競技開始まであと数分に迫った、両チーム合同の控え室。
既にユニフォームに着替えて準備万端整えた選手達に向かって、七五三原センセはニコヤカに告げた。
「ごめんねー、前に発表したチーム分けだけど、あれはナシね、ナシ」
今から発表するのが最終決定。
「急な変更だけど、いいよね? ね?」
七五三原の言葉は質問の形をとっている、が。
これ「いいえ」って答えたら先に進めないやつじゃ……?
選手達は顔を見合わせ、ひそひそ話。
だが彼等が返事をする前に、事態は勝手に進んで行く。
「じゃ、そういう事だから♪」
だったら訊くなよ、という選手達の心の声は、控え室の壁に吸い込まれて消えた。
というわけで、新しいチームは以下の通り。
【A班】
只野黒子(
ja0049)
黒百合(
ja0422)
鈴代 征治(
ja1305)
雫(
ja1894)
佐藤 としお(
ja2489)
レグルス・グラウシード(
ja8064)
黄昏ひりょ(
jb3452)
ユウ(
jb5639)
ゆかり(
jb8277)
黒神 未来(
jb9907)
【B班】
雪室 チルル(
ja0220)
ドラグレイ・ミストダスト(
ja0664)
真龍寺 凱(
ja1625)
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)
鳳 静矢(
ja3856)
鑑夜 翠月(
jb0681)
歌音 テンペスト(
jb5186)
ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)
ヒビキ・ユーヤ(
jb9420)
ルーシィ・アルミーダ・中臣(jz0218)
「え、私B班スタメンですか?」
新しいメンバー表を見て、実況希望のドラグレイが首を傾げる。
誰か怪我でもした時の交代要員としてなら出ても良いかなー、くらいに思っていたのだけれど。
「あ、でも大丈夫そうですね。サッカーは足が自由なら出来るのです♪」
つまり、マイクを持ってプレイすれば良いのだ。
「解説は七五三原先生でお願いしますね♪」
まともな解説は期待出来そうもない、気はするけれど。
「よっしゃ、サッカーやな! サッカーやったら任せとき!」
土壇場でチーム変更になった未来は、急いでユニフォームを着替えながら同時に柔軟体操もこなす。
「戦いの前にはしっかり準備しとかんとな!」
「耐久テストを兼ねた、サッカーですか。互いに怪我をしないように注意して、皆さんと一緒に楽しみたいですね」
ユウは今日も真面目に課題に取り組む姿勢を見せていた。
「しかし、それでも各チームの人数が不足していますが」
黒子の問いに、七五三原はヒラヒラと手を振る。
「大丈夫大丈夫、一人くらい少なくても、どーってことないわよ〜♪」
第一、これがサッカーだなんて誰が言った?
「…サッカーちゃうの? まあええわ」
アップを終えた未来は、真っ先にピッチに飛び出して行く。
そう、これは超次元サッk以下自粛。
「…超次元サッk?」
かくりと首を傾げたユーヤは、手元のボールをしげしげと見つめた。
「サッカーボール…V兵器…耐久テスト…全力で…スキル使って…思いっきり…ブン殴る…なるほど」
こくり。
超理解、完了。
――と、いうことで。
『さぁ始まりました♪ 久遠ヶ原カップ! 実況はドラグレイ・ミストダストと♪』
『解説は久遠ヶ原イチの美人教師、七五三原がお送りしまーす♪』
えー、早速ですが一部お聞き苦しい点があった事をお詫び申し上げます。
マイクを手にしたドラグレイは、早速自軍のゴール前……いや、ゴールの上に飛び乗った。
「だって、ここが一番見晴らしが良いのです」
ほら、よく「キーパーはゴールを守りながら最後尾で全てを見ている」って言うでしょ?
ゴールは守ってないけど気にしない!
『まずはB班ユーヤ選手のキックオフからのスタートです!』
しかし蹴らない。
なかなか蹴らない。
じっと相手ゴールを見つめるばかりで動かない。
「なんやじれったい、はよ蹴らんかい!」
味方のゼロ選手、痺れを切らして飛び出して来た!
