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マスター:にられば
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/10/24


みんなの思い出



オープニング

「クソックソッ……人間どもめ……」
 悪態を吐く悪魔、ツォング。先日のことを思い出すと、胸の奥辺りがむかむかしてくる。
 神器探索中、撃退士たちに出し抜かれ、神器はおろか堕天使をも取り逃すという失態を犯し、おめおめ引き下がる羽目となってしまった。
「そういうときはただ暴れてみるのも良いですよ」
「いや、俺はお前と違う……と言いたいところだが、こう撃退士たちがぐしゃぐしゃにされる様を見るのもまた一興か……?」
 ハァと嘆息しつつ、趣味の違う同僚に女悪魔、ディエンヘルは答える。
「ちょうど、あの地区で撃退士たちが抵抗していたでしょう?」
「あぁ、そういえばあったな……これを機に叩き潰しておこうって腹か」
 なるほどと、ツォングは呟き、口角を歪める。ちょうど良い獲物たちだ。
「とかく、油断はしないことですね……」
「ふん、どうせ、お前のディアボロを借りるんだ、油断もくそもあるまい」
「それも、そうですが……私の可愛いコレを使い潰すなどあってはなりませんよ!」
「はいはい……」
 そんな会話が繰り広げられていたとかいないとか。

 戦場は常に地獄だ。飛び交う怒号と、悲鳴。舞う血飛沫に、アウルという超能を使った光塵が煌めく。
 ここは、人類と天魔の存在するまさに境界。今日という日も、そこは当然のように地獄絵図があった。
「クソッ、敵の数にゃ限がねぇのかよ!」
 悪態を吐きながら、傍にいたグールを一突き。手の延長であるかのように剣を流し、そのまま体を切り裂くと、背後から寄っていた他のグールを切りつける。
 威力が弱かったのか仕留めるには至らなかったが、今度は右手から光弾がグールを貫く。ふぅと安堵の息を軽く吐きつつ、剣を持った少年は援護してくれた少女の方を見やる。
「でも、さっきより勢いがないわ。まだ、こっちの援軍もくるみたいだし、何とか……!」
 近くでは無数のディアボロと数人の撃退士がすさまじい攻防を繰り広げている。普通の人間には視認不可な動きでディアボロを切り刻む者もいれば、遠距離から光球を放つ銃撃で蜂の巣にする者もいる。今、残っている彼らは新米より頭一つ抜けた強さの者たちだった。
 それでも、ディアボロたちは負けじと数に任せて、撃退士たちに襲いかかる。
 初めは数十人規模での戦闘だった。だが、今残っているのはその半分もいない。一部は傷がひどく撤退したが、多くの者はディアボロの群れに襲われ絶命した。その場には人と化生の屍が築き上げられている。
 現状、有利なのは人類側のようだ。多くの損害を出しつつも、敵にはそれ以上の出血を強いている。敵の勢いも最初に比べれば、まったくない。このまま行けばと撃退士たちの誰もが思っていた。
『オォオォオオオオオオオ―――!!』
 突如、凄まじい咆哮が響き渡る。と、同時に地鳴りのような音と共に、目の前の建物が倒壊していく。
 さらにはそこから、凄まじい熱風が吹き荒れてきた。
「―――避けろ!!」
 その言葉に反応できた数人が飛び退るが、怪我により反応の遅れた者が巻き込まれてしまう。その場にいたグールもろとも炎風によって焼き払われ、ばらばらと墨になったものが宙を舞っていった。
 轟々と巻き起こる熱風による上昇気流。その先に立つのは―――。

 数分後、謎の敵の到来の報を受け、援軍に到着した貴方たちは敵の詳細を探ることを命じられた。
 最奥で戦っていた味方全滅の知らせ。それを知らせに来た撃退士も、それのみを伝えたところで絶命したとのこと。
 よって、謎の敵が撃破可能であれば撃破。不可能であれば、全軍撤退の指示を下すこと。
 そう指示され、戦場へと送り出されていく。次なる一手を打つために―――。


