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マスター:猫野 額
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/08


みんなの思い出



オープニング

 小雨が降っていた。
 曇天だった。雨の勢いは大したことがないのに、雲が厚いせいで昼でも薄暗かった。
「……助けてって、言われたの」
 辻裏(つじうら)さんは綺麗な声の人だった。おしとやか、という言葉が似合う女性だった。ぽつりと呟かれた一言も、いつも通りの綺麗な声だった。
「××さんには言ったっけ? 私が、撃退士になった理由……」
 私は無言で首を振った。何かを喋る気にはならなかった。辻裏さんは「そっか」と笑った。
「私ね、孤児院の出身なの。小学校の二年生くらいのときかな。お母さんが病気で亡くなって。そのすぐ後に、お父さんが交通事故で死んじゃって。……その頃のことは、あんまり覚えてないの。きっとすごくショックだったんだね、私」
 他人事のように辻裏さんは言った。私はその横顔から視線を逸らして、自分の足元を睨んだ。どうしてこの人は笑っているんだろう、と思った。理由も無くイライラして、私は唇を噛んだ。
「孤児院には……家族を亡くした子がたくさんいた。天魔に殺されたっていう人がほとんどだったなあ。そういう子たちがね、みんな同じこと言うの。いつか撃退士になって、天魔を倒すんだーって。理由はみんなバラバラだったけどね。家族の仇を討つんだって子もいれば、自分のような立場の人をこれ以上増やしたくないって子もいた」
 辻裏さんは、いつになく饒舌だった。私とは逆なんだ、と思った。何かを喋っていたいんだ、きっと。
「それで、えっと、なんだっけ? ……そうそう、私が撃退士になった理由。最初は周りに感化されただけ。友達と一緒にアウルの適性検査に行ったら、私は合格したんだけど、その子はダメで。そのときに頼まれちゃったんだ。私の代わりに撃退士になってくれ、って」
 雲は晴れなかった。小雨は止まなかった。いつまでここにいるんだろう。自分のことなのに、他人事のように私は思った。ここにはもう何もないのに。
「それで、久遠ヶ原に来て。たくさんの人と出会って。……たくさんの人が死んだ」
 はっとして顔を上げた。辻裏さんは、もう笑っていなかった。そして思い出した。この人は『あの日』を知っている。
 2004年の夏。久遠ヶ原にゲートが出現した。全校生徒の三分の一が死亡したあの日の光景を、辻裏さんは知っている。
「そのときかな。私が初めて自分の意思で『撃退士になろう』って思ったの。たくさん守りたいものがあって、たくさん失って、初めて思った。もっともっと強くなって、守りたいものを守れるくらい強くなって……つよく、なって……」
 声が震えた。その場に膝を折って、辻裏さんは抱いていた『腕』を、もっと強く抱きしめた。
「なのに……全然、駄目ね。……守れなかった。……守れなかった……!」
 私は血の臭いを思い出した。雨に濡れた瓦礫と死体の臭いを、一気に吸い込んだ気がした。今までと同じ空気を吸っているはずなのに。
「……助けてって、言われたの」
 泣きながら笑って、辻裏さんは『腕』を見た。愛おしそうに見つめた。悔しそうに泣きながら、弱い自分を嘲笑していた。
 雲は晴れない。雨は止まない。血と屍が残された廃墟に囲まれて、辻裏さんは泣いていた。
 私は、何も出来なかった。



