●こやつら天然系
「おっちゃんまぬけー(キャッキャッ)」
「うっせ!」
画面の中の鉄格子で、オッサンがむくれていた。
紅鬼 姫乃(
jb3683)が見世物に笑いこける。
鉄格子の中から連絡を取る必要は無いので、オッサンのネタだろう。
「でも、わんたちのお仕事は猿型サーバントを倒す事と、屋台のおじさんが経営する店舗を立て直すこと?ですよね。本当に出来るのかな?」
「…ん。諦めるのは良くない。きっと。無実を証明したら。おそらく。ラーメン食べ放題」
「えー、食べ放題でなくてもいいから〜。ねぇねぇ−。姫ちゃんの洋服買って?ウエイトレスしてみたいのっ」
ウエイトレスと言う単語に反応したオッサンを、天海キッカ(
jb5681)はにこやかな目で見た。
濡れ衣がショックではないのは良いが、もはや自業自得である。
そこへねじ込むように最上 憐(
jb1522)は食べ放題の為には仕方無い。なんて身も蓋ことを言いつつ、姫乃はお洋服〜と連呼する。
「まあまあ。きっと本当に無実ですって」
「俺は無実だぁ〜!…訂正するとしたら、潰れた店とスポンサーを紹介するってやつだな」
「なら。わんたちにしか出来ないことを全面に押し出す?例えば見世物じゃないけどアウルの力を発揮してお客を楽しませたり芸を…?」
「…ん。私は反対。否定では無く、逆の意見。撃退士だと明かすと、警戒されたり。天魔絡だと騒ぎになりそうなので、黙っておく方が。良いかも」
さてさて、依頼主さんのためにも頑張ってお猿さんを見つけましょー!
フォローするオルタ・サンシトゥ(
jb2790)は、調査に誘導すべく、事前に皆があつめた資料を配布し始める。
キッカと憐の相談を一度止めて、まずは作戦の調整。
「まあその辺は方針が決まってからな。キッチン周りが揃ってるのはありがてえが…。その辺も含めて、今回はケンに回って調べとくのはアリだ」
「ですです。店の事を考えるときは、ボクも可能な限り協力しますよ。さてさて、まずは聞き込みで調査する地点を絞り込みましょー!」
「…ん。将来の。ライバル店で天魔の情報収集もしておく。ついでに。こんな飲食店が町に欲しい等の情報もリサーチ」
情報や地図を眺め、叶 心理(
ja0625)は三軒分の店舗内容を見比べた。
いずれもキッチンや冷蔵庫などは揃っているが、自分達で把握しないと詳細までは判らない。
何で三軒分…?と思って地図を詳しく調べると、特徴的な建物がデカデカと書き込まれている。
その視線に気がついた段階で、ホワイトボードにペンを持ったオルタが立ち上がる。
「この町は旧小学校を基準に三つのエリアに分かれるみたいだな。町の中央に今も残って、中学高校が近いのが1つ。後は港の向こう…魚港側と、他の町側へ廃校が1つずつ」
「魚港側は青少年育成用の施設になってるみたいですね。今は誰も使ってないそうですけど…」
「その辺は俺がやっとくよ。人探しならぬサーバント探しなー…俺にできるかなー」
なら後は実際に調査ですね。
心理が読み上げていた情報を、オルタは横から眺めてペンを走らせる。
探し物は得意じゃねーんだよなー。とか言いつつハルティア・J・マルコシアス(
jb2524)が担当すると名乗りでる。
港から漁港に掛かる一帯には他にめぼしい施設は無いが、泳いでなら逃げ込み先があるかも?
「なくしたらまぁいっかで済ませちゃうし…。でも、猿なら獲物だと考えれば…いけるかな?」
ハルティアは耳を立てたり伏せたりして考え込んだ。
でも、自身ないのなんて、らしくないよね。
●もしかして、やつらは…
「猿狩りかぁ、すばしっこいからなー、猿」
「おー…高速の追いはぎ相手となれば、最速の腕が鳴るのだ…!だから、問題ないのだ」
無問題?
