●舞台に上がる
7人の撃退士達が舞台上へと躍り出る。
周囲よりも一段高くなった舞台に柵はない。即席で作られた舞台の床は鉄板で覆われており、歩いた振動が直に跳ね返ってくる。
周囲には簡単な観客席が設けられており、舞台上の撃退士に様々な歓声を浴びせかける。
「こんなコンテストなのにすごい集まりようだな」
神凪宗(
ja0435)が呆れたように感想を述べた。
「……審査員も老若男女取り揃えて気合が入っていますね……」
セレス・ダリエ(
ja0189)がチラリと審査員席に目をやった。
他の七人もそちらに目を向ける。
そこには老人から子供まで10人の審査員がいた。一体どこから呼んだのだろうか。
「よろしくお願いします」
ゲルダ・グリューニング(
jb7318)が天真爛漫に笑顔を振りまいて審査員に挨拶をした。
愛らしい仕草に一部の審査員がほっこりして笑みを浮かべた。ゲルダの作戦は成功だ。
「ここでうちの出番やな」
8人目の撃退士が現れた。
葛葉アキラ(
jb7705)が舞台外から高く舞い上がって飛びこんできた。
光纏によって光るアキラに皆の視線がくぎ付けとなる。注目されていることを楽しむようにして舞を踊り始めた。
光纏できらびやかに飾った華麗な舞だ。背後にはアメノウズメノミコトが現れ、舞うアキラに荘厳さと華麗さを付け加える。観客、審査員全ての心をつかんだ。つかみは上々といったところか。
舞を終えて拍手喝采が飛び交う中、一人ゲルダだけは注目の場を取られて口を膨らましていた。
「審査員に愛想を振りまくのもいいですけど、まずは目の前のものを何とかしないと」
「そうですね。これは思っていたより大変かもしれません」
夏木 夕乃(
ja9092)とユウ(
jb5639)がそう言うのも無理はない。
なぜなら目の前に存在するゴミの山が想像以上の巨大さであったからだ。人の高さの何倍あるだろうか。
冷蔵庫やテレビのような家電製品から、謎の銅像や金属らしき塊までありとあらゆるゴミが無造作に積まれていた。しかもその殆どが処理に難儀しそうなものである。
巨大なゴミの山を前にして、酒井・瑞樹(
ja0375)は気持ちを高ぶらせていた。
「武士の相手として不足なし」
「相手はごみだよ」
酒井の武士道精神に、鳳 静矢(
ja3856)がおかしそうに突っ込みを入れた。
●チーム破壊神、始動
「ではそろそろ始めたいと思います。出演者のみなさんはゴミを粉々に砕いちゃってください。時間制限はないけれど、だらだらせずにスピード感を大事にね。スピード感を」
てきとうな司会がてきとうに司会の言葉を述べた。
「司会だけが雑だな」
「学園らしさが出ていていいと思います」
「でも司会ぐらいは真面目にしてほしいものです」
他がやけにしっかりしているために司会の雑さが際立っている。チームのメンバーもそこにばかり意識がいっていた。
「始まるな。準備をしよう」
静矢の一言で皆の気持ちが目の前のゴミ山へと注がれる。
「では始めます。まず始めはチーム『破壊神』の演技からです」
「やはりこのチーム名は間違っていたんじゃないでしょうか」
「……同意します……」
夕乃とセレスがチーム名を聞いて恥ずかしがるが、今さらどうしようもない。
「では準備はいいですね」
司会が確認を取る。瑞樹がそれに答えた。
「武士としての心構えはいつでも万端だ」
「……武士はゴミを切らないと思います……」
セレスの一言に瑞樹が答える暇はなかった。
「では始め!! 後はてきとうにやっちゃってくださいー」
司会のてきとうな開始宣言を聞いて早速チームが動きだす。
「まずはうちら3人の出番やったね」
アキラ、の3人が扇型に展開した。
「……燃え盛る炎の源となれ……」
「いっけーーー!!」
「ふっとばすでー」
3人がスキルを発動する。
アキラが炸裂陣の魔法陣を出現させる。
セレスと夕乃がファイヤーブレイクを発射した。夕乃の足元に出現した紋章が目を瞬かせる。
その間にゲルダはヒリュウを召喚、ユウが縮地を発動する。
その後三方それぞれで炎が炸裂し、ゴミの山が吹き飛ぶ。炎が燃えるゴミの破片とともに高く舞い散り、派手な美しさを演出する。
そんな中を冷蔵庫や洗濯機が空を飛ぶ姿は何ともシュールだ。
飛び散ったゴミの処理には四人が動いた。
「私たちの出番だ」
「私の刀のさびにしてくれる」
「ただちに処理します」
「ぶっこわしてやろう」
静矢が奔翔波を発動。振り下ろされた大太刀から放たれた風の衝撃波で、洗濯機が粉々に砕け散る。
瑞樹は太刀で飛んできた大きな破片を片っ端から切り刻んでゆく。破片の軌道に合わせて見事な太刀筋を披露する。
ユウは闇の翼で空のゴミを、縮地による脚力で地に落ちたゴミを処理していく。
宗が炎熱の鉄槌を振りかぶり、地に落ちた粗大ごみを粉々に砕いていく。床の鉄板も変形するほどの威力に観客もどよめく。
四人がゴミを細かく処理していくが、まだまだゴミは残っていた。
「まだ山が残ってるな」
宗の言うとおり、まだうず高く積もったゴミ山が残っていた。初めの範囲攻撃で吹き飛ばすことができたのは表層だけだったのだ。
「次に行くか。吹き飛ばすぞ!」
静矢が、あらかじめ決めていた合図を送る。
合図を聞いて宗、瑞樹がゴミの解体を止めて向き直る。
セレスと夕乃そしてアキラの三人は既に準備をしている。
「よし、吹き飛ばせ、鳳凰!」
静矢が紫鳳翔を放ち、黒い光の衝撃波が一直線にゴミ山へと向かう。
「たまには使ってみよう」
瑞樹の放った封砲もゴミ山へと向かっていく。
「燃えろ!」
火遁・火蛇を発動した宗の左手に巻きつく炎蛇。その蛇が放たれてゴミ山を狙う。
「……では私も……」
セレスはエナジーアローを発射。破壊力を秘めた輝く光の矢がきらめきながら目標に向かう。
「私だって」
また足元に魔法陣を出現させた夕乃はファイヤーシュートを発射する。
「一点集中や」
アキラの炎陣球も皆と同じ一点を狙う。
六人のスキルが同時に着弾した。
その瞬間それぞれが作用し合って爆発が巻き起こる。ゴミ山に穴が穿たれた。
爆発の余波でゴミ山は傾き、今にも崩れそうになる。それでもかろうじて山の形を維持していた。
「今だ、いっけーーー」
この隙を逃すまいと、待機していたゲルダがヒリュウを投げつけ、チャージラッシュを発動させてゴミ山に派手に突入させる。
爆発で空いた穴にすっぽりと飛び込んだヒリュウは、内部でゴミ山をかき乱す。爆発で既に破壊されていたゴミを崩し、ゴミ山の芯部を崩壊させる。
そして、とうとうゴミ山も支えを失った。大きな音を立てて崩れるゴミ山。その中からヒリュウが飛び出してきて、ゲルダの元に舞い戻る。
「ヒリュウ、頑張ったね」
ゲルダはヒリュウをなでなでしてあげる。
そんなことはおかまいなしに、ゴミ山は崩れた勢いで雪崩のようにして八人の元へと流れてきた。
「任せろ」
「後ろに隠れて」
「……雷よ……」
宗は跳躍して影手裏剣を射出した。雪崩れてくるゴミをピンポイントで打ち抜き、その技術に聴衆が見惚れる。
手裏剣で打ち抜けなかったゴミには静矢が対処する。
紫光閃を発動して大太刀の刀身が紫に光る。次の瞬間にはゴミが切り裂かれていた。その速さはだれの目にも留まらない。
最後に彩りを添えるようにしてセレスのライトニングが光る。一つだけ残っていた板状のゴミを雷で打ち抜き、その輝きが辺りを照らした。
「皆さん大丈夫ですか」
一人空を飛んでいたユウが皆の無事を確認してほっとする。
「後は崩れたゴミを片付けるだけか」
「あ、ちょっと待ってや。オブジェをつく――」
「……醜き塵よ、儼乎たる光で灰燼と化せ……」
「燃やすか」
アキラが言い終わるより早く、セレスの雷霆の書と宗の火炎放射器が、それぞれ雷の剣と大量の炎を生み出した。
「あー! ちょっと待ってやー」
「……もう遅い……」
「こうなったら誰にも止められねえ。全て焼き払ってやるぜ」
もうこうなったら止まらない。
ゴミの山が崩れた今、後は広がったゴミを壊すだけだ。これにはプチプチをつぶすのに似た快感があった。アキラ以外はオブジェのことなど忘れて破壊に没頭する。
ゲルダはヒリュウに手ごろな大きさの鉄球(誰かが武器として使っていたものだろうか?)を高高度から落として他のゴミを破壊する。
瑞樹は様々な攻撃方法を試しつつ切り刻んでいく。
静矢はウェポンバッシュで打ち上げた家電サイズのゴミを、奔翔波で粉々に粉砕して聴衆に披露する。
夕乃は地道にファイヤーシュートや魔法書の力で、燃えやすい木製の家具などのゴミを一つ一つ燃やしていく。
ユウは試すようにして鬼神一閃を繰り出し、硬い金属状の板を切り裂く。
見る間にゴミは片付いていった。
●コンテスト終了
「はーい、そろそろ終了です。もう壊すゴミもないでしょう」
燃やせるゴミは燃やされ、燃やせないゴミは砕かれ切り裂かれて舞台上には灰やくずばかりが残っていた。
「我々にその身を捧げたゴミ達に感謝します」
瑞樹が粉みじんに破壊されたゴミに感謝の意を表明した。
「オブジェ作りたかったんやけどな」
「そう言いつつアキラさんも楽しんでいたじゃありませんか」
「楽しかったらそれでオーケーです。皆さん、応援ありがとうございました♪」
可愛らしくふるまうゲルダは、『おひねりはこちら』と書かれた籠をヒリュウに持たせて副収入を狙っていた。
「ゲルダさんはたくましいです」
夕乃は少し呆れながら言った。
●結果発表
この後他のチームも演技を終えて結果発表へと移った。
その中で一人だけ不満を漏らす人物がいた。
「皆ケチなのです」
ゲルダだ。ヒリュウに持たせた籠の中にはしょぼいお菓子が少し入っていただけで、彼女の予想をはるか下回る結果しか得られなかったのだ。
そんあ不満をよそに結果発表は始まる。
「では結果を発表しまーす」
やはり司会はあのてきとうな人物だ。
「まず第三位は――――チーム『リサイクル』!! おめでとー」
名前を呼ばれたチームは喜びはしゃぐ。
それ以外のチームはいやが上にも緊張感高まってくる。
「次に第二位は――――チーム『スイーパー』!! おめでとー」
残る表彰台はあと一つ。
皆がドキドキを胸にして次の言葉を待つ。
「そして第一位は――――チーム『破壊神』!! おめでとー」
司会がその名を読み上げた。
「「いよっしゃーーーー」」「「やったーーー」」
チームの皆はそれぞれに異なった歓声で喜びあう。
「えー、『破壊神』の皆さんは最後楽しそうにゴミを破壊していたのが好評価だったみたいです」
司会が一位を取れた理由も読み上げた。さすが久遠が原学園だ。変わった理由での優勝である。
こうして八人の撃退士によるゴミ破壊コンテストは終わった。
実はコンテストで一番喜んだのは、ゴミの片付け費用と手間を省くことのできた学園の運営であったという。