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マスター:にられば
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/09/06


みんなの思い出



オープニング

 天魔の襲来より、平和という言葉はなくなった。
「う、うわぁああああ!!」
 今日もまた、天魔の襲撃が街に悲劇をもたらす。
 爛々と光る複眼に、八本の足。顎から放つ糸で器用に人間を捕獲し、絡め取る。
 強力な昆虫界の捕食者が巨大な姿となって、人に牙を剥いていた。

 緊急の依頼だ、と。急いで、集められた撃退士たちに説明が始まる。
「巨大な蜘蛛型のサーヴァントが現れた。これを退治してきてほしい」
 だが、問題が一点ある。
「ほとんどの一般人の避難は済んだのだが……初期の襲撃で、何人かがこの蜘蛛に捕獲されてしまっている。遠くから確認したところ、現在は奴らの作った巣に磔にされているようだ」
 その人たちの救出も依頼の内容に含まれている。それだけで、難易度も跳ね上がるというものだ。その分、報酬は多めに用意してある。そう、告げられた。
「敵の数は2体。性質は限りなく、蜘蛛に近いだろうと予測される。特に気を付けるべきは、吐きつける糸か」
 絡め取られれば、動きに制限が付くだろう。また、救出の際に巣の上を移動するときも注意する必要があるか。
「敵の詳細はそこまで分かっていない。十重に気を付けて、行動してくれ」
 説明はそれだけで終わる。時間も惜しいとばかりに、撃退士たちは行動に移る。
 人を救うことができるのは―――彼らだけしかいない。


リプレイ本文

 周囲の避難が終わったためか、街中は特に音もなく、閑散としていた。
 天魔襲来。その一報のみで、即座に一つの街がゴーストタウンと化すほど、彼らは人にとって脅威なのだ。
 そして、そんな敵を屠ることができる唯一の人間たち。それが、撃退士と呼ばれる者たちだった。
「朝蜘蛛は親の仇でも殺すな、夜蜘蛛は親でも殺せという言葉があるけど」
 グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)がそんな日本の俗信を思い出す。しかし、天魔の使いたる蜘蛛であれば、朝だろうが夜だろうが滅さなければならない。
「蜘蛛は賢いからね。気を付けないと」
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)が用心したように、皆へ告げる。人間と感情も違う、冷酷な自然界の捕食者だ。真正面から馬鹿正直に突っ込めば、何もできないまま終わる可能性すらある。
 だからこそ、偵察は重要だ。
「ふむ、どうやら敵は2体とも巣にいるようだ」
 物陰から龍崎海(ja0565)が確認する限り、巨大蜘蛛は二体とも巣に控えているようだった。
「うへぇ、でけえ蜘蛛ってのも気持ちわりいもんだな」
 同じように近づきつつ敵の様子を見た雷牙 剣(ja0116)は敵をそう評する。時折、周囲を警戒するようにシャカシャカと動きまわる様子は、見ていて不気味だ。それが、大きいともなると尚更に。
 それよりも、気になるのは捕まった一般人の方だと、雫(ja1894)は思う。
「無事だと良いのですが……」
 粗雑に縛られているだけだが、強力な糸なのだろう。すでに力尽きているのか、全員、暴れる様子もなく、巣の動きは静かだ。
「ともかく、一刻も早く人質になっている人達を救出しなくてはなりませんね」
 すでに訪れるであろう死の恐怖に囚われているかもしれないと思うとすぐさまにでも救出に向かう必要があるだろう。楊 玲花(ja0249)は、そう告げる。
 各々の思惑はあるが、一般人が人質にされる状況だけは好ましくない。
「あの人達を、待っている家族のもとに必ず送り届けるんだ」
 激情と共に、若杉 英斗(ja4230)が自分の想いを告げる。天魔の好きにはさせない。それは、全員に共通する思い。
 八人は頷き合い、それぞれの作戦行動に移った。


