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マスター:ねむり
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:17人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/28


みんなの思い出



オープニング

●実践美術部

「時代は、美、美なのである!」
「はぁ……」

 まくしたてる室伏トシゾウの言を聞いて、星美崎ユウコは曖昧な答えを返した。

「戦いの中で磨き抜かれた美! それこそが至高の美なのであるよ!」
「戦い……?」
「うむ。吾輩は久遠学園生の技に美を見出したのである」
「はぁ……」

 相変わらず、この男のいう事は良くわからない。

「久遠ヶ原のが学生の技には、見た目の美しさと洗練された実用性すなわち機能美が同居しているのである! これを美と言わずして何と言おう!」
「……まぁ、言わんとしていることは分かりますが……」

 戦場に咲く華、という訳である。

「吾輩は天才であるが武に華がないのである。ゆえに目の前で見せて欲しいのであるよ……美を!」

 トシゾウは根っからの脳筋である。

「学園生諸君の美技を存分に堪能したいのである。僅かであるが報酬も出そうと思うのである」
「はぁ……頑張って下さい」

 ユウコは疲れたようにため息をついた。


リプレイ本文

●必死技
 緋色の改造儀礼服の裾をマントのように翻し、まずトシゾウの前に立ったのは佐藤 七佳(ja0030)。
 その手に携えるのは、ただひたすらに実用性を求め数多の天魔の血を吸った妖刀――滅である。
「美ね……。あたしの戦いは正義の追求。美は二の次だわ」
「求道もまた美しいものである」
 七佳から普段の気弱さが消えていく。躊躇いや迷いはない。
「では見せてもらうのである。技に名はあるであるか?」
「あたしの技に名前はないわ。只の連撃よ」
「ふむ」
「ひとつ忠告。生身で受けるなら例え模擬武器であったとしても命の保証はないわ」
「心配無用である」
 いらえの瞬間、七佳の姿が掻き消えた。瞬きする間もなくトシゾウの懐に現れる。
 大柄なトシゾウは間合いも広いが所詮は近接。攻撃の射程外である遠距離から驚異的な加速を以て七佳は距離を侵略する。
 まるで一筋の光のような速度であるが、光纏の姿勢制御噴射により七佳の姿勢は微塵も乱れない。光纏式戦闘術における基礎術技であり奥義たる技「光翼」。
「む!」
 トシゾウも並みの撃退士を上回る反応をするがそれでも致命的に遅い。完全に虚をつかれた。
 飛び込みの勢いを上乗せし、七佳は滅を振るう。すると刀身全体に円形の多重魔法陣が積層して出現した。トシゾウは防御が間に合わない。ただの一刀ではない。叩き込まれたアウルがトシゾウの存在の根底を揺さぶり、意志と肉体の接続を解離させる。「封意」と名付けられた一刀である。
 行動不能に陥ったトシゾウに続けて繰り出される技は「魂斬」。存在の根源を斬る強烈な一刀は無防備な相手に無慈悲な一撃を与える。
 トシゾウはよろめき、体制を立て直す頃には既に七佳は間合いの外。
 再び七佳が「光翼」で駆ける。間合いの侵略、「封意」による行動不能、「魂斬」による一撃、離脱が何度も繰り返される。
 遠目で見ている他の参加者からは、縦横無尽に走り回る光線にトシゾウが翻弄されているようであった。トシゾウは完全に行動を封じられ、一方的に蹂躙されている。
 4度目の「封意」の後、滅はそれまでと違った動きを見せた。人の動きの限界を超えたそれは一瞬6斬の止めの連撃となってトシゾウに襲いかかった。
「むぐぅ……!」
 光の乱舞から、やがて訪れる静寂。
 人はよく必殺技と口にする。七佳のそれは、必ず殺せないそれではなく、相手の命を奪うに特化した、紛れもない必死技であった。
 トシゾウはかろうじて生きているがボロボロである。防御に特化した高レベルのディバインナイトでなければ、間違いなく死んでいただろう。
「……見事である。お主の技には滅美(ほろび)見えたのである」
「……そう」
 七佳は滅を鞘に収めると、踵を返して立ち去った。
 トシゾウがその背中を無言で見送っていると――。
「どうぞ♪」
 と、タオルと水を差し出すのは、マオカッツェ・チャペマヤー(jb6675)。猫の姿がどことなく残っている人型天使である。
「かたじけないのである」
「いえいえ」
 以降、一人技を終える度に差し入れをしてくれるマオカッツェであった。

