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マスター:OBATA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/30


みんなの思い出



オープニング

「ゲームの世界から帰ってこれない生徒がいるんだよ!」
 教師 飯野渉は神妙な面持ちで言った。
「今どき珍しいことでもないでしょう?ネトゲにハマって引きこもりになるなんてやつは結構よくみますよ。そういうことを生徒の私に言われても…」
 彼のクラスの生徒であるタス・ローランドは迷惑そうな表情で答える。
 タスは女性ながらゲームの世界大会に出場するほどのゲーマーで、自分でもゲームを作るほどのゲーム好きだ。
 だからといって、ネトゲ中毒患者の専門家ではない。
「いや、単にゲームにハマっているだけなら別に大した問題じゃないんだ!問題なのは、言葉通り、生徒がゲームの世界から帰ってこれないことだ」
「は?なんですそれ?つまりあれですか?数年前から流行ってるゲームの中に精神が取り込まれて帰ってこれないとかそういうラノベみたいな話をしているんですか?」
 怪訝な表情をするタスに、天道は頷いた。
「そのとおりなんだ。まるでラノベだよ!あっ、俺は別にそんなラノベとか知らないんだけどな!生徒が話をしていたのを聞いてなんとなく知っただけだよ!別に本屋で全巻大人買いとかしてないし!」
「はあ、そうですか。ラノベの話をしに来たんですか?」
 タスはこのニ十代の教師がラノベにハマろうが大して興味はなかった。
「いやそうじゃない!とある寮の生徒が、自分の部屋からニ日も出てこなくて、授業にもでなくなった。心配になって部屋に入るとパソコンのモニターの前に突っ伏して動かない彼の姿があったんだ。彼は病院に運ばれたが未だに意識は回復していない。精密検査をしてもなんの異常もないんだ。ただ意識だけが持って行かれた」
「ゲームの中に?」
「ああそうだ。彼は意識不明になるまでずっとゲームをしていたらしい。不思議なことにゲームの中のプレイヤーは彼が倒れてからもずっと動いているんだ。彼はプレイ出来る状態ではないというのに!」
「それでゲームのせいにするのはどうでしょう?プログラミングを組めば自動でプレイヤーキャラを動かすことくらいだれでもできますよ?先生はラノベの読み過ぎでは?」
「べ、別に読み過ぎてはないよ!月十冊くらいだよ!……い、いや、そんなことはどうでもいい。調べてみるとゲームに強い魔力が込められていることがわかった。どうやらこれは天魔がらみらしい!」
「なるほど……で、そのゲームの製作者は誰ですか?」
「わからない。だからゲームに詳しい君に相談したわけだよ」
「理解しました」
 タスは少しは楽しめそうな気がして、飯野の相談に乗ることにした。

