.


マスター:猫野 額
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/20


みんなの思い出



オープニング

●千日の稽古を以て鍛と成し、万日の稽古を以て錬と成す。


「――ふんっ! ふんっ!」

 一定のリズムで声が響いている。
 夕陽に照らされる学生寮のすぐ近く。
 通行人の視線を集めるルーシィ・アルミーダ・中臣(jz0218)は、懸命に木刀を振っていた。

「よく毎日飽きずに続けるねえ」

 寮の一階、ルーシィから見て最も近い部屋。
 自室の窓から顔を出し、円堂 希壱がぼやいた。

「そうですね。どこかの誰かさんとは大違いです」

 ずずず。湯呑みを傾け、こくりと頷く小美玉 知沙。
 彼女の言う「どこかの誰かさん」というのは希壱のことである。
 以前、模擬戦で年下との真っ向勝負に負けた直後、彼は大層やる気に満ちていた。
 しかしそのやる気も三日と持たずに消え失せており、壮大な修行の計画は実行されずに今に至っている。
 じろ、と知沙を睨みながら、希壱が恨めしげに呟く。

「……お前な。ずかずか他人んちに上がり込んで、勝手に茶を飲み始めた挙げ句、家主に小言とか喧嘩売ってんのか」
「私は事実を口にしたまでですよ。喧嘩を売るつもりなんて毛頭ありません」

 にこにこ。
 いつもの笑顔を浮かべて、知沙はさらりとそう言った。
 ばっちり喧嘩売ってんじゃねーか、と思いつつ、希壱は閉口する。
 知沙に構うとこちらだけが無駄に疲れるということを、彼はだいぶ前に学んでいた。
 再び視線をルーシィに戻す。

「ふうー。……よし!」

 素振りを終えたルーシィは、「悪霊退散」という謎の文言が書かれた木刀を丁寧に布に包んだ。
 それを傍らの木の幹に立て掛けると、ヒヒイロカネから魔具を取り出す。

「お。今日はヨーヨーか」
「昨日は剣玉でしたっけ。お気に入りなんでしょうね、ああいう武器」
「武器っつーかオモチャだけどな」

 まともな武器使ってるところ見た事ねーよ。
 希壱の呟きに知沙は苦笑を返した。

 ルーシィがこの場所で鍛錬を始めたのは、おおよそ二ヶ月前のこと。
 どんな天候でも必ずここへやってきて、毎日同じような訓練を繰り返している。
 彼女が使う魔具は、主に剣玉とヨーヨー。
 他にはフリスビー、傘、フライパン等々、普通の剣や銃ではダメなのか、と問い詰めたくなるようなラインナップである。

 木刀を振り回していたときとは打って変わって、ルーシィは終始無言でヨーヨーを操る。
 アウルを纏ったヨーヨーは淡く発光し、回転する円盤部からは白い光の粒子がくるくると溢れている。
 ふむ。顎に手を当て、知沙は感心した様子で呟いた。

「ヨーヨーの腕は上達しているように思えますね」

 放課後を過ごす学園生の何人かが足を止め、ルーシィのヨーヨーさばきに見入っている。
 スマートフォンで動画を取っている者もいるようだ。
 まあたしかに綺麗だが。希壱は小さく息を吐いた。

「……実戦で使えんのかアレ」

 最後はそこである。
 本人は真剣そのもの、毎日欠かさず修行に励んでいるようだが、その姿は「ヨーヨーや剣玉の練習」にしか見えない。
 というかその前に行う木刀の素振りは意味があるのか。お前刀使わねーじゃんよ、と心中でツッコむ希壱。

「……終わりましたね。今日も来るでしょうか?」
「来るだろうな。来ない理由がない」

 周囲からのまばらな拍手をスルーして、木刀を回収したルーシィは窓辺へと駆けてきた。

「希壱、知沙! 相手を頼んで良いか?」

 やっぱり。二人は視線を交わした。
 自主トレを終えたルーシィは、決まってこう言うのだ。
 このとき希壱が部屋を空けていると、どうやら通行人に勝負を吹っかけるらしい。
 「某学生寮の近くに行くと玩具を持った女の子に襲われる」なんて噂が流れたこともあった。
 心配した知沙が希壱の部屋に押しかけるようになり、それ以来模擬戦の相手は二人が交互に務めている。

