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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/20


みんなの思い出



オープニング


 日差しが暖かくうららかな四月初旬の午後、のんびりとした雰囲気の商店街を使徒・芽衣(jz0150)がぴょんと飛び跳ねた。
 ちょこんとした見た目は四歳の女の子そのものだ。
 背中の真ん中までの長い髪は早咲きの桜が満開になったような淡い桃色で、ぴょこんと跳ねるごとに柔らかくふわんと揺れる。
 何が楽しいのか、青空のような目を細めて口元には絶えず笑みを浮かべて。
 芽衣はこの商店街をお散歩するのが大好きだ。
 以前二回ほど商店街のイベントに参加したこともある。
 その後主の天使ハレルヤが方向音痴で何度もここを訪れる羽目になり、今ではすっかり顔馴染みになっていた。
 近頃は芽衣がひとりで歩けるほどに。
 今日も大事なものをしまっているポシェットを肩からかけ、仲良しになった店の人達にあいさつという名の寄り道をしつつ遊んでいる。
 まったりとしたこの商店街では、あちこちで賑やかなおばちゃん達が芽衣を見かけては声をかけてくれる。
 芽衣も立ち止まって、一言二言の挨拶をする。
 ただそれだけなのだけど、友達のいない芽衣は楽しくてしょうがない。
 特に、お菓子屋と魚屋のおばちゃんとは大の仲良しだ。
 おばちゃん達には、別に暮らしている芽衣と同じ年頃の孫がいる。
 だからなのか、二人とも芽衣が来るのを楽しみにしてくれて、まるで孫が遊びに来たかのように喜んでくれるのだ。

 芽衣はスキップをしていつものように二人の店を覗いた。
 だけど、いつもはすぐ元気な声が聞こえるのに、おばちゃん達は店の中にいない。
「おでかけしてるのかな?」
 ちょっとだけがっかりしたように、芽衣は首を傾げて歩き出す。
 商店街を中ほどまで歩くと、向こうから元気な話し声が聞こえてきた。
「あっ、おかしやのおばちゃんとさかなやのおばちゃんだ」
 ぱっと芽衣の顔に明るい笑顔が浮かぶ。
「おでかけしてたから、おみせにいなかったんだー」
 見るとおばちゃん達は芽衣に背中を向けて歩いていて、両手には重たそうなビニール袋がぶら下げられている。
 袋からは何かの苗か、緑の葉っぱが覗いていた。
「今日もいいお天気で、すっかり春めいてきたわね」
「暖かくて作業するにはちょうどいいわ」
 すっきりと晴れ渡った空を見上げながら、おばちゃん達の足は商店街の中にある集会所に向う。
「おばちゃーん!」
 それを追いかける芽衣が声をかけた。
 おばちゃん達は振り返り、ビニール袋をその場に下ろすと芽衣に手を振った。
「あらメイちゃん、こんにちは。遊びに来たの?」
「うんー。おばちゃんなにもってるの?」
 芽衣はおばちゃんが置いた袋の中身が気になるようだ。
「ああ、これね」
 お菓子屋のおばちゃんが腰を落として中を広げると、葉っぱが四枚ほどになった草花の苗がいくつか覗く。
「はっぱ?」
「ベゴニアっていうお花の苗よ。いつも春になると商店街のお花いっぱいキャンペーンをするの。このお花を植木鉢に植えて、お店に来るお客さまにあげるのよ」
「ほらあ、こっちにある植木鉢に植えるの。集会所のお庭でこれから植え替えするのだけど、おばちゃん達はその材料を運んでるの」
 魚屋のおばちゃんが見せてくれた袋には、パステルカラーのプラスチックの植木鉢が入れられている。
「わあ、めいぴんくがすきー」
 うふっと笑い頬をピンクに染める芽衣に、おばちゃん達はお互いに目を合わせてからにこっと笑った。
「おばちゃん達はお店があってできないから、メイちゃんお手伝いしてくれる? ほら、いつもお手伝いしてくれるお兄さんとお姉さんがこれから来てくれるのよ」
「おにいちゃんとおねえちゃんが?」
 ちょっとびっくりしたように聞き返す芽衣に、おばちゃんはこくりと頷いた。
「上手にお手伝いができたら、メイちゃんに好きな色の植木鉢をお礼にあげるわね」
「わーい、めいがんばるー」
 おばちゃんの言葉に、芽衣は嬉しそうにぴょんと飛び跳ねた。



