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マスター:猫之宮折紙
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/01/17


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

●〜初夢〜
 伊駿木音琴(jz0085)はゆっくりと目を開けた。やけに騒がしい。嫌でも目が覚めてしまう。ゆっくりと目を開けて目に入る光りに少々戸惑っていると……
「さあ! 始まりました! 今年の抱負選手権! ルールとしては今年の抱負をステージで叫んでもらい、一番衝撃の強かった人の優勝です!」
「……あれ? どこ、ここ?」
 音琴は何故かステージの横に設置してあるボックス席に座らされ、手元にはスタンドマイクとこのイベントの詳細が書かれている資料が置かれていた。
「審査をしていただくのは学園きってのダメ人間! 伊駿木音琴さんです!」
 湧き上がる拍手。どよめく会場。どうやら此処はかなり広いホールのようだ。見覚えはない。とうか、何故こんなことになってしまったかは分からない。
「出場者の皆さんもやる気満々ですよ! 音琴さん、どの選手に注目していますか!」
「注目って……誰が出るのか知らないし」
「なるほど! 分かりました!」
「ふざけるなぼけ!」
 今ので確信した。どうやらこれは夢tらしい。初夢にしては性質がわるすぎるが……
「それでは、張り切って行きましょう!」
 こうして、何とも不幸な初夢が始まるのであった。



リプレイ本文

●ひとまず始まる
 伊駿木音琴(jz0085)はひとまず夢が早く覚めることだけ願って、頬杖をつきながらステージを見つめた。
 さてと、どんな抱負を叫んでくれるのだろうか?

●グラン(ja1111)の人間観察
 グランはステージ上に立つと唇に右手を添えて考えるポーズをとる。
「ふむ、二十人以上が同じ夢を見る現象か……これは興味深い」
 音琴のところまではなんと言っているのかはっきりは聞こえないが、表情は読み取れる。「面白い」と彼は語っている。不気味な笑みと共に。
「試しですが、抱負を叫ぶ方々の恥じらい、表情の変化、ふっきれた様などいろいろな角度で抱負をさけぶ選手権に集った方々を観察し、スマホにでもその勇姿を残してみましょう」
 さらっととんでもない事を言った気がする。
「それでは早速私の抱負を発表しましょう」
 グラン両腕を広げて、高々と宣言した。
「撃退士は大変ユニークな方が多いので是非とも研究させていただきたい! 是非とも研究の糧に!」
 いや、お前も十分ユニークすぎるだろ。
 冷静なツッコミが観客からも出演者からも審査員席の音琴から炸裂されたのは言うまでもない。
 グランは満足そうに唇の端をあげて、「それではこれで」と一回お辞儀をしてステージから姿を消した。
 ……この夢、早速不安だ。

●九十九(ja1149)の本体論
 二人目が登場する前にステージ上に花びらが舞い上がる。何処からともなく琵琶の音色も聞こえてくる。これはスキルによる芸当なのだろう。
 ゆっくりと姿を現したのは九十九である。彼はマイクを握り締め、きりっとした真剣な表情で観客達を見つめた。
 これはものすごくまともな抱負が聞けそうだと、誰もが期待の眼差しで見つめた。
 そして――
「存在感を、本気出す!」
 全員同時にずっこけた。
「今年からは、猫が本体じゃない!ライムの影とか付属品とか、言わせない!」
 何がどういうことなのだろうかと音琴が首をかしげていると会場の電気が全て消える。そして、二秒ほどして、会場に一筋のライトが当てられた。
 三毛猫に。
「にゃ〜」
 ……ああ、なるほど。これがライムという猫なのだろう。その愛くるしさゆえに会場の視線は猫まっしぐらである。
 もちろん、九十九はその場で呆然と立ちっぱなしで、悲しく琵琶の音だけが流れていた。