 二人はゲームに取り込まれたという生徒の部屋に向かった。
 部屋の中は事件が起こった時のままに置かれていた。
 パソコンの電源がついており、まるで透明人間が操作しているように、モニターのゲーム画面は動いていた。
 飯野がキーボードに触れようとすると、タスはそれを制した。
「やめたほうがいいですよ。これは呪いのゲームです」
 タスは画面を見ただけでゲーム名を当ててみせた。
「のろいのげーむ?なんだか面白くもない名前だななんとかアートオンラインとかなんとかーテイルとかそういう名前じゃないのかね?」
「ちがいますよ。呪いのゲームっていうのは、プレイするとゲームに意識を引きずり込まれるゲームの総称です。この手のゲームって十年以上前にも流行ったことあるんです。やはり特別な魔力がかかっていて、制作には悪魔が関わったとか言われています。人間作ったのゲームにハマった悪魔が面白がって作ったとか」
「ほうほう、そうなのか!」
「でもこれはその時と比べてかなり進化してますね。MMOといわれるネットゲームになってます。もしかしたらこのゲームをプレイして意識不明になっている人が世界中にいるかもしれません。とは言え世界に数えるほどしかないので、事件にもならない程度の人数でしょうが……」
「なんと!何も知らないで遊んだ人間の意識を奪うとは、許せん!」
「何も知らないってものでもないんです。このゲームをプレイするに当たって必ず守らなければならないルールがあるんですが、それを守れば意識は奪われません」
「なんだねそれは?」
「ゲームは一日一時間……」
「な、なるほど……それを守らなかったから戻ってこれないと?」
「そういうことです。逆に一時間以内に終われば意識を持っていかれることはありません。でもゲームを一日一時間なんて子供でも無理です。だから誰も守らずに中に取り込まれる」
「救い出す方法はないのか?」
「クリアするしかないですね」
「やはりそうか!よし!早くクリアしよう!」
「でもクリアするには100層を超える地下大迷宮の最下層のボスを倒さなければなりません」
「ムリゲー!!!」
「まあ無理ではないですよ。私はこれを前に遊んで最終ボスの手前まで行ってます」
「すごいじゃないか!これで勝てる!」
「でもラスボスはソロでは無理っぽかったんでやめました」
「クリアは無理なのか?」
「いいえ、ソロでは無理なだけです。私のボス直前のセーブデータを使って誰かがクリアすればいいんじゃないでしょうか?このゲームは自分自身の戦闘能力がそのままデータに反映されるシステムなので、撃退士が入れば十分にボスに対抗できると思います」
「マジか!いけるじゃないか!でもボスに負けたらどうなるんだ?」
「死にます」
「え?」
「ああ、でも死ぬ直前に回線をぶっこ抜けば無理やりログアウトされるので意識を戻すことができます。まあ一時間以内でないと無理ですが」
「そうか!なら死ぬことはないな!」
「それをしっかりできればノーリスクですね」
「プレイ人数は?」
「このゲームの製作者である悪魔は、六人での戦闘にこだわっているようです。パーティの盾となる壁役、ヒーラー、斬撃攻撃担当、打撃攻撃担当、魔法攻撃担当、遠隔武器攻撃担当のバランスで戦うのを至上としているようです。まあそれがド安定ですが、私のようにあえてソロで挑んだり、魔法攻撃者のみのチームで挑むとか、難易度を上げて楽しんでもいいのかもしれません」
「おいおい、人の命がかかわってるんだ!遊びじゃないんだぞ!」
「これはゲームですし、遊びですよ?」
 タスは不敵な笑みを見せた。
「ボスはどんなやつなのかわかるか?」
「えっと、凶悪なドラゴンですね。戦闘場所は下に溶岩が流れている大きな橋の上です。」
「ドラゴンか!ボスにふさわしいな!」
「ボスは刺の着いた甲羅をかぶっていて、火をはき、ハンマーをいっぱい投げてきます。たしか名前はク……じゃない『パック』?」
「パクリじゃねえか!」
「製作者は日本のゲームが大好きだったらしく有名なラスボスを模倣したようですね。でもあんなに愛らしい容姿ではないですよ。グラフィックが向上しているのでかなりリアルなドラゴンです」
「……果たしてこのゲームを攻略したいとかいう生徒はいるだろうか?」
 飯野は少し不安にかられた。