「なんでもありなんやな?」
それはそれは悪い顔してボールを奪い、蹴る!
「誰でもええ、パース!」
「任せろ! 勝てば官軍ッ!!」
パスを受けた凱は、立ち塞がる敵に向かってボールを蹴ると見せかけてキャノンナックルでロケットパンチ!
「スポーツの秋! 良い響きです」
征治は雲ひとつない空を仰いで深呼吸。
「よーし、気合入れちゃうz」
ずばーん!
『征治選手吹っ飛ばされたー! まだスイッチが入らないうちに、顔面にロケットパンチが炸裂です!』
「やった、やったぞ。これで全国制覇だー!」
征治は何か楽しい夢を見ながら芝生の海に沈む。
それを跳び越え、ボールを抱えた凱はゴールへと走った。
「ルールさえ破らなければ、何しても良いんだろう?」
で、ルールなんてあったっけ?
「ないわね!」
答えたのは併走するチルルだ。
ルール無用って聞いた! あっても多分いつのまにか逸脱するって言うか……
「あたい、サッカーのルール知ってたっけ?」
ま、いっか!
「よーし! さいきょーのストライカーであるあたいの力、見せてやるわ!」
パスを受けたチルルは、いきなりの奥義解禁!
だって自分が持つ最高最強最大火力の技をぶつけないと、耐久テストにならないじゃない!
「いくわよ! 氷剣『ルーラ・オブ・アイスストーム』!!」
空中にボールを蹴り上げたチルルは、ジャンプから奥義を発動。
両手に氷結晶状のアウルを極限まで集中、作り出された氷の突剣でボールを刺し貫く!
普通のボールなら、この時点で――いや、最初のキックオフ時点で風船の様に弾け飛んでいることだろう。
しかしこれは、ボールとは名ばかり仮の姿のV兵器。
奥義の超スゴイ威力を乗せ、それは飛んだ。
A班のゴールど真ん中を目指して真っ直ぐに。
「ヨロシクおねがいしま〜す♪」
なんて気楽に挨拶している場合じゃない。
ゴール前に陣取ったディフェンダーとしおは、唸りを上げて突っ込んで来るボールの射線に立ち塞がる。
「止めて見せる! これがこの試合最初のg」
最後まで言い終わらないうちに、としおの顔面は「顔」としての機能を停止した。
しかし、そのガッツ溢れすぎるプレイのお陰でボールは勢いを失い、ふわりと舞い上がる。
飛び出して来たキーパー、レグルス背番号21がそれをしっかりとキャッチした。
「僕ってば、久遠が原の『SGGK(スーパーがんばりゴールキーパー)』なんです!」
ライトヒールでとしおの顔面を修復しつつ、ボールを蹴り返す。
「だから、負けません(`・ω・´)シャキーン」
それを受けたのはA班司令塔の黒子。
ディフェンス寄りのミッドフィルダーとして中央に位置していた黒子は、ボールを確保すると瞬時に状況を判断、走り込んで来た黒百合にパスを繋いだ。
「きゃはァ、思いっ切りなんて滅多に出来ないからねェ…色々と楽しみだわァ…さァ、遊びましょうォ♪」
ゴールまで、まだ距離はある。
しかし相手ディフェンダーが戻り切れていない、今がチャンス!
ゴール前に何人か残ってはいるが、鍵は強引にこじ開けるものッ!
乾坤一擲、後は野となれ山となれ!
渾身の力をボールに込めて、全力全壊必殺ショット!!
「V兵器と言えば僕達撃退士の命を預ける大切な物ですから、しっかりとテストを行わないといけませんよね」
ゴール前に残っていた翠月は、テストプランを頭の中でシミュレートしていた。
「えっと、こういったテストに参加するのは初めてですけど、頑張りますね」
耐久テストという事なら、やはりここは自分が出来る限りで強力なスキルを撃った方が良いだろう。
そうなると、使うスキルはクロスグラビティ、威力も高いし、重圧付与も出来る事から、耐久テストには最適だろう。
相手を破壊する事を目的とした凶悪な一撃、DDDも使ってみる価値はあるだろうか。
「ちょっと特殊な効果ですけど、こういうのを試すのも大事ですよね」
しかし翠月はひとつ、大事な事を忘れていた。
そう、攻撃するばかりがサッカーではない、寧ろ大切なのは――
GOVAAAAAAN!!!
アメコミ効果音の如き派手な音が炸裂し、翠月は飛んだ。
自軍のゴールに向けて、一直線に。
『解説の七五三原先生! これは一体、何が起きたのでしょうか!』
『あー、これはねぇ。ちょっとスローモーションで見てみましょうかー』
七五三原が手元のパネルを操作すると、大型スクリーンにリプレイ映像が映し出された。
漆黒の巨槍を振り抜いてボールを打ち出す黒百合。
そのボールを頭部に叩き付けられて吹っ飛ばされる翠月。
「あらぁ…? 偶然よォ、ぐ・う・ぜ・ん♪」
狙ったのはゴールマウス。
翠月はたまたま、そのコース上にいただけだから、ね?
『ゴオォォール! 黒百合選手、見事なシュートが決まりまし……いや、ボールはまだ生きている!?』
ゴールネットに突き刺さったのは翠月の身体のみ。
弾かれたボールは上空に浮いている!
そこには黒子の指示を受けたユウが待ち構えていた。
高さ、位置、共に黒子の予測通り、ユウは勢いを付けて、それを真下に打ち返す。
「…あ、あれ? 僕は一体何を……?」
根性と言う名の気合と、飽くなき闘争心によって復活を果たした征治は周囲を見渡す。
「なんかピッチがすでにすごいことに……」
何が起きたのかは覚えていない。
鼻血がポタポタと滴り落ちている理由もわからない。
しかし、自分がやるべき事は知っている!
「うおおおい、負けるかー!」
全力で駆け上がった征治は上空からのユウのセンタリングを受けて全力跳躍、ディバインランスをぶん回す!
『ああっ、しかし空振りです!』
だが、それは計算された戦略的な空振りだった。
その遠心力を利用して速度を増しての、バイシクルシュート!
『ボールはゴールマウスに一直線、しかしキーパーはゴールの上です! って私でした!』
しかし戻った凱が身を挺してゴールを守る!
「ふはははは、キルゼムオールだッ!!」
反撃開始!
凱は立ち塞がる敵を手段を選ばず薙ぎ倒し蹴り倒し殴り倒して進む。
「男は死んでもやむなしッ!!」
でも女の子は避けるよ!
危ないから近寄らないでね!
『悪鬼羅刹の如き鬼畜で卑怯な手段を湯水のように使いつつ相手ゴールに迫る凱選手、前を走るのはこれまた悪逆非道の魑魅魍魎ゼロ選手!』
しかし凱はパスを出さない!
あくまで自分でゴールまで持って行くつもりだ!
『チームプレイとは何だったのでしょうか! おおっと、ここでゼロ選手が強引にボールを奪いに行った!』
『あらー? 二人は同じチームじゃなかったかしらー?』
でも良いや、面白ければ問題なし!
本来の目的はボールの耐久試験、それにこの試合には審判がいないのだ!
「させるか!」
ボールを奪いに来たゼロに対し、凱は敢えてそれを蹴ってぶち当てる、が。
「ふ、甘いでェ!」
ゼロは何と、倒れている相手ディフェンダー、としおを盾にした!
『これはひどい! 審判! 審判は一体何をして……あ、いないんでしたね』
なら仕方ない。仕方ない。
「闇よ全てを屠れ、必殺ヤミナベシューッ!!」
え、闇鍋ちがう? 闇撫? ごめん聞き間違えちゃった(てへっ
『ゼロ選手、ボールごと自分を闇に包み邪魔者を吹き飛ばしつつ超突撃からの回し蹴りシュート!!』
「人を吹き飛ばしながらとか、昔のく●おくんシリーズのゲームみたいだな」
そんな感想を漏らしたひりょ君は高等部2年生ですよ?
ほら、今はレトロゲームもDLで遊べるし、ね?
しかし、そこに立ち塞がるSGGKレグルス!
「ボールはトモダチなんです、怖くありません!」
でも敵の選手はトモダチじゃないもんね!
