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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/13


みんなの思い出



オープニング


「ねぇねぇ、ハル。あれはなに?」
「さぁな、人間が作った物が天使に分る訳がないの」
「ねぇねぇ、ハル。あちこちにおおきなかぼちゃがあるのはなぜ?」
「さぁな。人間の非常食かもしれぬの」
 小さな女の子の手を引き、昼下がりの商店街を歩く黒い服の少女は、顔を真っ赤にしながら聞いてくる女の子に適当な返事を返す。
 活気のある商店街をきょろきょろと見回している女の子は、それを気にすることもなく見たこともない飾り付けに夢中だ。


 黒服の少女は翼こそ出してないが天使だ。
 名をハレルヤと言う。
 翼を天に広げれば悪魔と見まごう漆黒に、かつて仲間からは破壊の天使として忌み嫌われた存在だった。
 この世界に来てはみたものの、行動はいつもひとり。
 なにをするわけでもなく、ただあてどなく彷徨っていた存在。
 少しだけ、自分の目の前を通り過ぎる人間に興味を持った。
 そして、小さき人間のコエに気まぐれに力を与えたらこの始末。

 ハレルヤの手をぎゅっと握り締めてくる小さな手の女の子。
 名を芽衣と言う。
 なんの力も持たないハレルヤの使徒だ。
「使徒など持つ気はなかったのにのぉ」
「なぁに、ハル?」
 溜息混じりに呟けば、小さき使徒はくりくりっとした大きな目を細め、ハレルヤを見上げて微笑んだ。
 関わったすべての人の願いの結晶のような使徒は、孤独だった天使に小さな変化をもたらした。
 今のハレルヤ自身、気がついていないが。
 それを知るのは、まだ先のこと。


 使徒を作ったとて、どこに行く当てがあるわけでもなく、芽衣の歩みに合わせて歩く。
 しかし、姿形は四歳の女の子。
 かなり歩みは遅い。
 思考も四歳の女の子のまま。
 もちろん、人の子と等しくあちこちに興味を抱く年齢だ。
 まったくもって先に進まない。
 こんなことなら、背に羽でもつけるのだったと愚痴のひとつも言いたくなる。

 仕方なく小さな妹を連れて街を歩く姉を装い、目立たないようにわざと人の多い商店街を選んで歩いた。
 それはどこにでもあるような日常の風景で、すれ違う人達も気にも留めないはずなのだが。
 なぜか、すれ違う人間はちらちらとこちらを見ている。
 特に芽衣を。
 可笑しいと、首を捻ったところに威勢のいい声がかかる。

「そこのお嬢ちゃん!」
「む、わらわのことかの?」
「そうそう、お嬢ちゃん、こっちこっち」
 ハレルヤが声の方に視線を向けると、商店街の一角にテントが張られてある。
 その下に長机がいくつか置かれ、その向こうから五十を過ぎてそうなおじさんが手招きしているのが見えた。
 人間とは関わり合いになりたくないと立ち去ろうとしたとき、ハレルヤの手が芽衣にぐいぐいと引かれ、あれよあれよとテントの前へ。
「馬鹿力はあったようだの……」

「お嬢ちゃん、寒くねぇのかい? ほれ、これをやるから着るといい」
「わぁー、ありがとう!」
 ハレルヤが芽衣の力に唖然としている間に、芽衣とおじさんのやりとりが終了している。
「これ、なにを貰っておるのだ?!」
 芽衣に手渡されたのは、子供用の黒い猫の着ぐるみだ。
 首の辺りにはかわいい金の鈴がついていて、チリンと軽やかに鳴った。
「孫がこれを着てハロウィンの手伝いをしてくれるはずだったんだが、風邪ひいちまってね。そこの小さいお嬢ちゃんがあんまり寒そうな格好だったからさ」
 そう言うとおじさんはガハハと豪快に笑う。
 言われてハレルヤが芽衣を見れば、なるほど使徒にしたときのままの格好だ。
 半袖のシンプルなワンピースに赤いサンダル履き。
 すっかり秋の装いの人々が不思議な顔をして見るのも仕方がない。
「暑さ寒さを感じぬから忘れておったの」
 当たり前のように、のろのろと着ぐるみを着始めている芽衣を眺め、ハレルヤは呟いた。