●感性
 並木坂・マオ(ja0317)は小柄な方である。巨漢であるトシゾウと並ぶと、まるで子供と大人であった。
 傷を直したトシゾウは改めてマオに向き直った。
「次はお主であるか」
「うん。でもどうしよっかな〜。アタシは体術が得意なんだけど、美技とは程遠い気がするんだよね〜」
 おいっちにーさんし、と身体をほぐすマオと、腕を組んで仁王立ちのトシゾウ。やはり子供と大人である。
「気負うことはないのである。最善を尽くして欲しいのである」
「りょ〜かい。ま〜、プロレスとか格闘ゲームとかで魅せる技は研究しているつもりだしね。せっかくだから、開発中の技にしてみようかな」
「いざ」
 ひょいと顔を上げ、トシゾウを見上げるマオ。視線を感じてガードを上段に上げるトシゾウ――だったのだが。
「えいっ」
 視線はフェイント。マオは突然しゃがんでの足払いをかける。
「むおっ!」
 両足をきれいに払われて体勢を崩すトシゾウ。
「それっ!」
 追い打ちでマオは垂直キックを放つ。これがトシゾウの顎を捉え、返す脚で脳天を狙った踵落とし。トシゾウの脳を上下に揺すった。
「ぐはっ!」
 強烈な勢いで地面に叩きつけられたトシゾウの体がバウンドして跳ね上がる。そこに――。
「えいっ!」
 背を見せる動作から生まれる捻りの勢いを乗せ、踵を突き刺すようにしてめり込ませるローリング・ソバットが叩きつけられる。
「まだまだ〜!」
 攻撃は終わらない。
 そこから連続回転蹴りを叩き込み、極めつけは跳付き腕ひしぎ十字固め。
 ゴキン!
「ぐっ……参ったのである!」
 腕を外され、トシゾウが苦悶の声を上げた。
「へへ〜。どうだった? 少しは楽しんで貰えたかな〜?」
「うむ。堪能したのである。足技主体なのはリーチを補うためであるか?」
「そ〜そ〜」
 あっけらかんとした笑みを浮かべて、マオが頷く。
「動きの中に中国拳法を見たのであるが、気のせいであるか?」
「へ〜分かるんだ。うん、アタシの体術のベースは巧夫(クンフー)だよ」
 夕暮れの裏通りで出会った小柄な老人――マオの師匠は、自分の何倍もある大男を一撃で倒していた。
 そしてマオの目を見てこう言ったという。
 強くなりたくて仕方ない瞳をしておるのぅ。ならば挑んでみるか? 『最強』のその先に。
「それからは色々。ストリートでの生活が長くて、色んなこと試したな〜」
「ふむ。お主には感性美を見出したのである」
「あは」
 無邪気に笑ってマオは戻っていった。

●理論派
「次はお主であるか」
「暮居 凪(ja0503)よ。よろしく」
 眼鏡をかけた理知的な瞳がトシゾウを見つめた。
「うむ。さてお主はどのような技を見せてくれるのであるか?」
「技を――ね。それなら、一手、正しくルインズブレイドとしての攻撃を行わせてもらうわ」
 凪は携帯電話型のヒヒイロカネから大型の槍を顕現させると、その切っ先をトシゾウに向けた。トシゾウも構える。
「行くわ」
「来るのである」
「まずは――」
 無銘の槍が光を塗りつぶす漆黒の闇を纏い、トシゾウを深く切り裂く。
 だが――。
「ルインズブレイドのスキル、ソウルイーターであるか……。確かに普通のディバインナイトには有効であるし、技の練度も見事であるが、吾輩のカオスレートは0であるぞ?」
「ええ。分かっているわ」
 闇と同じ色の瞳は動じない。続けてスキルを発動する。闇の色が一層濃くなっていく。
「キープ・レイであるな。しかし同じことである」
「そうね……でもこれならどうかしら?」
 凪が次に指した一手は――。
「むっ!」
 槍が纏う闇がトシゾウへとまとわり付く。トシゾウのカオスレートが強制的に下げられていく。
「ぬぅ……これは……」
「リンクシェアリング。そしてこれが本命――いくわよ、アーク!」
 槍が、纏っていた闇を吹き散らし光輝く。
 裂帛の気合とともに突き出される槍。凪が過去と向き合うためにトラウマを具象化したその槍が、トシゾウの身体を深々と貫いた。
「くおぉっ……!」
 衝撃で数メートルも吹き飛ばされるトシゾウ。ゴロゴロと転がり、倒れ伏す。
 技を放った後も残心を忘れない凪。しばしの静寂。
 動いたのは凪であった。ピクリとも動かないトシゾウに歩み寄り、尋ねる。
「大丈夫かしら?」
「……うむ。流石に効いたのである。見事であった」
 むくり、と状態を起こすトシゾウ。
「トシゾウさんも呆れるほど頑丈ね……。さて、こういう経験は初めてではないかしら?」
「然り。技とは奥が深いものであるな」
「そうね。名前を付けるのなら理力連撃、などというところかしらね」
 感慨深そうにため息をつくトシゾウと、薄く笑う凪。
「見事、見事。お主の技には戦略美を見たのである」
「そう? 光栄だわ」
 凪が手を差し出すと、トシゾウはそれを握り返して立ち上がった。
「吾輩脳筋であるゆえ、お主には色々とご教授願いたいところである」
「ええ。機会があればね。さて、あの子が待っているから」
 凪の視線の先には茶トラの子猫があくびをして丸まっていた。

●なにこれ可愛い
 傷を癒したトシゾウが次の相手を呼ぶ。
「私が行こう」
 参加者たちの間からのそり、と歩み出たのは異形――いや、動物園の人気者。ジャイアントパンダである。
「……最近のパンダは喋るのであるか?」
「瑣末なことだ。ジャイアントパンダの素晴らしさを前にすればな。だが喋るジャイアントパンダの可能性か……実に興味深い」
 下妻笹緒(ja0544)はそう呟いた。
「着ぐるみ……であるよな? お主はなぜにそのような格好をしているのであるか?」
「それがジャイアントパンダであるからだ」
「……ま、まぁ、よいのである。お主の技、見せてもらうのである」
「ふ、ならば見せてやろう。我が奥義を」
 愛らしい見た目とは裏腹にどこか威厳を持った響きの声でそう宣言する笹緒と、身構えるトシゾウ。
 ジャイアントパンダが極めし奥義とは一体……。
「ゆくぞ! パンダローリングアタック(PRA)!」
「むっ!」
 笹緒は両手を地面につけるとそのまま転がった。見まごうことなき前転である。高速で前転を繰り返しながら、トシゾウの周りをぐるぐると回る。
「こ、これは――!」
 体操選手のような華麗な前転ではない。想像してみてほしい。もふもふとした短い手足で転げまわるジャイアントパンダの姿を。一回ころんとするだけでも愛らしいのに、その光景が連続して繰り返されるのである。しかも自分の周りをぐるぐると回って。
「ラ、ラブリーである……!」
 トシゾウ、実は可愛いものに目がない。先ほど凪が連れていた子猫にもきゅんと来ていたが、笹緒のこれはそれを上回る。どストライクである。
 しかしこれは対応に困る。トシゾウの目的は技の美の追求であり、参加者の技を受け止めることである。この事態に一体どう対処すればいいのか。
 そんなトシゾウの困惑には我関せずとばかりに笹緒の回転はどんどん早くなる。
 白と黒のボディが溶け合う頃、おもむろに立ち上がった。
「むっ!」
 攻撃か、とトシゾウが身構えた先に見えたのは――よろよろとよろめくジャイアントパンダの姿であった。
 明らかに目を回した様子でふらふらしながら、あっちへこっちへ。誰もが心配するであろう頼りなさで、ぐらつき、ふらつく。
「だ、大丈夫であるか?」
 井戸に落ちそうな赤子を見れば、誰だって駆け寄る。この時、笹緒に駆け寄り手を差し出したトシゾウを誰も責められまい。しかし――。
「ふん!」
 そこに非情なる突然のパンダパンチ!
 もふもふナックルが綺麗にトシゾウの顎をとらえた。
「くはっ……!」
「戦闘時に決して油断してはならない。戒めだ」
「む……むぅ……。ラブリーな外見に反して実に狡猾である。奸計美であるな」

