人肌の恋しい季節。それは冬。
しかし、寄り添うべき相手もいない人だっている。たとえ聖夜と呼ばれるその日であっても。
そして、それこそがシングルべル。
だが、人は生きていかなければならない。その身に如何な寂しさを宿そうとも。
つまり、このパーティーが開かれたことは必然であったのだ。
●クソガッ、リア充どもめ!
ガタンとコップを机に叩きつけるようにして、紫 北斗(
jb2918)は酒を呷る。手近にある肉にかぶり付くと、さらにそれを酒で流し込む。
明らかに、自棄になっている飲み食いの仕方だった。
その横では、みくず(
jb2654)がむしゃむしゃと料理を口に運んでいる。
「う、うぅぅ……俺の女神様ぁ……」
「きつねうどんがなひ……」
北斗からは怨嗟の声が漏れてきそうである。
一方のみくずは油揚げの入った料理がないことに落ち込んでいた。顔見知りであるはずの北斗のこととか、どうでもよさげである。
そんなみくずの内心には気付かず、折角の顔見知りもいることだし、こんな場にいることだしと、北斗が愚痴を溢し出す。
それは長野のことだった。なびく赤色の髪に健康的な小麦色の肌。そして、ボイン。
いや、そういうことを言ってる時点でモテないとか何とか言ってはいけない。彼だって男だ。うん。
「でも、気付いてしまったんよ……」
その瞳に映るのは自分でなく、別の野郎の姿。それだけならまだ仕方がないかもしれない。
だが、そのいかにもな優男。その周りにはたくさんの女性の姿が!
「滅べっ! リア充滅べっ……!」
これは酷い逆恨みである。
「俺じゃ貴女のナイトになれませんか? 俺だって、ナイトウォーカーですし、なんて」
残念ながら、そのナイトは夜の方だ。貴女の夜だと、ちょっと危ない意味になる。
ぶつぶつと戯言を述べ、ちらりと横を見た。
「………むぐむぐ」
返事がない、ただのアホの子のようだ。
「ちったぁ、反応してくれよ!?」
「んぁ?」
顔見知りとかそんなこと知ったこっちゃない。彼女には、目の前の料理が全てだった。
「う、うぉおおおおおーーーーん!!」
男泣きに伏せっているのは、虎落 九朗(
jb0008)その人であった。
「クリスマスなんてぇ……」
その横では、ポラリス(
ja8467)が怨嗟の声色を響かせながら、ガツガツと料理を平らげていた。味? 体重? 今の彼女にそんな物は無意味だ。
しかし、男泣きを続ける九朗の存在に、如何したのかと声を掛ければ、ぽつぽつと語り始める。
「う、ううっ……こないだ気になる人に遊びに行こうって誘ったんだ」
きらりと光る眼鏡と、三つ編みにした黒髪がチャームポイントの、ちょっと地味目の図書委員の女の子。
だが、恋愛に疎い彼女にただ遊びに行こうと言っても、デートのお誘いとか告白とかは受け取ってもらえなかったらしい。
ていうか、それ、単純に押しが足りないヘタレなだけなんじゃ。なんて言ってはいけない。これでも、彼、勇気を振り絞ったんだから。
「初めて会った時から気になって……」
いわゆる一目惚れってヤツですね。しかも、何と合コンで一緒したらしい。合コンとかリア充許すまじなんて言ってはいけない。
彼の期待虚しく、デートと受け取ってもらえることなく終わり。
「それは可哀想だねぇ……」
よしよしとポラリスに慰められる始末。
再び、大声を上げて男泣きに咽ぶ。
ただ、彼はまだ相手ができる可能性があるのだ。右手で頭を撫でながらも、左手でギリと拳を握りしめる。
ポラリス。相手の欠片もない。何もない。世界中のイケメンが求婚してこないかと思うくらいにはいない。
「世の中は、冷たいよねぇ……」
ハァと嘆息しつつ、ガツガツと再び料理をがっついていく。
う、うん。がっついたりしてるうちはできないんじゃないかなと報告官、愚考したりするわけで。
●飲み食いできりゃ、それでいーよね
と、愚痴をこぼしているのはこれだけで、後はわいわい楽しんでいる。意外と皆さん、鋼メンタルである。
例えば、グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)とか、龍崎海(
ja0565)とか、お前らそれで良いのかってくらい磨れてる。
飯が食べられればそれで良いと。
できるものなら欲しいけど、彼女とかまだ良いよねとか二人で話し合っている。これが世に言う草食系男子と言うヤツか!
