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マスター:にられば
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/10/12


みんなの思い出



オープニング

「ほぉ、これをここまで痛めつけられる奴らがいるのですか」
 傅く深紅の武者鎧と白磁の騎士鎧。その前に一人の少女が立っていた。
 見た目は少女だが、声はどこか老成された響きを感じる。
「面白い、実に面白いですね。私が相手するほどであれば」
 一人でうつむき、ブツブツと呟く。
 ひとしきり考え込んだ後、そこで何かを思いついたようだ。
「良いでしょう、お前たち。死んできなさい」
 残酷な命令を下す。
 それでも。
 ガシャリ、と。
 音を立てて、二体のディアボロは侵攻を始めた。
 その様子を眺める少女。その顔には、終始、好戦的な笑みが貼り付いていた。
 
「今回、集まってもらったのは他でもない」
 集まった撃退士たちを前に、職員は一気に続ける。
「先日、強力な鎧型ディアボロ二体が発見された。交戦した結果、一体を半壊まで追い詰めることはできたが、撤退せざるを得なかった。とは言え、そもそも、撃破対象ではなかったわけだったが」
 これは余談だったかと続け、報告書については別途参照してくれとのこと。
「それで話を戻すが、このディアボロたちがどういうわけか、わずか二体で侵攻してきた」
 二体でできることなど高が知れているだろう。しかし、放置しておくのも問題だ。強力なディアボロであることには変わりない。そこで、計12名の撃退士たちを送り込むことにしたらしい。
 以前に比べて、撃退士たちの力も強くなっているだろう。今ならば、この人数でも撃退できると判断されたため、ここで一気に片を付けようという話だ。
 今回、敵が攻めてきているので、できるかぎり侵攻を許さずに撃破してほしいとのこと。
「それではよろしく頼む」
 そう締めくくり、依頼は始まる。


リプレイ本文

 敵が侵攻してきている。ならばと、撃退士たちは、敵を罠にかけることにした。
 作戦としては、鬼武者のみを誘き寄せ、ビルなどを倒壊させた後に、生き埋めにすることだ。
「手頃な倉庫などがあると良いのですが……」
 九条 朔(ja8694)が不安そうに地図を寄せる。自分の部活の部長をあっさりと破った相手だ。できることならば、罠にはめて危険の少ないうちに倒しておきたいという心が湧いてくる。
 しかし、罠に適した建物と一口にいっても、そう簡単には見つからない。しかも、そこへ誘導をするということだったが、具体的な誘導案が難しい。二体を誘導すると単に言うだけならば簡単だが、どう誘導するのか。そこは極めて重要な問題だ。それなくば、この案は元より成立しないだろう。
 攻撃を仕掛けて誘導するという案もあったが、敵は現在侵攻中の上、前回の依頼より逃げる相手を追わない性質を持っていることが分かっている。それで、どう誘導するかは想像に難い。下手すると、軽く攻撃する程度では無視して侵攻を続けるかもしれない。
 では、デュラハンの頭を狙うか。しかし、それではデュラハンしか釣れない可能性がある。
 それに単に攻撃だけで長距離を引っ張ってくるのは極めて難しい。なかなかに問題だ。
 必然、目的とした建物は、敵の侵攻予想ルート上になければならなくなった。
 運が良かったのは、そこに比較的適した建物があったことだろうか。十分な階数を備えた崩壊していないビルがあった。
 とは言え、目的とするには少し狭く、周囲に遠距離から狙撃しやすい場所は見つからない。銃撃となると近距離、堂々と正面に向かわなければならないだろう。
 それでも、ないよりはマシな場所だった。
「完全に条件と一致する場所はない、か」
 アスハ=タツヒラ(ja8432)が溜め息をつきつつ、少し残念そうに言う。色々と探してみたが、やはりベストな場所はなく、せいぜいが前述のベターな場所くらいか。
「それに、上手く罠にかかってくれるんでしょうかねぇ」
 たゆんと揺れる胸の下で腕組みしつつ、アーレイ・バーグ(ja0276)が心配事を告げる。
 問題はそこにもある。
 これに失敗して動揺するようなことがあってはならない。
 アーレイは気を引き締める。もしかしたらの事態を想定するのは悪くないことだった。


