●作戦始動
「んじゃあ、全員無事を祈っとくぞ」
音琴(jz0085)は目の前に立つ15人の撃退士に向かって静かに呟く。
まあ、心配することもないだろうけど……なんて呟きながら。
●へし折り番長
「おらー、さっさ始めろよ」
学生寮の先輩方が集まり、ジュースやお菓子を机の上に並べ、パーティー感覚でこの隠し芸大会を進行するみたいだ。
陸刀(
ja0031)がすたすたとステージに姿を見せる。先輩達は陸刀の姿を見るとテンションが上がったのか「まってましたー」なんて言っている。
「どーもォ、ヨロシクセンパイ方ァ。」
陸刀は何時もの口調であいさつをする。ソレが気に食わないのか先輩の表情が険しくなった。そんなことはお構いなしにポケットからスプーンを取り出し、指に挟む。そして―
「ふんっ!」
いとも簡単にへし折った。その場に居た全員が口を大きく開けて動けない。それから陸刀は黙々とスプーンを折り、全てなくなると今度は足元に落ちていた竹刀を拾い上げ……無言でバキンっと折る。
「……以上」
陸刀は鼻でわらうと、その場から退場。
……こうして隠し芸大会は幕を開けたのだった。
●眠りの達人
一発目の隠し芸があれだったが、二人目は大丈夫だろうと気を取り直そうとする。
「どーもー」
今度は寧(
ja0416)がステージに現れた。
先程の怪力男とは違い女子生徒が出てきたことで先輩達の思考が元に戻る。
「高虎寧、『寝落ち』いくわよ」
突然そんな宣言を言うと、用意していたイスに座る。そして二秒後には……。
「……おい、あいつ寝てないか?」
1人の先輩が呟いたように寧はただイスに座って寝ているだけだ。立ち上がって寧に近付きゆさぶる。
「ふわぁ……。あ、おはようございます〜。一応隠し芸ですけど、こういうのはどうでしょうか?
」
「……」
正直意味不明だった。
●パペット〇ペット?
こんども女子生徒が現れた。蜜珠二葉(
ja0568)は手には牛とカエルのパペット。
そうと決まればやることは一つ……
「牛君でーす。カエルちゃんだよー♪」
まるで幼稚園生のお遊戯会の出し物のように、二葉は満面の笑みで話しかけた。
もちろん先輩達はしらけた目で二葉を見ているのだが当の本人は気にしない。
「よーし、今日は僕のおごりだ。さぁカエルちゃん。何でも食べたいものを言ってごらん!」
「牛肉!」
「えっ」
「……ありがとうございました!」
ええェェっ!? と先輩方の心の声が聞こえたような気がする。
そもそも口はあいているし、腹話術なのかもどうか危うし、まず隠し芸なのか?