●アンデッド・ヘッド

「――くそったれ! ラチが明かんわ!!」
 飛来した『生首』を盾で殴り飛ばしながら、樹裏 尚子(jz0194)は悪態を吐いた。
 第二防衛ラインとされた大通りには、大量のグールドッグが押し寄せていた。どこから湧いているのかははっきりしている。尚子たちが居る街は、悪魔の支配領域から程近い。明らかな侵攻だった。
 ただのグールドッグが相手ならば、ここまで苦戦しなかっただろう。第一防衛ラインがすぐに破られたのは、相手が『ただのグールドッグ』ではなかったからだ。
「……限界だな。後退する気で動いた方が良さそうだ」
 尚子の友人である笆 奈央(まがき なお)が、苦い顔で呟いた。自身に飛びかかってきたディアボロの体をダガーで切り裂く。即座にリボルバーに持ち替えると、千切れ飛ぶ『生首』を撃ち抜いた。その間にも後方から悲鳴が響く。また一人負傷者が増えたか――或いは死体が増えたのか。
「尚子! 下がるぞ!」
 防衛ライン後退の連絡が撃退庁側から届くのを待っていては、自分たちも遅かれ早かれ力尽きてしまう。ここで決断しなければ、いずれは捌き切れなくなる。
「せやけど……!」
「命あっての何とやらだ! 動ける人数が多いうちに下がらなければ全滅する!」
「……くそッ!!」
 もう一度悪態を吐いて、尚子は発煙手榴弾を乱雑に放り投げた。奈央が周囲に後退を伝え、渋る者を叱責している。
「待ってください!」
 撃退庁所属の女性撃退士が叫んだ。奈央が諭そうと口を開く前に声を張る。
「まだ前線には吉田さんが残っています!」
「……単独行動ですか」
 冷めた口調で奈央が尋ねた。この数を相手に一人で動くなど、自殺行為に等しい。奈央の二の句が「見殺しにする」であることは明確だった。しかし女性は引かなかった。百メートル以上離れたビルを指差す。
「あの建物には! 二名の一般人が取り残されています! うち一名が重傷! 吉田さんが救出に――」
「その三人のために前線を維持しろと。ここにいる全員を死の危険に晒すつもりですか」
 言いながら、奈央は女性に銃口を向けた。発砲音の後、ディアボロの生首が地面に転がる。女性は押し黙った。
「どちらにせよ、前線は下げます。下げざるをえない。ここで人数が減るのは、最終防衛ラインの人手が減ることと同義――」
「待てや、なおちん」
 険しい表情の奈央に、冷たい声が浴びせられた。ショートソードに貫かれたグールドッグの頭部を振り捨てて、尚子が睨む。
「見捨てるのはアカンで。うちらは『街』を守る前に『人』を守っとるんや」
「ならばお前だけで三人の救助に向かうとでも言うのか? 無理だろう。サポートが無ければあそこまで辿り着くことすら難しい」
「そら無理やな。せやけど、まだウチには動けるメンバーがおるやろ?」
 尚子が後方を指した。奈央の表情は険しいままだ。尚子の言う『ウチ』とは、久遠ヶ原の戦力を示している。
「遊撃隊か……危険な仕事だぞ」
「そのへんは伝えてある。もちろんうちも出るで。言い出しっぺやからな」
「……まったく」
 仕方のない奴だ、と奈央は息を吐いた。その間にも防衛ラインを突破した『生首』を容赦なく撃ち抜く。
「撃退庁側から後退命令が下るまでだ。……それまでに戻って来い」
「おおきに。援護射撃頼むで」
「ああ」
 ――私も随分と温くなったものだ。奈央の呟きは銃声に掻き消された。


リプレイ本文

 ――ここからか。
 視線の先、もはや天魔側の支配領域と言える区域。そこに上がる白煙は、合流完了を意味すると同時に、撤退戦開始の合図でもあった。
 笆 奈央の居る第二防衛ラインは、次々と敵の突破を許していた。敵の数は増える一方。味方の数は減る一方。果たして遊撃隊が戻ってくるまで、戦線を維持することが出来るのか。
「……いや」
 小さく首を振る。可か不可かを論じている場合ではない。周囲の戦友に向けて、奈央は指示を飛ばした。
「遊撃隊の援護に回る! 合流次第後退! 一人も欠けさせるな!!」


