●ナマモノ
「(どういうわけか俺は三度の硝煙の匂いにむせ返る戦場に帰ってきた。俺は傭兵、今日を生きるだけで精一杯だ)」
今は道路を登り切って森を歩く、ガチでシビアな最低野郎。
明日?明後日そんな先のことはわからない。
ニヤリと笑ったMarked One(
jb2910)は、相棒たちを確かめる。
二丁の拳銃と隠した切り札、肩にはスナイパーライフル。
「ハイ、ここまでモノローグ!さーて今日も始まりました、ディアボロ退治!今回はムカデ列車を倒したいと思いマース!」
「(ふぁ〜ぁ…眠いな。そして面倒臭い。何故、俺たちに白羽の矢が立ったかは疑問だが、これを阻止しないと色々とヤバいらしいからな)」
ハイテンションな隣の男を見ながら、同胞(
jb1801)は息を吐く。
高台に座った彼は、奇妙な事に常人なら反動でふっとびそうな大物をバズーカの様に担ぐ。
スコープも覗けないが彼なりの流儀なのだろうか?
他の仲間達も散開し、自分に適した位置を探し始める…。
「来たね。さっさと潰してお茶でも飲みに行こう」
「四国のコーヒーは苦そうダケドネー」
「みんなで卓を囲むのもいいですわね。地響きがこちらへ…どうやら狙い通りみたいですの」
零時はとうに過ぎ去り、深々とした空気が耳に痛い。
その痛みを遮る震動と男達の言葉に、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)は顔を上げた。
既に道路から離れ、かなりの時間が経つ。
「隠れる場所もありますしこの辺りで問題ないでしょう。後はそちらですが…」
「…ああ。面倒事になる前に止めねーとな」
通り易い窪地に差し掛かった時、シェリアは声を掛け何人かが頷いた。
月の薄い夜に似合いな黒猫が、カウガールと一緒に森陰へ…。
夜に染まった青い月の下で、包囲陣は完成されつつあった。
そんな中で黒夜(
jb0668)は木にもたれ、軽く指先だけを動かし、ヒュルリと鋼の糸を滑らせる。
太い枝に絡みつき、爪で弾くとたわんだ位置が最適化され、そして…。
「……」
「準備はOKだ。百足はどうだい?」
「来ておるがなんとも奇怪な……っ。来るぞ、周り込むものはようく拝んでおけ」
ワイヤーが唄を奏で終わると、少女は合図も無く梢に背中を預け姿を眩ませる。
彼女が気配を消した事に気がついた同胞は、降りて来る白蛇(
jb0889)を出迎え、周囲への情報通知を促した。
大きな木に隠れて高い場所まで浮遊していた白蛇は、視線の先から顔を出す巨大なナニカを顎で指し示す。
「…………怒怒怒ぅ」
「ちっ…センチピードは嫌いなモチーフじゃないが、こいつぁさすがに気分が悪いな」
ドウン!っと向こうの方で丘を越える為に顔を出した大百足は、半身をくねらせてまた森の中に沈み込む。
む、百足の列車。キモイ、キモすぎる。悪趣味じゃー。と、そのおぞましさにネピカ(
jb0614)は身もだえし、決して嫌いでは無い命図 泣留男(
jb4611)ですら苦笑せざるを得ない。
何しろ仮に横幅2mと小さく見積もっても、全長は軽く20mは越える大物。勿論、もっと大きいだろう。
ジェットコースターは機械だから良いのであって、ナマモノは不快でしか無い。
「…まあ、何にせよこれ以上新型を投入されるのも面倒じゃ、ここで小鬼ごと殲滅してくれる」
「どっちにしろ、潰してやらなきゃあな…。魅せてやるさ、伊達ワルってやつを!お前も、思うトコがあんだろ?」
「……」
白蛇の不敵な笑いに呼応して、メンナクが親指で返す。
話しを向けられたネピカは、軽く頷きだけを返した。
出来れば相手をしたくないのじゃが…、それ以上にあんなエッッグいモンが這い回ってるという事実の方が耐えられん。…狩れ、狩るのじゃ。この目でヤツの死を確認せねば!
そう考えていた矢先の話しである。
「っ!」
電光石火のひらめきは、まるで点灯する電球の如く。
ネピカは直観に従って戦場を迂回し始める。
何を思いついたのであろうか?ネピカ先生のご活躍に、ご期待ください。
●赤い翼
「おー…東京〜大阪間を10分とか素敵な感じなのだこれ!駅弁!駅弁買ってこなきゃ…って、え、もう出撃なのだ!?」
「フラッペさん駅弁どころではありません!すぐに出撃ですよ」
細部が見え始めた辺りで一つの…、いや二つの影が飛び出した。
トンっとめくれ上がった赤土の臭いが、鼻につくよりも早く走り出す。
フラッペ・ブルーハワイ(
ja0022)とカーディス=キャットフィールド(
ja7927)の足取りは軽く、少し離れた場所から走り出す事で初動のタイミングを調整する。
月下に踊る姿は、まるで妖精達でも顕れたかのよう。
「アレに乗ろうとする気持ちが理解できません…。乗り心地悪そうですね…壊しますか」
「害虫ですわ害虫!あの気持ちの悪い胴体を叩き切ってあげますの!」
走り去る二人の会話を聞きつけて、少女達が苦笑いを浮かべる。
ハートファシア(
ja7617)とシェリアは顔を見合わせて、百足はさすがに無理ッ!とギコチナイ笑顔で歩き出した。
少女達の中にも以前受けた依頼群で虫に多少耐性ができた者もいるが、程度の程が流石に違う。
前衛後衛の受け持ちに分かれつつ、百足が窪地に嵌り込む瞬間を辛抱し続ける。
「こっからは通行止めだ。…重過ぎるか?」
「…っ!カーディ!先に行く、後は任せたのだ!」
張り詰めた鋼の糸は、足止めの意図を絶ち切る事で現実から消え失せる…。
だが、トラップには失敗したが…、囮になったと言う意味で足止めには成功した。
黒夜は咄嗟にワイヤーを消し、吹っ飛ぶ運命から逃れて素早く、合流する為の足取りを計算。
回避が間に合わないか…?そう一撃喰らう事を冷徹に判断した彼女へ、フラッペが突撃を掛ける!
自分なんかを助けに来るなど想定外、思わず思考が止ま…。
「…っ!痛…っっ。やっちゃたのだ。ちょっとだけ我慢して欲しいのだ」
「…っ。……血?」
…。
青い風が感じるのは、助かった安堵よりも強い拒絶感。
抱き上げた事で避けそこなったフラッペは、背中に感じる痛みを、逆にありがたく感じていた。
逡巡を、強い痛みが消してくれる。今は血潮を翼に変えて大空を翔る!ただ奔り抜けろ!!
思考の停止した黒夜は、顔にかかる赤い液体で冷静さを取り戻し、視線を遮る目深な帽子を他人事のように眺める…。
「フラッペさん!一人で無茶はダメですよ!」
そんな彼女たちの思いを知ってか知らずか、カーディスは走り込みながら雷電を巻き散らした。
雷鳴が全てを掻き消して行く…。
「白蛇さま白蛇さま、今です!御加護をお願いしますよ」
「良かろう!後で供物を忘れるでないぞ!」
かしこみかしこみ申し上げる!
稲妻に呼ばれた白蛇は、ここが己の舞台と心得て一息に駆け抜けた。
当たった瞬間に数mを吹き飛ばすと、ターンを掛けて招請を掛けた仲間の元へ。
尋常ならざる速度で、青い風と白い風が顔色を変えない黒猫の元へ降り立った…。
●ムカデ列車が飛んだよ!
「一斉攻撃だ!…ほらな、たったの3秒だ…野郎を倒すのも、女をオトすの、も…?」
「支援攻撃を開始シマース。長距離から狙撃!正に気分はゴノレゴデスネー!デュフフフ、そのキレーな顔をふっ飛ば…?」
「ぎゃぁぁ〜〜〜!!?」
ドヤ!