「僕の力よ! 光となってゴールを割ろうとする敵ストライカーを貫けッ!」
ヴァルキリージャベリンがゼロの身体を貫く! しかし!
「裏必殺! エクストリームカウンター!!」
三倍返し!
「百倍やないだけ有難く思うんやな!」
全ての威力を乗せたボールがレグルスを襲う!
『しかし止めました! 流石はSGGKです! ……いや、まだです!」
ボールはキーパーの身体ごとゴールへ!
だが、レグルスはボールの勢いを利用して横に跳び、自らゴールポストにぶち当たる!
「キーパーにとってはゴールポストだってトモダチです!」
痛くない! 痛くないったら痛くない!
『止めました! レグルス選手、スーパーミラクルセーブ!』
それを見ていたユーヤは、ギガントチェーンを肩に担いで歩き出した。
「あの枠に、入れる…わかった」
ゆっくり歩いて自陣のゴール前に辿り着くと、まずは周囲の――特にルーシィの行動を観察。
「ん、皆…楽しそう、だね」
微笑みながら、見よう見まねでゴール前のボールを捌いていく。
「どう見ても酷い結果にしかならない気が……」
試合の流れを呆然と目で追った雫は神威を発動、そして考える事をやめた。
とにかく相手のゴールにボールを叩き込む事だけに集中すること、それ以外は考えるだけ無駄と言うか、多分主催者自身が何も考えてない。
「では、行きます」
まずは前を走る仲間にボールをパス、と言っても耐久テストであるからには全力で蹴る!
『これは雫選手、この距離からダイレクトにシュートに行ったか!?』
いいえ、パスです。
左サイドから駆け上がるミッドフィルダー、未来がそれを身体で止める。
「うちサッカーでスポーツ推薦うけたぐらいやからサッカーが一番得意やけど、実はラグビーの経験もあるねん」
そしてこれは、ルール無用のサッカーっぽい何か。
「ならこれでもルール違反にはならへんやろ!」
未来は両腕でボールをがっしりと抱え込み、ガードしながらカットを切って走る!
「見ぃ、これがラグビー流の走りや!」
迫り来る敵の攻撃を未来眼でかわしつつ、タックルで跳ね飛ばし、それがダメなら最終手段!
「この蛇眼に魅入られて、そんでも動けるもんなら動いてみぃ!」
動きを止めた相手を置き去りに、必殺の羅眼シュート!
B班のゴールにキーパーはいない!
「――と思わせて、あたい参上!」
チルルは氷盾『フロストディフェンダー』でそれを跳ね返した!
「サッカー…耐久テストとはいえ危険な競技をさせる…」
静矢は何をどう間違ったのか『サッカー=球を蹴り相手を撃破する競技』と認識した様だ。
いや、間違ってはいない。
少なくとも、この場における『久遠ヶ原サッカー』に関しては。
ボールを受け取った静矢は居合の一閃と共にドリブルで駆け上がる。
「鳳凰の進撃を止めてみるがいい!」
相手チームの司令塔、黒子はすぐさまそれに対応、行く手に壁を作るべく仲間達に指示を出した。
進路を塞げば相手はパスを出すしかない、そこで一斉にラインを上げてオフサイドトラップに嵌める――
しかし、これはそんな「普通のサッカー」とは違う何かだった。
前を塞がれた静矢はボールを真上に蹴り上げ全力跳躍で飛翔、空中で紫鳳翔を発動した。
「…フェニックスショット!」
紫色の不死鳥が全てを弾き飛ばしてゴールへ突き進む!
しかし、こんな事もあろうかと!
「な、に……!?」
ゴールが消えた。
いや、正確にはシュートの瞬間、ゴールが逃げたのだ――横にスライドする様に。
「枠に入って無いからゴールじゃありません(キリッ」
自軍のゴールを固定している杭をこそっと抜いておいた、ゆかり選手のファインプレイ!?
「よし、反撃です!」
ひりょはサポート役にユウと雫の二人を指名すると、連携を組んで敵陣へ切込んだ。
「俺達は久遠ヶ原三連星(仮)だ!」
「え、ええ……はい」
「……それで、何をすれば良いのでしょう」
「まず、お二人にはサポートをお願いします!」
大丈夫、各自に必要とされる動きは自動的に脳内へとインプット――されないと思うけど、多分わかる!