無問題、イエー!
ハルティアが漁港目指して歩き始めるのを、市場から戻ったフラッペ・ブルーハワイ(
ja0022)は親指立てて見送る。
ルートを前もって把握し、お互いに協力しあえば良い。仲間と言うのはそういうものであろう。
「中高ともに女子はセーラー服なのですね…。これならば、融け込む為に好都合と言うのも判ります」
「制服好きのスケベぃなお猿みたいなので…、色々用意したのだけど…。もしかして要らなかった?」
昔ながらの町並みを道行く中学生に高校生。特に女学生たちは、ほぼ同一のデザインだ。
全く同じではなく、細かい差があるのでしょうけど…。と古着屋から戻った御堂・玲獅(
ja0388)は、セーラー服を掲げて見せた。
その様子に自分のお古を車に並べていたキッカは、恥ずかしそうに顔を赤らめて立ちつくす。
「見て見てー!じゃじゃーん、姫ちゃんの自信作だよ!」
「ワンダホーなのだ。ガーターやニーソまで付いてて…。おー…これはボク、ガンマン店長名乗っちゃったり出来るチャンスかもなのだ…!?」
「みんながOKならガンマン料理店でもカウガールでも別にいいぜ?さっきもオムライスみて、テキサスライス造ろうと言ってただろ」
ふふ〜ん。こう見えても、家事は得意なんだよ−!
姫乃が得意そうに服の上から合わせて見せる。前に流行ったピンクのワンピースだが、とても古着とは思えない。
ともすれば子供っぽくなり過ぎる色を、500円以下の端切れで加工し別物に仕上げていた。
その出来栄えに、自分用の制服を造って闊歩する姿を想像したフラッペ達を見ながら、心理は先ほどの試作品の話に戻る。
「オムライスのライスは温め直す分、造り置きが聞くしね〜。飲み物や付け合わせ込みで、冷製・温製どっちでもいけるよー」
「どうせなら地元の品で地産地消が良いと思いますけど…。そうそう、これが頼まれていた盗難のリストです」
「すまんね、コレばっかりは男じゃあ。…材料に内容、その辺も込みで方針を決めたら直ぐだろう。瀬戸内海の魚介もいいし、料理の傾向もアイデア段階だしな。…あと面白いモンが見えて来たぜ」
姫乃の造ったオムライスを思い出し、頭の中で修正しながら玲獅が頷く。
ライスに味付け香り付けをし寝かせれば、造り置きだからこそ美味しいご飯に仕上がるだろう。
そんな思案に暮れていた彼女たちを横目に、心理は頼んで居たリストからセーラー服をピックアックして見直した。
セーラー服を盗まれた時期、場所、その頻度…。赤裸々な女の子たちの証言は無視を決め込む。
そのファクターで、見えて来る物があるのだ。
「四国の騒ぎが収まった後で始まり、セーラー服の数だけ段違い。これが一度収まった後で…、暫くしてまた最近起き始めた」
「カモフラージュに最適と判断したのですね。明らかに違う場所の流行物は、はぐれ天魔かもしれません…。あ、最近のって夏服ですか?」
「ヒメにお願いすれば夏服仕様に出来る?おっけ。…お?どうしてキッカは固まってるのだ?誰もフリーズとは言ってないのに?」
心理は玲獅に頷き、バックミラーを曲げて居眠りを決め込む。
最悪の場合は数体が忍びこんで居るとして、件数から逆算すると、まだ夏服が揃ってないだろう。
外見だけ仕立て直した夏服を…と言ったところで、資料を見て居たキッカが真っ赤を通り越して真っ白に燃え尽きて居る。
「…盗られているのはカモフラージュ用。だから、外見しか気にしない。だから、セーラー服だけが盗られてる…」
「ホワーイ?本当にどうしたのだ?」
「(ちっ。そう言う事か…。もしかして奴らは…)」
とある物を用意したキッカが驚くのも、逆に、データを読んでないフラッペが気がつかないのも仕方ない。
目を閉じたまま、心理は心の中で最後の一ピースを口にした。
「(奴らは…。履いて居ない)」
「オー!これは何とも刺激的なのだ。でも、ボーイ達の目の毒だから、今は仕舞ってお…」
「いっ……、ヤー!」
おそるべきカルチャーショック。
はいて…ない、だと?
