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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/06/15


みんなの思い出



オープニング


「綺麗ね――」

 郊外にある森に迷い込んだ二十台半ばの女性は、自分の目の前の少女に思わずそう話しかけていた。
 そこは、地元の人でも滅多に訪れないほど奥地の湖で、不意に声をかけられた少女も少し驚いたような表情で声の主を振り向いた。
 少女はいつからそこにいたのだろう? 女性が湖にたどり着いた時には、少女はもうそこに佇み、彼女の周りを数え切れないほどの蝶が飛び回っている。

 木々の間から零れる僅かな光に、水面をきらきらと反射させる湖。重なるように枝を伸ばした樹木のせいで差し込む光は少なく、蝶を呼べるほどの花もないのに。どこからこれほどの蝶の群れが飛んできたのか。少女に声をかけた女性も、不思議そうに辺りを見回した。
 よくよく見れば、振り向いた少女は中学生くらいだろうか? しかし、着ている巫女のような着物の袴は短く、ニーハイソックスに黒の編み上げブーツのアンバランスな格好だ。それに、両サイドだけ長く伸ばした髪は艶やかだが真っ白で、女性をじっと見つめる瞳は、藍色と緋色の色違い。

「なに? なんかの儀式中? それ、なんのコスプレ? 色違いのカラコン入れるの流行ってるの?」
 矢継ぎ早の質問に、少女は困ったように薄い笑みを漏らした。
「お姉さんは、なぜここにいるの?」
「聞いてるのはこっちなんだけど、まぁいいや。私、これでも役者なんだけど、決まってた役を降ろされちゃって。イメージが違うって」
 女性は自嘲するように笑うと、その場にどさっと座り込む。誰かに聞いてもらいたかったらしく、一度口を開くと話は留まることを知らない。

「それがさ、私の代わりの子めちゃくちゃ下手なんだ。でもさ、すっごく綺麗なの。うん、そう、そこにいる綺麗な翅の蝶みたいに。私はさ、なんて言うの、反対に蛾みたいって言うか――」
 ほらほら、と少女の周りに飛んでいる蝶を指差した女性は、自分を静かに見下ろしている少女の顔を改めてまじまじと見つめた。
「あー、あんたも綺麗な顔してるんだ。じゃ、分からないよね、蛾の気持ちなんて。綺麗だったら私だって……」
 がっかりした女性の言葉に、少女は自分の指に蝶を止まらせる。
「これ、蝶に見えるけど、ニシキツバメガって言う蛾なの。きれいでしょ?」
「こんなに綺麗なのに蛾なんだ。私もせめてこんなに綺麗な蛾だったら……」
 どの蝶よりも綺麗に見えるのに、それが蛾だと聞いた女性はびっくりして飛んでいるそれに手を伸ばすが、蝶のようにひらひら飛び回る蛾は、すいっと手から逃げていく。

「反対に地味な蝶もいるの。でも――、いくらきれいでも蛾は蛾でしかない。どんなに焦がれても蝶にはなれないの」
「――えっ?」
 さっきまで、少しだけ微笑んで話を聞いていた少女は、もう笑っていなかった。向けるのは、どこまでも冷たいふたつの色違いの瞳。
 そして、あれだけ少女の体に群がるように飛んでいたニシキツバメガは、ぱっと離れてまだ地面に座ったままの女性に向かって飛んでいく。
「え、えっ? いや、なに、これ!? きゃーー!!」
 あっという間に女性の体を取り囲み群がった蛾は女性の姿を隠し、やがてその塊は地面に転がり動かなくなった。数え切れないほどの蝶のような蛾が塊の上で美しい翅を優雅に動かしている。そのすぐ側には、無表情で見下ろす美しい少女がぽつりと呟いた。

「馬鹿ね。お姉さんは確かに蝶だったのに、蛾になりたがるなんて――。さぁ、その綺麗な翅で飛んでいきなさい」
 少女の声で、きらきら光る大きな翅を広げ震えるように羽ばたいた巨大な蛾は、自分の新しい体を喜んでいるようにも見えた。