「しかし、なにもせずに貰うわけにはいかん。人間に借りを作っては、このハレルヤの名が泣く。主の孫の代わりをすればよいのだな」
 ずいっと身を乗り出し詰め寄るハレルヤに、おじさんの大きく手を振った。
「いや、バイトの学生を数人頼んであるんだ。いいって、持っていきな」
「そうはいかんと言っておるのだ!」

 数分後、ハレルヤに折れたおじさんは、『商店街ハロウィン福引実施中』の看板と魔女の帽子を手渡していた。
「それでは、わらわはこの看板を持って商店街を歩いて来ればよいのだな?」
 魔女の帽子をかぶりハロウィンの仮装をしたハレルヤは、看板を肩に膝を折り芽衣と視線を合わせる。
 少しだけ不安な顔の芽衣の頭を撫でると、鈴がチリンと鳴った。
「ちゃんと言うことを聞くのだぞ?」
「……ハル、おいていかないよね?」
「終わったら迎えに来るからの。お前はわらわの使徒ぞ、粗相のないようにの」
「……うん」
 もう一度芽衣の頭を撫でると、ハレルヤは立ち上がりおじさんの顔を見つめる。
 それはどこか睨むような勢いで。
「この子はなにも分からぬゆえ迷惑をかけるが、よろしく頼む」
 黒猫の着ぐるみを着た芽衣を半ば無理矢理おじさんに預けたハレルヤは、颯爽とハロウィン一色の商店街を歩き始めた。

 それを芽衣と一緒に見送ったおじさんは、やれやれと言いながら身につけていたカボチャ色のエプロンのポケットから携帯を取り出しどこかに電話をかける。
「――ああ、そうそう、まだ出発してない? 言い忘れてたが、軽くハロウィンの仮装をしてきて欲しいんだよ。うんうん、バイト代ははずむよ。うん、よろしくなぁ」
 どこまでも聞こえるような大きな声に、芽衣は興味津々といった顔で見上げる。
「なぁに?」
「ああ、頼んでいたお手伝いのお兄さんお姉さんの学校にかけたんだよ。撃退士なんだが、色々金が必要らしい」
「げきたいし? ひつよーなの?」
 イマイチぴんときてない芽衣だが、えーっ!?と大袈裟に驚いて両手で口を押さえる。
「まぁ、この商店街もたびたび撃退士にはお世話になってるからな。わずかばかりの恩返しのつもりで頼んだのさ。さぁさ、お手伝いの皆が来たらハロウィンイベントだー!」
「はろうぃんー!」
 ハロウィンがなにか分らないが、手を突き上げ気合を入れたおじさんにつられて、バンザイしながら黒猫芽衣は鈴を鳴らしぴょんぴょん飛び跳ねていた。



リプレイ本文


 バイトのメンバーが到着したのは、まだ買い物客もまばらな商店街のちょうど真ん中。
 そこに、ハロウィンイベント用のテントが設置してある。
「こんにちは!」
 イベント用のテントに、蓮華 ひむろ(ja5412)の元気な声が響く。
「待っていたよ! 弱小商店街は年中人手不足だから、助かるよ」
 仮装の荷物を手にしたメンバーを、今や遅しと待ち構えていた商店街のおじさんは、豪快に笑って出迎えてくれる。
 ちり、ん――、足元で、鈴の音が聞こえる。
「こんにちは! わぁ、可愛い黒猫さん!」
 礼野 真夢紀(jb1438)が思わず声を上げると、おじさんのズボンの後ろから覗いていた黒ネコの着ぐるみの子は、ぱっと隠れてしまう。
「お孫さんかな?」
「いや、孫は風邪でね。代わりにこの子が手伝ってくれるんだ。余計な世話かけちまうけど、よろしく頼むよ」
 申し訳なさそうにぼりぼりと頭を掻くおじさんは、隠れた子の頭を軽くぽんと叩いた。
 見上げる女の子の大きな瞳が忙しなく動く。
 御堂 玲獅(ja0388)は膝をついて、少しだけ首を傾げて柔らかく表情を緩めた。
「初めまして。私は御堂玲獅と申します。貴方のお名前を教えて頂けませんか?」
「めい」
 半分だけ顔を覗かせ、聞こえる恥ずかしそうな声。
「私の家にも明という名前の犬がいるよ」
「わんちゃん?!」
 鳳 静矢(ja3856)の家に犬がいると聞いて、芽衣の顔がぱああっと明るくなった。
「私は蓮華ひむろっていうの! わんちゃんが好きなの?」
「うん」
 大好きな動物の話に、玲獅とひむろの前にぴょんと飛び出す芽衣。
「メイちゃん? どこかで聞き覚えが……」
 芽衣という名前に真夢紀は首を傾げるが、持ってきたねこみみカチューシャをちょんとつけた。
「ちぃ姉のアイテム貸してもらったの。一緒にハロウィンイベント頑張りましょうね」
「一緒にハロウィンしよー? 面白いと思うよ!」
「はろうぃん?」
 真夢紀とひむろがハロウィンと言うと、芽衣がきょとんとして聞き返してくる。
 ちょっと考えてから真夢紀は答えた。
「外国のお祭りなの」
「おまつり?」
「10月31日は死んだ人の魂が帰ってくる日で。一緒に来た魔女や悪い霊が悪さをすることがあるから、悪いことをされないように仮装して友達だと思わせて、悪いことされないようにしましょう、て行事なの」
 真夢紀の丁寧な説明も、芽衣にはよく分からなかったらしく、くりくりっとした大きな目をぱちぱち瞬かる。
 そこに、隣に座って目の高さを合わせた相川 北斗(ja7774)が、少しだけ優しく話す。
「ハロウィンって日本のお盆と一緒なんだって。だから仮装してどれが人間でどれがそれ以外か分らなくするんだよー。あ、お盆は死んだ人に会える日だよ」
 すると理解できたのか、芽衣はうんと元気に頷いた。
「だから仮装するの。メイちゃんも黒猫さんでしょ?」
「うん、おなじ!」
 芽衣は自分の頭に手を伸ばし、黒い耳をふにふにとして得意気だ。
「ふふ、私達も仮装をしますよ」
 いつもは男装をしている姫寺 りおん(jb1039)も今日は女の子の姿で、ほら、と仮装の衣装を広げて見せて笑う。
「ああ、すみませんが、こちらで仮装用の衣装をお借りできませんか?」
 思い出したように立ち上がった玲獅は、ハロウィン用のクッキーを運び込んでいるおじさんに声をかけた。
「ちょうど魔女の服があるよ。その子のお姉さんが帽子だけ被って商店街を歩いてるから。着替えはそこの陰でするといい」
 よいしょっとクッキーの入った箱を置いたおじさんは、丁度建物の陰になっている場所を指差した。
「お借りします。着替えたらすぐお手伝いします」
 手渡された衣装を手に玲獅が進むと、それに続いて女の子達が賑やかに移動する。

 残されたのは、静矢と芽衣だ。
 衣装に手を伸ばすのを芽衣がじっと見つめているのに気がついた静矢は、ゆっくりと膝を折る。
「これから仮装……、そうだな、変わった服を着たりするのだが、怖くはないよ」
 話しかけて芽衣の頭を優しく撫でる。
「うん! めい、こわくない」
 芽衣の答えに細められた紫の瞳は、どこまでも穏やかで優しい。
 正装の黒スーツに、付け牙をして、静矢が黒いマントをふわっと羽織って。
 歩くたびにマントの内側の赤がちらりと覗いて、どこから見ても本物のバンパイアそのものだ。
 何が面白いのか、芽衣はマントの中を出たり入ったりして、静矢の長い足に纏わりついている。
「懐かれてしまいましたね」
 その様子を見ていた玲獅がくすくすと笑う。
「ああ、怖がられるよりいい」
 着替えが終わった女性陣の楽しそうな声に、芽衣はひょこっと静矢のマントから顔を出す。
 目の前には、黒いセクシー系ドレスを着た恥ずかしそうな玲獅に、それとは対照的に清楚な黒いシスター服のりおんがいる。
「ハロウィンの仮装と言えばお化けですよね。ですのでそれを迎えうつシスターの格好です。……コッソリ悪魔の尻尾もつけて♪」
 「私も魔女だよー」
 くるんと回って見せる北斗は、魔女の格好というより魔女っ子に近い。でも小柄な北斗にはぴったりで可愛らしい。
 それから、もふもふっとした白ネコのひむろと黒ネコの真夢紀が子猫のようにぴょんと跳ねた。
「ねこちゃん!」
 目を輝かせてひむろと真夢紀に飛びついた芽衣。
 そこに北斗も一緒になって飛び跳ねる姿は、まるで小学生の仮装大会のよう。
「楽しくなりそうですね」
 玲獅が言うと、静矢とりおんも仲良く頷いた。


「途中交互に休憩を取るシフトを組もう」
 静矢の提案で、二班に分けてお手伝いすることに。
 まず静矢は福引の準備、女の子達は会場奥で景品にするカボチャのクッキーの袋詰め。
 テーブルに用意されたこんがりクッキーとラッピング用の袋、それと黒猫の可愛いシール。
「クッキーを詰めるときはちゃんと手を洗ってからです」
 食品を扱うときの注意を真夢紀が促して作業開始。
「こういうの本で特集されてたから一度やってみたかったの」
 ラッピングと聞いて、ひむろはわくわくした気持ちを隠しきれない。
 袋詰めに興味を持った芽衣は、座って作業を始めたメンバーの間をうろうろしては背伸びをして、テーブルの上を覗く。
「めいちゃん、黒猫のシール貼りやってみるー?」
「めいもやるー」
 待っていましたとばかりに芽衣は、空いている椅子によじ登り膝立ちして、うわぁと声を上げた。
 女の子達はテキパキとクッキーを袋に入れて、シールを貼るだけの状態のものがずらっと並んでいる。
「留め口に黒猫さんのシール貼ってくれない?」
 真夢紀がシールを芽衣に手渡した。
 ぺりっと一枚、芽衣がシールを剥がしてちらっと顔を上げるのにひむろが気がついて、袋にシールをペタンと貼って見せる。
「こうして、っと。このシール可愛いね!」
「本当、黒ネコのシール……可愛いですね♪」
 四苦八苦しながらシールを貼る芽衣の姿を見ながら、りおんはふっと思いつく。
 (あ、だから女の子の仮装も黒ネコさんなんでしょうか?)
 やっと貼り終えて、両手に袋を持ち上げ見せる芽衣の顔はどこか誇らしげだ。
 黒ネコは、ちょっと曲がって貼られて踊っているかのよう。

 芽衣のちょっとばかりのお手伝いと、メンバーの手際のいい作業のお陰で、福引の景品が完成した。
「めいもはこぶ!」
 出来上がったばかりのカボチャのクッキーを、通路前に設置された福引コーナーに運ぶと、既にちらほらとお客の姿が目に入る。
「終わったかな? そろそろ福引を始めるそうだ」
 似合いすぎるバンパイアの仮装に、やや引き気味のお客に困惑気味だった静矢が振り返る。
 さっき見たくせに、女性メンバーも、きゃっ! と声を上げた。
「おいおい……」
「ハッピーハロウィーン!!」
 福引のガラガラの前で威勢のいい声が響く。
 可愛い魔女っ子の格好をした北斗が、両手を上げる。
「福引会場はこちらですよー! 景品は可愛い女の子がお渡ししまーす!」
 そうすると、今まで遠巻きに見ていた客がぞろぞろと集まって来る。
 ガラガラ、と福引を回す音も賑やかに、ハロウィンイベントの開始だ。
「まぁ、いいけど」
 少しだけいじけた静矢に、りおんがちょんちょんと肩をつつく。
「楽しくお手伝いができたらいいですね♪」
 目線の先には、人だかりに圧倒された芽衣の姿が。
 静矢はクッキーの袋をひとつ手に、芽衣の側に歩むと目の高さを合わせるように屈んだ。
「いいか、芽衣。これを手渡すときは、相手の目をしっかり見つめて渡すんだ」
 芽衣が見つめる中すっくと静矢は立ち上がり、最初のお客の目の前にずいっと進む。
 しっかりと目を合わせ。(半分ガン見)
「ハッピー、ハロウィン……」
 きゃーー!!と黄色い悲鳴が飛ぶ。
「さ、メイちゃんも」
 りおんに渡されたクッキーの袋をぎゅっと抱きしめた芽衣は、とととっと小走りにお客の前へ行く。
「は、はっぴーはろいん!」
 ぐい、と差し出される袋に、お客のおばちゃんも笑顔になった。
「あらあら、えらいねぇ」
 おばちゃんは芽衣の頭を撫でてから、隣の魔女っ子北斗の頭もよしよしと撫でて帰った。
「あれぇ?」
 思わず見つめ合った北斗と芽衣は、それから揃って大笑い。
 明るく楽しい笑い声が、商店街に昔の賑やかさを取り戻したように木霊する。
 お客は白い頭のおばあちゃん、お腹の出ているおじさんや、赤ちゃんをベビーカーに乗せたお母さん。
 小さな男の子と女の子の兄妹、こっそり自分の店を抜け出した魚屋さんに、たまたま買い物をした学生達。
 福引が回されれば、セクシーな魔女が「ハッピーハロウィン」と言い、清楚だけど悪魔の尻尾のシスターも「ハッピーハロウィン、です♪」と笑顔で商品を手渡す。
 魔女っ子がくるりと回り、白いもふもふネコと黒のねこみみカチューシャの猫っ娘の真ん中に黒ネコ芽衣も誘われて一緒に「ハッピーハロウィン♪」と可愛らしくお客をお出迎え。
 イベントはかつてないほどに大盛況だ。

 お昼もちょっと過ぎると、おじさんが代わりをするからと、メンバーは遅い昼食になる。
「一人分作るのって面倒だから、みんなの分も作ってきたよ」
 用意されていた飲み物とお菓子の間に、北斗が作ったおにぎりとちょっとしたおかずが並べられる。
「いただきまーす」
 皆がおにぎりに手を伸ばす中、芽衣は少しだけ皆から離れてじっとしている。
 おいしそうに皆が食べている姿を見たら、自分がずっとなにも食べていないことに気がついたから。
「一人では食べれないので、一緒に食べてくれますか?」
 どうしていいのか分からずぼんやりしている芽衣の前に、チョコプレッツェルがすっと差し出された。
 にっこりと笑うシスターに、小さな手がおずおずと伸ばされる。
 カリッ、と小さな音と広がるチョコの甘さ。
「メイちゃんもこっちに来て食べようよー」
 北斗の声に振り向けば、ひむろと真夢紀がおいでおいでと呼んでいる。
「行きましょう♪」
 伸ばされたりおんの手をぎゅっと握って、のろのろと芽衣は進む。
 テーブルの前まで来てもそこから進まない芽衣を、玲獅が抱っこして膝に乗せてくれる。
 それから静矢が一番小さなおにぎりを取って、芽衣の手にぽんと置いた。
「いただきます」
 ぱくっと食べたおにぎりは、とっても優しい味がする。
「おいしいかなー?」
 覗き込むようにして聞いてくる北斗に、芽衣は頬を染め微笑み大きく頷いた。


 お昼を食べ終えて、それでももう少しだけある休憩時間。
 玲獅が、あの、と話を切りだした。
「もし良ければなのですが、芽衣さんのお洋服のこと――」
 半袖のワンピースであまりに寒そうだから着ぐるみをあげたんだと、おじさんが言ったのは皆も聞いている。
「着ぐるみのまま帰るのはあまりにもと思って。それで少しずつお金を出し合って子供服を買えないかと。都合がいいことに、ここは商店街ですし」
「いいですよ。昼食代かわりになってるの持ってますし、可愛い子に喜んでもらいたいです」
 真夢紀が一番に賛成すると、他の女の子も賛成してくれた。

「芽衣さん、少しお散歩に行きましょうか」
 玲獅に手を差し伸べられると、芽衣はすぐに小さな手でぎゅっと握ってわくわくして見上げてくる。
 歩いてすぐのところに、おあつらえ向きに子供服の専門店があった。
「めいちゃんはどれがいい?」
 お花がついたコートやねこみみがついたコート、リボンのついたもの。
 店内には目移りするほどたくさんの洋服で溢れている。
「これ!」
 その中で芽衣が一番に選んだものは、胸にリボンを結んだ猫が刺繍してある温かそうなモコモコのロングニットワンピースだ。
 お揃いのレギンスもついているお得なセットもの。
「ねこちゃんすきなの」
 洋品店からの帰り際、芽衣は大きな声でそう言うと、にっこりと笑った。


 最後の景品を渡し終えて、イベント会場の片付けが始まる。
 見上げれば、真っ青だった空も茜に染まる。
 あらかた大きな荷物が片付いたところで、静矢は芽衣がじっと商店街を行き来する人の群れを見つめているのに目を留める。
「大丈夫だ、ちゃんと迎えは来る……、心配しなくていい」
 安心させるよう言うと、芽衣は大きな目いっぱいに涙を浮かべて、うんと頷く。
 と、そのとき、 どこまでも通るような不思議な声が芽衣を呼ぶ。
「芽衣」
「ハル!!」
 テントの向こう、夕方の賑やかな商店街の人並み流れる中、黒服の少女が膝をついて、おいでと手を広げる。駆け寄った芽衣は少女にぎゅっと抱きついた。

「芽衣が世話になったと聞いた。わらわは、ハレルヤ」
(……天使さんだ。ちぃ姉の参加依頼にいた……)
 気がついた真夢紀の心臓がどくんと鳴る。
 それには気にせず、ハレルヤは芽衣が持っていた可愛い模様の袋の中身を覗いて驚く。
「これ、またなにか貰ったのか?」
「それは芽衣さんがお手伝いを頑張ってくれたご褒美です」
 すっと一歩前に歩み出た玲獅が説明した。
「メイちゃん頑張ったんです。だからこれは皆からのご褒美です」
 真夢紀もついつい相手が天使であることを忘れて声を上げた。
 それには皆も同意し、黙って深く頷く。
「ここは礼を言うべきかの? まったく人は不思議な生き物ぞ」


 天使と芽衣が去った後、皆の手にはどこにでもあるようなロリポップキャンデーがあった。

「残り物だと渡されたのだが、世話になった礼として妥当かどうか。さぁ、礼を言ってくるのだぞ?」
 ハレルヤに渡された小さなビニール袋を芽衣が皆のところへ持っていく。
「はっぴーはろういーん!!」
 手の平にちょこんと乗るちっちゃな幸せ。
 口に入れると、今日の思い出がぱっと鮮やかに広がった。


 手を繋ぎ歩く天使と使徒。
「ハル、なにもってるの?」
 ハレルヤの手には、玲獅にそっと渡された魔女のキャラメルがある。
「トリックオアトリートと言ったら渡せと貰ったやつだ」
「といっくあとーと!!」
「違うからやらん」
「ハルのばかあーー!!」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:22人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
青の記憶を宿して・
蓮華 ひむろ(ja5412)

高等部3年1組 女 インフィルトレイター
レジャー大好き・
相川北斗(ja7774)

大学部5年238組 女 阿修羅
笑顔の伝道師・
姫寺 りおん(jb1039)

大学部4年52組 女 バハムートテイマー
芽衣のお友達・
礼野 真夢紀(jb1438)

高等部3年1組 女 陰陽師