 現場に着いて。早速、撃退士たちは罠とする建物を見つけ、破壊工作を始める。
「いやー、作戦の立案なんかは任せちゃって悪かったねー」
 そう言いながら、ガシガシと村雨 紫狼(ja5376)は支柱を削る。代わりに体を張らせてもらおうと張り切っているところだ。
「別に問題ないよ。そんなことより、早く戦いたいかな!」
 雨野 挫斬(ja0919)が待ち遠しそうに言う。きっと、強敵で―――彼女にとって壊し甲斐のある相手だろう。破壊衝動を素直にぶつけても良い相手と言うのはやっぱり嬉しい。天魔に対して愛欲が混ざった何とも言えない感情に支配された彼女は、ただただ敵を求めていた。
 その横では、黙々と夏雄(ja0559)が手斧でビルの支柱を削っていた。
 彼女は、前回の作戦に参加していた一人だ。
 だからと言って、リベンジと言うほど気負っているでもなく。どこか、そう、ちょっとした物忘れに引っかかるような感覚だった。別に放置しておいても構わないかもしれない。ただ、そのままにしておくというのも気兼ねする。そんな得も言われぬ感覚。そんな気持ちを抱きつつ、手は動かし続ける。
 もう一人、前依頼参加者の清清 清(ja3434)は、終始笑顔だった。しかし、十六夜と言う役を演じているだけの彼、心中では以前の敗北を決して忘れているわけではなかった。今回は、意地でも倒す覚悟を持っている。
「それにしても、このディアボロの動き、不可解さねぇ……」
 九十九(ja1149)が、今回のディアボロの動きについて不自然な物を感じる。何らかの意図があるのだろうが、まったく読めない。侵攻するなら数を以て、しかも傷を負っていた者がいるならば回復させて行うだろう。もしかしたら、想像よりもはるかに厄介な意図があるのかもしれないと心中で警戒を強めておく。
 そして、絶対に敵を倒し、皆で無事に生還しようという思いを胸に抱くは、青戸誠士郎(ja0994)だ。この依頼は明らかに危険だ。単純に敵が強い、それだけだが、それ故に危険の回避が難しい。だからこそ、罠という手を使ってでも、敵の足を止めることが必要だと思う。
 揃って、支柱を削る。それが勝利に繋がると信じて。


 同刻。
「こちら大通り地点。討伐対象を発見した」
 山本 詠美(ja3571)は、ディアボロと鬼武者の二体の姿を見つける。ルートは予想通りで、大通りをひたすらに直進している。このまま行けば、罠としている建物の近くを通るだろう。
「個人的にはガチ殴り合いでも良かったんだけどねぇ」
 敵を見やりながら、鷺谷 明(ja0776)は呟く。だが、罠にはめてそれで倒すのもそれはそれで面白い。
 彼は享楽主義者。愉しければ、何でも良い。それが、どんな手段であっても。
 手段と目的を履き違えてはならない。彼にとっては、手段がどうあれ、楽しければいいのだ。
「何、手があるにこしたことはない。敵は強い」
 明の言葉に、淡々と詠美は返す。
「まだ若い命を、潰えさせるわけにもいくまい?」
「ふっ、それもまた然り、だな」
 年長の二人は、今は罠を作っているであろう年下の生徒たちの身を案ずる。
 そして、数分後。
『罠が完成しましたよ』
「了解、これより作戦を開始する」
 誠士郎からの電話連絡により、作戦の開始を告げる旨が伝えられる。
「では、行くとするか」
 明と詠美の二人は、鬼武者とデュラハンの後をつけていくのだった。


「大丈夫大丈夫。集中して集中して……貴女ならできるよ、モモ……」
 己の名の一部が銘打たれたリボルバーを手にしつつ、目を閉じ自己暗示をかける草薙 胡桃(ja2617)。参加者の中では戦闘経験が少ない方だ。今回の敵に対する覚悟を決めなければ、即座にやられてしまうだろう。さらに、自分は囮という大役を担っている。一歩、間違えればという恐怖とも戦わなければならない。
 こちらに向かっているという連絡を受けて、胡桃は集中を高めていた。
「おぅ、草薙ちゃん、大丈夫かい?」
 心配したかのように、紫狼が声をかけに来る。
 彼女は囮。それが紫狼にとっては、心配だった。アラサー学生たる自分ならいざ知らず、これほど年端もいかない少年少女が、体を張って賭けに出るのは見るに堪えない。
 大丈夫だと答える胡桃はどこか強がっているようにも見えた。
 それを見やり、それなら心配いらないかと口では答えつつも、内心はいざとなったら我が身を盾にしてでも守ろうと思う紫狼だった。


 はたして、追跡班の連絡通りに、敵は予定侵攻ルート上を攻め上がってきた。
 道幅の広い道路を、ずしりずしりと歩く二体の呪鎧。
(細工は流々、あとは仕上げがどうなるか……)
 朔は敵を遠くより眺めつつ、ライフルをぎゅっと握りしめる。
 これからが、作戦だ。流れるような連携が試される。
 示し合わせたように明と詠美は頷き、踊り出た。
 罠となったビルの横を通りがかった瞬間、その横っ面から明と詠美が攻撃を仕掛ける。
 鬼武者へ影の一撃が迫るも、鬼武者はこれを見た目からは分からぬほどの速度で反応、回避。
 デュラハンへ迫る吹き矢の一撃は、運悪くデュラハンの盾に当たったのかダメージはない。
 それでも、引きつけるには十分か。
 何事かと見やる二体の呪鎧は、ビルの中からの攻撃を察知し、そちらへ向かう。
 釣られてくれたことに内心、二人は安堵しつつ、二人で射撃を繰り返す。
 それらを猛然と弾き返しながら、鬼武者とデュラハンは迫ってきた。
 ここで、すぐさまに二人はビル内から脱出する。

 誘いは上々。次は、一匹だけを釣り出す作戦。
 二人の脱出と同時にビルの影から、胡桃が姿を現す。
「……大事なら隠さなきゃ。小鷹の眼の届く所に出しとくから狙われるんだ、よっ!」
 集中し切った胡桃の銃撃は、見事にデュラハンが手に持つ首を撃ち抜いた。
 弱点だったのか、苦悶の声をあげる首。
 だが、直後には持ち直し、凄まじい雄叫びをあげながら、全力で移動しながらか鎧とは思えない速度で胡桃へと迫っていく。
 そこへ、立ち塞がる二体の影。
 デュラハンは一瞬だけ惑う。
 それも当然か。なぜなら目の前には、胡桃がさらに二人、突然と現れていたのだ。
(さて、策は成功かなっと……)
 内心で、詠美は策が成ったことを確信しつつ、敵の攻撃に備える。
 自身の首を攻撃したのは貴様かと言わんばかりに、怒りにまかせた三連撃が胡桃へと化けた詠美とその分身へ迫る。
 二撃は分身へ、一撃は詠美へ。
 その一撃に対して、朔が弾丸を放つ。
 ただただ振り回されただけに近い上に、僅かに逸れた一撃を、詠美は難なく回避する。
 一方で、鬼武者もすでにビル内に用はないかと言わんばかりに出口へと向かってきた。
「あはぁ、ここは通行止めだよ!」
 だが、ビルの影より現れた挫斬が凄まじい速度で掌底を放つ。
 的確に鬼武者の胴部を捉えた一撃。
 グシャリ―――と。
 鈍い音を立てて、鬼武者の鎧の一部がひしゃげつつ、再度ビル内へと吹き飛んでいった。
 ジャリジャリと、瓦礫を擦る音が聞こえるが、途中で踏ん張ったのか、音が止む。
 だが、今こそが好機。
「今、だ!」
 アスハの声と共に、銃撃や斬撃がビルの一角を抉っていく。ぐらりと傾いた最後の止めとばかりに、アスハの魔法が炸裂する。
 周囲に魔法陣が生じたと思うと、そこから機関銃の如くアウルの弾丸が吹き荒ぶ。鬼武者をも巻き込んだその一撃に、残った支柱は耐えきれるはずもなく、砂となったかのように粉々に砕け散った。
 ついには、ガラガラと音を立て、ビルは崩れ去っていく。
 鬼武者を生き埋めにして。


