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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/11


みんなの思い出



オープニング


 この世にハッピーエンドなんて、いくつ存在するのだろう?

 雪のように白い肌に赤い唇、美しく生まれただけで継母に疎まれ毒の入った林檎で殺されかけた姫が、王子のキスで目覚めハッピーエンドになるのは物語の中でだけ。

 実際は、眠り続け死を望む姫と、そんな姫を守り続ける狂った柩がいるだけだ。
 王子など来やしない。
 小人と継母にさえ忘れられた白雪姫の命を繋ぐため、柩は今日も人を狩る。
 それが姫の願いと反すると知っていても。

 ハッピーエンドなど望まない。
 姫が生きている、ただそれだけでいい。
 例え、二度とその美しい二つの瞳で見つめてもらえなくても。

 自分の腕に抱けていればいい、――ただそれだけで。




 それは異様な光景だった。

「おや、こんばんは?」
 月明りに照らされて、目の前の撃退士達に笑顔で挨拶をするタキシードを身につけた男。
 かぶっていたシルクハットを手に取り丁寧に頭を下げる。
 しかし男の足元には倒れた人が折り重なって山を作って、時折微かに呻き声が撃退士の耳に届いた。
 それだけで男が普通の人間ではないのが分る。が、何より驚かされたのは、男が背に蓋に白い十字の模様が入った真っ黒な柩を担いでいたことだ。


 郊外にあった廃工場が取り壊されたかなり広い跡地に、数人の死体が発見されたのはわずか三日前のこと。
 悪魔に襲われたような形跡から、撃退士が調査に派遣された。
 しかし昼間にその跡地を調べても、悪魔がいる気配すらしない。仕方なく、出直す形で深夜訪れたところ、この光景を目の当たりにすることに。


 息を飲む撃退士達に、男はシルクハットをかぶり直すと、ふと月を見上げる。
 秋も深まり、冴え冴えとした月は蒼く輝く。
「月が綺麗ですね。あの月に触れたいと思ったことはありませんか? 叶わぬと知りながら、それを求めるのはいけないことでしょうか?」
 男は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、撃退士達に向き直る。
 浮かべた笑みは、夜空の月より冷たかった。

「ああ、幸か不幸かこの人達は生きています。まぁ、虫の息というやつですが。この街のチンピラですよ、ダニのような奴等を集めましたから。
 僕の正体を明かしただけで面白いように怖がって。普段いきがっていてもこんなもんです、こいつ等は」
 男は吐き出すように言うと、転がる人の山を踏みつけた。
 途端、ひしゃげた悲鳴が上がる。
「やはりダニでも助けると言うのでしょうね。見逃してはくれないと思っていましたが」
 やれやれとひとつ溜息をついて、男はまたにっこりと笑った。

「それならば、見事僕から奪ってみて下さい。遠慮はいりませんよ?」
 いつの間に取り出したのだろうか。
 男の手には背より長い黒い鎌が握られていた。




リプレイ本文


「こんな場所で何してるの? その格好なのはどうして? なんでこの人達よんだの? その柩はなあに?」
 保科 梢(jb7636)が矢継ぎ早に心に浮かんだ言葉を口にした。
 それにタキシードの男は困ったようにくすりと笑う。
 謎だらけの敵にやや興奮して小さな子供のような無邪気さだ。
「ダニ、か…随分と上からの物言いだな。抗えない相手を一方的に嬲る輩が好きそうな言い方だ」
 反対にまったく表情を変えず黒羽 拓海(jb7256)が言い放つと、タキシードの男の笑顔が消え目を丸くする。まるでそう言われることが意外だとでも言いたげに。
 しかしそれは一瞬で、男はまた薄く微笑を浮かべた。