「あの女の望みが叶って良かったじゃねぇか。ひと皮剥けば同じなのに、まったく、悪魔には人間の心ってのは分からねぇ」
 飛び去るディアボロを見つめている少女のすぐ側に、いつ現れたのか紅い髪の男が腕組みをしてニヤッと笑う。
「……黙ってて」
 抑揚のない冷たい声に、悪魔は肩をすくめて苦笑する。
「はいはい。立場逆転の気もするが、好きにしな。――時期が来るまではな」
 クククッと軽く笑いを残して、紅い悪魔は音もなく消えていく。


 残された少女は、ひとりディアボロとは反対の森の奥に歩いて行った。後悔という溜息を残しながら。


リプレイ本文


 ディアボロがすぐそこまで迫っている。その手前、森の入り口に撃退士達が集まった。森の後ろには住宅が並んでいるが、住民は避難が済んでいてひっそりとしている。だが撃退士達の背中に感じるひしひしとした邪悪な気配は、そこに異形なものが近づいていることを教えていた。
「はー、敵は巨大な蛾か」
 重苦しい空気の中、羽山 昴(ja0580)は一番に口を開いた。長袖の儀礼制服に口元から首まで覆うように着用しているマフラーは、蛾が撒き散らしている毒の鱗粉対策だ。見れば他のものも身につけているものはまちまちだが、それなりに鱗粉対策を施していた。
 姫川 翔(ja0277)も昴と同じようにスカーフで顔半分覆っている。エステル・ブランタード(ja4894)も長袖長ズボンと、この季節にしては厚着なのはやはり毒を警戒してだ。
「巨大な蛾っ!?うわぁ〜、想像しただけでグロそう……」
 ぶるっと身震いをして呟いたしのぶ(ja4367)も、肌の露出を抑えた服装でマスクに隠れた顔を嫌悪に曇らせる。
「蝶か蛾か、ねえ。蝶も結構グロいと思うんだが」
 鱗粉対策にガスマスクをつけている鷺谷 明(ja0776)の声はくぐもっていたが、どこか笑っているように聞こえる。が、その出で立ちは一見して不審者のようだ。防塵マスクをつけた獅子堂虎鉄(ja1375)が地味に見える。

 そう、今回の依頼は毒をもった鱗粉対策で、お互いの表情を読むことは難しい。そのため、虎鉄は事前に防犯ブザーを準備してきていた。
「毒鱗粉と薙ぎ倒しには、おいらがこの防犯ブザーを鳴らすから、回避&後退してくれ」
 そう言って試にと虎鉄がブザーを鳴らすと、静かだった住宅街にけたたましい音が鳴り響いた。音に驚くものはいない。表情は見えないが一様に皆こくんと頷く。
「とりあえず町に出る前に森の中で倒しちまえば良いんだな?」
 昴は確認するかのように言う。戦闘経験の少ない昴は、それなりに経験のある顔ぶれに、ほっとしているところもあった。足を引っ張るのだけはしたくないとも思う。だから、綿密な作戦を立てて挑みたいが、森の中から感じていた邪悪な気配は、先ほどより近づいている。ここでぐずぐずしている暇はない。
「森から出ると危険だねっ、がんばって退治しようっ!!」
 先ほどは、巨大蛾の気持ち悪さに身震いしていたしのぶだったが、持ち前の元気を取り戻して明るく言うと、ポニーテールの長い黒髪が弾むように揺れる。
「森から出す訳にはいきませんね〜。急ぎましょう」
 それに同意して、エステルが森の入り口から中へと歩を進めた。後を続くように撃退士が森の中へ。
「……」
 一番最後に森へと進んだ翔。彼だけ、別のことが引っかかる。
 (こんな郊外に、ディアボロ一匹。少し……気になる。な)
 心に思ったことを言葉にはしなかったが、無言で皆の後を追った。