「つまり適当な位置にパスを出せば良いのですね?」
ユウが確認するが、うん、多分そういう事。
「いくぞ、韋駄天シュート!」
蹴る時だけは異様に速いけど、それ以外はごく普通だ!
「ボールにハエがとまっていますよ」
ふらりと起き上がった翠月が、それを止めた。
「こんなもので僕を倒せると思うのですか?」
翠月は受け止めたボールをひりょに投げ返す。
「だったら、これはどうだ! ファイヤーシュート!」
炎陣球で燃えてるぞ!
「レインボーシュート!」
忍法「月虹」でキラッキラだ!
「ブーストシュート!」
炸裂符で爆風が舞い上がる!
しかし、翠月はその全てを受け止めた。
「ふっ、まだまだですね」
「ならば合体シュートだ!」
雫が出したパスをひりょが渾身の力を込めて上空へ蹴り上げ、更にそれを闇の翼で舞い上がったユウが嵐死を乗せて蹴り込む!
「「ストームトルネード!!」」
しかし守護神翠月はクロスグラビティで対抗、それを片手で受け止めた!
「グラビティハンド!」
もはやボールよりも翠月くんの耐久テストになっている、ような。
「ならば、次の一球で決める!」
ひりょとユウは再びのストームトルネードと見せかけて、本命はその背後に潜んだ雫による一撃!
しかし雫の狙いは翠月ではない。
その斜め後ろで待ち構える歌音だった。
「乱れ雪月花」
粉雪の如きアウルが舞い散る中を、蒼く冷たい月――いや、ボールが突き抜け切り裂いて飛ぶ!
『CR差を利用した貫通攻撃、これは痛い!』
ゴオォーーール!
そしてここで、前半終了!
休憩時間を利用して、両陣営のゴールはしっかりと杭を打ち直し、固定された。
これでもう、ゆかりの必殺技は使えない。
しかし、これで試合が「普通のサッカー」になると思ったら大間違いだ。
そしてA班の一点リードで迎えた後半戦。
開始前に円陣を組んだ黒子は、前半戦での観察結果を他の選手達に伝える。
走力を含む機動力やフィジカルの強さを基準に危険度を指定、それに従って対処の優先順位を決め、フォーメーションを確認、布陣を組み直して――
「現在はこちらがリードしているとは言え、ここで守りに入るのは危険です」
恐らく相手も死にもの狂いで点を取りに来るだろう。
「取られる前に取り返す、それ位の意気込みで臨めば、きっと勝機は見える筈です」
一方のB班では。
「さて、いよいよ僕達の出番でしょうか」
ヒリュウのハートを召喚したエイルズレトラは、開始の合図と共に一人と一匹で縦横無尽にフィールを度駆け回る。
「素早さでは誰にも負ける気がしませんね」
サッカーの経験はないが、何をすれば良いかは前半の様子を見て大体把握した、と思う。
ボールを持って上がって来た敵選手にハートをけしかけて気を引き、その隙にボールを奪って歌音にパス!
「このタマがどこまで耐えられるか試してやるんだ…蔵倫にッ!」
受け取った歌音は、すぐさま相手ゴールに向けて走り出……さ、ない。
「ルーシィちゃん、はろはろ〜。見てる〜?!」
試合後半、女王様スタイルで現れた歌音は、抱えたボールに頬擦りをしている!
「この子はもしや、あたしとルーシィちゃんの愛の結晶…?」
「意味がわからん」
時間が勿体ないと、ルーシィはそのボールを取り上げようとする、が。
「いやよっ、たとえルーシィちゃんでもこの子は渡さないわっ! 認知してくれるって言うなら話は別だけど!」
「認知ならしているぞ、それはサッカーボールに見せかけたV兵器だろう」
「そういう意味じゃないのよ、ルーシィちゃんったら照れ屋さんなんだからもう(はぁと」
歌音は大事なタマタマちゃんを胸の谷間に挟んで走り出した。
サッカーの弱点は手を使わないこと、しかしこれなら走るスピードが落ちないし両手を自由に使える、まさにサッカーの弱点を突いた、かつ適度に蔵倫を脅かす姿とも言えよう!