リプレイ本文

 先行部隊全滅。
 その報を受け、八人の撃退士たちは死地へと向かうことになった。
「これは気が抜けないな」
 御暁 零斗(ja0548)がそうこぼす。並の敵でないことは明らかだ。
 ただ、情報があまりにも不足している。撤退するにしても、それに足る情報を得て来なければならない。なぜなら、戦局としては、こちらが押しているのだから。
「どんな敵なんですかね?」
「ほんと、いったい何が現れたんでしょうねー……」
「ディアボロではなく悪魔だったんじゃないのか?」
 佐藤 としお(ja2489)と櫟 諏訪(ja1215)の疑問に、大炊御門 菫(ja0436)はそう推測する。それならば、全滅も納得がいく。特に強力な悪魔が、出現したとすれば。
 だが、ディアボロと言う線も捨てきれない。強力なディアボロであれば、数人程度は返り討ちにする可能性すらある。
「司令部の方から、無線機を渡してもらいましたから、いざとなったら……」
 用意していた物を渡すまでもなく、撤退の指示はこちらへ頼むと渡された。いざとなったら、撤退しましょうと、鈴代 征治(ja1305)は告げる。
「そうだ。一部隊が全滅したんだ、撤退戦という意識でいこう」
 龍崎海(ja0565)がそう告げると、司令部からできれば撃破して欲しい旨を伝えられる。悪魔などであれば、そうもいかないが、ディアボロであるならば、可能な限り、と。最悪、増員も考えるが、引き際は誤らないでほしいと伝えられる。押せる時は押す。そうしなければ、人類の存在地域は大きく狭まってしまうだろうから。
 一考しつつ、それは厳しいだろうと、誰もが思う。
 一部隊があっという間に全滅。どう考えても、異常である。八人は、危険を冒さないことを視野に入れつつ、準備を始めていった。それが吉と出るか、凶と出るか。今、この時点では分からない。


 戦場を進んでいくと、遠くから戦闘の音が聞こえる。剣戟の音、苦悶の声。アウルの弾ける光に、グールの腐敗臭。異能でありながら、そこは撃退士にとってありがちな戦場であった。
 その中を八人は進んでいく。
 零斗は道なりに進みながら、撤退に必要な経路を書きだしていく。実際の地図では分からないが、ビルが倒壊し行き止まりとなっているところもあった。壁走りや撃退士の身体能力を以てしての跳躍なら飛び越えられるかもしれないが、わざわざ通る必要はないだろう。地図に、書き込みながら、迂回路を取る。
 特別に、強力な敵は未だ見当たらない。出てくるのはグールとスケルトンばかり。
 黒井明斗(jb0525)が十字槍で敵を突き刺し、水葉さくら(ja9860)はパルチザンで薙ぎ払う。向かってくる敵は、ほとんどが前衛の攻撃だけで蹴散らせる。
 しかも、群れてくるわけでもなく、数は少ない。
 大勢としては、確かに押しているのだろうと思えるほどだ。
 だが、それがかえって不気味だ。
(こんな状況で全滅……?)
 さくらはそれを不思議に思う。何がこの奥に待っているというのだろうか。


 最奥に着いた時、そこには瓦礫と溶けたアスファルトがあり、さらには焼け焦げた人間の遺体が数体とグールが転がっていた。
「これは酷い……!」
 その様子を見て、明斗が憤る。頭に血が昇りかけるが、約束を思い出す。『必ず、帰ってくる』という約束を。
 ブンと頭を一振りし、怒りを逃す。今は情報を集めることが先決だ。
「まずは手掛かり捜索ですねー」
 諏訪はそう言うと、地面に屈む。明らかに、熱か何かでやられたような跡だ。まだ熱を持っているところを見るとそう時間は立っていないようだ。周囲を警戒するが、自身のレーダーに感知する様子はまだない。今は何処かへ行っているのか。
 菫も、周囲を見て回る。どれほどの攻撃範囲を持っているのか、だ。それは重要なところ。
 アスファルトは、横幅4メートル、奥行き20メートルに達しようかという程、長大な範囲が溶けていた。
「かなり遠距離から攻撃してきてますね、これは……」
 征治がそれを察して呟く。
 周囲の瓦礫は崩されたものだろうか。一見して、違いは分からない。だが、方向を見ると、奥からの一撃でビルが崩されているようにも見えることにとしおは気付く。
 相手は、巨体―――? そんなことをふと思いつく。
 その時。
「おい、何か聞こえないか……?」
「この音は……右手から!?」
 耳を澄ましていた零斗ととしおが、戦闘の音とは違う異音を感じた。
 ズン、ズンと、響くような。それは、足音か。
「! 右手に未確認の敵発見ですよー! 注意してくださいなー!」
 諏訪のあほ毛レーダーがビンビンと右手を指していた。
 その言葉に、全員がパッと散開する。状況を鑑みるに範囲攻撃を持ってるに違いないと判断しての行動だ。
『オォオォォオオオオオオオ!!』
 直後、とてつもない咆哮が響き渡ると同時に、巨体が迫ってきた。
「避けろ!」
 警戒していたとしおは、明斗に警告を飛ばしつつ、その場を飛び退る。
 二人とも間一髪のところで避け、大事には至らない。
 迫ってきた巨体は、崩れていなかったビルに激突すると、そのままビルを倒してしまう。ガラスの砕ける音、朦々と立ち込める土煙。
 ぐるりと、巨体が振り返る。
『グルルルルルル……』
 皆、その巨体に目が釘付けになっていた。
 今から相手にするのは―――。
 体躯の一部から骨の剥き出たまぎれもない竜だった。
「あれが相手……?」
 その巨体にさくらが動揺したように、言葉を零す。
 その姿、まさに竜の生ける屍。爛々と光っていたであろうその瞳は陰りに灯り、体に付く屍肉から放たれているであろう腐臭が鼻を吐く。
 敢えて、それを呼称するならば―――ドラゴンゾンビと、そう呼べるだろうか。
『ゴァアァアアアア!!』
 冥府の堂々たる覇者が八人に牙を剥いてきた。


「アレがディアボロ!?」
 菫が武器を構えながら、驚愕する。
 その巨体たるや、悠に5メートルを超すだろう。ボロボロではあるが、羽もある。それを広げたら、一体、どれほどの大きさか。
「ドラゴン、だと……!?」
 実際にドラゴンを見たことのある零斗は、すぐさま警戒を顕わにする。
 ドラゴン。それは、数十人規模で討伐―――正確にはぎりぎり撃退できる程度であるが―――する対象だ。それのゾンビとは言え、絶対的に力で劣るという訳ではないだろう。
 それでも、何とか戦わなければならない。
「ハァアアアア!」
 覇気と共に、菫が己の闘気を解放する。それを目ざとく見咎めたドラゴンゾンビがゆったりとした動きでそちらの方へ向く。
「気休めかもしれませんが!」
 明斗が敵の炎ブレスを魔法攻撃と推測し、菫へアウルの衣を纏わせる。
 直後、ブレスが菫と後方にいた零斗目掛けて、吹き荒ぶ。
 強力な熱風を、零斗は飛び退ることで間一髪回避。
 対して、菫は、これを耐える。強力無比な邪炎が菫を包み込んだ。
 体のあちこちに酷い火傷を負う。だが、耐えきれただけ凄まじいと言えるほどだ。明斗の加護の効果も、功を奏したか。
 菫は呼吸を整え、アウルの力で以て、傷を癒す。明斗もまた細胞を活性化させる力を与え、傷を一気に癒す。
 その隙にと、撃退士側も攻勢に移る。
 零斗の放った烈風の魔法が、敵の胴を切り裂くが、大して損傷を与えた様子もない。
「頭を狙いましょう!」
 征治の声で、諏訪、征治、としおの三人はドラゴンゾンビの頭へ狙いを定める。
 鈍重な動きのドラゴンゾンビ。避ける様子もない。
 諏訪のアシッドショットが命中するも、特に変化はなかった。腐敗に対して強い耐性を持っているとしか思えないほどだ。
「佐藤さん、続いて下さい! 行きますよ!!」
「了解!」
 征治の放った黒光の衝撃波が的確にドラゴンゾンビの額を撃ち抜く。しかし、腐り落ちたとはいえ、竜の鱗がそれの威力の大半を削いだか。
 続くとしおの強力な聖なる弾丸もまた額を撃ち抜いたが、これもまた竜の鱗が痛打を阻む。
 わずかに唸り声を上げながら、首を振るだけで大して効いている様子はない。
「これならば、どうだ!」
 海の超強力な聖なる力を宿した槍が、ドラゴンゾンビの頭へ迫る。だが、邪竜の鱗は貫けない。それでも、さすがに何度も攻撃されたせいか、呻き声を上げている。
「続けていくぞ!」
 強力な炎のブレスを菫が受け止め、撃退士たちは攻勢を保とうとする。
 さすがに、頭を集中され始めていることが分かったのか、ドラゴンゾンビは続く諏訪、零斗の弾丸を尾で弾き飛ばし、海と征治の槍による斬撃を腕で受けて耐える。
 隙を見ては、尻尾を菫へ叩きつけるが、菫もまた頑強にそれに耐え、明斗が回復し、互いに一歩も引かない。
 まともにやり合えていることに、撃退士たちは自分たちの実力が天魔のそれに近づいていっていることを実感する。一昔前なら、これほどに戦い合うことなどできなかったに違いない。
 そんな折、さくらは一人疑問に思っていた。何故、こんな敵が野放しになっているのか。どうやら、この敵の炎はグールをも葬っているということが、散策していた時に見つかっている。そんな敵味方お構いなく攻撃するような存在が野放しになっていれば、敵にとっても不都合なはず。
 ならば、どこかに、近くで手綱を握っている何かがいるはずだと、そう結論を出す。
「どこかに、何かいるはず……!」
 さくらの背から神々しいまでの天使の翼が生えると、ふわり宙に舞う。
 上空からならば何かを見つけられるはず。
 はたして、周囲のビルの影には。
「ツォング……!?」
「何!?」
 さくらの声に、征治が声を上げる。神器探索の時に邂逅した悪魔。その名をここで聞くとは思わなかったからだ。
 じっと見つめているさくらに気付いたのか。仕方ないと言った様子で姿を現す。
「あの時の撃退士か……お前は逐一、俺に嫌がらせするのが好きと見たが?」
 手を出してくる様子は無い。見つけられることは無いと思っていたツォングだったが、さくらの巧みな上空偵察により見つけられてしまった。
「どうだ、このドラゴンゾンビの強さは?」
 ドラゴンゾンビの傍に来ると、頭を撫でさする。唸り声を上げるも、ツォングへ従順に従ってるようにも見える。
 じりじりと八人は互いの間合いを覗う。ツォングから戦闘を行う気配はない。だが、ドラゴンゾンビの方はそうでもないようだ。
「そら、行けっ!」
 ツォングがドラゴンゾンビをけしかける。
 雄叫びを上げて、再度突進してくるドラゴンゾンビの攻撃を何とか回避する。
「悪魔、か。実力差は明白だ……撤退するしかない!」
 海が撤退を促す。無線機から、司令部の慌てた様子が伝わってきた。すぐさまに、全軍撤退の命令が下されたようだ。
「撤退戦と行きましょう! これ以上、戦うのは不味いです!」
 征治が声を上げて、全員は撤退に移る。
「フ、ハハハハッ、逃げ惑え、撃退士!」
 ツォングの哄笑が背後より聞こえる。
 追撃を掛けてくるドラゴンゾンビ。
 ツォングを巻き込まないようにして、突進してくる。
 それを八人は何とか回避し、海がお返しとばかりに聖なる槍を投げつける。それを左腕で受けたところで、足が止まった。
 その隙に距離を取るが、巨体に見合わず足が速い。羽で滑空するようにしているせいか。逃げ切るには、羽を落とす必要があるが、そんな時間はない。
「これでどうだ!」
 明斗、征治が発煙筒を周囲に撒き散らす。朦々と立ち込める煙に、視界を見失ったか、再び動きが止まった。
「こっちだ!」
 零斗が予め地図に記してあった裏道に率先して入り込んでいく。
 煙を炎のブレスで吹き飛ばしたドラゴンゾンビ。
 撃退士たちの撤退していった方向へ巨体は迫るが、巨体であるが故に建物を倒壊させるだけで自ら道を断っていた。
 ズンズンと体当たりを繰り返す様子が向こうから伝わってくるが、叶わぬと悟ったか、遠ざかっていく音がしていく。
「ふぃー、何とか撤退できましたかー……」
 諏訪が溜め息を吐きながら、そうこぼす。
 初手からの無茶をしない行動が功を奏したか、誰一人として深い傷を負うことなく撤退できたのであった。


 だが、結論として。
 敵の存在情報は掴めたが、相手の情報はそこまで掴めず。強力であることは分かったが、どれほどであるか、そこが判断し切れない。
 今回の敵は、確かに三十六計逃げるに如かずであろう。だが、深く逃げるか、浅く逃げて再起の一手を計るか。どちらにするかの判断を決めるのに揉めに揉めたという。
 結局のところ、念には念をと司令部は判断を下し、人類は戦線を大きく後退することとなってしまった。
 危険度が高いディアボロと想定され、冥魔支配地域が大きく広がったのである―――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
疾風迅雷・
御暁 零斗(ja0548)

大学部5年279組 男 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
エレメントマスター・
水葉さくら(ja9860)

大学部2年297組 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード