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マスター:にられば
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/11/28


みんなの思い出



オープニング

「ご、ごふっ……」
 牙に貫かれ、その撃退士の命の灯はまさに掻き消えんとしていた。
 目の前にいるは凶悪な怪物。それを退治しに来たのだが、逆に餌食となってしまった。他の仲間もすでに躯と化している。
 もう一度、敵の姿を目に焼き付ける。尾はチロチロと舌を出す蛇であり、獅子の頭を持ち、胴は山羊のそれと言った怪物だ。
 一般的にキマイラと呼ばれるその怪物は、神話に登場するモノと同一の存在だった。強靭にして害悪。向かった撃退士は自分を残して全滅。いや、正確には、全滅するだろう。
 最後の最期とばかりに、アウルの力を振り絞って、銃撃を放つが、僅かな傷を与えるだけで終わる。むしろ、怒りを買ったか、ついにはその顎が撃退士の喉笛に喰らいついた。血の息を吐き出し、喉からはヒューヒューと僅かに風の鳴る音が周囲に響く。
 だが、それもすぐに止まった。事切れてしまったのだという事実だけが、そこには残ったのだった。

「危険な依頼だけど……」
 そう言って、シルヴァリティア=ドーン(jz0001)が持ってきた依頼は、相応に危険な内容だった。
 詳細は、山村に現れたキマイラ二体の討伐。ただし、以前にも討伐隊が繰り出され、これが全滅の憂き目に遭っている。そんな相手を討伐して来いという内容だ。
「生半可な実力では死にかねないわ。だから、今回は悪いけど、参加者にいつも以上に覚悟を伺わせてもらうことになっているの」
 もし、自信がなければ立ち去ってもらいたいと暗に告げる。
 今回はそれほどの相手だ。
「どうかしら、無理強いはしないわ」
 それでも、受けてもらえる人がいないかと。彼女は探して回っていた。


リプレイ本文

 その森の中は静かだった。わずかに聞こえるのは、冷たくなってきた風に揺れる木の葉のさざめきだけだろうか。動物の気配一つなく、撃退士たちは嫌な予感を確かなものへと変えていった。
「いる、ね……」
 誰からともなくと言う風に、鈴代 征治(ja1305)が呟く。『感』に近いが、確かにこの山の中に、目的の怪物がいるだろう。
 ぐっと、氷月 はくあ(ja0811)は己の武器、PDWの引き鉄を強く握る。この感覚。何も変わっていない。重体から快復したその体はいつも通りに動いてくれそうだった。
 それでも、やれるかどうかは不安になる。病み上がりに受けるような内容かと言えば、今回の依頼はノーだ。
 無表情に淡々とした様子で、警戒を続ける風鳥 暦(ja1672)。すでに雰囲気が彼女を戦闘態勢へと入れ替えさせていた。
「心して行きましょう」
 先発隊は全滅。その報を聞いていたため、彼女は端から慎重になっている。
 それでも、戦わなければならない。そして、戦い続けていかないと生き残ることはできないのだと、因幡 良子(ja8039)は思う。撃退士と言う存在は、そういうものだ。戦い、戦い続けて、生き残る。それが日常で。
 初依頼となる崎辺 雨一郎(jb2102)はその辺りが一つピンと来ない。それでも、自分の組のために、無様な姿を晒すわけにはいかないと、気を張り続ける。
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)の心もそんな危険な戦いに震える。武者震いだけではない。死に対する根源的な恐怖が付いて回る。歴戦の勇士をしてそう思わせる、今回の依頼はそれほどのものだった。
「あ、相手にとって、不足はないわ……」
 雪室 チルル(ja0220)の普段の元気も、形を潜めている。少しだけ、ほんの少しだけ似ている失敗した依頼を思い出す。あの時も強敵が二体だったか。しかし、今回はそれよりも状況が最悪だ。情報も何もない。
「曰く『知彼知己者 百戦不殆』ってね」
 故事を引き合いに、常木 黎(ja0718)は己の心中を吐露する。今回の依頼、どちらかと言えば、見に回りたい、と。
 それでも、依頼内容は『討伐』だ。極めて難しいと言える内容だろう。そんな無茶に近い行為を撃退士たちはやり遂せなければならない。なぜなら、窮地に喘ぐ人々を救わんとすべく。


 森の中を進むこと、数十分。地図によれば、そろそろらしい。各々、武器を展開し、こちらから奇襲をせんと構える。今回は危険な依頼のため、救助のみサポートが許された。木陰より、大谷 知夏(ja0041)、霧原 沙希(ja3448)、赤坂白秋(ja7030)、龍仙 樹(jb0212)も身構え、いつでも救助に動けるように。
 そして、周囲には血の跡がべっとりとこびりついていた。先任の撃退士たちの物か、ここで襲われた人々の物か。判別は付かないほどに、喰い荒された後もある。エイルズレトラと良子が、さらに周りを良く見渡せば、何か炸裂したようなものに当たったりして焦げ砕けている木、完全に焼かれたか倒木しているものもある。恐らくは火炎弾、ないし火炎放射に近い攻撃手段を持っているのだろうと当たりを付ける。
 それを仲間に伝達し、他の皆もまた同意する。火炎系の攻撃に注意すると。すなわち、範囲攻撃の可能性もあり、チルルは苦い記憶を呼び覚ます。
「散開してから行った方が良いわね……」
 失敗した時の依頼と似たような作戦、初手に一斉攻撃。以前はその後の範囲攻撃にしてやられた。ならば、その前に散開しておく方が良いというものだ。
 木々に隠れ、様子をうかがう。はたしてそこには異形があった。
 獅子の顔に、山羊の胴体、尾には蛇。獅子は奮然とした様子で、周囲を見渡しており、蛇もまたチロチロと舌を出しながら警戒している。以前の襲撃で敏感になっているのだろうか。
「以前、怪獣と戦ったこともありますが……なるほど、それより小さいくせに、こちらの方がはるかに強そうですね」
 エイルズレトラが敵のしなやかな動きを見て、そう評する。
 だが、ここで相手が警戒を解くまでのんびりと待つことなどできない。一刻も早く、倒さねばならないだろう。
「さぁ、行くわよ!」
 チルルが飛び出したのを合図に、一斉果敢に撃退士たちは飛び出す。
 それを一瞬で看破したキマイラ。二体ともが、まずは飛び退るように距離を取り、一体は口から火炎を放射し、一体は口から火炎の塊を吐き出す。数十メートルにも達するその火炎放射をチルルは横っ跳びに回避し、迫る火炎弾も前に飛びだしつんのめりながら避ける。後ろで炸裂する火炎を尻目に前へ進む。だが、距離を詰めてもまだ己の射程距離に入らない。敵の攻撃範囲が広すぎる。
 左右前後から撃退士たちが距離を詰めるも、まだ遠い。射程に捉えられたのは、暦、はくあ、黎の三人。一斉攻撃とは言えないが、何もしないというのも拙い。暦のスナイパーライフルが火を噴き、はくあもまたそれに合わせてPDWの引き金を引く。それら迫りくる弾丸を凄まじい動きで回避するキマイラ。後ろから近づいた暦だが、それに対しての回避能力も何ら変わりなく行ったところを見るに、尾も視覚を共有しているのだろう。
 ようやく、黎の銃弾が皮膚に刺さるが、大したダメージは与えられていない。だが、捉えられなくはないことは分かった。
 全員、果敢に進む。
 その時、敵を観察していた雨一郎が気付く。先程、付けた弾丸による傷が徐々に塞がっていることに。
 出会い頭で気付こうと思えば、気付けただろうか。先任の撃退士たちが戦ったはずの傷がない。
「気を付けろ! 自己再生能力を持ってるようだ!」
 畳みかける必要がある。そのことを撃退士たちは悟り、一体へ集中する心算を取る。
 だが、敵の動きも速い。真正面から向かっていたチルル目掛けて、狙っていなかった一体が飛び掛かる。構える剣は間に合わず、猛獣の牙が突き刺さる。
 苦しみに顔を歪めるそこで、はっとしたかのように剣を構え直す。蛇のような尾までもが、攻撃を仕掛けていたのだ。間一髪で氷結晶を宿した剣を携えて、致命傷は避けるが、毒牙が体に掠る。瞬間、目眩に襲われるが、アウルの力で対抗、毒を祓う。しかし、この二撃でかなりの傷を負ってしまった。
 チルルが傷を癒し下がる中、そのキマイラ目掛けてエイルズレトラ、征治、良子の三人が奔る。エイルズレトラは影の手を伸ばし敵の動きを縛らんとする。はたして、その目論見通りとなるが、動きを縛られてなお回避能力は高く、続く良子の魔力鎖による攻撃を、回避。だが、征治が流れるような連携で武器を叩きつけ弾き飛ばす。強力な一撃は、キマイラの肉を削ぎ、ついで距離を取らすことに成功する。
「今のうちに!」
 何とか一体をチルルから引き剥がす。さすがに二体集中は不味い。
 そして、もう一体へ火力を寄せる。
 暦がライフルのスコープを覗き、レティクルを絞る。凄まじい衝撃で吐き出された弾丸は寸分の違いなく、キマイラの胴を引き裂いた。苦悶の声を上げるそこへ畳み掛けようとした直後。
 振りむき様に、キマイラが火炎弾を吐き出した。その攻撃の威力を脅威と見たか、暦目掛けて。
 スコープ越しにそれを見た暦は何とかそれを回避。
 その隙にと、はくあ、黎、雨一郎が遠距離から暦のライフルによって傷を負ったキマイラを狙う。
「駆けろ、マーナガルムっ!」
 それは獣性。飢えた獣の如く、紅霧を纏ったアウルの弾丸はキマイラを貫く。受けた部位からキマイラの腐食が始まるが、すぐに止まる。抵抗力が高いか。続く黎のアシッドショットが当たるも、効果は薄い。
「Damn。流石に楽はさせてくれない、か……」
 悪態を吐きつつ、敵の標的とならないよう黎は敵の側面を取るように動きまわる。雨一郎が静止した直後を狙うも、二撃を受け硬直から解けたキマイラは凄まじい風の刃を回避。そう簡単には狙いを絞らせてくれない。
 キマイラの攻撃は続く。尾もまた厄介だ。影で縛ったはずのキマイラはすぐに影を引き千切るように動き、その身を自由にしていた。
「くっ……」
 しかし、迫りくるキマイラを巧みな槍捌きで受け流す征治。相手に有効な距離を掴ませず、かと言って、自身の攻撃が当たる範囲を忘れない。噛みついてくる敵を受け流し、尻尾の毒牙にはさすがに捉えられたが、致命には遠い。毒の方もアウルの力を以て一瞬で祓う。
 その隙にエイルズレトラと良子が攻撃を仕掛ける。エイルズレトラの影縛りは外れ、良子の魔力鎖で一瞬だけ動きが止まる。その隙を見て、征治は槍を繰り出す。三人で相手しているとは思えないほどに効率の良い動き。征治の槍捌きに苦しめられているかのように唸り声を上げる。
 だが、ここで不測の事態が起きる。キマイラは前面に立つチルルより執拗に暦を狙ってきていた。再び、放たれる火炎弾。
 強力な魔具を装備していた暦はそれに生命を燃やしていた。二度目はさすがに避けられず。直撃した火炎弾で吹き飛ぶと、周囲の木に叩きつけられ血を吐いたまま動かなくなってしまった。


「あれは……! 不味いわね」
 すぐさま、沙希が縮地で駆け寄り回収する。火炎弾の威力と炸裂具合を考えると、戦場に残されてしまえば、死にかねない。先任の撃退士たちもこうしてやられたのだろうか、そんな想像を巡らす。
 担ぐと、再び全力で移動して近くの茂みへ入って遠くへ逃げる。ほんの一瞬だけ現れた敵を認識せず、キマイラは他の撃退士たちへ向かっていた。


 火炎弾を吐いたキマイラ目掛けて、チルルが走る。
「アタイを無視して、許さないんだからっ!」
 迫る毒牙を氷の結晶で弾きつつ、己の武器を突き出すと、そこから強力な吹雪が巻き起こる。キマイラを凍てつかせ、大きく損傷を与える。黎もまた狙いを定めるが、当たらない。さらに、そこへ、はくあが強力な三連弾を発する。暴発に近い三連撃は一発外すが、二発がキマイラを捉える。強力な二連撃に身悶え、苦悶の声を上げる。
 そこからは一進一退。毒牙がチルルを攻めながら、本体ははくあに狙いを定めるが、遠距離からの攻撃を警戒していたはくあを簡単には捉えられない。チルルもまた自身の傷を癒しつつ、敵の毒牙を切りぬけていく。片や撃退士側の攻撃も何発か当たっていくが、多くは避けられる上に敵の再生能力で傷を与えても与えても倒れる気配がない。
 しかし、確かに、敵の再生能力を上回っているのは確かだ。次第に、敵の傷が増えていく。
 一方の三人で相対する組もまた巧みだった。エイルズレトラと征治が攻撃を繰り出しつつ、徐々に削っていく。特に征治の槍捌きが素晴らしく冴えている。敵を寄せ付けず、僅かな傷のみで手痛い反撃を返す。傷を受けた征治を遠距離から癒し続ける良子もまたカバー良く、長い戦いを制する結果となっていた。苛立つように、キマイラは咆哮を上げるが、虚しく響き渡るのみだった。


 そんな一進一退の攻防を続ける中、次第に五人で集中しているキマイラの動きが鈍っていく。もう一押しかと言うところで、キマイラが動く。
 火炎弾では埒が明かぬと見たか、とんでもない速度ではくあに迫っていく。それに気付いたはくあは、敢えてその攻撃を受ける。
「痛っ……!」
 巻き上がる血飛沫。だが、急所は外している。
「でも、負けないよ……想起するは、七彩の光……喰らい尽くせっ!!」
 痛みを押して、噛みついたままのキマイラの頭めがけて、暴発したかのような三重螺旋の弾丸が炸裂する。
『グォオオオオオオ!!』
 とてつもない威力に苦悶の咆哮を上げるキマイラ。よろよろと数歩、後退したかと思うと、ずしんとその身を横たえた。ほんの一時だけ尾も息をしていたようだが、本体の息絶えた後にぐたりと体が落ちる。
「やったか……!?」
 雨一郎が、敵の動きに身構えるが、すでに瞳からは光が失われている。確かに、死んでいる。
「残りは一体、か……」
 黎がすぐさま、残りの一体を目指して走りだす。
 さすがに、敵の攻撃を一手に引き受けていた征治は、傷も多く毒に侵されていた。だが、確かにしかと地に足を付け立っている。まだまだ、その瞳には闘志の光が灯っている。
 すぐさま。八人で囲む。それまでに傷を受けていたキマイラにとって、それは一溜まりもなく。あっという間に、瀕死に追い詰められていく。連携良く、撃退士たちは立ち回っていた。回避する敵の動きを止め、雨一郎が烈風を巻き起こす。受けた傷は癒えていくが、それさえも上回る怒涛の連撃。
 最後に征治の槍の一突きを受けて、ついに沈んだ。
 彼らはやってのけた。極めて困難なこの依頼を。
「おいおい……マジでやっちまったのかよ……」
「凄いわね……」
 遠目にも分かるほどの強敵を撃破した八人を讃えて、白秋と沙希が感嘆の声を漏らし、周囲の茂みから出てくる。
「運が良かっただけだよ」
 疲れたようにガシャリと槍を下ろす征治へ知夏が駆けより、治癒魔法を掛けていく。
「いやいや、皆さん、凄かったッスよ!」
「私たちの出番は必要なかったようですね」
 茂みより、樹も姿を現し、八人を労っていく。
「アタイ……今回は上手くやれたわよね!」
 強敵を撃破したことの嬉しさを全身で表現するように死骸となったキマイラの周りを飛び跳ねるチルル。
 怪我をした暦も迅速な手当の甲斐あって、まったく命に別条はなかった。
「……ふう、何とか生き残れましたか」
 緊張が解け、エイルズレトラもようやく一息吐く。

 その後、傷を受けていた者は知夏の治療を受け。ほとんどの怪我なく、重体者も出さず、依頼を終えた八人は、喜色満面で学園へ戻る。とてつもない朗報を、近辺の村へと残して―――。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ヴァニタスも三舎を避ける・氷月 はくあ(ja0811)
 最強の『普通』・鈴代 征治(ja1305)
重体: −
面白かった!:23人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
撃退士・
風鳥 暦(ja1672)

大学部6年317組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
┌(┌ ^o^)┐・
因幡 良子(ja8039)

大学部6年300組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
崎辺 雨一郎(jb2102)

大学部8年45組 男 陰陽師