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マスター:小田由章
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/23


みんなの思い出



オープニング

●新たな戦術
 最初は取るに足らない話から始まる。本来であれば部屋の主人は聞く必要もない事。
 研究室の中、振り向きもせずに作業する男……。
 カーベイ=アジン・プロホロフカは、珍しく手を止めた。
『そぉぉれでぇぇぇ。その敗戦報告以外にぃぃぃ、何の提案があ〜るぅと言うのですかぁぁ?』
 向けられた視線。
 イェローのグラスに覆われた瞳が、どんな色を以って、こちらを見詰めているのか、男には解らなかった。
 だが、
――つまらないことなら消しちゃいますよ?
 言外に潜まされた言葉が、高らかにうたっているように男には聞こえた。
 長はきっと提案というものが重要と思えばこそ、時間を割いているのだ。
――さっさとしろ、面白いことなら早く寄こせ!
 強く催促されているのは、明白だった。

 かくて、ぶるぶる震えていた優男のヴァニタスは覚悟を決めて口を開く。
「数千数万は必要かもしれない……から、数百、いえ百数十で済むかもしれない案を思い付きました」
 報告者は恐ろしさに身震いしながらようやくのことで言葉を絞り出す。
 本来ならばヴァニタス風情が、主人以外の、それも子爵級冥魔と顔を合わせる方が稀なのである。
『ほお! そーれ、は、重ぉぉう畳! 話半分に聞くとしぃぃてもぉぉ、千くらいで済むなら助かりますねえええ。ぶっちゃけ同じ作業は面白くなぁあああいっでっすしぃぃぃ。それでぇえええええ、どーいう事なぁんでぇすかぁあああああ?』
 男は恐怖していた。
 博士はきっと我慢している。
 いや、きっと最初から期待していなかったのだ。だから己は処分されていない。
 他軍から派遣されたヴァニタスだからと言って、処分を躊躇わない訳がないのだ。
 カーベイや四獄鬼達に『殺そう』と思われた瞬間、その者は殺されている。
 着任早々に『あぁ、邪魔だったんでぇ』と塵でも片付けるかのように無造作に殺されたデビルの姿を男は忘れてはいない。軽く、不意に、あっさり、殺される。
 自由であり、規則がないという事は、強い者が完全に好き勝手にできる無法地帯という事でもあった。
 司法官などいない、どんな理不尽に襲われても誰も助けてくれはしない。
 逆にいえば全て実力勝負、そして実績だけが自己主張を許すのが、この軍団の特徴だった。
「げっ、ゲートの代わりに戻る小拠点にします。現在は数日かけて後方に戻るを繰り返し、まとまった人数を集めてゲートに戻りますが、この案であれば4から5のステップを1・2に短縮できます」
「更に言えば、魂を吸うのが最大の特徴のディアボロを、魂を吸えない撃退士と戦わせるのは無駄が大きく、強くするのは大きな矛盾。数を増やすのは、カーベイ閣下ほどの偉大なる才能が無駄な没頭する事に繋がります」
「デミゲート戦術と名付けました。少なくとも、現状で運用される輸送系ディアボロより確実かと」
 気に入られなかったら殺される!
 優男はずり落ちる眼鏡を戻しながら必死の思いで提案をまとめた。