 近づけば近づくほどに分かっていくその巨体。巣は全長で20m、ビル10階建てになろうかと言うほどに巨大だ。その中心に鎮座する2体の巨大蜘蛛。
 その蜘蛛に比べて、人の身の何と矮小なことか。そんなことを思わせるほどだった。
 過去に同じような巨大蜘蛛と対峙したことのある雫だが、それより一回りほど大きい。だが、大きさと強さは比例しないはずだと、冷静に分析する。そう、いつも通りに殲滅するだけだ。
「よし、行くぞ……!」
 英斗が、単身、敵の眼前へ姿を現す。
 巣の中心は下からだと遠い。まずは、銃で狙い撃つ。放たれた弾丸は、距離のせいもあってかあっさりと回避される。
 と、同時、糸が射出される。強力な弾丸のように吐きだされたソレは、防御に回った英斗の鎧に拒まれ、傷を与えることはなかったが、粘着性の高い糸で身動きがとれなくなる。
「し、しまった!」
 少し、作戦の狙いが甘すぎたかもしれない。巣より出てくれる保証はどこにもなかったのだ。さらに糸を吐いてくるという情報はあったにも関わらず、そちらへの警戒があまりにも薄すぎた。
 巣から出てこず、糸を吐きかけ続ける素振りを取る蜘蛛たち。これでは、注意を引くどころの話ではないだろう。
「ふむ、頭が良いなぁ。仕方ない。ボクがそっち行くから、人質には手を出さないでほしいなぁ」
 ジェラルドがそう言い、蜘蛛の巣へ向かう。直接、巣に乗って戦うしか仕方がなかった。


 巣は地面に対して斜めに作られてはいるものの、蜘蛛も落ちないようにするためか、傾斜は何とか登れる程度であった。もっとも、鬼道忍軍である玲花と月臣 朔羅(ja0820)にとってはあって無きが如き障害ではあるのだが。
 問題は、巣の性質だ。従来の蜘蛛通りならば。
「縦糸の粘度が低いはず……どうかしら?」
 予め持ってきていた黒炭の粉を巣にかけてみる。しっかりと、横糸には付着するが、縦糸に付着する様子はないようだ。足幅も巨大な蜘蛛のためか、十分に確保できる太さだった。
「後は、敵の注意を引きつけるだけなのだけど」
 まだ、そちらの方は、初手で上手くいっていない様子だった。 


「くっ、仕方がないが……!」
 英斗がすぐさま、己の光纏を敵に見せ付ける。それで、敵は完全に英斗を集中する素振りを見せる。動けない状況で、これは危険だが一般人救助のためにもやらざるを得なかった。
 動こうとしない蜘蛛たち。それを見て、剣が巣の縦糸に足を乗せる。
「はっはぁ! 上等じゃねぇか、行くぜぇ!?」
 そのまま、駆け抜けていく。バランスを取っていれば、およそ撃退士の身体能力ならば走れる程度だ。
 続けて、ジェラルド、雫、海も敵の巣の上へ駆け昇っていく。
 その際、雫は横糸に新聞紙を撒いていく。これで、破れてしまうまでは、ある程度の足場を確保できそうだ。
 近づく相手より、英斗に気を取られている蜘蛛。そこへ、ピッと鋭利なカードが飛んでくる。あっさり避けるが、そこへ巣を足場にして剣が蜘蛛の頭上から飛びかかる。
「おらよぉっ!!」
『ギィイイイイッ!』
 冥府の力と共に、強力なトンファーの一撃が迫るも、わざと落下するように体を滑らせ回避する。
「チッ、後少しだったのによ!」
 ほんの少し攻撃が早ければ当たっていたであろうほどの鋭い一撃。しかし、巣の上では蜘蛛の方が一枚上手か。
 さらに海の放つ雷撃までも、易々と避ける。想像以上の敏捷性だった。
 蜘蛛は二体ともが未だ動けない英斗へ、タウントの効果も相まってか狙いを付けている。
 吐きだされる糸。一発が鎧の隙間を縫って、英斗の体に凄まじい衝撃を与える。さらに絡まり、動きをほぼ完全に阻害する。
「くっ、動けない……!」
 手に持つ武器で糸を斬り裂こうとするが、粘着性の高い糸はなかなか切れそうになかった。
 剣たちの狙った蜘蛛とは別の蜘蛛へ狙いを定めるグラルスとジェラルド。
「援護します!」
 放たれる光撃に合わせて、ジェラルドが蹴りを見舞う。しかし、頭部を狙いすぎたか、僅かに狙いが反れてしまった。
「うーん、戦いにくいねぇ」
 巣の上という状況も敵に味方しただろうか。
 だが、注意は引けている。特に攻撃も当たらなかったことからか敵は慢心し、さらに英斗へ目を向けすぎていたこともあってか、完全に一般人から目を離していた。 


