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マスター:小田由章
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/07


みんなの思い出



オープニング

 魂を吸収したディアボロが帰還し、さっそくゲートへ持ちこまれる。
 十数体用意して多方面で運用、生き残ったのは数体といったところだ。
「サッカー系のディアボロの能力について、防御特化、移動力特化、隠密特化と分け、またその数は一か所一体に絞りました。高コストのサッカー系の数を絞った分、浮いたコストを非吸魂の通常個体へと回して強化し、隊全体での戦力を増強いたしました」
 研究室に訪れたヴァニタスは、レポート片手に読み上げ始めた。
「他者に貸し出したモノも含め、最も効果があったサッカー系ディアボロは隠密型を配備した隊になります。やはり後方拠点として利用する方が…」
『ふゥゥむ。そぉおおいう結果になぁああありましたかぁあああああ』
 得意げに報告する声を聞きつつ、カーベイ=アジン・プロホロフカは頷いた。しかし、次いで首を傾げた。
 報告には納得した。しかしどのタイプの効率が良いかは、やはりまだ断定まではしきれない気がする。何が有効かというのは諸条件で変わるからだ。
 実験例の数がまだまだ少ない事もあるし、諸手を挙げて全面的に信じるわけにはいかなかった。
 主張に対してはまず疑い、その真偽をあらゆる角度から検証せんとするのが研究者の性である。

 一方、ドクターが首を傾げ、不信に思い始めた(ように見えた)事で、ヴァニタスは怯え始めた。
 何か、問題を起こしてしまったのだろうか?自分ではそんなつもりは無いのだが、腹に立った、ムカついたというのは止めようがない。
 死にたくは無い、だが、自分が対象と決まった訳でも無いのに、逃げ出したら、それこそ死亡フラグである。
『貴重なぁご意見参考にしまぁあああす。セェェェェンキュウウウウ! んっで! 数人に貸し出して累計でその数ということでぇすがぁぁああああ、それにしてはぁぁあああエネルギー量が低いんでぇすよねぇぇぇぇ。どーいう事でぇしょおおおお?』
「ボク…いえ、私は誤魔化しなど……」
 ヴァニタスは思わず青ざめた。
 もし私腹を肥やしたと思われば、即、抹殺であろう。
 必死の思いで弁解しようとした時、彼が言い訳を思い付く前に、カーベイ自身がアッサリ確認した。
『あぁ? あー、これ、詰め込んだ魂、漏ぉぉおれちゃあってまぁすねぇええええええ! シィィィィット! 理論値ではぁ1体で100人分くらい行けるはぁぁぁずだったぁああああんでぇすがぁあああ』
 そもそも、カーベイがヴァニタスにチョロまかせるような能力を与えるはずがなかった。
 ヴァニタスにディアボロ改造能力を与えはしたが、あくまで適当なレベルまでしか影響しない。重要部分にかけられているプロテクトを破る事などできないのだ。
『ふむ、平均的には1体につき10〜50人の収容、といったところ? ……術式ぃのぉ強度をを増せばぁああ一体でも大人数を収容する事も十分可能そぉでぇすがぁ……しかぁしそれをやるとコストがかかってしまぁあああいまぁああす! んんんん〜? 効率的にはぁ100人分を収容できる1体を作成するよりもぉ、50人分を収容できる2体を作った方がぁお手軽、安上がりですねぇ。面白味はなぁいでぇすがぁ』
「(たっ。助かった。カーベイ閣下が天才で助かった。……しかし、せっかく集めた魂が残念……いや、この不具合を活かして、何か……)」
 報告するヴァニタス……コンチネンタルは自分の手を眺めて苦笑いを浮かべた。
 前回『閣下のお手伝いをさせていただければ』なんて言ったばっかりに――改造能力を与えて貰ったのは良いとして、両腕に直接術具がくっついている妙ちきりんな格好にされていたのだ。
 ここで画期的なアイデアを提案し、せめてまともな姿にしてもらわねば、いい嘲笑の的である。

 そしてコンチネンタルは、自分の得意分野である、ディアボロの運用において思い付く事に成功した。
 まあ、彼の才能は、そっち方面にしか存在しないのであるが…。
「閣下。もしも魂が無限に収容可能であったなら、サッカー系は一隊につき一体が存在していれば十分でした。そのディアボロの元に次々に人間を連れて来ては吸魂させて、それらを詰め込めば万事は賄えたのですから。ゲートのように扱えた」
『そのとおぉおおおりでぇえええすねぇ。故にデミゲートでぇええしたかぁああ。しかぁああああし、実際は一定数以上を詰め込もうとすると洩ぉおおれてしまいまぁあああす。おまけにその上限はぁ理論値よりも低いぃぃぃ。これでは一体では到底無理でぇえええす』
「はい。これらの問題点を考慮した上でのサッカー系ディアボロの運用方法ですが、ここはひとつ、これまでの平均成果から逆算して考えてはいかがでしょうか?」
『と、いうとぉおおお?』
「現時点の作戦規模において、作戦種類によって浚える人間の数自体はおおよそ決まっています。故に、用意すべきサッカー系ディアボロの種類と数は、このおよその値を賄えるだけを用意すれば十分、と考えられます。
 偵察のついでならば、同行させるサッカー系ディアボロは10人程度の魂を収容可能なディアボロ一体二体だけで良く。
 町への襲撃なら30人以上を収容可能なサッカー系ディアボロを数体……合計で百数十人分も収容出来れば十分です。
 1体で100人も200人も収容可能な高性能な個体については実用性は考えず、あくまでカーベイ閣下が楽しんで目指す目標になされれば良いのです」
『ほっほーう! 現在行われてる作戦自体がぁ、研究用の作戦なんでぇえええすがぁあ。しかぁし実際の作戦においてもぉおおお、その考え方は応用できそぉおおおでぇすねぇ。良いでっっしょお! キミは当面はその方針で動いてくださぁあああああい!』

●旧タイプ?それとも…
「人が浚われてる?…何処だ、助けに向かうぞ!」
 何人かの撃退士が出動を決める中、数人が首を傾げた。
「おかしいな。……殺されて無いのは、ありがたい誤算だが。連中は捕食して魂を奪う実験やってるんじゃなかったのか?」
 敵が来た。
 住民たちは、既に相当数が死んでいる……。というのが、ここ山梨県での大問題であったはずだ。
「それが、他みたいに浚われてる?」
「……方針が変わったのか?」

 推論は様々に交わされたが、当然ながら、結論が出るはずも無い。
 脳筋タイプの仲間は、余計なことを考えずに倒そうぜと言い放った。
「そうだな。今はそれしかないか。他に何か判れば、改めて調べれば良いことだ」
「おっけ。じゃあ敵のデータを寄こしてくれ!学園に同じデータがあるか照合も忘れんな!」
 首を傾げていた方も納得し、疑問は先送りにして、メモだけ張っておくことにした。
 いずれデータが取れれば、判る事もあるだろう。
「敵は獣人タイプに率いられた小鬼の部隊です!鹿頭と牛頭の二体!」
「そこはゴズ・メズの組み合わせじゃねえのかよ。まあいいや、……鹿って何が凄いの?」
「確かスピードだ。鹿頭が突進とジャンプ力で陣形をかき乱し、牛頭が正面で壁張る構成だろうな」
 部隊そのものは、典型的な組み合わせだった。
 雑用はできても弱い小鬼達を、強力な獣人たちが従える。
 強い個体は作戦がぞんざいで、四方八方に逃げると逃げきれたり、逆に殺されたりするのだが、それを小鬼達がカバーするという鉄板な構成ともいえるものだった。


リプレイ本文

●救出作戦
 山梨県のとある場所、山間に位置する町で撃退士たちが急行していた。
 連れ去られた人々を取り返す為にひた走る。
「何考えてんだか解らないけど、浚った人達は返してもらいますよ!」
 先を急ぐ佐藤 としお(ja2489)は目的を自分に刻みつける。
『そりゃまあ、魂を吸収するつもりちゃうん?まあ、判って言いよるんやろうけど』
「勿論です!今までの報告書を読んでみたけど、連中、何か勘違いしてるみたいだね……ここは実験場じゃないし、ましてや、俺達はモルモットじゃないっ!」
 空を舞うゼロ=シュバイツァー(jb7501)は通信を使って、としおを宥めてみるが……。
 当然、何が起きているのか自体は知っている。

 捕食による殺人が相次いでいるそうだが、そんな事をさせはしない!
「そうだ! こんなにたくさんの人を拉致してどうするんだ!? 魂も命も搾取させないよ!」
「(せやけど、いきなり方針変わったってことは何か理由あるんやろけど…ボロ出してくれんかいな)」
 山里赤薔薇(jb4090)も同調して怒りを露わにするが、その一方でゼロは首を傾げた。
 敵の新技術は『魂吸収を捕食で行える』のだ、旧来通りに浚ってゲートに連れて行く必要はない。
 その場で捕食し、立ち去れば良いだけの話だ。
『人質ねぇ…まぁ全部倒せば問題ないやろ。このまま追いつけるようやしな』
『ですね。森に入られる前に追いつきましょう。森では有利にも戦えますが、逃げられる可能性が出てきますから』
 ゼロ達の会話に、遅れていた廣幡 庚(jb7208)がライン機能で割りこむ。
『今の所、隠れた敵にトスしている形跡はありませんが、油断は禁物です』
 どうやら庚は探知スキルを使ったらしく、その分だけ進軍が遅れたのだろう。
 確かに捕食系ディアボロを隠密行動させている可能性はあるし、気を付けるに越した事は無い。
「あくまでも人質救助が優先ですよね?なら僕は遠間から狙い撃ちで支援射撃といきましょう!隠れるのが上手い訳でも、足が速いと言う訳でもないので」
『せやな。でも足…なあ。足並みは揃える必要もないけど…あれはどうにかせんといかんな。凄すぎや』
 としおの確認にゼロは苦笑しつつ前衛組を見降ろした。
 彼は別に足が遅いわけではない、学園標準でいうなら十分に早い方だ。
 むしろ、比較対象が早過ぎるのである。

●鬼間合い
『マキナ、気張っとるとこ悪いけど、ペース落してええから後方から襲撃したって。先行しとるお嬢は、無理にペース合わさん方が気楽でええやろ』
 ゼロが見つめる先には、飛行してショートカットする彼よりも速い影が一つ。
 その後方に、罠をも噛み破りそうなペースで走る姿。
 この帳尻合わせをしておく必要があるだろう。
『……了解。殲滅を優先します』
 マキナ・ベルヴェルク(ja0067)はあえて否定しなかった。
 自分は救出よりは殲滅に向いている。
 このまま全力疾走して足止めにも参加出来るが、更に適役が居るなら…。任せてしまった方が早い。

 それほどまでに、先行する影は別格であった。
「きゃははァ、追いかけっこォ?それなら私の得意分野だわァ」
 黒百合(ja0422)は一息に100mを駆け抜けた。
 何より恐ろしいのは、既に山間に差し掛かり……フル装備だという事である。
 スキルを使うか全力疾走なら、アスリートに匹敵する撃退士は珍しくないが…。彼女はなんと平常状態。
「…さァ追いついたわァ、逃げ切ってみせなさいなァ♪」
 伝説の神行法を思い出させる速度で、黒百合は自身と『影』の二人にスライドしながら迫る。
 障害物を迂回する仲間を置き去りにして、飛行するゼロですら後方だと言うのに。
 躊躇は微塵もなく、また、反撃で殺される気もなかった。

 優れた移動力で攻防を制する、一足一挙動の間合いという概念があるが…。
 彼女のとった方策は、まさにコレを上回る鬼間合いとでも呼ぶべき物だ。
「まずは、いーちっ♪」
「(…凄いな。足も早いけど、ちゃんと『相手』を選んでる)」
 影と共に飛びこむ黒百合の動きを彼方に捉え、陽波 透次(ja0280)は信じられない物を見た。
 100mを突進して殴りつけた黒百合は、気がつけば影を残し50mのバックダッシュ。
 何を言っているか判らないと思うが、尋常な間合いでは無かった。

