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マスター:猫野 額
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/29


みんなの思い出



オープニング

「浴衣ですね」
 にこにこ。樹山(きやま)さんは笑っている。パソコン業務の傍ら、ちらりと目をやった。
「どうしました? 急に」
「ああ、いや、大したことではないのですが」
 そう前置きして、遠い目をする樹山さん。
「せっかく夏になりましたし、夏っぽいことをやろうと思いまして」
「……なんでわざわざここでそれを考えてるんですか。っていうか『浴衣』って言ってましたけど、何をする気なんですか?」
 依頼斡旋所。私のバイト先。目の前の樹山さんにとっては、依頼を受ける場に過ぎないはずだ。依頼斡旋所は『イベント開催相談所』とはちょっと違う。
「いやあ、ここって涼しいじゃないですか。僕の部屋、エアコンどころか扇風機すら無いので」
 にこにこ。樹山さんは笑顔だ。私の質問は、後ろ半分が無視された。
 要するに、涼みがてらここに居座っているらしかった。浴衣発言の真意は知らん。
「……はあ」
 ひとつ溜息を吐いて、私は仕事を中断した。樹山さんに見られているとどうも落ち着かない。集中して仕事をするためには、まずこの人を追っ払う必要がある。
 樹山さんを誘い、私たちは斡旋所を出た。近場の自販機でコーラを買う。樹山さんはスポーツドリンクを買っていた。
 最近は気温が日に日に上がっているようだ。仕事中は気づかないけど、いつの間にか喉がカラカラなのは暑いせいだろう。
「それで、なんでしたっけ?」
「みんなでバーベキューをしよう、という話です」
「……そんな話でしたっけ?」
 なんかさっきと全然違うような。
「どうにかして、全員の都合が合う日をつくりたいのです」
 スルーされた。まあいいけど。
「全員というのは?」
「僕と××さん、それから辻裏さんに尚真くん、香子さんと、ついでに橋波さんも誘いたいな、と」
「部活メンバーってことですか」
「そうなりますねえ」
 言われてみれば、最近はこの六人が集まるというのは少ないかもしれない。私はコーラを一口飲んで、みんなの顔を思い浮かべた。
「今しかないんですよ」
 樹山さんが呟いた。私は小さく首を傾げる。言葉の意味がよくわからなかった。
「××さんはどう思います?」
「……何の話ですか?」
 主語が抜ける、話題を急に変える、というのは樹山さんの得意技だ。こっちはいちいち何の話か確認しなければいけない。変に相槌を打っていると、会話が噛み合わなくなる。
「撃退士の仕事について、です」
 ――つまりは、天魔との戦いということか。ついこの前、誰かからも聞かれた気がする。
「大変な仕事だなあ、とは思いますけど」
 雨の日の景色と臭いが蘇って、私は顔をしかめた。適当な返事で紛らわそうと思った。
「友人が」
 樹山さんはぽつりと言った。
「……先日、友人が逝ってしまいました」
 私は黙っていた。樹山さんは笑顔だ。
「いつ誰が欠けるかわからない。それが僕らの日常です」
 撃退士ってそういうものです。樹山さんは笑顔のままだ。
「今しかないんです。僕らには」
「…………」
 私は黙ったまま、携帯電話を取り出した。
 仕事以外で誰かにメールをするのは、久しぶりの気がする。



●ニッポンのサマーナイト

 ばんっ。
 樹裏 尚子(jz0194)の座る事務机の上に、書類が叩きつけられた。
「……なんやこれ」
 怪訝な表情で書類を提出した主を見上げる。白い髪の少女は「ふふん!」と得意気に鼻を鳴らした。
「よくぞ聞いてくれた! ニッポンでは夏の夜に『びーびーきゅー』なる食事会を開くそうではないか!」
 幼さの残る容姿に似合わない、偉そうな口調。白い髪の少女――『ルーシィ・アルミーダ・中臣』のお気に入りの口調である。
「びーびーきゅー? ……あ、BBQか。バーベキューのことやんな?」
「そうとも言う!」
「いや、そっちが本当の名前やから。どれどれ」
 尚子は書類を手にした。書類というよりもチラシのような代物である。全文手書き。イラスト入り。それらが枠からはみ出している。斡旋所に提出される書類の形式を全く無視していた。内容は要約するとこうである。
 夏になったのでバーベキューをしよう。以上。
「……えーと。ひとつ聞いてええか?」
「うむっ、構わぬぞ!」
「なんで『依頼』として出すんや? 個人で人集めれば済む話やろ?」
 うぐ、とルーシィは呻いた。ちょっと意地悪やったかな、と尚子は内心思った。なんとなく予想はついている。
「それはー、そのぉ……」
 あー、うー、と顔を真っ赤にするルーシィ。この少女の扱い方に関して、尚子はそれなりに知っていた。急かすのは得策ではない。斡旋所なんて人目のあるところで涙でも流されれば厄介だ。さっき買ってきたコーラを飲みながら、尚子はルーシィの答えを待つ。
「と、とも、ともだちっ!」
 うん、と尚子は頷いた。結局は予想していた答えであった。ルーシィは耳まで真っ赤になっている。
「とととともだつぃっ、友だちが! ほ、ほしい、と、いうか……その……」
 もごもご。
 尻すぼみである。そんなとこやろなー、と尚子は思った。
 ルーシィ・アルミーダ・中臣は、堕天使である。曰く「ニッポンの素晴らしさに心底惚れ込んでしまい、仕事をサボって観光していたらクビになった」とのこと。久遠ヶ原にやってきてからも、撃退士に協力するというより、人間の文化を見聞きし、また地球の自然と触れ合うことに重点を置いていた。というかぶっちゃけそれしかやっていない。
 よって彼女には、友人と呼べるような相手がいないに等しかった。ちょっと偉そうな態度だったり、些細なことですぐに泣いたりというのも一因として考えられるが、それ以前にルーシィ自身に交友関係を広げる気がなかったのである。おかげで友人と呼べそうなのは尚子くらいしかいない。
 しかしルーシィは気づいてしまった。文化を知る。楽しいことだ。自然に触れる。これもまた楽しい。だが、結局一人では寂しい。つまらない。まだ幼い天使にとって、孤独というものはなかなかに重かった。
 再びうーうー唸り始めたルーシィを見かねて、尚子が総括した。
「つまりや。バーベキューで人を集めて、友達をつくろうって魂胆やんな?」
「うむっ」
 ふふん、良い案であろう? そうであろう? と言わんばかりのドヤ顔。
 ころころと表情を変えるのは、ルーシィの長所であり短所である。立ち直りが早い。そして非常に脆い。まあ、傍から見てる分には楽しいからいいか、と尚子は思った。
「そういうことなら受理しとくわ。詳しい日取りとか場所は決まっとるんやろ?」
「む? 決めておらぬぞ。尚子が準備してくれるのではないのか?」
「……あー、さよか。わかった、今回だけは特別やで」
「うむ! よろしく頼むぞ!」

 ……そんなこんなで、ルーシィが作ったチラシと、尚子が情報を整理し直した書類が、仲良く並んで依頼掲示板に貼られることとなった。


リプレイ本文



●今宵、晴天也

 西の空が赤く染まり、東の空に星が見え始める頃。
 久遠ヶ原学園の一角、とある寮の近くに、10人の撃退士が集まっていた。
「ユカタというらしいな。さすが私だ。異国の服を纏っても美しい!」
 ふはははは! 生成り色の浴衣姿であるラグナ・グラウシード(ja3538)は、一人高笑いをしていた。……このへんのナルシストな感じが非モテの秘訣なのかもしれない。
 一通り笑ったラグナは、隣で固まっている少女にようやく気づいた。
「お初にお目にかかる、中臣殿。我が名はラグナ・ラクス・エル・グラウシード。ディバインナイトだ。以後、よろしく」
「う、うむ……」
 差し出されたラグナの手。おっかなびっくり握手を交わすルーシィ・アルミーダ・中臣。
 ラグナ同様浴衣姿の少女は、ガッチガチに緊張していた。
「お二人とも、よくお似合いですよ」
 微笑みを浮かべながら、唯月 錫子(jb6338)が感想を述べる。ふっ、とポーズを決めるラグナ。
「そうだろう? 私の着こなしは完璧だろう! はっはっはっ!!」
 再び高笑いを始めたラグナにつられるように。くす、とルーシィが小さく笑った。しかしすぐに硬い表情に戻ってしまう。

(……心配やなあ)
 やや離れた場所で網式グリルを扱う樹裏 尚子(jz0194)は、小さく息を吐いた。
 自分と接するときと違い、別人のようにおとなしいルーシィ。時間が経てば、本来の調子を取り戻してくれるだろうか。
 そんな尚子に向けて、こちらも浴衣姿の鈴木悠司(ja0226)が笑顔で手を挙げた。
「尚子さん、久しぶりー! 元気にしてた?」
「おっ、ゆーちゃんか。うちは健康そのものやで。そっちはどないや?」
「俺も見ての通り、元気だけは有り余ってるよ!」
「そら何より。……で、それは何?」
「うん、良い機会ってことで……」
 じゃーん! 悠司が両手で広げたのは、女性の浴衣である。
「姉から借りてきましたっ! 尚子さんに着てもらおうと思って!」
「え、うちが!?」
 『やさい大盛り』という謎の文言が書かれたシャツ。微妙な色合いの短パンジャージ。これが尚子の服装である。
 曰く、女性らしい服は落ち着かないらしい。
「あー。せっかくの申し出やけど、遠慮させてもらうわ……火の粉飛んで穴空いたらたいへんやし」
「そっか。それは残念……あ、そうだ」
 しょんぼりしかけた悠司が、普段着の錫子に目を留めた。
「これ、錫子さんが着ない? たぶんぴったりだと思うんだけど」
「私ですか?」
 いいのかな、と呟く錫子。
「……え、と、着付け、なら……我が教える、ぞ?」
 なぜかカタコトになりながら、ルーシィが小声で申し出た。
 少しの間迷っていた錫子は、頷いて笑顔を浮かべる。
「わかりました。着てみますね」
「そうこなくっちゃ! じゃ、あとはルーシィさんにお任せするよ」
 こくり、と頷くルーシィ。悠司から浴衣を受け取り、錫子と共に会場からほど近い寮へ向かう。

「ほな、二人が戻ってくるまでに準備しときましょか」
 紫 北斗(jb2918)は頭に三角巾を装備し、渋い草色の甚平の上に割烹着を着ている。
 かつて冥魔軍の一員として日本各地を巡っていた北斗。
 京都に潜伏していた折、割烹で板前修業をしていた彼は、いわゆる料理のできるイケメンであった。だが非モテだ。
「地球の美味いもんの力があれば、種族を超えた友達の輪をきっと築けるはずやでぇ!」
 自身と同じように『和のこころ』に惹かれるルーシィ。ここはひとつ、彼女のために愛しの京都で磨いた料理の腕を振るおうではないか。気合十分の北斗である。
「……よし、オッケーっす!」
 メンバーが集った直後から、黙々と鉄板式グリルの用意をしていたのは天羽 伊都(jb2199)。
「肉を焼くなら、これは外せないっすよ!」
 ばばーん。どこからともなく効果音を鳴らしつつ、伊都はラム肉とベルダレを取り出した。ベルダレとは、ジンギスカン用のタレである。
 きゅう、と奇妙な音がした。ぱたりと椅子に倒れ込む伊都。
「お腹……減った……」
 がっつりたくさん食べるために、伊都は昼食を軽めに済ませてきていた。それが災いし、事前準備で力尽きたようだ。
 うーあー。変な声と一緒に魂まで出かかっている伊都に、月乃宮 恋音(jb1221)がそーっと声をかけた。
「……あの、大丈夫ですかぁ……?」
「あう」
 口が開きっぱなしの伊都がかくんと頷く。どう見ても大丈夫そうではなかった。
「……えぇと……よろしければ、その、私が調理しておきますが……」
「ぜひお願いしますっ」
 しゃきーん。背筋を伸ばし、即答する伊都。目が爛々と輝いていた。
「……了解しましたぁ……では、少々お待ちください……」
 薄桃色の浴衣、その上に割烹着を着た恋音。伊都が用意したジンギスカンの材料の他、彼女自身が持ち込んだ食材も含めて手際よく調理していく。
「こっちはもう焼ける状態なんですか?」
 袋井 雅人(jb1469)は、恋音が持ってきた鶏肉を手にしていた。
「……そうですねぇ……下準備は済ませてあるので、あとは焼くだけ、ですね……」
「わかりました! じゃあ、樹裏さんからグリルをひとつ借りて焼いちゃいますね!」
 ああ、それから。雅人は恋音にこそっと告げた。
「今回のバーベキュー中にラブラブは控えましょう。その代わり、今晩は頑張っちゃいますから」
 ぼっ。恋音の顔が真っ赤になった。
「いやあ〜。具体的に何を頑張るのか、気になるところっすねぇ〜」
 孫を見守る老人のような視線をカップルに送る伊都。
(((あ・い・つ・ら、リア充かァァァーッ!!)))
 一方、地獄耳の非リアたち(生成り色浴衣、やさい大盛りシャツ、渋草色甚平の計三名)からは、一斉にドス黒い何かが溢れはじめた。
 そんな三人の様子に苦笑を漏らしつつ、黄昏ひりょ(jb3452)が口を開く。
「樹裏さん。ちょっと火が強すぎるみたいだから、調整した方がいいですよ」
「ん? あー、せやな」
「それから紫さん。これ、俺が持ってきたイカの塩辛です」
「おお、おおきに。使わせてもらいますわ」
「あとは、ラグナさん。持ってきてもらった鉄板、それも使える状態にした方がいいと思います。準備するので、手伝ってもらえますか?」
「……そうだな。せっかくだ、多少のことはやらせてもらおう」
 非リアたちの真っ黒オーラを見事に抑えたひりょであった。さすがの手腕である。

「すまぬ、少々手こずった!」
 宴会場が穏やかさを取り戻したのを見計らったかのように、ルーシィの声が響いた。
 浴衣に着替えた錫子の手を引いている。
「うん、やっぱり似合ってる! 俺の見立て通りだね!」
 ぐっと親指を立てる悠司。ほんのりと頬を染めながら、錫子はぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます。素敵な浴衣、汚さないように気をつけますね」
(やはり、胸が無い方が和服は映えるな……)
 調理中の北斗は失礼なことを考えていた。安定の非モテ的発想である。


●宴は盛大に

 ようやく空全体が藍色に包まれた頃。
 バーベキューの会場には、空腹を誘う匂いが満ちていた。
「それじゃ、乾杯っ!」
『かんぱーい!』
 音頭を取った悠司のあとに、皆の声が続く。

「ぷっはー! やはり酒はこれに限るな!」
「ほんまに。まさか同志も愛飲していたとは」
 ラグナと北斗は、『クリアクオン』を手に盛り上がっていた。
 久遠ヶ原発のオリジナルブランド発泡酒、それがクリアクオンである。
「何と言っても、な?」
「ええ、そうどすな……」
「「酒は、酒だけは我々を裏切らないッ!!」」
 ……やや訂正。ラグナと北斗は、変な方向に盛り上がっていた。
 ク〜リ〜アクオンがっ♪と歌い出す始末である。