●遊佐篤(ja0628)とリゼット・エトワール(ja6638)の愛を叫ぶ
 ステージに現れた篤はマイクを手に取りキョロキョロと辺りを見渡した。そして最前列に居たリゼットと目があうとにっこりと微笑む。
 音琴はこの瞬間に何故かセンサーもどきが働いた。
 これは、確実に甘い空間が出来上がる……と。
「男、遊佐篤!今年の抱負を叫びます!」
 視線はリゼットに向けたまま、マイクは優しく握りしめ、女性人がキャーキャー叫びそうな甘い表情で口をあけた。
「今年は…リゼットとデートして誕生日過ごして星を見て喫茶店行って夏になったらホタルでも探しに行って秋は紅葉を見に行ってクリスマスを一緒に過ごして、そんな愛を誓います!」
 観客達のざわめき、出演者達のひゅーひゅーという煽り、そして音琴のウラヤマーオーラ。観客にいたリゼットは顔を真っ赤にして何故か立ち上がって、胸に右手を置いて口をパクパクさせる。
 しばらくして決心がついたのか、真剣な眼差しでステージに立つ彼を見つめる。
「今年もこれからも…! あああ篤さんと、一緒に…っ」
 彼に聞こえるように、一言全て伝えるように、彼女は叫んだ。
「……う、移りゆく季節をずっと過ごしていきたいです…!!」
 うぉー! 会場が盛り上がるのは無理はない。二人は顔を真っ赤にしたままお互いに微笑むのであった。
「あー、うらやまー……」
 ……あえて誰の呟きかは言わない。

●御伽炯々(ja1693)の孤独な戦い
 炯々はステージ上に上がった瞬間に力強くマイクを持っていない左手の拳を固く握り締めた。その熱意は今まで出てきた誰よりも何故か暑苦しいほどに熱い。
「なんとしても今年はアレを普及させねば……!」
 ふむふむ、なにやら彼には野望があるようだ。音琴は少し興味が出てきたらしくにやりと笑う。
 炯々はマイクを口元まで持ってきて、己の持つ力全てを吐き出すようにして全力で叫ぶのであった。
「今年中にバンダナ仲間を増やしてサッカーチーム(人数的な目安)作る!バンダナが好きなんだぁぁあ!」
「バンダナかよ!」
 思わず我慢できなくて叫んでしまいました。
「俺は学園に(知る中では)数名しかバンダニストがいないことを憂いている。絶対にバンダナを……はやらせる!」
「うわ、くだらねー!」
 というものの、音琴は何を隠そうヘッドホンをこよなく愛している。考えれば似ているのかもしれない。一瞬、「あれ? 俺と同類じゃない?」と疑問が生まれるぐらいだ。
「あ、これどうぞ」
 音琴に炯々は赤いバンダナを渡す。どうやらアピールだろう。
「んーこっちもいいけどやっぱこれかな。ま、ひとつお近づきの印に」
 今度は迷彩柄である。……まあ、もらっておこう。

●エイルズレトラ・マステリオ(ja2224)は奇術道
 エイルズレトラが現れると指をパチンと鳴らす。瞬間、スポットライトが彼に当てられた。スキル:ショウ・タイムを演出にうまく使っている。
「僕はマジシャン、日本語で言えば奇術師です。実際に様々な依頼で奇術師として活動し、そのものずばり奇術師の称号ももらいました」
 彼はおもむろにもう一度指を鳴らす。すると彼の手のひらにかぼちゃが現れた。コレだけでも観客は大喜びだ。音琴もマジックなどは好きだ。推理したくなるのだが、今まで解決したことはない。
 エイルズレトラはかぼちゃを空中に放り投げると今度はアウルの力でトランプを何枚も作り出して、かぼちゃめがけて投げつけた。鋭い刃物のようにかぼちゃをバラバラに切り刻む。
「しかし僕は奇術師より更に一歩踏み込み、奇術を戦いに応用し、奇術で戦う奇術『士』になりたい」
 ステージの後ろに設置されている机に飛び乗り、マイクをひっぱりだして、観客に向けて叫んだ。
「だから僕は宣言します! 僕は今年、世界で最初の『奇術士』の称号を得る、と!!」
 言うまでもない。観客は盛り上がった。