リプレイ本文


 ほんわりとした春の空気が漂う商店街の集会所に、おばちゃんの元気な笑顔が撃退士達を迎えてくれる。
 そして、おばちゃんのスカートの陰からちらっと小さな女の子が顔を覗かせた。
「ここの商店街で作業と聞いて、もしかしたらと思って来てみたんだが、まさかここまでどんぴしゃりたぁな」
 千堂 騏(ja8900)が腰に手を当て、恥ずかしそうに顔半分だけ見せている芽衣(jz0150)に、にやっと笑う。
 すると、ぱっと芽衣の頬が桜のはなびらを散らしたように桃色に染まる。
「あっ、めいちゃん」
 ころころとしたかわいらしい声に自分の名前を呼ばれ、芽衣のまん丸の目が声のした方へ動く。
 声の主は、銀色に空の青をほんの少し落としたような長い髪をみつ編みにして、作業をしやすいようにパンツルックの蓮華 ひむろ(ja5412)だ。
「私も商店街のおしごとでまためいちゃんに会えるかな? って思ったんだよ」
「わーい」
 芽衣の顔に喜びが広がり、それまで隠れていたおばちゃんの後ろからぴょんと飛び出してきた。
 それを待ちかねていたように、鳳 静矢(ja3856)が両手を広げて芽衣をさっと抱き上げる。
 ふわり、と小さな体が宙に舞い、静矢のがっしりとした腕に抱えられた。
「芽衣、元気だったかい?」
 低い、けれど優しい声に、芽衣はびっくりしてくりくりの目を瞬かせた。
「うん、げんきー!」
 はしゃぐ芽衣の姿に、おばちゃん達が揃ってふふと笑う。
「メイちゃんにもお手伝いさせてあげて欲しいの」
 三人はこの商店街の手伝いにきたとき芽衣に会っていて、すっかり仲良しさんだ。
「知り合い? 俺の名前はルナジョーカー。ルナかジョーカーと呼んでくれ」
 ルナジョーカー(jb2309)が、抱き上げられて静矢の服をぎゅっと握っている芽衣の頭を挨拶がてら撫で、ニカッと笑う。
 全身黒ずくめのジョーカーの後ろから、ひょこっと武田 美月(ja4394)が顔を出した。
 元気良く揺れる短めの赤毛のポニーテールと同じくらい、笑顔も元気だ。
「はじめまして! 武田 美月だよ、よろしくねー♪」
「……るなおにーちゃん、みづきおねーちゃん?」
 芽衣は、初めて見る顔に少し首を傾げた。
「芽衣ちゃん、こんにちは」
 ジョーカーと美月に並ぶように立っていた秋代京(jb2289)が、緩やかに声を出す。
 高い位置に結ったポニーテールから長い前髪を半分だけ下ろして片方の目は見えないが、芽衣を見つめる京の緑の瞳は笑みに細められた。
「えっと、おねーちゃん?」
「あうぅ」
 芽衣の言葉にがくっと落ち込む京はれっきとした男子だ。
 ただ、同じ年頃の男の子より華奢で女顔なだけで。
 それがちょっとしたコンプレックスにもなっていて、芽衣の素直な疑問が心にぐさりと突き刺さる。
「あうぅ、一応お兄ちゃん、です。京お兄ちゃん」
 あからさまにがっかりして肩を落とす京に、芽衣は静矢に抱かれて少し高い位置から不思議そうに見下ろした。
 京が口を開くと、とたんに芽衣の顔はぱあああっと花が咲くようにほころんだ。
「みやこおにーちゃん、めいだよー!」
「芽衣ちゃん、一緒に頑張ろうね?」
「うん!」
 言われて芽衣はとびっきりの笑顔で大きく頷いた。


 すっかり初めてのメンバーにも懐いた芽衣に安心し、おばちゃん達は店があるからと引き上げて行った。
 静矢の腕からぴょんと飛び降りた芽衣は、嬉しくて集会所の庭を跳ね回る。
「おぉー、桜だ! ……ってことは? 終わったらお花見だーっ!」
 ふいっと上を向いた美月の緑の瞳が、差し込む光にきらっと輝いた。
 作業をする集会所の庭はそう広くないが、数本桜の木が植えてあり、枝の先にちらほらとピンクの花が咲いている。
 その桜の下には、おばちゃんが用意してくれたピクニック用のビニールシートが敷いてあった。
「ジュースとかおかしがあるよ」
 飲み物とお菓子がシートの真ん中に置いてあるのに気がついたひむろが、ほらっと指す。
「ほどほどに休憩しろってことだろ」
 騏が自分達の間を忙しなく飛び回る芽衣に目を細め、桜を見上げる。
 雲ひとつない空はどこまでも青く、美月の言うように、そこで一足早いお花見が楽しめそうだ。
「私、お弁当もってきたよー」
 ひむろが思い出したようにシートの上に可愛いお弁当袋を置くと、続いて次々とシートにそれぞれのお弁当が並ぶ。
「俺はサンドイッチを持ってきたが、ハハッ、考えることはみんな同じだな」
「花よりおだんごですね」
 揃ってお弁当を置いたジョーカーと京が笑い合う。

「さて、昼の休憩は皆でするとして、作業は二班に分れてした方が効率が良さそうだ」
 考えるように腕組みをする静矢の足元には、無造作にベゴニアの苗や植木鉢の袋、植え替え用の土などが置かれている。
「同じ作業しても仕方ねーしな。ま、俺は最初の準備の方に入れてもらうぜ。男の仕事だろ? 土運びってーのは」
 任しておけとばかりに、騏は指の関節をポキポキと鳴らす。
「プラスアルファで何かつけんのおもしろそう〜。メインが花だからワンポイントみたいな」
 カサカサと音を立て、美月がビニール袋からカラフルな植木鉢を取り出してみる。
 プラスチックでできたそれは、お客様が持ち帰りやすいように同じ色の持ち手がついていた。
「僕、飾り付けのリボン持ってきました。その持ち手のところにつけると可愛く見えるかも?」
 京が準備したのはどの植木鉢にも合いそうなパステルピンクのリボンだ。
「そこにメッセージカードもどうだろう? もらった人が好きなことばを書けるように。ワンポイントで絵を描いたりはめいちゃんもできるし」
「めいもーめいもやるー」
 ひむろがバッグから用意していた荷物を取り出すと、呼ばれたと思ったのか芽衣が桜の木の下から駆けて来る。
 その中には、桃色の子供用のエプロンもある。
「うん、めいちゃんがいるかもってエプロンとバンダナもってきたよ」
 自分の目の前に広げられた小さなエプロンに猫がプリントされているのに気がついた芽衣は、ぷくぷくとした頬に両手を当てる。
「めい、ぴんくだいすきー! あっ、ねこさんだ」
 喜ぶ芽衣の頭に騏の大きな手が軽くポンと乗せられた。
「お、用意がいいじゃねーか。ま、しっかり面倒見てやるが、汚してハルに怒られても困るしな」
「えへへー」
 ひむろにエプロンを着せてもらい、長い髪をバンダナで結わえてもらった芽衣がくるっと回って得意気だ。
「重たい物を運ぶのは男性陣がよさそうだね。それで、植木鉢にリボンをつけるのとメッセージカードをには手書きの絵を添えて……というかんじかな? 休憩はどうするかねぇ」
「んー……芽衣に休憩は用意してやらないとだから、半分づつ交代でってとこか。な、芽衣?」
 みんなに猫のエプロンを見せて回っていた芽衣にジョーカーが声をかけた。
 芽衣は足を止め振り返りジョーカーと静矢を見上げると、にぱあっと笑う。
 それは苦虫を噛み潰したような顔でも、ついつられて微笑んでしまうような笑顔だ。
「たまにはほのぼのした依頼もいいものだなァ」
「ああ、そうだな」
 ぴょん、と芽衣が飛び跳ねるその後姿を見つめながら、ジョーカーと静矢の心は凪いだ海のような穏やかな静けさに包まれていた。


 静矢、騏、ジョーカーが移植用の土とベゴニアの苗を運んでいる間に、美月は京と植木鉢の準備、ひむろは芽衣とカード作りとそれぞれの作業を始める。
「僕、植木鉢の準備します。なんか手間を増やしてしまったみたいなので……」
 京が荷物を運んでいる三人に申し訳なさそうに言う。
「いいって、本来撃退士はこんな荷物平気だろうが、俺はメッセージカードとか良いネタが思いつかねーからな。洒落たのは苦手なんだよ」
 騏が肩に担いでいた土をどさりと下ろす。
「いっつも芽衣には土産を持たせてるが、イベントに関係する贈り物のが良いだろうな」
 ふーっと息を吐きながら上を見上げると、日差しを浴びてきらきらと輝く桜の花が目についた。
「押し花とかどうだろうか。この時期だから桜とか。春とハルっつー感じで。ハレルヤにも渡せば喜ばれるかもな」
「ハレルヤさんって誰ですか、千堂センパイ?」
 美月が好奇心いっぱいの緑の目をぱちぱちと瞬かせる。
「僕も気になっていました」
 何回か聞くその名に、京も興味があるようだ。
「あー、芽衣の保護者だ。ちょっと変わったヤツでさ、世間の一般常識に疎いっていうか」
 芽衣の保護者が天使だと知っているのは騏だけだが、まさか真実を言う訳にもいかず困ったように笑った。
「じゃ、それもプレゼントしちゃいましょ〜♪ 桜の花取ってくださいっ」
「おう、押し花にするのは任せた」
「まかされましたっ!」
 美月は騏から渡された桜の花一輪空にかざすと、びしっとポーズを決めた。

 少し離れた場所に持参した厚紙を広げたひむろ。
「ひむろおねーちゃん、はっぱ?」
 芽衣がひょいと摘んで持ち上げた緑の厚紙は、きちんと葉の形に切り揃えられている。
「うん、お花の絵に貼るといいかなーって思って作ってきたんだ。めいちゃん、ここにお花描ける?」
 ひむろはピンクの色鉛筆を芽衣に手渡して、四角に切った厚紙の端っこを指差す。
「うん!」
 芽衣はくるくるピンクの丸を五つ描いた。
 そこにひむろが緑の葉っぱをぺたんと貼りつける。
 それだけで芽衣の描いたピンクの丸は桜の花のようになった。
「わあ、おはなさんになったー」
「うん。あとは空いてるスペースに花言葉を書いたらいいかなーって」
 ひむろは植えるのがベゴニアだと聞いて、花言葉を調べてきていた。
「えっとー、ベゴニアの花言葉はね、『幸福な日々』『愛される喜び』」
「『親切』『片思い』など。芽衣も親切な女の子になれよ」
 土を運んで通りかかったジョーカーが、ニッと笑って芽衣の頭を撫でる。
「ベゴニアを贈り物にするときは『愛する人への贈り物』というのも見つけたわ」
「花言葉にちなんだメッセージをまとめると、『幸せな毎日が貴方に訪れますように』……という感じかな」
 静矢が言うと、ひむろが小さく頷いて微笑む。
「私は今とっても楽しいから、幸せだなって思うよー」
 悲しみを写し取ったような淡い青の髪は戻らない。けれど、芽衣に柔らかく微笑むひむろの青い瞳は春の空のようにどこまでも澄みきっていた。

 ひむろと一緒にメッセージカードを作っていた芽衣がふと顔を上げると、植木鉢に土を入れていた美月が元気に笑いながら手招きをしている。
「なあにーみづきおねーちゃん?」
 とてとてと芽衣が歩いて側に寄ると、美月は苗をひとつ持ち出した。
「じゃじゃじゃーんっ!」
 ファンファーレの高らかに、芽衣の手の上に苗をそっと乗せてやる。
「芽衣ちゃんも植えてみない? お姉ちゃん達が教えてあげる!」
 苗を見つめて少しだけ不安そうな顔をしていた芽衣に、大丈夫と美月が軽くウインクして見せる。
「芽衣ちゃん、お兄ちゃんも一緒に植えるね」
「うん!」
 芽衣の隣に並んだ京も優しく声をかけると、芽衣は元気に首を縦に振った。
「苗を取り出す時は、とにかく優しーく!」
 たどたどしい芽衣の手の動きに、京がそっと手を添えると、苗はぽろっとカップから零れ出る。
「そうそう、芽衣ちゃん上手だよ」
 褒められて嬉しい芽衣は、口をにぱっと開けて頬を真っ赤に染める。
「よしっ、次は土の入った植木鉢に植えるんだよ! 芽衣ちゃんは何色がいいかな?」
「ぴんくがいいー」
「これだねっ。真ん中に苗を置いて、そーっと土をかけて埋めるんだよ♪」
 美月は芽衣の前にピンク色の鉢を置いてから、こうするんだよっと身振り手振りで指導する。
 いつになく真剣な表情の芽衣は、言われたとおりにそっと苗を真ん中の穴にストンと置くと、小さな手でそーっと土をかけていく。
「できた!」
「できたねっ、芽衣ちゃん!」
 よっぽど嬉しかったのか、芽衣は植えたばかりの植木鉢を両手で持ち上げて、美月と京に交互に見せる。
「みせてくるー」
 芽衣は植木鉢の持ち手を掴むと、転ばないように他のメンバーの元へ。
「やっぱさ、こういうのって自分の手で植え替えた物の方が『うぉー、育ててやるー!』みたいな気持ちになるじゃん!」
「そうですね。きっと大切にしてくれますね」
 芽衣の楽しそうな後姿に、美月と京は揃って緑の目を細めて笑い合った。


 手際が良いみんなの働きで、ほとんどの作業は終わり、残りは植え替えの終わった植木鉢をダンボールに詰めるだけとなっていた。
「どの店にどれくらいの個数か確認して、必要個数を書いた紙をダンボールに貼っておいたよ。こうしておけば過不足はあるまい」
 静矢は言いながら持参した弁当を広げる。
「芽衣、皆も昼にしよう」
 呼ばれて芽衣がちょこんと静矢の隣に座る。
「わあー、たこさんだー」
 静矢のおかずは、出汁を使った厚焼き玉子にタコウインナー、焼きそばが多めに入っている。
「えっと……」
 その隣に並べて出された京のお弁当は、おにぎりに甘く味付けされた玉子焼き、たこさんウインナー。
「まったく同じたぁな」
「マドレーヌも作ってきました。甘いお菓子は最高です」
 京はおにぎりより先にマドレーヌを口に入れると、ふんにゃりと至福の顔になった。
「めいちゃん、手をふいてね。私はゆかりと焼きたらこのおにぎりだよ」
 綺麗に握れたひむろのおむすびはラップに包まれ、どちらの味もほんのりピンク色だ。
「わあー、ぴんくのおにぎりー」

 そんな賑やかな場所からほんの少し離れたところに、ひとりジョーカーは桜を見上げている。
 手には、かつての恋人ルナの形見のペンダントが握られていた。
「よお、元気か? 俺は元気にやってるぞ。ほのぼのとな。――強さの追求は諦めてないが」
 ふっと細めたジョーカーの目は楽しそうだが、深淵の黒は少しだけ寂しげだ。
「さ、この僅かな幸せを大切にするよ。まだまだこの世界に未練があるからな」
「るなおにーちゃーん!」
 ジョーカーが視線を動かすと、芽衣が手をぶんぶんと振っている。
「頑張るよ、同じ過ちを繰り返さないようにな」
 呟いてからゆっくりと瞬きをしたジョーカーの瞳は、どこか強い思いが感じられた。

「おー、芽衣待たせたな。俺のサンドイッチも食べるか? はは、無駄に美味しいぜー」
「たべるー」
「お花見最高ですーっ!」
「わーい、さいこー!」

 作業が終わると芽衣は小さな植木鉢をそれはそれは大事に抱えて帰った。
 春の光のように温かくなった心も抱えて。


 数日後、商店街ではお花いっぱいキャンペーンが行われかつてない賑わいを見せた。
 特に、持ち手につけられた可愛らしいリボンと花言葉が綴られたメッセージカードは好評だ。
 訪れたお客さんが更に笑顔になったのは、作業の様子を写した写真のキャンペーンポスターだった。
 ジョーカーが撮ったそれは、まるで暖かな春を切り取ったような笑顔がいっぱい溢れていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 失敗は何とかの何とか・武田 美月(ja4394)
重体: −
面白かった!:11人

撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
失敗は何とかの何とか・
武田 美月(ja4394)

大学部4年179組 女 ディバインナイト
青の記憶を宿して・
蓮華 ひむろ(ja5412)

高等部3年1組 女 インフィルトレイター
撃退士・
千堂 騏(ja8900)

大学部6年309組 男 阿修羅
トラップハンター!・
秋代京(jb2289)

大学部4年232組 男 阿修羅
撃退士・
ルナ・ジョーカー・御影(jb2309)

卒業 男 ナイトウォーカー