「行きましょう」
「えぇ」
 玲花と朔羅の二人が、その隙を見て駆け抜ける。ビルを駆け、死角から巣へと近づいていく。
 魔力で気配を殺し、敵に察知されないように動く。そっと巣の上へ足を掛け、勢いのまま貼り付けられている一般人の元へ走る。
 何とか辿り着いたと同時、敵を確認する。どうやら、蜘蛛たちは他の六人と相対したまま、こちらに目を向ける様子もなかった。
(今の内に……!)
 朔羅が、ジェラルドの手配した強アルカリ性洗剤を糸にかける。僅かに溶けるが、魔力的な力も働いているのか、それは遅い。だが、救出の手間を軽減させることはできただろう。
 忍刀で僅かに溶けた部分へ刃を入れると、ずるりと斬り落とすことができた。もし、彼の発想がなければ、救出に時間が掛かっていたかもしれない。
「もう大丈夫よ」
 ほぅと一息つきつつ、まだ救出は終わっていない。後は下へ運び、安全なところまで避難させるだけだが。
「さぁ、安全な所へ避難して頂戴」
「む、無理です……足が……」
 その足には爪か何かで深々と突き刺された跡があった。自力での歩行は難しいだろう。
 おそらくは、蜘蛛に付けられた傷。自力での脱出が元より不可能にしてあったのだ。
 玲花が助けた一般人も同様の傷がつけられている。
 最悪の発想が玲花の頭を過る。
 まさか、このためもあってか、敵はこちらを見ていない?
 それは撃退士たちに対しての、人質であり―――足枷でもあったのだ。
 だが、無視するわけにもいかない。
「抱えて、安全なところまで運びましょう」
 少なくとも、敵の手の届かない場所までは。玲花がそう提案する。
 朔羅は敵の所業へ歯噛みする。救出には予想以上に手間を取られそうだった。


 続けて戦う撃退士たちに蜘蛛の魔の手が迫る。距離の離れた英斗より、目の前の敵を狙うことにしたらしい。
「ぐぅぁっ……!?」
 ジェラルドへ突き刺さる蜘蛛の一撃。聖なる力を以て、ジェラルドへ凄まじい痛みを与える。突き刺した蜘蛛は、ジェラルドを放り投げる。何とか、蜘蛛の糸に捕まり、落下を防ぐ。
「くそっ!」
 目の前で仲間を傷つけられた英斗が悪態を吐く。束縛されてしまっている今では、割って入ることもできない。焦れば焦るほどに、蜘蛛の糸は彼の体を雁字搦めに縛っていく。
 すぐさま、海が駆け付け、癒しの法力を与えるが、それでも回復には程遠い。英斗も縛られている以上、前に立てるのは自分しかいないだろう。もう一体をたった二人に任せることは不安が残ったがやるしかない。
 グラルスの放つ光撃は再び避けられる。敵の動きは不安定に見える地形であっても早い。
 巣上での戦いをあまりにも撃退士たちは軽視していた。あまりにも、敵が釣られることを確信し過ぎていた。遠距離攻撃の手段を持っている敵を、釣ることができる要素は少ない。特に相手が賢しらであればあるほどに。
 巣上での戦いは不利な条件だ。
 だが、一方はその不利な条件の中、凄まじい攻防を行っていた。
「うぉっ!?」
 剣に迫る蜘蛛の爪。しかし、寸でのところで回避し、突っ込み様に殴打を見舞う。的確な一撃が、蜘蛛の顔と思しき場所に命中する。
『ギュイイイイイ!!』
「へっへ、あっぶね。ヤベエ、サイコーだわ……やっぱサイコー」
 苦悶の声を上げる蜘蛛に対して、剣は狂犬の如く笑みを浮かべる。やはり、戦いは最高だ。高揚する気分のままに続けて向かうが、次の一撃は素早く距離を取って回避される。
 そこへ、迫る雫の強力な一撃。
『ギュァアアアアア!!』
 容易く敵の甲殻をぶち抜き、背中に深々と突き刺さる鉄塊のような剣。半ばほどまで切断した時に、傷口を広げ抉る。
 溜まらず、下がりながら糸を吐く蜘蛛。
「うぉっ!? ぐぁっ!!」
 狙いは剣だった。強力な法力の塊でもある糸を受けて、膝を付く。服を脱ぎ捨て、束縛されることはなかったが、一撃で息が上がり、目眩を感じ、全身に鈍い痛みが生じる。
 戦いはこうでなくてはと思う。
 だが、蜘蛛の狙いは距離を取って逃げること、それだけでなかった。
 雫が狙いを付け、再び蜘蛛に迫る。決まれば後一撃。
 そう思った直後だが、手が止まる。
「くっ、卑怯な……」
 目の前になるまで気付かなかったが、一般人を盾にするように蜘蛛が退いていた。そこへできた僅かな隙を見て、強力な爪の一撃が迫る。
「つぅっ!」
 体を深々と突き刺され、苦悶の声を上げる雫。こちらもまた、聖なる力に弱い。相手に損害を与えれても、これでは辛い。さらに、救助が行われ切る前に、人質にされてしまった。
 朔羅と玲花はまだ戻ってくる様子はない。剣も息切れしかけており、目の前に立てるのは自分しかいない。
 それでも、やるしかなかった。