「二度目のご来場、まことにありがとうございますっ」
 素敵に愉快に。清―――十六夜は笑みを浮かべて、一礼した後に来客を歓迎する。
「今宵も存分にお楽しみくださいま、せっ!」
 矢がデュラハンへ迫る。
 カッと音を立てて、盾で防がれるも、次に備えて矢を絞る。
 デュラハンの足が止まった。
 そこへ、アーレイの強力な魔力による暴風がデュラハンを捉える。
「あら、状態異常に耐性があるんですかね?」
 本来の敵なら意識も朦朧とするはずの、強力な回転撃にあっさりと耐えきる。
 だが、傷自体は凄まじく、前面の大きな傷がさらにねじくれていた。
「やぁやぁ、鎧君。久しぶり。髪切った?」
 その聞き覚えのある声に反応したのか、一瞬だけそちらを向くデュラハン。
「今回の豆鉄砲は、一味違う! ……のかもね?」
 アサルトライフルから放たれた連弾が、盾を構える前にデュラハンの鎧を抉っていく。
 さすがにガシャリと膝を突き、苦悶の雄叫びをあげた。
「!! 鬼武者が出てきたわ!」
 だが、そこで、朔から良くない報が飛ぶ。
 ガラガラと瓦礫を押しのけ、周囲の分は力任せに吹き飛ばし、あっさりと鬼武者は脱出を図ってきた。ディアボロとは言え、天魔の一員。そう簡単に長い時間の足止めはできないだろう。
 さらに、デュラハンもまた鈍い音を立てつつ立ち上がる。眼光には赤い光が灯っている。
 狙いは胡桃か。
 詠美がそれを阻止するべく、吹き矢を放つ。避けようとしたが、胴部をしっかりと捉えたその一撃は風穴を開けていく。
 ただ、止まりはしない。
 胡桃もまた距離を取りつつ発砲するが、想像以上の速度で迫ってくる。
 誠士郎の放つ阿修羅の重い一撃を盾で弾き飛ばし、九十九の放った洋弓からの一撃で体勢を崩し、挫斬の偃月刀の一撃で盾を持つ左手を切り飛ばされてもなお止まらない。
 もはや、最後の一撃だろう。頑なにただただ突撃することのみを命じられた敵の末路。
 ドンと清の放った弓の一撃で完全に動きを止める。
 しかし、敵もまた必死。残った最後の力で胡桃へと、三連撃を放つ。
(避けきれない……っ!?)
 あまりにも、素早く鋭い一撃。距離を取ろうにも猛スピードで詰め寄られてしまっていた。
 迫りくる衝撃に、耐えようと目を瞑るが、一向に痛みはやってこない。
 そっと、目を開けるとそこには、紫狼が立っていた。
「へ、へへっ……体を張るのは、俺みたいなアラサーだけで十分だぜ……?」
 ブシュッ、と。音を立てて、赤い紅い血が勢いよく噴き出す。
 血煙の中に立ち塞がるのは、紫狼の姿。
 そう、心配だったのだ。囮となる彼女が。
 どこか強がっている彼女を守らなければと。
 だが、身を切り裂くは、鋭い太刀による三連撃。今でも、意識を保っていること自体が奇跡的だろう。
 ポタポタと零れる命の雫。
 ハッハッと息は浅く鋭くなっていき、胡桃が手を伸ばす直前に崩れ落ちた。
「こっのぉ……!」
 怒りに身を任せて、銃を構えるが、デュラハンもまたすでに崩れていた。
 しかし、嘆くにはまだ早い。
『オォォオオォォォオオオ!!』
「次はアンタよ、待ってなさい!!」
 雄叫びをあげる鬼武者めがけて、胡桃は銃を構えた。
 まだ、敵は残っている。