 そして――結局、ヴァニタスは処分される事無く、難を逃れたのである。
 いや、余計な事を言わなければ、難を逃れたのだと……いっておこう。
『合ぉぉう格ぅぅ登ぉー録ゥゥ決定ぃぃ! 良いでしょう、いえ、悪くないでしょう。本当にそこまで使えるかは別にぃぃしてええ。キィィミはァそのままテストしてみなさいー。具体的な能力は何が良いですかねぇぇ』
「そ、それでしたら……。ディアボロ改造の技術を与えていただきますれば、こちらの方で調整いたします。才無きこの身なれど、閣下のお手伝いをさせていただければ……ひぃ!?」
 よせば良いのにヴァニタスは、余計な事を口にした。
 そのまま帰還すれば報酬として魂を受け取り、繰り返して成功すれば、元居た場所でも出世できたろうに。
 言葉を聞いたカーベイは、機嫌を悪くするでもなく……いや、嬉しそうにヴァニタスの肩を掴む。
 ……象のように強大な力が、捉えて離さないと言った方が正しいかもしれない。
『ナァァィィィスゥゥタィミンンング!! その志はブリリアァァーントぉぉぉ! 聞きましたかぁヨッハナ君?! 彼は今の実験だけでなく、例の実験の手伝いもしてくれるそうですよぉおおおオオッホホオオオオウッ! 感動でぇえええす! 素晴らしい! いィィィイイイイイイイでっしょぉぉぉおおおおおおともおおおおおお!! すうっばらしいィィッディアボロ改造能力を与えてあげましょおおおおおお!!』
「やっ、やめてください。いやー! ぎゃああああああああっ!!」
 カーベイはその細身からは想像できぬ怪力で犠牲者を引きずり、喜色満面で『改造手術』へと向かう。
 ヨハナ=ヘルキャットはパンと両手を併せて犠牲者に合掌すると、
「南無三なのぢゃ……よけーな事言わねば、普通に強くなれたのにのう……ふむ、口は災いのもとと良く言ったものなのじゃ」
 などと呟き、実験の手伝いをする為に博士とそれに引きずられる男の後を追ったのだった。


 かくて――
「ひぃぃ。せっ、せめて麻酔を。いっそ気を失わせてくれれぇ……!!」
 実験室より、グッチャグッチャ!と人体からしてはならない音がして、それは完成した。
 人間ならぬヴァニタスだからこそ、生きて居られたようだ。
『ふうゥゥ。術式は成功!プロホロフカの技術は冥魔一ィィィ!ですから当然ですがねぇぇ。しかし、久しぶりに良い仕事をしました。喜ばれる仕事と言うのは実に気持ちが良ィィィィィィィッ!!』
 かくして報告をあげたヴァニタス……。
 コンチネンタルは、二度と人前で手袋を外せない身体に成ったそうです。


●首なし騎士を倒せ!
「敵が出た?何処だ?この近くなのか?」
「そうだ。首なし騎士が何隊かに別れて町を襲って居やがる。頼む、俺達の町を救ってくれ!」
 学園から派遣され、山梨県に滞在する撃退士に緊急連絡が入った。
 連絡をくれたのは撃退署の職員であるが、今まで冥魔の害が少なかったことから、戦える撃退士は少ないのだろう。
 戦闘のできない自分に代わって、町のみんなを助けてくれと、深く頭を下げた。

「判った。俺たちに任せておきな!人数が揃ったら、直ぐにでるぞ!どうしても間にあわない奴は現地までで合流だ!」
「それまで時間を無駄にする事もない。町中の通信網を総動員して、情報を送ってもらってくれ!」
「そっ、そうだな。そのくらいなら俺達にも出来る。緊急回線を設置しろ、場合によっては個人の携帯使ってもかまわん!」
 慌ただしく武装を確認し、あるいは端末に情報網を作り上げる。
 敵は首なし騎士と、骸骨兵が数体。
 それが1グループになって、周囲を襲っている様であった……。


リプレイ本文

●死せる騎士の襲撃
 山梨県で巡回する学園撃退士たちが急報を受けた。
「今どの辺りに敵がいるか教えてもらえるか? ……そうか、判った。付近の地図も人数分頼む」
 マキナ(ja7016)は地元出身の署員に連絡を要請し、まず詳しい地形を求めた。
 何しろ派遣されてきた身としては、詳しい地形が判らないのと…。
 浚われていると判った以上、確実に助けるには必要なモノだからだ。
「何か不都合でもあったのかね?イラついているようだが」
「複数個所同時だそうだ」
 鷺谷 明(ja0776)はマキナの答えを聴いて、思わず口笛を吹いた。
「なんとも景気がいいねえ。それで、どうするつもりなんだ?熟慮する時間はないし援軍を待つ時間はもっとないが」
「…俺達が敵の一番戦力が大きい場所を担当する」
 窮地をも楽しむような明の言葉にマキナは不機嫌そうに告げた。
 この場では他に方法がないし、戦力の大きい場所を何とかできるのは自分達だけだ。
 知らず声は大きく、苛立ちを持って口にでた。
「では、さっさと解決して次に回るとしようか。急げば急ぐほど人が助かる。刻一刻という言葉を形にした様ようだな」
 明はそういって走りながら地図を受け取った。