……ごめん高度すぎて意味わかんない。
「なにっ!? これでも通用しないと言うのかッ!?」
ならば仕方ない、かくなる上は足枷・手錠装着!
これでタマタマと絡み合う姿は蔵倫を果敢に攻める光景の筈!
……ごめんますますわかんないけど、良いです、そのまま突っ走って下さい。
「こうなったら真空ハイメガ粒子全米が泣いた歌音砲(仮)で!」
しかしここでは段ボール製のバズーカもどきは使わない。
タマタマを挟んだ胸を両手でバッチン、その圧力でタマタマを撃ち出すのだ!
「淫獣シュートッ!」
なんかすごいのが飛んで来たけど、黒百合は冷静にそれをシールド、打ち上げたボールを征治がウェポンバッシュで空の彼方までぶっ飛ばす!
いや、実際に飛ぶのは6mほどだけど、それくらいの気合いで!
それを受け取ったゆかりは物質透過でボールと共に地面に潜り、首だけ出してボールを運ぶ!
そしてゴール直前、飛び出してシュート!
だが、その瞬間に漆黒の鴉が群れ飛び、ゆかりの視界を塞いだ。
「黒鴉の悪夢」
勝ち誇る様にニヤリと笑ったゼロが、ボールを奪い取って行く。
だが。
「ヴァカめ! 本物はこっちだ!」
ひっかかったな、そいつはケセランだ!
「何やて!?」
見れば、ゼロの腕の中にはもっふもふのケセランが!
「がおー」
本物のボールはゴールに一直線、と思いきや――
「残念、それは僕のハートですよ」
いつの間にか、それもまたエイルズレトラのヒリュウと入れ替わっていた!
では本物のボールは……?
「ん、そろそろ、行く」
準備運動を終えたユーヤは、楽しそうに鉄球を振り回しながら動き出した。
足元にはボール、だが取りに行こうにも鉄球に阻まれ近付けない。
悠々と敵陣に迫ったユーヤは、そこで本気を出した。
鬼降しで強化、黄泉路渡りで限界を超え、乾坤一擲を使った全力でボールに叩き込み、ルーシィにプレゼント!
「全力で、殴る…ちゃんと、受け取って?(クスクス」
全力キラーパスが通った!
「合体技はろまん、ルゥなら行ける(こくり」
「わかった、ならばその期待に応えてみせよう」
ルーシィは全身全霊を込めて、そのボールをゴールに叩き込む!
「身体のどこかにあたってくださいッ!」
飛び付いたレグルスがパンチング、弾かれたボールは上空高く舞い上がった。
それをトラップしたハートが静矢にパス!
「ならばこの一撃で…ネオ・フェニックスショットだ!」
全力跳躍から紫鳳凰天翔撃で不死鳥再び、全てを吹き飛ばす勢いでシュート!
高空からの攻撃に地上のディフェンダーは手も足も出ない!
普通は。
しかし彼等は撃退士、普通じゃないのが当たり前!
「飛べなくてもやりようはあるっ!」
としおはイパロスバレットでボールを撃ち落とし、それを抱えて走る!
「消える魔球です♪」
敵陣に斬り込みバレットストームで潜行、最後は錬気で力を貯めて一気に解放!
「喰らえ! ウルトラワンダフルハイパートンコツダイナミックナンダカスゴイシューーートッ!!」
二点目!
ディフェンス陣、一歩も動けず!
A班がリードしたまま、残り時間は刻々と減っていく。
「そろそろ何か仕掛けんと、このままやと負け試合やな」
ゼロと凱は、互いにワンツーでパスを回しつつ敵陣へ。
勿論その間に割り込んだ敵はボールをブチ当てて吹っ飛ばす。
「おらおら、死にたくなかったら邪魔すんじゃねぇぞ!」
稲妻の様なジグザグの軌跡を描いて二人は走る。
そしてゴール前。
シュートを決めるのはゼロか、凱か、それとも――
「あたいよっ!」
ど真ん中から走り込んだチルルが打つ!