●拳撃の極致
「よろしくお願いします」
「うむ」
 道着姿に徒手空拳といった出で立ちで現れた仁良井 叶伊(ja0618)は、トシゾウの前に歩み出ると礼儀正しく一礼してから構えた。
 構えは独特であった。
 先天的な両利きという性質のせいか、典型的な半身とは異なるスタイル。所作は丁寧だが、大柄で引き締まった身体からは武人のオーラが立ち上っていた。
 動きに無駄がない。戦闘に最適化されている。
 深く息を吸い込み、深く吐く。それを何度か繰り返すと呼吸は次第に浅くなっていく。
 独特の呼吸法によりアウルを練ると――。
「行きます!」
 叶伊が飛び出した。
 踏み込みは右足。両利きとは言え足まで両方踏み出す訳にはいかない。ここはオーソドックスな運足法である。
 意を悟ったトシゾウはそれに対応した構えを取る。
 瞬間、叶伊のアウルが爆発的に膨れ上がった。肉体のリミッターが外れ、常人ではありえない動きを始める。
 一瞬が無限に引き伸ばされていく。
 叶伊の上半身――主に両腕がぶれた。右と左、両方から拳が繰り出される。その速度はまさに光の速さ。
 あたかも千手観音の様に展開した腕の残像から、無数の光が流星となってトシゾウに降り注ぐ。
「ぐぅっ……!」
 トシゾウも高位のディバインナイト。初撃の数発はしのいだ。しかし、光の奔流の前にはあまりに無力。飲み込まれ、釣瓶打ちにされていく。
 あまりの速さに、防御が意味をなさない。
 永遠にも思える一瞬の後、トシゾウはどうにか立っていた。気がつくと、叶伊が最初の位置に戻って倒れていた。
 何が起こったのか分からず、トシゾウは慌てて叶伊に駆け寄る。叶伊は完全に気絶していた。
 活をいれ、意識を取り戻させる。
「う……」
「大丈夫であるか?」
「……はい。お手数をお掛けしました」
「一体、何が起こったのであるか?」
 トシゾウが尋ねると、叶伊は決まりの悪そうな顔で答えた。
「千手流星擊――今の技の名前なのですが、完全には使いこなせないのです。撃った反動で気を失ってしまって……」
「あれほどの技であれば、フィードバックも相当であろうな」
「はい。でもいつか完成させます」
「うむ。お主の晩成美、しかと見せて貰ったのである」
 トシゾウが差し出した手を、叶伊はしっかりと握った。

●狂
「よろしくお願いします」
 ぺこりと小さくお辞儀してトシゾウの前に現れたのは沙 月子(ja1773)。小柄で大人しそうな少女である。しかし――。
「さあ、雷上動。共に月の狂気を奏でましょう……?」
 目が金色の猫目に怪しく輝き、全身から邪悪な気配を纏った純黒の炎が吹き出した。アウルとは思えない禍々しくも美しい光纏である。
「ぬぅ……セルフエンチャントであるか。ここまでの魔法力はなかなか相まみえることはないのである……」
「ふふふ。まずはお手並み拝見……」
 手にした長大な黒い和弓がアウルの弦を結ぶ。そこにつがえられるのは、アウルを収束させた黒い矢。紫のオーラが帯電した矢の羽根からは黒い炎が燃え盛るように吹き出している。
「閃雷」
 優しげとすら形容できる微笑みでアウルの弦を引く月子。アウルの矢が閃光を伴ってトシゾウへと放たれた。
 闇から現れた一条の矢は、さながら地獄の暗雲をほとばしる閃光。あるいは敵を貫く裁きの雷。
「むうぅぅっ……!」
 強大な魔力を帯びた矢を受けて一歩後ずさるトシゾウ。そこに――。
「本気で、行きます――無間」
 審判者の裁定のごとき響きを持って厳然と告げる月子。瞳に孕むのは狂気か憎しみか、躊躇いは一切ない。身に纏っていたアウルの炎を全て矢に変換して射た。
 地獄の最下層、辿り着くまで二千年かかると言われている無間地獄に喩えられた一矢。そこは他の地獄が幸福と思えるほどの責め苦に苛まれる場所だという。
 トシゾウに命中する寸前で数多に分かれ、360度全方位から襲いかかる。獲物を逃さない月の狩人(アルテミス)の放つ矢に逃げ場など存在しない。
「――!」
 凄まじい轟音がトシゾウの悲鳴をかき消した。地獄の名を冠するに値する暴力的なまでの威力である。
 やがて煙が晴れ、がっくりと膝をつくトシゾウの姿が浮かび上がった。見つめる月子は月の狩人か狂人か。どちらも等しく存在しているかのように見えるその姿はどこか危うい。
「……お主は『狂貴』であるな」
 ボロボロになったトシゾウが呻くように言った。
「本当に頑丈なんですね、室伏さん。ありがとうございました」
 礼儀正しくお辞儀する月子は普通の少女に戻っていた。
 先程までの凶相がまるで幻であったかのように。

