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四国のとある場所に撃退士達は転移した。
そこは冥魔の勢力圏に近い場所であるが、彼らの支配領域よりは遥かに『こちら側』だった。
「人騒がせですね。せっかく人も住める場所もあるのに」
黒井 明斗(
jb0525)は町の郊外にある無人の家を眺めながら歩き出す。
冥魔の領域が近いとあって住民は自主避難しているようだが、手入れはされており、何もない時は戻る事も出来るのだろう。
事更に荒れては居ない。
「全くだ、四国も中々落ち着かないな」
「それでも最近は、戦闘が控えめになって落ち付いていたって話だったんですけどね」
千葉 真一(
ja0070)と明斗は顔を見合わせて苦笑する。
今回の事件は天魔の小競り合いであり、本来は人間の関わり知らぬ状況のハズであった。
何かの暴走でこの出撃と成ったのだから、まったく戦いというものは迷惑である。
「とはいえ始まっちまったモンは仕方ねえ。せいぜい派手にブっ壊してやるさ。作戦だけ決めて、ちゃっちゃと行くかっ!」
「周りに被害がでないように依頼を達成すること、それが重要だけれどね」
「ですね。我々が負ける心配は露ほどもしていませんが、一般人にとっては巻き込まれただけで大惨事です」
それでもノリの良い真一が音頭をとると、龍崎海(
ja0565)と明斗はすかさず釘を刺した。
熟練撃退士は天使、場合によっては大天使すら倒すが、アウルという対抗手段が無い一般人はそうもいかないのだ。
雑魚の小鬼クラス一体が紛れ込むだけで、村一つくらいなら、アッサリ壊滅させることが出来る。
有る程度進んだことで、無人の家がポツポツと続くのは同じだが、民家というよりは古民家という風情の廃家屋が増え始める。
一同は事前に決めた簡単な作戦を、現地の地形に合わせて修正して行った。
「とりあえず、当初の予定通りとして、戦力を傾斜させての、分断・各個撃破で良いかな?」
「そうね。防御特化の班が地形を利用して時間を稼げば、かなりいけるんじゃないかしら? 無視されたら少し工夫が必要だけれどね」
海は足元に地図を描いて、迎撃ポイントを算定。
事前に組んでおいた作戦ゆえに異議はなく、蓮城 真緋呂(
jb6120)や海たち防御に優れたメンバーが片方を足止め、もう片方を主戦力で速攻撃破する構えだ。
仮に、分断できなかった場合であるが……。
「挟み打ちの予定だからな、その場合は、もう片方に背中を晒すって事だ。無視された側は背中から攻撃を叩きこめば良い」
「よし、これ以上は事前案と大差あるまい。状況を開始するぞ」
海が分断できなかった時を踏まえて、両手で挟みこむようなポーズを見せる。
その話を全員が納得した所で、エカテリーナ・コドロワ(
jc0366)が号令を掛けた。
「奴を人里に入れるな、必ずここでカタをつけてやる!」
「そうしましょう。人里に向かわせて被害を出す訳にはいかないわ」
エカテリーナの言葉に真緋呂が頷き、周囲のメンバーも次第に声を上げ始めた。
ここに戦いの第一歩が始まったのである。
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「火器型の押さえは任せて。もう1体の撃破をお願い」
「人々に迷惑をかける、者たちは、許しません」
足止め班を務める真緋呂の言葉に頷いて、アルティミシア(
jc1611)達は後方に回り込む。
森を足止め班が壁にするのに対して、速攻班は反対側、放棄された古民家の壁や土蔵に隠れておく。
古民家とはいえ、できれば破壊させたくないのもあるが、数が把握し難いというのもあるだろう。
「(来やがった。……何か見覚えのある形だが、まさかギミックまでそのまんまなんじゃないだろうな)」
「(本当。マトリョーシカの形。でも、脇とかヘン)」
真一とアルティミシアは顔を見合せながら、近づいて来た敵を確認する。
その姿は画像で見た時よりも一層奇妙で、ツルリとした姿はどこかの国の民芸品や、ボーリングのピンを思わせる。
強いて違う点を上げるならば、ペンギンの羽のように大型の手がある事だ。
「(どの様な敵であろうともするべき事は一つ……。攻撃が始まれば、一気呵成に叩き潰すのみ)」
「(う〜。早く参加したいもにょですが、今は我慢の子ですね)」
隣りの建物に潜む戒 龍雲(
jb6175)と狗猫 魅依(
jb6919)も、その異様な姿を確認。
一刻も早く攻撃した気持ちを抑え、囮班の攻撃を今か今かと待ちわびた。
そしてその時は、とうとうやって来た!