 雄叫びを上げた鬼武者へと、明が飛び掛かる。残った瓦礫に足を取られたか、一手だけ動きの遅れた鬼武者の頭を万力のような力で締め付ける。
「どうだ、効くだろう……!?」
 メキメキと音を立てて、軋む鬼武者の兜。掴む腕を断ち切ろうと、刀が奔るが、それより早くに彼は鬼武者を投げ飛ばしていた。
 投げられながらも体勢を立て直し、胡桃の放った弾丸を大太刀で弾き、攻撃を寄せ付けない。
 迫る挫斬の斬撃も大太刀であっさりと受け止めると弾き返し、誠士郎のヨーヨーの一撃さえも避けきる。
 鈍重そうな鎧からは想像も付かない軽い動き。デュラハンとは違い、回避主体の敵か。
 アーレイの魔法の一撃で、ようやく捉える事が出来た。
 それでも、動きを止める様子はなく、さらに大して効いている風でもない。まだまだ余力はありそうだ。
(こちらも状態異常に抵抗が……なかなか面倒くさい敵ですね)
 動きの鈍らない敵の様子を、心中でそう評するアーレイ。
 素早い敵ならばと詠美が体を崩すように誘導するが、胡桃の射撃を太刀で弾きながら、崩れた体勢をあっさりと立て直す。
 だが、九十九が眼前に放った弓で、それを避けることに集中し過ぎたせいか、動きが一瞬だけ鈍る。
 そこを貰ったと言わんばかりに、夏雄が壁走りを使った上で高所から銃を連射する。
 タタタと軽快な音を立て、機関銃から放たれた銃弾はようやく鬼武者の動きを止めるに至る一撃を入れる。
 動きの止まったそこへ、朔の冥府の力を込めた銃弾が貫いていく。
 しかし、その二撃でも、瀕死には至っていない。朔のダークショットもさして効いているわけではない。
 恐らくは、冥府側の力を持っているのだろうか。
 朔はそう推測しつつ、敵の動きを見やる。
 直後、近くにいた明と挫斬目掛けて剣閃が奔る。
 明へ二発、挫斬へ一発ずつ。
 盾を構えた明は、鬼道忍軍とは思えぬ金剛のような肉へと体を変え、その二撃に耐えきる。
「グゥッ……! 効く……が、ぬるいっ!」
 一撃は受け切れず鋭く切り裂かれたが、一撃は盾でしっかりと受け、ギリギリのところだが意識は残す。
 すぐに、アウルを体内で燃焼。傷を癒しつつ、動きを素早くする。
「アハァ! 危ない危ない! でも、まだまだかなァ!」
 挫斬は寸でのところで、上体を反らし、朔の回避射撃もあって、これを回避。髪の一房を切り裂かれるだけに至る。
 互いの動きと戦況は、デュラハンを倒した現在で七分三分、撃退士側に有利と言ったところか。