「さて。皆サーン! ラム肉の美味しさについて、ちゃんと理解してマスカー?」
 なぜかカタコトで話し始めたのは伊都。恋音にお任せしていたジンギスカンが出来上がったらしい。
「デハ、タレを後づけする美味しさについて、今からセッツメイしていきマース!」
 口調はこんな感じだが、伊都がジンギスカンにかける情熱は本物である。
 曰く、ジンギスカンのタレは後づけに限る。先につけた場合に比べて、タレの旨味が抜群に感じられ、余裕でおかわりできるほどご飯が進むらしい。
「なるふぉど。勉強になっふぁ!」
 むぐむぐ。ジンギスカンを食べながら、ルーシィが頷く。
 そのルーシィの皿には、綺麗に野菜だけが残っていた。すぐ隣にタレの乗った皿が置かれる。
「……ぇと、つくってみましたぁ……これなら、お野菜も美味しく食べられるかとぉ……」
 持ち寄られた調味料を駆使して恋音がつくったタレである。
 しばらく恋音とタレの皿を見比べていたルーシィは、無言のままピーマンをつまみあげた。箸の先で揺れるそれをタレにつけ、持ち上げる。
 それっきり、ルーシィは動かなくなった。さながら仇敵でも見るかのような視線をピーマンに送っている。
 ルーシィの右隣では、恋音からタレを受け取った錫子が野菜を食べていた。
「すごく美味しいです。あとで作り方を教わってもいいですか?」
「……あ、はい、もちろんですよぉ……」
 頷く恋音に肉が乗った皿が差し出される。鶏肉を焼いていた雅人が、ルーシィの左隣に座った。
「はい、恋音の分です! ルーシィさんの分も取ってきましたけど……まだいっぱいありますね」
「……むむむ」
 なおも渋るルーシィの背後から、計八本もの串を両手の指に挟んだ伊都が顔を出す。
「ここで天羽流の食事コミュニケーションをご教授するっす! 食は楽しく、愉快に、オーバーに!! これに尽きるっすよ!」
 串に刺さった肉に豪快にかぶりつく伊都。その姿に、ついにルーシィが動いた。
 固く目を閉じた状態で、口の中にピーマンを放り込む。目の前では恋音が緊張した面持ちで固まっていた。錫子、雅人、伊都の三人も、ルーシィの反応に注目している。
 しばらくして、そーっとルーシィは目を開けた。
「……い、いかがでしょうかぁ……?」
 おそるおそる恋音が感想を求める。
「……うまい。うまいぞ! こんなに野菜がおいしいと感じたのは初めてだ!」
 きらきらと目を輝かせるルーシィ。はふう、と大きく安堵の息を吐いたのは恋音だ。
 ルーシィを囲む三人も、顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
 野菜をもりもりと食べ始めたルーシィに、雅人が思い出したように提案した。
「そうだ、ルーシィさん。私が部長を務める部活は、誰でも大歓迎なんです! もし良かったら、一度遊びに来てみてください!」
「ふむ? 部活か……よくわからぬのだが、部活とは何をする集まりなのだ?」
 首を傾げるルーシィ。その問いに、恋音が概要を答えた。
「……えぇと……たくさんの人と、お話しをする場所……でしょうか……?」
「ほう。それは、他の者の『ぶゆーでん』も聞けるのか?」
 わくわく。今すぐ聞かせろと言わんばかりに周囲を見るルーシィと、焼いた肉を口に運ぼうとしていたひりょの視線がぶつかった。
「……俺、ですか?」
「うむ! 何かないか?」
 うーん、そうだなあ。肉をタレに戻し、ひりょは鞘に入った日本刀を取り出した。苦しい時期を共に過ごした愛刀である。
「武勇伝ってほどじゃないけど、俺は前に学園を飛び出したことがあって――」
 かつて大きな戦いに参加したひりょ。
 自分の無力さを痛感した彼は一時期、旅に出ていた。
 旅先で出会う敵をただ無心に斬っていたひりょだったが、とある依頼で「自分らしさ」を取り戻す。
「――というわけで、俺は今、ここにいるんです」
「ほう、『むしょしゅぎょー』というヤツか! 我もいつかやってみたいな!」
「……ムショで修行ってのはどうなんすかね?」
「…………」
 ご飯をもぐもぐしつつ伊都が冷静にツッコミを入れた。ルーシィは赤面して黙り込む。
「武勇伝と申したか。ならばこの私の出番だな!!」
 すっかり顔が赤くなっているラグナがひょっこりと顔を出した。
 彼が話し始めたのは「今まで自分が学園内の敵(リア充)と戦ってきた話」である。
 長いので最後の部分だけ抜粋。
「――そう、奴らもまた撃退士。ルインズブレイドの封砲をくらったときは死ぬかと思ったが……私の燃える魂が! 悪を殲滅したのだッ!!」
「なるほど。ラグナさんって、凄い方だったんですね」
「ふはは。それほどでもない!」
 なんかもう長すぎて、途中から話を聞いているのが錫子だけになっていた。酔っているラグナはあまり気にしていないようだが。
 そういえば、と軽い調子で口を開いたのは、当初と打って変わって落ち着いた様子の北斗である。
「寿司を食べまくっていたら、椅子から投げ出されて壁に激突した挙句、大怪我したことならありますわ」
『えっ』
 その場にいた全員の声が綺麗に重なった。どんな状況だそれは。
「しかもその任務のときに、生き別れの妹が見つかりましてなあ。いやあ、人生わからんもんやでぇ」
 はっはっはっ。北斗は笑っていたが、他のメンバーからはもはや言葉も無かった。