リプレイ本文

「なかなかバランスが良いメンバーが揃ったみたいだね」
 藤白 朔耶(jb0612)はメンバーを見渡した
 集まった撃退士たちは、学園内の視聴覚室に集まり、設置されているパソコンからゲームにログインした。
 現在は、全員すでにゲームの中だ。
 ゲームの舞台であるダンジョンの最奥の様子は、地底の洞窟のようで、ゴツゴツとした岩の転がり、近くにはドロドロとした溶岩が流れている。
 陽の光のない地底だが、溶岩があたりを赤く照らして、視界は悪くない。
「あれ、あんた誰?」
 先ほど視聴覚室に集合した時には明らかにいなかった人間がいるのに、朔耶は気づいた。
「私です。棺ですよ!オンラインゲームならなりたい自分になれると聞いて、タスさんにお願いして外見を変えてもらいました!」
 どこからどう見てもおとぎ話の王子に姿を変えた棺(jc1044)は、金髪の髪をかき上げた。
「そんなことできるんだ。あたしもやってもらえばよかったな」
「それでタスさんから言付けがあります。『棺の外見変更したことでチートはおしまいだ。これ以降は手伝わない。じゃあの!』だそうです」
「貴重なチートを変なことに使うな!」
「まあこれで、正攻法で戦うしかなくなったってことだよ」
 藤井 雪彦(jb4731)は、ボス攻略に意欲を見せる。
 目の前にはこのゲームのラスボス「魔竜パック」が待ち構えている。
 溶岩の流れる川にかかる橋の真ん中でこちらを睨んでいるように見えた。
「あの姿、よく訴えられなかったね」
 アサニエル(jb5431)は パックの外見を見てつぶやいた。
「某配管工がお姫様を助けるのゲームと同じやったら、踏んだら倒せるんちゃうか?」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は軽口を叩く。
「吾輩のペットにピッタリではないか!どれ、軽く手なづけてくるとしようか」
 Unknown(jb7615)は甲羅を背負ったドラゴンの姿をひと目で気に入り、無防備にパックに近づいていった。
「アンノ、ちょっと待てや!」
「ほーら、肉入り卵焼きだぞー。いい子だーよーしよしよしよし」
 ゼロが止めるのも聞かず、Unknownがパックに近づく。
 パックの頭を撫でようと、手を伸ばした瞬間。
 ガブリ!
 パックはUnknownの頭に噛み付いた。
「NOOOOOOOOOOOO!」
 激痛に叫び声を上げるUnknown。
「まったく、しょうがない人だね!」
 雪彦はパックの注意を引きつけるように前に出た。
 向こう岸に突き立てられている金の斧。
「金の斧に近い相手をパックが集中的に攻撃するのは予習済みだよ!」
 パックはUnknownを離して、雪彦に向き直る。
 パックの閉じられた口の隙間から青白い炎の光が見えたあと、凄まじい質量の炎のブレスが雪彦を飲み込んだ。
 雪彦は盾をかざし、それを防御する。
「なんて炎だ!でも耐えられない攻撃じゃない!」
「バックアップは任せときな!」
 アサニエルからの回復魔法がすぐさま傷を癒やす。
「アサニエルよ、我輩も回復を所望する!」
 パックの咬み付きで頭から流血するUnknown。
「何やってるんだい!残機減らされたくなかったらキリキリ働きな!」
 アサニエルは、呆れた様子でUnknownを回復する。
「さぁ、ボクを見ろ!誰にも目を向けさせない!」
 雪彦は金の斧の横に陣取り、四神結界を展開した。
「あたしはしっぽを狙ってくね!」
 パックが長い尻尾を振ってもギリギリ届かない位置から、朔耶は用心深く射撃する。
 敵からの攻撃予兆が分からない以上、不用意に攻撃を仕掛けず様子見をしながら攻撃するのが懸命だ。
 適正距離を測っているうちに、朔耶はパックの尻尾の届く位置に入った。
 間髪を入れずにパックの尻尾が振られた。
 朔耶は肩に攻撃を食らってふっとばされた。
 橋の下に落ちそうになる直前に、空中を飛んできたアサニエルが朔耶を抱きとめた。
「ありがと!攻撃予兆は無いけど、射程範囲に入って攻撃したらしっぽを振るみたい!」
 朔耶は気づいた情報を伝えた。
「つまり一定の行動で、攻撃を誘発できるってことね!」
 アサニエルは再び上空に舞い、甲羅に向けてヴァルキリージャベリンを叩き込んだ。
「上空に注意が向けば奴が立ち上がったりするんじゃないかってね!」
