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マスター:猫野 額
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/11


みんなの思い出



オープニング

●学園内某所


「う〜ん……」

 掲示板の前。
 忙しなく人が行き交い、喧騒に包まれているその場所で、一人の少女が唸っていた。
 金色の髪。橙の瞳。
 はぐれ悪魔の少女は、名前を『セルカ』といった。

「う〜〜ん……」

 所狭しと貼られた依頼の数々。
 それらひとつひとつを、上から下まで時間をかけて熟読し、熟考し、そして溜息。
 最近のセルカは、毎日この場所に現れては、同じような行動を繰り返している。
 つい最近学園に来たために、未だ依頼に参加した経験は無く。
 久遠ヶ原一年生の自分でも役に立てそうな依頼はないかしら、と足繁くここへ通っているのである。

 文化祭関係の依頼は、すでに掲示板には残っていない。
 依頼として貼り出されるものは準備に関する件が多く、それらは必然的に文化祭期間中の序盤に集中する。
 そして、文化祭はこれから中盤、終盤という時期である。
 掲示板から姿を消しているのは当然と言えた。

 文化祭以外の非戦闘依頼はどうだろう。セルカは視線を巡らせる。
 秋という季節柄、ピクニックやハイキングへのお誘いが散見できた。

「……むぅ」

 しかし、セルカは納得のいかない表情である。
 というのも、それらの依頼への参加希望者が、募集人数を超えているせいであった。
 今から希望しても別段遅くは無いのだが、セルカはそういった依頼を避けていた。
 明確な理由は無い。単に気乗りしないのだ。

 さて、そうなると残っているのは戦闘依頼と、ヘンな依頼の2種類である。

 前者はいわずもがな。平和な依頼と同様、相当な倍率である。
 低倍率の依頼もあるにはあるが、いずれも危険なものばかり。
 セルカの実力では、足手まといにしかならないことが簡単に予想できた。

 そして後者。
 日常系の枠を超越し、宇宙の彼方へ旅立った、ぶっ飛んだ依頼たちである。
 内容は多種多様、妙なイベントの宣伝から変態の撃退等々、イロモノ揃いと言えた。
 とてもではないが、依頼初心者のセルカにはハードルが高すぎる。

「う〜〜〜ん……」

 今日も今日とて、身の丈に合った依頼は見つからない。
 顎に手を当て、難しい顔で掲示板を睨むセルカ。
 そんな彼女の目の前を、長くて白い髪が横切った。

「まったく、尚子め! 人使いの荒いヤツだ!」

 ぶつくさと文句を呟くその少女を、セルカは何となく目で追った。
 手にした紙を、掲示板の端に画鋲で留める。新しい依頼のようだ。
 さっそくその内容を確認するセルカの表情は、徐々に明るいものとなった。

「うんっ。これにしよう!」

 大きく頷いて、白い髪の少女を追う。
 セルカの眺めていた紙には、大きく『模擬戦参加者募集!』と書かれていた。
 依頼を出した教師曰く、文化祭で緩んだ気を引き締める、ということらしい。
 ……決して「来年に向けた追々々試」ではない。たぶん。おそらく。



●即席結成Aチーム


「よーし。こっちのメンバーは集まったみたいやな」

 集まった面子を見回して、樹裏 尚子(jz0194)が声を発した。
 空色眼鏡に普段着という格好。手には、大型の盾を持っている。

「見知った顔が揃ったな」

 尚子同様にメンバーを確認したのは、笆 奈央(まがき なお)。
 全身真っ黒のコーディネイトに白い手袋。彼女の戦闘装束である。

「女の子が多い……」

 奈央の妹である笆 奈津希(まがき なつき)が、見ればわかる感想を呟く。
 儀礼服に身を包み、愛用している槍を手に、奈津希は小さく欠伸を漏らした。

「多いどころか男は俺だけじゃねーか。やりづれぇ」

 あーあ、と円堂 希壱(えんどう きいち)が頭を掻いた。
 大剣を背負っている彼は、Aチーム唯一の男性である。

「いわゆるハーレムですね。もっと喜んでもいいんですよ?」

 そう言って、小美玉 知沙(おみたま ちさ)がころころと笑う。
 長身に忍者装束という格好でありながら、どこか存在感が希薄である。

「はあれむ? とはなんだ?」

 こてん、と首を傾げたのはルーシィ・アルミーダ・中臣(jz0218)。
 白く長い髪をポニーテールに結っており、玉に棘のついたケンダマを持っている。

「……私に聞かれても困る」

 真木綿 織部(まゆう おりべ)がルーシィの疑問に肩を竦める。
 双剣を腰に、装備を軽装でまとめた彼女の隣に、最後の一人。

「ふぅ……ちょっと緊張してきたかも」

 大斧を両手で握り、深呼吸を繰り返すセルカ。
 以上8名が、今回の模擬戦におけるAチームである。
 ほいっ、という掛け声と共に、尚子が手を打った。

「っちゅーわけで。本日はここ、訓練用グラウンドで模擬戦や。
 ルールは簡単、戦闘不能になった人数が少ない方が勝ち。
 戦闘形式は各々の自由。タイマンでも2on2でも好きにやってええで。
 保健室の方にアポとってあるから、ある程度なら全力でぶちかましてもかまへんよ」

