●手掛かり?
「戻ったり外に出てる可能性もある。逃げた二匹の特徴とか教えてくれると助かるんだが…」
「それもだけど。コレを渡してくれた方が助かる…かも?」
軒先で取りだされた写真をじーっと見つめる視線。
軽く挨拶した後で話を切り出した獅堂 武(
jb0906)は、和泉早記(
ja8918)の視線に気がついた。
その目は雄弁に、『この写真、欲しい』と語っており、どうしたもんかなーと言葉を選んでいるうちに、思いもせぬ横槍が飛んで来る。
「もっと可愛い写真、あるのよ!ゴローがごろーん」
「出来たらそれも欲しい」
自分が良いと思った物を、他人が羨ましそうだったので、自慢したいのだろう。
依頼主のお子様は、我が事のように喜び写真を取り出した。
そこにはダックスフントが、足の短い鯖虎のミケと並んでお腹を出して転がっている。
もちろん伏せとか横になるでは無く、人間ならお手上げポーズのような格好で、上は喉から下は真ん中の足?まで丸見えで写されていた。
早記は迷わず携帯を取りだしたという…。
「…そういえば、好きな物とかありますか?玩具とか食べ物、あと普段の呼び方とかあれば警戒しないかも」
「そうねえ…。食べ物ならチーズ、玩具ならボールや紐かしら。タローにとってはゴローが一番ですけどね。ハイ送信終了」
「これは相当微笑ましい写真だな。よっぽど仲の良い二人なのだろうな?しっかり探してやらないと、だな」
早記はさっそく送られたデータを開く。
その中にはゴムボールを咥えて奔る熊五郎や、体当たりでサッカーする鐘太郎の姿があった。
他にも紐で綱引きしてたり、種族を越えた友情にほっこりする彼に、後ろで見ていた香具山 燎 (
ja9673)もまた微笑ましい表情で声をかける。
飼い主たちと仲の良い姿もあり、迷って寂しいかもという彼女の言葉にみな頷く。
「…元気いっぱいなワンコにネコだなぁ。まぁてめえの言う通りだ。迷子にならないように早く探してやらねェとな」
「おう。っとそうだそうだ。あすこの草刈っちまおうと思うんだが、構わなねえかな?あれは探索に邪魔なうえに景観も悪りぃ、できたら道具やゴミ袋くれ。たしかこっちではゴミって分別が面倒なんだろ?」
「構わないとは思いますが、改めて掃除の許可も貰いにいきましょうか。気難しいですけど良い方ですよ」
写真と呼び名が全員に行き渡たったのか?
武たちの携帯もピピっと鳴って、確認用の判り易い写真が添付されていた。
ならば行こうぜとパシっと手を打ち合わせ気合いを入れたアドラー(
jb2564)は、思い出したかのようにボウボウの草を指差す。
言われてみれば柵際はともかく、中ほど草が生い茂り、大型犬はともかく短足の犬猫を見つけるには不向きな有様だ。
●爺と田んぼ攻略戦
「つーわけでよ、探す話は聞いてると思うんだが…ついでに草刈ってもいいか?」
「あと、せっかくだから御湯は足湯にしたらと思ってます」
「ウラのおじいちゃーん。御掃除してもいーい?」
アドラーと早記、そして依頼人は、不機嫌そうな老人の前に出た。
返事は特になく、皺だらけで小太りのじいさんはムスッとした顔で、頷きもせずに近くの軽トラまでトコトコ。
そして近くに放り置いてあったブルーシートを荷台に放り投げ…。
「…ゴミはこれに載せんさい」
「鎌に軍手?なんだ爺さんも参加すんのか。必要な物品が山ほどありそうだな。運ぶのは俺だぜ?ちくしょう」