 男が足に力を入れたのだろうか、チンピラが低く呻く。
「チンピラを選んで殺すなんて良心的ですね?」
 感心してか皮肉なのか、指先で阻霊符弄んで喋るセレスティア・メイビス(jb5028)の表情からは図れない。感情表現を表現するのは得意ではない。
「愚者が語る行動原理は滑稽ですね……」
 暗闇の中にすっと浮かび上がるのはリディア・バックフィード(jb7300)の豊かな金色の髪。男に向ける紫の瞳には、心底呆れたという色が浮かんだ。
「その人達がダニか決めるのは貴方ではないです」
 リディアは敵の行動理由を探ろうと、男にわざと辛辣な言葉を投げつてみた。
「ダニはダニですよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「汚い手段を使うなら貴方はダニ以下です」
 ふと男の微笑が消え、凍てつく氷のようなオーラがゆらゆらと立ち上る。シルクハットから覗く銀色の髪が揺れて金色の瞳に殺気が孕む。

「ダニだろうと、仕事なら助けるだけ、だ」
 男の冷たいオーラとは反対をいくアスハ・ロットハール(ja8432)の髪は真っ赤に燃えるような血の色をしている。
 三つ編みに結ったそれが腰の辺りでゆらっと揺れるのを目で追って、男が呆れて笑う。
「その答えは嫌いじゃないよ。では仕事でどこまで命を張れる?」
「必要とあらば、味方も切り捨てる、さ……、無論、僕も、さ」
 即座にアスハが答えると、よほど望んでいた答えではなかったのか男は、軽く口の端を上げるアスハを睨んだ。
 ぴん、と冷たい空気が張り詰める。
「――相容れない、か。君達と僕。――触れたい、と、願っても、届かないあの月のように」
 黒い鎌が握りなおされ角度が変わると、それは月明りに鈍い光を放った。
 もうこれ以上は言葉で説得は無理だと、静かにやり取りを聞いていた鳳 静矢(ja3856)も気がついた。だからこそ声高らかに名乗る。
「私は鳳静矢…撃退士だ。お前は、――何者だ?」


 問われて、男はゆっくりと目を瞑り、ゆっくりと目を開け、そして、ゆっくりと撃退士達を見据えた。
「僕は、――柩。白雪姫を、――守るもの」



 風が啼く、ひゅうひゅうと。

 最初に動いたのは、「柩」と名乗った男だ。
 と言っても、折り重なって倒れている者達に乗せていた足を後ろに引いただけ。背負った黒い柩が邪魔になるのだろうか? だらんと両腕を下げて武器である鎌を構える気配はない。
「さぁ、どこからでもかかってきて下さい」
 柩は笑顔を浮かべ、撃退士達にこれまでにないくらい丁寧な口調で促した。

「あの自信は不気味だな。何かあるのか?」
 拓海が眉をひそめ呟く。
 相手はひとり、こちらは戦闘未経験者はいるが、戦いには慣れている。人質がいるとはいえ、こちらが有利なのは目に見えている。
「その余裕が何処まで持つか…。初手、射程ギリギリで挑発し注意を惹きつける」
「ああ、回収担当への追撃を阻止、フォロー、する」
 アスハが静矢に軽く頷き誓いの闇を展開すると、無数の黒い羽根を伴った黒い霧が優しく彼を包み込んだ。
「私も救助者を安全な場所に運ぶまで警護と攻撃援護を。威力より手数で攻めて意識を逸らします」
 リディアが構えたのは天使の名を冠した銃だ。弾速は普通の銃と変わらないが、相手が悪魔なら性能以上の威力を出すだろう。
「掌底で吹き飛ばす。援護頼む」
 拓海が強く大地を蹴った。
 大小の瓦礫で足場がかなり悪い。月明りだけでは地形を瞬時に判断するのは難しい。標的を目の前にして石に足を取られ、ぐらりと体勢が崩れた。
 真っ先に狙われた拓海の鼻先に、鎌の鈍い光が迫る。
「右に!」
 その声に拓海が右に飛んだのは、いくつもの戦闘をくぐり抜けてきた勘と反射だ。
 パシュッ! 拓海の左頬に火花が散った。
 後ろを駆けていた梢がとっさに振り上げて投げた朱雀翔扇が空に弧を描き、拓海を狙った鎌の歯を弾き飛ばす。そしてそのまま柩とチンピラの間に飛び込み悪戯っぽく笑う。
「この人達ってダニなの? でも一般人なことには違いないよね? 助けるよ」
 柩の意識が梢に向いた瞬間、拓海はみぞおちに重い衝撃を喰らわせる。掌底をまともに受け、柩の躯体は大きく後退する。
「くっ……!」
 柩が体をくの字に曲げ腹を押さえると、その背でゴトリと音が鳴った。
「御大層な柩だ、装飾具にしては趣味が良すぎるな!」
 さも楽しいとばかりに声を弾ませるのは普段は冷静な静矢だ。そして滑稽だと笑いだす。もちろんそれは負傷者から引き離すための挑発だ。
「知った口を叩くなぁっ!」
 先ほどの余裕はどこへやら、柩の気は完全に静矢に移り静矢が纏わせた紫霧のオーラを追い瓦礫だらけの地面を蹴った。