「攻撃開始! いくぞ、一歩も引くな!……これ以上暴れても無駄だ。貴様はもう天界には帰れん、ここで成仏するがいい!」
「赤き星よ! 焼きつくして!」
エカテリーナは散弾にアウルを込めて発射し、ロケット弾並の号砲を持って、戦いの狼煙を上げた。
そして真緋呂は指先に炎を灯し、二体諸共薙ぎ倒そうとするが、流石に巨大過ぎて入りきらない。
よくよく見れば、4m以上はあるようなので仕方あるまい。
「おめえら突撃すんぞ!……変身っ! 天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!……って、こっち向けよヲイ!」
真一たち速攻班が武装を展開しながら走るが、敵は足止め班を向いたまま一向に動きを変えない。
背中から殴りつける形ながら、そのまま前衛を務める。
「くっ! 両方とも来るか。だけれどこの時の為にアスヴァンが別れたんだ。……今の内に頼んだぞ!」
そこで二番目の策を実行する為に、海が防御法術を展開。
足止め組はそのまま、火器型だけではなく大型サーバント両方との持久戦に備える。
どうやらこの個体はあまり頭が良くないのか、それとも設定ミスなのか……、最初に決めた敵を優先課題にするようである。
「向こうの班がやられる前に、予定通り速攻で行くぞお!ゴウライパァァンチ!」
「千葉先輩達の露払いに、二連撃でいきますよ」
「おっけー。ぶっっとべぇ!」
鉄拳掲げて飛び込む真一に続いて、明斗と魅依は流星と光炎を雲のように呼び出した。
けたたましいマシン音と砲火が共に戦場音楽を奏で、絨毯爆撃が大型人形を揺るがして行く。
花火の如く派手に、そして莫大なアウルが敵の身を焦がす。
「……ボクは、体があまり、強くないので、少し、助かった、かな? 遠くから、失礼します」
「どちらにせよ、やることをやるだけだ。順番以外に差はない」
そして飛翔したアルティミシアと飛び込んだ龍雲の攻撃も続く。
アウルを込めた魔弾が天より撃ち降ろされ、無数の剣戟で構成される高速斬劇が、嵐のように見まわれることに成る。
ブレードオペラの果てに何が見えるのだろうか?
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「……効いて無い。いや、内側には届いて無いだけ……か。なるほどな」
龍雲の斬撃は、確かに相手の動きを留めたはず。
しかし止めたのは歩みだけで、人形が担いだ大型魔書は、相変わらずの魔力量を叩き出した。
さきほど、範囲攻撃が妙に効いていた事を考えると、相手の様相が次第に浮かび上がって来る。
「要するに、コイツは車両と追加装甲の中間という訳か。それならそれで、やりようはある」
龍雲は意を決すると、現状とやるべき事を確認した。
足止めや麻痺の類は外側を止めるだけで、中から操っている敵の動きを留めることはできない。
逆説的に言えば、大型が担当している移動を止めることはできるし(格闘力は無いから薙ぎ払いが確実に効く)、外と中の因果関係を調べることもできるはずだ。
「こいつの動きは僕が留めます。今の内にポジションを調整してください。それと……今後に備えてデータを獲りながら行きましょう」
「あいよっ。とりあえず手の内を暴いておけば、今後の対応に役立つか……。ゴウライ、ハウルストラァァイク!!」
龍雲の提案に真一は頷きながら、予想通りの形状に苦笑を浮かべる。
そしてアウルの集中で唸りを上げる拳を突き出し、螺旋を描く光の柱を打ち出した。
「範囲攻撃は有効だ。数が増える前に畳み込むぜ!……しっかし、何かきちんと機能してない感じだな」
真一の目には、外側の大型な人形が厚い装甲として有効ながら、その他の機能がおざなりであると映った。
なにしろ中から外側を確認し、外の火器や魔書を操るという手順上、必ずどこか一部に『内側への穴』や『痛みをリンクしてしまう部分』があるのだ。
武具や魔法弾による打撃戦には外側の装甲は有用であるが、回避力や移動力を損なっていると言う点で、範囲攻撃の良い的である。
それに対して、四国に長く関わってきた者には別の観点があった。
「再生するゴーレムの時もそうだったけど、これは進化する第一歩なんだろう。次以降が厄介かな」
「それもそうか。まったく四国の大事は長く続きやがるな」
過去例をあげる海に、真一は肩をすくめて苦笑した。
そのまま目線だけで互いの状況を確認し、海は改めて回復法術を行使する。
「今の状況を維持しながら戦おう。俺の方も装甲を厚くしてあるけど、流石にバラけると手数の面でマズイ」
海が回復したことで、荒い息をついていた真緋呂は呼吸を整える。
両方の個体から狙われるのは大きな苦痛が伴うが、ほぼ一人で支えているからこそ、一回の回復で殆ど治療できる。
「了解。……なかなかに重い攻撃だけど…まだ、耐えられる。来なさい」
真緋呂は膝をつきそうになる足を叱咤しながら、大剣の厚い刃を壁にして、ガトリングの弾を弾いて行った。
ヴィーム、ドドドド! と次々撃ち込まれる弾丸が、刃による盾とアウルの盾による盾で軽減される。
そこへ治療を施す事で、たった一人でも、ディヴァインナイトでなくとも仲間を守りきれるのだ。
「良く我慢したな。一体目の大外が崩れるぞ。中の個体が居ようと居まいと、そのまま攻め潰せ!」
後方から観察しながら攻撃していたエカテリーナは、火器型にショットガンの散弾を放り込みながら奇妙な物を発見。
マトシェリーカのような人形状の装甲が崩れていくのを垣間見た。
中にはもう一体、人型の人形…?
大型魔書をアコーディオンの用に装備した個体は、速攻班の集中攻撃を受けて外側がボロボロと崩れ落ちる。
「わっ!スッゴイ早い…。大丈夫かなあ…」
魅依の目には、外側の重い装甲をパージして、スリムになった敵が目にも留まらぬ早業を見せる。
殴りつけた反動で足が止まるが、その時点でようやく形状が判るほどの速度。
中から現われたのは、ほぼ人間大の人形で、手足に巻いたバンドにワイヤーか何かがついているのが特徴的であった。
「でも、その分だけひ弱なのかな。さっきまでの範囲攻撃だけで既にボロボロみたいだよ」
「そう……。なら、こんな技でも使ってみましょうか。月光よ!」
敵が小さくなった事・素早くなった事で、魅依は苦労して射程を調整しながら再び光炎を放った。
それは危うく斬撃の為に飛び込んだ真緋呂も喰らいそうになったが、サイズの問題で、今度は敵を両方巻き込んだ。
それを見ていた真緋呂は、今がチャンス出とばかりに月光を刃のように替えて二体の敵を貫き通す。
結局、その一撃が決め手となって、一体目の敵は外側も内側も破壊された。
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「一体目が完全に沈黙したか。幕切れだ!総員の火力を集中させろ」
「貫通攻撃が有効なら、それほど苦労はしなさそうですね。むしろ、人間大に成った時、逃がさない様に気を付ける方が重要でしょう」
エカテリーナの指示に明斗は頷き、再び流星を落し、そしてアウルの魔弾を放った。
それは光の矢となって天空を駆け抜け、外側と中側を貫通する。
「先輩、残り数は大丈夫ですか?必要なら補充します」
「おう。今無くなったとこだよ。ここまでくりゃあ大丈夫だとは思うが、一応もう一発分頼むわ」
明斗の法術で真一にアウルの力が蘇り、失われた拳の光が蘇る。
生憎と鉄拳に薬莢の類などはないが、もしあればカートリッジが再装てんされたようなイメージだろう。
「逃げたら僕が追っていきます。みなさん、遠慮なしにやってください」
「必要ならお願いするよ。とはいえ、俺も攻撃に参加できるようになったし……。その心配はないかな?」
龍雲が火力集中し易いように場所を変えて切りつけるが、回復一辺倒だった海も鋼糸で攻撃していた。
先ほどまでは二体分の火力ゆえに常に回復が必要であったが、この状態なら問題ないだろう。
「とはいえ油断は禁物だ。怪我には注意しながら、このまま破壊しよう」
「こちらは、特に、怪我無いです。だから、人々に迷惑をかける、馬鹿は、殲滅、です」
海は仲間の怪我を確認しながら攻撃しつつ、アルティミシア達に声を掛けた。
むこうの速攻班は攻撃されていないし、まあ、受けていても明斗が癒しているのだろう。
そのまま容赦なく攻撃する事で、再び外側の大型装甲にヒビが入る。
「タマネギ野郎をぶっ壊すぞ!中から出てくる奴に注意しろ!ゴウライ、流星閃光パァァァンチ!!」
真一は技の使用回数を補充してもらったものの、相手の破壊が真近いとあって、行動を変更した。
背中から全身のアウルを放出し、まるで翼を生やしたの如く疾走する。
『BLAZING!』
とマシン音がした後に、大型の装甲が砕けて消えた。
そして……。
「この一撃で、堕ちなさい!」
魅依は全身に巡らせたアウルで封印を解き、一時的に急成長すると、指先に力を込める。
それは邪くな槍の如く漆黒の魔力が伸び、中に居た人形が動き出す前に、トドメを刺したのである。
「作り変えられた別の命だったモノ、おやすみなさい」
「次の世界では良き行いを、恨み残して死すならば死後化けてもう一度私の所に戦いに来るが良い……」
真緋呂と龍雲は崩れ落ちた残骸に向けて祈りをささげた。
元は死体を加工したモノだ、戦い終われば恨みがある訳でも無い。
せめて安らかであれ、と祈るのみである。
「或いは形を残して鹵獲ってのもありか。って思ったんだがな」
「データとして持ち帰れば良いんじゃないですか?今回一方に攻撃して来たのが、元の設定なのか、暴走なのか知りませんけど」
そして今回の様相を真一や明斗がまとめて報告書に上げる。
ロボットにロボットが乗り込む奇妙な敵に見えた。
「次に出会ったら、どんにゃ敵ですかな?」
「そうだな。今回の欠点を踏まえて、もっと戦車乗りみたいな奴とか、普通に強い奴じゃないかな?」
ふと魅依が思った疑問に、四国で戦い慣れた海が答える。
敵も馬鹿では無いし、欠点があれば直すだろう。
次に出会った時は、もっと強く、あるいは戦い難くなっているのは間違いが無い。
「どんな敵であろうと、叩き潰すまでだ!」
「はい。ボクらで、協力して。撃退、です」
最後にエカテリーナやアルティミシアが締めて事件は終了した。
願わくば、四国にもう暫くの平和が訪れることを願いながら…。