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マスター:小田由章
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/04


みんなの思い出



オープニング

●小鬼の群れと、暗躍する者たち
 山梨県はとある場所、ディアボロ達の群れが移動していた。
 乱雑なりに、ある種の秩序を持った姿は…。行進と呼んで良いのかもしれない。
「(指揮している奴が見あたらねえ。ディアボロ使いの冥魔かヴァニタスだな)」
「(…この辺にそんな奴いたか?)」
 その姿を遠目に見つけ、影から潜んで監視している撃退士は、首を傾げた。
 雑用ができる小鬼は訓練すればこのくらいの行進をやってのけるが、対して強くないのだ。
 油断さえしなければ、駆け出し撃退士でも互角に戦えるレベル。

 疑問を付け加えるなら、こういった小技に頼る冥魔には心当たりがなかった。
「(あれじゃないか?最近になって他の地域の冥魔がやって来てるって話)」
「(その話か。おかげでこっちも対抗する形で、久遠ヶ原学園に協力してもらってるんだよな。あり得る話だ。注意して報告するとしよう)」
 監視を続けながら定期的に連絡を入れ、場所や規模、そして向かう方向を報告して行く。

 そうして大よそのデータを送信終わった時、同じ小鬼ながら別タイプの敵が合流するのを見つけた。
「たっ助け…」
「(っ!子供たちが浚われて…。くそっ。やっぱりソレが目的か)」
「(近くの班を救援に送ってもらってる。迂闊に飛び出すなよ)」
 四方から袋を担いだ小鬼が現れて、ディアボロの行進に加わったのである。
 奴らは赤い衣を身にまとい、自分の体よりも大きな袋を持っているのが特徴であった。

 こういった事件が頻発し始めた事もあり、付近に展開していたチームが駆けつけるのは間もなくの事である。


リプレイ本文

●陰謀の影
 山梨県に増員で訪れていた撃退士が呼び集められた。
 全員の終結を待ちつつ時間を惜しんでミニ会議。
「あちこちで人攫いに殺戮だと…?」
「むぅ…。何をやってるか分からないのは不気味ですね…依頼もですが情報も集めたいところです♪」
 ルナリティス・P・アルコーン(jb2890)の唸りに同意して、ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)が頷く。
 いまだ他の県に比べれば多くは無いとは言え、以前に比べれば頻度が増していた。
「何か裏がありそうだが意図を読みきるにはまだ情報が足りんか…、まずは眼前の問題を解決しするとして…。それはなんだ?」
「これはですねー。周辺地図と山岳救助の報告書なのですよ♪」
 ルナリティスの問いに、ドラグレイは端末の画面を拡大した。

 一枚目は普通の地図だが、二枚目には赤線やメモ書きが色々。
「相手は地形を知らずに直進しているようですが、この辺とか使えると思うんですよね?」
「なるほど。それならば私は空中から頭を抑えるか…」
 判り易く言えば、彼女が用意したのは移動経路の予想図だ。
 過去例には山岳登山の経験が無い運動部員の例などもあり(なまじ体力があると油断するらしい)、多少の差はあれ予想から大きく外れる事はないだろう。
 山屋での戦いはどちらにも利があるが、移動経路を推測出来ているなら、こちらに分がある。

 簡略にまとめられたデータを全員の端末に転送し、詳細なデータはプロジェクターで映す。
「この予想に従うとして第一優先は子供、次に大多数の排除、最後に人浚い野郎の殲滅でいいか?」
「それで問題ないよ。……天使の次は悪魔か。あっちと違って小賢しいことしてるみたいだけど、今はともかく、子供達は返して貰わないとね」
 ならば、とロード・グングニル(jb5282)は映像が映し出されたホワイトボードに、優先順位を書き込んだ。
 キイ・ローランド(jb5908)達にも異存はなく、子供マークの周囲に、マグネットで自分達を示す駒を配置する。
 進路の斜め正面から地上班が足止めし、その間に空中班を中心に回り込む形だ。
「最悪逃げられたら、子供を浚っている奴だけでも確保。谷とかで子供を放り出したら、子供を優先って感じかな?」
「まあそうならない様に逃走防止用の結界は張っておく。…空中班と隠れる人は場所に注意してくれ」
「「了解」」
 赤いサインペンでキイが矢印を描くと、ロードは青いペンで逃走方向に円を描いた。
 彼の言葉に該当者は頷いて、短いながらも事前会議は終了。