●連理の枝
「歩ちゃん、次みたいだよ、次」
「そうみたいだねぇ」
 雨宮 歩(ja3810)に話かけるのは雨宮 祈羅(ja7600)。
 苗字の漢字が同じなので夫婦かと思われがちだが、読みが「あまみや」と「あみみや」で異なり、まだ籍は入れていない恋人同士である。
「準備はいい? ハンカチ持った?」
「登校の準備じゃないんだよ、姉さん……」
「はいこれ、飲んで飲んで」
 言ってドリンクを差し出す祈羅。歩は一口口に含む。
「ありがとう。冷たいねぇ」
「まだ暑いからね。冷やしといたんだ。クリスタルダストの氷で」
「魔法の無駄遣いじゃないかなぁ……」
 ドリンクを祈羅に返すと歩は立ち上がった。
「歩ちゃーん頑張れー!」
 声援を受け歩は苦笑混じりに視線を返した。そんな二人の様子にトシゾウも思わず笑みをこぼす。
「仲の良いことであるな」
「まぁねぇ……それより始めようかぁ」
「うむ……。しかし大丈夫なのであるか?」
 早速、といった雰囲気の歩に対し、トシゾウの顔は晴れない。
「何がかなぁ?」
「誤魔化さずとも分かるのである。随分と無理をしているのであろう?」
 トシゾウの声に歩は皮肉げな苦笑で応える。
 歩は今回魔具・魔装のキャパシティを大幅に超えて準備をしてきた。そのせいで生命力が極端に低下している。
「お前が気にすることはないよぉ」
 歩が一歩踏み出す。
(とか言ってるけど、うちは気にするんだからね!)
 トシゾウと歩を見つめる祈羅は気が気ではない。今回、祈羅が参加したのは積極的に美しい技を魅せようとしてのことではない。歩が参加したからである。
 正直なところ、とっておきで、自信を持って技と呼べるものは祈羅にはない。あるとすれば、せいぜい先ほどのように、恋人をからかったり困らせたりする「技」くらいだ。
(歩ちゃん大丈夫かな……)
 祈羅にとっては歩が何より大事なのである。
(無事に終わりますように)
 ぎゅっと手を握り、最愛の恋人をみつめる。
「さぁ、踊ろうかぁ」
 歩が「道化舞台開幕(サーカスプログラム)」を発動させる。
 身に纏うアウルが血色の翼のように変化。嗤い謡い踊るその様に、トシゾウは思わず引き込まれてしまう。
「ぬぅん!」
 トシゾウの巨躯から生み出される重い一撃。生命力の低下した道化が喰らえば致命的。しかし道化は「疾風」で避ける。
 ――と、その動きが突然止まった。
「そこである!」
 隙と見てトシゾウが大ぶりの一撃を見舞う――が、道化は「分身の術」を使いこれも避ける。トシゾウは道化に完全に間合いを狂わされていた。
 トシゾウに生じた致命的な隙を道化は見逃さない。「迅雷」を発動し、血色の翼の残光と共に駆け抜け、抜刀、斬撃、そして納刀。
「我流抜刀術・刹那」
 静かに呟く道化。
 斬られた、とトシゾウが自覚したのは、道化が刃を鞘に納めた後であった。苦悶の表情で呻く。
 道化の舞台が幕を閉じた。
「……見事。生命力を落として来たのはわざとであるか」
「まぁねぇ。魅せる技としてはそれなりだと思うけど、どうかなぁ?」
「死と隣り合わせの仲で恐怖に打ち克ち一瞬の勝機を掴む、か……お主には刹那の美を見たのである」
「ふふっ……そ――」
「歩ちゃーん!」
 薄く笑みを浮かべトシゾウに応えようとした歩に、真後ろから祈羅がタックルして抱きついてきた。
「格好よかった! 流石だね、歩ちゃん!」
「不意打ちは卑怯だって、姉さん……」
 少し照れくさそうにして頬をかく歩。
「怪我とかしてない?」
「大丈夫、大丈夫」
 あれこれと世話を焼こうとする祈羅と、困ったように苦笑する歩。
「お主は何を披露してくれるのであるか?」
「うち? うちは特に」
 ガクっと肩を崩すトシゾウ。
「お主、何しに来たのであるか……」
「え? 何って歩ちゃんの応援」
 さも当然とばかりに応える祈羅。
「むぅ……。せっかくなので、何か見せていくのである」
「うーん……。綺麗なのはせいぜいこれかなぁ」
 手をかざし、煌く氷の錐を打ち放つ魔法――クリスタルダストを見せる。
「まぁ、確かに綺麗であるが……少々ひねりが足りないであるな……」
「便利だよ? こうやってドリンク冷やすのにも使えるし」
「……魔法の無駄遣いである」
 歩と同意見のトシゾウ。
「無駄じゃないよ? いつでも歩ちゃんに冷たいドリンクを上げられるんだもの。はい、歩ちゃん。お疲れ様!」
「姉さん……」
 こめかみを抑えるつつ受け取る歩。
「本当にお主、何しに来たであるか……」
「あー……ごめんね。期待には添えなかったかな?」
 自覚があるだけにバツの悪い祈羅。
「いや……。まぁ、いいのである。お主には既にたくさん見せて貰ったであるからな」
「?」
「想愛美である」
 一瞬、キョトンとした祈羅だったが、頭に意味が浸透すると、満面の笑みを浮かべて歩を一層強く抱きしめた。