「さーて、食べるぞ!」
どこから持ってきたのか、料理用ボールを片手に中華スープをガバとよそって食べているのは、六道 鈴音(
ja4192)だ。
フカヒレのがっつり入った高級なスープを、これでもかというほど贅沢に取って飲んでいる。一体、一杯幾らになるのだろうか。
「んー、満足満足……」
どうやら、ご満悦いただけたみたいだ。
足りなくなった分は、せっせと礼野 真夢紀(
jb1438)が補充していく。
恋人なんていらないと豪語する彼女は、腐っていた。萌え本さえあれば、それで良いという二次元の世界の住人だった。恒常的に二次元に走っている。御年十二にして、それはどうなんだと言ったところではあるが。
そんな真夢紀は、このパーティーにおいて、調理を担当していた。
「パーティーなら、料理やお菓子が美味しくないといけません」
そう言って、張り切って調理をしてはこの場に運んでくる。フルーツケーキ、シュトーレンといった時間のかかるお菓子を予め用意したりと抜かりがない。はたして、いつ雇われたのかは分からない。
無償で働かされているが、本人もノリノリなので問題はなさそうである。
「それにしても、こんな豪勢に用意してるなんて」
主催者は金持ちかと、ポラリスがとんでもない事実に気付いた。
「ぜ、是非ともお近づきに……!」
そう言うと、ドダダダダと何処かに駆け出していった。これでイケメンでお金持ちな彼ができればうふふなんて妄想していたりする。
ちなみに、これはポラリスの勘違いに終わるのだが、それはまた別のお話。
武田 美月(
ja4394)もまたジュースを飲んでは料理を口に運ぶ修羅と化していた。その隣では日野 時雨(
jb1247)が美月の話を頷きながら聞いている。
「バレンタインはまだ良いんだよ。ほら、義理チョコとかあるじゃん?」
友人同士でもワイワイと騒ぐことができる。例え、恋人なんていてもいなくても楽しめるイベントだと彼女はそう思っている。
「でも、クリスマスはダメ」
「せやのう。一緒に遊んでる友達も、その日だけはダメなんて言おうものなら」
「そうそう! 恋人いたの!? みたいなね!」
あの瞬間が地味にきつい。友人ですらお断りな雰囲気になって、どうせ、そのまましっぽりと二人でしけこむのだ。ぐぬぬ、許されざると美月は拳を握る。
そして、美月は結局こんな場所に来ていたりするわけで。ともあれ、クリスマスさえ乗り切れば、美月にとって色々と吹っ切ることができるのだ。致し方あるまい。
「メリークリスマース!」
ワインを片手に、友人のアラン・カートライト(
ja8773)、栗原 ひなこ(
ja3001)と共に乾杯する如月 敦志(
ja0941)。
アランもワインを、ひなこは未成年故にジュースを片手に乾杯する。
「乾杯、お前らに最高のクリスマスを」
クイッとグラスを傾けて、赤色の液体を舌で転がす。ごくりと嚥下すれば、アルコールのほんのりした甘味が刺激として走る。
「そういえば、こうやってシングルべルなパーティーに参加したわけだけど……」
敦志が疑問の表情で、アランに向く。
「アランさんは紳士なのになんで彼女居ないわけ?」
「あー、それあたしも気になる!」
コンテストにも入賞するくらいなのにと告げるひなこに、チッチッと指を振るアラン。
「ハハ、妹以上に素敵なレディはいねぇからな」
シスコンすぎる彼にとって、特定の誰かを定めることは特に考えていなかった。何とも罪作りな男である。
「そういえば、妹さんってどんな子なの?」
そう聞いてしまったが、運の尽き。
「ん? あいつか? それはもう愛しいヤツでな。この前なんかは……」
語り始めるアラン。
最初の内は良い。ひなこも、妹さん好きなんだなーくらいで聞いていられた。
だが、話が続く続く。延々と続く内に、さすがにドン引きし始める二人。
愛が重いってレベルじゃねぇぞ!