「ほほう、そこに気づきましたか」
 アサニエルのすぐそばで頷いたのは棺だった。
 羽の生えたペガサスに乗った棺(今の彼は王子の格好)はアサニエルと同じく、パックの上方から魔法攻撃を繰り出している。
「さあ、いでよストレイシオン!甲羅を破壊するのです!」
 棺はストレイシオンを召喚した。
「俺も参加させてもらおか!パクってるんやったら元ネタ通りの弱点ちゃうんか?くらえ、ファイヤーボール!」
 ゼロのファイヤーボールは某ゲームのそれをはるかに超える威力で甲羅に命中した。
「おかいしいな、元ネタのゲームやったらファイヤーで倒せるんやけどな?」
「別ゲーですしね。でも注意を引くことができたみたいです」
 棺の言うように、空からの攻撃で注意を引き、パックは立ち上がった。
「パックは腹が弱点だ!狙っていけ!」
 雪彦は大声で知らせ、自らも風妖精の嫉妬でパックの腹を引き裂く!
「それじゃあ、亀甲縛りでいいかい?」
 アサニエルは審判の鎖を展開、パックを直立のまま拘束した。
 弱点をさらけ出すパックに圧倒的な攻撃を加えていく。
「チャンスですよ、このままひっくり返しちゃいましょう!」
 棺の提案に一同頷いた。
「うおおおお!我輩の必殺の一撃、喰らうがいい!!」
 Unknownはあらわになったパックの腹に渾身のダークブローを叩き込む。
 Unknownの力の波はパックを仰向けに倒すだけでなく、正面に立っていた雪彦も飲み込もうとする。
 雪彦は横っ飛びで間一髪かわした。
「うわっとあぶない!殺す気か!」
「吾輩の正面に立つものは死あるのみ!」
 雪彦の抗議もUnknownは気にする様子もない。
 倒れたパックの腹に次々と魔法攻撃が叩き込まれたが、数秒もするとパックは首を異様に伸ばし、地面を押し、自力で甲羅をひっくり返して元の状態に戻った。
「器用なやつね!」
 朔耶はうなった。
「いい感じで進めてる!この感じで行こう!」
 攻略パターンを掴んだ雪彦は皆に声をかけた。
 不意にパックが足をドスンと踏み鳴らした。
 すると天井から無数の巨大なハンマーが雨のように降り注ぐ。
 撃退士たちはそれぞれ回避するが、ハンマーの一つが棺の頭に一つ命中した。
「くらくらする〜〜」
 溶岩に落下していく棺をアサニエルが受け止めた。
「手間をかけさせるんじゃないよ!」
「ありがとうございます、姐さん」
 姐さんと呼ばれたことに顔を引きつらせるアサニエル。
 地面に散らばった無数のハンマーに目をつけたUnknownは、ハンマーを一つ拾い上げた。持ってみると、両手持ちでちょうどいい武器になる。
「吾輩はこれで頭を狙っていくぞ−!」
 Unknownはハンマーをかざしながら、頭に走った。
 そこでは、雪彦が金の斧の横で一身に攻撃を受けていた。
「これが金の斧か!つまりこれを壊せば橋は崩れるのである!」
 Unknownはターゲットを金の斧に変え、斧に向かってハンマーによるダークブローを試みた。
 パキーン!
「折れた!?」
 雪彦は、金の斧の柄の部分がへし折れ、金の刃が遠くに飛んで行くのを見た。
「ふふ、見たかこの力!他愛もない!」
 斧をへし折って勝ち誇った表情のUnknownをすぐさまパックの憤怒の炎が焼いた。
「\上手に焼けましたー!/」
 炎の渦に包まれ、黒焦げになって倒れるUnknown。
「金の斧は壊すんじゃなくって、使用するものだよ!説明書読んでおかないからそうなるんだ!」
 雪彦は治癒膏を使ってUnknownを回復させる。
「説明書など吾輩の辞書にはない」
「辞書いいから説明書読んでくれ!」
「あれ?パックの様子が」
 朔耶は、パックが攻撃をやめ、頭、足、尻尾を甲羅の中に収めていくのに気づいた。
「これが絶対防御ってやつだね。魔法攻撃で削るしかなさそうだ」
 雪彦は対処法を説明する。
「こっちからは腹が丸見えや!足腰立たんようにしたるわ!」
 ゼロは物質透過で橋を透過させてから、ライフルでパックの腹部を攻撃した。
 橋の下からの攻撃で効果的にダメージを重ねていく。
「ホンマは橋を壊したいところやけど、破壊不能なオブジェクトとかゲーム的な説明しおって!まったく融通がきかんゲームやな!もっと自由度の高いゲームを……ん、なんやあれ?」
 愚痴るゼロの視界に何か目を引く物体が見えた。橋の下に何かが生えている。
「きのこ…か?」
