「は、はぁ、被害の場所と時間ですか……」
気の弱そうな女性職員が、問いかけたエステル・ブランタード(
ja4894)と瑠璃堂 零(
ja9232)に答える。
場所はおよそ繁華街の近く。その数か所に人通りの少ない場所がある。そこの近辺で多発しているらしい。
特にここ数日の夜にかけてに多いとのこと。しかも、場所もほとんど変わっていない。味を占めたのだろう。
ただ、さすがに外見は被害者たちが覚えていなかったらしい。もっとも覚えていたら、学園側で処理できたに違いない。
「あれですな。拳銃持ったら自分が強くなったと勘違いして気が大きくなっている的な」
零が己の心境を吐露する。まさにその通りなのだろう。
彼らは所詮、運が良かっただけに過ぎない。
今まで、本物の戦意を持ったものと相対したことがなかったのだから。
●
荏本 朝陽(
ja9678)は呆れていた。相手の単純さに。顔が割れれば、すぐ終わり。しかも、実にやっていることが下らない。
「同列視されたらたまったモンじゃない」
思わず、本音がこぼれる。
撃退士は乱暴な連中だと、変なレッテルを貼られかねない。
「本当、悪いことする人達にはしっかりお灸据えないとね」
同じA班として動く猫野・宮子(
ja0024)も、今回の不良による撃退士にあるまじき行動に立腹していた。
時刻は夜も更けてきたころ。そろそろ、不良たちの活動時間だろうか。
他の班が接触していないか連絡を取ってみることにした。
ところ変わってC班。
「あぁ、こちらはまだ掛かってないよ」
OL風の服装で前を歩く囮の輪廻 かりん(
ja9340)を見つつ、グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)は連絡を受ける。
捜索する班に、囮を掛ける班。様々な方法を試せば、どれか一つくらい当たるだろうとの考えだ。
それにしても、とグラルスは考える。彼らのとった行動でどれだけの人に迷惑がかかったのだろう。
被害者は当然として、被害者の担当をした事務職員、謂われなきレッテルを貼られてしまった撃退士たち。遠い目で見たら、その数はどんどん増えていくだろう。ここで潰しておいてしまわねばならない。
そのころ、佐藤 七佳(
ja0030)、舞草 鉞子(
ja3804)のペアから連絡が入る。何やら裏路地に不審な影があるらしい、と。
「あれ、でしょうかね……」
鉞子がその不審な様子に相貌を細める。どこか挙動不審のようにおろおろしながら、裏路地に立っている学生が二人ほど見える。
「それっぽいですね」
七佳もそれを確認する。非協力的な方の学生たちだろうか。とにもかくにも分からない以上は近場にいるであろうA班を待ってみるしかない。
すぐに、A班と合流する。近場で捜索していたのが功を奏した。
これで、4対2。数の利は明らかである。
頷き、声を掛けてみることにする
「おい、ここで何をしてる?」
鉞子の声にびくりと体をすくませ、こちらを振り向く。人違いか?
「え、えぇっと……その……」
言い淀むが、何か言うことはあるらしい。
「カネ? 金が欲しいっていう気あんたら?」
朝陽が挑発的に言う。それを抑える七佳。あまり非協力的になられても困るのだ。
「そ、そうです! お金を下さい! もし、くれないなら」
「くれないなら、何かにゃ……?」
どこか獲物を目にした猫のように宮子。少し後ずさるが、それでも退けないのか、ぐっと一歩を踏みしめる学生。
と、突然、拳が飛んでくる。それを目にも止まらぬ速さで割り込んだ七佳が止める。目を白黒させている内に、アウルを発動、とてつもない速度で体当たりをして壁にぶつける。
「ぐぁっ……!」
さすがに撃退士か。素手では傷を付けるのもきつい。それでも、撃退士からの一撃は身に応えたようだ。
起き上がろうとするそこへ、鉞子と宮子が武器を突き付け、殺気を全開に放つ。
「これ以上、やるというなら本気を出す……」
「痛い目遭いたくなかったら抵抗しないことにゃ。抵抗するなら遠慮はしないにゃよ!」
違う。違いすぎる。彼女らは死線を何度かくぐった者たちだ。その者らにだけしか出せない何かがあった。
それだけで戦意を喪失したのか、二人ともへなへなとその場に腰を落としてしまう。少々、やりすぎたかとも思うが、悪いことは悪いことだ。灸を据えねばならない。
鉞子が事情を説明し、協力を求める。自分たちが今、学園側からの依頼で動いていることを。さっと学生の二人は顔が蒼くなるが、それでも協力を渋る。
「だって、藤代くんたち……」
「は? 同じ能力者でしょう?」
朝陽の恫喝にびくりと身をすくめる二人。ままま、と再び七佳が抑えて。
「子供のころは皆『正義の味方』に憧れたはずよ?」
それに、撃退士となった時に、そんな気持ちはなかったか。きっとあったはずだと。
そんな力をこんなことに使っていいかどうかをもっとよく考えてほしい。そう言うと、彼らの震えも収まっていく。
「そっか、俺たち、撃退士なんだよな……」
「あぁ、それにこんなの嫌だったし……」
二人とも彼女らの言葉にどこか心を動かされたのだろう。協力することに誓ってくれた。
一方で、エステルと零は少々厄介なことになっていた。と思う。
「よぅ、姉ちゃんたち、ここ通りたきゃ……分かるよな?」
(典型的な不良ですな、と。瑠璃堂、余裕の心持ち)
あまりにも、あまりにもな不良たちに逆に毒気を抜かれる零。
どうやら、女性二人と甘く見て声を掛けてきたらしい。
数は三人。さほど多くない。
すでに、近くにいるであろうグラルスとかりんには連絡済みである。
後はほんの少し時間を稼ぐだけ。
「えぇっと、何のことです?」
エステルが何が何だか分からない風を装い、わざと少しおびえた風の声を出す。
「分かってるだろ、金だよ金。なければ……体で払うってのも良いかもな!」
ぎゃははと下卑た笑い声を上げる不良たち。あまりにも処置なしであろう。
「瑠璃堂、武術の心得がありまして、はい」
「武術ぅ……? ははっ、やってみ―――」
その言葉は途中でかき消えた。ドンと凄まじい音を立てて、零が蹴り上げた不良の足は宙に浮く。そのまま倒れる不良の腕を足で押さえつけた。
あまりにも早いその一撃に一般人ではないと悟るも遅い。油断が過ぎた。
「こ、このっ」
反撃に移ろうとしたそこへ、後ろからグラルスの放った電撃が命中した。
凄まじい高圧電流を流された不良撃退士の一人はそのまま失神する。
そうすでに、連絡した組は到着していたのだ。
「4対1ですよ、まだやります?」
「く、くそっ!」
エステルの言葉にやけになって向かってくるが、かりんとグラルスがそれを許さない。あっという間に鎮圧してしまった。
「それじゃ、OHANASIタイムと行きましょうか」
エステルが意地の悪そうな顔を、まだ意識のある不良へと向ける。
「はい、あなたのような輩には対話が必要でしょう」
零もまたメガネをクッとあげて、それに乗る。
強情な彼らが、仲間のいる場所を吐くまで、回復させては殴り、回復させては殴りと言う拷問のごとき時間が過ぎ。
「大変申し訳ございませんでした、二度とこのようなことはいたしません」
エステルと零、二人のおかげで、三人そろって素直に対話(物理)に応じたのであった。
八人は一度合流し、再度、お互いの得た情報を確認する。少し非協力的だった三人は、宮子が職員に連絡を付けたところ、急いで回収してもらえた。他の面々の処分も頼むという旨を伝えられ。
集合場所は近くにある人気の少ない公園らしい。人数は自分たちを除けば、四人程度という情報だった。
しかし、まだ目的地の公園には『アガリ』を持ってきている者はいなかった。
最初は嘘の情報かとも思ったが、協力的な二人に聞くと、まだ時間が早いとのこと。事前情報からの探索と素早い鎮圧のおかげか。
待機すること数十分。夜も完全に深まってくるころ、彼らはやってきた。
「チェッ、今日は収穫なしか」
「俺も、俺も」
「ま、ノロマたちに期待すっか。もし、持ってきてなかったら、あいつらの金を貰ってやればいいし」
馬鹿にしたような笑い声が響く。
本当にくだらない。朝陽は心底からそう思う。
彼らには物理的なお仕置きが必要だろう。零は思う。一度、鼻っ柱を叩き折らねば分かるまいと。
先客を、アガリを持ってきた仲間かと思い、不良四人はなにも警戒せずに近づいてくるが、視界に入った瞬間、違うことに気付いて戸惑う。
だが、それも一瞬のこと。不良らしさ満点で凄んできた。
「あぁ、何だテメェラ?」
「邪魔だ、失せな!」
そんな勢いもしかし、彼らからすれば虚勢にしか見えない。見た目に合わせて、四人しか配置していない上に多くが女性だ。そう思うのも無理はないだろう。
「そろそろ痛い目に遭っていただきますよ、貴方たち」
「痛い目だぁ? 俺たちが何なのか、分かってるのかよ?」
「撃退士でしょう? こんな不届きなことをしているとは言え」
エステルの言葉に、不良たちは笑う。分かってるならそこをどけと言わんばかりに。
あぁ、確かに撃退士は希少だろうとも。だが、この学園は何の学園だったか彼らは忘れているようだった。
「馬鹿につける薬はないと、瑠璃堂は申告します」
「あぁ!? 誰が馬鹿だって!?」
スッと、零が構える。それに反応するように構える不良撃退士たちだったが。
「げふっ!?」
後ろから、七佳が奇襲を仕掛ける。素手ゆえに、大したダメージは与えられていないが、唐突な攻撃に驚いたのだろう。膝が軽く笑っている。
それでも反撃しようとしたところ、朝陽の放った何者かの腕が邪魔をして動けない。そこへ再び、遠間から急接近してきた七佳が後頭部にあり得ない角度から蹴りを見舞った。
「君たちは恥ずかしいと思わないのかな? こんなことして」
「か弱い一般人を襲う悪い撃退士には、この魔法少女マジカル♪みゃーこがお仕置きするにゃ!」
今度は背後から、グラルスの放った電撃が、不良の一人を昏倒させる。すでに不良の写真を撮り終えていた宮子もまた銃で一人の足を撃ち抜く。
足が崩れたそこへ、零のトンファーが迫り、頭部を殴打した。勢いのまま吹き飛び、気絶する不良。
唐突の事態に残った一人は逃げようとするが、グラルスがそれを許さない。
「逃がさないよ。……血玉の腕よ、彼の者を縛れ。ブラッドストーン・ハンド!」
血のような赤黒い斑点を持つ不気味な腕が不良撃退士の身の動きを縛る。慌てて振り解こうとするも簡単にははがれない。当然だ。アウルを使った魔法なのだから。
そこへ、エステルのワンドがきれいに鳩尾に突き刺さる。得も言われぬ激痛にのたうち、呻き声をあげて膝をつく不良。
あっという間の鎮圧劇だった。
その後、捕縛された不良たちには厳重な処罰が下された。非協力的だった二人は、情状酌量の余地ありとして被害者への反省文と直接の謝罪に補習と追加の課題のみだったが、首謀者たちに関しては学園側からの肉体的指導もあったとか何とか。
学園内での不良行為、ダメゼッタイ。