「……全力でぶちかまされると、つらいと思うけど」

 ぽつりと奈津希が呟く。
 このAチーム、回復役が居ないのである。
 相変わらずの微笑みを浮かべながら、知沙が口を開く。

「まあ、いいじゃないですか。そうしないと模擬戦になりませんし」
「勝てばよかろうなのだ! 全員倒してしまっても構わぬのだろう?」
「待てルーシィ。それは敗北フラグだ」

 真顔でツッコミを入れる奈央。ルーシィは再び首を傾げた。

「ふらぐ? とはなんだ?」
「……私に聞くな」

 はあ、と織部が溜息を吐いた。
 やりとりを見ていたセルカが、苦い顔の希壱に尋ねる。

「みんなまったりしてるけど、今から戦うんだよね? 勝てるかな?」
「さて、どーだか。俺は不安でしょうがねえよ」

 希壱の視線の先では、Bチームの面々が集まっていた。


リプレイ本文


●一方その頃Bチーム


「やるからには全力全開よ!」

 鼻息荒くそう告げたのは、雪室 チルル(ja0220)。
 白銀の鎧をまとい、手には大剣。頭にはウシャンカ。
 愛用の魔具と魔装を身に着けたチルルは、気合十分の様子。

「そうですね。全力全壊で行きましょう」

 こくり、と頷いた雫(ja1894)が一言。
 チルルとは若干ニュアンスが違う気がするような……。
 実戦経験は豊富だが、模擬戦の経験は皆無という彼女。殺気だだ漏れである。

「あ! セルカだ〜!」

 Aチームに見知った顔を見つけ、エマ・シェフィールド(jb6754)が手を振る。
 相手方にも笑顔が見え、手を振り返してくれていた。
 戦闘前とは思えない、和やかな雰囲気であった。

(セルカちゃん……どんな戦い方をするのかしら?)

 五十鈴 響(ja6602)はエマ同様に、はぐれ悪魔の少女を見ていた。
 戦闘依頼にはあまり参加した経験が無い。後学のためにも、ここで皆の胸を借りよう。
 Aチームのメンバーの顔や学年、学科を確認しつつ、響はBチームのメンバーに視線を移した。

「模擬戦を通じて、戦術を考えることも大切よね」

 頑張りましょう、と蓮城 真緋呂(jb6120)が表情を引き締める。
 その隣で、米田 一機(jb7387)が手で口を覆って呟いた。

「俺のレベル、低すぎ……」

 実戦経験一回。彼の戦歴である。
 ゆえに、身に宿したアウルの力を使いこなせている、とは言い難く。
 周囲との実力差を、模擬戦開始前からひしひしと感じている一機であった。
 真緋呂が苦笑しながら声をかける。

「大丈夫、作戦通りにやれば上手くいくはずよ。気負わずに行きましょ!」
「……そうだな。雑魚には雑魚なりの戦い方があるってのを見せてやるさ」

 二人の会話を聞いていた織宮 歌乃(jb5789)が、小さく息を吐く。
 誰かを守りたい。そう思い、朱き破魔の刀を手にした。
 この力は未熟なれど、今までの修練の成果を試す良い機会。

(守るが為の緋色の願い、今この胸にあると示しましょう)

 各々が準備を整え終えたことを確認し、鈴木悠司(ja0226)が笑顔を浮かべた。

「じゃあ、張り切って行ってみよー!」



●初動


 銃声が一発、グラウンドに響き渡る。
 奈央が頭上に放った空砲。それは開戦の合図だった。
 十六人の撃退士たちが、思い思いに動き出す。

「おい、始めちまっていいのかよ? 作戦とか何も聞いてねーぞ」
「心配ご無用やで。行動方針は『臨機応変』! 以上や!」
「どこが心配ご無用なのか、時間が許すなら問い詰めたいところだ」

 希壱、尚子、織部の三人がそれぞれ自分へ補助スキルを発動。
 Bチームでも、支援系スキルの使用が続々とおこなわれていた。
 もっとも目立ったのは、陣形中央の位置で、結界を展開する歌乃だった。

「護る事こそ、私の魂に契った火の本懐――早々に破れるものではないと知りなさい」

 『緋獅子・契火』。
 燃え盛る炎が陣を描き、歌乃を中心に朱色を散らした。

「うお! なんだ!?」
「わあー、キレイ!」

 地上のルーシィと空中のセルカが、対照的な声を上げる。

「こういう時に数を減らす!」
「行くよ〜! Gladius!」

 突出した二人に、一機の銃撃とエマの魔法剣が襲いかかる。
 わーきゃーと叫びながらセルカが魔法剣をかいくぐり、銃弾は射線上に立ち塞がった尚子の盾に弾かれた。
 お返しとばかりに奈央と奈津希が牽制射撃を行う。銃声が響く中、チルルが叫んだ。