 問題はここから。
 希壱も知沙も、他人に何かを教えるのは苦手なのである。
 模擬戦をやるだけなら簡単だが、ルーシィとこの二人の間には実力差があり、加えて二人とも手加減が苦手。
 かと言って生来努力家とは真逆の性質である二人が、身になるような鍛え方を知っているはずもなく。
 はっきり言ってしまえば、この二ヶ月間でルーシィの戦い方は進歩していないのだ。
 このままでは、この少女の努力が無駄になることは間違いない。それはちょっと可哀相だ。

 どうします? 視線で問う知沙に溜息を返し、希壱はルーシィへと視線を向ける。

「なあ、たまには俺たち以外を相手にしてみたらどうだ?」
「む。今日はダメなのか?」
「ダメというわけではありませんが……ほら、その方が良い経験になりますから」
「そういうものか。えーっと、じゃあ――」
「おい待て。そのへんを歩いてる連中にバトルを挑むな」

 さっそく通行人に声をかけようとしたルーシィを止める希壱。
 ならばどうしろと。不満げな少女に、知沙がにこりと笑った。

「依頼として出すのはどうでしょう。ルーシィさんの『師匠』を募集してみませんか?」


リプレイ本文

●Step.1 やっぱり愛だよね!

「発展途上の子猫ちゃんを調教するお仕事と聞いて!」

 ルーシィ・アルミーダ・中臣(jz0218)からの依頼を引き受けた一人、歌音 テンペスト(jb5186)。
 依頼の内容を盛大に勘違いしていらっしゃる様子である。調教って何だ。

「おぬしが最初の師匠か」
「あたしを師匠と呼ぶには支障がある……女王様とお呼び!」

 さりげなく駄洒落を交えつつ、手にした鞭でピシッと床を打つ。
 こんな歌音だが、割ときっちり指導日程を決めているのだ。
 彼女曰く「ローマは一日にして奈落」だそうで、何日もかけて少しずつ調教もとい指導していくつもりらしい。私は突っ込まないぞ。

「この世で一番強いもの……それは『愛』よ!」
「愛!?」
「愛があれば蔵倫にも勝てる!!」

 いや、それは……どうだろうか?

「これを読めば真実の愛の形が分かるわ」
「こ、これはっ!」

 ルーシィが今し方手渡されたのは、平坦バストの女の子たちがにゃんにゃんする薄い本である。
 まずはルーシィが持つ「潜在的な愛の力」に気づいてもらうために用意したそうだ。
 ページをめくるたびに頬を赤らめるルーシィの様子を、女王様は微笑ましげに見守っていた。
 先が思いやられる。


 数日後。
 真剣な面持ちで、歌音はルーシィに告げた。

「今日から実技に移るわ。これから教えるのは、リプレイの公開が危ぶまれるほど危険な技よ」

 ごくり。生唾を飲み込むルーシィ。
 彼女の前に用意されているものを列挙しよう。
 ボンテージ。鞭と竹刀。手錠。足枷。タオル。麻縄。

 あくまで訓練という体で説明するなら、ルーシィが攻撃側、歌音が防御側。
 麻縄や手錠、足枷で相手の動きを制限し、タオルを使って視界を奪う。
 そして鞭や竹刀でじわじわとダメージを与えるという、おそろしい戦法だ。
 ボンテージは、この戦い方を用いる者たちの正装と言えよう。

 歌音の言うとおり、この指導の様子を描写することは非常に危険だ。
 最初は音声だけでもと考えたが、予想以上にヤバかったので、お蔵入りと相成った。


 時は流れ、指導最終日。

「卒業試験をするわ!」

 相変わらずのボンテージ姿で歌音が言う。
 「おー!」と答えるルーシィも同じ服装である。
 この数日を通して、すっかり自信を持ったようだ。変な方向に。

「それで、試験とは何をするのだ?」
「レスリングよ」
「れすりんぐ?」
「愛があれば、武器も言葉も不要! ルーシィちゃんの全力、今ここで見せてもらうわ!」

 言うが早いか歌音はルーシィに飛びかかった!
 オトナの事情により描写は中断! 慈悲は無い。
 少々具体的にお伝えするならば、うら若き少女二人が組んず解れつ押し倒し押さえ込んだ結果、たまに嬌声が聞こえてくる感じである。
 歌音が一方的にルーシィのまな板ボディを堪能しているとか、そんなことは決して無い。