 だが、一番重要なのは、そんな能力ではない。
 一般人を連れた一番先頭の敵を、選んで足止めしたことである。
「敵に狼藉はこれ以上させない。僕たちも続きます」
 陽波は地上班の先ぶれとして、飛竜を召喚する。
 そして視線の先には、黒百合の足止めの結果、…彼女を排除しようとする強力な敵を確認した。
「排除役をなんとかしよう。黒百合さんが止められたら、他の連中に抜けられてしまう」
「要は叩き潰せば良いのだろう?任せておけ」
 陽波が飛竜と共に素早い鹿頭の獣人に向かうと、不動神 武尊(jb2605)も何かを召喚した後で牛頭に向かっていた。
 見れば重量級のティアマットである、力を力で制するつもりなのだろう。

●戦いの天秤を傾けよ
 先頭集団が敵の頭を抑えた。
「追いつきましたね。黒百合さんが止めてくれてる間に回り込みましょう」
『せやな。このまま手分けして救出しょ。倒すンは邪魔するやつらからやな』
 庚は先頭方向へ走り抜けながら、ゼロは上から位置把握と救出の為に飛び込む。
 まずは銃で、遠距離からの消耗戦だ。
「視界を遮ります。…星よっ!」
「合わせますね。ちょっとの間寝ててください。すぐに助けますから」
 庚が態勢を崩しながらも、眩い輝きを顕現させる。
 タイミングを合わせ、赤薔薇が一般人ごとディアボロ達を眠らせた。

 それは誤射ではなく、故意に巻き込んでも問題のない魔法を選んだだけのこと。
 一般人が眠ってしまうことよりも、拘束するディアボロの手が離れる意味が大きい。
「ここだっ、ここが境界線。向こう側は、ジャンじゃんやっつけちゃって下さ〜い!」
 現れ居出る星の光にディアボロ達は視線を背け、としお達はすかさず中間点の小鬼たちに銃弾を叩きこんだ。
 射線の内側は人を連れた精密攻撃が必要な相手で、その外側は無条件で攻撃して良い敵。
 その境界線を狙い撃つと、誤射が無い位置取りをして盛んに銃撃を浴びせかけ始めた。
「こいつらは僕らで抑えます。その間に、次の敵を」
 透次は最も移動力・跳躍力の有る鹿頭を飛竜で抑えつつ、着地点を狙った。
 強化ディアボロは強力な存在ではあるが、天と地を抑えたことで、終始、透次の優位に進んでいく。
 こうなれば強さよりも、むしろ移動力で突破されないようにするのが、実に気を使う。
「はいはーい。選り取り見取りも悪くないんだけどねぇ♪でも、この子にきーめた。にーぃ!」
「…いえ。それは三です」
 黒百合が大鎌で新しい小鬼を狙い始めた時、後方側でマキナが次の敵を探していた。
 既に彼女は一体分を倒しており、二体目の犠牲者を探す段階。
 他のメンバーが銃撃を叩きこんでいた事もあり、あっさりと三体目、四体目の小鬼が落ちる。
「(こんなものですか。相手次第では、十分に脅威なのでしょうが)」
 マキナは少し距離を空けることで、両側から迫る小鬼の攻撃を冷静に眺め、右側を他愛なく弾き左側を腹筋で受け止める。
 そして後方から新手が見える頃には、既に五体目の小鬼から力を奪って回復し始めていた。
「そろそろ足を止めても良いかしらねえ…。でもまあ、あっちが膠着してからでも良いかしらあ」
 黒百合は小鬼を殲滅しつつあるマキナたちの動きを見ながら、少しだけ思案。

