VS落とし穴!
楯清十郎(
ja2990)とレグルス・グラウシード(
ja8064)、そして伊駿木音琴(jz0085)の三人は学園内にある中庭のような場所に来ていた。目の前にはベンチに置かれた不自然な装置。間違いなくトラップである。つまり、この辺り周辺に落とし穴があると考えていいだろう。
「それじゃあ、ここは2人に任せた。俺は他のところを探してくる」
「僕達にまかせてください!」
「伊駿木先輩も気をつけて」
音琴は2人に手を振りながら校舎の中へ戻っていく。さて、困ったことに目の前にある装置を解除しなければならない。
「とりあえず、わかるものはわかる分つぶしていければ…」
レグルスはシェラタンを構えて、祈るように呟いた。
「僕の力よ……邪悪を打ち砕く、流星群になれッ!」
無数の流星が目の前に落ちる。地面は陥没し、そもそもどれが落とし穴だったのか分からない状況となってしまった。数は減っただろう。しかし、まだまだ落とし穴は設置されていると考えたほうがいい。
「結構派手にやったねえ……レグルスさん」
「ちょっとやりすぎた感じはありますけど」
「物は言いようだね」
「ですね。それでは、次はコレを使いましょう」
取り出したのは砲丸投げに使われるボールだった。何処から取り出したの? なんてベタな質問は受け付けません。レグルスはそれを穴が開いていない場所へコロコロと転がし、反応がないことを確認する。
「あのボールの転がった道は大丈夫そうですね。それではレグルスさん、行きましょう」
清十郎はここで、一つ見落としていることがあった。ボールはあくまでレグルスが立っている場所から転がしたのだ。つまり、レグルスの【足元】は大丈夫だったが、清十郎の【足元】には危険が待っている可能性がある。
そしてその嫌な予感が見事に――的中する。
「さーって、トラップを――ウェイッ!?」
「清十郎ッ!?」
突如、清十郎の姿が消える。それは足元に設置してあった落とし穴が作動したのだ。一瞬にして姿が消え、レグルスはあわてて穴へと近付く。
「大丈夫ですかッ!?」
「…………な、なんとか」
清十郎は体を大の字に広げて、穴の途中で引っ掛かっていた。下を除けば、真っ暗な闇が続いており、底が見えない。2人の間に不安が募る。
「…………これって何メートルあるんだろう?」
レグルスは首をかしげながらも用意していたロープを取り出す。穴の中へゆっくりと垂らして、清十郎が握ったことを確認する。自分の体に巻きつけて、2人とも穴へ落ちないよう気をつけた。
「ふぁいとー、いっぱーつ!」
レグルスは叫びながら清十郎を引っ張りあげる。大体五分ほど――やっとの思いで引き上げることに成功した。この時2人は確信した。
伊駿木音琴の先輩だと言われる女子生徒――願人海音はとんでもない人物だということを。
「こ、これは一句も早くトラップを解除しないと………」
「レグルスに賛成です…………」
気を引き締めて、トラップを解除する為に装置へと近付く。少々ビクビクしながらもたどり着いた時はほっと2人そろって溜息を吐いた。だが、問題は此処からである。
装置のふたを開くと、ご丁寧に用意された二本の導線。
色は――赤と青。
「こういう奴って、映画とかでもたいてい赤と青なんですよ。紫と黄色じゃどうしてだめなんですかね?」
レグルスの言葉に苦笑しつつも清十郎は「それが王道なんですよ」と答えた。特に意味はない。
さて、用意された導線。どちらかが正解で、どちらかがハズレである。
ハズレを弾いた場合――全ての落とし穴が発動して、学園中が大騒ぎになるだろう。そして、多分だが自分達の足元。なんだか妙に動くような気がする。
コレは確実に――仕掛けられているッ!!