 森の外と中ではあまりにも景色が違った。青々としていた入り口の木々とはまったく別の色をした枯れた色が奥へと広がって見える。
 そう、その境界線上にいるのは、巨大な翅を持つ蛾だ。ばっさばっさと枯れ落ちた葉までも巻き上げて、羽ばたくもの。巨体のせいか、それともその性質か、高くそびえる木々の天辺より上へは飛べないようだ。撃退士達にとっては、その方が好都合だ。
 しかし、巨大な蛾を目の前にして、撃退士達も歩を止めてしまうほどその姿は醜く見える。彼らは知らないだろうが、あれほど人間だった女性が願った姿は、人の目には醜悪にしか写らない。
 でもどうだろう。枯れた木々の間から差し込む光に身を虹のように輝かせる蛾は、嬉しそうに翅を震わせている。
「奴さんが妙に喜々と飛んでやがるのは『材料』の最後に願った『想い』がそうさせてるのか?」
 虎鉄が顔を歪ませて吐き出すように言う。純粋な想いは、人でないものから狂喜へと変えられた。
「悪魔め、人間の心を弄びやがって!」
 激怒した虎鉄の士気は最大限まで高揚する。
「行こう、正義執行だ! 守護者として街を守るぞ!」
 叫んで地面を蹴った虎鉄の足元に火花が散る。纏う山吹色をしたオーラが雷のように全身を走った。
「……虎鉄、突っ込み、すぎない、で」
 虎鉄の熱くなりすぎる正確を良く知っている友人でもある翔が、虎鉄を軽く制する。しかし、やや激昂している虎鉄が止まるはずはなかった。仕方なく、翔は光纏し金色のオーラに包まれる。これで常時阻霊符は発動している状態になる。
 その後ろからやや遅れるようにして同じく阻霊符をエステルが発動させる。
「このマスクってこういうのにどの程度の効果があるんでしょうね〜」
 そう呟きながら走る彼女は、敵の前でこのマイペースさだ。それがエステルの持ち味ともいえるが。マイペースに見えてその実、頭の中では冷静に戦闘のスタイルが組み立てられている。それが証拠のように、エステルは前を走る虎鉄と翔とは別の、まだ蛾に荒らされていない木々の間に飛び込んでいった。

 瞬間、撃退士達の目の前がいきなりぱっと開ける。今まで全身が見えなかったディアボロが、その巨大すぎる翅で木々をなぎ倒して姿を現した。
 ぴたっと止まるすべての足。ごくり、と唾を飲み込む音がどこからか聞こえる。
「くねりと曲がる不気味な口器、のっぺりと無機質な複眼。翅だけ見て綺麗なんて言う人は、目が悪い」
 明がどこか愉しげに言う。確かに、綺麗な翅とは対照的な他の器官。美しいというにはあまりにもグロテスクだ。誇らしげに美しさを見せびらかすかのように震わすその翅も、毒を飛ばす武器でしかない。
 ディアボロは、自分の進行方向に立ちはだかるように現れた撃退士達に、そのまま直進することを止めた。自分に対する痛いまでの殺意の波動を、大きな体で感じ取っていた。これは自分の新しい体を壊すものたち。

 最初に仕掛けたのは昴だ。ディアボロが止まった隙に、ぐるっと背後に回り武投扇を、見るからに柔らかそうな胴の真ん中を狙って投げつける。
 シュンッ!と空気を切る音が胴に生えた体毛を削って、武投扇は昴の手に戻る。
「ギイエエアアアアァァ!!」
 どこからその奇怪な音は発せられたのか。何度も続く昴の背からの攻撃に、ディアボロは堪らず長く伸ばしていた胴を縮めるように丸めた。と、同時に、ディアボロの翅も身を抱え込むように、ぐぐぐっと下げられ、次の瞬間には空を覆うように広げられる。
「くそっ!」
 蛾の真正面に陣取っていた虎鉄は、光りを遮る翅を見上げて、手に持った防犯ブザーを押した。けたたましいブザーの音が、森を駆ける。音に瞬時に反応して飛びのく明としのぶ。やや遅れて虎鉄が横に飛び退く。しかし、後ろにいた昴は、蛾が翅を広げた際に起きた突風に吹き飛ばされた。
「うわっ」
 昴の体は数メートル後方の、枯れた木の幹まで軽々と飛ばされる。激突する寸前、昴の大きな体を正反対の細い体が受け止めた。
「……っと、危な、い」
 翔だ。彼もまた、ディアボロの背後に回り込んでいたが、突風が起きたときにはまだ斜め横にいて、吹き飛ばされずに済んだのだ。
 ホッとするのもつかの間。ディアボロの巨体が邪魔になって前の状態が見えないが、翔と昴は続けざまにまた虎鉄が鳴らす防犯ブザーの音を聞くことになる。