 プリントアウトされたばかりの紙に、敵の配置と特徴的な建物の姿が踊る。
 向かう先の敵は、死せる騎士たちがチャリオットに人を担ぎ込んでいくという構成だ。
「言われるまでもありません。この、メイドがお助け致しますわ。汚らわしい敵に、尊い命を奪わせるわけにはいかないですもの」
「具体的には?敵はそれなりの戦力らしいぞ。そりゃ、倒すだけ、止めるだけなら難しくないがね」
 斉凛(ja6571)の決意に、早速、明が水を刺す。
 だか、彼にしても無為に茶化しているだけでは無い。
 妥当な案があれば納得するし、結果的に危険であっても尋ねた以上は従うつもりであった。
 この窮地を楽しむには、最前線こそが特等席だからだ。

●死に向かう車輪
「……『こちら』を先になんとかいたしましょう。やはり、人質が最優先ですわ」
 凛が選んだのは、浚った人を運んでいるチャリオットだ。
 だが、それは輸送しているだけではない。苦悶の表情を見れば生気なり魂を奪っているのが想像できる。
「救出は確実に、吸集中として魂の奪回も可能ならば全力で行います」
「奪取能力があるならば、討滅は私がやりましょう」
 凛の提案に頷いて、マキナ・ベルヴェルク(ja0067)がそちら方面の前衛を請け負った。
「お願いします」
「了解」
 人を助けるのが目的とはいえ、二人のスタンスは違う。
 凛は今救える人を確実に助い、マキナは倒す事で将来の禍根を確実に断つ。
 道は違えども…、根底と過程は今だけは、同じポイントをたどる。

 そして一同は何台かの車列に載って移動を開始。
 山梨県警であったり、撃退署であったり、あるいは個人持ちの車両に分散。
「まったく……製作者の意識を疑うね。折角人界に来たというのに、目の前にある戦争を無視して、しかも手当たり次第に人間を食い散らかすとは」
「ちゃっかり魂は吸収してるみたいだけどな…。いや、弁護する必要はないか。どうせ潰す対象だ」
 カルロ・ベルリーニ(jc1017)の言葉に同乗するマキナ…彼の友人である、男性の方。は適当な相槌を打った。
 弁護しなくてはならない理由は特にない、それどころか、腹のたつ相手だ。
 言いながら押し黙った彼に、カルロは肩をすくめて…。
「まぁよい。ならばこちらから勝手に始めてしまおう。我々に気付けば連中もこの戦争に加わるだろうからな」
 カルロは自分で自分の話に適当な理屈を付け、ジープの座席に身をうずめて画像を眺めた。
 監視システムの一角に映った写真を転送してもらった物だが、首なし騎士と死霊騎士の軍勢は中々に風情がある。
 力強い外見に相応しい能力を備え、回してもらった過去データと比較しても、強敵と思われた。

 そうこうするうちに現場近くへと辿りつき、物音が立ち過ぎない位置で停車。
 降車して、僅かな時を経た後、行動を開始する。
「…時間だ。行くぞ」
 時計を眺め時間を測っていた影野 恭弥(ja0018)は、合図だけを告げて行動を開始する。
「宣戦布告は無しかね?まあ、それもまた戦争だ。良いね」
「やっとか。待ちかねたぜ」
 様式美の好きそうなカルロや、時間の経過をいまかいまかと確認していた男の方のマキナには目もくれない。
 やるべき事に言葉も、過剰な感情も不要である。

●迂回作戦
 骸骨騎士があちらのマキナを挟みこみ、首無し騎士を明が相対する。
 マキナが斜めに後退し、入れ替わるように恭弥の弾丸が首無しに着弾した。

 正面組が僅かばかりの時間を待つ間、数人の仲間が側面に回り込む。
「居た…。市民を連れたまま、逃がしませんわ。『貴方は』わたくしが撃破しますの」
「魂…回収…させない…」
 凛や破壊王・浪風 威鈴(ja8371)たちは、建物の陰に隠れて少しずつ移動。
 戦闘の発生と共に、扉の中に飛び込んだり音を立てて進軍し始めた。
「やっぱ強いですね。突破に時間…掛るかな。わん達こっち来て正解だったですね」
「ん…。とりあえず、他に住民はいない、かな」
 先行する天海キッカ(jb5681)に威鈴は頷きつつ、自分の目標を把握しにかかった。
 味方と騎士達は互角に戦っている。
 この死霊騎士団には余計な能力が無いのか、シンプルな分それなりの強さを持っている様だ。
「(敵の目的は判らない。…でも、目の前、全てを狩り尽くせば同じこと)」
 威鈴はひとまず最近の流れを棚上げした。
 今は倒せばそれで済む、考えるのは上がやるだろう。救出も仲間が堪能してくれる。
 他に巻き込んでしまう人が居ないか確認までは自分もやった。だから……、今は倒す事だけに専念すれば良い!
「ボク達……で、。ボクらで支援する。徹底的に撃ちまくるから、適当に突っ込んで」
「了解ですっ。わんが首無し騎士が下がって来れない様にしておきますね」
 威鈴は脳裏に仕舞っておいたライフルを現出させると、ズッシリとした重みを蹴りあげるように構えた。
 それを合図にキッカは家屋、倉庫、車庫と物影に潜みながら前に出た。
 キッカは逆方向のデュラハンの背後へ、ゆっくりと回り込んでいく。

 そして戦車には…。
 弾かれるように、黄金の弾丸が飛び出した。
 だがソレは正しい意味での銃弾では無い。ソレは人の形をした銃弾。
 少女の形をした終焉、彼女の名は、マキナ・ベルヴェルク。
「まずは…。動きを抑える」
 マキナは無造作に片手をあげて、戦車を引っ張る首なし馬に鉄拳を振り降ろした。
 漆黒のアウルが炎の様に燃え盛り、やがて鎖となって絡みつく。
 しかし反応が鈍い。相手の動きもだが、拳を振り降ろした質感もだ。
「…堅いな。なるほどコレは防御…いや生存特化ですか」
 マキナの力は天使、それも戦闘タイプの威力に匹敵する。
 ソレを受けて無事なのは、最初から防御と生命力に能力を振り分けているとしか思えない。
「ですが…。無意味です」
 放出されていたマキナの炎が指先へと収束する。
「ここで集中砲火だ。一気に黙らせるぞ!あんたら準備はいいか?」
「今お助け致しますので、少しだけ辛抱してくださいませ」
「……」
 威鈴の放つ光弾に続いて、凛が回り込みながら射撃する。
 その間にもマキナは貫手で馬の胴部を抉った。言葉は不要、巻き込まれぬように注意を向けた視線が、承諾の合図となる。
 炸裂した光のアウルの影響か…。黒い炎が対象的に揺らめくのが見えた。