●草薙胡桃(ja2617)の殺人回避
 淡桃色の癖毛が特徴的な胡桃が登場する。彼女の手にはタッパーが握られており、ステージの真ん中で停まることなくそのまま審査員席までとことこと歩いてくる。
 首をかしげながら音琴は彼女に理由を聞いた。
「どうしたんだ?」
「音琴さんにこれ、食べてもらいたいと思ったです」
 タッパーを開くとそこには狐色に焼けたマドレーヌが顔を覗かせていた。普通においしそうだ。
「前日に作ってきたです。音琴さんにたべてもらいたくて」
「おお、サンキューな。いやー、夢だけどなんか甘いもの食べれるなんていいな」
 ごく自然にマドレーヌを手に取り、そのまま丸ごと一口で放り込んだ。
 ……出演者の誰かが最初に気がついた。「あれ、あいつ様子可笑しいぞ?」と。
 顔色がみるみる青くなる。そして首を掴んで悶絶を始めた。この瞬間、誰もが彼女の抱負を理解した。
「年末カウントダウン中に、彼氏が出来ました。その彼に、美味しい料理を食べてもらいたい」
 乙女の彼女はここに宣言した。
「大好きな彼に美味しいって言ってもらえるくらい、料理上手になる!!」
「……そうして、やって、くれ……がく」
 それからしばらく音琴は動かなくなった。

●翡翠龍斗(ja7594)の本音と建前
 ステージ現れた龍斗は明らかに動揺していた。それもそうだ。今までの人たちが抱負といわれてあんなにスラスラと言えた方が不思議なくらいだ。
 彼は目をずっと閉じた状態で観客の前に現れている。戦闘ではないということで、そうしているのであろう。ただずっとこうしているわけにもいかない。
 彼はマイクに口を近づけて、早口で言葉を述べた。
「俺は牙無き人の牙になるよりも、ただ一人だけの為に矛となるのが目標だ。その為に、やるべき事は見えている!」
 叫び終わると、そのまま静かに退場。うん? あまりにも呆気ないなあと彼のことをしっている音琴は不思議に思った。
 だが、彼が立ち去る時に音琴は些細な呟きを逃すことはなかった。
「……これは言うべきではなかったか」
 顔を真っ赤にするその姿はどうも可笑しくてクスリと音琴は微笑んだ。
 どうも龍斗らしい一面である。思えば、先程の抱負もただの建前で本音は別にあるのではないかと考える。
 そう、例えばこんな風に。
 デレて→愛しい人をお姫様抱っこして、登下校してみたいっ!
 ……なーんてね。

●一条常盤(ja8160)の書初め
「謹んで新年のお慶び申し上げます」
 和装にたすき掛けをした常盤が正座をしながら観客に頭を下げる。先程から観客が騒がしいのはステージが先程は比べ物にならないほど大掛かりなものが容易されているからだ。
 一面に敷かれたブールシート、その上に堂々としている巨大な墨の入ったバケツ。そして巨大中身と、筆。そう、彼女は書初めをするというらしい。
「それでは、ミュージックスタート」
 掛け声と同時に和風のロックBGMが会場に流れ始める。曲に合わせて剣舞のように紙に文字を書いていく。
 曲がサビに差し掛かったところで、彼女は筆を置いて、紙を手に持って観客に見せた。立派な字で「公平無私」と書かれていた。
「昨年は様々な依頼を経験し、私情にとらわれず目的を完遂する事の難しさを知りました。安寧秩序を目指し、冷静で理性的に行動するよう、心を引き締めて邁進する所存で……ん?」
 先程まで流れていたBGMが何故か幽霊が出そうな恐ろしいものに変わった。その瞬間、彼女の表情が変わる。
「にゃぁ!?おばけやめてえぇ!」
 怯えて墨をひっくり返す彼女の視界に入ったのは面白そうに笑う龍斗であった。一瞬で理解した。彼の悪戯である。
「…訂正。今年の抱負は『翡翠殿から1本取る』です!」
 筆を片手に彼女は顔を真っ赤に退場していった。
「あ、伊駿木先輩の抱負は「リア充」ですか?」
「ほっとけ!」

●藤沢薊(ja8947)は性別迷子
 ステージの袖でじっと観客を見つめる少女……もとい少年、薊はどうしようもなく戸惑っていた。
「人前とか、苦手だけど、やるなら、堂々とだよな……」
 昭和の女子大生を思わせる清楚な格好をしている少年はステージの中央まで歩いていき、観客のほうに体を向ける。その圧倒的な多さに一瞬だけたじろぐが、勇気を振り絞って、声を張り上げた。
「あのさ…にぃさんらにさ、こんな格好して可愛いなんて、言われるけどさ……俺、男だし…だからさ……」
 手に持っていた虹色の日傘を高く放り投げて服装を一瞬にして変えた。制服に白衣と何時もの姿だ。
 どうやら女子大生の服装の下に着ていたらしい。
 傘が床に落ちると大きく息を吸って、抱負を叫ぶ。
「今年は…女と間違われないようにするんだからあああ!!!」
 言い終わった後、涙目で息を整える少年は残念ながら可愛い少女にしか見えないのはご愛嬌だろ。
 音琴は少年をみてこう呟いた。
「いや、嘘はいかん」
 ……どうやら彼には伝わっていないようです。

