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マスター:猫野 額
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/29


みんなの思い出



オープニング

 なあ、そこのあんた。依頼を受けに来たんだろう?
 だったらちょうどいいのがあるぜ。「ケンタウロス」って知ってるかい。
 ギリシア神話に出てくる半人半獣――人間の上半身に馬の体が生えてるってアレだよ。
 弓矢やら槍やら棍棒やらで武装してて、四本の脚から生み出される速度はまさに競走馬のそれって話だ。

 その「ケンタウロス」っぽいサーバントの討伐依頼があるんだよ。
 まあ、このサーバント、ケンタウロスとは見た目が全然違うんだがね。
 何をどう間違って生まれてきたのか、特徴が『ケンタウロスの真逆』なんだとさ。

 つまり、「馬の生首から人間の下半身が生えてる」ってわけだ。

 ついつい笑っちまう見た目だが、すでに一般人が襲撃されたって報告が入ってる。
 それによると、奴らは鍛え抜かれた二本足で強烈な蹴り技を繰り出してくるらしいぜ。
 普通のケンタウロスなら、後ろ足の蹄が飛んでくる話だ。それに比べりゃ、いくらか威力は落ちるんじゃないか?
 連中には腕がないから、本来のケンタウロスのように武器を持つのは無理だろう。
 目とか口からビーム的なものをぶっ放すって情報もないし、おそらく攻撃は蹴りだけだ。
 数は4体だそうだ。数が多いとキモさもひとしおって感じだな。
 依頼を受ける気になったら、俺とかそこの斡旋所の奴らに言ってくれ。もうちょい提供できる情報がある。

 ……あー、そうそう。余談だが。
 連中、下半身にフンドシみたいな布きれをつけてるらしい。
 腕が無いのにどうやって着たんだろうな?
 もしも隠されてなかったら……なんて考えるのは、やめた方がいいか。
 精神衛生上よろしくなさそうだ。


リプレイ本文


●戦闘に備えて(ゆるめ)

「わっかんないねえ……連中のセンスは」
 常木 黎(ja0718)は肩を竦めた。見た目もさることながら、相手の目的が全くわからない。
「たまにいるよね、こういうよくわからないナマモノ。ま、油断すると痛い目見るかもしれないけどさ」
「……ですね……」
 ユリア(jb2624)がにぱっと微笑むと、フードを深くかぶったノエル・シルフェ(jb5157)もこくりと頷いた。
「うーん、なんだか違和感のある敵ですよぉ……」
 月乃宮 恋音(jb1221)が首を傾げる隣には、敵に負けず劣らず違和感の塊のような女性が一人。
「初メテノ依頼デス、ドキドキ。ソレニシテモ、ケンタウロスノ上下逆トイウコトハ……ウロス・ケンタ君、デスカネ?」
 箱(jb5199)である。その名の通り、彼女の頭部は箱である。なにがどうなってこうなったのかは、謎である。
「さて、初お披露目といきますか」
 テイ(ja3138)の手には真新しいアサルトライフルが握られていた。近頃新調したばかりの得物である。今回彼は、依頼の解決という目的以外に、このライフルの試射をこなすつもりのようだ。
「あいつら、めっちゃキモいなぁ……」
「あれ? ユッキー、怖気づいたの?」
 うへえ、と顔をしかめる藤井 雪彦(jb4731)を見て、L・B(jb3821)はにやりと笑う。雪彦はL・Bにへらりと笑みを返した。
「まっさかあ、それはないですよぉ。たとえどんな相手でも、姉さんはボクが守ります!」
「そう? 私の方が強いんだけどねえ」
「う……そうだけどさぁ。それくらいは言わせてよぉ」
 部活仲間という繋がりのある二人。どこか戦闘前とはかけ離れた和やかな雰囲気の会話である。
「じゃ、そろそろはじめよっか?」
 ユリアが全員の顔を見た。恋音が緊張した表情で頷く。
「……は、はい……では、みなさん、作戦通りにお願いしますぅ……」


●最初の標的

 交差点の隅、ビルの陰から敵影を視認する。
「……シュールな絵だね」
 ぽそりと呟いた黎は、口元に笑みを浮かべた。強者であるより勝者であれ。相手がどんな姿形だろうと、彼女がやることは変わらない。
 さて、その奇妙な姿をしたサーバントたちはというと、皆ばらばらな方角に顔を向けていた。町を破壊するでもなく、手当たり次第に人を襲うでもなく、ただただ虚空を見つめている。
(油断している……いや、周囲を警戒している……?)
 何せ相手の顔は馬である。じっと見たところでその表情から心情が汲み取れない。敵が動かないこともあり、偵察の効果は薄かった。
(仕掛けてみるしかない、か)