●堅固な強敵
 敵の作戦は、人間を浚う事がメインなのだろうか?
 戦車は暫くして逃走を開始し、逆に、死霊の騎士達は少しずつ後退を始めた。
「(来た来た。…わんの奥義を味あわせてやる。出血大サービスだ)」
 キッカは大鎌を展開すると、視界の外から走りだした。
 デュハランの千切れた首は正面組へ、更にキッカが闇に溶けていた事もあり、こちらにはまだ気が付いていない。
 漆黒の刃が、首なし騎士の背中へと刻まれた。
「お前たちにくれてやる魂や感情は一個もないんだよ! 何度も言わすなバカチンが!!」
 キッカの不意打ちが成功し、果敢に攻撃を弾いていたデュラハンが大きく崩れた。
 無論、それは彼女一人の成功では無い。
「……。戦況が逆転したな。潮時だ」
 恭弥はもう十分だと、酸弾を切って、意識の中で白銀の弾にイメージを切り替えた。
 確固たる像が結ばれた瞬間に、彼の中で術式は全く別の物に入れ替わる。
 そして弾丸の中に膨大な光量を詰め込むと、戦いを終わらせることにした。

 背後から回り込んだキッカの出現、そして後方から援護していた恭弥の様子で仲間達も状況を悟った。
「もう終わらせる気かねえ。……そういえばこれでデュラハン見るの三、四回目の気がする」
「そりゃ、あれだけ強いんだし、多用するんじゃないか?」
 明は現われた仲間に手を振りながら、その一方でこちら側のマキナに治療を施した。
 彼は骸骨騎士を仕留めている最中で、その間、明が首なし騎士を足止めしていたのだ。
 骸骨の一体目は苦労したものの、残り二体のペースは早い。
「よけーな事はしてこなかったけどよ、その分強かったろ?」
 マキナは骸骨騎士の手応えを思い出した。
 他の県では多彩な技もあって中々苦労するというレベルだが、今回はシンプルだからこそ、かなり苦労したという印象だ。
 だが、それもここまで。斧を振り降ろし、反動を利用して別の骸骨に力いっぱい食らわせる。
 二体同時に崩れ落ちたが、また反撃で腹が斬り割かれていた。
「いやいや。強い事は強いけど、それは対した理由じゃないさ。強さだけなら戦車やお供込みでコンプリートする必要はない」
「ああ、なるほど。これ程の手勢を率いるのだ。…様式美にこだわっていると言う事だね」
 明の言葉に、カルロが納得したと言う表情で近づいてきた。
 言いながらガンガンと打ち込むのだが、あっけなく弾かれる。
 そしても一度微笑んで、やっぱりね…。と満足したように笑う。
「…?」
「だからさ。『かっこいいから』だよ。デュラハンがやたら多い理由」
 首を傾げるマキナに明は肩をすくめて、迫る剣撃を盾で殴りつけるように弾き返す。
 なんと、私に当ててくるとはな!と感心しつつ、笑って自分で自分を治療した。
「彼の言葉を例えると、同じくらいのデータと個性を持っていた敵なら、山ほど居ると思う。…それでも敵がデュラハンをセットで用意した理由は何か?せっかく侵攻するなら、騎士団の方が戦争してる気になるだろう?」
「さよけ。……まっ。倒しちまえば同じだよな。さっさと撃破すれば、被害拡大を抑えられるはずだし……なぁ!!」
 カルロ達は敵を取り囲んだ事もあり、今度は全ての攻撃が首無しに命中、そして反撃は避けきった。
 マキナの斧が何度も何度も振り降ろされる。
 いかに強化…特に防御には気を使った首無し騎士であっても、酸弾に侵され、猛威が訪れればひとたまりも無い。
「…終わったか。向こうの援護に行ってくるか」
「そうですけど、攻撃力は低かったみたいだし、先に回り込んでるので、大丈夫かな?」
 先ほどまでは、恭弥の攻撃だけが景気良く貫通するというレベルであったが、酸弾の効果はかなりのものだ。
 キッカは走りながら、頭の中で簡単にメンバーを組み変えてみる。
 酸や白銀の弾丸を放った恭弥が後衛で、迂回組のマキナが前衛なら、首無しが強くともあっけなく倒せてたろう。
 …だがそれでは、戦車が手薄になって、既に逃げられていた可能性もある。
「やはりこれが妥当な戦果ですね〜。あれ?」
「……この位置ならば可能、か」
 キッカの推測を他所に、恭弥は既に狙撃態勢に移行していた。
 走り込んで態勢がブレ始めているが、彼の腕ならば可能な範囲だ。
 揺れる上体を無理に抑え込むのではなく…、彼独特のリズムに乗せることで確率を無視することにした。
 当たるも八卦当たらずも八卦、ならば必ず当てて見せる。