「よーし! 突撃ぃー!!」

 自身を強化するスキルを使い終えたチルル、雫、悠司の三人が前線へ躍り出た。
 何の作戦も無いAチームは混乱気味で、すでに陣形が滅茶苦茶である。

「開始早々、後手に回ったか……チッ!」

 舌打ちした織部がその場を飛び退く。足元に蔓が絡みつこうと迫っていた。
 響が『Gort』で束縛を狙ったのだ。
 訓練用グラウンドは、早くも乱戦模様となっていた。



●交錯


 外した。
 一瞬湧き上がった焦りを、冷静に落ち着けて。
 五十鈴 響は次なる標的を探した。

「――余所見か? 随分と余裕だな」
「っ!?」

 声のする方へ振り向けば、先ほど攻撃を仕掛けた真木綿 織部が目前に迫っていた。
 『サイレントウォーク』で足音が消えていたために、急接近に気づけなかった。
 斬撃。想像していたものと異なる手応えに、織部は眉根を寄せた。
 刃を受ける直前に、響は『Fearn』を発動。威力を軽減させていた。
 浅い。攻撃を続けようとする織部。響が叫ぶ。

「『Famhair』!」

 振るわれようとしていた双剣が勢いを失くし、織部が呻いた。
 ふらふらと後退し、響から距離を取る。
 響がスキルを使用した直後、織部は何者かの叫び声を聞いた。
 織部にしか聞こえない大声量は、彼女の視界を揺らし、意識を混濁させた。

 小さく息を吐き、危機を脱した響は上空を見やった。
 本来の自分の役割は、飛行するエマ・シェフィールドの援護。
 そのエマはというと。

「エマーっ!」
「わあ!?」

 くるくる。二人はダンスを踊るように、空中で回った。
 はぐれ悪魔の少女が、堕天使の少女に飛びついたのだ。

「やっと会えた! ここに来てから、ずっと探してたの!」
「せ、セルカ? もう戦いがはじまってるんだけど〜……」

 エマが苦笑しながら言うと、「あ、そっか」と呟き、セルカが離れる。
 改めて、二人は武器を構え直した。
 一度抱きつき、その後わざわざ距離を取ったセルカが、柄の長い斧を振り回す。

「それじゃ、行くよ!」

 真っ直ぐに飛行し、エマへと向かう。
 最初はエマが放つ魔法剣を避けたり防いだりしていたセルカ。
 しかし、一定の距離を保って攻撃する相手に痺れを切らしたのか、しまいには被弾を気にせず突っ込んだ。

「せーのっ!」

 大斧が風を切り、エマに迫る。
 エマは手にした魔導書にアウルを注ぎ、それで刃を受けてセルカの攻撃を逸らした。
 長い得物を振り回した勢いが残り、セルカは空中で体勢を崩す。

「Tonitrus!」

 すぐさま反撃。エマの『サンダーブレード』が、セルカに命中する。
 劣勢であることは明らか。しかし、セルカは退こうとしない。
 今度こそ、と斧を構え直す。

「――セルカ! 下だ!」
「え?」

 スタン状態から復帰した織部が叫んだ。
 地上から放たれた魔法弾が、動きを止めたセルカを次々と捉えた。

 墜落する少女を着地点で受け止めて、織部はエマと響を見やる。
 一対二。防御が心許ない自分一人では厳しいが、何とか渡り合うしかなさそうだ。
 やれやれ、と織部は息を吐き、ひとりごちた。

「青森でそれなりに子供の御守は経験したが……どうも、守るのは苦手だな」

 気絶しているセルカを地面に寝かせ、織部は再び双剣を手にした。



 その頃、Aチームの初期配置地点では。

「あたいの名前は、雪室 チルル! あたいに敵う相手はいないのかー!!」


 しーん。


「……あれ?」

 敵陣に乗り込んだチルルは、意気揚々と名乗りを上げた。
 その声に答える者はいない。拍子抜けである。
 しばらく難しい顔をしていたチルルだが、唐突に手を打った。

「あ、わかった! あたいの勇姿におそれをなして、誰も近寄ってこないのね!」
「んなわけあるか。突っ込んできたと思ったら、いきなり何を言ってやがる」

 呆れた様子の円堂 希壱が、気怠そうにチルルと対峙した。
 両者ともに、相棒は大剣。
 互いに不敵な笑みを交わす。

「やっと来たわね! あたいの剣を受けてみろ!」
「望むところ、ってほどヤル気ねーけど……行きますかねぇ!」

 小手調べ、とばかりに希壱がチルルへ打ちかかる。
 気のない斬撃は、チルルの周囲を漂う氷粒子によって、たちまち威力を殺された。
 お、と希壱の口から意外そうな声が漏れる。
 事前に『氷甲「スノーパーティクルズ」』を使用したチルルに、半端な攻撃は効かない。