 前方にいる他のメンバーも苦戦を強いられていた。ディアボロはその翅を何回も続けざまに羽ばたかせ、その度に突風が巻き起こる。そしてその風は、森を枯らしてきた毒の粉を含んでいた。
 パリパリパリと、木々が枯れていく音が聞こえる。撃退士達の頭上から降ってくるのは、毒の粉と同じ数の枯れた葉だ。それが、更に攻撃を阻むものになる。
 ディアボロから距離を取って、弓で巨体を狙っている虎鉄には、視界を覆う枯葉は一番厄介だ。それはアサルトライフルで攻撃をするしのぶにも、攻撃の威力を半減させていた。翅の付け根を狙っても、僅かだが弾は反れてしまう。
「むうー」
 ついつい低く唸る。時々くる風圧にスカートが捲れ上がるのも、気が散る要因かもしれない。
 きらきらと光る色とりどりの翅を眼下に見下ろして、明は木の上に立ち上がった。タイミングを見計らい、その大きな翅が広げられるのを待ってから、飛び移る。
 衝撃はディアボロの体を斜めに傾けた。ズズズーンと重い音と共に辺りが揺れる。舞い上がる土煙。その中心にもがくディアボロと喜々とした明の姿がぼんやりとうかがえる。

 しかし、ディアボロの巨体が地に着いたのは一瞬で、すぐさまその力強い翅で大地を叩くように羽ばたく。それには上に乗っていた明はバランスを崩し、飛ばされるように後ろに飛びのいた。
 それでも明はただ飛ばされてだけではない。体が離れる瞬間に、わずかだがディアボロの背を蹴っていた。
 巨大蛾の体が反動で垂直に立ち上がる。今まで正面から巨体のディアボロを見ていたといっても、所詮は横になっている状態を誰もが見ていたのだ。上から背に乗った明ならいざ知らず、改めてその全長を目の当たりにすると、大きさに誰もが息を飲む。立ち上がって大きな美しい翅を誇示するように広げるディアボロは、やはり虎鉄の言うように喜んでいる。ふわふわと震えるように動かすだけでも、細かい鱗粉が飛ぶ。とたんに枯れ始める緑の葉。

「いくら綺麗な姿をしていても危険な存在であることには変わりありませんからね。倒させていただきます」
「まあ、綺麗なだけのものなんてないだろうさ」
 エステルの声が聞こえる。応えるように翅の向こう側から明の声が聞こえた。
 今まで木々の間に身を潜めていたエステルは、これがチャンスとディアボロの前へ飛び出し、構えていた飛燕翔扇を翅の付け根に向けて投げつけた。ザクリッとエステルの飛燕翔扇が肉を深く抉り手元に戻る。間髪を入れず、虎鉄の矢が広げた翅に穴を開けた。スマッシュで大きく開けられた穴から風が漏れる。
「翅が邪魔だな」
 そう言って、ディアボロの側面に回った虎鉄。キリキリと矢を引き絞る。引き絞られた矢に力が宿る。そうしていっぱいまで力を溜め込んだ矢は、黒い光の衝撃波となりディアボロの穴の開いた翅もろとも、おぞましい毛が生えた横っ腹を走り抜けた。
 虎鉄の攻撃でいくらか千切れた翅が舞う。横からの攻撃に体勢を崩すディアボロ。それでもまだ無事な翅をしきりに上下させ、自分の横の木々をなぎ倒す。
「ええい!」
 次々に倒れてくる枝を器用に避け、しのぶは蛾の目の前まで移動すると、破れて体液を流す胴へ拳を繰り出した。意外と柔らかい感触が、彼女の拳に伝わってくる。奇妙な感覚にしのぶはふと考えた。
 (……元は人間だった、ってことだよね? ……酷いよね。今、終わらせてあげるからっ!!)
 しのぶだけを残し、ディアボロの背後に他の撃退士は移動を終えていた。しのぶの重い一撃が腹に当たる。と、ディアボロは後ろに倒れこむように転がった。蛾は一回転して、腹を地面に叩きつけるも、翅を動かし体を浮かした。千切れかけた翅が奇妙な音を上げる。その根元を断ち切るように、翔のスマッシュが炸裂した。まるでディアボロの注意を引くような動き。彼にはある考えがあった。先にすすませるより、方向を変えさせディアボロがその鱗粉で枯れさせなぎ倒してきた道を戻させようと。