 だが、だからと言って戦況を計る能力など、このディアボロにはないのだろう。遮二無二、向かってくるだけだ。
 攻撃直後の隙を突いて、アスハが収束した魔力を解き放つ。
 戦乙女を象ったその魔力は、鬼武者へ槍を突き刺すと、じわりと鎧を溶かし爆破四散する。
 何とか態勢を立て直し、すぐに動きだす鬼武者。
 その直後、凄まじい攻防が繰り広げられる。
 夏雄と誠士郎の連撃を回避、直後の胡桃の銃撃は狙いを絞りすぎたためか、容易く避けられる。
 鬼武者の放つ三撃の連閃を、明はその上がった身体能力で回避、挫斬もまた再び朔の援護により回避する。
「誰一人も……討たせはしません」
 朔のフォローも良い具合に生きている。
 続いて、詠美と九十九の攻撃で体を崩すも、その状態から挫斬の剣を受けて弾き飛ばす。
 お互いに一進一退。一歩も譲らない攻防。
「貫きなさい、グリムっ」
 それを破ったのは、清の放った聖なる槍の一撃。光纏の一部―――彼にとって火星に位置する部位―――が輝き、紅の槍が鬼武者へと迫る。
 不浄を払う戦神マーズの一撃。ズンと凄まじい音を立てて、鎧を貫く。
 だが、直後のアスハとアーレイの魔力による二撃を、斬撃で回避。
 まともにぶつかり合っては、埒が明かないほどだ。
「厄介な太刀筋ですね……」
 一旦、鬼武者と距離を取りつつ、誠士郎が敵の太刀筋を評価する。あの太刀によって、攻撃が防がれている。ある意味で、デュラハンの盾よりも厄介なそれ。もう少し、連携に気を使った方が良いか。
「とは言え、動きは鈍ってきてるねぃ」
 それでも、一撃一撃を的確に与えている分だけ、こちらが有利か。敵の動きも僅かに鈍ってきている。
 明は回復に専念し、無傷に至る。後は一度か二度の三連撃に耐えれば、こちら側に一気に傾くか。
「僕に、任せてはもらえないだろう、か?」
「何か策があるのか……?」
 アスハの言葉に、詠美が応える。
 こうしている間にも、敵とこちらの距離はじりじりと迫ってきている。敵の間合いに近づくまで、後一歩と言ったところだろうか。
「ある」
「そうか、なら時間を稼ごう!」
 そう言って、詠美は駆ける。敵の動きを鈍らせるために。その動きに、九十九と誠士朗も何かを感じ取ったのか、連携するようにして敵の動きを封じていく。
 それでも、太刀筋は凄まじく、まともに攻撃を通してもらえそうにはない。
 現に、明と挫斬の一撃は避けられてしまう。それを受けての、清の弓撃がようやく突き刺さるも、カオスレートの関係上と言ったところか。
 明と挫斬に迫る斬撃が多い。さすがに、朔の回避射撃も追いつかなくなってきていた。
 血飛沫の中、二人は耐えきる。すぐさま自身の回復術と、九十九の応急手当てにより一命は取り留めるが、次は耐えきれるか怪しい。前衛の二人が倒れるとなると、一気に戦局が傾きかけない。
 一手、敵が多い。剣戟を行うべく、鬼武者がその腕を振るう。
 そう思った直後に、味方の影から、アスハが敵へ猛然と肉薄する。
(分の悪い賭け、か……?)
 その手に、デュラハンの盾と鎧を構えて。
 風を纏い、身軽になってはいるが、二つの物を抱えている以上、少し鈍重になっているか。それでも、これなら盾がわりになるかもしれないとした賭けだった。
 一瞬だけ、敵が手を躊躇するが、敵に違いなしと斬撃を振るう。
 あっさりと盾は砕け、鎧も散る。わずかに斬撃が、アスハを断つ。
 それでも、速く。敵の間合いから、さらにその奥へ。
 残った一撃がアスハを中程まで断つがそれよりほんの一瞬だけアスハの方が速かった。
 しっかりと地を踏み込み、相手の間合いの中の中まで入り込む。それで、わずかに敵の手が鈍ったか。太刀の一撃は致命に至らない。
「零距離、取った、ぞ!」
 ズドンと凄まじい音を立てて、強力な弾倉からの一撃が敵を貫いていた。


