はそんな彼女に皮肉めいた礼を告げつつ、俺も一緒に戦うぜと槍の穂先を振って隣あった。
 特に彼を助ける為でも無かったので構わないのだが、柘榴姫としても悪い気はしない。
「んー。やっぱストちゃんだけじゃ足止めは無理か。皆で何日かくらいならキャンプ生活も面白いよね」
「ふみ、今回のディアボロはなかなか厄介なんだよ。でも、触っちゃった人は開き直って感染した人を集める役とかすればいいんじゃないかな?」
 空中からの遠距離戦は触れる心配は無いが、流石に足止めレベルは高くない。
 それに地上に居る戦い易い方を選んだ事もあり、感染者が出てしまったようだ。
 スピネルと珠琴は顔を見合わせると、仕方ないよねと割り切って適宜に作戦へ修正を掛ける事にした。
「それもそうだね。んじゃあ、次に別のトコへ行く場合はあたしが止めるから、みこちゃん援護お願いね」
「りょうか〜い。悪魔の手先にはオシオキなんだよっ♪」
 感染した後で問題ないと判っていれば、どうと言う事は無い。
 そう割り切ってしまえば良いのだと気が付いて、スピネルは盾を掲げる仕草の後に背後へ光球を出現させた。
 光を矢に変えて放つ彼女に続いて、珠琴も桃色の輝きを展開する。
 それは彼女を守る様に周囲へ五つ、次々に乱れ飛んで牛男へ飛んで行った。

「終わった後の準備も十分です。つらい作業は終わらせに掛かりましょう!」
 遠間から近間に移り、要太郎は足元の呪符を炸裂させた。
 爪先で描いた横一線の仕草より、かねてより待機させて置いた札が次々と飛空する!
 それは引き返して来た召喚獣と共に、挟撃の形で牛男を挟みあげた。
「ようし、そのまま邪魔してろよ。お前の痛みは俺が受け止めてやるからな…。はっ!温いぜ!」
「…ああ。もう次々と…これでは物理的に封鎖しないと足止めも…」
 要太郎の方へと向かった敵を、今度は秀影が槍を構えて壁に成る。
 ストレイシオンの張った防御結界は十分に機能しており、威力に比して累積する傷は大幅に減っていた。
 その様子に論子は勝利を確信しながらも、流れゆく作戦に焦りを覚え…。
「いな。否にござる!弱気は禁物、橋までに『落せれば良い』ではなく『落す』のでござる!!」
「確かにその通りです!視界や位置を含めた包囲網自体は機能しています。やり抜きましょう。足を中心に狙って移動の心配だけでも排除を!」
 吠えるエイネの炎閃に釣られて、論子も闘気を露わにした。
 何を呆けて居たのだろう、もっと危険な戦場は幾らでもある!
 ならばこの程度の作戦のもつれは、想定内と言っても過言ではない。
 速やかに当初の目的を果たすべく、術式を起動して内なる鍵を回して闘気を力に変え始めた。

●判っていれば、どうと言う事は無い!
「エイネさんは万が一に備えて突破口を塞いでください。珠洲さんは例のアレを何時でも用意できるようにお願いします」
「承知!例え1秒でも時間を稼げれば、それで敵を落せる確率は無限に上がるでござるゆえ」
「いつでも行けるわ。水の確保も直ぐに出来るしね」
 論子は落ち着きを取り戻すと、敵の移動ルートを見定めて仲間達に声を飛ばした。
 強化した衝撃波で視界を塞ぎつつ、焔の剣を振り下ろし風を纏い始めたエイネを支援。
 そして珠洲もアサルトライフルに切り変えて足元を狙いつつ、『戦闘後』を踏まえて手際良く事後処置を施す手順を考え始める。
「できるだけ水のある場所から離さないで。急いで水を運んでるって見せたくないから」
「問題ない。その為の用意もしている」
 珠洲の援護と言うには容赦ない弾雨をかいくぐって、柘榴姫は手にしていたワイヤーを緩めながら回り込む。
 脳裏に仕舞っていた大剣を引き抜いて、逃走路へ先回りすると、弾雨から逃げて来た牛男へ逆突進!
 敵に絡んだままのワイヤーを引き絞り、反回転の急加速を使い下段を薙ぎ払った。
「あー!姫ちゃんが蹴っ飛ばされた!大丈夫かなー」
「だいじょびじょび♪多分アレ、狙ってやってるからっ(でも痛そうだなぁ)。あと少し、ボクらも援護に加わろう!」
 そうしよっかー。
 スピネルもまた炎の剛剣を抱え上げた。
 盾の四方に取り付けられた刃より、溢れかえる火の粉が火種へ、そして火焔の剣と化す!
「えへへ♪やる以上は手加減なんてしてあげないよ?だってあたし弱いんだもん」
「そんな事無いと思うけどなー」
 猛火となって降り注ぐ一撃の後で、珠琴は念の為に術式を入れ変え始める。
 自身の身は退路の一つへ晒しながら、傷ついた仲間を癒す為の法術を編み上げた。