「悪いけど容赦はしないわ! 息つく暇も後悔する暇も与えない!」

 反撃に転じたチルルは、重厚な大剣を軽々と振り回し、希壱から余裕を奪った。
 同じ武器を扱っている二人。その年齢差に反して、戦いに身を投じた時間はチルルが勝る。
 大剣同士の打ち合いは、チルルが完全にペースを握っていた。
 希壱が乱雑に繰り出す攻撃、その間隙を的確に見極めてチルルの剣が閃く。
 当初の軽い態度はどこへやら、チルルを強敵と認めた希壱の表情は険しい。

「……あんた、出来るな。正直ナメてたぜ」
「その油断が命取り、ってヤツね! 褒めてくれるのは嬉しいけど、手加減はしてあげないわよ!」
「おう、ぜひともそうしてくれ。そうじゃなきゃ――」

 希壱が剣を引いた。
 反射的に攻めに転じようとして、チルルの本能が警鐘を鳴らす。
 何か来る。そう感じた直後、凄まじい剣圧がチルルに迫った。

「――倒し甲斐が無くなっちまうだろ?」

 『乾坤一擲』。
 叩いた軽口とは裏腹に、その一閃に全力を込め、希壱は大剣を薙いだ。



 死ぬ。マジで死ぬ。殺される。
 樹裏 尚子は逃げていた。全力疾走である。

「顔色が悪いようですが体調不良ですか?」

 『縮地』を使い、涼しい顔で尚子を追いかけながら、雫が尋ねた。
 真顔である。殺気全開である。
 体調不良よりタチ悪いわ! ……と内心で思いつつ、尚子は口に出す余裕もない。


 遭遇した直後の会話がまずかった、と尚子は反省していた。
 雫はこう言った。

「お互いに遠慮はなしでいきましょう」

 対して尚子はこう答えた。

「せやな。そうせんと、お互いの訓練にならんし――」

 言っている間に、雫が目の前で大剣を振り上げていた。

「は?」

 尚子は呆けた声をあげた。
 武器へと込められたアウルが粉雪のような形で溢れ出していた。
 キレイやなー。他人事のようにそう感じながら、尚子は無意識下で盾を構えた。

 次の瞬間、凄まじい轟音が響いた。

 真正面から雫の『乱れ雪月花』を受けた尚子は、その場で踏ん張り切れずに数歩下がった。
 ぞわり、と鳥肌が立つ。青い顔の尚子は、慌てて雫に背を向けた。
 とにかく逃げた。アカン相手にぶつかってもうた、と思いながら。


 『シバルリー』による「鉄壁」と「加護」の付加、さらにはスキル『シールド』の発動。
 慎重を期して防御スキル満載で接敵していなければ、どうなっていたことやら……
 先ほどの衝撃を想起し、尚子は身震いした。
 そんな彼女に、破壊の女神が無慈悲に告げる。

「少々、強めに行きます」
「ちょおま!? 待て待て待てェ! ほんまに死ぬ!! ヤメテ!!」

 焦るあまりキャラがぶれ始めた尚子。
 彼女が駆け込んだ場所が、これまた非常にまずかった。

「ふぃー、危なかった。やるわね、あんた!」
「……こりゃ、本格的にヤバそうだ」

 『氷盾「フロストディフェンダー」』を発動させたチルルが、希壱の渾身の一撃を耐えた。
 スキル使用の反動で、希壱は身動きが取れない。

「エマさん! 合わせます!」
「了解だよ〜! Gladius!」

 響とエマによる魔法攻撃の集中砲火。
 対する織部は傷だらけで、敵の射程から逃れるように後退してきている。

 希壱、織部、尚子と手負い三人が一か所に集中。
 互いに視線を合わせ、ぎょっとした表情を浮かべたときには、もう遅い。

「――斬ります」

 剣先にアウルを一点集中。
 雫が尚子目掛けて『地すり残月』を放った。

「ぎゃん!」

 吹っ飛ぶ尚子。なおもアウルは衰えず、大地を這う三日月のような軌道を描く。
 尚子の後方に居た希壱に気刃が迫った。

「くそっ、なんでこっちに来てんだよ馬鹿が――!」

 ろくな回避もままならず、こちらも直撃。
 沈黙した二人を前に、織部は露骨に舌打ちした。
 チルルが織部に剣を向ける。

「次の相手はあんたね! 覚悟はいい?」
「……いいだろう。どう見ても手詰まりだが、大人しくやられるつもりはない」

 双剣が青い炎を纏う。
 『火事場の馬鹿力』を発動させ、織部は四人と相対した。



 アサルトライフルから使い慣れた槍へと持ち替えた笆 奈津希。
 未だ紅蓮に逆巻く炎陣の上へと、足を踏み入れる。

「さて――」

 刀身が真紅に染まった刀を手に、織宮 歌乃が奈津希の行く手を遮る。
 空いた片手に霊符を握り、無言で睨む相手へと言葉を投げかけた。

「私のお相手は貴女にお願いしましょうか。奈津希様」
「……ん」

 ひゅん、と槍の穂先が回った。
 歌乃の結界の中で、二人は向かい合っている。
 周囲から剣戟の交わる音が響き始めると、歌乃がおもむろに距離を詰めた。

 歌乃は刀。奈津希は槍。リーチは当然槍の方が長い。
 正面から刀で斬りつけるには、最低一度は敵の穂先をかわさなくてはならない。
 つまりこの場合、先手は必ず奈津希が取れる。
 無論、アウルの力を考えなければの話だが。