「黎サンカラ連絡キマシタヨ」
 耳(?)に携帯電話を当てていた箱が報告する。よーしっ、とユリアが羽を広げた。
「最初から飛ばしてくよっ!」
 上空へ飛翔したユリア。彼女に気づいた四体がその姿を視界に認めた直後、交差点に光弾の雨が降り注ぐ。光の粒子が四方に散る中、攻撃に巻き込まれた黒と茶色の馬頭が飛び出した。
「黒から仕留める!」
 黎の指示が飛び、戦況が一気に動き出す。未だ舞い上がる霧状のアウルの向こう、黒い馬の頭部を持つサーバントに、撃退士たちは狙いを定めた。近場の相手に火線を集中させ、各個撃破していく作戦である。
「その股間の布キレごとフッ飛ばしてやる!!」
 アサルトライフルを構えたテイが黒頭に銃口を向けた。しかし、彼が引き金を引いたときには敵の姿は無かった。危険を察知して咄嗟に飛び退いたのだ。
「くっ、速いな……!」
 着地と同時、アスファルトが凹むほどの跳躍を見せる黒頭。狙われたのは、後方に控えていたL・Bだった。
「おぉっとぉ! 姉さんには指一本さわらせねーから!」
 雪彦が両者の間に割り込み、護符を用いて炎陣球を放つ。空中にいた黒頭は回避行動がとれず、攻撃を受けて体勢を崩した。
「ナイス、ユッキー! さあおいで、私の可愛い子!」
 言いながら、L・Bはカードを投擲した。眩い光が放たれ、召喚獣スレイプニルが姿を現す。
「今晩の酒代を稼がなきゃね。行くよ、スレイ!」
 L・Bがスレイと呼ぶ神馬は、主の呼びかけに嘶きで答えた。馬もどき相手に後れを取るはずもないと言わんばかりである。
 それまで傍観を決め込んでいた残りの三体は、旗色の悪さを感じてか、どれもL・Bに向かおうとしていた。手の空いている撃退士たちが即座に対応する。
「そうは問屋が卸さないのよ」
 茶色頭の鼻先を黎が放った銃弾が掠めた。
「……え、援護しますよぉ……!」
 恋音のマジックスクリューが白頭の足を止める。
「ヤーイヤーイヘンターイ」
 挑発を受けたシマウマ頭は、標的を箱に変更した。
 結果、他の三体を捨て置くわけにもいかない状況となった。箱はシマウマを引きつけたまま走り出した。黎と恋音は残りの二体の気を引き、ユリアとテイはそちらの援護へ回った。
 孤立した黒頭と対峙したのは、L・Bと雪彦である。
「さぁて、覚悟はできてるよねえ?」
 L・Bの蛇腹剣が鞭のようにしなった。雪彦とスレイプニルが黒頭を囲み、逃げ場を無くす。スレイプニルが再び嘶き、黒頭が気を逸らした瞬間、蛇腹剣が襲いかかった。
「余所見はいけないねっ!」
 変則的な動きをする刀身を、黒頭はなんとか回避した。そこに今度は雪彦の戦斧が襲いかかる。
「あーらよっとぉ!」
 未だ体勢が整いきっていなかった黒頭を刃が捉えた。不利を悟った黒頭が逃げようと背を向ける。しかし、その人並み外れた健脚も、スレイプニルが相手では分が悪すぎた。たちまち追いつかれ、蹴り飛ばされて地面を転がる黒頭。立ち上がろうとした黒頭に、ゆらりと人影が近づく。
「逃げていいなんて……誰が言った? そこの変態馬褌……」
 L・Bの纏うオーラに、黒頭だけでなくスレイプニルや雪彦までもがびくりと体を震わせた。
 敵の逃亡を許すことは、報酬の減額に直結する。L・B的には、絶対に許されないことである。彼女に睨まれた時点で、黒頭には観念して天に召される以外の選択肢は残されていなかったのである。
 黒い馬頭のサーバントが物言わぬ屍と化すまで、そう時間はかからなかった。
 ……それに至るまでの途中経過に関しては、皆様のご想像にお任せする。


