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マスター:猫野 額
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:50人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/15


みんなの思い出



オープニング

●……じゃねーよ!!!(血涙


「あー」

 佐久間 あんこは絶望した。
 必ず、この理不尽極まりない世界へ反抗しなければならぬと決意した。

「あぁー」

 あんこには恋愛がわからぬ。
 あんこは、久遠ヶ原学園の撃退士である。
 天魔と戦い、ときたま騒ぎを起こして暮らしてきた。

「あああああああああッ!! うっっっっざいッ!!!」

 けれどもリア充とクリスマスに関しては、人一倍に敏感であった。



●どいつもこいつもブッ飛ばす!! ミナゴロシだ!!


「アネゴぉ!!」

 どかーん。
 ――それは、樹裏 尚子(jz0194)が寮の自室でくつろいでいる最中、扉を破る勢いでやってきた。
 佐久間 あんこであった。
 ドスドスと足を踏み鳴らして部屋の奥へと侵入するあんこに、尚子は呆れた表情を浮かべた。

「……あんなあ。アネゴ呼ばわりはやめいって言うたやろ?」
「そんなことはどーでもいいのっ!!」
「どーでもようないわ。あと部屋の扉も静かに開け閉めをやな」
「ちよこに彼氏が出来たのよ!? そっちの方が大問題だわ!!」
「……なん……やと……?」

 尚子の眼の色が変わった。
 ちよこ、というのは、あんこの双子の妹である。

 彼女ら三人は、いつでも姦しく共に在った。
 周囲にカップルがあふれようと、世間が聖夜だのバレンタインだのと騒ごうと、それらをシカトして過ごしてきた。
 我ら三女子、男など不要と信じ、ひしめくリア充どもに反旗を翻して生きてきた。

 その一人に男が出来た。
 裏切りである。
 数瞬の内に、尚子はあんこの言わんとしていることを理解した。

「オーケイ、同志。こいつで浮かれる連中に、ひとつ地獄を見せたろうって魂胆やな」

 尚子が指さしたのは、CMの流れるテレビの画面である。
 ツリーにリース、プレゼントとケーキ。緑と赤は我らが怨敵。
 時期には少々早いが、何、些細な問題だ。誤差の範囲だ。
 あんこは、力強く頷いた。

「今こそ実行しなきゃいけないわ。『例の作戦』をね!!」

 おうとも、尚子が頷きを返す。

「いつも後手後手で数に負けとったからな。今年は先手を打つで!!」

 固い絆(と呼ぶにはあまりにもドス黒い互いの感情)を確認し合った女らは、ついに行動を開始した。



●作戦開始だ。しくじるなよ?


「またてめえかよっ!!」

 栄田 晴信は絶叫した。
 必ず、かの自分勝手な連中だけは除かねばならぬと決意した。

 晴信は、いわゆる女誑しである。
 美女の手を取り、美少女に囲まれて暮らしてきた(というのはさすがに誇張しすぎだが)。
 それゆえ非リア充やら非モテやらが絡んでくると、人一倍に不運であった。
 晴信には因縁の相手があった。樹裏 尚子である。
 その敵と久しく逢わなかったのだから、存在をすっかり忘れていた。

 今朝晴信は家を出て、最近付き合い始めた佐久間 ちよこと待ち合わせ、このショッピングモールへやって来た。
 先ず、クリスマスに染まった屋内を練り歩き、それから少々買い物をした。
 歩いているうちに晴信は、店々の様子を怪しく思った。ひっそりしている。
 もう既に日が傾き、外が暗くなりかけているのは当たり前だ。
 けれども、なんだか、夕暮れのせいばかりでは無く、店全体が、やけに静かだ。
 のんきな晴信も、だんだん不安になって来た。

「……なんかさー、暗くなあい?」

 間延びした声で、ちよこがぼやいた。
 晴信が頷き、あたりを見た。どうにもおかしい。
 見れば、道を歩くのは、自分たちのようなカップルばかりだ。

「嫌な予感がするんだが」

 晴信が呟いた直後、どこかで悲鳴が上がった。
 赤と白の服に身を包んだ、怪しげな集団。それらがあちこちに現れた。
 顔には面。そして手には――

「武器!?」

 そう、武器である。
 刀剣、槍戟、長刀、大斧。杖に魔導書に銃火器を持つ者まで散見される。
 ピーガガ。スピーカーが音を発した。

『聞けえ、リア充ども!! このショッピングモールは我々が占拠したッ!!』

「ちょ、この声って……!」

 ちよこは表情を曇らせた。双子の姉の声である。
 スピーカーは続ける。

『無駄な抵抗は諦めろッ! イチャついてないで、あたしらと相死合おうぜェ!?』

 晴信は、ちよこを庇うように立った。
 視線の先では、見覚えのある黒煙の女が集団の指揮を執っている。

「うっへへへ。破壊して蹂躙してェ、殲滅したれィ!!」
「おいおい! またてめえかよっ!!」

 ――そして、混沌が幕を開けた。



●では諸君。概要を説明しよう。

 本件は、安全且つ爽快にリア充を蹴散らす作戦である。

 我々『反リア充連盟軍』は、目標を特定箇所に誘い出し、包囲殲滅する。
 言うまでもないが、あくまで鉄槌を下すだけだ。加減は忘れるな。
 服装はこちらで用意する。無論、各々でアレンジしてもらって構わない。

 戦場となるショッピングモールからは、すでに許可を得ている。
 名目上は撃退士同士の訓練。店舗が崩壊するまで破壊しない限りは戦闘可能だ。
 ただし、屋外に出た者への追撃は禁止する。これは許可されていない。

 作戦当日、我々はショッピングモール内で店員や客に扮する。
 状況開始は1700時。それまでに、屋内から全ての一般人を退避させる。
 『逃げ遅れた撃退士』の中には関係の無い者もいるかもしれんが、同志とは限らん。
 立ちはだかるなら、容赦なく討て。