「良いみたいですねえ。後で捨てに行ってくれるみたいですよ?」
そうして物置きから自分用の道具を取りだして行く。
武は無愛想さに苦笑しながら、許可と助力に感謝した。
爺さんの無愛想さにアーレイ・バーグ(
ja0276)はクスっと笑って異訳してあげた。無口な頑固爺ではあるが、大地の妖精さんのようではないか。
「俺らはこっちだから、おまえらはあっち頼むぜ。頑張って見つけてくれよな」
「色々用意してたと思うけど、持った?無理やりより懐いて貰った方がいいからな」
「ボク達におまかせー。わんにゃんも無事だといいな!チリリンしながら探すんだよ!」
「ウンウン。わんにゃんを見つけて、一緒に遊ぶのぉ〜」
はーい。
アドラーや燎たち祖先して草刈りを始めると、ふたば(
jb4841)と深森 木葉(
jb1711)は手を取ってガサっと草むらへ侵入を始めた。
少しだけおねえさんの?ふたばが先行、ちょっとだけ後から木葉が付いて行く。
見ていて微笑ましい光景に、周囲はニコニコ。
「見ていてほっこりしますねえ。さて、私達もいきますか?」
「ふむ。先ずは、熊五郎と鐘太郎の、好物、持ちつつ。だな。なの。チーズ、だったか?持って、いくの」
エサ、で、おびき寄せる、寸法だ。なの。
アーレイは綱引き用の紐を、仄はおつまみ用のチーズを握りしめ出発シンコー。
さっそく田んぼから出ようとする姿に、首を傾げて尋ねた。
「どこに行くんですか?」
「田んぼ周りの、熊五郎の、散歩コース。辿ってみるのも、有りか。なの」
歩き慣れた、道。出てるかも?なの。
ぼーっとした顔でそう語る仄の心情は窺いしれない。
だが、その話には一理ある。迷い子になった時、知ってる場所があれば心強いものだ。
「じゃあそうしましょうか。それで割り当ての方なんですけど」
「そうですね…。通る人にこんな犬を知らないかと聞きつつ、見え易い位置を探して区分してから全員でさらいましょうか」
仄に付いて行きながら、アーレイは仲間の方へ尋ねた。
手分けして進む計画なので、効率が良いように思案しながら早記が提案する。
田んぼ自体は広いので、倒れた雑草や足跡などを重点ポイントの要に設定して、その周囲から倉庫を目指せば良いだろう。
その意味では田んぼの外延にある散歩コースを先に、というのは悪くない話であった。
抜けて後ろに行かない様にだけ気を付けて、徐々に徐々に…。
●わんにゃん捜索隊
「わんにゃん♪、わんにゃん♪、どっこに〜、いるのぉ〜♪」
「ここかな、そこかな♪ほらほらー、こっちにおいでー♪」
変な調子で歌を唄い出す木葉に吊られて、ふたばも思わず唄い出した。
あっち見てキョロキョロ、こっち見てジー。
手に持ったチーカマをフリフリ、鈴もフリフリ歩いて行く。
「あっちは元気だねぇ。どうよ、こっちに居るつーかさっき青大将も出たし逃げてるんじゃねえ?」
「どうかな?蛇はあれで結構臆病な所があるし、ペットの方が向こうみずな所もあるよ。それにさ…。探検って一寸、わくわくする。そんな事無い?」
歌声に合わせて、武と早記も歩調を合わせる。
ジャージ姿の少年たちは、適当に草を抜きつつ軽口を交わしていた。
彼らは視界を邪魔する背の高い草だけ踏み分けて、泥が跳ねるのも構わず突き進む。
泥だらけの足跡を道路で見つけたみんなは、再び田んぼへ入った位置から手分けをしたのだ。