●前衛VS後衛

「作戦通り、とはいかないか……」
 茶色頭の額にアサルトライフルの照準を合わせたまま、黎は呟いた。茶色頭に背中を預けるようにして、白頭が逆方向を向いている。その視線の先では、緊張した面持ちの恋音が霊符を構えている。ここで安直に銃弾や魔法を放てば、回避されたときに向こう側の味方の動きに支障が出る。黎も恋音もそれを理解しており、また移動しようとすれば相手にチャンスを与えることになりかねない。今は相手が動くのを待つしかない。
 当初の予定とは異なり、こちら側の戦力は分散されてしまった。しかし、複数の相手が安易に動けない今の状況は、決して不利というわけではない。撃退士側には、まだまだ動ける戦力があるのだ。
「私を忘れてもらっちゃ困るなあ?」
 空から様子を伺っていたユリアが、再び攻撃態勢に移る。
「月に抱かれた攻撃がどの程度になるか……試させてもらうよ!」
 ――『Moon's Embrace』。月の抱擁を意味するスキル、その力を纏った銃弾が上空から放たれた。淡く輝く銃撃を、茶色と白の二頭は散開して回避する。
(動いた!)
 射線上から恋音が外れたことを確認し、黎は視線がユリアに向いている茶色頭を狙い撃つ。驚異的な反射神経で、某有名映画のような回避運動を取る茶色頭。しかし黎が放った数発の弾丸のうちの最後の一弾が、茶色頭の足を穿った。
「Yeah,Jackpot!」
 アサルトライフルからハンドガンに持ち替えた黎は、一気に接近して精密殺撃を放ち、急所を撃ち抜く。どうやら今回のサーバントの急所は人体同様の箇所だったらしく、地に倒れ伏した茶色頭は沈黙した。
「――You’re so pathetic」
 獲物を仕留め終えた女豹は、へらへらと軽薄な笑みを浮かべた。

 一方、白頭を相手にする恋音は苦戦していた。命中精度が良いはずのスキル、ライトニングによる攻撃を回避され、接近戦に持ち込まれていたのだ。
「う、わ、わ……っ!」
 近接戦闘用の武器を持たない恋音にとって、接近戦は不利極まりない。繰り出される蹴りをほぼ運だけで回避し、至近距離からの魔法で相手の攻撃を中断させ、何とか凌いでいる状況だった。
「あんまりしつこいのは嫌われるよっ!」
 ユリアが上空から白頭を狙い、恋音から引き離そうとする。茶色頭とは違い、白頭はユリアに見向きもしない。だというのに、ひょいひょいと軽快なステップで、まるで見えているかのように空からの銃弾をことごとくかわした。
 しかし、白頭は失念していた。この場にはもう一人、銃を扱う撃退士が居たことを。
「今度は外さない! グッバイベイビー!」
 テイの持つライフルが火を噴いた。放たれた銃弾は見事に白頭に命中した。――正しくは、白頭の股間の布に。
「へ……?」
 はらり、と布が落ちた。白頭の正面、見る見るうちに恋音の顔が真っ赤に染まる。
「〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?」
 怒涛の魔法攻撃が一瞬で白頭を焼き尽くした。股間に攻撃が集中しているような気がするが、きっと気のせいだろう。
「あーらら……すごい火力だね」
「これはひどい……」
 すっかり真っ黒焦げになってしまった白頭の死体を前に、ユリアは苦笑し、テイは顔を青くした。男性ならば誰しも背筋が寒くなるようなご遺体であった。
 その半人半馬の丸焼きをつくった張本人はというと、アスファルトの上にへたり込んでいた。その顔は未だに真っ赤である。
「……な、なんと申しますか……あまりに恥ずかしいのですよぉ……」
 どっと疲れがたまった様子で、恋音は大きく息を吐いた。
 ともあれ、これで残りは一頭。シマウマ柄のサーバントのみである。


●奴は四天王の中でも最弱ッ!