●ブレイクポイント
 戦車は獣か何かに装甲が引き千切られ、そこから人が零れ落ちていた。
 防御と生命力重視で移動力はそれなりだが、それも全力疾走すれば関係ない。
 浚った人こそ奪い返されたが、魂の一部を奪ったまま、死に向かう車輪が回転する。
「(ゆえに此処で抑える。此処が終末の谷…)」
 マキナは回り込んで、街道沿いの道を抑えた。
 先ほど縛りあげた炎の鎖だが、大きな傷だけを入れて今度は抵抗されてしまう。
 直線位置を確保できれば、逃げ切られてしまうだろう。
「逃がさん」
 だが!
 マキナが角度を抑えれば全力は不可能!
「中身を持っていかれては困りますの。逃しはしません」
「ようし…、これで御終いだ。面倒くさい追いかけっこなんて、まっぴらだぞ」
 凛は零れ落ちた人々の中央で魂の保護術式を掛けた後でライフルを構える。
 対して威鈴は、その手間が無い分だけ走り込み、一度だけ蹴り付けた後で、銃をぶっ放した。
 彼女の弾が炸裂した後、似たような音が響く。
「…ヒット」
 騎士達の所から駆け付けた恭弥が、走り込んだ状態のまま直撃させたのだ。
「終わった終わった。お代わりと洒落込むかね?」
「当たり前だ!助けれる人は、みんな助ける。一番近いポイントと戦況は…」
 明の言葉に、端末を広げていたもう一人のマキナがデータを調べようとした時。

 不意に誰かの言葉が、割って入った。
『その必要はありませんよ』
 声は建物を挟んで、向こう側の道から。
 壊れた戦車はその敵か?
 乗ってるのは細面の青年だが、どこか歪な姿だった。
「やぁヴァニタス!はじめまして、私はカルロ・ベルリーニ。中々良い手勢を率いているね、おそらく君の実力も中々のものなのだろう。嬉しいよ」
「借り物かもしれないぞ?見たまえ、あの腕。なんだ君。そこまでして強くなりたいのかね?浅ましいなあ…」
『こっ。この場所も回収すれば相当に…と思ったんですけどねぇ。中々上手くは行かない物です』
 明が見た所、青年の両腕は形が異なり、良く見れば手袋が蠢いたり鋭角に尖っている。
 他人の腕を付け換えた様な姿で、冥魔自身がそこまでする必要あると思えない、ヴァニタス辺りだろうか?
 嘲笑に動揺する辺り、大物ではなさそうである。
「何度でも言ってやるぞ。お前達にやる魂は無い!」
『くっ。此処では敗北しましたが、見えて来たモノもあります。またいずれ!』
 キッカ達が挑もうとすると、敵はさっさと逃げ出してしまった。
「まったく、呆れてものも言えない。たかが敵に出くわしたくらいですぐに逃げ出すとはね。それ故に生き延びて実力を手に入れたのだろう……しかし、戦場で戦争をしない兵に何の意味もない。放っておくか」
「とりあえず、…防衛。…成功」
 呆れるカルロの言葉に威鈴は銃から指を離して頷いた。

 敵が居なくなれば激情は覚め、取り返した住民たちこそが勝利の証。
 また来れば、粉砕するのみだ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
 紅茶神・斉凛(ja6571)
 BlueFire・マキナ(ja7016)
重体: −
面白かった!:3人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
ゴーストハント・
天海キッカ(jb5681)

大学部4年239組 女 ナイトウォーカー
戦争こそ我が夢・
カルロ・ベルリーニ(jc1017)

大学部4年178組 男 インフィルトレイター