「よくぞここまで成長したわ……」

 試験を終え、なぜか艶々になっている歌音が、満足げにルーシィへ告げた。
 一方のルーシィは息も絶え絶え、反応を返す余裕もないようだ。
 両手を広げ、晴れ晴れとした表情で歌音は言う。

「さあ! ルーシィちゃんの専属コーチとして、あたしの終身雇用を!」
「……う、うむ……考えておこう……」

 こうしてルーシィは、最初の修行を無事に(?)終えた。
 強くなれたのかどうかは、本人のみぞ知る。



●Step.2 強くなるには

 人で混みあう学校食堂。
 昼食をテーブルに置いたルーシィは、どこかげんなりしている。
 前日までの歌音の指導が響いているのかもしれない。

「……あの、大丈夫、ですか?」
「だいぶお疲れみたいだね」

 そーっとルーシィに声をかけたのは、志々乃 千瀬(jb9168)。
 千瀬の問いにこくこくと頷くルーシィを見ながら、黄昏ひりょ(jb3452)は苦笑を浮かべた。

「少し聞きたいことがある。二人は、どうやったら強くなれると思う?」

 世間話も早々に、ルーシィは千瀬とひりょに尋ねた。
 加えて、二人さえ良ければ、師として指導してほしいことも伝える。
 少し困った様子で千瀬が答えた。

「私は、師匠、なんて、柄じゃ、ないです、けど……」
「構わぬ。おぬしの意見を聞かせてもらいたいのだ」
「そう、ですね……まずは、考えてみる、のが、大切、だと、思います」
「考えてみる? 何をだ?」
「どうなりたいのか、とか、そのために、どうすればいいのか、とか……」

 千瀬の言葉を首肯し、ひりょも口を開く。

「ルーシィさんが何の為に強くなりたいのか。なりたい自分はあるのか。そこは俺も気になるな」

 明確な目標があれば、強くなることができるはず。敗北とは心が屈することだ、とひりょは考えている。
 何のために戦っているのか。それがわかっていれば、ギリギリのところで踏ん張りが効くのだ。
 ふぅむ。短く唸って、ルーシィは質問を重ねた。

「千瀬は、なぜそう思うのだ?」
「えっと……どうして、それをするのか、って事を、意識した方が、効率、良いと、思って」

 焦ったり急いだりする必要は無い。
 だからと言って、遠回りする必要も無い。
 闇雲にやるよりも、考えながらやった方が、身になることは多いはず。
 ひとつひとつ丁寧に言葉を選んで語る千瀬。箸を動かすことも忘れて、ルーシィは聞き入った。

「――なので、進む方向は、ちゃんと、決めた方が、良いです。私は、そう思います」
「進む方向か……」

 考え込むルーシィ。今度はひりょへ尋ねる。

「ひりょには何か目標があるか?」
「俺の場合は、大切な人達の笑顔を守る事、かな。もちろん、ルーシィさんも含めてね」

 撃退士は集団で戦うことが多く、仲間との連携を求められる場面が多々ある。
 人には向き不向きがあることを理解した上で、互いの長所を活かしながら短所を補い合うことが重要だ。
 皆が無事に帰れるように。
 そう考えているからこそ、味方をフォローすることを重視して行動している、とひりょは言う。

「正直、俺個人の強さは大したことないからね。俺より強い人なんてゴロゴロいるよ」
「そうなのか?」
「ああ。そういう人たちの強さを引き出してあげること、それ自体も強さの一つってことになると思うぞ?」
「強さを引き出す……」
「さっき、おっしゃってた、フォローし合うのが大切、ってこと、です、よね?」
「そういうこと。それと、信頼できる仲間をつくるのも重要だね」

 大切な存在がいる。
 それを意識するだけで、人は強くなるものだ。

「なるほど……大いに参考になった。感謝するぞ!」

 疲労の色が濃かったルーシィだが、千瀬とひりょの話を聞いて気力が回復したようだ。
 二人に向かってぺこりと頭を下げる。
 あわあわと手を振って、千瀬は頬を赤くする。