 それは頭一つくらいの大きさの巨大なきのこで、毒々しい水玉模様をしている。
 ゼロは怪しいと思いつつも、引きちぎり持っていく。
「アンノこれ食べる?」
「おー、ウマそうじゃん食べる食べる!」
 ゼロは橋の上にいるUnknownに拾ったきのこを投げ渡した。
 なんの警戒もなく、Unknownはきのこを食した。
「うおおおおおぱわあああああああああっぷ!!!!」
 Unknownはみるみるうちに数倍のほどの体格、パックと並んでも遜色のないほどに巨大化した。
「なんかデカくなりおった!キモッ!」
 ゼロはドン引きした様子でUnknownを見上げた。
「我輩こそ、真の魔王である!」
 Unknownはジャンプ一番、パックの甲羅を踏みにいった。
「いったれ!甲羅踏み!」
 しかし、踏むと同時にUnknownの体は小さく縮んで、元の大きさになった。
「とげがあああ!背中のとげがああああ!」
 Unknownは足の裏を抑えてのたうち回った。
「あんたさっきから自滅ばっかりしてない?」
 アサニエルはしぶしぶの様子でUnknownにヒールを飛ばした。
「どうやら攻撃は一定の順番でループしてるようだね」
 尻尾攻撃をかわすタイミングを掴んだ朔耶。
 次に放った銃弾がヒットすると、尻尾が切れて、豪快に吹き飛んだ。
「やった!しっぽゲット!」
 歓喜の声をあげる朔耶。
「うおおおお我輩の尻尾じゃああ」
「おっしゃ!剥ぎ取りや!」
「グッジョブ!私も参加しますね。逆鱗まだですか?」
 切れた尻尾にUnknownとゼロと棺が殺到した。
「あとにしろっての!」
 アサニエルが釘を指す。
「咬みつきは問題ないが、ブレスが必中なのがキツイな」
「ゲーム的ナ言い方をするとそろそろMPキツイんだよ。次に立った時が勝負さね!」
 アサニエルと棺の甲羅への魔法攻撃でパックは再び直立した。
「火力を上げていこう!」
 雪彦の号令とともに、撃退士たちは総攻撃を仕掛けた。
「吾輩のゴール●ンハンマーを食らうがいい!光になれえぇぇ!!」
 拾ったハンマーで執拗に甲羅攻撃を繰り返していたUnknownの一撃で、甲羅はビキビキと音を立てて大きなヒビが入った。
 更にアサニエル、棺、雪彦が魔法攻撃を加えることで、甲羅は最後には、破裂するように四散した。 
「ふふ、見よこの威力!甲羅を完全に破壊したぞ!」
 甲羅を失ったパックの姿は今やみすぼらしいトカゲ……とまではいかないが、どこにでもいるドラゴンという印象になった。
 それでもなお、パックは攻撃を続ける。
 当初から攻撃を受け続けていた雪彦は敵の弱体化を肌で感じた。
「弱っているようだね!一気にトドメをさそうか!」
「さぁさぁ!巻いて行こか!おもろなってきたで〜!!」
 攻撃パターンを完全に見きった撃退士たちにたかがゲームのラスボスなど敵ではなかった。
 各自全力でパックに攻撃を叩き込む。
 そして・・・
「ゴァァァァァァァァァア!!!」
 パックは地底に鳴り響く低い断末魔の叫びを上げたあと、ズズンと体を地に沈めた。
 動かなくなったパックが、電子データとして光をはなちながら消滅した後、勝利を知った。
「これでゲームオーバー…だよっ♪…お疲れ様☆」
「勝ったー!」
「やった!」
「ちょろいちょろい!」
「なぁな、我輩のペットどこいったん?」
 歓喜の声を上げる撃退士たち。
「皆さんありがとうございます!」
 唐突に女性の声がした。
 見ると、溶岩だらけの地底世界にはそぐわないピンク色のドレスを着た金髪の女性がこちらに向かって優雅に歩いてくるのだった。
「このゲームってお姫様を救い出すストーリーだったの?」
 彼女の頭にのるティアラをみて、朔耶は唸った。
「そんな気はしていたけどね」
 アサニエルは呆れた様子だ。
「なかなかのべっぴんの姫さんやないか!」
 ゼロは喜んだ様子で姫を眺めた。
「ありがとうございます。素敵な配管工さん」
「は?配管工?…っていつの間に!?」
 ゼロは自分の服装がいつの間にか青いオーバーオールに赤い服、赤い帽子までかぶっている事に気づいた。
「ゼロ、きのこのお礼である!」
 Unknownは満足気に言って、とどめに口ひげをわたした。
「気づかんうちに着替えさせられてたんかい!」
 呆れながらも、ゼロはUnknownから口ひげを受け取り、つけてみた。
 結果、どう見ても某ゲームの主人公である配管工がそこにいたのだった。

「ゲームクリアおめでとう。ご苦労さん」
 ゲーム世界からもどってくると、タスがみんなを出迎えた。
「ぬるいゲームでしたよ!でもみんなと力を合わせてクリア出来てたのしかったかな」
 余裕の表情を見せる朔耶。
「足を引っ張り続けたやつもいたがね」
 アサニエルはやれやれといった様子で言った。
「さて、みんな無事に戻ってきたかな?……あれ、ゼロとアンノは?」
 雪彦が足りないメンツがいるのに気づいた。
「二人なら、まだゲームの中にいるな」
 タスが指さした画面の中に、二人はまだ残っていた。
「あいつら……」
 額に手を当てるアサニエル。
「もうクリアしているから1時間を超えて残っていてもリアルに帰れるはずだ。このゲームに囚われていた人も現実世界も戻ってくることだろう。よくやってくれた」
 タスは感謝を言葉にした。
 
 Unknownはゼロと姫を背に担ぎ、ゲームの大地を疾走する。
「かくして勇者ゼロはゲーム世界の王となり、冒険の旅を続けるのであった!」
「変なモノローグいれるんちゃうわ!まあええわ、城帰ってもつまらんやろ〜いろいろ連れてったるで〜♪」
 Unknownとゼロの二人はしばらくゲーム世界に居続けるようだ。
 そしてもう一人。
 魔竜パック討伐後、姿が完全に元に戻った棺はただのオブジェクトと化し、ゲーム世界に置き去りにされたという。
「ただの棺として放置される私……ゲーム世界になじみすぎではないでしょうか?」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 君との消えない思い出を・藤井 雪彦(jb4731)
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
重体: −
面白かった!:8人

力戦奮闘・
藤白 朔耶(jb0612)

大学部4年319組 女 インフィルトレイター
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
久遠ヶ原学園初代大食い王・
Unknown(jb7615)

卒業 男 ナイトウォーカー
こっそりとそこにいる・
棺(jc1044)

卒業 男 ナイトウォーカー