「――!!」

 符が刀身を撫でた刹那、鮮やかな真紅の『気』が歌乃を包んだ。
 反撃から防御へ。カウンターを念頭に置いていた奈津希は、咄嗟に思考を切り替える。
 歌乃が振るった刀の一閃は無数の紅い気刃を生み出し、奈津希に襲いかかった。

 『緋獅子・椿姫風』。
 その様は、さながら椿の花が咲き乱れたかのような、美麗な光景。
 やや後退しながら刃の数々を捌き切った奈津希に、歌乃は微笑んだ。

「緋色の椿の風刃、美しいと思いますか? ……けれど、見惚れれば石となるのみですよ」

 『椿姫風』は、受けた者を真紅の石へと変じる呪詛が込められた技である。
 一度石化してしまうと、その身に感じる違和感が消えるまで、かなりの時間を要する。
 今回、奈津希の身体が石化した様子は見られない。
 しかし彼女が歌乃を見る目は、あからさまに警戒の色が強まっていた。

 石化攻撃という厄介なスキルを持つ自分を、無視できないと認識させる。
 その上で、早急に倒すべきと相手方に思わせ、敵戦力を引きつける。
 それこそが歌乃の狙いであった。

 ただひとつ、歌乃には誤算があった。
 彼女が思う以上に、奈津希は歌乃を『はじめから警戒していた』。
 ゆえに。槍を持つ少女は、紅き刀の少女へと告げた。

「あなたは、わたしが倒す。全力で」

 穂先が黒光を纏った。地面に叩きつけるような勢いで、槍が振り下ろされる。
 放たれた『封砲』は、炎の結界の中を突き進み、歌乃が反射的に投じた符に衝突して爆散した。
 轟音が響き、砂塵が舞う中、奈津希が標的へと突貫する。

 スキル『スマッシュ』を発動し、紫電を纏った奈津希の槍。
 光が穂先へと集中し、鋭い突きに乗って歌乃に迫る。
 刀で上手く攻撃を逸らすも、押されているのは明白だった。
 奈津希は宣言通り、全力で歌乃を倒すつもりだ。

(想定以上に厳しい……ですが、ここで倒れる訳には参りません)

 守ること。耐えること。それこそが、私の祈り。
 怒涛の攻めをみせる奈津希に対し、歌乃は一歩も退かなかった。
 ここを凌げば。凌ぎ切れば、勝機は見える。



 敵陣へと前進した鈴木悠司。
 彼の役割は、相手方の前衛の撹乱。
 Aチームの連携を断ち、陣形を乱すことが主目的。

「……なんだけど。その必要はなさそうかな?」

 敵はそれぞれが単独行動している状態に近い。
 陣形に至っては、最初から無かったようなものである。
 どうしたものかと周囲を見回す悠司の前に、小柄な影が立ちはだかった。

「ふふん。悠司よ! 我が相手になってやろう!」

 得物であるバトルケンダマを手に、ドヤ顔で謎のポーズを決めるルーシィ・アルミーダ・中臣。
 本人はカッコイイと思っているようだが、どう見てもあれである。荒ぶる鷹のポーズである。
 きょとんとしていた悠司は、ルーシィの武器を見て口元を緩めた。

「その剣玉で戦うんだね! ってことは、前に言ってた腕前、見せてもらえるのかな?」
「もちろんだ! この日のために技を磨いてきたのだからな!」

 そっかそっか、と笑顔で頷く悠司。
 得意顔のルーシィに気づかれないよう、さりげなく視線を巡らせる。
 目の前の少女以外に、自分を狙う相手は居ないようだ。
 そして、味方からの援護が期待できそうにない状況でもある。

「では! いざジンジョーに勝負っ!」

 無駄に洗練された無駄の多い動きで、ルーシィが剣玉を操る。
 トゲつきの玉は当たれば痛そうである。
 とはいえ、軌道が見えるため避けるのは難しくない。
 ルーシィが繰り出すいくつもの攻撃(?)を、悠司は軽々と回避する。

「むぅ。やるではないか!」
「あはは、それほどでもないよ」

 戦いという雰囲気からは程遠い。
 それでも、ルーシィはどこか楽しそうである。
 彼女の様子に笑みを浮かべながらも、悠司は思った。

(ルーシィさんには悪いけど……いつまでも遊んでるわけにはいかないよね)