「まだ、動く、か」
 刀を突発的に離し、威力を殺したか。
 致命的な一撃を受けつつも、ギギと軋む音をあげ動こうとする。
 アスハもまた限界に近いが、あちらもまた限界だろう。
 大勢は決しているが、それでも前へ前へと進もうとする鬼武者。
「その意気や、良し! さすがは私の作りしディアボロ……ですが」
 その瞬間、目の前から大きな声が響く。
「もはや、勝負は決しましたね! さすがは撃退士! やります!」
 と、同時に、鬼武者が一刀の元に両断された。覗く刃は、凄まじく巨大な槍斧のそれだった。
「新手、か……? 情報にはない、ぞ」
 斬り込まれた刀を抜きつつ、困惑したようにアスハが呟く。
 漆黒の翼と腰まで届かんばかりの長い髪。その頭には、羊のようにくるりと一巻きした角を持つ。
 現れたのは―――悪魔。十中八九、そう取れる出で立ちのモノだった。
 撃退士たちに緊張が走る。
 悪魔となると、ディアボロたる呪鎧と何か関係があるのだろう。言葉から察するに、その主。
 危険な相手が目の前にいると言うのだ。
 そんな中、呑気にアーレイ。お互いの体を見比べて。
「私の方がスタイルは上ですね!」
「う、くっ……いや、世の中、胸だけじゃないはずです……」
 少し貧乳気味なことを気にでもしているのか、アーレイのたゆんぷるんと強調された胸に意気消沈する。
 わずかに空気の弛緩した中、時間を稼ぐ目的もあって、九十九が質問する。
「あなたがさっきのディアボロたちの主さんかい?」
「……えぇ、そうですが」
「突発的な侵攻をするにしては不自然だし、こんな何もない場所にディアボロを配置する。意図が全く読めないねぇ」
「? そんなこと単純ですよ。貴方たちのような強い撃退士たちを釣りだして、戦うためです」
 一瞬だけ疑問の顔を呈した後、嬉々として述べた。彼女はただただ戦いだけ。そう告げる。
「貴様の手札、強いには強かった、が……この程度、か?」
 傷を庇いつつ、アスハが問う。敵を潰し切った撃退士たちの方が実力は上。特に、こちらに無傷な者が多いほどには、圧勝だった。
 それに、少しばかり嘆息しつつ、ディエンヘルが答える。
「えぇ、私の持つディアボロの中ではかなり上位のつもりでしたが……貴方たちのお眼鏡には適わなかったようですね」
 そして、ざっと仁王立ちし、槍斧を構えると。
「どうです、代わり、私と勝負といきませんか? あの、鎧たちを倒すほどの腕前。撃退士の中ではなかなかとお見受けします」
 そうのたまった。
「参ったねぇ……悪魔とやり合うのはごめんなんだがねぃ」
 冗談じゃないと九十九は思う。先の戦いで悪魔の強さは思い知っている。十の内、十、ここは逃げの一手だ。
 だというのに。
「ふふふ、貴女強そうだね? お名前は?」
「私はディエンヘルと申します。貴女は?」
「私は雨野挫斬だよ! よろしくね!」
 これから友人同士になるかのように二人は挨拶し、握手まで交わす。二人とも不気味なほどに笑顔だ。
 そう、これからは楽しい時間が始まる。それを二人とも楽しみにしているのだ。
「クッククッ、クハハハハハッ! 面白い相手が来たな、これは! その誘い乗った!」
「それは無茶です。新手に応戦するほど、余裕はないですよ」
 明の哄笑に対して、焦ったように誠士朗が告げる。傷のある者は少ないが、ほとんどスキルを使ってしまっている現状きついだろう。加えて、悪魔相手にこの人数は拙いと分析する。
 だが、ディエンヘルと挫斬、明は戦う気満々のようだ。
「実に良い、良いですよ! 貴方たち二人、気に入りました!」
 豪快に受け答えする女悪魔ディエンヘル。ただ、少し思案顔の後に、はっと思いついたかのようで。
「とは言え、手負い相手に本気を出すのも面白くありません。私は腕一本でお相手しましょう」
 己の武器と思われる槍斧を背に預け、片腕一本のみを突き出す。わざわざハンデをつけてきた。
 しかし、その体から滲み出る魔力の重圧はまさしく本物の悪魔。
「これが悪魔……分が悪い。本気で言うわ。退きましょう、二人とも」
 朔が歯噛みしつつ、そう忠告する。
 だが、挫斬と明は止まる様子を見せない。
 苦虫を噛み潰したかのように朔は顔を歪める。これだから、戦闘狂は。
 いや、しかし、殿とも取れるか。そう思い直し、朔は再び銃を構えた。
 すでに挫斬と明は完全に戦闘態勢だ。
「アハハハ、余裕のつもりかな! でも、関係ないわ! 遊びましょ! 解体してあげる!!」
「掛かってきなさい!」
 漆黒の大鎌を目にもとまらぬ速さで振り回し、ディエンヘルへ斬り込む挫斬。
 その一撃一撃を正確に避け。
「筋は良い、ですが」
 途中で動きを止め、あろうことか振り下ろした鎌の一撃を素手で受け止める。僅かに血が零れるが、それだけだ。
 ぐっと鎌を引き、その手で正拳を突き出した。バランスを崩した挫斬の胸部を強打する。
 まるで毬が跳ねていくかのように、挫斬の体が吹き飛び、壁へ叩きつけられた。
「か、カハッ……」
 息はあるが、呼吸もままならないか苦しげに呻く。
 それでも、顔には笑みを浮かべていた。あぁ、これが悪魔かと。全力で壊しても良い相手がいることに、彼女は悦びを憶える。
 一方で、戦闘により乱れていた陣形から、すばやく撤退の状況に持っていく他の撃退士たち。
「僕も、殿に残って、良い。と言いたいが、この傷では、な」
 アスハが少し苦しげに呻く。
「私もカオスレートの関係上、やり合うのは愚策ですね」
 通常なら殿に残れるアストラルヴァンガードたる清だが、相手の冥府の力がどれほど強力か。それ次第では、逆の結果を生み出しかねない。
「何、あんなのとまともにやり合う必要はない。早く撤退の準備といこう」
「そうね、悔しいけど、撤退するしかないわね。私は雨野さんを連れてくるわ」
 詠美の言葉に、胡桃が同意する。傷ついた挫斬に肩を貸しつつ後方へ下がり、撤退の準備を続ける。
「後ろががら空き、もらった!」
 そして、挫斬に集中していたディエンヘルの背後から近づいた明が頭蓋を万力のように締め付けた。
「ぬっ!? ぐぅっ、なかなかの力ですが……!」
 だが、その腕を逆に掴むと、強引に振りほどく。その際、掴んだ腕を握り潰す。
 バキバキと骨の折れる音が響いた。そのまま地面に叩きつけた後、放り投げる。
 しかも、軽く頭を振るだけで、特に深い傷を受けてはいないようだ。
 だと言うのに、明は愉快そうに笑む。
「ぐっ、ごほっ……さすがに面白いねぇ!」
「私もですよ!」
 もはや、どちらも狂的だ。
 走り迫る明。次の一撃を受ければ、致命だろう。だが、鉄塊を振り下ろすべく接近する。
 無造作に、恐ろしい速度でディエンヘルの貫手が明を捉える。しかし、貫いていたのは彼が捨てたロングコート。
 空蝉の術だ。
 後背に迫っていたが、それを見抜いていたかのように振り向き様、拳を振るう。
「まだまだ! ぬるいですよ!」
 明の腹部へ吸い込まれるように右手が迫る。
 そこへ、銃声が轟いた。
 さらなる死角からの一撃に、思わずディエンヘルが左手でそれを薙ぎ払い、途端に動きを止めた。
「これ以上は、危険だわ……皆も撤退の準備はできた。退きますよ」
「………」
 そう言う朔に対して、ディエンヘルは無言だった。
 何事かと思うと、溜め息を吐き。
「思わず左手を使ってしまいました。今回は私の負けです」
 それだけを告げる。
「次は全力で相見えましょう。それまで、ごきげんよう」
 笑顔のまま、満足したようにディエンヘルは立ち去っていく。
 その様子を、撃退士たちは最後まで睨みつけたまま見送る。
 負けとは言っていたが、完全に遊ばれていた。
「強敵を倒せたと思ったら、さらに強い敵、ね」
 疲れたように夏雄が呟く。もう一つやり残しができたかのように、心にしこりが生まれたのを感じる。
 敵はまだまだ多い。撃退士と天魔の戦いは、これからも螺旋階段の如く連綿と続いていく―――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
 高松紘輝の監視者(終身)・雨野 挫斬(ja0919)
 赤目の麗人・山本 詠美(ja3571)
重体: ロリでごめん・村雨 紫狼(ja5376)
   <洋鎧の三連撃に対し味方を庇った>という理由により『重体』となる
面白かった!:10人

己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
沫に結ぶ・
祭乃守 夏折(ja0559)

卒業 女 鬼道忍軍
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
ルーネの花婿・
青戸誠士郎(ja0994)

大学部4年47組 男 バハムートテイマー
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
十六夜の夢・
清清 清(ja3434)

大学部4年5組 男 アストラルヴァンガード
赤目の麗人・
山本 詠美(ja3571)

大学部7年66組 女 鬼道忍軍
ロリでごめん・
村雨 紫狼(ja5376)

大学部7年89組 男 ルインズブレイド
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
迫撃の狙撃手・
九条 朔(ja8694)

大学部2年87組 女 インフィルトレイター