 そして牛頭の獣人を抑える仲間を見ながら、その趨勢を見守っていた。
「あまり効いた風は無いが。抑えれるならそれでよし。ゆるりと削り取ってくれよう」
 武尊はティアマットを壁役に、弓で少しずつ攻撃していた。
 より正しくは、召喚獣と共に何度も攻撃ををするのだが、大幅に防ぎ止められていたのだ。
 だが、彼は個人ではなく、召喚獣と一緒に足止め役である。
「(…うむ。委細問題なし)」
 武尊が仲間達を垣間見れば、着地したゼロを含めて自由になった人々を誘導している所だ。
 仲間達が救出するまで時間が稼げるならよし、その間に削れれば問題ない。
「あいつらは飛ばれへん。悪いけど他もおるからうまいこと隠れとってな。…『こっち』側はこれで全員かいな」
 ゼロが浚われた人数を数えれば、別口の襲撃を除けば浚われた人数は有っている。
 小鬼を引き離しつつ、一般人の居ない方向に氷の魔弾を放ち、その周囲に漆黒の冷気を漂わせ始めていた。
「さあ。天秤は逆転したぞ。どうする、冥魔共!」
 武尊の怒号が周囲に木霊する。
 戦いの趨勢はいまだ不明であるが、救出作戦そのものは、成功し始めていた。

●思惑
 敵の数と浚われた人の存在が、一同の行動を大幅に阻害していた。
 しかし、小鬼は既に半減し、救出の為に手こそ取られたが、助け出す事に成功している。
「隠れている敵や、取り置きされた人もいません。殲滅戦に移りましょう」
「判りました。…黒幕が居るんだろうけど、今は叩き潰す時ですよね」
 庚が銃で援護しつつ、再び周囲の探知。
 その声を受けて、赤薔薇は遠慮なく範囲魔法を連発。
 両腕をクロスさせて印を描くと、赤いアウルを炎の竜に変えて収束。
 槍の様に投げ放った!
「いつもなら、とっくに壊滅させとるはずなんやが……、ここまで保つゆてえらい強さやわ。…技らしい技ないんやけど、絞っとる分だけシンプルやね」
 ゼロは敵の連携と個体の強さに、正直ヘキヘキしていた。
 小鬼は弱いなりに徒党を組んで手傷を負わせて来るし、獣人には腕効きの撃退士が時間を掛けてしまっている。
 幾つもの技を使い分けるタイプでこそないが、目的の為の手段としては、手応えのある障害だろう。
「しかも連中、当初の目的を忘れとらんのやで?強いゆうか厄介やね」
「似たような敵と戦いましたが、同じような感じでしたよ」
 観察を続けながら、ゼロが向かってくる小鬼に大鎌を振るっていると、マキナが合流してトドメを刺した。
「ディアボロの個性が大幅強化され、余計な事せんゆう感じ?こいつらみたいに」
「ええ、その通りです」
 ゼロはマキナの返事を聞きながら、この一団の目的を推測した。
 山梨県で暴れているディアボロは優秀だが、多芸な分だけ線が細いのも居る。
 キーになる敵だけ全員で倒せば、企業撃退士や撃退署のメンツでも行けそうな場合もあるのだが…。
「敵の中に、その手の戦術を改良した奴がおるゆうことやね。…となると、近くで見届とるかも」
「それは是非とも見つけ出して、お仕置きしなくちゃですよね」
 ゼロが結論を出すと、赤薔薇は頷いて倒した後に心を馳せた。
 必ずや見つけて、一言いってやらないと!

 と、考えがまとまっている中、獣人足止め役の方は優位に留まっていた。
 いかんせん、敵は強化個体だし、タフネスだ。
 苦戦こそしていないが、突破されると無力な一般人に被害が…と思えば気も抜けない。
「お仕置きは必要だと思うけど…。先にこっちを倒してからにしましょうよ」
「割りと面倒くさい相手だしね。ケリを付けてから話しても遅くないと思う」
 としおが跳躍した鹿頭を空中から叩き落とすと、透次は敵の置き上がりに重ねて銀銃を構えた。
 置いておくような丁寧な射撃で、射線は相手の回避位置へ。
 その一撃で仕留めきれない事を悟って、剣を構え直しいつでも動ける態勢を作る。
「待ちかねたぞ!余計な事など考えず、全て薙ぎ倒せば良いだけのこと。挨拶はそれからだな」
「え、もう片付けちゃうの?ま、飽きて来たからいいけどね」
 武尊の吠え声に、黒百合は笑って引き金を引いた。
 高速機動の戦いに飽きていたのか、あれほどの移動力を捨ててライフルでスナイピング。
 彼女達は小鬼を潰して行くことで、としおやマキナ達が加勢できるように、足止めから殲滅役へシフトしていた。