「そりゃまあな。秘密基地とか隠された扉にあこがれねぇガキはいねーよ。それにあのダックス割りとでかいみたいだし、冒険続行もありえるか」
「一応ミニチュア…らしいよ?先祖帰りで大きいみたいだけど。猫も好奇心いっぱいだからもう直みつかるんじゃないかな?」
昔、庭で蛙を追いかけて池に頭から飛び込んだな…。
武の返事に早記はデータを貰った携帯をポケットの上からポムっと叩く。
そこにはどういう性格なのかメモ書きで送ってもらっており、それなり以上の確信があった。
長閑な会話の中で、家で飼っていた犬猫を思い出しながらズブリとした泥の感触に、道を変えようと指先だけで示す。
汚れるのは構わないが、近くに足跡は見えず小さな探検隊が消して行くはずもないからだ。
「あはは。ふたばちゃん、ドロドロですぅ」
「ボクだけじゃないよ、きみだって。後でなんとかしないといけないかな?わんにゃんもきれいにしてあげないとね」
きゃいきゃ言いながら行進する木葉と、おねえちゃんぶって後かたずけを口にするふたば。
彼女たちの行く手で、言葉にするなら(「あ、だれか、来た?」)という感じで鈴の音に振り向く小さな生き物が居る。
だけどそこには見慣れた御飯のおばさんや妹分の姿は無く、義兄は(「どうしたの?)」とぶつかってくる義弟の頭を軽く押さえた。
流石に元は狩猟犬の品種であると言えるだろう…、ペットゆえにカンが鈍って居なければの話だが。
「見つけましたよー。頭隠してお尻隠さずですね。捕まえに行くか、追い込むかしましょうね」
「そうしよう、なの。そしたら、草刈り、終わる。まで、謎の、倉庫、捜索。なの」
倉庫も、冒険?探検?か?少し、ワクワク、する気、するな。なの。
アーレイは仄と小声で相談しながら、メールの送信に励んだ。
手分けしている単ね、一方から隠れても別班が見つけ易いし包囲網も自在だ。
「お、高校組が見つけ出したみてーだな。餌を撒きながら網を縮ませるか。そしたら本格的に草刈りだな」
「その辺はアドラー殿の計画に任せるよ。…見つけた」
草を刈りながら進んで行ったアドラーは、震動音に気が付いてメールを確認する。
内容を確認すると道具は一時的にその辺に置き、やおら土鍋を袋から取り出しつつ、歩いて行った。
燎も教えてもらった方向に歩きつつ、少し進むと腰を降ろす。
向こう側で早記が同じような格好で警戒心を解こうと、しゃがんで待ち構えているのが見えた。
横からそっと土鍋が置かれ、周囲から一斉にチーカマや紐がぶらぶらする姿は…。まあなんだ、ちっとも格好良くは無いが、微笑ましい光景であったに違いない。
「よし、興味を示したぞ…。入れ入れ」
「動画でありましたけど、興味深々ですねー、でも興味あるのは土鍋でしょうか、それともチーカマかな?」
もしかしたらソレ全部?
背が高くしゃがむも気無いアドラーとアーレイは、驚かさない様に土鍋だけを置いてジっと見つめている。
早く撫でたい…とにじり寄る少女たちや、腰を落として左右から挟み込む二人をある種の冷静な目で見つめていた…。
だからこそだろう、二人だけが一連の出来事を驚かずに確認できたのだ。
「ほら、帰らないと家族が心配するだろう?今度また、家族に連れてきてもらえばいいだろう?って、コラ!」
「…。ずるい…」
「いや、そう言う事言ってる場合じゃないから。救助に行こうぜ」
ジャパパ…、ばびゅ〜ん!!
それは見事な大ジャンプだった…。恐らく依頼人の方割れであるおばさんがしゃがんで餌でもやってるのか、良く似たポーズの燎に向かって犬猫は突撃。
ゴローは熱心に土鍋を覗き込み、タローの方は遊んでもらおうと飛び付いたのである。
なんというかマンチカンというタイプは、足が短い割りにジャンプ力が強い。というか足の短さで猫族のジャンプ力は変わらないのだろう。
顔に飛び疲れてもがく彼女に早記はちょっとだけ嫉妬して、武はタオルを何枚か取り出す。
…後に、捜索隊の何人かは当然のように一部始終の動画を要求したと言う。
●足湯とわんにゃん温泉
「…まったく酷い目に会った。まさか私まで洗う羽目になるとは」
「ちょとゴロー、にげたらダメですぅ〜。なさけないの、め!タロー見習わなきゃダメですぅ」
倉庫の探索は意外なほどアッサリ終わった。
顔についた猫型のドロを洗い落し、燎は木葉の汚れも落としてやる。
持って来た仮設ベンチに腰を降ろさせ、そのまた先でダックスがぐてっとなって押さえつけられていた。
「暴れちゃ、駄目だ。なの。こうやって、洗って、貰う、のも、少しは、気持ち、良いだろ?なの」
「あんよとこか綺麗にしないとね。せっかく可愛い靴下はいてるのに…。タローは写真で見た通りお風呂大好きなんだよね」
仄とふたばが一緒になって、熊五郎の前からサポート。
噛みつかない様にと水が入らない様に、長い耳ごと頭を押さえるとイヤンイヤンやっていたのが、ようやく大人しくなった。
茶色い足を御湯につけて、背中をごしごしすると、泡アワ〜。その間に鐘太郎の方は、湯船に浸かって(「にーた、気持よいよー。うっとりー」)とでも言いそうな顔で目を閉じていた。
「給湯器で小さいうちから洗ったみたいだからな。散髪みたいなもんなんだろ。さてと軽くゆすいで、もう一度流すか」
「きれいに、なったな。二匹とも、なかなか、だな。なの。でも、こっちまで泡だらけ、泥だらけ、だな。なの」
「あたしたちもお風呂はいるですぅ?遊ぶ時に風邪引かないようにしないといけないですよね〜」
燎はバシャーっと流してプルプルさせ、もう一度つかまえて御湯の中に漬け込む。
終われば軽く拭いて草刈りの手伝いに回るつもりだった。
一方、ワンコと同様だった仄と木葉は、くすぐったそうに髪や首周りの汚れを落とし、洗いっこを開始。
「補助はもういいですかね?さてと…お仕事も終わりましたしのんびりと野外写生でも…」
「ボクはさっきの子を診にいってくるよ。やっぱり心配だから…」
「ちょい待ち、きちんと拭いてからな。風邪引いちまうぞ?」
ほのぼのとした顔で犬猫と子供達が戯れる姿を眺めていたアーレイは、自分の出番は終わったとばかりに温泉卵だけを残してその場を離れる。
彼女に追随して、ふたばは左程汚れていなかった事もあって、見つけた『倉庫の住人』の元に掛けつけようとした。
武がバスタオルを投げてよこさねば、本当に飛び出していたかもしんない。
「爺さんに話に行くっていってたし、大丈夫だろうよ。でもまあ簡易風呂じゃなくて、きちっとしたのにしてーな」
「まあ任せときゃあ大丈夫だろ。休憩所にするならベンチの他にテーブルも欲しいよな。田んぼの方はレンゲでも撒いておこうぜ。季節になったら花が咲かあ」
武は隠れていたナニカを思い出し、その似合い具合に思い出し笑いを隠せなかった。
アドラーはというと肩を竦めて草刈りを再開し、完成図を思い描いた。もし今ゲートを開けば、きっとワンニャン天国のゲートになるだろう…。
「という訳なので、質問なんだけど、この犬はあなたのでしょうか?いや、この場合は飼ってもらえませんか、かな?」
「わしの犬に見えるんなら、うちの犬なんじゃろ」
ウンウン。
早記はむすっとして啼き声も上げない犬を抱え、御爺さんに尋ねた。
小太りで皺だらけ、おまけに碌に喋りもしない御爺さんとスッゴイそっくりな犬であったそうな。
ドワーフ・マスティフ…いわゆるパグは、みんなそんなタイプなんだけどね。
ともあれ御爺さんは快く?頷くと、新しい家族を迎え入れ、足湯作成の作業に向かったそうである。
それからひとしきり皆で食べたり遊んだ後…。
「せっかくなので、みんなと犬たちのイラストを描いてみました。よければどうぞ」
「ありがとう。…名残惜しいけれど。これからも仲良く、ね」
「ばいばーい」
アーレイの描いた絵を受け取って解散となった。
早記たちは絵やデータを受け取りながら、名残惜しそうに手を振っていたと言う…。