光の羽を放ち、格好良く台詞を決めたメンナクの元へ絹を割く悲鳴が聞こえて来た。
続けてマークワンのドデカイ奴が火を噴いたが、それでも悲鳴は止まらない。
可愛い女の子の声を、土鈴が鳴るような…と評するのだが…。
これはどちらかと言うと、土鈴を叩き潰すような感じだ。
怪我したフラッペは勿論、黒夜がこんな声を出す訳は無い…。
「そんな所にいたんですか?範囲攻撃いきますので気をつけて。先ずは、爆ぜて頂きましょうか」
「………っ!!き、気持ち悪い……」
「…よう。早速で悪いが、死んでくれ」
ハートファシアは樹の上を見上げ、一声をかけて指先を弾いた。
白魚が泳ぐような印切りの後、めくれた大地は剣や槍を構成して大百足を引き裂いて行く。
その攻撃が通り過ぎた後で、樹の上から仕方無くナマモノの上に着地したネピカは、青い弓を引き絞って大声を上げる。
珍しく小声で呟く事で、生理的嫌悪感を跳ね除けながら、弓は鳥が羽ばたくように次々と矢を放つ。
後方から響く彼女の絶叫を聞いていた同胞は、天にある薄い月を魔刃に変えて、百足の足を引き裂き降車し陣を組み始めた小鬼を巻き込んで行く。
「Bienvenue a enfer(地獄へようこそ)ふふ、さあどう料理してあげようかしら?まずは毒霧を喰らいなさい!」
「……?……っ!?」
「安心せい、アレは一回しかせんから映えるのじゃ。真に英霊たる者の技は、ばーげんせーるでは無いぞ?」
シェリアは術式を切りかえると、今度は黒雲を百足の周囲へ解き放つ。
それは内側から弾ける毒々しい色合いに化け、陣列を組んだばかりの小鬼たちには溜まらなかったろう。
奇襲をかけた事で、集中砲火に成功した攻勢は怒涛の津波、推しては還す波状攻撃だ。
それに巻き込まれるのも困るが、転がった百足と抱き合うのはもっと嫌じゃとネピカはゲッソリした様子を見せる。
彼女の予想自体は当たっており、後方や上方はガラあきなのだが…。
待ってる間に後方へ勢いよく飛んできて、困った事になっていたのである。
そんな彼女の様子に、飛び回る中で白蛇は答えてやった。
「しばらく我慢してそこで戦こうておれ。追撃戦になったら迎えに来るゆえな」
「……」
「結構快適な位置だとは思いますけどねえ。足止めも効いてますし…、やっぱり強化型じゃない相手には有効そうですね」
天空を走り去る白蛇を見送って、様子の判らない顔や言葉よりも雄弁に矢を放ち続けるネピカ。その隣に、いつの間にか誰かの影が…。
壁を走るには抜き足差し足猫足!
いつの間にやら登って来たカーディスは抜刀し、ケットシーの様に笑っている。
彼女がこの安全地帯に辿り着いた、というか着いてしまったのも、彼女自身の選択。
止めるのも助けるのも野暮だし、効果が見越めるなら、彼にもやるべき事が残っている…。
猫面の行者は、軽やかな足取りで百足の頭へと歩き始めた。
ただ一言、脳みそぶちまけてください!
●魔女の瞳と調靴師
「話しはアトだ」
「判ったのだ。乗りかかった列車、Early、先に任務を済ませちゃおう」
礼を言うとか言わないとか、そう言う面倒な事は棚上げ。
黒夜の言葉に、フラッペは何も言わずに背中を見せた。
表情を隠す帽子を指で弾いて、クルクルと回した拳銃を放り投げ飛沫の様に消し去る。
小鬼たちが乗っていた部分は、外骨格が捲れあがって、乗車席への出入口。
乗り込めば、攻撃なんて自由自在。
「…どうせなら、おたくらムカデに喰われてくれねーか」
「んー……四国が平和だったら、コレに乗って旅行も素敵だったと思うけど…ここで、落とさせてもらうのだ!Sorry?」
二人は背中合わせに歩き出し、振り返りもせずにそれぞれの敵を迎え撃つ。
黒夜は静かに、夜の闇を掴み取って投げつけた。
小鬼の陣形は確かに有効で攻撃を受ける者も居るが、彼女たちの攻撃力には及ばない。
表情は動かさず、だけれども投げつけられた闇は、貪欲にアギトを広げて小鬼たちを飲み込んで行く。
造られた隙を突き、フラッペは走り抜けるとドアの無い列車へ飛び乗った。
そのまま装甲の無い柔らかな胴体へ刃を!傷口を広げる為に、はしたなく列車の中を駆ける。
「今治す!そのまま動くんじゃねえ!俺の輝きで、お前を身も心もとろかせ…」
「後で構わない。…丁度いい。お前に見せてやるよ」
「喰われたまま攻撃再開?クレイジー仲間に御褒美。バン!バン!バン!バン!」
それから暫く。
時々小鬼に噛みついていた大百足が何度も仲間達へ攻撃、時折、運悪く直撃を喰らってしまう。
攻撃を中断して皮ジャン開いて癒し始めるメンナクに、同胞は被りを振って、受け損なった刃を口の中に突き立て内側からの魔弾!
彼がやろうとしている事を理解して、マークワンは周囲に群がろうとする小鬼達へ牽制射撃を始めた。
敵の陣列は半減し、既に終局を迎えている。このまま終わらせちまおう。
「後はお任せしますよ。普通の電車でしたら素敵ですが貴方達に乗るのはごめん被ります」
「ああ…。これが闘鬼神を目指す者の覚悟だ。地獄へ落ちても忘れるな」
貫通した頭から刃を抜いて、頭頂に居たカーディスは銃へと持ち変え直した。
見れば同胞が大上段に振り被り、彼と同じように頭を狙っている。
ならばここでの戦いは不要と、先に中へと入ったフラッペを追い駆けて、手助けなり捕まった人が居るなら救助が優先だ。
担ぎ抜刀を背景に、その場を後にする。
「一本、二本、三本……ふふ、ふふふ。あ、御免遊ばせ。臭いますわね……さすがに、良かったらどうぞ」
「……」
「そう言うのは後にせい。半ば消化試合じゃが、油断はせぬようにな」
一心不乱に足を続々と切り落としていたシェリアが、動きを止めゆく百足に気がついた。
気がつけば小鬼たちも虫の息。
降りたがっていたらしい?ネピカに手と香水を貸しながら、同様の判断を下した白蛇たちと合流する。
倒しきっている様に見えるが、小鬼が隠れていたら危険だろう。
「せっかくですし、名前をお聞かせ願えますか?」
「おうやあ?まさか気がつかれるとは。もっと身だしなみに気を使えば良かったなぁ」
少し早い帰り道。ハートファシアは森の中から道路へ向けて静かに囀った。
いつの間にか止められていた車には、スーツ姿の男が一人。
仲間達を呼ぼうと思えば呼べる距離だ。
「僕の名前はコンチネンタル。参考までに理由を教えて欲しいのですけどね」
「捕えた人間や、兵を運んでいる最中でも無い。自然発生し暴れたなら、護衛がいるのも変です。だとすれば…試験でしょう?」
ディアボロの運用効率か、人間の対応を見る為?
金髪蒼眼の男は隠すこともなく、彼女の回答に頷いた。
赤いノートパソコンを畳みはしたが、魔力を編みもしない…。
「ここは退散するとしましょう。できれば天使相手の三角商売以外でお会いしたくは無いものですねぇ」
「戦力と引き換えに魂でも売れと?」
甘いマスクにも伏兵の可能性にも心動かされる事無く、ハートファシアはその姿を目に焼き付ける。
走り出す車に返事は期待しないが…。
ただ言葉を巧みに操り、今は情報を得る事に専念する。
いつかの為に…。