●山野の激突
 そしてディアボロの集団が、歪な行進でやって来る。
 近くにヴァニタスが見えない事を考えれば、中々の統率と言えるだろう。
「来たな…。例の静岡で乱入してきた悪魔の作品か。ただの雑魚か、それとも…」
 咲村 氷雅(jb0731)は敵部隊が見えたことで、山中の迂回を中止した。
 そのまま影に潜んで、仲間が道を塞ぐのを待つ。
『……静岡のディアボロですか?』
「ああ。厄介なディアボロで魂を奪うらしい…」
 ライン越しに尋ねる黒井 明斗(jb0525)の質問に、氷雅は簡潔に答えた。
 つい先月の話である、魂を奪うディアボロが現れ人々を食らっていたとか。

 だが魂吸収能力には問題が二つある
『でもあれって、天魔はともかくディアボロが持ってる例はかなりレアじゃありませんでした?』
「付与化に成功したんだろう。…天使はともかく冥魔の考え方はどうしようもない奴が多い。何処までコスト意識があるのかしらんがな」
 明斗と氷雅の声に疑念が混じる。無理もあるまい。
 生来の天魔は別として、作成物のディアボロはまず持っていない稀な能力。
 それに二つ目の問題は…。
 と続けようとした所で、事態は一気に緊迫した。
『敵の動きが変わりました。おそらくこちらを確認したのかと。…タイミングを合わせて一気に仕掛けます!』
「こちらも確認した。巻き込まない様に注意はするがな」
 明斗の声に交じって、付与らしき魔法を唱える女性の声が聞こえる。
 もはや魔術を控える必要もあるまいと、氷雅は遠慮を止めた。
 あとは獲物目掛けて襲いかかるだけだ。

 そして容赦ない一撃が、次々と飛来する。
「…次は回り込み始めたのからやる」
 影野 恭弥(ja0018)の放った弾丸が、先頭を行くディアボロの足を砕き…訂正しよう、一撃で、その次もまた一撃で葬り去った。
 戦慄するほどの威力を見せた恭弥は、さして気する事もなく最低限の説明を行う。
 それは忠告でも無く、ただ葬って行くという事実を告げているだけだ。
「射線に割り込むな…ということですね。了解しましたっ」
「…。…」
 飛び出したドラグレイの確認に、恭弥は特に反応を示さなかった。
 それを肯定とみなして、少女は山中を我が庭のように駆ける。
 軽快なステップで、いままで潜んでいた影から、一気に木漏れ日の中へ!
「ふふふ♪記者兼忍者のドラグレイ・ミストダストですよ♪情報と浚った子供を置いてけなのです!」
「(今がチャンスです)」
 ドラグレイの笑顔は一気に最高潮のヴォルテージ!
 まるでアイドルか何かのような姿は、とても忍者には思えない。
 廣幡 庚(jb7208)は少女を囮として、敵後方に向けて飛行を開始した。

 付与を終えた庚が回り込むのと同時に、タイミングを合わせて他のメンバーも動き出す。
「手はず通りだな。…倒すのは容易いが、普段以上に精密かつ緻密に撃たねば」
 ルナリティスは木々を透過して抜けると、庚より近い位置に居た分だけ先に攻撃態勢を整える。
 視界に目立つ赤い色を捉えた後で、対象はあくまで味方を邪魔をする個体を選ぶ。
「突入を支援する。子供達は…任せた!」
「引き受けました!どきなさい、あなた達に用はありません。邪魔をするなら…」
 ルナリティスが敵前衛を上空から打ち崩す中、明斗は赤い影に向かって突進した。
 途中で邪魔する他の小鬼を蹴散らして、一路、子供達を救うべく槍を振るう。

 山野で泥にまみれて戦う姿は恰好よい物では無い。
 だがしかし、それは確かに子供達のヒーローであった。

●超人には慣れないけれど…
 そして後ろに回った庚は、探知に成功すると生卵を投げつけてマーキング。
 マークした対象が持っている袋が、問題であった。
「敵の抱える袋のようなものの中に生命反応がありますので、攻撃は慎重に願います」
「あの袋に詰めて子供を浚っているのですね。…袋を置いていきなさい」
 庚の指示した赤い個体に向かって、明斗は体当たり気味に飛びかかった。
 そして仲間と一緒に取り返すのだが、重要な目的であったのか、小鬼たちが殺到する。
「致し方有りません。…目をつむっていてくださいね」
「その間は、自分が相手をするよ」
 明斗が子供にそっと忠告するのは、仲間に向けた合図でもある。
 盾を使って視界を遮りつつキイが駆けつけると、明斗は手に眩い光明を作って照らしだした。
 さしものディアボロと言えど…、いやディアボロだからこそ正視できない。
 彼らは進路を変えて、キイの方に迫った。