 この一騎討ちをさっさと切り上げて、別のメンバーの援護をすべきだろう。
 幸いと言うべきか、ルーシィの攻撃動作は隙だらけである。
 迫る玉を難なくかわした悠司は、曲刀を片手にルーシィとの距離を詰め、そして。

「ぷぎゃ!?」

 斬ったら痛そうだったので、攻撃は柄で。しかしてその一撃はルーシィの顔面にクリーンヒット。
 変な声を上げてひっくり返り、その拍子に後頭部を強打したルーシィは、目を回して気絶した。

「……えっと、一人撃破……で、いいんだよね?」

 誰に言うでもなく、悠司は苦笑しながら呟いた。



「――仕掛けるには、悪くないタイミングだ」

 両陣営の前衛同士が戦い始めた頃合いを見計らい、諸々の準備を済ませた一機は標的を絞った。
 散発的な牽制射撃から、各個を狙った援護射撃に移ろうとしていた奈央。
 妹のフォローに向かおうとする彼女の足が、一機の銃撃によって止まる。

「来たな。お手並み拝見といこう」

 行動を阻害されたことなど気にしていない様子で、奈央は愉しそうに口角を上げた。
 アストラルヴァンガードである一機と、インフィルトレイターである奈央。
 それに加えて経験の差もあり、リボルバー同士による撃ち合いは一方的な展開となった。
 受けた傷を適時『ライトヒール』で癒しながら、一機が悔しげに呟く。

「やっぱりこうなるか……けどっ!」

 ここで退くわけにはいかない。
 身体のあちこちにアウルの銃弾を受けながらも、一機は奈央との距離を詰める。
 チームの中でも、一番弱い。だからこそわかる。
 餓えなければ、勝てない。

(狙いは接近戦か。定石だな)

 射撃が得意なインフィルトレイターに、遠距離の武器で挑むのは分が悪い。
 となれば、奈央と対峙した相手が近寄ってくるのは必然だった。
 しかし、射撃が得意だから白兵戦が苦手なのかといえば、そうとは限らない。
 負けてやるつもりはない。奈央は、銃からナイフに持ち替えるタイミングを計っていた。

 つまり。
 笆 奈央は油断していた。
 米田 一機を――「彼ら」を、甘く見ていた。

「ッ!?」

 前触れなく走った痛みに、奈央は表情を歪めた。
 矢だ。どこからともなく飛来した一矢が、奈央の左肩を貫いている。
 一機の手元を見た。銃を手にしている。

(なんだ……? どこから――)

 視界の隅で、奈央は次の一矢を捉えた。
 『急所外し』でダメージは軽減できたが、無傷とはいかない。

(もう一人いるのか!?)

 素早く視線を巡らせ、散開した敵の数を確かめる。
 七人。やはり足りない。

「厄介な……!」

 忌々しげに呟く奈央の声を聞き、一機は口元を緩めた。
 姿を消したもう一人――蓮城 真緋呂こそが、彼のジョーカー。
 残るは二手。

 『磁場形成』で奈央に近づいた真緋呂が姿を現し、飛び蹴りを放つ。
 不意打ちを受けた奈央が体勢を崩した。
 自身に最後の回復スキルを施し、一機はその手にロザリオを具現させる。
 今しかない。最後の一手――

「上手くいくと思いました? そうは問屋が卸しません」
「なっ!?」

 捨て身覚悟で前進する一機の目の前に、ゆらりと人影が現れた。咄嗟に光の矢を放つ。
 陽炎の如く現れた小美玉 知沙は、舞うような動作で一機の攻撃をかわした。
 鉤爪が翻る。一機の視界が暗転した。

「アカシックレコーダーの『蜃気楼』……考えましたね。
 しかし、隠密行動は忍びの十八番。見破れなくては、こんな格好できませんから」

 笑顔で自身のスキルを言い当てた知沙を、真緋呂は表情を変えずに見つめた。
 鬼道忍軍の『遁甲の術』。姿を隠していたのは、真緋呂一人ではなかったのだ。
 苦々しく奈央が呟いた。

「……面倒な相手に貸しが出来たか。私もヤキが回ったものだ」
「ご安心を。友情価格でお安くしておきますので」

 ふん、と鼻を鳴らす奈央。直後にリボルバーが火を噴いた。
 『クイックショット』で放たれた銃弾が、弓を手にした真緋呂に命中する。
 それでも真緋呂は表情を変えない。光纏前とは別人のように、口を閉ざしたままだ。

「形成逆転……なんて、浮かれている場合では無さそうですね」

 苦無を構えた知沙の視界には、こちらへ向かう敵の援軍がうつっていた。



●決着


 開始から3分が経過した。
 残っている戦力はAチームが四名、Bチームが七名。
 さらに、一人で四人を相手取っていた織部が倒れ、Aチームは残り三名となった。

 幾度となく切り結んだ奈津希と歌乃の二人は、互いに肩で息をしていた。
 歌乃が展開した結界はすでにない。
 敵の生命力を奪うスキル『緋獅子・吸魂牙』を使うことで、歌乃は何とか持ち応えていた。
 奈津希も相当消耗しているはずだが、その目から戦意は失われていなかった。
 そんな折、織部を倒した響とエマが援軍として駆けつける。