最悪の場合を考えなければならない。二人そろって奈落の底なんて、ノーサンキューだ。
「赤を切りましょう! 赤を!」
レグルスが清十郎の袖を引っ張り、キラキラした目で見つめる。どうしたものかと清十郎は考え、懐からペンチを取り出し、宣言する。
「せっかくだから、僕はこの赤いコードを選ぶぜ!」
ぐっと赤い導線にペンチを近付け――勢い良く切断した。
落とし穴は――発動しなかった。
「……ふぅ。やりましたね、レグルスさん」
「ど、ドキドキが止まらなかった……」
レグルスは清十郎に微笑む。
「ふふっ、こう言う時、映画では主人公はたばこ吸うもんですけど……」
「僕等は未成年だよ? まあ、何か一服はしたいね」
レグルスは「そうですね」と笑い、最後にこう答えたのだった。
「でも、悪くないですね。この緊張感」
2人はゆっくり立ち上がり、落とし穴や、コメットで開いた穴を通り過ぎた知り合いの生徒に埋めるように頼んだ。全部出なくて良いと伝えて。
今度は犯人探しである。
願人海音を探す為、二人は校舎の中へ走り去った。
●VS大洪水
音琴は高等部の廊下を走りながらキョロキョロと足元を確認する。変なトラップにかかっちゃ意味がないからである。なんて、考えながら走っていると……。
プツンッ
「ん? ってぎゃああああああ!」
天井がかぱっと開いて大量の水が降ってきた。被害者はトラップにかかった本人だけだったのでよかったのだが……。
「…………どうやって学園の天井を改造したんだよッ!?」
謎である。
全身濡れた状態でトボトボ歩いていると、トラップ解除に協力してもらっている染井桜花(
ja4386)と菊開すみれ(
ja6392)がこちらを向いて立っていた。音琴の姿をみると桜花は首を横に傾け、すみれは唖然とする。
「伊駿木先輩、どうしたんですか!」
「いや……見れば分かるでしょ? トラップだよ、トラップ」
「…………ドジね」
「滅相もございません……」
後輩の桜花にそういわれてしまっては落ち込むのは仕方がない。すみれは苦笑しながらも「まあまあ」と音琴の肩を叩く。慰めているのだろう。
「ところで、2人は装置は見つかった?」
「はい、どうやらこの教室の中にあるようです。ここのクラスの生徒が教えてくれました」
「……入るわよ」
「え? 俺もッ!?」
桜花は音琴の腕を掴んで無理やり教室へ入れる。音琴はコレでも女性との接し方に慣れていない方で、肌と肌が触れ合うなどもってのほかである。
「さて、伊駿木先輩。装置が見つかりましたよ」
「おう……教卓の上にあるアレか」
教卓の上に置かれている装置。形状は箱状ですみれが開くと中に赤色と青色の導線が入っていた。
「それで、どっちを切るんだ?」
「…………考えてない」
「そうでした。私達、どっちを切るか決めていませんでしたね」
すると、すみれは用意していたペンチを取り出して迷わず青色のほうへと持っていく。
「ま、まてまて! ここは冷静に物事を考えよう! 早まるのはまだ早い!」
「でも、ここは教室ですし、トラップがあるとは」
「…………可能性は、捨てきれない」
「桜花の言うとおりだ。冷静に考えて、それから切ろう。じゃないと仕掛けられているトラップが全部発動する。なんとしてもそれだけは勘弁してくれ」
「分かりました。それなら桜花ちゃん、どっちがいい?」
「……赤」
「なら、赤を切りましょう」
「まていッ!」
「濡れる時は一緒だよ♪」
音琴の必死な説得も無駄に終わり、すみれは「えいっ」と可愛らしく赤色の導線を切断した。
ここで、音琴が考えている恐ろしいことを二つ紹介させていただこう。
一つは、トラップの解除装置があるところには必ず大きな罠が仕掛けられていると予想できている。つまり、コレに失敗した場合は大量の水を頭から被らなければならないということだ。
二つ目はこの場所にメンバーである。男女比率を考えても1:2.そして何よりすみれはフリルのついたワンピース。色は白だ。桜花は紺色のセーラー服。日本らしい女子高生の格好だ。
何が予想できるって? もちろん…………――
突如、教室の天井が全て開いて水が降り注ぐ。廊下の天井も開き、大洪水のように水が流れ込んできた。
外から見ていた生徒は後々こう語る。……『いやー、映画のような光景でしたよ』と。
五秒ほど息ができず、もだえ苦しんだが水は開いていた窓から殆んど流れて三人は咳き込みながらもお互いの安否を確認した。
「ゲホッ、ゲホ……2人ともだいじょ――ッ!?」
音琴が顔を上げたとき――まあ、こうなると予想していた事態が起きてしまった。
「・・・びしょ濡れ」
桜花が呟く。彼女の体にびっちりと服が吸い付き、体のラインが嫌というほど分かる。紺色のセーラー服というのは水に濡れると少々透ける場所がある――主にスカートとか。うっすらと見える下着に音琴は急いで顔をそらした。
だが、その先にはすみれが居る。
「うわ……びしょぬれ。って、なんか服が濡れて透けたりしてえっちなことになってるよ!」
はい、その通りです。すみれの場合はフリルのついたホワイトワンピ。桜花と同じようにワンピースが体に吸い付いている。体のラインもわかるが――何より下着姿が丸見えである。
すみれは顔を真っ赤にして固まる音琴の視線に気がつき、ゆっくりと目を合わせた。
「あっち向いてて下さい!」
「グホッ!!」
手元に落ちてあった黒板消しを反射的に投げつけてしまった。教室のものはぐちゃぐちゃになっている。黒板消しも流されて手元にやってきたのだろう。
すみれは目に涙を浮かべ音琴に背を向ける。
当の本人は鼻血を出した状態で伸びてしまった。
「…………気持ち悪い」
桜花は体に吸い付く服を触りながら、静かに呟いた。
●VS爆発物
「いってぇ……まーだ、頬が痛い」
あの後音琴はふらふらしながらグラウンドへ来ていた。
先ほど通りすがりの生徒に避難するようにと呼びかける秋代京(
jb2289)が居ると聞いたのだ。とりあえず、全身濡れて、頬に赤い痣を負った悲しい男はゆっくりと歩みを進める。
グラウンドへたどり着くと京ともう一人、新田原護(
ja0410)がこちらに向かって手を振っていた。
「伊駿木先輩ー」
「おう、秋代に新田原。どうだ? 爆弾は見つかりそうか?」
「今、新田原くんが爆弾をサーチして探しています」
「そうか」
すると――護がぼそっと何かをつぶやく。
「爆弾か。情報では相当なトラップマニアか。この手の人間は自分の技術を認めて欲しい、または極端にアピールしたいようだな。そう言う意味では最高で最悪なデモンストレーションだ」
「いや、たぶんあの人はただ遊んでるだけどと…………」
これ以上は深いツッコミを入れないようにしておいた。海音はただ単に暇をつぶしているだけ。特に後輩が困ればそれは鉱物である。残念ながら今回のトラップ解除班にまわった音琴を入れた七人は――すべて後輩である。
護は思いつく限りの所を探った。美術室――購買――そしてヒットした場所。
「見つけたぞ!」
「おお、早かったな。なら、早速向かうぞ」
「はい、伊駿木先輩!」
「了解です!」
護の後ろをついていく形で三人は爆弾の場所へと向かった。
と、ここで願人海音の技術能力について語らせてもらおう。
物を作り上げる能力はずば抜けて高い。学園を改造することなどたやすいことだ。もちろん爆弾を作ることも。
やろうと思えば学園を一つの要塞に作り上げることもできるだろう。でも――それは彼女にとっては面白くないのだ。
面白くないことはしない。面白いことはする。
今回、その能力の矛先が不運にもトラップへと導かれてしまったのだ。音琴は毎回のごとく振り回されている。頭が痛い限りだ。
さて、たどり着いたのは――音琴のクラス。大学部1年0組。
「って、ここかよッ!?」
「なるほど、伊駿木先輩の教室ならなんとなく納得できますね」
「おい、秋代。頼むからそれは言わないでくれ……」
「二人とも、中に入って爆弾を調べるぞ」
護の誘導により中に入る。洪水トラップと同じように教卓の上に置かれてあった。ゆっくりと秋代が装置のふたを開けると――赤色と青色の導線。そして液体らしきものが入った瓶がある。
「あった……2液混合型液体炸薬……うわー……趣味だわ。これ、分量多めにすれば軽く講堂の1つは吹き飛ぶな。ぜひ卒業後は陸自の国家撃退士の戦闘工兵になってほしいな。敵の妨害物を吹き飛ばす役目は一番危険だし」
「盛り上がってるところ悪いけど、あの人なら研究所ごと爆破するぞ?」
「……」
「……」
京と護は固まって音琴を見つめる。確かに、やりかねない。
「どうだ、新田原? 他に解除できる方法は?」
「無理だ……導線を切るしかありませんね」
「新田原くん……君まかせるよ!」
護はペンチを取り出し、目をつむる。
「恋人との赤い運命の線を切るのは忍びないっと」
青色の導線を――切断した。
「……」
「……」
「……」
装置に――『あと、3秒』と表示された。
「みんな逃げろッ!!」
音琴は叫び、3人同時に外へ飛び出そうとする。後ろを振り向き、廊下目掛けて飛ぶが――間に合う訳がない。
ドガアアアアアアアアッン
外から見ていた生徒は後々こう語る――『いやー、まるで大砲が打ち出されたかと思いましたよ』と。
後々やって来た救護班は全身真っ黒けで、アフロヘヤーの気絶した3人を運び出したと報告した。
●VS元凶さん
「いやー、みんなお疲れ様」
「なーにがお疲れ様ですかッ!? 殺す気ですか!? 爆弾ってアホですかああ!?」
「まあまあ、音琴くん。そうかっかするなよ」
とある教室にトラップを解除した七人と元凶がそろっていた。そして、元凶は椅子に縛られ身動きが取れない状態である。
「で、なんで私は縛られてるの?」
「自分のマイハートにでも聞いてください」
まあ、理由は言わなくても分かっている。
清十郎はスコップ。レグルスは原稿用紙を持っている。
「先輩、穴は自分で埋めてくださいよ」
「『ごめんなさいもうしません』って1000回書くまで許しませんからね!」
「ふむ…………二人の罰は分かった」
今度はすみれと桜花だ。二人とも濡れたのでジャージである。
「……正座、写経」
「釘バットで『精密殺撃』のスキルって使えるんですかね? 知ってます?」
「ふむふむ、なるほど」
最後にアフロヘヤーの護と京だ。
「死ぬかと思ったぞ……」
「もう、無関係の人に被害が出るような事はやめて下さいよ?」
「君たちは御とがめなしか」
すると、海音はするりとロープをすり抜け立ち上がった。
「……うっそだあ」
「嘘じゃないわよ? さあって、それらの罰は音琴くんにやってもらおうかね」
「はあ!?ちょ、ちょっと何を――」
「それじゃあ、ドロンッ!」
海音は煙幕をはって、窓から飛び出した。あれ? ここ三階ですよ? と誰かがつぶやく。
「つ、捕まえるのよぉぉぉおおお!」
すみれの叫びで、全員が飛び出す。その日、海音は一度も姿を見せなかったらしい。
トラップによる被害はゼロ。解除も成功したということで、めでたし、めでたし?