●喰いてえ!
「お、おおき過ぎるですぅ」
「逃げなくてもいいって。しっかし、良い色合いだねぇ。お店の看板とかに使えそー」
真っ赤な甲羅を背負ってデカイ奴が迫り来る。
涙目になる五十嵐 杏風(
jb7136)を気遣いながら、アッシュ・スードニム(
jb3145)は出て来なよと声を掛ける。
なんたって赤くて巨大な蟹さん。一人寄って怖いとも、美味しそうとも思えてしまう。
「生きた、かに道楽看板?確かに…」
「数々の食べ物型天魔.をこんがりと焼いてきた拙者に……蟹型で挑もうとは片腹痛いのでござる!」
駄目なのでしょうか?
じーっと見つめる雫(
ja1894)へ、エイネ アクライア (
jb6014)は悔しそうに首を振った。
かつて倒して来た豚さんや魚達が走馬灯のように蘇る。
あの時も、あの時も、何時だって悔しい思いをしてきたのだ。
「蟹をいっぱい食べる為に蟹を倒さないとね。…サーバントの蟹は食べられないし(汗)」
「くっ(涙)……食べちゃダメ、というのが酷く悲しいでござる。」
「あんなにも大きくて赤いのに、皆さん食べては駄目だと言う…」
そう言って駄目だと繰り返す猫野・宮子(
ja0024)とエイネの話を雫は残念そうに俯いた。
なんたって原型が食材とは限らない。
倫理的にイカンと問題なので残念ながらお預け!
「すべすべ饅頭がに以来のガッカリ感ですね。…あの姿を見ていたら、お腹が空いてきました」
「…ん。近付くと。危険。うん。主に。私の。食欲が。危ない」
雫や最上 憐(
jb1522)、少女達は悲しそうに呟く。
潤んだ瞳、柔らかで艶やかな緋色の唇が……とか書くと幼女可愛い!のだが…。
彼女たちの心を覗かない方が幸せだ。
きっと心の底から、クイテー!とか言ってるに違いない。
●いざ蟹の元へ!
「カニさん大きいですぅ…怖いですぅ、来ないでくださいぃ!」
「落ち着いて聞いて。蟹…あの蟹は悪いヤツ、悪いヤツ…。う、うん!いけるわ!!」
ギン!
ひぃ!
杏風は怯えて出なかった為に、しなくても良い恐怖を味わった。
何と言うドジっ子!
蟹はトモダチ。フェリ・セイラ(
jb6727)の自己暗示に付き合わされて、既に涙目である。
「これより人に仇なす蟹を殲滅する。 何かアイデアは?」
「えとえと、陸と海から挟撃はどーですかー?」
熱血モードにスイッチオンしたフェリは、早速、仲間達に尋ねてみた。
うにゃっと驚いた宮子は、咄嗟に考えていた事で乗り切ったが、ついでに猫耳まで披露してしまう。
いやまあ、魅せ耳だから構わないんだけどさ♪
「ごほん…。ボクも海側から行こうかな。犬耳だって…」
アッシュはその光景を見ながら…。
猫だけじゃないんだよと言いそうになり、代わりに相棒を撫でた。
「ひさしぶりだな、フェリ。ここはワシに任せてもらおうか!」
「ロブ!?ロブじゃない!!アンタいつ日本に来たのよ!というかアイデアあるの?」
持ちの、論よ!
微妙に間違った日本語を駆使するロブ☆星(
jb7236)へ、フェリは思わず尋ね返した。
いつであったかも、どの程度の付き合いだったかも忘れてしまったが、きっと友人に違いない。お互い天使だしな。
そんな風に思わせる愛嬌を持って、彼は自信満々に自論を展開した。
「蟹の弱点。それは、前に進めない事!挑発すれば…、おおっといかん。皆の蟹を愛する気持ち、充分伝わている!罵倒する役目はここはワシに任せておけ!」
「へぇ。なるほど。やっぱりあの手の種族も弱いところはそこなのね」
「え?(そんな事したら…)」
「(しっ…。囮役の立候補と考えれば、問題ありません)」
ワシは海老の方が好きだがな!! 蟹がいいって!
と言う感じで二人の世界(漫才)を繰り広げるロブとフェリ。
そんな自信満々の意見に首を傾げた杏風を口止めし、雫はクールに首を振った。
前面対策を蟹が使うとは限らない。ならばこじれるよりも、有効活用すべきであろう。
「では作戦も決まった処で、こやつも美味しく焼いてやるのでござるよ!」
「…ん。さっさと。迅速に。ぱっと。倒して。食べ放題に。行こう」
こうしてエイネの音頭で一同は出撃する事にした。
なお敵影を確認したレッドクラブは、突如として迂回コースへ偏向!
まるで憐たち…捕食者の脅威を感じ取るように思えなくもない。
もし蟹に言葉や思考回路があるのであれば、きっとこんな会話だったろう。
「…ん。サーバントにも。カニ味噌。あるのかな?微妙に。結構。気になる」
「ブクブクブク!(意訳:やべえ、喰われる。性的にではなく、物理的に!)」
●蟹いわく、むしゃむしゃですか?それともバリボリですか?まさか、両方!?
「逃げる気か!?貴様より、ズワイの方がきっとスマートだぜ!」
久遠ヶ原の一等星、ロブ☆星参上!!
颯爽とロブが蟹の前に登場した。
特撮で例えれば、三面カットの無駄に良いスマイル!!
挑発の為に目の前で馬鹿にしてみる!と本人は主張するのであるが、どう考えても格好良いポーズの為としか思えない。
果たしてその結果は!?
「あ、泡を飛ばされた…」
「デスヨネー」
「くっ、ロブの犠牲を無駄にするな!次々に攻撃をしかけ、足をへし折ってやれ!」
呆れかえる一同の中でただ一人、怒りに震えるフェリが果敢に攻撃指令を出す。
友人を倒され親近感を持つ蟹を倒しても仕方ないと、怒りを理由に戦いを決断した。
「よーしボク達も行こうか〜。今日は蟹さんが相手だよー。頑張れ、シィル!」
「召喚獣に負けないみゃ。魔法少女マジカル♪みゃーこ出陣にゃ♪海側から挟みこみにいくにゃよ!」
なんて面白い奴を無くしたんだ…。
と思う間もなく、迂回した海組の攻撃を待って連続攻撃に移る。
ぐるーっと回って逃走経路を遮断したアッシュと宮子が、ようやく攻撃位置に辿り着いたのだ。
「狙うなら間接〜んー。でもまあ今回はコレっかなー」
「そこを、ごーっつい猫パンチにゃー!」
ギャー!
何故か泡の中から聞こえる悲鳴をよそに、アッシュは雷電を放った。
空中に拡散する稲妻が大いなる槍となって、レッドクラブとその周囲を襲ったのである!
動きの鈍ったその瞬間を天性の捕食者である猫(宮子)が逃すはずはない。
帰り血ならぬ返り泡をモノともせず、兜割りパンチでブン殴った!!
「実際の蟹もこれ位大きければ食べ応えもあるのに…。ともあれ時間です、支援をお願いしますね」
「…ん。先に行く」
「こっ怖いですぅからぁ!!…え、あ、待って待って。支援しますから、ちょっと待って!」
雫も憐も待てと言われて止まりなどしない。
引っ込み思案タイプはこれまでの学園生活で良く知っている。
先に動いて既成事実を造ったら、引きずられるように当初の目的を遂行するのが常だ
実際に杏風は、みなが何度も攻撃している間に……。
「私が倒すなんて、ひっく。無理なんですぅ!だから、食べられてクダサイですぅ!!」
ダンダン、ダン!!
何と言うことだろう、ストライクショットを全て使い切る怒涛の連続攻撃!
支援と言うには大げさな、杏風の銃弾をかいくぐって仲間達は背中に回り込みつつ連続攻撃を仕掛けた!
「…ん。食べられなくは無い。でも。八割くらいの確率で反省会。食べ放題できなくて困る」
「…ならば…食べられない蟹に価値はありません!」
姿を消した憐の放つ魔手で動きを止めると、雫は甲羅に飛び乗って一瞬六斬!
さらに誰かの解放した食欲…じゃなくて闇の派動が、あっと言う間に生命力を削って行った。
●倒したら\カニだー!/
「アンタが何を思ってこんな所まできたのかは知らないけど、人に迷惑をかけるのは感心しないわね」
一撃与え、反撃を喰らうごとに怒りは冷めて行く。
だけどこのまま放ってはおけないと、フェリはとうとう本気を出す事に決めた。
誰かが倒してしまうならいっそ自分の手で!
そして残りの時間を、皆に蟹の美味しさを教える時間にしたいじゃないか!
「何故か凄く申し訳ない気持ちになるけれど…!倒させてもらうわ!…そう言えば、先ほどの悲鳴って何?」
「左様。このまま丸焼にござるよ。…?果たしてなんだったのでござろうか…。ぬぬ、奇怪な!」
戦いは終局に移り、足はもげ…。甲殻はボーボー。
フェリとエイネが盛んに燃やしていると、先ほど悲鳴の上がった辺りから、泡がそのまま動いて来た。
上から飛び出る真っ赤な何かが、恐ろしいほどに自己主張!
「わしだ、わしわし!海老のように舞い、蟹のように挟む。魚介真拳の奥義!見てなかったのか!」
「え、ああ…。髪型以外も気をつけた方が良いでござるよ?」
「ひぃ!いーやー!来ないで、来ないでくださいー!」
何と言うことだろう、泡から飛び出て来たのは…。
我らのスター、ロブその人である!がはは。ワシのリーゼントを崩していいのは、シャンプーだけじゃー!
盛大に拭きつけられた泡の中で、彼は気合いの入ったリーゼントを頼りに闘い抜いたのである!
もちろんその姿はズタボロ、エイネは目線を脇に反らし…。杏風は悲鳴を上げて、乱射モードに入った。
きっと女性陣は無意識のうちに、上下のダブルリーゼントから目を反らせていたに違いない。
「さて、仕舞いじゃ終わらせる、いくら装甲が厚くても、これならどうだ!」
「崖歩きはそっちだけの専売特許じゃないにゃ!猫ロケットパンチで落としてやる…にゃー!ぎなぁー!なんかキター!」
「おやー。翼で空飛びながら間接狙いかなー?んじゃあ一緒に共同作業と行こうかな?」
いっやあー!?
イヤァー!
その時、共同作業と言う単語に…、悲鳴と掛け声が同時に響く。
奇しくもヤツは堤防を登っており、舞台は三次元戦の様相を呈してきた。
驚いた宮子は、服を置き去りにして飛行した男から逃げるように、全身を鉄拳に変えて蟹へダイビング!
だが無情にも近くで響く大音量。『どりゃー!関節技じゃー!!』と言う声に耳を塞ぎ、震えるリーゼント(?)から目を必死で反らせていた。
もし目を閉じる事が出来たら、きっと戦い終わるまで閉じて居たに違いない。
それはそうと、怯える彼女に構うことなく、アッシュさんはマイペースに追い詰めて行ったそうです。
「アレ終わった?アディお疲れ様…」
「うに?魔法少女は絶対勝つのにゃ♪…うにゃ?…みゃー!?(///)」
ああ、終わったんだ。
おっとりと確認するアッシュの前で、ブクブクと内側から崩れ去るレッドクラブ。
その様子からは、やっぱり食べなくて正解だったのかな…。なんて今更のように思う中、絶叫が木霊する。
宮子は自分の水着が弾け飛ぶ事よりも…。漢全解放!な、もっと恐ろしいナニカから超高速で逃げ出した。
●満腹、かに三昧!
「お疲れさん。まさか黒一点のサービスカットとは思いもし無かったよ」
「タオルをすまねえな。風邪なんかひかねえが…。心配したか?」
「美味しい処を全部もっていかれたでござるな。…ところで、なんで既に茹でた色をしているのでござろう?はっまさか新手が蟹を食べようと近くに…」
いやいや。ないからx2。
フェリは凱旋するロブへのテンプレートなツンデレと、エイネへの突っ込みを同時にやった。
なんというか全てのオチを誰かさんが持って行ったが、心配しているわけでも増援が来るわけでも無いんだからね!
「……増援ないでござる?暴れ足りないし、ちょっと残念でござるな……って。全員居ない?誰か殺られたでござるか!?」
「その…、ごめんなさい。ごめんなさい。最上憐さんが走って旅館に行くのを、止められませんでした!!」
「…まさか抜け駆け…。一口でも多く?」
心配するエイネの声に、杏風は嵐の様な勢いで頭を下げた。
雫は冷静に分析すると、自分達も走るべきか冷静に悩む。
「最後に大変な目にあったけど、これで蟹にありつけるね。いっぱい食べるんだよー」
「…おつ疲れ様です。蟹は煮込んだら、臭みが出るから蟹しゃぶで頂きますかね」
「何を言うでござるか。焼き蟹はあの風味が良いのでござる!きゅーっと熱燗サイコー」
「ミーも入っていいですかぁ?」
ブルブルブル…。
猫耳を外しているにもかかわらず、猫が水飛沫を飛ばすような仕草で、宮子は身震いした。
それはそれとして、何も見なかった事にした雫はエイネと論戦を交えながら、隅っこで様子を窺う杏風を手招き手招き。
「せっかく一緒に戦いました。競争ではありませんし、一緒に食べましょう」
「で、でも…。あの様子で食べてますけど…。8人じゃあ、足りない…んでは?」
「ああ。最初はビックリしたけんど、たっくさんありますんで、一杯食べてくだっせ」
雫のジト目と、心配そうな杏風の視線の先に、恐ろしい勢いで食べ続ける一人の少女が居た。
旅館の仲居さんが、大笑いする勢いである。
「…ん。おかわり。おかわり。大盛りで。特盛りで。大急ぎで。間に合わない?…ん。生で良いから。バシバシ。ドンドン。持って来て」
「ん、黙々と食べるのもいい感じ?その食べっぷりは気持よくて、いーね。こういうカニだけ食べるのは、初めてだねぇ」
「お、おいしい?よかったわね。ほら、こっちも焼けるわ」
なんという憐の食べっぷり。
右から左にブラックホール。
まるで、わんこそばの様に蟹を平らげて行く。
クスクス笑いでアッシュが見守り、フェリは食欲が進まないのか自分の焼き蟹を手渡した。
「…ん。ありがとう。お返しにカレー。カレーは。飲み物。飲料。飲む物だから」
「カレーと蟹は似ているな…。ふっフェリ、蟹がうまいぞ。お前もたくさん食べるがいい」
「いや、…いい。あー、開けてあげようか?」
「開かないですぅ…。すみませんー」
ささっと差し出される憐のカレーとロブの洒落。
フェリは浮かない顔で乗り切ると、困っている杏風をダシに逃走した!
海老や蟹がトモダチだと、大変である?
「良かったら蟹料理のレシピ教えてもらおうかな?秘密のは無理しなくていいんで、とりあえず簡単に作れそうなのとかないかなー?」
「そうですね。甲羅付きなら無作法ですが、味噌汁に入れてしまいましょう。あとは、蟹素麺モドキ?」
「この土地の料理法ですか?せっかくなので教えてください」
そんな中で仲間の一人が、とあるお願いをする。
サプライズでマスターたちに作ってあげるんだ!なんていうアッシュにならって、雫も教えて貰うことにした。
蟹の身を解して、シャブシャブに使えないサイズの物を、出汁につけて贅沢にいただく単純かつ美味しい料理であったそうな。
「くあぁー、酒に合わせても最高に御座るな。五臓六腑に染み渡るのでござるよ〜♪」
「んー、これもだけど茹でても焼いても美味しいんだよ。…僕達が美味しそうに食べてる写真を撮って、それを宣伝に使うとかどうかな??」
エイネの笑顔を見ていた宮子の提案で撮影会!
みんなでワイワイ心行くまで楽しみ、一杯食べたそうです。
めでたし、めでたし。