●レースを楽しむ者よ集え!
「うわー、楽しそう〜♪」
「ん、偶にはこういう遊びも良いな…」
フォン…!
エンジンの奏でるリズムが響いては消えて行く。
ヒロッタ・カーストン(
jb6175)やスリーピー(
jb6449)は日差しの中に姿を投げ出していた。
快速で駆けて行くカートは、子供と大人が一緒になって愉むものだ。どうせ見るなら近くで見た方が良い!
「広い所で何に気兼ねなく遊べるなんてホント良い依頼だね」
「依頼を頑張り通しの人も多いし、たまには思い切って遊ぶのも良いね!」
もちろん、僕だって楽しんじゃうぞっ!
振り返ったヒロッタにそう続けながら、夢前 白布(
jb1392)はマシンの最終形を思い浮かべた。
見れば普通の車型に色んな形が走って居る。実力次第で、色んな色彩を組み合わせられるだろう…。
「あ、乗り物は自転車しか運転した事が無いけど…大丈夫だよね!?ちょっと楽しみ!」
「だーいじょうぶ大丈夫って。あたいだって自転車は苦手だけど4輪なら転ばないよね!あははは」
カートの中にキノコや黄金の魚に乗っかるキワモノまであって、ちょっとだけ不安になった白布は同じ年頃の子に尋ねてみた。
あたいにまっかせなさい!と無い胸反らせて根拠も無く笑い出す雪室 チルル(
ja0220)に、ちょっとだけヘタレて普通の車型にしようと思うのは、御愛嬌である。
「そう言えばレース用のエンジンはバイク用なんだって?」
「おう。昔に聞いた事あるけえのう。しかしカートとは懐かしいのぅ!儂の故郷にも寂れたゴーカート場あってのぅ…」
随分と早いな…。
ゴンザレス 斉藤(
jb5017)の確認へ、話半分に切り上げて一文字 紅蓮(
jb6616)はかつての思い出を語り始めた。
むかし親兄弟に連れられて、馬場の近くに造られたカート場へ遊びに行ったとか。
子供心に馬はビックリしたが、走り回るカートには随分とはしゃいだものである。
「…ならカートでもそこそこのスピードは堪能できるし、何より実に興味深い。早く風を切って走りたい所だ」
「ほうじゃろうほうじゃろう。おぬし見所があるのう。始まったら一勝負しようやァ」
がはは…。
豪快に笑って昔話を語りだした彼を見て、ゴンザレスもつられて微笑む。
朽ちた夢が新しい夢に変わるのは…随分と嬉しそうだからだ。
気の良い男と共に普段は冷静な彼も楽しそうに自分達の順番を待つ。
●この子(かーと)に決めた!
「はっやく乗りたいなぁ。コースとかチーム決めちゃわない?」
「そう言えばそうだったな。ある程度のランダムも面白いとは思う」
いよいよ自分達のカートを選ぶ時だ!
犬乃 さんぽ(
ja1272)の蕩ける様な微笑みに、影野 恭弥(
ja0018)は適当に応えた。
特段の拘りは無いな…。と告げつつ、周囲の横槍にめげる事も無くマイペースを貫く。
「サイコロか何かで決めちゃいましょっ!あたい面倒なのって嫌いなのよね」
「希望で決まらないならそれで良いだろう。希望な…面白い方が良いか」
「私も誰とでも良いし、場所に関してはこのままでもいいのではないかとは思うが…、何か妙案でも?」
まあな。
さっさと決めちゃおーと吠えるチルルへ、恭弥は好きにしろとだけ伝えて少し黙りこんだ。
その様子に何か興味を覚えたのか、ゴンザレスは踏み込む意味も込めて尋ねてみた。
「最近、テレビで自動車レースの番組を見て、風を切って走ってみたいと興味を覚えたんだが…。何か面白そうな案かな」
「…と言う程でも無いが、レースには優勝カップがつき物だろう?ビリのチームが優勝チームにジュースでも驕ると言うのはどうだ?」
「ごっそさん!あたいがもらっちゃうけど恨まないでね」
封筒に適当な希望を書きながら、ゴンザレスは皆の要望を集め始めた。
希望が近い者同士をチームとし、被った者や誰でも良い者をランダムで決めようと、手早く案件を終わらせに掛かる。
手伝いながら恭弥は、何か掛かって居た方がやる気がでるんじゃないか?と無愛想に応えた。
自信満々のチルルをスルーして、全員の要望を集めて行く。
「で、俺と組むのは君か?今日はよろしく頼む…しかし、健啖家だな」
「今回はよろしく!朝は食べないと力が出なくてね。もうすぐ食べ終わるから」
バイクで牽引してきた移動式バーベキュー台を前に、ゴンザレスは持ち主に思わず尋ねた。
もりもり片付け始めるヒロッタは、食欲が凄いと言うよりは朝食をガッツリ食べるタイプだろうか?バナナを貰いつつ、様々な奴が居るもんだと感心する。
「うっし。このスーパーウルトラかっこいい号で一番を目指すわ!」
「格好良いよね、このデザイン!ニンジャの力で年間最多ポイント(?)を上げて、チームを優勝に導くよ!」
一方、チルルがべたべたと触り始めたのは三角形の白いヤツだ。
見ようによっては龍の頭…、なんとかドラゴンみたいな渾名をつけた子も多いだろう。
さんぽはその形や色合いを見た瞬間、添え付けのシ−ルから青ラインを選んで、『チャンピオンを目指すよ』『御意、ニンジャマスター♪』とか腹話術をしながら目をキラキラ。
なお彼女たちが選んだのは超高速だぜグレート!な突撃仕様であったそうな…。
「さってと。色合いはこれで良いとして…レース前に練習してみない?」
「そうだな。初心者も多いし、練習がてらコースに危険な個所が無いかを注意しておくか。正直、俺らなら大概の事はなんとでもなるが…今後の一般利用を考えるとな」
最後まで色彩に拘って居た白布と、独自のパーツ加工をやっていたスリーピーは、息をつく間も無く最後の提案を行う。
はっきり言って初心者も多く、競い合うのも初めてだ。
面白格好良いぜ!と調子の良い事ばかり言って、大惨事になってしまうのも問題だろう。
撃退士は優れた体力や防御法術でどうとでもなるが、一般人には無理だし、悪評が立てば廃れる事もある。
そんな感じで誰にでも楽しめるクオンフォーミュラーを目指したのであるが…。
「ぎゃーっ!?回り過ぎたー。うわあああ目がまわるうう!?」
「あー。こいつぁ本当に練習が必要じゃのぅ。まだ時間はあるけえ、頑張っときんさい」
「急カーブにはタイヤでクッションを用意しておいた方がいいかもしれんな…」
せっかく芸術的に仕上げた塗装が既にボーロボロ。
暴れ馬仕様でも無いのに振りまわされる白布を見ながら、紅蓮やスリーピーは苦笑ともつかない微笑みを浮かべるのであった。
がっしゃーん!と賑やかに、レース時間は迫っていく。
●涙の直線番長!
「もう始まるけえのう。体調が悪いなら二週目にしんさいや」
「う、うん…塗り直しもあるし、そうします。く、くるまってこわい…」
こりゃ駄目じゃ。
紅蓮の前でグッタリした白布は燃え尽きたまま。
お姫様抱っこで彼を休憩室である廃バスに横たえると、紅蓮は相棒に声を掛けた。
「このジャリの面倒みとくけえ一週目は任せた!」
「…可能な範囲でやっておく」
親指をあげて勝利を祈願する紅蓮に、恭弥は顔色も変えずにすれ違った。
やるべきなのはベストを尽くすことであって、一緒になって倒れた少年に気を掛ける事でもあるまい。
無駄に暑い男とクールな男、これはこれで良い組み合わせなのかも?
「大丈夫かな?タイトなコーナーや直線ばかりでない限り、平均的なパフォーマンスのマシンの方が有利だとは思うけど」
「とりあえず図書館で色々と本を漁って読んできた。理論的には完璧だ。任せておけとは言わんがな」
「あに今更相談してんのさ。コース発表するかんね、うーらみっこ無し、よっ!」
一方、平均値を重視するバランス組は、ホット&クール組とほぼ互角のマシン性能だ。
ヒロッタが言う様に、特殊なコースでなければどちらかが優勝するだろうと、登場席に乗り込んだゴンザレスへアドバイス。
そんな二組のチームワークを横目に、相談すら必要無い突撃仕様まっしぐらのチルルは勝ったも同然と愛用(と決めた)マシンへ颯爽と飛び乗り係員にランダム札の公開を指示する。
……。
奇数・偶数(直・曲)で簡単に決めたコースが休憩所のホワイトボードに公開!
破った封筒に記載されていたのは、偶数、偶数、奇数、奇数。
曲線曲線のジグザグコースで大カーブに侵入した後、緩やかに描く直線の多いカーブで直線に戻る…奇しくも平均的なコースになっていた。
「やりぃ、直線が多い!あたいのお通りだー!どんどん行くわよ!」
「わぁ、面白さレッドゾーン!って、奴だよね、ボク頑張っちゃうもん。いっけー!!」
「…まずは様子見だな」
ぶっとび状態のチルルに熱い声援を送って、さんぽは途中まで一緒になって走り出す。
冷静にその様子を眺める恭弥は、断トツの性能に危うさを見た。
他チームの倍近い直線性能!それが意味する危険とは一体!?
「今よ!必殺のあたいブレーキ!……げっ、減速し過ぎぃぃ」
「お先に行かせてもらう」
「くっ。出遅れた…。い、いかん、こんなはずでは…」
安全運転にとブレーキを掛けたチルルは急減速に慌てふためき、その脇を恭弥が追い抜いて行く。
ここでゴンザレスは焦りを覚えた。
ほぼ同時にコーナへ侵入して、自分の方が競り負けたのだ。
知識ばかりで実地を掴んでいなかった彼の分だけ、押し負けたと言う処だろうか?
「焦るな、俺…、こういう時は落ち着いて順に言うんだ。家康・秀忠・家光…」
「おおっと…。愉しむのはここまでか。事故を起こさないようにしないとな…」
「っ…追いつかれたか」
「ががーん。エンジンー早く動け。うごけってばー!」
落ち着く為に素数ならぬ徳川歴代将軍の名前を唱え始めたゴンザレスを、ゆっくり遅めのペースで進んで居たはずのスリーピーが追い越した!
特に飛ばしもせずに安全運転、最初の大カーブを越えて何とTOPに躍り出る!
マシンには独特の飾り付けが凝っており、格好良さ重視でありながらの独走に、子供たちの声援も一人占めである!!
一方、気が気で無いのが直線番長こと我らのチルルさん。涙目になりそうな声を張り上げて、エンジンの妖精に叱咤激励中です。
このまま直線番長は、他チームの後塵を排してしまうのだろうか?