「大丈夫ですか?」
「ボロボロだね〜。あとはボクらに任せて!」
「ありがとうございます。ですが、私もまだ戦えます。戦います」

 歌乃は奈津希を見た。最後まで油断できない相手だ。
 三人と相対する奈津希は、昂る気持ちを落ち着けるために深呼吸をした。
 状況は不利。だが、まだ負けたわけではない。負けが決まったわけではない。

(――奈央が頑張ってる。わたしも頑張らないと)

 槍を握る手に力を込め、奈津希が一歩踏み出した。
 エマの魔法剣が上空から降り注ぐ。器用に槍を操ることで、それらを丁寧に捌く。
 続く響の魔法攻撃は回避。羽の生えた白い玉のいくつかが奈津希に命中したが、足は止めない。
 狙いを定めた。あの三人の中で、はじめに倒すべきなのは――

「……! お下がりください!」

 響に接近する奈津希の前に、歌乃が割り込んだ。
 槍の穂先が黒光を宿す。

「はああッ!!」

 裂帛の気合とともに打ち出された、二度目の『封砲』。
 響を狙ったその一撃を、歌乃の刃が迎え撃つ。
 アウルの光は真っ二つに裂け、響の両脇を通過していった。

「織宮さん!」

 ついに力尽き、倒れ伏した歌乃に、響が駆け寄る。
 その隙を好機と捉えた奈津希。
 さらに前進しようとして、上空から降りてきたエマに進路を塞がれる。

「これ以上はさせないよ〜! Tonitrus!」

 剣状の雷が奈津希の足を止めた。
 戦意は残っている。しかし、攻めの姿勢は弱まっていた。
 これ以上のダメージは危険だと、彼女の身体が判断しているようだ。
 奈津希の動きは目に見えて鈍っていた。



「困りましたね。とても困りました」
「そうは見えんが、たしかにまずい状況か」

 次々に真緋呂の元へ集った敵チームの面々を見て、奈央と知沙が言葉を交わした。

「ヤッホー! 無事みたいね!」
「私は、ね。……米田さんがやられたわ」
「相手はあの二人ですか」
「手強そうだね。みんなの力を合わせよう!」

 チルル、雫、悠司。敵チームの前衛が勢揃いしている。
 チルルと雫に関しては、奈央や知沙よりも明らかに格上だ。二対一でも勝てるかどうか怪しい。
 さらには、両者ともに手加減するつもりはないらしい。
 そしてもちろん、悠司と真緋呂も無視できるような相手ではない。

「降参しますか?」
「面白い冗談だな」

 知沙の提案を、奈央は鼻で笑った。
 Bチームが集まるその場所へ、銃口を向ける。

「妹が戦っている。姉である私が無様を晒せるものか」

 銃声が一発。四人が散開した。
 着弾した『ナパームショット』が爆ぜるのを注視していた悠司の背後から、声が響く。

「というわけですので。今しばらくお付き合い願いましょう」
「うわっ!? びっくりした!」

 咄嗟に盾を活性化し、迫る鉤爪を防ぐ。
 悠司が再び曲刀に持ち替えたときには、彼は知沙の姿を見失っていた。
 しかし、その姿が消える直前まで、知沙を見続けていた者がいた。
 真緋呂が弓に矢をつがえる。

「そこっ!」

 矢が風を切り、虚空を裂いた。
 何も無いはずのその空間に、赤色が舞う。

「……やりますね」

 珍しく笑顔を消して、知沙が姿を現した。
 すぐに微笑みを浮かべ、手にした苦無を真緋呂に投げつける。

「甘いわ!」

 すかさずチルルが射線に割り込み、大剣で苦無を叩き落とす。
 そのまま知沙に向かおうとするチルルに、今度は奈央の銃撃が襲いかかった。

「ちょっと! 邪魔しないでよ!」
「お互い様だ――っと」

 言いながら、奈央は頭を下げて体勢を低くした。
 その頭上を雫の大剣が横薙ぎに通過する。
 表情を変えず、雫が呟く。

「今の一閃、よく避けましたね」
「褒めてくれるのか? ならば礼をしよう」

 至近距離からの銃撃。大剣が銃弾を弾き、雫が再び奈央に肉薄する。
 一方で、姿を隠すことをやめた知沙を、チルルと悠司、真緋呂が包囲していた。

「ようやく観念したようね!」
「ええ、そうですね。そうせざるを得ないようです」

 ふふんと胸を張るチルルに、知沙は相変わらずの笑顔を向けて答えた。
 どういう意味だろうと視線を交わす悠司と真緋呂。
 知沙が、光纏を解除しながら告げた。

「タイムリミットですよ。試合終了です」



●戦いを終えて


 5分間に渡る模擬戦が終了した。
 Aチームは三名が生存、対するBチームは六名が生存。Bチームの勝利である。
 負傷したメンバーが運ばれた保健室は、模擬戦の参加者で賑わっていた。