●電撃的進撃

 奈央が白煙を確認する数分前。
 ディアボロによる波状攻撃を食い止める防衛ラインから、突出する一団があった。
「こんにちはー! そして、さよーならーなのDEATH!」
 向かってくるグールドッグたち。それらを飛び越え、あるいは踏み台にし、ぴょんぴょんと跳ねながらビルに向かうのはブラウト=フランケンシュタイン(jb6022)。
「おいおいおい! 先行しすぎやろ!」
 そのブラウトを樹裏 尚子(jz0194)が追いかける。
「救助なだけに、急遽決まったって感じですね。きゅうきょなだけに!」
 ドヤァ。黒瓜 ソラ(ja4311)、会心の洒落である。……しかし、他のメンバーからの反応はなかった。というか構っている余裕がなかった。
「……行きましょうか」
 涙目のソラである。こんなノリの彼女だが、向かってくる相手には容赦なく銃弾を浴びせている。
「吉田さんも無茶をするな……でも、そういうのは嫌いじゃないぜ!」
「ここで見捨てては我がロンド家、ひいては撃退士の名折れ。必ずやお救い致しましょう」
 虎落 九朗(jb0008)とシェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は、それぞれ銃と弓矢で敵の牽制に徹している。余計な敵は相手にしなければいい。目標地点に早く辿り着くことが先決だった。
「はあッ!!」
 裂帛の気合。牙を剥くグールドッグが、蘇芳 更紗(ja8374)の振るう大斧によって叩き潰される。
「時間がかかればかかるほど厳しくなるね。急ごう!」
「了解です。最後尾は任せてください」
 すれ違う一団に気を引かれ、反転するグールドッグは少なくない。飛びかかってくるそれらを鈴代 征治(ja1305)が食い止め、ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)の召炎霊符が群がるディアボロを追い払う。

 大量の敵によって、防衛ライン上の味方は押し下げられている。遊撃隊に求められるのは速攻であった。
「グールドッグ、ですかー。実に実に親近感……♪」
 ただ一人先行しているブラウトは、当然複数の敵に狙われた。群がるディアボロの一匹に狙いを定める。虹色の稲妻を纏う姿は、彼女が撃退士である証。
「同じアンデッドとして、是非是非お近づきになりたいのですー♪ まあ今は無理DEATHけど!」
 稲妻が炎へと姿を変える。槍状のそれを大きく振りかぶって投擲。標的に命中した炎は、たちまちグールドッグを火達磨にした。しかし他の個体は怯まない。むぅ、と唸るブラウトを包囲しようと動く敵陣を、一矢が切り裂いた。振り返るブラウトは笑顔で手をあげる。
「おーっ、シェリアさん! 援護感謝です!」
「余所見は駄目です! 十時の方向!!」
「ほえ?」
 鬼気迫るシェリアの声。ブラウトが前方に視線を戻すと、大口を開けた生首が目前に迫っていた。銃声が響く。
「お前はどっかの怪獣かロボットかっ!」
 ソラが放った弾丸が生首を撃ち抜いた。ようやく尚子がブラウトに追いつき、その頭をぱこんと引っ叩く。
「ひんっ」
「ドアホ!! 前に出過ぎや!」
 そんなやり取りをしている間にも、グールドッグが次々と集結する。一度に飛びかかられれば対処できない。そうなる前に、とソフィアが巨大な火球を前方に投げつけた。
「穴を開けるよ!」
 最前線の二人が飛び退くと同時、『太陽の炎』がディアボロの群れに直撃した。アウルの炎が燃え移った頭部が、眩い光の中から複数飛び出す。
「邪魔だっつの! どきやがれ!」
「鬱陶しいことこの上ない。とっとと潰れろ」
 九朗のコメットが生首を叩き落とす。更紗の斧が敵を砕いた。数瞬生まれた余裕の中、尚子がブラウトを叱る。
「あれほど単独行動はするなって言うたやろ!」
「うー。ごめんなさい……」
「説教は後にしましょう。今は急ぐべきです」
 しんがりから征治が声をかける。時間が惜しまれた。
 程なくして、八人は150メートルを走り切った。救助対象は目前である。