「ウーン。凛々シイ瞳ニ逞シイ大腿四頭筋、全体ノ絶妙ナバランストギャップ、マーベラスデス……」
 シマウマ頭に追いかけられている箱は、(箱をかぶっているので表情が見えないが、たぶん)うっとりとした表情を浮かべていた。
 本人の見た目が影響しているのかどうかはさておき、彼女が好むのは一般人には理解されない代物たちである。視覚的にも味覚的にも、普通とは一線を画しているものが大好きなのが箱である。ちなみに彼女曰く、今回のサーバントはかわいい部類に入るらしい。
「カメラガアレバ……ッテ、アラ? イツノ間ニカ皆サンガズイブン遠クニ見エマスネ」
 流れで敵の一体を引きつけた箱は、主戦場から離れた場所まで移動してきていた。
「皆サン忙シソウデスシ、仕方ナイデスネ。ココハ私トコノ子デ何トカシテミマショウ」
 高速召喚でヒリュウを呼び出し、箱はようやく足を止めた。
 変態呼ばわりされたのがかなり気にくわなかったらしく、相手は相当お怒りのご様子である。シマウマ頭は、走ってきた勢いそのままに箱目掛けて蹴りを放った。
「オット、危ナイ」
 どこか緊張感の欠ける機械音声で呟き、箱は蹴りを回避した。主が標的から離れたのを見計らい、ヒリュウがブレスで攻撃する。しかし、シマウマ頭にはあまり効いていないようである。ヒリュウの攻撃を無視し、箱を狙って執拗に蹴りを放ってくる。箱は金属の糸やサモンカードを用いて反撃を試みるが、これも有効打には成り得ていないようだ。
「ウーン……分ガ悪イデスネ。困リマシタ」
 やはり緊張感が薄い機械音声で呟く箱。と、そこにシマウマ以外の三頭を仕留めた撃退士たちが次々と駆けつけた。
「残りは一つ! 今度こそ直撃させる!」
 やる気満々にアサルトライフルを構えるテイ。彼の背後にはユリアと恋音が続いていた。
「さーてっ、ぱぱっと片付けちゃいますかぁ!」
 雪彦も意気軒高に斧を手にしている。その後方にL・Bと黎の姿もある。
 1対1の状況が、一気に1対7に変わった。
「オオ、形成逆転デスカ。倒シテシマウノハ少シモッタイナイ気モシマスガ、公私混同ハイケマセンネ」
 援軍に気付いた箱が(たぶん)にやりと笑った。無言で箱を見つめたシマウマ頭は、くるりと方向を変えると、全力で駆けだした。
「あ! 逃げた!」
「生きて帰れると思ってるらしいねえ?」
 ユリアが叫び、L・Bが黒い笑みを浮かべる。必死に逃げるシマウマ頭。
 と、ここでシマウマ頭の進む先に、ふらりと人影が現れた。
「眩しい……目痛い……帰りたい……」
 ぼそぼそと呟いているその人影は、ノエルである。
 敵の逃走に備えて待機していた彼女。呟きを聞く限りあまりやる気はなさそうである。
「…………」
 フード越しにシマウマ頭の気配を感じ取ったノエルは、無言で戦斧を構えた。相手が一人なら突破できると踏んだのか、シマウマ頭は速度を緩めずノエルに迫る。

 一閃。

 シマウマ頭はもんどりうって倒れ、そのまま起き上がることはなかった。ノエルによってあっさり討伐されてしまったのである。
「……粗末ね……」
 ついでに腰の布もとれたようである。
「アウトー」
 すかさず箱のヒリュウがシマウマ頭の股間を隠した。
「……だ、大丈夫……ボク……まだ成長期だもん……」
 雪彦が涙目になっていた。股間ガードは若干間に合わなかったようである。


●依頼完遂

「調教、完了♪ なんてねっ」
「おつでーっす♪」
 L・Bと雪彦がハイタッチを交わす。
「ま、当初の目的は果たせたかな……」
 ふう、と息を吐くテイ。股間の布はフッ飛ばせたし、アサルトライフルの試射は問題ないという結論のようである。
 そういえばさあ、とユリアが雪彦に確認する。
「蹴りがすごいって話だったけど、大したことなかったよね?」
「たしかにねぇ。姉さんのスレイの方がいい蹴り打てるって感じかなぁ」
「当然じゃないか。あの子が変態馬褌なんかに負けるわけないよ」
 雪彦のセリフに、L・Bが鷹揚に頷く。
「……結局、何のためにあんなサーバントが生まれたのでしょうかぁ……?」
 恋音は首を傾げた。最初から最後まで、相手の目的はわからないままである。ノエルがぽそりと呟いた。
「どんな考えであれをつくったんですかね……製作者は……」
「キットアレデスヨ。見タ目重視ノサーバントヲツクリタカッタンデスヨ」
「なるほど……」
 小さく頷くノエル。おそらく箱とノエルの考える「見た目重視」には大きく差異があるだろうが、そこまでのニュアンスは伝わっていないようである。
「……さて、学園に戻りましょうか」
 黎がそう言うと、撃退士たちはそれぞれ頷きを返した。

 恋音が事前に戦闘後の処理を手配していたことが功を奏し、サーバントの遺骸は手際よく片付けられた。
 人や車両の通行も解除され、夕暮れの街は元の喧騒を取り戻しつつあった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
悪魔テイマー・
テイ(ja3138)

大学部3年169組 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
カレーパンマイスター・
ユリア(jb2624)

大学部5年165組 女 ナイトウォーカー
アンパンを愛する・
L・B(jb3821)

大学部6年302組 女 バハムートテイマー
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
逃走不許・
ノエル・シルフェ(jb5157)

大学部6年257組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
箱(jb5199)

大学部3年322組 女 バハムートテイマー