「……こっち側から、なら。皆、狙い易い……は、ず」
 そう、撃退士達がいる蛾の後方は、思ったとおり枯れなぎ倒された木々で足場は悪いが、動き回れるほど開けている。新に毒の粉で木々が枯れる心配をする必要もなさそうだ。
「……翅が使えなければ、毒は撒かれない……よ、ね」
 言うが早いか、翔の体が宙を舞う。落ちる勢いで、翔のブラストクレイモアが僅かに残ったぼろぼろの翅を地面へと縫い付ける。動きの自由を失ったディアボロはもがき、自ら翅をもぎ取ってぐるっと向きを変え襲い掛かった。
 怒り狂ったかのような巨大な蛾は気がつかなかったが、宵闇のオーラを纏った明が操る幾多の影が、ディアボロの体を地面に縫い付けている。ぴたっと歩が止まる巨体。追い討ちに、昴とエステルが近づき、翅を失った方の胴を狙う。動きを失ったディアボロの腹は昴のジャマダハルとエステルのワンドの集中攻撃を受けることになる。次第に鈍くなるディアボロの動き。

「しかしこの蛾って元は人間なんだよな?」
 しのぶが感じたような違和感を昴も同じように感じていた。こうなってしまったらもう助けることは叶わない。
「いっくよぉ……全力っ! 全壊ぃっ!!」
 紅く立ち上がる炎のオーラ。それを纏ったしのぶは腕を振り上げる。オーラが血しぶきの如く飛び散り、激音と共に突き出た杭がディアボロの体貫いた。次に虎鉄は、白く光るアウルを体に電流のように迸らせ叫ぶ。
「稲妻の杭で貫く! 白輝射杭!」
 雷が落ちたかのような衝撃がディアボロを襲う。火花がばちっと散った。
「グワアアアアアァァ――!!」
 断末魔の叫びは、そこにいる撃退士を、そして森を大きく震わせた。


 他の撃退士が後始末をする中、ひとり翔だけはディアボロが枯らした木々を辿っていた。
「……蛾。どこから、来たんだろう……ね」
 あれだけの大きさの蛾だ。飛べば目立ってすぐに気がつくはずだ。わざわざなぜ森の中を?
 答えを見つけようと歩く翔の目の前に、湖が広がった。青く澄んだ水を湛える湖畔に、ひとりの少女の姿が見える。翔が立ち止まると、後ろを向いていた少女が振り返る。少女をじっと見つめる翔に、少女は何か悟ったようにゆっくりと瞬きをし、そして、翔のやや前方を指差して見せた。
 視線を下に動かすと、草の間にきらりと光るものが見て取れる。拾い上げてみると、それは小さな七色に光る宝石がついたペンダントだ。
「……これ、は?」
 翔が少女に聞こうと顔を上げると、もうそこに少女の姿は見つからなかった。

「何か見つかったか?」
 虎鉄に声をかけられ、翔は振り向き今拾ったばかりのペンダントを見せる。
「弔ってやろうぜ」
 ふたりは皆の元へ戻ると、拾ったペンダントを見せたが、誰もがそれはあの蛾のディアボロになった人のものような気がしていた。きらきらとした光が戻った森。そこの光を受けて宝石はまるで蝶の翅のように美しく色を変える。
「綺麗なものを愛でたいのなら遠くから見ることだ。近づけば汚い所までみることになる」
 遠巻きにペンダントを眺めた明はそう言ってのける。
「冥福くらい祈っても罰は当たらんよな」
 昴がそう呟いて頭を下げた。それに同意したように、エステルも目を瞑り手を合わせる。
「……あれ? 誰か何か言った?」
 何か聞こえたような気がして、しのぶは辺りを見回した。それは、かつて人であったものの感謝か、それとも怨嗟か――?
 何れにせよ、翔の出会った狂気の始まりの少女は、久遠ヶ原学園と翔の心に小さな波紋を残すことになる。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 希みの橋を繋ぐ・姫川 翔(ja0277)
重体: −
面白かった!:4人

希みの橋を繋ぐ・
姫川 翔(ja0277)

大学部4年60組 男 ルインズブレイド
求強の剣士・
羽山 昴(ja0580)

大学部7年42組 男 ルインズブレイド
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
獅子堂流無尽光術師範・
獅子堂虎鉄(ja1375)

大学部4年151組 男 ルインズブレイド
全力全壊・
しのぶ(ja4367)

大学部4年258組 女 阿修羅
癒しの霊木・
エステル・ブランタード(ja4894)

大学部9年139組 女 アストラルヴァンガード