●選択不可能

「レスキュー911! ご無事ですかねっ!?」
「……ああ、なんとかな。すまない、助かった」
「まだ助かったって状況やないで」
 ビル三階にいる要救助者たち三人と最初に接触したのはソラと尚子であった。間を置かず九朗と更紗も合流する。建物の中に敵の反応が無いことは、九朗の生命探知スキルで確認済みである。
「……こりゃ、ひでえな」
 重傷の一般人が一人いるという情報は事前に知らされていたが、九朗はその傷口を見て顔をしかめた。右膝から下が食い千切られている。出血が酷いのだろう、片足を失くした男性は気を失っていた。その顔は真っ白だが、かろうじて息はある。その隣では、幼い少女が震えていた。
「大丈夫か?」
 更紗が声をかけると、びくりと体を震わせた。男性の娘か、と更紗は予想した。目の前で親が足を失ったとなれば、この怯えようも理解できる。
「吉田さんってあんたやな。まだ戦えるか?」
「スキルは使い果たした。あとはこいつだけだ」
 尚子の質問に、吉田は丸盾を軽く掲げながら答えた。逡巡ののち、尚子は小さく頷く。
「……うん、皆が考えてくれた作戦で行けそうや。吉田さんに重傷者運んでもろて、うちは護衛に加勢しよか」
「決まったのなら即ゴーしましょう! 兵法は神速で速きことは風の如く!」
 ごそごそと何かをつくっていたソラが、ビルの窓を開け放った。ノートの切れ端やブロマイドをくくりつけ、風を受けやすくした防犯ブザー。それらを作動させ、次々と屋外へ投擲する。
「先生諸氏……どうかご加護をっ!」

 ――その頃、ビル裏口。
「ぐっ……!!」
 左腕に噛み付いた生首を、征治は無理矢理振り払った。ソフィアの放った剣状の炎に貫かれ、ようやく敵が沈黙する。
「傷は?」
「……まだ行けます」
 建物の外から様子を伺う敵から目を離すことなく、ソフィアと征治は短く言葉を交わした。前衛の征治には疲れが見える。一人で残ると言っていた征治だったが、ソフィアは彼の意地を一蹴して共に残った。なんとか相手の猛攻に耐えられているのは、こちら側が二人いるからだ。
 一頭が地を蹴って征治に迫る。槍が翻り、グールドッグを刺し貫いた。生首が千切れ飛ぶ。すかさずソフィアが魔法で攻撃し、グールドッグヘッドを撃ち落とす。
 当初は征治が敵の攻撃を防ぎ、ソフィアが魔法で追い払っていた。しかし瞬く間にビルを囲むグールドッグの数が増え、その怒涛の波状攻撃に手加減をしている余裕は失われてしまった。敵を倒し、数を減らさなければ対応できないほどの数が、道の狭い裏口に押し寄せている。
(正面はもっときついはず……なんとかしないと)
 そろそろ要救助者と合流した仲間が下りてくるだろう、とソフィアは考えた。範囲魔法で殲滅しきれるかはわからない。だけど、ここを突破するしか――。
「――ブラウトさんっ!?」
 シェリアの悲鳴のような叫びが聞こえた。