●九十九癒姫(ja9119)の小言
「抱負選手権…何だか凄い大会ですね」
 そっと呟く癒姫は他の参加の抱負を人一倍真剣に聞いていた。愛の告白や熱い思いに心打たれたようで感動していた。
 だが、どうやら次は自分の番らしい。
 他の参加者達と同じようにステージ中央に向かって、立ち止まる。
 マイク片手に、彼女は自分の気持ちを正直な言葉で紡ぐ。
「『依頼に参加して多くの人を助けたい』 私の家は代々治癒術に長けています。だからこそ九十九家跡取りとして撃退士として色んな依頼に参加して多くの人を私の力で助けたいんです」
 彼女の切実な願い。音琴も思わず「流石だぁ……」感心する。
 此処までは。
「……あ、もう一つだけいいですか? 『対話術を磨く』家の親戚がちょっと複雑で色々言い争いになるんです。だからもっと効率的に黙らせるようにしたいんですよ。本当ストレス溜まるんですよねぇ、後ろで見てるだけのくせにあーだこーだと口やかましい人のお小言(ぶつぶつ)」
「うわ、意外と真っ黒な人だった!?」
 小言だけは何故か表情が黒い癒姫さん。観客の皆さんも唖然なのは仕方がない。

●猫谷海生(ja9149)はアレが好き
 さて、今までの抱負を叫ぶ人たちはスキルを使ったり、自分なりの演出をしてくれて会場を盛り上げてくれた。
 愛の告白、スキルによるは花びらやマジック、BGMその他諸々だ。だが、今回は誰しも口をあけて、唖然とするしかない。
 音琴もなにもいえなかった。
 目の前に現れた『謎の巨大オブジェ』によって……。
「んしょ、んしょ、んしょ……!」
 可愛らしい声でその巨大なオブジェ――ピンク色の液体があふれ出す噴水を持ってくる海生はそれを中央に持ってきて、その前に立つ。
「う? 今年の抱負、です? んと、苺ミルクいっぱい、飲んで、健康に過ごす、です。苺ミルク、命の源、です」
「それは明らかに勘違いだ!
「苺ミルク飲めば、どんなことも、勝てる、やれる、です!」
「ドヤ顔で力説!? ちょっと無理がってもう無理しかねえよ!」
「つまり、今年は――」
 と、どこで用意したのか『苺ミルクで、ふくふく、みんな幸福』と達筆で書かれた垂れ幕が登場した。
「ですよ!! こんな、もの、です、かね。ふぁー……。苺ミルク、うまー、です♪」
「……ねえよ」

●ユリア・スズノミヤ(ja9826)と飛鷹蓮(jb3429)によるデュエット!
 今度は珍しく二人同時に出てきた。これまた愛の告白かと思ったがどうやら違うようだ。
 二人はマイクを握り、口元に近づけた。
「それでは、二人で歌います。聞いてください!」
 ユリアが深呼吸をして口を開いた。
「心の扉を開こう 小さな歩幅でも前を向いて歩き出そう 誰かの笑顔のためならばきっと変われるはずだから」
 何処からか手拍子が聞こえてきて、会場はいつの間にかライブ状態である。
 今度は蓮が続くように歌い始めた。
「今はまだそっと秘めているけれど いつの日か枯れることのない約束をしよう 誰かの笑顔のために幸あれ、と」
 二人は背中合わせに「言葉を繋ごう」と同時に歌った。
 思わず拍手が沸きあがる。音琴も「おお」とスタンディングオベーション。二人はプロ並に上手い。
「ありがとうございます! 私、ユリア・スズノミヤの抱負は沢山笑顔になること! 笑顔の繋がりで皆を幸せにしたい!」
「俺は平凡な日々を…か。当たり前でいて、難しいことかもしれんがな」
 二人に再び拍手が送られた。
「…ユリア。夢から覚めてもよろしく頼む」
「はい、もちろんです! 蓮ちゃん、今日はすごく楽しかったよ。どうもありがとう」
 二人は互いの手を握ってにっこりと笑った。
「……うらやまー」
 音琴はひとまず落ち着きましょう。