 マライカを構えたリディアはその好機を見逃さない。
「今です!」
 短い合図と共に、リディアは引き金を引いた。飛んで行く白いアウルの光。だが、軌道は僅かに逸れて、柩の銀の髪を数本散らしただけだ。
 それでも合図と共に拓海、梢、セレスティアが動いた。
 折り重なるように倒れているチンピラの首根っこを掴んで強制的に起き上がらせると、小脇に抱え柩が向いている方とは反対に走り出す。
「情報収集を優先したいのですが、救助も依頼の内容ですし助けましょう」
 物騒なことを呟いたセレスティアは、一度に2人を鷲掴みし障害物を回避するため思いっきり高く飛び風の如く駆け抜け、意識があったチンピラを震え上がらせる。
 少々乱暴だったが、安全を確保するには仕方がないこと。
 ついでとばかりに地面に阻霊符を貼り付けた彼女は、移動中に携帯を操作し救急隊に負傷者の救助要請をする離れ業までやってのけた。

「チンピラさんが目を回してます」
 先に工場外へ移動していた梢がセレスティアからチンピラを受取る。
「先に戻ってもいいですか? 戦闘経験皆無なので学ばせて頂きたいのです」
「じゃ、私が引渡しに残るね。チンピラさんに聞きたいこともあるし」
 目を回した要救助者を楽な体勢に寝かせながら、梢は可愛らしく小首を傾げる。
「任せる。戻るぞ」
「はい、お願いします」
 踵を返し、戦場に戻る二人の後姿を見送った梢は屈みこんでチンピラを覗き込む。
「ねえねえダ……チンピラさん。あの人はだあれ?」
 答えを期待しているわけではない、独り言のようなもの。だが答えは思いがけず返ってくる。
「……っ、あ、あれは、人じゃねぇ。あ、悪魔だ、人の皮被った、悪魔――」
「――どういうこと?」
 梢がさらに問い詰めようとするが、チンピラは恐怖に顔を歪めるだけでもう口を開かない。
「人の皮を被った、悪魔……?」
 言葉を繰り返した梢は立ち上がり、暗闇にしか見えない彼方に目を据えた。



 拓海とセレスティアが戦場に戻ると、今まさに柩が静矢に鎌を振り下ろすところだった。
 鎌の切っ先が肩口から胸の上まで切り裂き心臓まで達するかと思われたそのとき、黒い刃が何かに止められる。
 不思議に思う柩の金色の瞳に映る揺らめく静矢の身体。
 いや、静矢のアウルと共鳴し刃が蜃気楼のように揺らめいて見えるのは片刃の大太刀、朧だ。静矢がとっさに構えたそれが寸でのところで凶刃を食い止めた。
「止めた、か。しかしどこまで耐えられるかな?」
「ぐっ!」
 両足を踏ん張り朧で受け止める静矢の腕に血が流れ、苦痛に知らず食いしばった歯ががちりと鳴った。
「シズヤさん!!」
「オオトリ!!」
 アスハとリディアの叫び声。リディアの弾が鎌を弾く音と、瓦礫に空薬莢が跳ねた音。それらが交錯した後、ふっと腕が軽くなり、静矢は大太刀を払い上げ柩の腹を片足で蹴り上げると、空中で一回転して後方へ飛び退いた。

「貴様――」
 腹を押さえる柩の目に渦巻く瞳が赤い光を放って見える。
「棺を背負い、喪に服しての弔いか、覚悟の現れか……少なくともダニよりは、人間らしい、な」
 もうどこにも柩には余裕の表情はない。
 彼が背負う黒い柩には辛うじて当たらなかったが、アスハが右腕に形成したバンカーから撃ち出された杭状の凝縮アウルは、柩の横っ腹を撃ち抜いていた。
 顔を歪める柩にアスハは静かに問うた。
「あるいは、その棺を与えられた者と『till the end of time』と洒落こむつもり、か……?」
「ぬかせ!!」
 柩の怒声が暗闇を揺るがし、アスハに向けて大鎌が振るわれる。しかしそれはアスハに届かず、いや、無数の黒い羽根に攻撃が阻害されたのだ。
 羽根が燃え尽きるように霧散すると、白銀の槍が柩目がけて突き出された。
「もう会話になりませんね」
 あたかも残念だと溜息混じりに言うセレスティアは、自分の身長の三倍以上もある美しい槍、ロンゴミニアトをまるで踊るような華麗さで操った。
 血のような雫が滴る穂先が、ぎりぎり避け切れぬ柩の頬を抉る。
 月の光に飛び散り、金の瞳が追う赤い雫はどちらのものだろう?

「ああ、月が――、綺麗だ――」
 動きを止め男が微笑んだ。



 そこへ怪我人が救急隊に運ばれて行くのを見届けた梢が、跳ぶように走り駆けつける。
「チンピラさん、無事に引き渡してきたよ! あっ、鳳さん、血が!」
 月明りの中、梢の目に最初に映ったのは、膝をつき切られた肩を手で押さえている静矢だ。
「ああ、かすり傷だ。それより奴の刃を食い止めたときに中立者でレートを確認できた」
「回復はできないの。これで我慢してね」
 梢は敵の攻撃を少しでも和らげるよう静矢に乾坤網を施した。それに礼を言うと静矢は立ち上がる。
「レートは冥魔だ」
「チンピラさんも悪魔だって言ってた。ううん、人の皮を被った悪魔って。どういうことだろう?」
「悪魔かヴァニタスか――? 人ではないのは確か。そろそろ、本気で行くか!」
 静矢が渾身の力で朧を振り抜くと、紫の鳥の形のアウルの塊が柩を目がけて一直線に飛んで行く。
 他の撃退士の攻撃に応戦していた柩が気づき片手を薙ぎ払うように振るえば、鳥は一瞬で霧散する。

「叶わぬと知っても、求めるのはそこへ届かせる手段を探す為です」
「手段を知れば叶うのか?」
 リディアが撃った弾は避けられ、素早い動きの柩に間を詰められてしまう。それでもリディアは怯まない。
「貴方の願いが届かないのは手段が間違っているからです」
「間違っている、と?」
 頭目がけて振り下ろされる凶刃に、リディアは手を上げ緊急障壁でシールドを展開して受け止める。
「どんな願いも叶え方には正道があります……」
 意思の強い紫の瞳が柩を射抜く。
「間違っていたとしても、僕は――」
 その瞳に男が僅かに怯む。リディアはその好機を見逃さなかった。
「それを理解が出来ないなら――、誰にも迷惑をかけずに、迅速に息絶えなさい!」
 辛辣な言葉を浴びせながらリディアがスタンエッジを使うと、柩の動きは封じられる。

「大鎌に棺、死神気取りか?」
 拓海が黒い鞘の両端から左右に一対の小太刀を引き抜いて柩を狙う。
 炎の紋様を浮かび上がらせた刀身は氷のように透き通り、鋭い切っ先は動かぬ男のタキシードを切り裂いた。
「さっきの連中をダニと言ったな。ならば何故、そんな連中を集めた?」
 追い討ちをするように更に薙ぎ払いでのスタンを狙う拓海が近づくと、静かに開く金色の柩の目が合った。
 まずい、と思った瞬間、黒い閃光が拓海の身体を走る。びりびりと痺れたような感覚に、拓海は後方に吹き飛ばされた。
「黒羽さん!」
 駆け寄ったセレスティアにスタンから回復した柩の攻撃が襲いかかる。
「きゃっ!」
 シールドで防御するも、重い一撃にダメージを受けてしまい、セレスティアは拓海の隣に転がってしまう。

「叶わないのに求めるの? 不毛だねぇ。それは諦められないくらい大切な願いなのかな?」
 燃え上がる朱雀の扇が柩のシルクハットを飛ばす。ブーメランのように手元に戻った扇を受け止めて、梢は目を伏せ微かに頭を振った。
「叶わぬからこそ、夢想するの、だろう……?否定はせん、さ。……で、目的は達成できた、か?」
 仲間を守るようにアスハが柩の懐に飛び込み、再び魔断杭を打ち込んだ。
「ぐはっ!」
 柩は攻撃を受けた腹を押さえ一歩後ろに下がってから、逃れようと夜空に飛び上がった。
 それは絶好の好機だった。
 転がりながらもキリキリと弓を引き絞った拓海が、背負っている黒い柩目がけて矢を放つ。一直線に飛んだ矢は白い十字の模様の真ん中に突き刺さり、そこから柩は上下にひびが入った。
「肩、借ります!」
 セレスティアは言うが早くアスハの肩に飛び乗り大きくジャンプする。両手には、赤と青の双剣を持ち、亀裂が入った黒柩を狙い一撃を喰らわせた。

 男が避ける間もなく二回攻撃をまともに受けた黒柩は、ビシビシビシと鋭い音をさせて砕け散った。
「えっ? あれは……?」
 もしかしたら武器なのかと思っていた撃退士達は、飛び出した中身に思わず息を飲んだ。

 きらきらと月明りに煌く柩の残骸の中から零れ落ちる漆黒の長い髪。
 白い肌に赤い唇。眠っているのか死んでいるのか、長いまつ毛の目蓋をぴったりと閉じた少女が真っ白な服をひるがえし、黒い羽を広げ傷を負った柩の胸に飛び込むようにゆっくりと落ちて行く。

「お前の目的は一体なんだ?」
 少女を抱き止めた柩を静矢が見上げる。
 問いに、柩は寂しそうに笑うと同じ答えを返す。
「僕は、姫を、――守る」
 それだけ言うと、柩と少女の体は闇に溶けるように見えなくなった。



 暗い工場跡地に撃退士だけが残される。

「あの女の子が姫なのでしょうか?」
 リディアは柩が答えた言葉を思い出すように呟いた。
「分らん。とにかくこちらも負傷している。学園に戻り報告をしよう」
 剣魂で回復をした静矢が見回して言うと、皆も頷く。
「チンピラを助ける目的は果しましたしね」
 セレスティアがふぅーと息を吐き出した。
「ああ。立てるか、クロバ?」
「すまん、なんとか」
 アスハが拓海に手を差し伸べて起き上がらせる。
「でも、わからないことが一杯だね。私全部の答えが知りたいな」
 梢が二人が消えた暗い空をゆっくり見上げた。

 得た情報は、柩が冥魔のものだということだけ。負傷者は助けられたが謎は残ったままだ。


 秋の月は冴え冴えと青く輝き、何も語らない。




依頼結果