 迫りくる小鬼達は、手に小剣や槍を持って挑む。
 それも左右同時、あるいは剣持ちの頭越しに槍を突き出して来るような連携を見せた。
「雑魚でも動きが違うと壮観だなぁ。…さて、騎士の務めを果たそうか」
 キイは最初だけ楽しそうに眺めた後、ガラリと意識を変えて冷徹に迎え討つ。
 狭い場所を一人で占有し、数体分の攻撃を引き受ける。
 その間に押したり蹴飛ばして跳ね除けることはあっても、攻撃せずに、ただ場所の維持に労力を傾けるのだ。
「そこ、逃げるよ。仕留めて。こっちはこの通りだからね」
「お任せくださいっ、用意があるとはいえ…逃がしません」
 攻撃をしない分だけ、キイには盤面を見通す余裕がある。
 士気が低い事もあり、情けなく逃げ出す敵を指摘して、そこへ庚が上から迫る。
 これが普通の小鬼ならば逃がしても『今は』良いのだが、赤い個体とあれば逃せない。
「袋は…子供は私が確保します。取り返そうとする小鬼をっ!」
「承知。捉えた…撃ち抜く…!」
 庚がタックル気味に取り返そうとするのを、ルナリティスは支援した。
 高い高度の守りを放棄して、10m少しまで接近。距離と安定を維持できる角度から、赤い小鬼を穿つ!

●魂を食らうディアボロ
 それがマークされた、四つ目の袋を確保しきった瞬間だった。
 ここから先は遠慮は不要。一同の猛攻が、ようやく火ぶたを切る。
「生存反応はないようだが…な」
 恭弥はマークされていない赤い個体を狙い討った。
 生体反応を調べる魔法に反応はなく、仲間は印を付けて居ない。
 だが彼の技前ならば、念の為の配慮で当て易い部位を避け、頭部を狙うのに遜色はない。
「(確保は任せるか…)」
 仕留めた事だけを確認、子供の確保や生存確認を置いて、恭弥は次の個体を狙った。
 経験から言っても望みは薄いと言う事もあるが、悩むより次々に仕留めて、他の仲間に任せる方が性に合っている。
「この子は自分がなんとかするから、…そっちの子たちをお願い」
「…?あ、ああ。判りました。お願いしますね…」
 キイは子供の顔に手を当てて簡単に生死を確認すると、明斗に向けて目線で指示を飛ばす。
 最初は何の事だか判らなかった彼も、直ぐに察して生き残った子供にパニックを鎮静する魔法をかけ始めた。

 つまりあの子たちは…。
「やりきれんな」
 ロードは呪縛で身動きを止めた敵に、容赦なく襲いかかった。
 盾を構えていた状態から、瞬時に大剣を出現させて両断する!
「憂さ晴らしというには、癪だが…。逃がしはしない」
「言うな。最善を尽くすぞ…。もしかしたら魂を回収できるやもしれんしな」
 ロードが横薙ぎの一閃の後、別の傷ついた敵へ黒き糸を伸ばして怒りと共に巻きあげる。
 彼の怒りには同意しつつも、氷雅は別の意味で、殲滅を急ぐことにした。

 子供達を巻き込まぬ為に手控えた事もあり、一同は押し込まれていた。
 だがソレを優位だからと勘違いしたディアボロ達の末路は、悲惨と言うほかはない。
 結果として、逃げる時間を自分で潰していたのだ。
「お前らの好き勝手にはさせん。一体も逃がさず潰す、ここで取り逃がせば後々厄介になるだろうしな」
 氷雅は黒い剣を無数に召喚して小鬼達の群れに飛びこませると、印を切り替えて次の得物を呼び寄せた。
 次なるは妖刀…。真紅の刀身は、小鬼たちの血を啜り美しさを増す様だ。
 そうすると次第に花びらが零れ落ち、風に吹かれて丸で吹雪のように舞う。
 血桜が散り切った時、数体が崩れ落ちた。