 私からは以上だ。
 諸君の奮闘に期待する。

                    ―― 作戦参謀 ナオ・マガキ


リプレイ本文



「――進めぇい!! うちらの底力を見せたれっ!!」

 うおおおおおお!!
 ――黒煙の撃退士(樹裏 尚子(jz0194))の号令一下、サンタクロースに扮した『反リア充連盟軍』が進撃を開始する。

「ミッション開始。対象を撃滅します」

 支給された模擬戦仕様の銃を手に、雁鉄 静寂(jb3365)は行動に移った。
 事の首謀者、樹裏 尚子と接触した静寂は、己らの志(?)をアツく語る尚子の言に心打たれ、同行しているのである。
 他と同様サンタ装束に着替え、手近なカップルに銃口を向ける。

「お選びください。武器を構えるか、逃げるか」
「冗談じゃねえ! 黙ってやられるわけねぇだろ!」
「ヤル気満々だね……あたしも手伝ったげよっかな」

 戦意あり。ならば致し方なし。
 静寂の隣に尚子が並んだ。

「へっへへぇ。いっちょうハデに暴れよか!」
「……了解」

 こうして、戦端は開かれた。

「同志、樹裏殿……貴殿を一人で行かせはしないぞ!」

 非モテ騎士街道まっしぐらのラグナ・グラウシード(ja3538)。
 今回は、より多くのリア充を倒すために秘策を用意してきた。

「これしかない……!」

 金髪ロングヘアーのカツラ。フリルがあしらわれたワンピース。
 どう見ても女装です本当にありがとうございました。
 非モテ騎士(女装仕様)は剣を取る。しかし、最初に対峙した相手が不味かった。

「ねえねえ。反リアってなあに?」

 保科 梢(jb7636)である。
 今回の戦いについてよくわかっていない彼女。
 曰く『こっちの方がきらきらしてる』ということで、リア充サイドに味方している。
 女性には弱いラグナ。ひとまず剣を仕舞い、拳を握って熱弁をふるう。

「反リアとはッ! リア充を倒すために集った同志たちのことッ!! 哀しみを背負いながらも戦い続ける存在ッ!」
「かなしいなら戦わない方が良いと思うの」
「違うな、お嬢さん。この戦いは宿命なのだよ」
「でも、そっちのみんなのオーラ、淀んでるよ?」
「それは……」
「あなたも、りあじゅう?になればきらきらするよ? あ、そうなれないからそっち側なのかな」

 グサッ。ラグナの心に、梢の呟きが刺さる。
 まだだ。この程度の口撃、今までだって耐えてきたではないか! ラグナ・エル・グラウシードッ!!

「あなたはなんでリア充にならないの? 諦めてるの? だから女装してるの?」

 グサグサグサッ。
 非モテ騎士は膝を折った。

「馬鹿な……この私が、こうも簡単に……!?」
「……?」

 きょとんとする梢。
 彼女に害意は無かった。ついでに容赦も無かった。

 非リアの影はどこにでも潜んでいるものである。
 普通にアルバイトをしていた紫 北斗(jb2918)がその典型。
 尚子と交流のある彼。彼女から今日の計画を知らされ、参戦を決意した。

「聖〜夜〜が今年もやってくるぅ〜♪ 楽しかった〜出来事を〜引き裂くようにぃ〜♪」

 ロクでもない替え歌を歌いつつ、北斗サンタはカップルへ接近。
 表面上はただの店員。標的へ近づくのは容易い。

「そこの兄ちゃん! 『ゆかりちゃんから愛するアナタへ』って頼まれてなぁ! たしかに渡したで!」

 女子力たっぷりのお手製弁当を差し出す北斗。
 凍りつく空気などどこ吹く風。弁当箱を男に押しつけ、次なる標的を探す。
 背後では、さっそく修羅場が始まったようである。

(――計画通りッ!)

 悪い笑みを浮かべ、ゆかりちゃんサンタはその場を後にする。
 そんな彼の前を、嘆息する雪代 誠二郎(jb5808)が横切った。

「ああ、何だって斯う……面倒極まりないな」

 普通に買い物に来ていただけの誠二郎にとって、この騒ぎは厄介以外の何物でもない。
 さっさと離脱したいところだが、いかんせん物を買いすぎた。
 さてどうするか。答えは簡単。他人に頼ろう。

「そこの君、暇だろう? これを頼むよ」

 北斗の返事も聞かずに、誠二郎は次々と荷物を渡す。
 ひょいひょいと重ねられる紙袋の多いこと。
 荷物の七割を北斗に預け終え、誠二郎は仕事をやり切った的な爽やかスマイルを浮かべる。

「いやあ助かる。思いのほか重くてね。難儀していたところだ」
「あのー、ボクそんな暇やないんですけど……」
「他人に親切にしてモテない道理はないだろう? ここはひとつ、外まで頼むよ」

 カフェーくらいなら奢ろう。どうだね? とすっかり自分のペースに持ち込んだ誠二郎。
 断るに断り切れず、北斗は戦線離脱と相成った。

 そしてこちらは礎 定俊(ja1684)。
 『いい人』と、呼ばれ続けて幾星霜。
 いくら望めどその先に、進めぬのなら仕方なし。
 今宵彼は――鬼と成る。

「泣ぐ子はいねぇがー!! 悪い子はいねぇがー!!」

 ってこれ鬼じゃなくてナマハゲだー!?
 手には閼伽桶! 背には冷刀マグロ! 頭に乗ったサンタ帽だけがクリスマスっぽいッ!!

「いい人だけど……なんて下手に未練を残さず、いっそばっさり切り捨ててくれっ!」

 半端な優しさって、痛いよね。(遠い目)
 かくして、定俊は修羅の道へと足を踏み入れた。
 カップルを見つけたら、桶に入った墨を使って素敵なフェイスペイントをプレゼント!
 男の子はパンダ風! 女の子は山姥メイク風に仕上げちゃうぜ!
 目の前に現れた斬新なナマハゲに、騒ぎに巻き込まれただけの木瀬 優司(jb7019)は……

「待ってくれ! 俺は『彼女いない歴=年齢』なんだ! だから敵じゃない!!」

 と、嘘偽りない事実を述べた。
 じっと優司を見つめるナマハゲもとい定俊は、無言で出入口の方向を指差す。
 礼を言って立ち去り、戦場からの早期脱出を図る優司がぼやく。

「……言ってて悲しくなるんだよなあ。さっきのセリフ……」

 だが事実だ。現実は非情だった。
 今年もシングルベルを過ごす予定の優司だが、別段リア充に恨みは無い。
 戦いに巻き込まれそうになるたびに上手いこと言い訳しつつ、店の外を目指し続ける。

 ところかわって、イルミネーションの灯ったクリスマスツリーの上では。

「しっと団のヒーロー! 嫉妬竜騎兵ガルライザーッ!! 見ッ参ッ!!」

 ガル・ゼーガイア(jb3531)が堂々と名乗りを上げる。
 ぽかーんとツリーを見上げるリア充どもに不敵な笑みを向けながら、ガルもといガルライザーは大喝した。

「クリスマスは嫉妬神復活を祝う日だ!! リア充なんかお呼びじゃねぇッ!!」

 謎の自論を展開。嫉妬神とか初耳なんですがそれは……
 彼の眼下で胸を張るのは小柄な影。イリス・レイバルド(jb0442)だ。
 その隣には彼女の姉、アイリス・レイバルド(jb1510)の姿もある。
 びしぃ、とイリスがガルを指差す。

「貴重なガールズトークの時間を邪魔してくれたその罪! その身で償ってもらうぞ!」

 まあ実際は、イリスだけが喋りまくり、アイリスはそれを適当にあしらっていたのだが。
 クリスマスといえば世の中では聖夜なイメージだが、イリス的にはアイリスの誕生日(12/24)であることの方が重要である。
 大好きな姉と一緒にショッピングを楽しんでいたイリス曰く。

「仲良し姉妹の絆パワーから迸る幸せオーラはそこらのカップルを凌駕するリア充オーラ! まさに人生の勝ち組! つまりこれはれっきとしたデートッ!! それを邪魔するヤツは、イリスちゃん空中殺法超大回転ハンマーの錆にしてくれよう!!」

 ……とのことである。
 今度はガルがぽかーんとする番だった。彼女らをカップルと見なしていいのだろうか。
 そんな相手の反応に構うことなくハンマーを取り出したイリス。キラッキラの笑顔で振り返る。

「さあ、お姉ちゃん! 今こそ仲良し姉妹の絆パワーを……ってアレ?」

 アイリスの姿が消えていた。
 いつの間にかすっごい遠くの乱闘騒ぎを観察しに行ってしまっている。
 ぷるぷると震えはじめたイリスに、ツリーを降りたガルがそーっと近づく。

「……おい。大丈夫k」
「チクショーッ!! 他人のデート邪魔して何が楽しいんだテメェらァーッ!!」
「うお!?」

 泣きながらハンマーを振り回すイリス。
 暴れられた以上は自衛せざるを得ない。模擬弾だし。当てる気ないし。大丈夫だ、問題ない。
 ガルは『新しい嫉妬の力(ライザーガトリング)』をぶっ放す! イリスを牽制!

「あいたっ」

 そして命中! 慌てるガルライザー!

「わ、わりぃ! 当てるつもりはなかっtごふぅッ!?」

 妹の危機に駆け付けたアイリスお姉ちゃんの鉄拳パンチが炸裂! 吹っ飛ぶ嫉妬竜騎兵!
 目を潤ませてアイリスを見つめるイリス!

「お姉ちゃん……! 戻ってきてくれたんだね!」
「いや、別に」
「えっ」

 このシスコンさんツンデレだ!?
 アイリスは真顔で淡々と語る。

「元気があるのは健康な証拠だ。騒ぐのは構わないが、怪我だけはしないように」
「あっはい。……えっ?」

 てくてく。アイリスは去った。
 呆然と立ち尽くしていたイリス。姉の姿が見えなくなる頃、ハッと我に返る。

「おねえちゃあああんっ!! かむばああああああっく!!!」

 その頃アワレにも戦う相手を間違えたガルライザーは壁にめり込み沈黙していた!
 危ないところだった! ギャグ補正がなければ死んでいた! かもしれない!

 一方その頃、何 静花(jb4794)は真顔で呟いていた。

 「クリスマスを打っ壊す」

 どうもこの聖夜イベントに対して妙な知識を吹き込まれたらしく、否定的な立場の静花である。
 彼氏とかいないし。惚気話嫌いだし。仕方ないね。
 さて、目の前にはカップルが一組。
 半眼で睨む(※静花的には普通に見ただけ)静花に若干ビビりながら。
 彼女を背に庇いつつ、男子生徒が説得を試みる。

「俺たちはただ、二人で愛を語らっていただけだ!」
「そうか」

 バキッ。通路に設置してあった人身大のツリーがへし折れた。
 そちらに手をかざしたまま、静花は笑顔を浮かべた。

「お前に良い言葉を教えてやろう。――寝言は寝て言え」

 すぱーんっ! ハリセンの一撃により、悪は滅んだ。
 フッ、と静花は口元を緩める。

「どうだ。良い言葉だろう?」

 笑顔が怖かった。(小並感)

 ショッピングモールを占拠した『反リア充連盟軍』。
 この組織、実は全員が確固たる意志と決意をもって戦場に望んでいるわけではない。
 何が言いたいかというと……つまりそのー、アレだ。うん。
 桃香 椿(jb6036)のような者も、少なからず居るということである。

「リア充とか非リア充とかどーでもええ!! 暴れられるんなら暴れるでえ!!」

 へっへっへっ。あやしい声を漏らしながら、じゅるりと涎をすする椿。
 胸元が大きく開いたセクシーなミニスカサンタ姿ではあるが、残念ながらその表情はヘンタイのそれである。

「可愛い子ぉ……可愛い子は、どこやぁ……?」

 あからさまに危険なセリフを口にしつつ、戦場を徘徊するアブナイお姉さん。
 彼女と遭遇してしまった哀れなカップルには、もれなく悲劇が待っている。

「そこのお嬢ちゃあん? この期間限定シャンメリー、ちっと飲んでみ?」

 店員を装いリア充に接近。
 嬉々としてシャンメリー(下剤入り)を受け取り、口にしたら最期。
 ……あとは、お察しください。さすがに描写できませんよこれ。
 邪魔者()も居なくなったところで、椿は男の子にロックオン。

「お姉さんと遊ぼうかぁ♪」

 抱きついたりすりすりしたり胸を押しつけたり。
 セクハラしまくりである。やりたい放題やっちゃう系痴女である。
 男の子が抵抗しようもんなら、お姉さんもヒートアップしちゃうのである。

「あん♪ 積極的やね……ええわ、いろいろしよ♪」

 ずるずると物陰に連行される男の子。
 ナニをアレされたかは蔵倫とかそのへんのオトナの事情で省略。
 リア充討伐に一区切りついた尚子がそれを見て一言。

「アカンな。見なかったことにしよう」

 一応味方のはずだけど、間違って毒物(シャンメリー)を飲まされたら困るしね。


 本日この地に集ったのは、連盟軍同志と不運なリア充だけではない。
 よくわからないけどとりあえず一緒になって騒いでいる人だって居るのだ。
 赤いコート姿のミスティス・ノルドステア(jb0357)もその一人である。
 彼女は非リアでもリア充でもない。いうなれば『お菓子派』である。

「駄ー菓ー子ー! 食えーーーっ!!」

 相手の立場なんぞ関係ねえ! クリスマス? 聖戦?
 \そんなことより駄菓子食おうぜ!/

「メリクリーっ! ってことで! これどーぞっ!」

 リア充、非リア、一般人、戦ってる人にも逃げてる人にも出会った人々全員にフエラムネを配り歩く!
 よく考えたらこれ普通にサンタクロースじゃね!? 良い人じゃね!?
 リア充に敗北し、悲しみに暮れる非リア諸君には特別に! きなこ棒もおまけでプレゼントだ!

「諦めなきゃ良い人見つかるよー。じゃ、あたしは駄菓子配る系の仕事があるので!」

 あでぃおす!
 爽やかな挨拶と、ささやかなプレゼントを残し、ミスティスは再び走り出す。
 そんな彼女の進む先には、大いなる試練が待ち構えていた。

「お祭りよ、お祭りっ! 嫉妬に狂う可愛い子たちを観察し放題のお祭りよーっ!!」

 ヴィオレタ=アステール(jb7602)!
 天啓とばかりに乱戦へ飛び込むテンション高めの二子の母!!

「可愛い子っ♪ 可愛い子っ♪」

 どっかの毒盛り痴女とノリが同じだ! これはアカン!
 ミスティスは、この試練を乗り越えられるのか!?

「あれはミスティスちゃん!! なんて愛らしいサンタコスなの!? お持ち帰り決定っ!!」
「あーれー」

 ダメでした。
 さながら突風のように、ヴィオレタがミスティスを攫って彼方へ去っていく。
 その姿を確認したルルディ(jb4008)が物陰から顔を出した。

「……ふう。危ないなあ」

 ミスティスは犠牲になったのだ……脱出のための犠牲にな。的な表情で、母と被害者の後ろ姿を見送るルルディ。
 ルルディの隣には、巻角羊のフルフェイスマスクをかぶったバアル・ゼブル・春海(jb5299)の姿もあった。
 恋人同士のルルディとバアル。ヴィオレタの件を抜きにしても、今日は追われる立場。
 天使と悪魔という立場を活かし、天井を透過することで屋上駐車場からの脱出をはかる。
 もちろん駐車場にも占領軍は常駐していた。

「さ、行こう。バアルさん♪」
「うん♪ ……私が、守るね……」

 マスクの下で笑顔を浮かべ、ルルディに答えるバアル。
 しかし目の前に敵が現れれば、その表情は一変した。表面上は変わってないけど。

「お前たちはッ! 私から恋人を奪うつもりかッ!!」

 タロットカードが非リアたちを次々と戦闘不能に追い込む。
 並走するルルディは、鎌を手にして愉悦に笑った。

「天魔の怖さ、思い出してもらおうか?」

 立ち塞がる敵を薙ぎ払い、外への道を切りひらく。
 ほどなくして、二人は駐車場の封鎖を突破。翼を広げて階下へ飛んだ。
 ふう、と息を吐くバアル。マスクを外した彼女のおでこに、ルルディがそっと口づける。

「返事、ちゃんとしてなかったから。……ボクも大好きだよ♪」
「ルルディさん……♪」

 寒空の下でも熱々な天魔カップルであった。
 モールの屋上からは怨嗟の声が聞こえてくるが、もちろん二人には届いていなかった。

 ヴィルヘルム・E・ラヴェリ(ja8559)の場合。
 級友から聞いた喫茶店の美味しいパフェを堪能すべく、彼女はたまたま今日ここにいた。
 何やら外が騒がしい。のそのそ退店してみれば。

「これは……お祭り?」

 いいえ。聖戦です。
 状況を確認すべく、手近な通行人(サンタ服着て武器持ってる人)に話を聞いたヴィルヘルム。
 なるほど、と納得した様子で頷く。

「わかった、豆まきみたいなものだろう? つまり……そう、追いかけっこだ」

 よくわからないが、よくわからないなりに理解した様子である。
 ひとまず暴れればいいらしい。武器である本を取り出すヴィルヘルム。
 ダアトらしい武器だと思った? 残念! 敵を殴るのに使うメタルブックでした!
 結局よくわかっていないまま、ヴィルヘルムは戦場に身を投じた。それでいいのか。

「な、何ですかこの状況は? ……攻撃してくるってことは敵ですよね?」

 彼女同様、よくわからないけどとりあえず武器を手にしたのは、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)。
 襲ってくるなら話は簡単。よろしい、敵なら殲滅だ。

「ははっ、お祭りですね! いつだったかのパイ投げを思い出しますよ!」

 流れ弾を華麗に回避しつつ、手近な小物(※売り物です)を投げつける!
 スキル『壁走り』で距離を取り、物陰を移動しながらゲリラ戦だ!
 気付いたときにはリア充も非リア充も、全員まとめて殲滅完了ッ!!

「……あれ、もう終わりですか? まだ暴れ足りないですね」

 混沌の火種の一つと化しているエイルズレトラ。
 彼は新たな戦場を求め、ショッピングモールの闇(意味深)へと姿を消した。

 激流に身を任せ同化した者がここにも一人。
 緋打石(jb5225)である。新作ゲームの購入のために来店していたところ、事は起こった。
 せっかくなので、『郷に入っては郷に従え』という言葉に従ってみた。
 その結果、こうなった。

「そもそもクリスマスはリア充のための日じゃあない。誰かさんの誕生日だああああッ!!」

 どこぞの嫉妬竜騎兵よろしくガトリング砲をブッ放すッ!
 逃げる奴も逃げない奴も、リア充と見れば蜂の巣だ!(※模擬弾なので痛いだけです)
 そんな彼女の前に、紀浦 梓遠(ja8860)がひょっこりと顔を出す。

「母さまー僕だよー♪」
「おう! 梓遠も来ていたか! 一緒に楽しもうぞ!」
「はーい了解っ♪ 跪けー! ……なんちゃって?」

 緋打石に合流して騒ぐ梓遠の手には、普段あまり使わないという鞭が!
 たしかに名目上模擬戦だけど! よりにもよって鞭ですか! まあいいや!

「うんっ、みんな楽しそうだね!」

 快調に鞭を唸らせる梓遠。
 どこからどう見ても修羅場です本当に(ry

「さぁーここからが本番ッ!! 逃げる先にあるのは天国か地獄か!?」

 ガトリング砲を撃ち切ったらしい緋打石は、逃げ惑う敵(リア充)の様子を実況しはじめた。
 なんかもう凶悪な親子だった。これはひどい。

 この騒ぎに巻き込まれた学園生が全員お祭り騒ぎ状態かといえば、もちろんそんなことはない。
 上記数名のような、自ら死地(?)に飛び込む者は、むしろ少数派である。
 多数派はどういった行動を取るか? 草刈 奏多(jb5435)が良い例だろう。

「材料は買いましたし……帰りますか」

 周囲の喧騒は、さながらテレビの向こう側のお話。『我関せず』の姿勢を貫く。
 それでも奏多は、帰る途中で何度か戦いに巻き込まれかけた。
 何人かを絞め技で気絶させ、何人かを関節技で悶絶させ、何人かを蹴り技で吹っ飛ばした。
 特に問題は無い。降りかかった火の粉を払っただけである。
 戦闘中の彼が愉悦に満ちた笑みを浮かべていたように見えたのは、おそらく気のせいである。

「帰ったら、ドーナツ作らないといけません……」

 マイペースに帰宅する奏多。
 さっき彼が多数派だと言ったな。すまん、ありゃ嘘だった。
 多数派は非リア充が築いたバリケードを真正面から単身で突破したりしません。たぶん。
 もっと適切な例を紹介しよう。速水啓一(ja9168)とガルム・オドラン(jb0621)の二人である。

「オドラン君は……誰かにプレゼント、あげないのかい?」

 祖国イギリスに妻子がある啓一は、旧友ガルムにそう尋ねた。
 今日は愛する妻と娘へのプレゼントを買うためにここへ来たのである。

「予定は無いな。ま、クリスマスなんてのは、家族のいる連中が楽しむもんだろ」

 肩を竦めて答えるガルムは、明後日の方向へ進路を取りかけた啓一の肩を掴んだ。そっちじゃあない。
 著しい方向音痴である旧友。荷物持ちと称して付いてきたのは正解だった。
 入店してしばらく経つが、未だ啓一の買い物は済んでいない。そんな折、例の館内放送が響いた。

「……おい、速水。帰るぞ」

 嫌な予感がする。そう感じたガルムが啓一の手を引くが、時すでに遅し。
 武器を手にした何者かが、出口へ向かう二人の進路を塞ぐ。

「あんた、リア充っしょ?」

 面の下から聞こえてきたのは女の声。
 問われた啓一は、小さく首を傾げた。言葉の意味がわかっていないようだ。
 それよりも、と心配そうに対峙した相手へ声をかける。

「こんな物騒なものを持っていては危ないよ。何か嫌なことでもあったのかい」

 あまりに無警戒な啓一の姿勢に、現れたサンタもどきは動揺していた。ついでにガルムも驚いて固まっていた。
 啓一はスッと彼女の手を取り、微笑む。

「私で良ければ話を聞くよ。何でも話してごらん」

 呆気にとられるガルムと面の女。
 一人マイペースに思案する啓一は、甘いものでも食べて落ち着いてもらおうと考えた。

「オドラン君。少し寄り道になるけど、構わないかな?」
「……好きにしろよ」

 啓一からの提案に、ガルムは溜息と共に答えた。
 杞憂に終わったのは何よりである。
 ……で、本題の『彼らが多数派』だという話。すまん、ありゃ嘘(ry


 いよいよもって勢いに乗る占領軍もとい非リアたち。
 しかーし! 一方的にリア充を殲滅なーんてことにはならないのが久遠ヶ原。
 いくら相手が悲しみを背負った存在であったとしても、素直にやられてやる義理なぞ皆無。

「……………………」

 鬼である。
 阿修羅である。
 染井 桜花(ja4386)が纏う負の気は尋常ではなかった。
 意気軒高にこちらへ突っ込んでくる非リア充どもを睨み、呟く。

「……気に入らない」

 ご覧のとおり、桜花は今、めちゃくちゃ不機嫌なのである。
 それもそのはず、楽しみにしていたデートが中断されているのだ。
 他人の恋路を邪魔する奴ぁ、斬って捨てられても文句は言えぬ。
 桜花から絶対零度の殺気をぶつけられた連中は、蛇に睨まれた蛙のように身をすくませた。
 一歩。また一歩。断罪者の足音が近づく。

「……覚悟はいい?」

 よかろう。ではしね。
 遠慮も容赦も一切無く、桜花は現れる敵を悉く屠った。
 もちろん死なない程度に手加減してある。
 丸一日動けなくなる程度には手加減してある。

「うん。邪魔してくるなら、情けはいらないよね」

 桜花のお相手、大浦正義(ja2956)は笑顔である。
 彼の背後にはすでに、散っていった非リアたちが山を成していたが、さておき正義は笑顔である。
 恋人の沈んだ顔、不機嫌な表情は見たくない。
 早くデートを再開するためにも、この騒ぎを起こした連中を黙らせる必要がある。

「努力だけは認める、かな?」

 彼らには彼らなりの苦しみがあり、苦労があるのだろう。
 しかし、それはそれ。これはこれである。
 正義と桜花は、いち早く事態を鎮静化すべく、真正面から敵軍に抗争した。
 ……うん、あれだよね。火に油を注いでる気がします。

 一方、道脇に設置されたベンチには、猫野・宮子(ja0024)とAL(jb4583)の姿があった。

「はい、宮子様。あーんしてください」
「はぅ!? あ、あーん……」

 仲良くアイスクリームを食べる二人。
 リア充? 違うな。部活動の先輩後輩さ。『まだ』リア充じゃあない。
 例の館内放送が響き渡ったのはそのときだ。
 アイスの乗ったスプーンを、宮子に差し出していたALの動きが止まる。

「……なんと。宮子様、何やら事件の予感で御座います」
「ん、そうだね……」
「これは僕達、魔法少女の出番で御座いますね!」

 二人は顔を見合わせる。
 そう。世に蔓延る悪が姿を見せたときこそ、二人の出番なのだ。
 猫耳と猫しっぽを装着し、声高に変身を叫ぶ宮子!
 現れたサンタクロースもどきたちをビシィっと指差した。
 フードを外し、猫耳をあらわにしたALが隣に並ぶ。

「平和な夜を騒がせる悪の組織は、この魔法少女マジカル♪みゃーこが許さないニャ!」
「あなた方には覚悟して頂きましょう!」

 世の平和を守るため、巨悪に立ち向かう。何と充実した部活動ッ!!
 魔法少女部、聖戦に参戦。
 ……え? 片方は男じゃねーか、って? 細けぇこたぁいいんだよ。

「りあじゅうは爆発だーとか、世の中には物騒な言葉が広まっていますわね」

 ふう、と溜息ひとつ。
 シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は物憂げな表情を浮かべた。
 人生の勝ち組も順風満帆にあらず、その道のりは険しい。嫉妬など笑止千万。
 好きな者同士が愛し合い、人生を謳歌することの何がいけないというのか。

「こちとら忙しいってのに! 騒ぐんなら他所でやれってんだ!」

 絶賛片想い中のライアー・ハングマン(jb2704)は怒っていた。
 想いを寄せる彼女へ贈るプレゼントの選定が中断されてしまっているのだ。
 他人様が真剣に可愛い猫グッズを選んでいるというのに。
 呆れた連中だ。生かしておけぬ。

「カップルの幸せを脅かす……これは悪! 断じて悪ッ!!」

 ドロシー・ブルー・ジャスティス(jb7892)は、固く拳を握った。
 実戦で使えそうなアイテムを探していたドロシーは、占領軍の不当な暴力を目にした。
 いまだ戦闘依頼に参加したことはないが、気持ちは常在戦場。
 平和な日常を護るヒロインに休みは不要なのだ。

 進撃を続ける非リア充たちの前に、三人は立ちはだかった。
 戦う理由はそれぞれだが、彼の者らを敵と見なした点においては通ずるものがある。

「かけがえの無い営みを邪魔しようなどと! 例えお天道様が許しても、愛の伝道師たるこのわたくしが許しませんわ!」
「テメェら覚悟は出来てんだろうなァ? ゴラァ!!」
「許されざる悪よ! 今ここで、正義の名の下に滅びなさい!!」

 開幕一番、ライアーがいきなり禁忌の術をぶっ放す。
 出し惜しみ? 手加減? そんなもん要らん。騒ぎの原因を殲滅し尽す、それだけだ。

「激情のままに暴れ狂えッ! 跪けッ!! 望む夢を見て眠りやがれェッ!!!」
「妬みの火種など、わたくしの愛の力で! 全て消し去ってさしあげますわ! おーっほっほっほっほ!!」

 高笑いしつつマジックスクリューを放つシェリア。吹っ飛ぶ占領軍。
 これぞ愛の力(物理)である。愛は絶対勝つのである。
 スキルが飛び交う戦場を、青い閃光が駆け抜ける。

「このドロシーが成敗して差し上げますっ!!」

 騎士鎧姿でありながら素手で突貫するドロシー。
 駆け引きも作戦も不要! なぜなら! 正義は勝つから!!(迫真)
 相手が男と見るや否や容赦も慈悲も何もない! 馬乗りになってボコる!
 パッと見、正義の味方には見えない! 不思議だ!!


 哀しい哉。非リア充はなぜか、不遇な運命を辿ることが多いのである。
 しっと団の一員、高瀬 颯真(ja6220)。
 非リアの一人として颯爽と登場した彼が狙いをつけたのは、影野 恭弥(ja0018)と真野 縁(ja3294)のカップル。

「うにー! クリスマスケーキ、いーっぱい食べるんだよー!」

 有名店のケーキを購入し、ご満悦の縁。
 その様子を眺めて微笑む恭弥。
 そして、のどかな雰囲気に横槍を入れてしまった颯真。

「先手必勝ッ!」

 ズドンと散弾銃をぶっ放す。宙を舞うケーキは、地面に落下しアワレな姿に。
 あ、と恭弥が声をもらした。やっちまった。こいつやっちまったよ。
 次の瞬間、縁が豹変した。

「ち……ちぎいいいー!? 縁のケーキが! 地面に! 落ちたんだよおー!! うわああああああ!!」

 縁の『狂乱御茶会』!
 無数のお菓子が降ってきた!
 颯真に大ダメージ!!

「ちぎぎぃー!! 縁のケーキの仇なんだよー!!」
「ギャーッ!?」

 縁の『御菓子な食卓』!
 ナイフやフォークが飛んできた!
 颯真は力尽きた!
 しかし縁は止まらない。近場に居た颯真の同志たちにまで襲いかかった!
 縁へ反撃しようと構える占領軍。

「やめとけ」

 彼らの足元で銃弾が跳ねた。恭弥が牽制として放った一発である。
 暴れる恋人を止める気のない彼。肩を竦めて非リアたちを諭す。

「こいつを怒らせたお前らが悪い。大人しく八つ当たりされていれば、俺は手を出さないでおいてやる」

 ただし。
 恭弥は、真顔で銃口を向けた。

「こいつを傷つけようとするなら話は別だ。体のどっかが吹っ飛んでも文句言うなよ?」

 果てしなく理不尽だった。
 大事なことなので繰り返しておこう。
 非リア充はなぜか、不遇な運命を辿ることが多いのである。


 さて、当然のことだがリア充たちは全員が全員、占領軍に真っ向から抵抗しているわけではない。
 いち早く出口へ向かう者も大勢いる。

「……うぅぅ……な、なぜこのようなことに……?」
「今は脱出することだけを考えましょう!」

 月乃宮 恋音(jb1221)の手を袋井 雅人(jb1469)が引く。
 二人は雅人のスキルで潜行して移動することで接敵を避け、ようやく出入口が見える位置までやってきた。

「なぜだ!? どうしてこうなった!?」
「……………………」

 自分の境遇に納得がいかない様子の黒羽 拓海(jb7256)。
 同行する彼の幼馴染み、天宮 葉月(jb7258)は終始無言。こわい。
 脱出目前という現状に至るまで、拓海は葉月を守るべく抱き寄せたりお姫さま抱っこをしたりしているのだが。
 残念ながらこの二人、カップルではないらしい。葉月の表情が雄弁にそれを語っていた。

「やっとここまできたね、アシュ!」
「うん、もうちょっとだよ。頑張ろう、エリ!」

 お兄さんお姉さんたちと一緒に出口を目指すのは神谷 愛莉(jb5345)と礼野 明日夢(jb5590)。
 この騒ぎの中では満足に買い物もできない。プレゼントが買えない以上、長居は無用。

「うーん……まだ何が起こっているのか全然わからない……」

 リア充たちと行動を共にする日下部 司(jb5638)が改めて周囲を見回す。
 逃げる途中で聞こえてきた会話では、どうも模擬戦らしいのだが、それにしては雰囲気がそれっぽくないような。

 同じ出口を目指す7人は、ショッピングモールの正面玄関へ突入。
 突破を妨害する占領軍をなんとか押しのけ、屋外への脱出に成功した。
 さすがに外までは追ってこないらしい。安堵の息を吐く恋音に、雅人が笑顔を向ける。

「無事に脱出できましたね。それじゃあ私はちょっと聖戦に参加してきますよ」
「……は、はい……? ……えっと、お気をつけて……?」

 なぜか戦地へ逆戻りする雅人。そして恋音さんは、なにゆえ普通に見送られますか。
 その隣では、拓海が葉月の頭を撫でている。

「今日は散々だったし、今度埋め合わせするからな」
「あ……うんっ!」

 千載一遇のチャンス到来!! 内心で万歳する葉月に、ようやく笑顔が戻った。
 彼らを見つめる司は穏やかな表情だが、どこか羨ましそうである。

(やっぱりいいなぁ。俺も、いつかあんな彼女を……)

 一方、明日夢は複雑な表情。
 彼の手を引く愛莉は、それに気づいていないようだ。

「酷い目にあったねー。別の所でプレゼント探そっか!」
「う、うん……」

 実は、この二人が難なく脱出できたのは、明日夢が女の子だと思われたからなのである。
 明日夢には占領軍たちの『ああいう女の子同士は敵じゃない』という会話が聞こえていたのである。
 愛莉と明日夢が並んだとき、周囲の誰もが彼らをカップルだと思う日は、まだ遠いのかも知れない……


 あちこちで怒号と罵声と悲鳴が飛び交うショッピングモールに視点を戻そう。
 とある場所では、非リア充たち数人が正座をさせられていた。ちなみに全員男性である。
 意気消沈した様子で並んでいる彼らの前には……

「なるほどねぇ……つまり。彼女がいないから、クリスマスを一緒に過ごせる相手がいる人が羨ましくて、こんな騒ぎを起こして、その結果あたしの買い物を邪魔してくれたわけね?」

 筋肉質な体。女性物の服。自他共に認めるオカマこと御堂 龍太(jb0849)である。
 諸事情を聞いた龍太は、やれやれと溜息を吐く。そんなことで悩んでいるとは。
 ここはひとつ。彼らに道を示さなければならないだろう。

「異性がいないなら、同性にすればいいじゃないっ☆」

 もちろん恋愛対照的な意味で!
 同性同士で愛し合うのがいけないなんて考えは古い!!
 性を超越した存在であるオカマに不可能はないのである!!!

「さあ! 一緒にオカマ道を歩きましょうっ!!」

 ――後に言う、オカマ教のはじまりであった。

 龍太のように、この騒ぎを一刻も早く鎮静化しようと動いている者たちは多かった。
 もちろん彼(彼女?)の場合は説得の手段が特殊だが。
 それに比べれば、アルバイトの最中に巻き込まれた東郷 煉冶(jb7619)は、とても真っ当なお説教をしていた。

「……てめぇら。文句たれる前に言う事があるよな?」

 状態異常で戦闘不能に追い込まれ、縛り上げられた非リア充たち。
 彼らを鬼の形相で見下ろす煉冶の手には、ロープの他に辛子や胡椒が入った包み紙が。
 さておき、手前勝手な理由で他人様に迷惑をかけるなど言語道断。まずは謝れ。
 しかし謝罪を求められた非リア充たちは、涙と鼻水とクシャミでそれどころではない。
 そりゃ辛子とか胡椒とかぶつけられたらこうなりますよね。

 別の場所では、同様に占領軍を縛り上げた木ノ花 柚穂(jb7800)がお説教中であった。

「――人の幸せを喜ぶ心を養えば、今よりもっと人生が豊かになりますよ」

 ちなみにこのセリフ。本日5度目くらいである。
 話なげえ。身動きの取れない非リア充たちは、皆一様にげんなりしていた。
 聞くのに飽きて居眠りなどしようものなら、柚穂からハタキや箒で引っ叩かれるのである。
 懇々と説教を続ける柚穂の荷物を持つ花見月 レギ(ja9841)は、肩を竦めて苦笑した。

「柚穂君も中々……容赦が無い、な。……皆が楽しいのが一番、だよ」

 疲労困憊の非リア充たちに、買ったみかんをひとつずつ配るレギ。
 彼らの苦行はまだまだ続きそうである。


「酷い戦いです……これが、クリスマス」

 沈痛な面持ちで呟く織宮 歌乃(jb5789)。
 ちょっとわずかにクリスマスを誤解している気がしないでもない。さておき歌乃は真剣である。
 本当に悲しいのは、こういう季節に争ってしまうこと。
 考えた歌乃は、赤十字の旗を掲げることにした。救護エリア――非戦闘区画を設けたのである。
 怪我人や戦闘不能者を戦場から回収し、分け隔てなく手当てをする。
 まさしく、今宵この場に降臨した聖母が如し。
 多くの者が彼女に賛同し、『救護班』のメンバーは瞬く間にその数を増した。

「幸せな人たちは祝福するもので、妬むものじゃない……!」

 黄昏ひりょ(jb3452)は奔走していた。
 脱出を試みるカップルがいれば身を挺して護衛につき、見知った顔が暴れていれば灸を据えるべく戦った。
 そんな彼と合流し、行動を共にするのは雪織 もなか(jb8020)。

「黄昏先輩、お怪我は? あまりご無理をなさらないように」
「大丈夫、ありがとう。雪織さんも気をつけてね」

 救護エリア付近での乱闘を鎮圧するひりょと、その乱闘で出た怪我人を救護エリアへ運ぶもなか。
 大切なもの――皆の笑顔を守るために。
 この騒動の終結を願い、ユウ(jb5639)と九条 静真(jb7992)も戦場を巡っていた。

「こんなことをしても何にもなりません! どうか落ち着いてください!」

 翼で飛翔しながら争いを止めるべく説得するユウ。
 地上では、静真がホイッスルを鳴らして戦闘に割って入る。

『意味不明 めいわく なかよく』

 メモに走り書きした文字を見せ、怪我をしている人々を指差し、なんとか混乱を治めようとする。
 こうした『暴徒鎮圧』の動きが各所で活発になったことが幸いし、暴れる反リア充連盟軍の人数は徐々にその数を減らしていった。
 よって徹底抗戦組は、モールの一カ所に戦力を集中することとした。その中心にいるのは例の黒煙の撃退士――樹裏 尚子である。
 劣勢となっても抵抗を続ける非リア充たち。もはや立場が逆転していた。
 そんな中、今宵最後の混沌が戦場に突入した。

「ボクのスマホは後部(リア)から充電! 即ちボクもリア充!」

 謎の理屈を声高に叫びながら、車で乱戦に突っ込んだのは水無月 ヒロ(jb5185)。
 あまりにも痛々しいこの戦いを止めるため、彼は尊い人身御供になる覚悟である。
 突入の際に勢い余って何人か非リア充を撥ねた気がするが、おそらく気のせいだ。
 颯爽と尚子の前に現れたヒロ。薔薇の花束を片手に、呆気にとられている尚子の手を握る。

「眼鏡を外したら意外と可愛い属性に萌えました……デートして下さい。(イケメンスマイル」

 まさかのサプライズ入りましたァーッ!!
 一気に不穏な空気に包まれる反リア充連盟軍。
 慌てて言い訳を並べる尚子の背に、拳銃が押し当てられた。

「……ここまでです。作戦を終了させてください」

 ずっと尚子をマークしていた静寂。彼女の真の狙いは、この組織の解散である。
 動揺する非リア充残党は満足に連携が取れず、尚子以下全員が御縄につくこととなった。


 ――かくして。
 突如として始まったショッピングモールでの『聖戦』は、幕を下ろした。
 後片付けに駆り出される反リア充連盟軍の面々。
 メタルブックを仕舞ったヴィルヘルムが誰にともなく尋ねた。

「……それで。これってどういう催し事だったんだい?」

 うん。
 なんだったんだろうね、これ。(遠い目)


―― 了 ――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:22人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
安心の安定感・
礎 定俊(ja1684)

大学部7年320組 男 ディバインナイト
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
彼女のために剣を取る・
大浦正義(ja2956)

大学部5年195組 男 阿修羅
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
カワイイ・ボーイ・
高瀬 颯真(ja6220)

大学部1年46組 男 ルインズブレイド
全ては魔術に起因する・
ヴィルヘルム・E・ラヴェリ(ja8559)

大学部7年78組 男 ダアト
また会う日まで・
紀浦 梓遠(ja8860)

大学部4年14組 男 阿修羅
戦地でもマイペース?・
速水啓一(ja9168)

大学部9年187組 男 ダアト
偽りの祈りを暴いて・
花見月 レギ(ja9841)

大学部8年103組 男 ルインズブレイド
そんな事より駄菓子食え!・
ミスティス・ノルドステア(jb0357)

大学部6年308組 女 ディバインナイト
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
巻き込まれ属性持ち・
ガルム・オドラン(jb0621)

大学部9年186組 男 阿修羅
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
絶望の中に光る希望・
ライアー・ハングマン(jb2704)

大学部5年8組 男 ナイトウォーカー
己の信ずる道貫き通す・
紫 北斗(jb2918)

卒業 男 ナイトウォーカー
朧雪を掴む・
雁鉄 静寂(jb3365)

卒業 女 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
嫉妬竜騎兵ガルライザー!・
ガル・ゼーガイア(jb3531)

大学部4年211組 男 阿修羅
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
黎明の鐘・
逆廻桔梗(jb4008)

中等部3年9組 男 バハムートテイマー
正義の魔法少女!?・
AL(jb4583)

大学部1年6組 男 ダアト
遠野先生FC名誉会員・
何 静花(jb4794)

大学部2年314組 女 阿修羅
優しき心を胸に、その先へ・
水無月 ヒロ(jb5185)

大学部3年117組 男 ルインズブレイド
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
V兵器探究者・
バアル・ゼブル・春海(jb5299)

大学部6年171組 女 阿修羅
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
ミスったドーナツ・
草刈 奏多(jb5435)

高等部3年16組 男 ディバインナイト
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師
撃退士・
雪代 誠二郎(jb5808)

卒業 男 インフィルトレイター
釣りガール☆椿・
桃香 椿(jb6036)

大学部6年139組 女 アカシックレコーダー:タイプB
当たるも八卦の運試し・
木瀬 優司(jb7019)

大学部8年108組 男 ディバインナイト
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部3年2組 女 アストラルヴァンガード
「アカンやつ」認定・
ヴィオレタ=アステール(jb7602)

大学部6年101組 女 アストラルヴァンガード
鬼払い・
東郷 煉冶(jb7619)

大学部4年236組 男 ルインズブレイド
非リア充殺し・
保科 梢(jb7636)

大学部2年34組 女 陰陽師
撃退士・
木ノ花 柚穂(jb7800)

大学部2年294組 女 鬼道忍軍
正義の名の下に!・
ドロシー・ブルー・ジャスティス(jb7892)

中等部3年10組 女 ディバインナイト
遥かな高みを目指す者・
九条 静真(jb7992)

大学部3年236組 男 阿修羅
Gハンマー・
雪織 もなか(jb8020)

大学部1年26組 女 アストラルヴァンガード