「……大丈夫?」

 心配そうに尋ねる奈津希に、治療を終えた歌乃が微笑みで答える。

「はい。奈津希様、お手合わせありがとうございました」
「ん。ちょっとやりすぎたかも……」
「そんなことはありません。良い経験になりましたから」
「そう。ならいい」

 そんな歌乃と奈津希のすぐそばでは。
 額に絆創膏を貼ったルーシィが、不満気に頬を膨らませていた。
 たんこぶのできた彼女の頭を、悠司がよしよしと撫でている。

「ぬぅー。まったく活躍できなかったぞ……」
「ごめんね? だけど剣玉の技はすごかったよ。俺、ちょっと感動しちゃった!」
「む、そうか? ならばよしとしておこう!」

 うむっ、と鷹揚に頷くルーシィ。
 後ろでそれを聞いていた奈央が「それでいいのか」と小声でつっこむ。

「……まあ、かく言う私も活躍はしていないか」
「そうですか? 囮としての役割は十分果たしていたと思いますよ」
「そのつもりで動いていれば、嬉しい賛辞だが。というか、いきなり話しかけるな。心臓に悪い」
「あら、ごめんなさい」

 にこにこ。いつも通りの笑顔を浮かべる知沙に呆れたのか、奈央は小さく息を吐いた。
 彼女たちの傍らでは、反省会を兼ねた話し合いが催されている。

「――このように。実戦では、今日の戦いとは違った点に注意が必要なのです」
「だよなあ。一対一って状況は、天魔相手じゃ稀だしな」

 雫の言葉に、希壱がうんうんと頷いた。
 ぽつり、と尚子が呟く。

「……雫っちは実戦とおんなじでマジになっとったけどね」
「何か言いました?」
「いやいやぁ、なーんも。生きてて良かったなーってな? あははー……」

 怪訝な顔を浮かべる雫。尚子は誤魔化すように乾いた笑みを浮かべた。
 じっと話を聞いていた織部が、不意にチルルに尋ねる。

「雪室はどう思う? 相当な場数を踏んでいると聞いたが」
「そうねえ。あたいからのアドバイスはひとつよ!」
「ほう。それは?」
「真っ直ぐいってぶっ飛ばす! これに限るわ!!」
「……なるほど。よくわかった」

 お前に聞いた私が間違っていた、と織部は頭を抱えた。
 一方、ちょうど治療中の一機は呻いていた。

「いててっ!」
「こら、動いちゃダメだってば」
「ご、ごめん……あいたたっ!」

 消毒する真緋呂に怒られ、ひとまず謝る一機だが、痛いものは痛い。
 その隣では、セルカがむすっとした表情を浮かべている。

「あーあ……負けちゃった。わたし、全然役に立ててないや」
「それは仕方ないさ。他の人たちに比べたら、俺らはまだまだ弱いからな」

 一機の言葉に、だけど、と反論しようとして、セルカは口を噤んだ。
 弱いのは事実だ。幾ら否定したところで、現状は変わらない。
 はあ、と息を吐くセルカ。苦笑を浮かべた響が声をかける。

「大丈夫よ、セルカちゃん。そんなに焦らなくても、大丈夫」
「響……。でも、わたしは……」

 なおもセルカは納得いかない様子。
 一機の治療に集中したまま、真緋呂が呟いた。

「今は弱いってことは、これから強くなれるってこと。そこは発想を変えないと。ね?」
「そういうことだ。俺たちなりに工夫して戦うことだってできる」

 真緋呂に同意を求められて、一機も大きく頷く。
 んー、と何かを考え込むセルカ。
 少しだけ静かになった保健室の中で、エマが皆に提案した。

「ねえねえ! ここにいるみんなで、これから出店を巡ろうよ〜!」
「私も賛成です。皆さんと、もっとお話ししたいですから」

 響がそう言うと、他のメンバーからも次々と同意の声が上がる。
 年に一度の文化祭。せっかくこうして集まったのだから、大勢で楽しんだ方が良いだろう。
 模擬戦の参加者たちは、ぞろぞろと保健室を後にする。
 最後まで残っていたセルカの手を取って、エマは笑った。

「行こう、セルカ!」

 楽しい文化祭は、もっと楽しくなる。
 いずれ経験するかもしれない戦いは、きっと乗り越えられる。
 だから。一人きりよりも、みんなで一緒に過ごそう。
 そんな思いを胸に、エマはセルカの手を引いた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
幻想聖歌・
五十鈴 響(ja6602)

大学部1年66組 女 ダアト
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
混迷の霧を晴らすモノ・
エマ・シェフィールド(jb6754)

大学部1年260組 女 アカシックレコーダー:タイプA
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード