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マスター:猫之宮折紙
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/31


みんなの思い出



オープニング

 伊駿木音琴(jz0085)は頭を抱え込んでいた。机の上に並べられた四枚の写真。ソレを見て先程から溜息が止まらない。
「なんで……こうなった」
 写真に写る4人の人物。この4人と『デート』することになった。1人5時間と時間で区切られている。
 事の始めはさりげない一言だ。
「恋愛ねえ……」
 さりげなく呟いた。音琴はなんといっても年頃の男の子だ。女性に興味がないわけでもない。
 ただ、恋愛経験などはあまりなく、自分から積極的に行動するわけでもない。自然と漏れた言葉だった。コレを聞いていたのが、またあの先輩である。
「なんだ? 音琴くんは彼女とかいないのか?」
「オールフリーの悲しい男ですよ。ほっといてください」
「ふむ。私が代役でもいいが…」
「先輩、彼氏いるでしょ! 泣きますよ、あの人」
「そうだった」
 なにやら酷い話である。
「まあ、恋愛がしたいならやはり経験が必要だ。どうだ? ちょっくらデートしないか」
「暢気に言わないでください。そもそも練習って……」
「私じゃないぞ? 私の知人に頼むんだ」
「頼むって……」
「あくまで練習だ。本人は君に恋愛感情はないものと思ってくれ」
「それはそれで悲しい……」
「まんざらではないだろう?」
「いや、はい。確かに恋人は欲しいって思いますけど……」
「まあ、頑張れ。彼らにはギャラを払っているんだ。ありがたく思いなさい。二人ほど補助をつけるから。後日写真を持ってくるよ」
 そう言われたのが二日前。まさか4人の人物とデートすることになるとは。
 音琴はダメ人間であり、不器用である。
 どう考えても恥さらしだ。
「……どうしよう」
 こうして、音琴とによる恋愛道場が開かれるのであった。


リプレイ本文

●一日目 9:30〜
 伊駿木音琴(jz0085)は待ち合わせの場所でひとまず待っていた。すると一人の女性がやってくる。
「お待たせ、待たせちゃったかかしら?」
「い、いえ大丈夫ですよ」
 ユリア・スズノミヤ(ja9826)は音琴とは知り合いであり、一人目が顔見知りなのは本人にとってもありがたいことだった。
「それじゃあまずは動物園に行きましょうか」
「あ、はい」
 なんとも固い返事を返すとタイミングよく携帯電話がなる。
「えっと、もし――」
『固すぎるだろ馬鹿かあぁぁ!』
「っ…なんだよ、ルナ。てか、何処にいるんだよ?」
『気にするな! 今日は俺がきっちりサポートしてやるから安心しろ!』
 電話の主は今日のサポートをしてくれるルナジョーカー(jb2309)である。
『随時、メールとか電話するからな』
「…ストーカーみたいで怖いぞ」
『それはともかく無愛想に接するんじゃなくオーバーにリアクショ――』
「きりますよー」
 大丈夫なのだろうかと不安になりつつも三人(?)で動物園を目指すのであった。動物園に入るとユリアがくるりと回って音琴を見つめる。
「ねえ、音琴ちゃん。動物と触れ合える場所があるんだけど、行かない?」
「え、えっと。いいですよ。行きましょうか」
 ガッチガチの音琴にユリアはクスリと笑ってゆっくりと歩いていく。
「そんなに固くならなくてもいいのよ」
「は、はい」
 携帯がバイブする。差出人はルナジョーカーだ。

 件名:指示1
 本文:もっと寄れ!さりげなく手を繋げ!

「出来るかアホ!」
「ん? どうしたの、音琴ちゃん?」
「い、いえこっちの話で…」
 指示通りに動けることが出来ずに一定の距離を保つ。目的の「ふれあいランド」につくと芝生の上で元気に走り回る動物たちがいた。
「へえ、色々居るんですねえ」
「音琴ちゃん、こっち向いて」
「はい?」
 振り向くと一匹の猫を抱えたユリアが立っていた。猫を抱えたままその肉球で音琴の腕にパンチをする。
「オイラにゃん太郎ー。ヘイ音琴、調子はどうだーい?」
 何度もパンチパンチ。あまりの可愛らしさに音琴は噴出しそうになった。
「はははは」
「ちょっと音琴ちゃん? 笑うなんて失礼よ?」
「ははは、いや、だって面白いですよユリアさん」
 にっこりと2人は微笑む。側から見てもかなりいいムードだ。
「ぐぬぬ、うらやましいぞ音琴! くっそー! 俺だってイチャイチャしたい!」
 側から見ていたルナジョーカーの叫びは誰にも聞こえない。
 動物園を出ると時間は12:15とお昼を取るにはちょうどいい時間だ。
「音琴ちゃんのオススメのお店、教えて?」
「オススメですか……」
 悩んだ末に音琴の行き着けのラーメン屋に入った。因みにルナジョーカーは涙を流しながら焼きそばパンを食べていたなんて死んでも言えない…。
 近くにある公園へと向かった。その途中でもメールが送られてきた。

 指示:2
 本文:ベンチに座る時はハンカチをつかえ!

「…何処の時代だ」
「あ、音琴ちゃん。あそこのベンチに座りましょうか」
 タイミングよく座ろうと誘われた。音琴は二秒ほど悩んだが予めルナジョーカーに渡されたハンカチを取り出してベンチにしく。顔を赤くしながら座ってくださいを手を差し出す。
「あら、ありがとうね」
「ま、まあはい」
 ベンチに座るとユリアがバックから可愛い箱を取り出してゆっくりとふたを開ける。
「じゃーん。どう? 昨日焼いてみたの」
 猫の型をとったクッキーが入っていた。
「クリスマスは過ぎちゃったけど…音琴ちゃんにプレゼントだよ」
「あ、ありがとうございます」
 一つ手にとって口に入れると甘い味が口いっぱいに広がる。無意識に美味しいと呟いた。
「お気に召してもらって光栄よ」
「本当に美味しいですよ。もう一枚もらいますね」
「どうぞ」
 クッキーを食べながら2人の時間は過ぎていく。するとユリアが何気なく口を開いた。
「えと、ね。愛ってね…誰かに抱く思慕だと思うの。だから…焦らないでいいんだよ?」
「…はい。でも、良く分からないんですよね。恋愛って」
 音琴はクッキー片手に呟いた。彼は悩んでいた。恋愛とはなにかと。
「さて、そろそろ時間だから行きましょう」
「駅まで送っていきますよ」
「ありがとう。それじゃあ」
 ユリアは右手を伸ばして、音琴の左手を優しく握った。
「…手、繋いでくれる?」

●午後 15:00〜
「伊駿木、待たせたな」
 望月紫苑(ja0652)は音琴を見つけると肩を叩いた。ゆっくりと振り向き、「あ、どうも」と頭を下げる。
「望月さん、ですよね?」
「はい。今日は宜しくね」
「こ、こちらこそ!」
 相変わらずガッチガチの音琴。紫苑はそんな彼を不思議そうに見つめて首をかしげた。
 音琴本人も首をかしげていると紫苑が自分ではなく背後を見つめていることに気がつく。後ろを見ると…物影に隠れるルナジョーカーの姿があった。
「…大丈夫か、あいつ」
 ひとまず午後のデートはスタートした。
 紫苑の指示で中華街へとやって来た。左右に並ぶお店からはたくさんの香りが漂う。
 そして既に2人の手元には大量の食べ物があった。
「良く食べますね、望月さん」
「そうですか? 一口どうでしょう」
「だ、大丈夫です」
 といいつつも口にたこ焼きを放り込む紫苑。右手にはまだクレープを持っており先程は鯛焼きを食べたばかりだ。
「それじゃあ次は喫茶店に行こうか」
「まだ食べるんですか?」
 すると、メールが再び送られてくる。

 件名:指示3
 本文:イチャイチャしなさい!

「アバウトすぎるだろ!」
「? どうかしたか」
「い、いえ何も」
 喫茶店に入ると紫苑に先に頼んでといわれチーズケーキとココアを頼む。紫苑はショートケーキ、チョコレートケーキ、ミルフィーユの三種類を選んだ。
「本当に良く食べますね…」
「そうかな? …ねえちょっと分けてください。私のもあげますから」
 と、紫苑は一口サイズのショートケーキをフォークで刺して。
「あーん」
「…」
 音琴は数秒悩んだ挙句、口を開いてケーキを食べた。しかしまあ、彼の頭の中は現在混乱やら恥ずかしいやらで大変なことになっている。
「ちくしょー!」
 またどこかでルナジョーカーの嫉妬の叫びが響いた。
 その後にコンサートホールへと向かった。音琴が音楽が好きと言う事で紫苑の計らいである。始めは行進曲から始まる。
 曲の始まる前に「音楽なんて殆ど聴いた事無いですけど、こういうオーケストラを生で聴くのはちょっと楽しみですね」と紫苑は言っていたが。
「すぅ……すぅ…」
「……」
 案の定、寝てしまった。しかも頭を音琴の肩に乗せて。
 熟睡しているがこれは起こしたほうがいいとした。
「そのまま寝かせてやれ」
「ってルナ。後ろに居たのか」
「ホール内は携帯が使えないからな」
 ということでルナジョーカーの指示で寝かせてあげることに。休憩時間のときに一度起きて「寝ない」と言いつつも後半も熟睡したのはお決まりである。
 夕食は音琴とラーメンが食べたいということで午前中に行った店とは違う店を選んだ。
「替え玉一つください」
「…本当に良く食べますね、望月さん」
「だって美味しいじゃないですか」
 かれこれ七杯目である。確実に音琴より多く食べているはずだ。
 だがまあ、好きなラーメンをこんなにおいしそうに食べてくれる女性はなんだか嬉しいなと音琴が微笑んだのはこっそりラーメンを食べていたルナジョーカーしか知らない。

●二日目 9:30〜
「おーい、音琴!」
 二日目、待ち合わせの場所には既に待ち人の姿があった。ハルティア・J・マルコシアス(jb2524)は犬耳と尻尾が生えている悪魔である。
「悪い、ちょっと早めに来たつもりなんだけど」
「気にするな! んー…人間とデートって…どうすりゃいいの?」
「いや、人間の俺に聞くなよ…」
 ハルティアはそれもそうだと言って、自然と音琴の手を取った。
「それじゃあ水族館行こうぜ!」
「ま、待てって!」
 音琴の手を勢い良く引っ張り水族館へ連れて行く。年下だからか、人間じゃないからなのか、何故か元気のいい妹が出来たような感覚になった。気が少々楽である。
 するとメールが届き、あいている左手で確認をする。メールの主はエイルズレトラ マステリオ(ja2224)である。二日目のサポートを彼に頼んでいた。

 件名:どうも
 本文:お疲れ様です。まずは携帯をマナモードにしておきましょう。マナーの基本です。
    次に相手のペースに合わせて行動してください。
    女性をエスコートしつつ、きちんと歩みを合わせましょう。

「お母さんか!」
「どうした?」
「え、っと、いやー、気にするな」
 これまた不安たっぷりである。
 水族館につくとハルティアはやけにハイテンションで辺りを見渡す。どうやら結構楽しみにしていたらしい。
「イルカとかオットセイとか見に行こうぜ! ショーって何時からかな!」
「やけにテンション高いな。動物が好きなのか?」
「おう! 大好きだぜ!」
 嬉しいのか楽しいのか、尻尾がせわしく動いている。なんだかデートというよりペットとお散歩だ。先程の妹感覚はどこへいったのか。
 ショーの会場に来ると最前列でみたいとの要望で前に座った。水しぶきがかかり少々濡れたが、2人して大笑いした。
 すると本日二通目のメールが。

 件名:チャンスです
 本文:ハンカチで濡れた彼女を拭いてあげてください。高感度UPです。

 ちょっと気恥ずかしいがこれ位は出来るだろうとハンカチを取り出す。ハルティアの髪の毛を拭いてあげると、笑顔でお礼を言われたのでなんだか気恥ずかしくなった音琴。
 水族館を出てデパートへ向かった。昼食のためにフードコートへきている。
「何か食いたいもんってない?俺は特にねーんだけど」
「んーっと俺は…」
 ラーメンと言おうとしてメールが送られてくる。タイミングいいなあと思いつつ確認。

 件名:食事
 本文:ラーメンも悪くないけど、あまり味がきついのは避ける。行儀よく食べなさい 。

 心を読まれたらしい。だがまあ、そういわれても思いつかない。目に入ったレストランはどうかと提案するとハルティアはOKを出した。
 結局、音琴はトンカツ定食。ハルティアはハンバーグとがっつりしたものを食べた。これならラーメンでも良かったのではと後悔。
 それからデパートのゲームセンターへとやって来た。ハルティアは音ゲーのコーナーへと来てこういった。
「音楽好きらしいじゃん? こうゆうの、やってみねぇ?」
 確かに好きだが、あまり音ゲーはしないのだ。だがまあ面白そうなので2人で対戦をすることに。
 意外と白熱して結構お金を使ったのは秘密である。
「いやー、楽しかったな」
「ハルティアは人間と遊ぶのは初めてなんだろ?」
「うん。だけど、人間って面白いって今日分かった!」
「そうか。なら、良かったよ」
 こうして2人は友情らしきものが芽生え、笑顔で分かれたのだった。