「いえ……私、他の人の、お手伝い、くらいしか、できません、けど。私で、良ければ、なんでも、お手伝い、しますから」
「必要なら、俺も付き合うぞ? どれも一朝一夕でできることじゃないけど、友達に力を貸すのは当たり前だからな」
「そうか! 二人が手伝ってくれるなら、我も心強いのだ!」

 微笑むひりょに、ルーシィは笑顔を返した。
 かき込むように昼食を平らげると、空になった食器を手に席を立つ。

「ごちそうさまでした!」
「は、早い……」
「そんなに急がなくても良かったんじゃないか?」
「待ち合わせがあるのだ。二人の話を聞いたら早く行きたくなってな! では!」

 驚く二人に別れを告げ、ルーシィは小走りで去っていく。
 その背を眺めながら、千瀬が小さく呟いた。

「できる限り、手を貸して、あげたいです、ね……」
「そうだな。きっとルーシィさんは、これから色んな体験をすると思うけど」

 人それぞれ、強さの意味合いは違うから。
 お互いに支え合って、時に迷いながら、一生かけて進んでいくのだろう。
 未来を思い描きながら、ひりょはルーシィを見送った。



●Step.3 撃退士とは

「……案内は、以上になりますぅ……お疲れさまでしたぁ……」

 学園各地を巡り終え、月乃宮 恋音(jb1221)はルーシィを労った。
 うむ、と答えるルーシィは微妙な表情である。

「恋音よ。ひとつ聞いても良いか」
「……はい、何でしょう……?」
「結局のところ、我は今日の見学から何を学べば良いのだ?」

 無言。
 しばしの間の後、恋音は「あれ?」と首を傾げた。
 その都度、訪れた場所の説明をしてきたはずだが、ルーシィはその先まで考えが及んでいないらしい。

「……で、では……今日行った場所を、順番におさらいしましょうかぁ……」
「うむ。最初は斡旋所だったな」

 ルーシィの言葉に頷き、恋音は解説を始めた。
 斡旋所は、その名の通り「依頼を斡旋する場所」である。
 撃退士が依頼の内容や現在の状況を正確に把握し、必要な情報を得たり準備を整えたりすることができるのは、ここで働く人たちのおかげだ。
 彼らは「依頼者と撃退士を繋ぐ」という、大切な役割を持っている。

 続いて二人が訪れたのは、多数の依頼書が貼られた掲示板の前。
 並ぶ依頼は天魔に関わるものだけではなく、学園の内外から寄せられた多種多様なものだ。
 撃退士をよく知らない人からすれば、自分たちは異能の持ち主という意味で天魔と変わらない。
 天魔と戦うだけでなく、積極的に人々と関わり、誰かを助け、困っている人の力になる。
 それが「撃退士に寄せられる信頼の形」である。

 次に行った場所は、V兵器の研究施設。
 撃退士が天魔と渡り合うためには、戦うための武器は必要不可欠。
 これを作り出す人たちがいなければ、撃退士は「戦うことができなくなる」といっても過言ではない。

 そして最後に、事務員の人たちから話を聞いた。
 撃退士が戦うその陰で、事務や経理の処理をしているのが彼らである。
 学園という組織を維持し、「戦いの前線を間接的に支える」仕事をしている。
 一見すると地味だが、なくてはならない存在であることは間違いない。

「――結論としては?」
「……ええと、つまり……『最前線で戦うこと』だけが『強さ』ではない、ということを、伝えたかったのですよぉ……」

 まだよくわかっていないらしいルーシィは、難しい顔のままだ。
 そんな彼女に対して、恋音は丁寧に説明する。

 「単なる覚醒者」と「撃退士」の違いは「社会的な地位と信頼」である。
 これらは、前述した人々の協力があって、はじめて得られるもの。
 撃退士が公的に認められる環境を作っている人たちがいるからこそ、撃退士は「強さ」を得ることができるのだ。
 つまり、彼らが仕事をこなすために得た技能も、ある種の「強さ」と言える。

 強くなりたいと言うなら、まずは「強さ」に様々な種類があることを知る必要がある。
 その上でどの道へ進むのかを選ぶべきだ、と恋音は考えている。

「……直接戦う道を選んでも、自分たちだけで戦っているわけではない、という事を忘れないでほしいのですよぉ……」
「ふむ、やっとわかったぞ。つまり今日会った人たちも、一緒に戦う『仲間』なのだな!」

