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四国へ転移する撃退士に、最新の情報が転送された。
データベースに情報が、手元に画像が解像写真が渡される。
「此間の奴と同タイプか。まあいい、また倒すまでだ!」
「へ〜ぇ。どんな奴なの?」
エカテリーナ・コドロワ(
jc0366)が敵の写真を確認していると、黒百合(
ja0422)が後ろから覗きこんだ。
見ればバイク乗りの人形型サーバントに、甲冑を着こんだ人形サーバントが居る。
「前回に関してはマトシェリーカを思い出せばよかろう。今回に関しては…」
転移の時間が間近なので、エカテリーナは言葉を選んだ。
短く内容をまとめて、二本の指を立てる。
「どうやら外側に砲台以外の機能を持たせたものと、チョバムアーマー状のシンプル版に分けて発展させたようだな」
「ん〜。むしろロボって感じよねぇ。漢のロマンの分かる素敵なサーバントじゃないのォ…きゃはァ、叩き壊したくなるわァ…♪」
エカテリーナの説明に黒百合は肩をすくめる。
そして物騒な言葉を口にして、男のロマンを粉砕しようと艶然と笑った。
その話を聞いていた仲間たちは感想を口にする。
「アーマーを着た敵ですか、なんだか面倒そうです」
「追加装甲ってとこやろ。まっどっちだろうと、めんどくさいのは変わりないやろけどなぁ」
夜桜 奏音(
jc0588)の言葉を修正しつつゼロ=シュバイツァー(
jb7501)は苦笑した。
どちらであろうと敵との意図と、こちらのする事は明らかである。
消耗戦用の耐久型サーバントを相手に、じみーな持久戦を強いられている事に違いはないのだ。
「前に戦った合体型と同じなら、一度攻撃対象を決めたら変更はしないはず。範囲攻撃も効くし、うまく挟撃できればそれほど苦労はしないと思うよ」
「そうだと有りがたいんやけどな。敵さんも改良くらいするやろ?」
龍崎海(
ja0565)が戦闘経験から説明すると、ゼロはあくまで推測ではないかと尋ねてみる。
もちろん実際に試してみねば判らないので、二人にしてもあくまで時間つぶしを兼ねた考察である。
ゼロの言葉に海は頷きながら、転移までのカウントダウンの数字を目で追いかけ始めた。
「装備と形状はともかく、知能面の強化は短期間では難しいと思うけど、どうかなぁ。テスト用ならそれで十分だろうし……っと転移したか」
「冥魔と戦うという設定が、ズレてるだけだけならそうだと思います」
海の言葉の途中で一同は転移し、同じく戦闘経験のある黒井 明斗(
jb0525)は、転移ズレと引っ掛けて肯定した。
転移位置は思ったよりもズレているが、町を守ることと敵を倒す事は変わらない。
同じように敵としても、命令がリセットされただけで、天界の敵と戦う方法までは変わらないだろう…と。
「話し合いはそこまで。そんじゃ、別れて迎撃するとしようか」
「了解です。細かい差分までは推測できませんし、戦ってみれば判る話ですしね」
アサニエル(
jb5431)がパンパンと手を叩くと、明斗たちは話を切り上げて移動を開始。
そして半分が道路傍に展開し壁となり、もう半分が樹上や樹裏で陣取る奇襲の構えである。
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「あんたたち、油断すんじゃないよ!」
「了解です。…随分と重武装なサーバントですね」
アサニエルが縦を構えてバイク型を抑えると同時に、甲冑型を眠(
jc1597)が抑えた。
二体を抑える一人目の前衛が足を止めると、返礼としてバズーカやグレネードが飛来する。
敵は二体とも重火器を搭載・携行しており、防備を固めた重騎兵に重歩兵であると思われた。
「油断出来ない、楽しい戦闘になりそうです。戦い甲斐がありますね」
眠はそう呟いて接近する甲冑型に斬りかかる。
「その装甲、貫きます……!? 手応えが…」
敵の動きは鈍く、容易く関節を貫けるのだが…どうにも手応えが奇妙だ。まるで水を切るような感触。
魔力の反発による追加装甲だろうか?とはいえ装甲部分よりは弱い模様である。
「いっちょ派手に行きますか!!おおっと、俺だけが隠れとるんやないでえ!」
翼を展開したままのゼロが樹上から飛び出すと、おっとり刀でターレットのマシンガンが動き始める。
彼の動きを発見できるのは凄いが、いかんせん行動が伴わない。
生み出されたアウルの刃が上から下に落ち、ゼロ自身が漆黒の断頭台と化した。
だが当然、殺到するのは彼だけでは無い。
撃退士達は超高速で逆進軍を掛け始めた!
「さぁ、こういう時はどうするのかしらぁ?」
「スレイプニル、行きますよ!味方の支援です」
こともあろうに黒百合はロケット弾を担いで走りながら、援護射撃とばかりに甲冑型にドッカ〜ン!
明斗は待機させておいたスレイプニルに跨り、仲間とタイミングを合わせてバイク型に突っ込んだ。
ジグザグで突っ込む召喚獣の動きで、回転していたターレットの動きが止まる。
どうやら誰を攻撃するか悩み、重戦闘型サーバントのルーチンはシンプルな答えを導き出した。
「よしっ。敵の思考は同じ相手を狙うのが基本の様だ。防御と回復を切らさない様に戦い抜こう」
海の推測通り、敵は一番最初に狙った相手をターゲットとして選定したようだ。
対甲冑班の装甲が薄いのは残念ながら、そこは彼の防御魔法や回復法術で何とかなる。
掌底で甲冑形の上体を浮かせ、殴り倒して無理やり二体の敵を引き離した。
「それぞれワントップで防ぎながら、包囲分断で勝てるはずだけど…」
「そいつあ良いんだけどねぇ……あたしはともかく、そっちの子は大変そうだね。急ぐとしようか」
海の言葉に頷きながらも、アサニエルは苦笑してバイク型と向きあった。
強烈なバズーカを祝福の盾で防ぎながら、両手を打ち合わせて光を灯す。
「良い場所にいるね。ああ、あたし等にとって都合がいいって意味だよ」
アサニエルは打ち合わせた両手を離しながら、灯した光を剣…いや槍のように構成。
アウルの槍は凄まじい輝きを放ち、投げ撃つと、中身ごと人形を刺し貫いたのである。
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範囲攻撃は外装も、中へのリンク部分も同時に焼き焦がす。
バイク型はあくまで二体別物であり、耐久値も装甲もそこそこでしかないのだろう、既に大きく傷ついていた。
「やはり効いたか。貴様の弱点は知っている、我々を甘くみないことだ。さあ来るなら来い!」
「(中身に効くなら向こうの方が早そうですね。…対してこちらは素地が向上している分、時間がかかりそうです)」
樹蔭に隠れたエカテリーナが姿を現し、アウルを込めたショットガンで攻勢を掛ける。
奏音は散弾が敵のパーツを砕く様子を確認し、もう片方のチームが先にバイク型を潰すだろうと予想した。
とはいえ彼女が戦っているのは甲冑型の方だ、面倒だがこのまま戦うとしよう。
「装甲の無い場所ならば、保護の魔術だけを相手すれば良いはず…」
奏音は先ほど、眠の刀が甲冑型の隙間を貫いたのを見ていた。
保護の魔術により耐久力を底上げしているようだが、それでも甲冑型自体の装甲が無い分だけ話が違う。
雷鳴の刃を作り上げ、同じように深く抉って行くのである。
「ガード?そんな事させません…そこですっ」
相手のアームブロックを予測した奏音は、僅かに態勢を捻ることで、斬撃を無理やり下段に置き換えた。
それは防御した腕の下をくぐり、脇にある割と大きな隙間に稲妻を滑り込ませたのである。
手順が巡り、何発か撃ち合う頃にはバイク型の外装にヒビが入り始めていた。
「おっ割れてきおった。中身は早いんやて?スピード勝負なら望むところや……あら」
大鎌に宿した凍気で凍りの刃を作り上げたゼロは、ガラス状の上面装甲が割れるのを確認した。
このままいけば外側が壊れ、中に居る人形が挑んで来ると思ったのだが……。
クタリと動かなくなり、それっきり停止してしまった。
「もしかして中身の方が先にくたばったんか?なんや拍子抜けやで」
「あ〜ら。こっちはまだまだ元気よぅ。一緒に遊びましょう?こっちはタフねえ。もしぃ、競合試作品っていうならこっちが生産されるんじゃないかしら?」
外はまだ無事やろ〜と肩を落とすゼロに、黒百合は艶然と笑って手招きした。
そして踊るように肉薄するや、腰を中心に槍を回転させて刺突する。
その瞬間だ、白魚の様な黒百合の指が激烈に振動し、回転エネルギーを槍の穂先を通して内側へと到達させた。
だが先ほどのバイク型と違い、甲冑型は外装と中身の一部が砕けただけで、倒れなどしなかった。
「残り一体だけになりましたし、前衛の交替しましょう。スレイプニル、後退の援護を!」
「すみません、一時的に下がらせていただきます」
明斗は相手にしていたバイク型が完全に沈黙した事を確認すると、前衛を務めていた眠の元に急行。
装甲の薄い彼女と変わることで、壁役を引き受ける。
だが、それだけでは当初の目標選定のままかもしれないので、召喚獣に命じて、その高速機動を爆発させた。
目にも留まらない動きで、何度も何度も殴りつけて行く。
「でも、メカっていいわよねェ、こう…ボロボロに錆付いて朽ち果ていく姿がァ…だからァ、貴方もそんな姿にしてあげるゥ♪」
黒百合達が攻撃するたびに甲冑型の装甲が砕け、その都度に彼女は微笑む。
ガトリング砲が唸りを上げて仲間を撃つ事にすらゾクゾクしながら、戦いの熱に浮かされるように槍を振るい続けた。
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残る甲冑型を包囲するように、撃退士達は半円を描いた。
そして回復とスキル変更を踏まえ、改めて猛攻を掛ける。
「相手の魔力も限界みたいだしこのまま倒しきろう」
「そうさね。油断は禁物だけど、随分と手癖が悪いけど、このメンツなら問題ないさ」
海とアサニエルは分担して治療を終えると、中身が完全に露出した人形を睨んだ。
魔力切れなのかあれほど煩かったガトリングも、カタカタと音をたてて空転するのみ。
その後は格闘戦にもつれ込んだが、鎧がハゲてからが本番だった。
指の無いナイフの様な手、そして上半身と下半身が別々の方向に回転する、人形ならではの駆動性だ。
鎧が無い方が手早いのか、アームブロックも成功率が上がって来ている。
「ひと肌脱いだところ悪いんだけど、今度はこっちを身に着けてもらおうかね。そうらっ!」
アサニエルはアウルを編み込むと、光の鎖によって敵の動きを束縛して行く。
命中精度(とタフネス)だけは使徒級の人形も、こうなってしまってはどうしようもない。
それでも動き続けようとする敵に対し、仲間達は攻撃を続けた。
「装甲がなくなり身軽になりましたか。ですが我々撃退士には、連携と言う物があります」
「そうだ。木偶人形ごときが図に乗るな、いい加減諦めろ!」
奏音は格闘戦に移行したことで鉄扇に持ち変えた。
相手の軌道を予測するや、扇を広げて顔面に肉薄。その死角をエカテリーナ達は弾丸をアウルを込めた撃ち込んで行く。
外側の甲冑型が付与していた装甲も既になく、一撃一撃が重く感じた事だろう。
「傷は治りました、これより前線に復帰します」
「まだ無理はせんで…いや、やるなら回り込むんや。正面から挑むばかりが戦いやないけ」
復帰した眠に声を掛け、ゼロは一緒に横合いから攻撃した。
死角を突いた攻撃はあっけなく直撃し、二人の刃は十文字の傷を描く。
『それじゃあ……、これでトドメよぅ』
十字の傷を更に上書きするように、『二人』の黒百合が踊り始めた。
クルクルと入れ替わり立ち替わり、ステップ掛けてダンス・マカブル。
本体と分身による多重攻撃によって、残る人形型サーバントも砕けて散ったのである。
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そして一同は、残骸…と、すっかり動かないバイク型サーバントの周囲へ群がった。
「ちっとも動かないわねぇ…」
「安全なら回収したい所ですね。また出会うかは別にして、資料を残しておきましょう」
猫が獲物をいたぶる様に黒百合が槍の先で、てしてしと突く。
そこから攻撃を始めない様にだけ忠告しながら、眠は持って帰ろうと言い始めた。
しかし部品ならともかく、全体をオモチカエリできるとは思いもよらなかったようだ。
「始末した方が後腐れが無いと思うが…。まあ好きにするがいい。万が一量産されても、対策が立て易いからな」
「まあ、誰かも言ってたけど…正式採用は甲冑型だと思うけどね。こっちにも対策を考えておかないと」
「どんどん新作が出てくるみたいだし、そろそろ可変型とか出てくるんじゃないかい?」
エカテリーナと海の会話に、アサニエルが相乗りした。
撃退士としては、来れば倒すだけの話だが、どんな相手か判って居ればやり易い。
例えば……。
「バイク型は範囲攻撃次第で簡単に落ちるけど、知らな苦戦は免れん。どっちみち勝つのは俺らやろうけど、苦労せんでええなら、それにこしたことはない」
「…甲冑型はやはり隙間内打ちでしょうか?それと…途中で干渉装甲や弾が切れたようなので、魔力が足りないのかもしれません」
「ですね。避けは捨ててるみたいなので、ガードされなければ行けると思います」
ゼロの感想を聞きつけて、甲冑型に切り込んだ奏音と眠がそれぞれの手応えを述べた。
移動砲台をイメージしているのか、地道に火砲を当て続けるのが厄介ではあるが、防御はそれほどでも無い。
そんな風に敵との感触を一同が口にする中、一人だけ物憂げな顔をした物が居た。
「どうしたのぉ?せっかくの勝利なのにぃ」
「いえ、……確か前回も、冥魔側にちょっかいを出したサーバントが暴走してましたね?何が起きているのか気に成りまして」
黒百合が尋ねると、明斗は顔を上げて簡単に説明した。
この敵は前回戦ったマトシェリーカ型の発展系であるが、冥魔に向かって居た個体が暴走したと言う点では同じなのだ。
「冥魔の新技術、あるいは天使の陽動なのか…」
明斗は天魔の事を口にして、途中で言葉を切った。
「いえ、天使がそうまでする必要はありませんね。やはり冥魔の防衛処置を調べてみる必要があるかもしれません」
新しい攻勢の前触れなのか、それとも戦力を四国から引き抜いて別方面に動かす気なのだろうか?
サーバントを暴走させる能力に関して、調べてみる必要があるかもしれない。
あるいは同様の考えに至るかもしれない、天使の動向も含めて…。
とはいえ暴走サーバントととの戦いは終わった。
思わぬ戦利品を含めて、撃退士達は学園へと帰還したのである。