●蒼井御子(jb0655)は高校三年生
 てくてくと歩いてきたのはどっからどうみても小学生の少女。ところがどっこい。これでも立派な高校三年生なのである。
 もちろん彼女の抱負は一つ。
「せええええのおおおおおおおお!ことしこそはあああああああ!!身長を2cmのばす‥‥‥‥!!! 牛乳飲んでるのに!運動だってやってるのに!家族は低くなんてないのに! なんで伸びないのさ……!もう小学生に間違えられるのはコリゴリだよーっ!!」
 そうである。ひとまず身長を伸ばすことだ。
 身長:116cmと驚異的な小学生なのだが、もはやびっくり人間だ。
 バハムートテイマーである彼女の方に小さなリュウが現われる。
「ねえリュウ君。おかしいよねー……おとーさんもねーさんも身長は高いほうなのに……はっ!? コレはもしやチェンジリング?!」
「何のことだよ……」
「116だよ、116! 皆昔から背が高すぎるんだよ! は!? もしやこれは世界秘密結社の陰謀!」
「ちょっと落ち着こうかぁー」
 残念ながらその抱負を叶えるのは相当な努力が必要のようです。

●大和田みちる(jb0664)の悲願
 マイクを持ったまま、どうしようかと悩むみちるは、そっと呟くように言葉を発する。
「抱負? 抱負なぁ……よおわからんけど、叫んでみるんかなぁ? うちの抱負は兄さんと一緒に、旅行に行きたい。いまどこにいるか、どうしているか、生きているかすら、わからへん兄さん。でも、もし願いが叶うなら、兄さんと旅行いきたいなぁ」
 静まり返る会場。
 何か言葉を言おうとするが音琴は上手く支える言葉が見つからない。
 どうも、彼女の思いは『重い』。そして何より『切実』で『真実』だった。
「そのためには、京都を取り戻さなあかんかもしれへん。もしもそうなればうちは力いっぱい、それに尽力したいと思う。兄さんのためにも…………自分のためにも」
 マイクを握りながらみちるは恥ずかしそうににっこり笑う。
「こんなところでええやろ。さすがにはずかしぃわぁ」
 お辞儀をしてステージから退場する。拍手は……彼女が見えなくなってもしばらくなり続けた。
 彼女の長い黒い髪は願掛けも兼ねて、切らないでいると後々音琴は知ることとなるのだが……。

●サガ=リーヴァレスト(jb0805)の存在
 サガ=リーヴァレストの事について知っている者はまず最初にこういうだろう。彼は優しい青年であると。だが、人には顔を背けたくなるような過去がつきものである。
 特にこの学園の生徒たちは。
 彼も例外ではない。
 ステージに立つと、彼は落ち着いた雰囲気で語り始めた。
「私は昔、某国で暗殺をしていた。生後すぐ捨てられ養父に拾われた私は彼が生業とした暗殺業を継ぐ事に疑問を持たなかった。だが学園に来て私は変わった。人を守る事を覚えた。友人が出来た。恋人も出来た」
 三秒ほど間があいて、彼はつぶやく。
 私は…大切な物を守りたい……と。
 そしてサガは精一杯の気持ちを伝えるために全力で叫んだ。
「私の今年の抱負は……『大切な人を、人々を、守り抜く為に戦う』だ!」
 彼が現在身に着けている黒装束と剣は暗殺をしていたものに違いない。それを身にまとい、彼自身が何一つのけじめをつけるために、あの場所に立っている。
 音琴は誰よりも早く、拍手を始めた。
 
●天険突破(jb0947)の唐突
 突破は迷うことなくステージの中央に駈ける。全速力と言ってもいいだろう。
 マイクを片手に彼は勢いよく、なんの躊躇もなく、間も開けずに、全力で叫んだ。
「今年の目標は日本一! もちろん何でもいいってわけじゃないぜ、目指すのは最強の称号『ゆるキャラ日本一』だ!」
「うあー、まーたとんでもないのが出てきたな、おい」
 音琴がツッコミを入れざるおえない豊富なのである。というか、これはギリギリOKなのだろうか? むしろ色々とアウトなのではないかと不安がよぎる。
「それを果たした暁には優勝トロフィーをひっさげた俺が学園入り口に登場することだろう、その日を楽しみに待っててくれ」
「結局は目立ちたいだけだと、俺は願っている」
 さて、これにて突破の出番は終了かと思いきや、づかづかと音琴の方へ突破がやってくる。
 何事かと、眉をひそめる。突破は眼の前で止まって、これまた勢いよくマイクを音琴に突き出した。
「さあ、伊駿木音琴。お前の夢を教えろ」
「はあ? おいおい待てって。そんなイレギュラーなことをされても俺は困るぞ」
「そんな事は関係ない! さあ、心の叫びをこのマイクに――って、おい! 誰だお前ら! はなせ!」
 黒いマネキンのような人間が突然二人現れて突破を連れて行く。おお、流石初夢。なんかすげーな。

●夢前白布(jb1392)の追憶
 今度はなんともたどたどしい少年が現れた。
 どこか怯えているような、緊張しているような、審査員席からでも彼が震えていることは分かっていた。
 大丈夫なのだろうかと少々不安だ。
「え、えぇっと、今年の抱負? そうだな‥‥やっぱりあの事がいいよね」
 マイクを握ると、少年はゆっくりと話し始める。
「今から9ヶ月前、僕は旭川にいた。撃退士の人たちは分かると思うけれど、そこは天使ギメル=ツァダイに襲撃を受けた場所なんだ。僕と家族もギメルに襲われて、それで姉さんや友達がいっぱい殺されて……。あいつがいなくなった後、僕は復興に来てくれた学園の撃退士に会ったんだ。その人の言っていたのだけれど、胸に夢を抱く事、それが大事って言っていたんだ。だから、僕は心に夢を持ちたい。そして、あの人みたいに立派な撃退士になりたい」
 ここで出てくる彼については深く語るまい。
 彼の中にいるのが誰なのかは音琴はまあまあ記憶にある。
 少し、話を聞いたことがあるだけだ。
 だがまあ、こうやって誰かを救い、救われた者が何かを守ろうというこのサイクルは素晴らしいものだと誰もが思った。
 彼の追憶は観客の心には響いたのであった。

●矢野古代(jb1679)の爆発
「これは夢だから多少はっちゃけても問題ないよな! 夢だから多少はっちゃけても仕方ないよな!」
「あれ? 今何か聞こえやいけないことが聞こえたような気がする……!?」
 さて。次は少々ダンディな中年である。彼はステージの端から勢いよく飛び出すように走って中央を目指す。
「久遠ヶ原の若人どもよ! これが! これが! DOGEZAだっ!」
 マイクに向かって力強く叫ぶとロングコートをはためかせ空中で四回転を決める。観客から何故か歓声が鳴り響いたのは偶然だと信じたい。
 それから着地後に見事に土下座のポーズを決めた。それはしなやかに。そして鮮やかに。大人の本気の土下座を目の当たりにしてしまった。
「このように俺の土下座は未だに未熟! 故に今年の抱負は、『人を感動させるDOGEZAを習得する!』だ!」
「却下だ! チェンジだ!」
 音琴は審査員席に何故か置かれてあったボタンを勢いよく叩くと、古代の足元の床が抜けおちる。
「あれ?」
 もちろん土下座のまま彼は消えていくのであった。
「大人の本気の土下座なんて、見たくなかったなあ」
 そりゃそうである。

●ルーガ・スレイアー(jb2600)の依存
 これまた珍しい人物が出てきたと音琴は感心する。
 ルーガ・スレイアーは何を隠そう悪魔である。彼女は常に携帯電話を手に持っており、何度か学園内でも見たことがある。
「えっと……『トーフ選手権に出るなう』っと」
「…………え? 大丈夫、あれ?」
 何ともきわどい発言をしつつも、彼女は携帯を一度視界から外して、マイクを握りしめる。
 これはもう、一種のフラグのようなものであった。
 えへん、と軽く咳払いをして、胸を張った。
「今年は! 去年この学園に来て学んだことを、もっともっと実践するぞー!」
「おお、意外とまともな 抱負で安心――」
「ひとつ!エンカイには積極的に参加するー!」
「じゃあない!? 宴会って、ただのOLじゃねえかよ!」
「ひとつ!リアジューなる生き物を成敗しー!」
「嫉妬じゃねえか!?」
「そしてー! ひとつ! ソシャゲで課金しまくって、今年こそ天下を取るぞー!」
「ああ、ダメだ。こいつはただの廃人だった……」
 もう、何かをあきらめるしかできなかったようだ。
 彼女はお辞儀をして再び携帯に目を向ける。そして、静かにつぶやいた。
「『トーフ言い終わったなう』っと」
「とーふじゃねえしね!? ほうふだからね!?」
 無視されたのはご愛嬌である。