 輪からやや外れた場所、肉を焼き終えたグリルの前で、尚子と悠司が話している。
「すまんな、ゆーちゃん。ろくに食べてへんやろ? ずっと火の番してたし」
「それは尚子さんも同じでしょ。気にしなくても大丈夫!」
 すまん、ともう一度頭を下げて、尚子は甘い酒をあおった。ラグナから渡されたベリーのリキュールである。
 あらかじめ確保しておいた肉を食べつつ、悠司が「そうそう」と口を開く。
「ルーシィさんって、日本文化が好きって聞いたんだけど」
「ん、せやね。大好きやな」
「俺の実家、結構古い純日本家屋なんだ。よかったら、今度二人で遊びに来ない?」
「……うちも? ええの?」
「もちろん! 俺もこう見えてお茶くらいは点てられるからさ。ご馳走するよ」
「お茶か。そらあ、ルーちゃん喜びそうやな」
 目を輝かせるルーシィを想像して、二人は笑顔を浮かべた。
「鈴木さん、樹裏さん! 線香花火、やりますよ!」
「おーう! 今行く!」
 ひりょの声に、尚子は片手を上げて答えた。


●夏の夜に思い出を

 ぱちぱちと音を立てる小さな花火。
「……美しい、な」
「……そうですねぇ……」
 ラグナが呟くと、恋音は微笑みを浮かべて頷いた。
「静かな夜に線香花火。風流どすなあ」
「ええ。本当に」
 北斗が感想を述べ、錫子が微笑む。
「ぬあっ! 落ちた!!」
「ふっふっふ。勝負あったっすね!」
 ルーシィが悲鳴を上げ、伊都が勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「こうやって外に出て、大勢で楽しむのは良いね」
「楽しく過ごせた夜でした! また皆で集まりましょう!」
 悠司と雅人の顔にも、笑顔。
「線香花火を持ってきたのは正解だったみたいですね」
「ホンマにな。……たまには、リア充も悪くないかもしれん」
 ひりょが満足げに言うと、尚子が悪戯っぽく笑った。



 ――ともだちがたくさんできた。
 堕天使が書く今夜の日記は、そんな一文からはじまっている。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
己の信ずる道貫き通す・
紫 北斗(jb2918)

卒業 男 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
思い出に微笑みを・
唯月 錫子(jb6338)

大学部4年128組 女 アストラルヴァンガード