●午後 15:00〜
「き、今日は、よよろしく、おねがい、します」
「ああ、宜しくな」
 ハルティアと解散したあと、最後の待ち合わせ場所に向うと丁度ばったり出会うことができた。
 セリェ・メイア(jb2687)は立派な天使である。これまた天使とは初対面で少々緊張していたが、見た目的には普通の人と変わらないのでちょっとほっとしている。
「ま、まず、としょ、かんへ」
「図書館か。分かった。なら、行こうか」
 するとと、大胆にも音琴は自ら右手を出した。これにはきちんと訳があり、前々からセリェが盲目ということは聴いていた。袖をつかませてあげてと、要望はきちんと守る。
「あ、りが、とう」
「どういたしまして」
 微笑んでいるとメールがなる。

 件名:彼女を
 本文:きちんとセリェさんを守ってあげてくださいね

「…わかってるよ」
 心配性なエイルズレトラに苦笑しながら、二人は肩を並べて歩き出した。
 図書館へつくとセリェは図鑑コーナーへ行きたいといい、そこへ向かった。彼女はそこから一冊本を取り出し近くの椅子に座る。音琴も対角上に座った。
「ね、ねこさん、みて」
「へえ、俺が猫好きってよく知ってるな」
 セリェは笑いながら猫の写真を一生懸命みせる。彼女の精一杯がかわいらしく、二人で楽しみながら図鑑を見ていた。
 セリェ曰く、そこに何がどうあるのかはなんとなくわかるが目には見えない。だから、移動の際は誰かがいてほしいのこと。それはパートナーをきちんと探してやらないとなあと思うのであった。
 図書館を出ると今度は本屋に行きたいと言われた。
 本屋へ向かうと、セリェは雑誌のコーナーへ行って「ラーメン道!」と書かれた情報雑誌を手に取る。
「情報、収集」
「ああなるほど」
 どうやら夕食はラーメンらしい。これまた後でエイルズレトラが小言のように「味が濃い」とメールしてくるんだろうなあともうと思わず笑いそうになった。
「どう、したの?」
「いや、セリェが俺の事を考えてくれているって思うとさ。嬉しくてね」
「あ、う、ううん」
 恥ずかしがるセリェ。どうしたのだろうと首をかしげているとメールが届く。

 件名:(・ω・)/
 本文:ぐっじょぶ

「いや、どうしたエイルズ」
 メールに突っ込みながらも二人の時間は進んで行く。
 本屋を出て、夕食の時間になるまで二人は町の中を歩くことにした。建物見物をかねて猫探しをしたいとのこと。人になれている猫は野良では少ないが、見れれば幸いである。
 丁度細い道を見つけると、野良猫が二匹ビルの陰で仲良く寝ていた。セリェと一緒に近づくと猫は起きてしまい、逃げるかと思ったが何故かこちらに寄ってくる。
「おお、人間慣れしているのかな?」
「わか、らない。けど、かわ、いいね」
 一匹の猫を抱きかかえると音琴にむかって微笑んだ。つられて、音琴も笑い返す。セリェには人を微笑ませる才能があるかもしれない。何気ない事でも笑顔になれる。
 音琴も猫を抱えると頭をなでながらそっとつぶやいた。
「俺もお前みたいに愛されたいよ」
「どう、したの?」
「なんでもないよ。ほら、次行こうか?」
 音琴の言葉はセリェには聞こえていなかったらしく首をかしげる。
 あんなことをつぶやいたが、音琴本人は笑みを絶やさなかった。
 夕食のためにラーメン屋へとやってきた。先ほどメールが来たがやはり「濃い味NO」という内容。だがセリェの要望で入ることに。
 セリェは箸は使えるらしいが、どうも使い方が違い教えながら食べる。
「うう、むず、かしい。ごめん、な、さい」
「謝るなって。まあ、食べやすいならそれでもいいけど、また練習しような」
「うん、ありが、とう」
 こうしてラーメンも食べ終えて最期に「と、とて、も。楽しかった、です。また、誘ってください。御迷惑、を、お掛けしました… 」と頭を下げる。
 また宜しくと笑い合ってこうして長い二日間に及ぶ恋愛同情は終了した。

●後日
 音琴の恋愛に対する考えは内面的には変わったようだ。
 表情には出さないがあれからそっけなかった音琴がやけに女性に優しい。
 これも四人と二人のサポートのおかげだろう。
 いつか、音琴が本気の恋愛をするときは今日の事を参考にして女性をエスコートするに違いない。
 これにて恋愛道場は一時閉館である。


依頼結果