●ユリア(jb2624)の策略
 これまた悪魔とは珍しいものだ。
 ユリアは登場すると何故かマイクを持たずにステージ上に立った。
 何かを取り出して、口元に持ってくる。そのままゆっくりと声を出す。
「あーあー、マイクテストー」
 どうやら拡声器を用意してきて、シャウト時の声量を上げているようす。どこで用意してきたのかは不明だが。
 すると、今度は闇色の翼を生やして、天高く舞い上がった。空中で一時停止をして、思いっきり叫ぶ。
「もっともっと人間界での生活は楽しみたいし、料理も色々と覚えたいから、そういうことをしながら楽しく過ごすよー!」
 言い終わると、右手を突き出して、これまた叫ぶ。
「Moonlight Burstっ!」
 上空へ打ち上げられたのは鮮やかな炎であった。観客たちはそれを花火感覚で見上げて綺麗だと評価する。
「それではみなさん、よいお年をー」
 フィードアウトするようにそのまま飛んで行ってしまった。
 しばらくの間。この炎の花火が消えるまで会場の盛り上がりが消えなかったのは納得がいく話である。

●セリェ・メイア(jb2687)の勘違い
 さて、今回は天使の登場である。そして何より音琴が心配な人物ナンバーワンである。彼女、セリェ」はつい最近音琴とデートを経験している。
 だが、その時に確信したことは彼女が心優しいということと、何かしらの勘違いを毎回のごとくすることである。
 今回の抱負にしたって、「抱負」の意味が理解できているのかと言うことだ。
 そして、その心配が見事的中したのである。
 彼女がとった行動はずばりカレーを作ることであった。突然ステージの上でエプロンをつけて料理を始めてしまったのだ。
 しかも材料は見るからにカレーである。時間がかかるのだろうと思っていたが、数十分で作り上げた。
 そして出されものは、カレーではなく、味噌汁である。
「どんな化学反応だよ!?」
「ふぇ? それより、私の、ほーふはきちんとした、材料と調理法が、完成品と、あわさるように。そして、伊験木さん、前に、仰っていまし、た。愛されたいって。だから、今年は伊験木さんが、皆に愛され、る年になります、ように」
「いや、セリェ。確かに俺は恋愛をしたいといったがここで堂々と言うことじゃなくてな?」
「……ほーふって、こういう、事です、か…?」
「ニアピンだよっ!」
「伊験木さん、いつも、沢山の人、に囲まれ、ている、ので愛されてる、と思うのですが」
「それも意味合いが違うよ!」
 本人に悪意がないので尚、性質が悪いのだ。

●ハッド(jb3000)の王政
 なかなかステージに次の登場人物が現れないことに首をかしげていると、どこからともなく闇の翼でこちらに飛んでくるハッドを視界にとらえた。
 中央まで来ると何故か雷をあたりに落としながら降臨する。
「……これまた、派手なこって」
「我輩はバアル・ハッドゥ・イシュ・バルカ3世。王である!」
「言ってることもむちゃくちゃだ!」
 ハッドは何食わぬ顔で右手を観客……もとい観衆たちに向けて突き出した。
「今年の抱負はコレじゃ 。理の上下のわからぬ天魔とその僕どもに、王たる我が理の道を示さん! じゃの」
 観衆がざわめき始める。まあ、それもそのはず。言葉が難しすぎてよく分からなのだ。
 まあ、簡単に要約すると……。
「天魔ぶっ潰しちゃる、まとめてこいや〜」
 と言うこと。
 撃退士らしい抱負といえば、抱負である。
「色々派手に壊したげどな……」
 どうやら、雷の被害は予想以上に大きいようです。