「この辺りまで来れば、安全かしら」
「もう少し、待っていてください。後、二人を救助したら、一緒に逃げましょう」
「わ、分かりました。でででも、は、早く来てください……」
 何とか、朔羅と玲花は敵の攻撃が届かないであろう安全圏まで、一般人を運んだ。恐怖に耐えていた一般人は何とか平静さを取り戻しつつあったが、逃げるには担ぐしかないだろう。
 もう、二人となると、撃退士四人で逃げる。それはさすがに拙いかと朔羅は思う。
 残った二人とも此処に運んできて、蜘蛛を撃破する方が早いだろう。
 だが。そんな希望を打ち砕くようなコールが響く。
『少し、不味い状況だ。撤退も視野に入れた方が良い』
 グラルスから、最悪の状況が伝えられる。
「て、撤退?」
 状況は逼迫していた。ついに、敵が一般人を人質に取って戦いだしたのだ。これを救助しようとした剣と雫が戦闘不能に陥るまで傷つけられたとのこと。また、ジェラルドもついには倒されてしまったらしい。
 英斗が何とか束縛から抜け出せはしたが、現状では全体的に火力が足りない。また、一般人に気を取られる上に、巣上での、不利な条件での戦いだ。なかなかこちらの攻撃は当たらないのに対して、向こうは的確に攻撃を当ててくる。
「すぐ戻るわ……少なくとも一般人は救出しないと」
 グラルスからの連絡を切ると、朔羅は玲花に状況を伝える。
「儘ならないですね。早く行きましょう」
 二人はすぐさまに駆けだし、敵地へと再び戻っていく。


 二人が戻ってくると、そこでは英斗と海が二体の蜘蛛を前に防戦一方となっていた。遠く地に投げ出されている雫と剣、ジェラルドの三人の姿を確認できる。
 この状況は不味い。
「月臣さん、楊さん、今の内に……!」
 英斗が我が身を省みず、蜘蛛へ飛び付く。鬱陶しがるように蜘蛛は英斗を振り払うと、強大な足爪で地面へと叩きつける。
 土煙の中、血を口から零しながらも立ち上がる英斗。まだ、行ける。
 その隙に二人掛かりで何とか一般人を救出していた。糸が少し程度絡まっているが、問題ない。
 後は一人。英斗と海、グラルスは二体の蜘蛛を睨みつけ、何とか抑えに回り、朔羅と玲花は救出に走る―――。


 結果的に言えば、一般人の救出には成功できた。が、敵の撃破には失敗してしまった。
 傷ついた三人と一般人四名を連れて撤退。それだけは、最後の気力を振り絞り、残った意地でやってのけた。
 それでも、総合的に判断すれば、依頼は失敗だ。
 一般人を救えたことだけでも良しとするか、それとも撃破できなかったことに悔いを残すか。
 その思いは、八者八様でそれぞれ違っていた……。


依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

狂犬の如く・
雷牙 剣(ja0116)

大学部5年269組 女 阿修羅
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