お構いなしに二葉は満足そうにステージから姿を消した。
「うん、満足だよォ」
●三味線乱舞
四人目こそまともだろうと期待を膨らます。
「よろしくお願いします」
凱(
ja1625)は普段とは違う大人しい雰囲気をかもし出し、本人は少々気持ちが悪い様子。
もちろん先輩方は普段の凱なんて知る好もないから「はやくしろー」なんて野次を飛ばす。
「…………」
黙って三味線をとりだし――リズミカルに弾き始める。
三味線というのはギターよりも繊細でベースよりも些細な楽器である。それを自分の手足の如く使う凱の演技は思わず先輩たちでも見惚れる。
演奏が終わると汗をぬぐって静かに立ち上がり頭を下げる。
先輩方は思わず拍手をしたのだった。
●猫耳少女
五人目の少女―とんがり帽子を被った月子(
ja1773)の姿を見て先輩方の目線がそちらに注目される。
ステージの真ん中に立つと、月子はゆっくりと帽子に手をおいて、ゆっくりとぬぐ。
「おお〜」
何故か歓喜。月子の頭には可愛らしい猫耳が生えていたからだ。
猫耳といってもカチューシャなのだが、髪と同色なので本当に生えているかのようで可愛らしい。
耳に注目が言っている間にしっぽのアクセサリーを装備。
そして最後に
「にゃあ」
猫のポーズ。先程も言ったが、何故か歓喜する男ども。
月子はそそくさとステージから消える。拍手にも似た歓声はしばらくなくなることはなかった。
●百発百中
次に出てきた少女――リゼット(
ja6638)をみて先輩方は期待を膨らます。
大量の風船をもちこんだリゼットはソレをステージ上にばら撒く。風船は空中で一旦停止をする。
「今回リゼットがお見せするのはこれです」
取り出したのは弓だった。そして矢を片手に何本も持つ。
深呼吸を一度だけして集中力を高める。
隠し芸といっても、一応真面目にしておこう。リゼットは頭の中で呟いた。
「いきますっ!」
神速だった。
宙に浮いている風船を次々と打ち落としていくリゼット。
一発も外すこともなく百発百中で命中させていった。
先輩がたは「おお、これぞ隠し芸」と評価する。
リゼットは最後の風船を打ち落とすと「ふう」と息を落ち着かせる。
にっこりと微笑んで頭を下げた。
「ありがとうございました」
リゼットは満足だった。
●百発百中??
「い、いきなり隠し芸と言われましても、この位しか…」
ステージに現れたフェリーナ(
ja6845)は持ってきた五個の空き缶を一人の先輩に渡す。
渡された先輩は首を傾げていて「俺にどうしろと?」と言いたげだった。
「いまから、私に向かってその空き缶をなげてください」
「あ? いいのかよ?」
「構いません」
先輩はもう一度首をかしげてゆっくりと空き缶を一個だけ宙へ投げる。
するといままでの雰囲気とは別の感覚をフェリーナはかもし出した。
腰に隠していたエアガンを瞬時に構え、空き缶を打ち抜く。
先輩方は「おおー」と声を上げる。空き缶を渡された先輩は調子に乗って三つ同時に宙へ放り投げた。
そんなことは関係ないとエアガンから三つの銃声が鳴り響く。
三つとも空き缶を見事に捕らえていた。
最後の1個を先輩が宙へなげるとフェリーナは一瞬だけ目を瞑る。
「あ、あら……?」
空き缶には命中せずにむなしくエアガンの銃声が鳴り響き――静寂。
「一個だけ外しちゃいましたか……まあ、上出来ですよねはい」
フェリーナは逃げるようにその場を後にした。
●フィールドストリッピング
ファング(
ja7828)はベートーベン、交響曲第九番「歓喜の歌」を口ずさみながらステージに現れた。
ハンドガン15丁、アサルトライフル10丁、サブマシンガン5丁、計30丁を装備していた。
あまりにも物騒な装備のために先輩方の表情はそこまでよろしくない。
それを机の上に並べるとポキポキと指を鳴らす。
小さく息を吸って、指を動かし――開始。
並べられた銃を目にも留まらぬ速さで分解していく。
つまり『フィールドストリッピング』と呼ばれるもの。