「ヴモモッモモ!!!」
「やられた…いや。くくくっ、ここまで保つとはやるじゃねぇか。後で背中を掻いてやるからなぁ」
 最後の断末魔か?
 牛男の怪力がストレシオンを締めあげると同時にかき消える。
 痛む衝撃に一瞬だけ茫然とした秀影も、すぐさま気合いを取り直して再召喚。
 倒された召喚獣は異界へ戻っただけだ、主が諦めない限りまた何度でも立ち上がる!
「後少しです、ここで…」
「終わらせて見せます!!」
 長かったような、短かったような戦いが終わる。
 要太郎の呪符と論子の衝撃波、どちらがトドメになったのか正確には覚えて居ない。
 だが、無事に倒した事に変わりなく…。
 防御結界と治癒術によって倒れた仲間も居ないと、一応の安堵にため息をつきそうになった。
「しかし、ここからが本番でござるな」
「始めましょうか、みんな配置について」
 厄介な敵も倒してしまえばタダの死体だ。
 だけれども、エイネが言う様にここからが本当の戦いと言えた。
 珠洲の指示で全員が一斉に動き始め、定められた作戦を開始する。

●偽薬治療と、暫しの別れ
「彼らの行動を無駄にしない為にも、不穏な噂は収めてしまいましょうか」
 死体を詰めた寝袋が燃える中、二人の仲間が牛男が現れた場所へ逆行する。
 どうせ感染したなら彫像化した人々も運ぼうと、去りゆく後ろ姿を論子は慎ましく見送った。
「呪い自体よりも、呪いが広がっていく事でパニックになるのが怖いよね。…ええとこんな物かな」
「順次、氷を詰めるでござるよ〜。うーひゃっこい」
「…こちら対策班、予定通り焼却の後に氷結させて感染源を封じ込めました」
 珠琴とエイネは氷を造り上げるたび、焼け崩れた死体の脇へ敷きつめる。
 そこまで終わった段階で、珠洲は画像つきで連絡を本部に送った。
 本来は死体に能力は無いので、ここまでの警戒は不要なのだが、何も知らない人間に周知させるには、様式と言う物が効果的である。
「何が原因でそのような能力を手に入れたかはわかりませんが。願わくば、囚われた魂に幸あらんことを」
「使えないから捨てられたのか、利用できるから使わされたのか…どっちにしても、辛いよね…」
 それとは別に用意された焚火の中で、ジャケットやら作業手袋を放り込む。
 厳かに弔う要太郎の言葉を、スピネルは噛みしめて居た。
 敵も哀れだが、活躍したのに隔離される仲間が居るのもなんだか寂しい。
 後でお菓子を山ほど差入れしとこう…。

「よう、良い夕日だねぇ。夕を肴に呑もうぜっ…と酒じゃなくて牛乳だっけか?」
「…?いつもと…違う味」
 野営地で秀影が瓶を持って来るが、不思議と柘榴姫には牛乳が美味しく感じられなかった。
 何故だろう?仲間が差し入れてくれた、いつもよりも味わいのある牛乳なのに。
「なんだなんだ!せっかく今しか見られねえ光景なのによ、しけた顔すんなよ。ホレっ」
「…携帯?(…そっか、ししょーにさわれないのね)」
 いつもと違うのは近くに誰も居ない事だ。
 旅慣れた秀影と無感情の彼女では、心構えが違う。
 戸惑う柘榴姫に彼は携帯を投げてよこし、金色の指先が少しだけ躊躇した。
 事情を伝えて…どうなるものだろう?
「適当にメールしとけ、それで十分さ」
「そうする」
 事情を伝えたら…どうなるだろう?

 その結果はあえて語るまい…。

 だけれども、その後で飲んだ牛乳は格別の味がしたという。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 大切なものは見えない何か・白鳳院 珠琴(jb4033)
 弾雨の下を駆けるモノ・山科 珠洲(jb6166)
 いぶし銀系渋メン:89点・庵治 秀影(jb7559)
重体: −
面白かった!:5人

炎熱の舞人・
番場論子(jb2861)

中等部1年3組 女 ダアト
大切なものは見えない何か・
白鳳院 珠琴(jb4033)

大学部2年217組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
エイネ アクライア (jb6014)

大学部8年5組 女 アカシックレコーダー:タイプB
弾雨の下を駆けるモノ・
山科 珠洲(jb6166)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
峰山 要太郎(jb7130)

大学部1年254組 男 陰陽師
瞬く時と、愛しい日々と・
スピネル・アッシュフィールド(jb7168)

大学部2年8組 女 アカシックレコーダー:タイプA
ふわふわおねぇちゃん・
柘榴姫(jb7286)

大学部2年278組 女 陰陽師
いぶし銀系渋メン:89点・
庵治 秀影(jb7559)

大学部7年23組 男 バハムートテイマー