●比翼の鳥
「……行くぞ、ナハト」
「うん、謳華♪」
 次は中津 謳華(ja4212)とナハト・L・シュテルン(jb7129)の登場である。
「お主らも恋人同士であるか」
「うむ」
「うん♪」
 尋ねながらトシゾウは2人の様子を観察していた。
 生粋の日本人でありながら、どこか大陸風の衣装に身を包んだ謳華。朴訥で武人然とした印象を受ける。
 人懐っこく感情豊かなナハト。そのくったくない笑顔と、左腕と両足の義肢が落差を感じさせる。
 付き合い始めてまだそれほど日が経っていないのであろう。どこかまだ初々しい。
「今日はナハトとの連携攻撃を試させて貰う」
「謳華とのラブラブコンビ技に挑戦だよ♪」
 返事も対照的――いいコンビである。
「なるほどである。いざ、参れ」
 トシゾウが構えを取ると2人はばっと離れて光纏した。トシゾウに向かってくる謳華と、距離をとって回り込むように何かをしつつ召喚獣を呼び出すナハト。
 二人の光纏も対照的である。恐ろしくもどこか温かみのある墨焔が龍ともとれる模りを見せ自身の周囲を逆巻き纏わりつく陰の謳華と、髪全体が金に染まり身体全体が金のオーラで輝きを帯びる陽のナハト。さながら黒龍と流星である。
「準備はいいか、ナハト」
「いいよ、謳華♪」
「よし……むん!」
 初撃は謳華。謳華の伝承する「中津荒神流」は双腕で防ぎ、掌拳で流し、脚脚で攻め、肘膝で討つ特殊な古武術であり手は補助である。主な攻撃部位は肩肘膝であり、それらを「角」「爪」「牙」と呼ぶ。
 謳華の初撃は「閂殺し」という技。「角」の剛撃である。左肩をトシゾウに添えた刹那、殴るようにして右肩肩甲骨で「殴り抜いた」。かつて城壁を破る為に編み出されたこの技はトシゾウの巨躯を大きく後方へ吹き飛ばす。
「くはっ……!」
「いったぞ、ナハト」
「任せて、謳華♪」
 吹き飛んだ先にはナハトのワイヤー――グリースの捕縛罠が仕掛けられていた。
 目に見えないほど細く、標的を絡めとり肉を切り裂く金属製の糸は、曇り空のような鈍い灰色をしている。
「くっ……身動きが――!」
 トシゾウがワイヤーに絡め取られた直後、ナハトの召喚獣がトリックスターを開始。目にもとまらぬスピードで動き攻撃を繰り出す。
「いっくよぉ♪」
 その間にナハトは閃のリングに持ち替えていた。5個で一組の魔法の指輪は鎖でつながっており、閃光のように眩く光り輝く美しいデザインである。
 白色に光り輝く玉がナハトの周囲に5個生み出され、流星のような直線軌道を描いてトシゾウに襲いかかる。これも非常に美しい。
「今だよ、謳華♪」
「うむ」
 トシゾウがナハトの罠に掛かっている間に謳華も一気に接近。「御魂穿」を放つ。
 この世のあらゆるものには「穴」がある。「穴」とは「虚」でもあり、最も脆い点。「御魂穿」は、その点を穿ち、貫く為の技術であり、真髄である。あらゆるを穿つこの一撃は、例え鉄壁の存在であろうと容易く貫く。
 防御力が極端に低下したトシゾウに2人が息を合わせ止めに入る。
 謳華は一度深く身を屈め、アウルの爆発的加速を利用し刹那の間に接敵、「牙」をあてる。接触状態からの身に捻りと同時に墨焔を纏った「牙」の突き出しによる逃れられぬ剛撃を穿った。謳華が「瞬華終倒」と呼ぶ一撃である。
 接近して攻撃を放つ謳華に合わせ、ナハトは武器を弓に持ち替えていた。複雑な装飾が施された洋弓で、両端には赤色の宝石が付いている。捻れた青色の弓身から謳華と息を併せ狙い撃たれる必殺の一矢はやはり流星のごとく閃いて。
「双縛撃・星閃刹華……これが俺達の―――」
「―――愛の力だよ♪」
「ぐわぁー!」
 盛大に吹き飛ぶトシゾウ。本日何回目であろうか。
 しばらく身動きがとれなかったトシゾウであるが、そこはやはり高位のディバインナイト。ゆっくりと立ち上がった。
「どうだ? 俺達の連携技は」
「結構、いい感じだと思うんだけどなぁ♪」
「……うむ。見事であった」
 体術を駆使し、彩は無いが地力に優れた謳華の攻撃と、リングや弓など華のあるナハトの攻撃。さながら地と画。ナハトの攻撃がより美しく魅せられるのは、謳華の地があってこそである。
「しかし……まったく、お前という奴は」
 ナハトの愛のうんぬんに気恥ずそうにする謳華だったが、実は満更でも無いのであった。表情が薄いので、よほど親しいものにしか分からないだろうが。
「ちょっとした意趣返しだ」
「きゃっ」
 ナハトをお姫様だっこしつつ退場する謳華。
「……うむ、ナハトは軽いな」
「もうっ……謳華、大好き♪」 
 最初は驚き戸惑っていた様子のナハトだったが、動きを止めて謳華の腕に身を委ねると、愛を込めてくちづけを返す。
 仲睦まじい二人を見送りながらトシゾウは呟いた。
「お主らは相乗美であるな」