 ――ビル正面入り口。
「纏めて吹き飛べ!」
 シェリアが放った巨大な火球が、ディアボロの群れを散開させた。本来あるはずの二手目が失われている以上、討ち漏らした生首はシェリアに殺到する。緊急障壁で初撃を緩和し、勢いを失った頭部をトンファーで打ち砕く。
「ブラウトさん!!」
 もう一度叫ぶ。その声に答えたのはグールドッグの唸り声だけであった。ビルからほんの数メートル離れた場所。そこに倒れ伏す少女は、ぴくりとも動かない。
 金属糸で迎撃していたブラウト。糸で切断した相手の頭部が千切れ飛ぶか否かを確認するために、数歩前進した直後――彼女の両側面から二頭が同時に飛びかかった。一頭はブラウトの金属糸が切り裂き、もう一頭はシェリアの放った矢に貫かれたが、残った二つの首は容赦なくブラウトの両脚に噛み付いた。少女の動きが鈍り、恰好の獲物とばかりにディアボロが殺到。火球によって群がったディアボロたちは追い払えたが、動けないブラウトは敵の真っただ中に取り残されたままだ。足の怪我が酷い。意識が戻ったとしても、自力で移動するのは難しいだろう。
(このままでは……!)
 シェリアにとって、グールドッグは初依頼の相手である。あのときは倒せた。だが今回は状況が違いすぎる。慢心があったのか、と反省している時間すら、今の彼女には与えられていなかった。
 けたたましく鳴り響く防犯ブザーが戦場に降ってきたのは、そのときである。シェリアに集中していた敵の注意が逸れた。
「困ったときの学生撃退士! お任せでありんすよぅ!」
 銃声の後、数匹のグールドッグが頭部を撃ち抜かれて沈黙する。シェリアの隣にソラが並んだ。九朗と尚子、負傷者を背負った吉田の姿も見える。征治が発煙筒を投げつつ叫んだ。
「裏口に目くらましを!」
「ほーい、承知ぃ!」
 くるりと方向転換し、ソラが発煙手榴弾を投げた。呆気にとられているシェリアに向けてソフィアが叫ぶ。
「要救助者との合流完了、正面から突っ切るよ!」
「えっ、ですが、作戦は――」
「裏口も正面も敵だらけです。全員でブラウトさんを助けましょう」
「止まってる暇はないぜ! もう裏から敵が来てやがる!」
 征治と九朗が煙幕を突破したグールドッグに対応する。今度は尚子が叫んだ。
「ブラウトを拾いに行く! 援護頼むで!」


●撤退戦

 階下でブラウト救出作戦が動き出そうとしている頃、更紗は建物の屋上入口で身を隠していた。
「暴れる元気はないと思うが、一応大人しくしていてくれよ」
 傍らの少女は震え続けている。返事を返す余裕もないか、と更紗は肩を竦めた。無理もない。今から出て行こうという屋上を、一匹のグールドッグが徘徊しているのだ。
(相手にしている余裕はない……機を見て飛ぶしかないな)
 更紗一人であれば問題なく倒せる相手だろう。しかし、攻撃の矛先が少女に向けば守り切れる保証はない。騒げば敵が増える可能性もあった。
 少女を抱き寄せ、抱え上げる。地上を行く仲間の様子を伺えるのは、滑空を始めてからになるだろう。孤立する危険が高かった。それでもここに来てしまった以上、進むしかない。
「……行くぞ」
 少女に一応の断りを入れ、屋上に飛び出す。小天使の翼を広げ、勢いそのままにフェンスを飛び越えた。こちらに気づいたグールドッグが接近する気配を背に感じながら、更紗は宙へと身を投げた。