●強欲萌音(jb3493)の大罪
 さて、みなさんは七つの大罪と言う言葉を知っているだろうか?
 簡単に説明すると人には七つの大きな罪が存在し、怠惰、傲慢、暴食、嫉妬、色欲、憤怒、そして強欲の七つである。
 この悪魔はそんな大罪の一つである強欲を具現化したような悪魔だ。
「なーんともまぁ変わった初夢っすねぇ。目立つのは嫌いじゃないっすけど、夢っすからねぇ……。まぁ良い機会っすからあたいも抱負とやらを叫んでみるっすかね」
 そして用意されたのは習字セット。なんとも悪魔には似合わないものである。
「うりゃうりゃうりゃ!」
 なんともスラスラと書いていき、半紙を観客たちに見せた。
 達筆で、【一刻千金】と書かれていた。
「これがあたいの抱負っす!一攫千金じゃないっすよ? これは楽しい時間は千金にも値するという人間の言葉っす。あたいは強欲っすから、時間にも価値を求めたいと思ってるっす。二束三文な時間の過ごし方をしないように気をつけたいって戒めでもあるっすね!」
 何とも強欲らしい抱負である。いや、悪魔にしては人間らしい抱負だと言えるだろう。彼女の人間味のある大罪は、どうにか叶ってほしいところである。

●結果発表だって
「さてさて、それでは結果発表ですよ! 音琴さん、いかがででしたか?」
「まあ、人それぞれ色々な抱負が聞けて楽しかったよ。幾つか共感を持てるのもあったし」
「ほっほー。なるほどですねえ〜。それではさっそく結果発表に映りたいと思います」
 そしてどこからともなくティンパニーのあのBGMが聞こえてくる。どこで用意したんだか。
「それでは結果をどうぞ!」
「優勝は――」
 ダダダンっ!!
「御伽炯々のバンダナ同盟を増やすに決定です!」
「よっしゃあああぁぁ! これでバンダリストが増えるぜえ!」
「残念ながらその保証はないけどねえ」
 何はともあれ、彼に決定した理由はくだらない中にも熱意があり、それが音琴が一番共感できたというだけの事。
 他の選手たちの抱負を十分にすばらしいものだった。
「それでは、みなさん。此処でお知らせですよー。もうすぐ夜が明けるので目覚めてくださいねえ」
「は? それはどういう……」
 くらっと突然眠気に襲われる。あたりを見れば出演者たちは次々に倒れていった。
 そして音琴本人も深い眠りにつくのであった。
「ふふふふ……さて、みなさん。良いお年を過ごしてくださいね」
 最後に、結局名前もわからなかった司会者の声だけが耳に響くのであった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 孤独のバンダナ隊長・御伽 炯々(ja1693)
重体: −
面白かった!:12人

恋する二人の冬物語・
遊佐 篤(ja0628)

大学部4年295組 男 鬼道忍軍
天つ彩風『探風』・
グラン(ja1111)

大学部7年175組 男 ダアト
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
孤独のバンダナ隊長・
御伽 炯々(ja1693)

大学部4年239組 男 インフィルトレイター
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
恋する二人の冬物語・
リゼット・エトワール(ja6638)

大学部3年3組 女 インフィルトレイター
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
常盤先生FC名誉会員・
一条常盤(ja8160)

大学部4年117組 女 ルインズブレイド
八部衆・マッドドクター・
藤沢薊(ja8947)

中等部1年6組 男 ダアト
遥かな高みを目指す者・
九十九 癒姫(ja9119)

大学部6年287組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
猫谷 海生(ja9149)

大学部4年68組 女 ダアト
楽しんだもん勝ち☆・
ユリア・スズノミヤ(ja9826)

卒業 女 ダアト
滅雫のヴァルキュリア・
蒼井 御子(jb0655)

大学部4年323組 女 バハムートテイマー
【流星】星を掴むもの・
大和田 みちる(jb0664)

大学部2年53組 女 陰陽師
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
Little Brave・
夢前 白布(jb1392)

高等部3年32組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
駆逐されそう。なう・
ルーガ・スレイアー(jb2600)

大学部6年174組 女 ルインズブレイド
カレーパンマイスター・
ユリア(jb2624)

大学部5年165組 女 ナイトウォーカー
恋愛道場入門・
セリェ・メイア(jb2687)

大学部6年198組 女 ダアト
我が輩は王である・
ハッド(jb3000)

大学部3年23組 男 ナイトウォーカー
繋ぎ留める者・
飛鷹 蓮(jb3429)

卒業 男 ナイトウォーカー
流行の最先端を行く・
強欲 萌音(jb3493)

大学部5年162組 女 ダアト