 ルーシィの言葉に、恋音は嬉しそうに頷きを返した。
 自分が持つ強さだけでなく、他の強さを知り、互いに認め合う。
 そうすることで、自分で選んだ道の果てにある「強さ」に近づくことができる。

 恋音が伝えたかったことを、ルーシィがきちんと理解することができたのは、事前に千瀬とひりょから「進む道を選ぶこと」を教わり、歌音から「自身の知らなかった強さ」を伝授された影響が大きいだろう。

 道は、定まった。



●Step.4 求めるもの

 鈴木悠司(ja0226)とヒビキ・ユーヤ(jb9420)。
 二人と対峙するルーシィは、深々と頭を下げた。

「よろしく頼む」

 悠司は小さく頷き、ヒビキは「ん」と短く返した。
 ルーシィに歩み寄り、見上げるヒビキ。二人の手にはケンダマ。もちろんV兵器である。
 ヒビキがこの依頼を引き受けたのは、ルーシィの得物に親近感を感じたためだ。

「大丈夫、実戦でも使える。実証済み」

 自身のケンダマを示しながら、ヒビキはくすくすと笑った。

「どんな敵でも、倒せるよ? 全力で、要望に応える」

 緊張した面持ちのルーシィは、無言で頷く。
 まず三人は、ルーシィに適した戦い方について議論を交わした。
 彼女が持つケンダマとヨーヨーを見て、悠司が意見を述べる。

「武器の特性としては、射程が少しある事。それから『糸』がついている所、かな」

 糸の部分を上手く使えば、相手の行動を阻害することができるかもしれない。
 それに天使が持つ飛行能力を合わせれば、戦い方に幅が出てくるはずだ。
 こくりと頷いて、ヒビキが口を開く。

「手持ちの武器の、特性は把握しておくべき。その魔具に合った、動きであれば良い」

 普段の練習の様子を聞き、悠司とヒビキがアドバイス。どんどん改善していく。
 実戦に近い動き。使える動き。それらを取り入れ、身に着くように。

 一通り教えた後は、模擬戦。
 初戦はヒビキとルーシィ。勝負は数十秒でついた。
 クーゲルシュライバーを喉元に突きつけられ、ルーシィは息を呑む。

「それぞれの、間合いというものが、ある」

 二戦目は互いにケンダマ。
 両者の得物の動きは歴然としており、やはり数十秒でルーシィの動きは止められてしまう。
 まだだ。そう言って、ルーシィは頭を下げる。もう一度、相手を頼む。
 ヒビキは、こくりと頷いた。

「納得がいくまで、お相手するよ」

 正々堂々戦うこと。搦め手で相手を出し抜くこと。
 どちらも大事、とヒビキは言う。己が全てで、自身にとっての最善を選ぶ。それが、大事。

 何度負けても挑み続けるルーシィを眺めながら、悠司は思う。
 心の力は十二分に持っている。あとは彼女が求める強さが得られれば、それで良い。
 純粋な力。心の力。どちらも自分には足りていなくて、必要なものだ。
 大切なものを護る為に。失わない為に。

「――悠司!」

 名前を呼ばれて、我に返った。
 駆け寄った少女が見上げる。

「次は、おぬしに相手を頼みたい。良いか?」
「……ああ。もちろん」

 一緒に強くなれたら。
 そんなことを考えながら、悠司は曲刀を抜いた。


「――おっ、さっそくやってるな」
「模擬戦、です、かね?」

 ルーシィたちの訓練を見に来たのは、ひりょと千瀬だった。
 気づいたルーシィが「おお!」と声をあげる。
 二人が加わったことで、模擬戦は二対二の形式を取ることになった。
 チーム分けの後、ヒビキがルーシィに伝える。

「一人でできることなど、たかが知れている。仲間との連携、意思疎通が、大事」
「心得ているとも。皆から教わってきたからな!」

 ヨーヨーに光を宿らせながら、ルーシィは得意気に笑う。
 共に戦う友に向け、高らかに宣言する。


「我は、皆の隣に立つために強くなる! 皆と一緒に居るために強くなるぞ!」


 手にした力は、守るべきもののために。
 ルーシィの修行は、まだはじまったばかりである。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
友と共に道を探す・
志々乃 千瀬(jb9168)

大学部4年322組 女 陰陽師
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