「――よーし拾ったぁ! あとは走るだけや!!」
 ブラウトを背負った尚子が防衛ラインへ視線を向けた。150メートル。往路ですら十分長い道のりだったが、復路の厳しさはそれ以上となることが予想された。
 明らかにグールドッグの数が増えている。往路で八人だった戦闘要員は、復路では五人。更紗が別行動を取り、ブラウトが負傷、尚子がそれを背負っているためだ。
「あともうひと踏ん張り! 油断なく急ごう!」
 出し惜しみは不要だった。ソフィアが『太陽の炎』で前方に道をつくる。魔法攻撃を潜り抜けた敵には、側面を固めるソラとシェリアが対応した。
「さっ、エスケープしますよ!」
「これ以上はやらせません!」
 隊列の中ほどに、負傷者を背負った尚子と吉田が続く。回復役に徹する九朗もこの位置だ。そして殿軍は征治が務める。
「倒せなくても『重圧』をくらえば邪魔は出来ねぇだろッ!!」
 九朗がコメットを放った。剣魂で生命力を回復させた征治は、尚子や吉田を狙って飛びかかってくるグールドッグたちの進路上に立ち塞がる。
「通すわけにはいかない……!」
 翔閃。神速の刃が敵を怯ませた。その隙に遊撃隊は進む。上空から声が響いた。
「すまない、援護をくれ!」
「任されましたわ!」
 滑空する更紗に狙いをつけたグールドッグが跳ねた。矢で撃ち抜けば「首が飛ぶ」。シェリアのスタンエッジが、空中のディアボロの動きを阻害し、更紗への攻撃を中断させた。その間に無事着地した更紗は尚子たちに並走する。シェリアが更紗を援護する数瞬の間、今度は前方の二人が押され始めた。
「インフィが銃だけとか……舐め過ぎじゃあないですかねぇ?」
 二個目の発煙手榴弾を投げる余裕もなく、ソラは銃から鎌に持ち替えた。
「慈悲はない……天魔殺すべし! インガオホー!」
 謎の掛け声と共にソラが鎌を振り抜く。『次元突破』した斬撃は、グールドッグの接近を許さず、その体を両断した。――千切れ飛ぶ頭部を除いて。
(しまった!?)
 別方向の相手に対応していたソフィアの視界、その隅で首が飛んだ。九朗は征治を回復中で手が離せず、シェリアが慌てて放った矢は標的を外れる。隊中央に生首が迫った。

「『第三夜』――!」

 食らいつかんと口を広げた生首は、槍状の火炎に貫かれた。
「……私たちに、死んだふりほど似合うものはありません……!」
 けほ、とブラウトが咳き込んだ。九朗の回復スキルが功を奏し、意識を取り戻したようだ。彼女を背負う尚子は、驚愕の表情から一転、にやりと口角を上げた。
「ようやくお目覚めやな。ブラウト! まだ行けるか?」
「もっちろんDEATH! みなさんを援護しますー!」
 鼻息荒く魔導書を掲げるブラウト。これで戦闘要員が一人増えた。九朗が味方に『癒しの風』を施す。
「もうすぐ防衛ラインから援護がもらえる距離のはずだぜ。安心してくれ、回復スキルはまだまだ使える!」
「あたしは後衛に回って『スリープミスト』を仕掛けてみる。……全員で戻ろう!」
 ソフィアの言葉に、救助隊メンバーは力強く頷きを返した。

 ――数分後。第二防衛ラインは放棄され、前線は最終防衛ラインまで後退した。


●対価

「なおちん、デス子は?」
「……デス子?」
 流血している腕に包帯を巻きながら、奈央は首を傾げた。やや間があったのち、「ああ」と納得する。
「ブラウトなら、久遠ヶ原の病院に搬送されたはずだ」
「大事ないんやな?」
「ああ。足の怪我はひどいが、治らない傷じゃない」
「さよか」
 ふう、と尚子は息を吐いた。包帯を巻き終えた奈央が銃を手にする。
「――九人だ」
「ん?」
「お前たちが行って帰って来るまでに『戦闘不能』になった人数だよ。幸運なことに死人は出なかったがな」
「……さよか」
 よし、と尚子は剣を握った。奈央が尋ねる。
「お前も出るのか?」
「まだみんな戦っとる。うちばっか休んでられへんやろ」
「もっともだな。遊撃隊の連中は、働き者ばかりで呆れるよ」
「激しく同意。誰かと交代してこなアカンな」
 笑みを交わし、二人は最終防衛ラインへ向かう。戦い続ける仲間の元へ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 太陽の魔女・ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)
 インガオホー!・黒瓜 ソラ(ja4311)
 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
重体: あい あむ あんでっど!・ブラウト(jb6022)
   <複数の敵による集中攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:7人

太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
インガオホー!・
黒瓜 ソラ(ja4311)

大学部2年32組 女 インフィルトレイター
屍人を憎悪する者・
蘇芳 更紗(ja8374)

大学部7年163組 女 ディバインナイト
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
あい あむ あんでっど!・
ブラウト(jb6022)

大学部8年5組 女 アカシックレコーダー:タイプA