フィールドストリッピングは拳銃を工具などを使わずに分解することである。
だが、彼の行っているのはまさに『隠し芸』である。二分もたたないうちに拳銃は全て分解された。
「一分二十七秒……うん、まずまずだ」
ファングはとても満足そうに拳銃をまた組み立てて其の場から立ち去っていったのだ。
●アホ毛は生き物
アホ毛がトレードマークの男子の登場。
「みなさんどうもー」
諏訪(
ja1215)は手には何も持たずにその場に現れた。にっこりと微笑んで先輩達を見渡す。
「今回の隠し芸はこちらの『アホ毛』を使った隠し芸ですー」
「アホ毛?」
先輩の数人から疑問の声が上がる。諏訪は指を自分のアホ毛まで誘導し、注目させる。
「必殺、あほ毛変毛(誤字にあらず)ですよー!」
するとどうだろう。
アホ毛が自由に動き始めた。これには先輩達も叫ぶしかない。
アホ毛はハテナマークやビックリマーク。ぐねぐねしたりぴょんぴょんしたりと自由自在だった。
まさ生きているかのように。
「どうなってんだ……?」
「原理?気にしたら負けですよー?」
諏訪は笑顔でそう答えて「以上でしたー」とステージを後にする。
●魔法☆少女
『煌めく魔法少女☆プリティ・チェリーちゃんだよ☆ハオハオ〜☆』
「…………」
突然の登場に場に居た先輩方はリアクションをとることを忘れ目の前に居る人物―紘人に注目していた。
男じゃなかったの? なんて疑問を頭の中に浮かべているのだろう。
紘人(
ja2549)―あらため魔法少女☆プリティ・チェリーちゃんは突然鳴り出したミュージック(魔法少女のアニソン)に合わせて踊りだした。
別に踊りは下手ではないのだ。
むしろ上手なのだ。
だが先輩方は手元にある『隠し芸大会プログラム』には『男』と書かれているのに目の前に居るのはどこからどう見たって『少女』である。
イントロが終わるとプリティ・チェリーちゃんはマイクを口元に近づけて息を大きく吸った。
『わたしは〜まもってみせる〜!』
「耳が痛てェええ!?」
「ちょ!? 頭がぁ!?」
「だれか! 誰か奴を止め――」
『愛してるわぁー!』
「ぐわぁぁぁあああ!?」
ある意味地獄の音痴で頭痛に悩まされる先輩達はニコニコ笑顔でステージから消え去った少女?を静かに見送った。
●ライブステージ!!
今度は男装をした女子生徒が三人登場する。
タキシード姿の千織(
ja2417)、男性用儀礼服に、シルバーアクセサリーを身に付けているケイ(
ja0582)と熾弦(
ja0358)。
そんな三人を遠い目で見ている先輩方はぐったり。
「田村ケイだ」
「神月熾弦よ」
「菰方千織でーす。今日は三人で最近人気な男子ユニットのJポップをうたって踊ります!」
するとあらかじめ用意していた音楽プレイヤーをスピーカに繋げ、ボタンをケイがぽちっと押す。
聞きなれた局が流れ出すとダウンしていた先輩達もノリノリになって手拍子を始める。
三人は見事な踊りを見せ付けてラップの芯でつくったお手製のマイクに向かって叫んだ。
「! おお、うまいじゃん!」
「先程とは大違いだな」
三人の見事な美声に先輩達のテンションは最高潮へと上がっていた。
手拍子の大きさも誰よりも大きく、一番盛り上がっているのが自分達でも分かった。
サビの部分に入ると熾弦もスキル星晶雪華に演出。
キラキラと雪がステージに輝きを与える。
先輩方のボルテージもMAXまであがり、ドンチャン騒ぎだ。
歌い終わると壮大な拍手が巻き起こり、アンコールの掛け声が出るほど盛り上がりを見せた。
●ドキドキナイフショー!!
「さて皆さん、今回のメインイベントです」
棗(
ja6680)は大道具を持ってきて深々と頭を下げる。
その大道具といわれるものは『人を拘束する』ものであり『的』であった。
「さて、それじゃあ………」
誰を『的』にしようかなと、目線をずらしていくと、先輩達の後ろにたっている人物――カーディス(
ja7927)が目に入った。目が会うと、にっこりと笑って口元を小さく動かす。
(的にNA☆RE☆YO☆)
(えええェェ!?)