普通に飲み食いする分にも問題ない空間と化していることに、柏木 丞(
ja3236)はほっとする。一部は怨嗟の声を呟いたりあれやこれやな場所もあるが、近づかなければ害はないだろう。多分。
とそっちは放っておいても、杠 翔輝(
ja9788)のように走り回っている人物もいるので要注意だ。
「なんか跳ねまわってるみたいっすけど、背負ってる物の方は大丈夫なんすかね」
「中身? シュークリームなら大丈夫さ」
「それならいっすけど」
彼の爆走に巻き込まれないように、念のためと避難しておく。
「あ、暇?」
「いや、食べるのに忙しいっすけど」
「そっか。着払いな。ソースせんべ、ソース抜きで」
人の話をまったく聞いてないのか、よく分からない物を渡された。というか、ただの煎餅じゃないですかこれ、って顔の丞。
「こんなハンパネー日なんだし、煽りも二次元厨もみんな、メリークリスマス」
そう言って、どっかに行ってしまう。でも、いつか戻ってくるだろう。近くをぐるぐる走り回っているようだから。
丞は渡された煎餅をそっと皿の上に載せて。
「それにしても、恋人同士って、どこから来た風習なんだろ……」
「ボクが調べたところでは、家族と過ごすってあったけど」
丞の独り言じみた呟きに、傍にいたソーニャ(
jb2649)が反応する。確かに、恋人同士で過ごすという風習があるのは日本くらいのもので。多くは、家族同士で過ごす日となっている。
そんなソーニャ、疑問が一つ。
(恋人とか家族とか、友達ってどう違うんだろ?)
長い間、幽閉されていた天使の少女に、常識は欠落していた。
きょとんとした表情のソーニャに海が近づいてくる。天魔と話がしたいと思っていた海にとって、彼女は話しかけやすそうな相手だった。
「どうしたんだい?」
「恋人って何なのかな?」
恋人も家族や友達を愛している。自分だけを愛してくれている訳ではないのに、恋人と区分するのが謎になったようだ。
「それは難しいね……でも」
恋人に対する愛と家族に対する愛はまた別物だと。
「うーん……?」
ただ、ソーニャにとっては分かりづらい。
「はは、恋人ができれば分かるんじゃないかな」
「そっかぁ。ボクも恋人、欲しいなぁ」
そんな微笑ましい会話が繰り広げられたり。
未だ話し続けるアラン。ようやく鈴音がひなこを見つけて、三人の輪の中に入ってきたところで止まった。
心の片隅でありがとうと告げるひなこと敦志だったが、それはさておき。
「栗原さん、ココの中華、美味しいですよ」
相変わらず、ボールを片手にし、ひなこにズズイッと勧める。どれだけ飲むつもりなのだろうか。もちろん、なくなりかけたら即座に真夢紀が追加している。
「さ、さすがに、その量は……!」
一部だけ貰って、ほっこりと中華スープを楽しむ。
笑顔になったひなこを見て、敦志がうーんと考え込む。
「どしたの? 敦志くん」
「妹偏執狂のアランさんは良いとして」
「おい、どういう意味だそりゃ、掘るぞ」
「勘弁してください」
「いやいや、冗談だ、何もしねぇから距離を取るなって」
正直、アランが言うと冗談に聞こえてこないのだが。
思わず、距離を取った敦志。
「そもそも、妹に執着するくらい普通だろう?」
「うわぁ……」
アランの発言で、さらにドン引きする三人。執着って言葉を使う時点で普通じゃない。
「もう良い、アランさんは良いとして。ひなこはなんで彼氏居ないわけ?」
「そういう、敦志くんだって……」
敦志の疑問に、ジト目を返す。
久遠ヶ原学園七不思議とでも言って良いだろうか。
『美男美女に関わらず、恋人ができるとは限らない』
そういうことである。
「私たちみたいにカワイイ娘をほっとくなんて、世の中の男はダメですよね! あははははは!」
バシバシと敦志の背中を叩きながら、ハイテンションの鈴音。人間、雰囲気だけで酔える物である。
「そうだな、自分でカワイイなんて言う奴はまだしも」
「何おーっ!?」
「お前は可愛いと思うぜ? もちろん、鈴音もな」
ひなこと鈴音のフォローに回る。紳士面本領発揮である。
「そ、そうかな……?」
照れ照れともじもじするひなこ。
「可愛いし元気だし、彼女にはもってこいだと思うんだけどなぁ」
敦志が腕を組みながら、うんうんと頷く。
「彼女にもってこい……って褒めても何も出ないんだからね! 敦志くんのハゲーッ!」