「小鬼達は既に無力です。こちらで引き受けます」
「そーよォ。トドメはこちらでやっておくわァ。モーモーちゃん達をお願いィ」
 庚が銃弾を叩きこむと、黒百合は手をひらひら。大鎌を呼び出して切り込んでいった。
 もはや戦いの趨勢は決したと言って良いだろう。

 残るは強敵二体と僅かな小鬼たち。
 とはいえ、どちらもかなり消耗しているし、早いか遅いかの差でしかない。
 シンプルで強いというのは手堅いが、特殊能力が控えめであり先鋭性・発展性に欠けるということでもある。
「わぉ。今のどうやったんです?叩きこんだの一撃じゃないでしょ?」
「後の先から、先の先ですね。…これまでは逃がさない為に使えなかったんですよね。助かりました」
 としおが上を抑え他の仲間にも余裕が出来た事で、透次は奥義と呼べるほどの『連撃』を繰りだした。
 足を止め敵の攻撃を呼び込み…、避け切ってから長所と短所が隣り合わせの捨て身技を行使したのだ。
 赤刃のごときアウルが透次と鹿頭を通り抜けたと思った刹那、連撃を繰り出し、押し留め続けた電光石火の速度を解き放つ。

 これで獣人は後一体、同時刻には小鬼達も殲滅完了。
「いかなる神話にも終幕が降りるもの。…堅牢な防御も砕けば意味はありません」
 マキナは躊躇なく牛頭の脇腹を抉った。
 獣人の血が溢れて零れる。
 なるほど、傷をかすり傷に致命傷を重傷に抑える力は、乱戦ならば確かに厄介。
 …だが防御ごと粉砕できる彼女の様な存在が、フリーになっていなければの話である。
 一度生き延びた所で、二度目はない。マキナは同じ場所にもう一度、死という結末を叩きこんだ。

 攻防に優れた者が矢面に立っていた事で、思ったよりも傷は浅い。
 最も傷が深い者でも、繰り返して治療を受ければ傷は残らなかった。
「回復はもう大丈夫ですか?なら周囲を…近くを探してみましょう」
「そうだな……。さて、どうせどこかで黒幕とやらが見ているんだろう…挨拶位していったらどうだ!?」
 庚が周囲を見渡しながら山側へ歩いて行くと、武尊たちもそれに続く。
「居るんでしょ!? 出てきなさいよ!」
 改めて隊列を組みなしながら進んでいると赤薔薇は…冥魔を含む数人を発見した。
『そりゃ、いますが…。こればっかりは予想通りに行って欲しくなかったですねえ。…残りの人たちは、手打ち料にお返ししましょう』
「…別口の回収中かいな。こらええタイミングやね」
 眼鏡姿の優男が苦笑しながら、捉えた一般人たちを森の奥へ向かうように指示。
 ゼロは逃げる為の捲き餌とは知りつつも、何が潜んでいるか判らないので手控える事にした。
『残念ですが、研究成果だけ持って帰るとしましょうか』
「悪知恵ばかり…。もー!こんど会ったら必ず殺す。親玉にも伝えておきなさい」
 赤薔薇の言葉に怯えたのか、優男は移動用のディアボロにしがみついて逃げ出して行く。

 こうして救出した人々と共に、撃退士は町へと帰還を果たしたという。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 絶望を踏み越えしもの・山里赤薔薇(jb4090)
 星天に舞う陰陽の翼・廣幡 庚(jb7208)
重体: −
面白かった!:5人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
元・天界の戦車・
不動神 武尊(jb2605)

大学部7年263組 男 バハムートテイマー
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
星天に舞う陰陽の翼・
廣幡 庚(jb7208)

卒業 女 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