口調はともかく、全員の心は1つに固まった…。
気がつけばボンゴ車の後ろに吊り下がる下着たち…。心理が居眠りを決め込み、フラッペが眺めている間にキッカは脳内スイッチをキック!
考えるよりも早く肉体は行動を開始し、恐るべき早技で下着を取り戻す事に成功した。
彼女の尊厳?フラッペさんや心理さんたちは紳士だからきっと忘れてくれるよ!
●トラブル・トラフィックス
「漁港の側の廃校だけど、何も無ぇ。んー…なんか落ちてたりしねーかな?」
「もしもし?ボクです。オルタです。今、他の町に連なる区画に来てるんですけど…。ここの廃校って、面倒な建物になってます」
ハルティアからの電話の向こうで、がらがらっと扉の開く音。
ぎしぎしと軋む床の音まで聞こえて来そうな雰囲気である。
オルタはそんな光景を思い浮かべて、目の前の事実から、目を背けようとした。
「残ってるのは弾道学はともかく、基礎魔力のベクトルレポート…。こりゃインフィルの忘れもんだな。つまんねー。そっちは?」
「ふむふむ。青少年育成系の施設になってたんでしたっけ?四国騒ぎのときに補給拠点にしたのかもですね。っとこっちはですね、完全に造りかえられて……ショッピングセンターになってます。いま憐さんが調査に行ってるんですけど…」
「…ん。これはヤバイ。凶悪な…。敵。いろんな意味で」
どうしたんだ?敵か!?
ハルティアはオルタの話しの後で、パーティラインを使って割り込んで来た憐の言葉は、途切れ途切れ…。
暫くした後で、『お待たせしました』という上品な声と、もっきゅもっきゅという咀嚼音。
「…ん。ここの一階はバーガー系タウン。同じカウンターで全店同時に頼める。でも、それだけ。問題は3階。強敵。主に味。次に値段」
「ハァ。もう夕食かよ。そんなに美味い?」
「えとえと…。一階は学生向けなんですけど、三階は高級店のアンテナショップみたいです。どっちも品数を抑えて、売れ筋とかだけ並べてるみたいですね」
元々は過疎化で寂れかけたベットタウンで、仕掛けた対策が悪手だったと言う。
大型施設を誘致し便利なサービスを導入、人を呼べる工夫を凝らした結果、周囲の店をなぎ倒したとか。
料理店だけではない。同様にマッサージや老人介護の店を内包しており、整体など似た形態の店を軒並み閉店に追い込んだと言うから笑うしかない。
「三件ある店舗候補の内、ここは人を呼べるか魅力があるかで全てが別れそうです。ただ、ただ…。情報収集はし易そうな場所ですね。面白い話が聞けました」
「…ん。こっちも。グルメで食いしん坊な奴が居る。いつのまにか料理。減ってる」
「それは、はぐれ天魔かもしれませんね。分析の結果、1体ほど居るかもしれないそうです」
オルタは憐の聞きつけた話とは別だと告げた。
物質透過して高級店の食事を食べに来る天魔でしょうか?と玲獅は首を傾げながら、話しを促す。
お互いに紙をめくりあげながら、情報の整理を始める為に。
「あの、あの…。もし5分後くらいに、ボクや憐さんを見かけたらどうします?撃退士の体力なら十分に走れますけど、電車だと厳しいですよね」
「そりゃ話しを聞く為に、椅子やテーブル出して屋台に呼ぶ振りするわな。そこまでは良い。続けてくれ」
ごくりと息を飲み込んで話し始めるオルタに、心理は言葉を噛みしめる。
色々と疑問点や推理を思いつくが、ひとまず全ての話しを聞く事にした。
「じゃあじゃあ。その時に無視したら、気分が悪くなりますよね。でも、ボク達の身長がフラッペさんくらいあったら?」
「可愛いと思うのだ〜。そりゃイメージは変わるかもしれないけど、みんな大切な仲間…」
「じゃなくて!それって本人じゃないじゃないですかっ。明らかに化けられてますよね?しかも…」
「見た者に化ける能力なのですね…。あげくに…。ハヌマッツ、恐ろしい子」
オルタの話しを聞いた瞬間に、魔法少女的な事を考えついたフラッペは思わず微笑んだ。
だが自体はもっと危険である。
キッカと玲獅は顔を見合わせて、自分たちが化けられているという危険な状態を想像…。
マジカル変身で大人の姿なんて可愛らしい物では無い!