文句を言っていると棗に後で何をされるか分からないのでカーディスは心の中で『ドナド〇』でも歌いながらステージへ出て行く。
「さて、こちらのカーディスには種も仕掛けもございません」
「…………あったら嫌だよ」
「だまってろ。……さて、こちらの的にとりあえず縛り付けます」
カーディスはされるがままに拘束される。
「そしてこちらのナイフ。これをこのぐらいの距離から――なげます」
「あぶなっ!?」
ギリギリカーディスの首元を通過していくナイフに冷や汗をかくしかない。
「それじゃあじゃんじゃん逝ってみましょう」
「漢字が違う!?」
お構いなしにナイフを脇の下、股、指のあいだとギリギリを狙う。だがどれもあたりはしていない。
最後の一本――カーディスの顔面へ。
「あぶっ!?」
見事に口でキャッチしたカーディス。これには先輩方も声を上げて「すげえ」というしかない。
「三途の川を渡るところでしたよ」
「ちっ…、渡ればよかったのに(笑)」
「ええっ!?」
もちろん舞台裏ではカーディスに「よくやった」と言いつつ頭をなでる棗の姿があったとさ。
●反撃の狼煙
「それじゃあ、お待ちかねの時間と行きますか」
先輩はそういって立ち上がった。十五人はとりあえずステージ上に並べられじっとみていた。
「今年は女子が多いからな。へへ、こりゃ楽しみだ―」
「チェスとォォォ!」
「ぐぶっし!?」
下品な手つきで近付く先輩に凱が跳び蹴りをかましたのだ。
「おうおうおう、黙ってきいてりゃ好き放題やってるらしいな」
髪型をオールバックにもどし、いつもの恐ろしい人相へと変わる。
「お、お前達なにしやがる!?」
「あん? んなもん心当たりがあるんじゃないのか?」
後ろに居た陸刀は不気味に微笑んで叫ぶ。
「ハデにいくぜェッッッ!!」
この掛け声と同時に十五人は動き出した。
陸刀、ケイ、カーディス、リゼットはボクシング部の団体に飛び込んだ。
「悪い子はいねがー★」
「悔いなさい!」
「ぶっとばす!」
「ええっと、睡眠スプレー!」
三人は見事なクロスカウンターやパンチをみせ圧倒していく。
ボクシングだというのにまったくボクシングでは歯が立たない。
リゼットだけは睡眠ガスを撒き散らす。
チェリー、棗、二葉は空手部の前へ立ちふさがる。
『さっき…チェリーの事、男言ったのはお前らかぁ!!』
「月に代わってお仕置きだぜ?」
「いきますよ!」
こちらもこちらでフルぼっこである。
チェリーと棗のデタラメな攻撃、二葉はガムテープで先輩方をグルグル巻きに。
結果、すぐに空手部は拘束された。
剣道部は目の前に居る『化物』に腰を抜かすだけであった。
「おらぁ? どうした?」
目の前に散らばる竹刀の数々。
寧と諏訪はそんな剣道部をかわいそうな目で見つめていた。
こんな状況に陥れたのはもちろん凱である。
「鬼だね…」
「鬼ですね…」
剣道部ドンマイと二人はエールを送ったのだった。
柔道部にいたってはさきほどから投げられているだけであった。
フェリーナと月子は女子とは思えない力で柔道部員を投げ飛ばす。
熾弦にいたっては見事な関節技まできめていた。つまり、柔道部が柔道で勝てないのだあった。
「ちょろあまですね」
「期待はずれです」
「ふむ……こんなものか」
柔道部員は泣きたい気持ちだっただろう。
●それから
それから正座をさせられた三十人は何故かファングと千織の二人による『指導』が始まってしまったのだ。
ファング曰く『貴様らは厳しいオレを嫌う!だが憎めば、それだけ学ぶ! オレは厳しいが公平だ!人種差別は許さん!ボクシング部、空手部、剣道部、柔道部を、オレは見下さん! すべて―――平等に―――価値がない!! 一晩中じっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやる!寝ていないかどうかきっちり見張るからな!』
千織曰く『いい年して下の子いじめるんじゃないの!もう、おいたしちゃダメよ?』と言いながら頭を禿げそうな勢いでなで続ける。
そして次の日には後輩に優しい寮生がしあがっていた。
この日の晩、何が行われたのかは残りの十三人も恐ろしくて聞けないという。