と見せかけて!
「残念、私だ」
静矢が紫翼撃でディフェンダーを跳ね飛ばす!
しかし、それを読んでいた黒子は不動の構えで一歩も動かず踏ん張った!
だが、それさえも囮だったのだ。
背後から現れたエイルズレトラがダブル・フェイスで分裂、その二人が同時にシュートを放つ!
「どちらが蹴るか分からないでしょう?」
名付けて、必殺ミラクルミラージュシュート!
しかしA班のディフェンス陣は動じない。
それも黒子が予想した範囲内だったのだ。
ところが、ここで想定外の出来事が起きた。
エイルズレトラのシュートはすっぽ抜け、ボールは空中高くふらふらと舞い上がる!
流石にサッカーは初めてというだけの事はあるが、それこそが真のミラクルだったのだ。
なんと、そこに飛び込んで来たダークホース、ハートがヘディングで叩き込む!
まさかの参戦に誰ひとり反応出来ない!
『ゴオォォォル!! B班、一点差まで追い上げました!』
「きゃはァ、取られたらまた突き放せばイイのよねェ♪」
黒百合はキーパーからのパスを受けて走る、が!
「こっからは俺らの時間や!」
飛び込んで来たゼロがそれを強引に奪い去った。
しかしハイドアンドシークで気配を消した未来が、不意打ちでボールを掻っ攫う!
そこに上がって来た久遠ヶ原三連星(仮)、今度は何を仕掛けて来るのか!
だが、リーダーが男性だったのが運の尽き!
「男は潰す!」
突進して来た凱が、ボールを持ったひりょごと思いきり蹴り上げる!
ボールと一緒に吹っ飛ぶひりょ、それを追って、ゼロを踏み台にしたドラグレイが大ジャンプ!
ケイナインスタンプで必殺のダイビングシュート!
「子犬にも牙はあるのです♪」
唸りを上げて迫るボールに、レグルスが素早く反応する。
しかし!
「あっ、邪魔しないで下さい!」
その視界をハートが塞いだ!
『ドラグレイ選手、見事に同点のシュートを決め――えっ』
実況自ら褒め称えようとした、その瞬間。
「喜ぶのはまだ早いですよ」
射線を塞いだ雫が烈風突でカウンター、ドラグレイに向けてボールを蹴り返す!
しかし、闇の翼で割って入ったゼロがボレーシュート!
それを今度はシールドを発動した征治がクリアワイヤーで絡め取る!
大きく蹴り返されたボールはしかし、静矢の真っ正面だ!
「今度こそ決める」
紫鳳翔を発動、紫の鳳凰がゴールに飛ぶ!
そこにチルルが氷砲を乗せ、更に翠月がDDDを叩き込んだ!
「「トライフェニックス!!」」
三人がかりのシュートがゴールネットを突き破る!
ただし真上から!
『解説の七五三原先生、今のシュートは有効なのでしょうか!?』
『んー、良いんじゃない? 決まれば同点だし、その方が面白いでしょー?』
良いのか、それで。
『良いのよー、だって耐久テストだもん♪』
というわけで、ゴール!
そしてここでタイムアップ!!
試合終了!
「……このような結果になったのですが良かったのでしょうか?」
雫の問いに、七五三原はカラカラと笑った。
「うん、良いの良いの、流石は超次元サッk(げふん)久遠ヶ原サッカーね。あー、楽しませてもらったわー♪」
ん? これってボールの耐久テストだったのでは?
で、肝心のテストは?
「うん、流石はV兵器ね」
これだけの高レベル撃退士に寄ってたかって、しかもスキル全開、奥義まで使って全力で蹴りまくられても、傷ひとつ付いていない。
「これなら実戦でも充分に通用しちゃうわ!」
実際に使う者がいるかどうかは置いといて。
そんなわけで、無事にミッションコンプリート。
「帰りは皆でラーメンでも食べて帰りません?」
としおが言った。
ほら、部活の帰りにラーメンって定番だし!
おでんでも良いけどね、青春の味ってことで。
あ、勿論全部、七五三原先生の奢りで!
(代筆:STANZA)