なぜならば…。
「(キャハハッッ)けっさく〜姫ちゃんたちの偽物が居たら、頭隠してお尻隠さないの?一発で判る〜」
「「「駄目です。その方法で見つけるのだけは絶対に駄目です!」」」
楽しそうな姫乃の言葉を遮って、仲間たちの視線が射ぬく!
人には、乙女には、時として後には退けぬ戦いが、待っている…。
●その早さじゃ二番目以降なのだ
「(右の子、サーバントです。他には何も…)」
「(…ひっそりとって、あんまし得意じゃねーけど。しゃーないな)」
高校からの帰り路、制服の落ちてる方向へ歩く女子高生が二人。
探知役である玲獅の言葉で動き出すと、一人は何でこんな所に?なんて顔つきだが、もう一人は手を延ばす。
屋台に座っていたハルティア達は、歩き出してジリジリと距離を詰め、飛びかかろうと…。
「早っ!」
「インフィルトレイター(のコントロールを)、なめんなよ!」
「うむっ…中々の速度、なのだ……でも!」
だが、追いつけない。
だからこそ、心理は何かを投げつける。
避けられたが直撃させる必要も無い、近くの壁にぶつかって炸裂した飛沫が掛かれば良い!
超加速を掛けて普通に走るフラッペよりも早いが、全力疾走ゆえの単調な動きは、読み易かった。
「本当に姫ちゃんたちの方に来た。いっせーのーで飛びだすよっ!」
「後は、わん達にお任せ!」
「逃がさ……。あれアレ?ハルティアさん?…な訳は無いですよね」
何故か遅れた追っ手を、更に引き離なそうと、三差路を幾つか曲がった処で姫乃とキッカ達が飛び出していく。
だが、そこにはセーラー服を来た仲間の姿。
思わず攻撃を躊躇ったオルタ達であったが、違和感のある服装と、ペイントによる汚れが現実に立ち戻らせる。
偽物は攻撃を喰らいながら、港を目指して再び逃げ出すのだが…。
「…ん。予定通り。終わり。食べ放題の始まり」
「その気色ワリィ格好を、止めやがれ!」
海が見え、服も脱がずに飛び込もうとした所で、死角からの一閃!
サーバントの体力を、全快であっても一撃で半減させる強烈なヤツが見舞われた。
姿を現した憐の隣に、飛んでショートカットしたハルティアの顔面パンチ!
吹っ飛ぶ向こうで反対から回り込んだガンマンが、何時でも撃てるよと、帽子のひさしをリボルバーで上げる。
「ふぅっ…本当の意味で、ボクより速い奴にもっともっと会って、それで、最速になるっ……って、その前にメニュー作りがまだ終わってなかったのだー!?さ、最速で再開なのだー!」
「全力で走ればフラッペさんの方が早いですものね。お疲れ様です」
「わんたちがいれば、なんくるないさ〜」
追い駆けてる時よりもかっ飛ぶフラッペを見送って、玲獅が見送った。
笑顔でキッカ達も走り出し、最初の事件が終了したのである。