●思わぬ接戦
「ぐぎぎ、このあたいがどんけとは…」
「あとは任せて!エンジン臨界まで、カウントスタートだもん!」
直線混じりのコースから一気に盛り返したものの、チルルは大きく離れてゴールイン。
仕切り直しての二週目に、さんぽは策を秘めて勝負に挑む。
継戦ではなく、ドライバーの交代もあって勝負は合計での戦いだ。
最後こそ離されたものの、途中までは何度か挑めたのだ…。やり方次第でチャンスはあるだろう。
「良くあれから頭を取り返したもんじゃのう!このまま二週目ももぎ取ったるけえ、安心せえや!」
「あとはよろしく。まあビリでなければいいさ」
「ぐぬぬ…。あんなのに負けんじゃないよ!」
「ど、努力します…」
トップを取り返した恭弥と交替して紅蓮がマシンに飛び乗った。
お互いにギア比を交換する中、あくまで冷静な彼らへチルルはおかんむり、ウシャンカの脇から角が出そうな勢いである。
「すまんな。競り負けた…しかし、性能も使い方も…人が苦心を重ねて作り上げたものも、実に興味深いな」
「まあ先人の努力、最後まで愉しんでいこか。ホイッ楽しいレース、倒れちゃったらつまんないもんね」
「最後の最後で抜かれてしまったな。まあコースの問題点も判ったし、それで十分だな。後は任せる」
「いーよ。練習では何とかなったし、勝てればいいけれど…とりあえず、頑張ってみよう!」
一方、二週目に際してマイペースな二組が早くも交代劇を終え始めた。
僅差とは言え、ほぼ同性能なのに置いて行かれ続けたゴンザレスは多少の悔しさを滲ませつつ、ヒロッタから氷を受け取る事で遊びに夢中になった自分を振り返る。
逆に勝負に出る気が無かっただけに、せっかくのTOPを二台に抜かれたスリーピーには悔しさは無い。
それぞれのスタンスでコースに向かいつつ、白布は待機中に塗り直した自分用の外装を再び張りつけ直した。
「はい、それではお先に」
「ああっ、おいてかないでー!」
再び勢揃いした第二週。
ヒロッタ達に出遅れたカーブ優先の白布は涙目になって追い駆け始める。
一週目と似通った始まりながら、早速変化が訪れ始めたのは面白い。
「いっけー。これがニンジャの速さだ!」
「さすがニンジャ…。きたな…いや、レースなら当然ー!やり返したるけえ、よー見とけよ」
それぞれの個性もあるが、さんぽが露骨に邪魔をし始めた。
ブロッキングでカーブや直線に戻る間に何度も割って入り、エンジンの臨界をずらせば…。
合計タイムとはいえ勝てない事は知っているが、二週目だけなら話は別だ!
例えジュースを驕らされようと、負けられない意地が男の娘にだってある!!
顔に見合わないダーティな動きに紅蓮はむしろ楽しいモノを感じていた。
最初は外見に騙された。だが、さんぽだって立派な男だ。男の意地には受けて立つのが漢である!
「苦手なコーナーだけど、絶対に諦めない…これがボクのカート忍法だもん、曲がれーぇぇぇぇ!」
「かっ!温るいわっ!させんけえのう」
「無理に勝負には出ない…。抑えでも良いからミスの後に…」
「っ!邪魔が…一度外側に抜けてからセンターに切れ込むようにハンドルっ!」
ブロックがブロックを呼び、お互いに邪魔になって最大性能を活かせない!
さんぽと競り合う紅蓮は車をぶつけ逢い、弾き出されるようにしてヒロッタと白布は一週目より安定性を確保しながらも抜けだせない。
カーブの切れ味を活かしてなんとか潜り抜けるものの、おもわぬ頑張りによってペースを乱された感じである。
「勝負事は熱く燃え滾る程ヒートじゃいやぁああ!!ぬ……かー、はー」
「勝ったー!!おっ疲れ様したー!」
最終的に紅蓮を追い抜いたヒロッタが逆転し総合優勝をさらった。
やはり要所要所で有利な面を抑えられた方と、ミスを待って無理をしなかった差が出たのだろう。
「まーけーた〜。悔しいなぁ」
「慣れてくれば、やっぱり楽しいなぁこれ!」
さんぽは最後のカーブまでは白布と良い勝負に持ち込んだものの、やはりカーブで置いて行かれてしまい…。
逆に激烈に置いて行かれた状態からの復活劇に、白布の方はご満悦である。
「終わったな。飯でも食いながら次回への反省会といくか…」
「いいですね。ならバーベキューでもどうっすか?」
こうして祭りが終わり、スリーピーとヒロッタの音頭で食事会に移行した。
最後までワイワイ言いながら、一同は改良案をああでもない、こうでもないと…。
楽しく語っていたと言う事である。