ピカッと光ると、彗星が敦志に襲いかかる。
「なんで俺だけ!?」
チュドンと炸裂し、教室の一部が煙に包まれ。後には倒れた敦志が事切れていたのだった。
●いらんことを吹き込んでいく系
ガラガラと、教室の扉が開けられる。まだまだ、人は集まってくる。
「ほほぅ、何だか知らんが愉快そうだな!」
ワクテカとした表情で現れたのは、ルーガ・スレイアー(
jb2600)だった。飲み会と言う行事に興味津々のようだ。
しかし、今回はそれ以外にも別の思惑があるわけで。
「リア充撲滅なるものを聞いたが、はて、リア充とは一体……」
よく分からないままに、参加してきたらしい。
「ぐるぐる……しんぐる?」
くんくんと匂いを嗅ぎながら、エリス・シュバルツ(
jb0682)が姿を現す。どうやら、迷い迷って、この場に着いたようである。
入口に立つルーガとエリスの目が合う。
「おぅ、ちょうど良い。そこの人間! リア充とは如何なる物か、私に教えてはくれまいか?」
「りあじゅう?」
かくりとエリスが首を傾ける。彼女の脳内では、リア獣と変換されたようだが、よく分からない。
「むむ、分からないか……おーい、リア充とやらを知っている者は私に教えてくれ!」
大声を上げて、聞きまわるルーガ。ついでに、エリスもそれに付いて回る。無垢な彼女に要らぬ知識が与えられぬことを願いたい。
「リア充ってのは、彼氏彼女持ちのことや……」
と、ここで北斗がルーガとエリスに丁寧に教え込む。
「そして、クリスマスという日は、そのリア充をボコボコにする日! そう定められた日や!」
「そうかそうか!」
ついでに、余計なことも吹き込んだ。
これでまた一つ、ルーガが間違った方向に人間界への興味を示してしまった。
●しんぐるべーる……
今年こそはワイワイ皆と楽しく過ごせるんだと、立花 雪宗(
ja2469)は意気揚々とこのパーティーに参加したのだが。
「むぐむぐ……」
どういう訳か、結局は一人でホールケーキを食べている。
おかしい。どうしてこうなった。何かの陰謀かとも思えるほど。
恋人もいなけりゃ、友達もいない。その事実に、虚しさだけがこみ上げてくる。
というか、一緒に過ごす友達もいないって、実はやばくないかと自己嫌悪に陥ったり。友人、友人と考えて、思い当たるのはたった一人だけ。
「いや、寂しくなんてないです」
不屈(?)の精神で立ち直って、ムシャムシャと、ケーキを平らげていく。
そんな雪宗の傍に、エリスがやってくる。
ちょこんと隣に座ると、雪宗をなでなでし始める。その優しさに思わず、嗚咽が漏れる。
「う、うぐぅ……うぐっ、ひぐっ……」
今日のケーキはどこかしょっぱかった。
●渋い……
カランと、琥珀色の液体で、氷がわずかに溶けてグラスに当たる。
液体を軽く唇で舐めた後、ディートハルト・バイラー(
jb0601)はクイッとグラスを傾ける。喉を焼くような刺激が過ぎ去って、ふわりと香りが鼻を突く。
「良い酒だ……」
その香りは芳醇。味も、格別と言えるだろう。思わず、言葉が漏れる。
傍にあるボトルから、新たにもう一杯を注ぐ。コポコポと音を立てグラスを液体が満たし、再びカラリと氷が音を鳴らす。
それを再び一口。これが、溜まらない。
摘まみもなく、ただ酒だけを飲む。
そして、今度は飲んでいるものと別の酒を手に取ってみる。
「おい、ルッチ。見てみろよ、この酒。十年物だとよ」
傍でゆっくりとグラスを傾けるだけのルチャーノ・ロッシ(
jb0602)へと話しかける。
「………」
だが、グラスを傾けるだけで言葉は返ってこない。
「相変わらず、だんまりだなあ」
少しは楽しめよと告げるディートハルトに、ルチャーノは嘆息する。
「下らねぇ……もう十分だ。満足しただろう、帰るぞ」
グラスを空けたルチャーノが立ち上がったところで、待てよと引き留められ、グラスに酒を注がれる。
「もう一杯だけだぞ」
ガラリと椅子を引き、席に戻る。
そんな折。
「お前がいるとは意外だな。俺とも飲もうぜ」
「よぅ、Mr.カートライトと……」
「く、栗原ひなこです」
「Ms.クリハラ。良い出会いに乾杯か」
ディートハルトの顔見知りであったアランが、ひなこと共に傍へ近づいてくる。そんな二人が近づいてきても、ルチャーノは相変わらず黙々と酒だけを飲んでいる。
「こんなところにいるってことは、お前、独り身か?」
「ま、そんなところだ」
アランの追及をのらりくらりとかわすディートハルト。ひなこはまったく喋らないルチャーノの様子をちらちらと見ている。
「……チッ」
それが気に入らなかったのか、ルチャーノは舌打ち一つ。身を竦めるひなこに、ディートハルトがウィンクしながら。
「ああ、気にしないでくれ。彼は、女性が嫌いなんだ。好きな相手に―――」
「おい、バイラー」
無言の圧力を加える。それ以上、口にしたらただじゃ済まないぞとそんな脅しを込めるが、ディートハルトは両手を上げて降参のポーズを取るだけだった。
さすがに気不味い。ひなことて、ここは居辛かった。
「い、行こう、アランさん……?」
「ん? あぁ、これ以上、邪魔するのも悪いしな」
それじゃと立ち去る二人に、ディートハルトは手を振り返す。
そして、ディートハルトとルチャーノの二人は再びゆっくりと飽きるまで酒を呑む。
なお、この空間だけ相も変わらず異様に近寄りがたかったのは言うまでもない。
●しっと団、現る
しっと団。それは、天道 花梨(
ja4264)をリーダーとする謎のテロ組織だ。それに付き従うような虎綱・ガーフィールド(
ja3547)はしっと団の一員である。
彼らしっと団は、東にカップルあれば爆破し、西にリア充いれば生贄と称したモニュメントへと変貌させたりなど、独り身たちのために八面六臂の活躍をしている―――と専らの噂であるが、噂だけで実害が出たことはないとか。
「私が! 私たちが! しっ闘士だぁあああっ!!」
「リア充をサーチ! デストロイ!」
花梨の登場シーンに合わせて、虎綱が合いの手を打つ。
こんなぱねぇ連中が現れたことで、丞は自分の分の料理を持って避難を始めた。この避難は後に功を奏すことになるのだが、それはとりあえず、置いておき。
「今夜は無礼講ぞ!」
無礼講というか、カオスである。
花梨は鬼の形相で、飾られてあるクリスマスツリーへ藁人形を宛がい、釘をガンガンと打ち付けている。
「妬ましい……リア充どもは、今頃キャッキャウフフとしているのであろうなぁ。あぁ、妬ましい!」
「虎綱さん! とにかく恨みを込めて、このクリスマスツリーに藁人形を打ち付けるのだわ!」
「承知いたした、総統殿!」
二人して奇怪なことをし出す。
そんな奇怪なメンバー二人に近づく時雨。
「そんな実力行使に出んでもー。カップルサンらぁのイチャイチャは見ゆうこっちが照れるきー、愚痴らぁ聞いちゃるけんど」
どっかと虎綱の傍に座る。
「そうで御座るか……拙者の一年の恨みは重いであるぞ」
「掛かってきい」
「まずは、春! 花見と称して、イチャイチャラブラブしおってからに……」
そんなこんなで、虎綱の愚痴が始まる。彼の積もり積もった恨み辛みは、凄まじい物であったと後に時雨は語る。
ちなみに、花梨は横でクリスマスツリーを謎のオブジェへと変え、満足気な顔つきであった。
●女の子同士だからリア充ぢゃないもん!
人間、アーレイ・バーグ(
ja0276)と、冥魔、葵・マイヤーズ(
jb2674)。何ととんでもないことをしていた。
いちゃいちゃしている。この場でイチャイチャしている強者だった。
「はい、あ〜ん。人間界では仲良しさんはお互い食べ合いっこさせるんですよ?」
「なるほどー! あ〜ん……」
独り身同士、自己紹介を済ませた二人は何を意気投合したのか、スキンシップが度を超し始めていた。
「じゃ、こっちもあ〜ん」
「あ〜む……」
食べさせ合いをしたり。
「ん〜、アーレイちゃん、可愛い!」
「わー、葵様も可愛い!」
抱き合ったり。
むぎゅってする度にアーレイのたわわに実ったとある部分が、強力に主張してくる。
柔らかくて暖かい。そんな彼女にほっこりする葵。
「それにしても、くりすますって何なのかな?」
「日本では、カップルがイチャイチャする日ですねっ!」
まーた、嘘を教える。天魔にあることないこと吹き込むのが流行っているのだろうか。
色々と人間のことを教えてもらう葵だったが、相手はアーレイ。まともなこともあれば、とんちんかんなことを吹き込んだりと完全に面白がっている。
それでも、葵は礼節を弁えた悪魔であった。
「んー、やっぱり人間界って面白いね。お礼に〜」
チュッ。
そんな擬音が周囲に響いた。
それだけでは、飽き足らず。
「おおぅ? それじゃお返し〜」
ンチュッ。
再び、そんな音が響く。
何て事を! オーマイガッ!
●リア充は滅殺! 滅殺です!
「な、なななな、何て事を……!」
「く、口付けだと……!」
いち早くアーレイと葵の二人の所業に気付いたのはしっと団たる花梨と虎綱であった。
キスをしているいこーる二人は恋人いこーるリア充。そんな訳の分からん三段論法が二人の脳内を駆け巡る。
「総統殿! 先程のアレは、あれでこれやの……!」
「えぇ、えぇ、そうですとも、虎綱さん! リア充は滅殺なのだわ!」
ハリセン片手に襲い掛かる二人。しかし、二人は機敏に身をかわす。
「くっ! リア充の癖にやるのだわ……!」
二人は気付いていない。彼女たちは別に恋人同士という訳ではなく、この空間でも別段ボコられることなどないということに。
「リア充……!? リア充は滅殺や!」
それに加わる北斗に。
「おぉ? こんなハンパネー日なんだし、煽りも二次元厨もみんな、メリークリスマス」
どこを走り回ってきたのか教室の窓から飛び込んでくる翔輝。
ただのパーティー会場は一瞬でカオスの坩堝と化した。
「くっ、このリア充……ただものじゃないのだわ……!」
「ふふん、そんなハリセンにやられるほど、私は甘くないのですよ?」
「虎綱さん! それにしっとに燃える皆さん! フォーメーションαなのだわ!」
「アイアイサー!」
葵とアーレイを取り巻くしっとに燃えあがる皆々様。
その横では、せっせと真夢紀が料理を溢されたりしないように脇にどけ、丞はそれと一緒に完全に避難態勢だ。どーしてこーなった。
じりじりと、互いの距離が縮まっていく。
一触即発。あわやというところで、爆弾が投下される。
「この会場で一番のリア充は正しく俺だ!」
爆弾が投下される。
酔っ払ったアランが渾身のドヤ顔でそんなことを叫んだ。
『リア充ダ、コロセ』
ギラリと周囲のしっ闘志に執り憑かれた皆々様の目が光る。
そして―――。
アランの末路は酷かった。
花梨と虎綱、北斗に散々ハリセンでど突き回されて、どっこいしょーどっこいしょーと意味不明の叫び声を上げるルーガに担ぎ上げられ、クリスマスツリーへの謎のオブジェとして祀られてしまった。
しかし、アランはどこか笑顔であった。妹を愛するあまり、脳の回路がどこか捻子切れてしまったのだろう。
●そして、終宴へ
そんな騒ぎがあった後。
しっと団としての責務を見事に果たした花梨と虎綱は、笑顔のまま立ち去ったという。これから、街のリア充討伐に勤しむのだろう。
そして、色々と飽きたのか、ソシャゲで暇つぶしを始めるルーガ。というか、終いには周囲に勧誘し始める始末である。
「今なら友達紹介キャンペーンでスーパーレアカードがもらえるぞッ!」
「い、いや、遠慮しておこうかな……」
捕まった鈴音が延々と、ルーガもといソシャゲ中毒者に絡まれる。
全力で逃げろ! 逃げないと君もまた同じ穴の狢と化してしまうぞ!
一方でアランはというと。あっさり縄を自分で解き復活していた。
曰く。
「これくらい、紳士ならば当然だろう?」
「そ、そうなんだ……」
苦笑しながら、頷くひなこ。
「………」
あ、紳士じゃない敦志さんは今も地面で伸びてます。
「クソがっ、リア充、滅べっ、滅べっ……!」
「……もぐもぐ」
相変わらず、北斗は呪詛を撒き散らしつつ、その横ではみくずが延々と食事を続けていた。
「今度は、口移しで〜」
「良いよー」
アーレイと葵の二人は、あんなことがあったにもかかわらず、懲りずに今度は口移しで食べさせ合いなどをしている。
「いいこ、いいこ」
「うぅ、ぐすっ……」
エリスになでられていた雪宗は、はたしてシングルべルを脱することができたのか。来年の動きに期待である。
(相手が出来るのはもう少し後でもいいか……)
そう考える草食系男子筆頭グラルス。それも君の生き方だ。貫くが良い。
そんなこんなで、このパーティーは、色々とグダグダのまま流れるように解散していったという。
来年こそは、皆、何とかしような!
―――終わり?