●非非モテ
「へえ、必殺技ですか……」
 前の10人の技を見て、緑髪赤瞳の青年、レグルス・グラウシード(ja8064)は感心したように呟いた。
「せっかくだから思いっきりやってみようか、ふゆみちゃん!」
 そして、隣にいる金髪黒瞳の少女、新崎 ふゆみ(ja8965)に声をかけた。
「わはー★ だーりんとのラブラブアタック、とくとごらんあれなんだよっ☆」
 若々しさを感じさせる二人である。
「先の2組に続いて、お主らも恋人同士であるか」
「はい!」
「ラブラブなんだよっ★」
 基本的に学籍番号(PCID)順に相手をしているトシゾウだが、何の因果かアベックが3組続いた。
「吾輩、少し寂しいのである」
 トシゾウは独り身である。ディバインナイト=非モテの噂は本当なのであろうか。レグルスの兄はかの有名な非モテ体現者なのだが、今回はリア充滅殺とかは関係ないので割愛する。
 閑話休題。
「では、見せて貰うのである」
「はい! いくよ、ふゆみちゃん!」
「OK、だーりん☆ミ」
 初期位置はレグルスが少し離れた場所で待機、ふゆみがトシゾウの近くで構える構図である。
 ふゆみは光纏し、呼吸を整えてアウルを練り上げた。「闘気解放」である。闘争心を解き放ち、物理攻撃力と物理命中力、そして回避力を高める。
 手にしているのはプロスボレーシールド。菱形の盾だが、上下に螺旋状の穂先を持つ槍が取り付けられており、武器としても扱うことができる攻守一体の盾である。
 かなりレアな装備であるが、ふゆみの趣味でデコ電よろしくたくさんの★がデコられている。「だ〜りんらぶらぶ☆」とマジックで書かれ、レグルスの写真がべたべたと……しかし、盾は攻撃を受けるものであり――この先はお察し下さい。
 ともあれ、ブーストした能力を持ってふゆみは盾の穂先を鋭く突き出した。「烈風突」である。扱いの難しい得物であるが、見事な手腕であった。
 目にも止まらぬ電光石火の突撃がトシゾウに打ち込まれ、あまりの衝撃に遠く後方に弾き飛ばされる。追加効果でスタンするトシゾウ。
 トシゾウが離れた所でふゆみはレグルスに合図。
「だーりん、いまだよっ★」
「わかった!」
 これを待っていたレグルスも光纏する。最愛の兄と同じ白銀の燐光。
 レグルスの得物は頭部に骸骨が付いた黒色の魔杖――ベルゼビュートの杖。暴食の悪魔たるベルゼバブの名の元に製作されたという天を侵す魔杖で、魔鉱を用いた禍々しい雰囲気を持つ。
 しかし、爽やかでハツラツとした雰囲気のレグルスが持てば、魔杖も力ある武器程度にしか見えない。そしてレグルスは――。
「僕の力よ……敵を貫き通す、白銀の槍になれッ!」
 アウルによって光輝く槍を産み出し、投擲した。離れた所にうずくまっているトシゾウを、槍――「ヴァルキリージャベリン」が貫く。
「ぐほぉっ……!」
 無防備なところへ魔力の一撃を喰らいさらに後方へ吹き飛ぶトシゾウ。
 息の合った見事な連携にギャラリーから喝采が上がる。
「うっうっ、ふゆみとだーりんの愛のパワーなんだよっ★ミ」
 茶目っ気たっぷりにそう言ってのけるふゆみだが、実はこの技、敵にダメージを与えつつ、距離を自分たちから遠ざけるという一石二鳥の巧手である。
「実際の天魔との戦いでも、こんなふうにうまくやれたらいいね!」
 ぽふっ、とふゆみの頭に手を載せるレグルス。ふゆみもうんうんと頷く。
「むぅ。見事な技だったのである。お主たちには――」
「じゃあ、遊びにいこっか、ふゆみちゃん!」
「お主た――」
「だーりん、ふゆみアイスクリームたべたぁい☆ミ」
「いや、あの、であるな……」
 2人はすでに2人だけの世界に入っていた。トシゾウ、置いてけぼり。
「じゃあ、ここなんかどうかな。この間兄さんが見つけてきた店なんだけど、1人じゃ――」
「いいよ☆ 行こう、行――」
 仲良く遠ざかっていく2人の背中に、トシゾウが独り呟く。
「……お主たちには青春美を見たのである」
 ディバインナイトの明日はどっちだ。トシゾウ20歳、恋人絶賛募集中。
 リア充滅殺とかは関係ないったらないのです。

●根底にあるもの

 気を取り直して。
「次は誰であるか?」
「あ。ボクだ☆」
 トシゾウの前に立ったのは、長身痩躯に白い長髪の男であった。一見、戦いとは無縁そうな優男。今風に言えばイケメンか。どこか飄々とした、悪く言えばチャラい印象を振りまいている。見る者が見れば、その奥に形容しがたい何かを見て取っただろうが。
「では、見せて貰うのである」
「おっけー☆」
(ふむ、美しく……か♪ 洗練された技は皆美しい……。でも、それだけじゃ……って事だね♪)
 光纏し、体内でアウルを燃焼させるジェラルド。その力で高速の蹴りを放つ。高速という表現では生ぬるい。常人には見ることも出来ない速度である。
 単発の蹴りではない。連続蹴りである。瞬間的に何度も蹴りつけられたトシゾウは宙に浮き、まるでダンスを踊っているかのように見える。
 最後の1蹴りに力を込めて相手を弾き飛ばすジェラルド。トシゾウはスタンしてしまった。
 その間にジェラルドは「SweetDreams」で己の闘争心を解き放った。全身から赤黒い闘気が吹き出し、陽炎のように滲む。甘い夢のような、死を振りまかんがために。
 ジェラルドの禍々しい光纏の触手と殺気を叩きつけられるトシゾウ。身動きの取れない彼にジェラルドはおもむろに近寄り、額に触れて、「〜Kiss Of Death〜(コロシノキッス)」を発動する。
 ほんの一瞬、光纏の赤黒い触手がトシゾウに絡みつき締め上げるが、それはすぐに消え去り、銀色の光として精気を奪う。トシゾウは光とともに吹き飛ばされた。
「……ボクのダンスは……いかがでした?☆」
「……しかと見たのである。見かけの派手さもさることながら、その練度に感嘆したのである」
「修練の賜物……自信をもって披露致しました……」
 にっこりと微笑むジェラルド。
「技の根幹にある修練の賜物たる美しさ……思い出させて貰ったのである。お主には修練美を見たのである」
「よかった♪」
 膝をつくトシゾウに手を差し出すジェラルド。握り返し立ち上がったトシゾウは本能から感じた疑問を投じた。
「しかしお主……何人いるのであるか?」
 ジェラルドからチャラい雰囲気が一瞬消える――が、それは本当に刹那のこと。
「何のことかな?☆」
「いや。立ち入ったことであった。忘れて欲しいのである」
「フフフ☆ ――12人さ」
 最後の言葉は「誰の」言葉だったのだろうか。