 そして戦いは、何時しか互角どころか、一方的な追撃戦へと移る。
 訓練されて集団でまとまりはしても、危機に瀕すれば、魔法で厳命されていない以上は、普通のディアボロでしかない。
「駄目なのです駄目なのです、それ以上向こうに行っては……。後ろからばっさりです♪」
 まるで不思議の国の少女であるかのように、ドラグレイは小鬼を追いかける。
 しかし小鬼は三月兎ではないし、彼女もまた容赦する気などありはしない。
「おお…。よくそこまで逃げましたね。でもそこには、罠があるのですっ」
 ディアボロたちはサーバントに比べて個性的な物が多いが、全速力で逃げた個体もいる。
 ドラグレイはちょっとだけ感心した後、足を止めて引っ掛かるのを待った。
 あそこには事前に、魔術罠を仕掛けておいたのだ。

●魂吸引の欠点と、それを越えるモノ
 こうして掃討戦は完了した。
「もう少し我慢して下さいね。傷口からバイキンが入ると大変ですからね」
「さっ、これで大丈夫だよ。甘いもの食べると落ち着くんだ」
 明斗とキイは、子供達の介抱を始める。
 助け出した四人に治療魔法を掛け、毛布を掛けて姿を隠した二つの影に、回収した袋を重ねてみたり…、脈を念の為に取って視る。
 追撃戦を行っていたメンバーが帰って来たのは、そんなころ。
「後は分かる人にきっちり調べて貰うのです♪そっちはいかがです?」
「こっちは砂が溶けて消えたんで、袋くらいだ。間にあった子がいるのは嬉しいが…そうでない子は残念と言うしかないな。おそらくは捕まった時にはもう…」
 ドラグレイの元に、ロードたちが追いついてきた。
 言葉は苦く、死んでしまった子が居るのだと言外に告げる。

「どうだった?何か飛んで行ったか?」
「いや、飛びはしなかった…。ゲートと同じ形式なら間に合うかもしれんが…。それよりも問題なのは怪しいのが二体居ると言う事だな」
 ロードの確認に氷雅は首を振る。
 快復して欲しいとは思いつつ、頭を切り替えて、魂吸引に関する二つ目の話題を口に出した。
「二体?そりゃ作れる技術があるのなら量産するだろう?」
「…多分、コストに合わないと思います。ゲートに比べて直接吸引というものは、傷すら治せないレベルなんですよ。影野さん覚えてませんか?」
 ロードの問いに、明斗は過去の依頼を思い出していた。
 これが二つ目の問題、魂吸収を付与しても効率が悪過ぎる。
 その事を知る、四国で依頼を受けた仲間に話を振った。

 もし直接吸引がそこまで効率が良いのであれば、四国で起きたとある事件は失敗に終わっていたか…。
 そもそも気が付く事もなかったはずだ。
「居たな。俺が捕まえた奴はそんな事を言っていた。確かイールとか言う天使だったか…」
「やれやれ…。ということは作成条件があるにせよ、数%のハズが十数%、悪ければ数十%を補えると言う事に成るな」
 話を振られた恭弥が思い出すと、ルナリティスは肩をすくめる。
 魂吸収に関する一大革新ということであり、無制限であれば、恐ろしい話だ。

 そして一同の話題が四国に及んだことで、舌打ちめいた声が漏れ聞こえた。
『やれやれ、あの事件に関わった方が居られましたか…。巡る因果というやつですかねえ』
「…あいつらを監視している奴か?勤勉な事だ」
 氷雅は周囲に誰か潜んで居るかと思っていた分だけ、皆より反応が早かった。
 魂吸引の話を聞いていただろうに、それを否定すらしない。
 自信があるのか、それとも別の思惑があるのか?いまは迂闊に攻撃を仕掛けず、相手の行動を察して話を促した。
「何が目的だ?あの程度の連中では脅威にもならんぞ」
『ええ、あまり強く無い『吸者(サッカー)』だったので陣の中央に隠してたんですが…、強くしても、隠しても効率が悪い。その事が知れただけでも儲けものです。次回はもっと工夫してみますよ。では御機嫌よう』
 誘導に対して、声の主は肯定を示した。
 傑作を倒された喪失感は無く、むしろ他人行儀な印象を受ける。

 いや、それどころか、それっきり声すら聞こえなくなった…。
「生命探知にも反応がありません。多分、通信魔法で見聞きしていたんだと思います」
 庚は表情を堅くして首を振った。

 この戦いで得た答えは多い…。
 だが帰還する撃退士の顔に、笑顔は見られなかった。


依頼結果