●天の技
「綺麗っぽくて、華があるー……あ、丁度良いのがあるのですワっ!」
 いろんな技も見られたし、トシゾウは全力で攻撃しても問題なさそうだしで、テンション急上昇中なのはミリオール=アステローザ(jb2746)。
 足首辺りまで伸びた長い紫色の髪と、銀の瞳。翼は金属のフレームの様な前縁部と、宇宙空間や星雲あるいはオーロラの薄膜の様な翼羽部で構成されていてとても美しい。
「天使であるか」
「はいなのですワ。天使を見るのは初めてでいらっしゃいますか?」
「人に仇なす存在は何度か。堕天した学生たちとも交友はあるのであるが、まじまじと技を見るのは初めてである」
「そうですか! ではご堪能あれですワ!」
「天界の技、しかと見届けさせて貰うのである」
 言って、構えるトシゾウ。それに応えて――。
「かしこまりましたのですワっ! 顕現、極光翼(ウーニウェルシタース)なのですワ!」
 宇宙を内包したかの様な羽翼部を持つ翼は、翼の周囲に特殊な力場を作り飛ぶことができる。翼をはためかせて舞い上がると、上空からトシゾウやや前方の地面、トシゾウを中に巻き込める程度の位置を狙う。
「ふふー、白銀の大輪なのですワ!」
 ミリオールはまず「 擬似生成『冥殺の白銀』(セレスティアルシルバー)」を発動。アウルにより冥魔に対して破滅的毒性を持つ異界物質を再現し身体とアウルに混ぜた。
 続けて「深淵女王(アウラニイス)」を連続して発動。一滴の血とアウルを元に、白銀の金属質の触腕群を出現させる。見た目は巨大な白銀の彼岸花といったところか。本来であれば黒なのであるが、「 冥殺の白銀」の効果で色が美しく変わっている。これが「白銀の大輪」である。
「おぉ……」
 恐ろしくも神秘的な人ならぬ業にトシゾウが思わずため息を漏らす。
「狂い舞え、深淵女王………はワ?」
 とりあえず出現させるだけに留めるつもりが、いつもの癖で攻撃指令も出してしまうミリオール。
 人外の力を秘めた触腕が周囲を蹂躙する。
「うがー!」
 ひとたまりもなく巻き込まれるトシゾウ。触腕はひとしきり暴れまわった後、血液に戻った。トシゾウの姿は瓦礫に埋もれて見えない。
 触腕が消えるのを待った後、ミリオールは誤魔化す様に優雅な動作で一礼し退場した。
「えと……ありがとう御座いましたですワっ」
 ミリオールが去ってしばらく後、瓦礫をかき分けてトシゾウが現れた。
「うむ。お主の美は文字通り華美であるな」

●ロ(ボ)漫
 ミリオールによる会場破壊の後片付けが終わった後、次にトシゾウの前に現れたのはラファル A ユーティライネン(jb4620)であった。
「俺のは一種の浪漫美だな」
「ふむ。浪漫美であるか」
「お前、ロボットは好きか?」
 唐突に問うラファル。
「む? むむ……嫌いではないのである」
「そうかそうか」
 何やら嬉しげに笑うラファル。
「それがどうしたのであるか?」
「まあ、百聞は一見に如かず。いくぞ!」
(――――ここから特撮口調――――)
 ラファルの身体の80%は機械だという! 天魔との戦いで失われたと言う事以外は本人の口から語られたことは無い!
 だが、その実態は!?
 撃退庁が秘密裏に開発していたアウルリアクターで戦場を疾駆する鋼鉄の機械化歩兵ナイトウォーカー「ラファルA型」だ!(とは本人の弁)
 普段は偽装能力により人間の美少女形態だが、天魔出現の報あらば、全高8メートル強(恐らく誇張が入っています)の人型戦闘機械ナイトウォーカーに変形だ!(これも本人の弁)
(――――ここまで特撮口調――――)
「限定偽装解除『ナイトウォーカー』始動」
 まず、義肢や機械化した身体の偽装を限定的に解除し、より戦争に適した形態に移行する。アウルの循環効率が高まるが身体への負担が大きい為長時間持続することはできないのだが。
「多弾頭式シャドウブレイドミサイル発射!!」
 一瞬だけ肩口にポップアップしたミサイルランチャーから無数のミサイルを発射して広範囲を爆撃する。ミサイル詰め込まれた魔法型の影の刃を巻き散らし敵味方無差別に攻撃していく。
 あぁ……。会場直したばっかりなのに。
「デストロイドモード起動。全砲門、開け!!」
 無数の銃器、重火器、加農砲を展開。圧倒的な弾幕により直線上の対象全てを粉砕する。広域殲滅に特化しているため、これまた敵味方の識別はしない。トシゾウだけでなくギャラリーも問答無用で巻き込まれる。
 以上、全身から無数の砲門、大型のミサイルポッドが展開され、一斉砲撃による猛射でトシゾウ(とギャラリー並びに会場)が吹き飛ばされた。永遠にも感じられる時間連続して閃光と爆音を響かせた後、立ち尽くすのはラファルただ一人。
 そして口にする。
「パリは燃えているか?」
「……あの名作映画に登場した兵器たちには、もっと風情があったと思うのである……」
 どこからか、風に乗ってトシゾウの声が聞こえた。

●武人

ラファル台風一過から数時間後。再び整えられた会場にトシゾウは立っていた。
「待たせたのである。再開である」
「次は私ですね」
 どこか厳しく、クールで淡々とした声の主は、ミズカ・カゲツ(jb5543)。
「悪魔であるか」
「はい」
 ミズカは武術を扱い礼儀を重んじる悪魔としては変わり者な一族の生まれ。一族の教えに反する勝手気ままな者が多い魔界に嫌気がさし、はぐれることを決意した生粋の武人である。
 悪魔には異形の者も多いが、ミズカは人間の姿で頭頂部に銀色の狐耳が生えている。黒色の切れ長の目と、腰まで流れる艶やかな銀髪が美しい。
「冥魔の美を見せて貰うのである」
「私の持つ技はあくまで実戦での有能性を求めたモノばかりです。それでも良いのであれば構わないのですが……」
「是非もないのである。美とは形あるものばかりではないと考えるゆえに」
「成程。では、参ります」
 ミズカは全長80cm程の片刃の直刀をヒヒイロカネから顕現させる。荒ぶる雷神の名を冠した、紫色に輝く刀身と銀色の柄、雷を象った鍔を持つ日本刀――健御雷。
 2人の間の空気が張り詰める。
 ミズカはゆらりと軽く数歩後ろに下がった後、
「――『白魔』」
の声と共に姿を消した。
 トシゾウにもギャラリーにも視認できない早さで一気に接敵し、すれ違いざまに、白銀のアウルを纏わせる事で破壊力と速度を増した刀で「様々な角度」から「同時に」斬り付ける。
「む……むおぉぉっ……!」
 トシゾウは防御には自信があった。並みの攻撃ならば微動だにせずに受けきる自信がある。今日は派手に吹き飛ばされることも多かったが、それは参加者たちのレベルがおしなべて高すぎただけの話。トシゾウでなければ再起不能、あるいは死亡してもおかしくない場面すらあった。
 しかし、今回トシゾウは「動けなかった」。
 全方位から同時に襲い来る剣戟に、成す術なく切り刻まれる他なかったのである。
 白魔とは恐ろしい被害をもたらす大雪を魔物にたとえた言葉である。これが技名に用いられているのは、白銀に染まった剣筋が雪崩のごとく数多に押し寄せることから。まさに。
「是が参考になったのなら幸いです」
 再び姿を表したミズカは刀を鞘に納めつつ言った。
「技とは極めればここまでの域に達するものであるか……」
「未だ修行の身です」
 言葉は淡々としているが、狐耳がぱたぱた揺れている。
「洗練美をお主に感じたのである」
「恥じぬよう精進しましょう」

●萌え
 いよいよ最後の一人になった。
「むぅ……。流石に疲れてきたのである」
 生命力は毎回回復しているとは言え、精神力はそうそう元に戻るものではない。
「最後はお主であるか」
「ええ。そうみたいですね」
 大人びた口調で応えるのは、これまで毎回差し入れをしてくれたマオカッツェである。
「最後の技、とくと見せて貰うのである」
「じゃあ――」
 と、バハムートテイマーらしくヒリュウを召喚する。しかし、ヒリュウはなぜもふもふ羊の着ぐるみを着ていた。
(火力の強さだけが全てではないのですよ? 美しさとはこう言うのもアリだとおもうのです)
 和気藹々としてヒリュウと戯れるマオカッツェ。チラッとトシゾウを見てまた和気藹々――(以降、エンドレス&戦う気なし)。
 既に触れたが実は可愛いものには目がないトシゾウ。混ざりたい。しかし、笹緒の不意打ちという苦い経験が躊躇わせる。
 もふもふ、チラッ、もふもふ、チラッ、もふもふ……。
「吾輩ももふるのである!」
 トシゾウのリミッターはそれほど丈夫ではなかったようだ。いや、疲れていたのかもしれない。きっとそうだ。
 マオカッツェもトシゾウを受け入れて一緒に戯れる。
「まぁまぁ、皆の相手も疲れたでしょう…。好きなだけモフッて良いですよ♪」
「むおぉぉ……至福である……!」
 もふもふもふもふ。
「これこそ『戦わずして勝つ! 萌え殺し!』ですね」
「吾輩、負けたであるか?」
 もふもふもふもふ。
「……え? こうやって男性を落とすって人間の本に書いてあったんですけど……違うのですか?」
 マオカッツェ、重度の天然である。
「……まぁ、落とされる男もいないとも限らないであるが」
「トシゾウさんも落ちたじゃないですか」
「……お主には小美(媚び)を与えるのである」
「ふふふ(←分かってない)」

●美とは
「参加してくれた皆、ありがとうなのである。吾輩、求める美に少し近づけた気がするのである」
 皆に対し深々と礼をするトシゾウ。

 全ての技に様々な美があった。
 美とはその者の顕現。あるいは生き様。
 全ての技が美しいとは言わない。
 今回の皆が美しかったのは、誰もが皆一生懸命だからだろう。
 あなたがもし美を求めるなら、足掻いてみるといい。
 いつかあなたにも宿る美が、きっと、ある。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:26人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
エノコロマイスター・
沙 月子(ja1773)

大学部4年4組 女 ダアト
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
銀狐の絆【瑞】・
ミズカ・カゲツ(jb5543)

大学部3年304組 女 阿修羅
からめ手好き・
マオカッツェ・チャペマヤー(jb6675)

中等部3年8組 女 バハムートテイマー
希望を繋ぐ手・
ナハト・L・シュテルン(jb7129)

大学部2年287組 女 バハムートテイマー