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マスター:猫野 額
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/04


みんなの思い出



オープニング

●黄昏時の一幕


「――だあああッ!! お前たち!! 一度に喋るな!!」

 依頼という名の仕事が終わった。
 移動用の車から降りるや否や、誰かがやぶれかぶれに叫んでいる声が聞こえてくる。


 青森県某所。
 未だ傷痕の癒えないその地では、今も人手が必要とされていた。
 討ち漏らした残党は数知れず、破壊されたゲート跡からも次々とディアボロが湧いている。
 町が活気を取り戻す日は遠い。復興を遂げるには、人手だけではなく時間も必要だった。

 現地の撃退庁だけでは、天魔への対処と住民への配慮を両立することは難しい現状である。
 事実、すでにいくつもの案件が「依頼」として、久遠ヶ原学園に預けられていた。
 撃退庁を通さず、直接久遠ヶ原に持ち込まれた依頼も少なからず存在する。
 また学園生の中には、ボランティアという形で青森に滞在する者も出てきていた。

 ここは、青森で活動する撃退士たちが拠点としている旅館である。
 幸いにも悪魔による襲撃の被害は免れたものの、客足が戻る目途は立っていなかった。
 旅館を取り仕切る女将がただ一人残り、復興を手伝う撃退士たちの拠点として開放したのである。


 さて、どうやら騒がしいのは旅館の入口に近い場所のようだ。
 足を向けてみると、学園生の一人が子供たちに囲まれている光景がそこにあった。

「まゆねーちゃん! 今日もカンけりして遊ぶって、オレと約束したよなっ!」
「ちがうもん! あたしと一緒に本を読むの! そうだよね? まゆお姉ちゃん!」
「えー!! みんなで鬼ごっこするんだろ! 昨日まゆねえがそう言ってたじゃんか!」

 数えてみると、集まっている子供たちは5人。
 皆、戦いに巻き込まれて家族と離れてしまった子らだった。
 自分たちと同じく、一時の居場所としてこの旅館で過ごしている。
 そんな5人に対する少女は、はあ、と溜息を吐いていた。

「……どうしてこんなことに……」

 真木綿 織部(まゆう おりべ)。
 少し前にここへやってきた後、滞在を続けているナイトウォーカーである。
 本人曰く「戦闘要員として来た」らしいのだが、到着したとき彼女は負傷していた。
 怪我の治りを待つ間に子供たちの面倒を見た結果、ずいぶん懐かれてしまったらしい。

「わたしが先に約束したの! 順番は守らなきゃダメなんだよっ!」
「そうやってまゆねーちゃんをひとりじめするつもりだろ! ずるいぞ!!」
「なによ! 最初にお姉ちゃんをひとりじめしようとしたのはアンタでしょっ!?」

 話題の中心にあるのは織部のはずだが、当の本人は放置され気味である。
 少し離れて傍観を決め込んでいると、向こうがこちらに気づいたようだ。

「ん、戻ったのか。夕飯は準備中らしい。風呂ならすぐ入れるはずだが――」
「ボクがまゆねえを連れてきたんだから、ボクの約束が一番だよ!!」
「そんなのダメ! あたしが先なんだから!!」

 ……そう織部が告げる間にも、子供たちは口論をやめない。
 大丈夫なのか、と尋ねると、織部は肩を竦めた。

「自分でまいた種だ、自分で何とかする。そっちはゆっくり休むといい」

 織部の言葉に甘え、旅館の中へ。
 後ろで誰かを叱る声が聞こえる気がするが、あえて振り返らないことにした。
 靴を脱ぎ、無人の受付があるロビーへ進む。

「……おかえり」

 ふと声をかけられ、そちらに顔を向けてみれば。
 三匹の猫に囲まれて、一人の少女がごろごろとくつろいでいた。
 ……勝手に猫を屋内に連れ込んで、大丈夫なのだろうか。

「女将さんから許可もらった」

 こちらの表情を伺いながら、少女は――笆 奈津希(まがき なつき)はコクリと頷いた。
 ルインズブレイドである彼女は、先月からこの旅館を拠点に活動を続けている。
 さらにこちらの考えの先を読むように、奈津希は続けた。

「この子たち、迷子。拾ってきた。わたしが世話する」

 どうやら野良猫というわけではなく、三匹とも飼われていた猫らしい。
 奈津希の話によると、餌付けしてここまで連れてきたようだが……
 勝手に保護して大丈夫なのだろうか?

「大丈夫。……たぶん」

 たぶんかよ。
 内心でツッコミを入れていると、背後で「おっ」と声が上がった。

「おかえり。その様子だと、無事に依頼をこなせたようだな」

 振り返った先では、一人の女性が濡れた髪をタオルで拭いていた。
 彼女は笆 奈央(まがき なお)。大学部所属のインフィルトレイターである。
 妹の奈津希同様、すでに一ヶ月以上こちらに滞在している。

「良い湯だったぞ。夕飯まで時間もあることだし、入ってきたらどうだ?」

 どうやら先ほどまで、彼女は風呂に入っていたらしい。
 今なら貸し切りだ、と笑う彼女に、首を振って答える。

「そうか? ……まあ、無理に勧めることもないか。
 余計な世話だとは思うが、休めるときにしっかり休んでおくことだ。
 いざというときに疲れて動けない、では困るからな」

 さて、と奈央は髪を拭く手を止めた。

「今夜は特に依頼も無いことだし、互いに自由な時間を満喫しようじゃないか。
 万が一に備えて気を張りっぱなしでは、身体がもたんからな。
 真木綿のように子供たちの相手をするもよし、奈津希のようにひたすらごろごろするもよし。
 風呂で疲れを癒してもいいだろうし、もう一汗流すために外で訓練というのも悪くない。
 しかしまあ、撃退士にも休息は必要だ。あまり騒ぎ過ぎて、明日以降に疲れを残さないように気をつけてくれ」


リプレイ本文


●少女と猫と牛乳と


 小さなことからこつこつと。
 復興を為すには、積み重ねが肝要である。
 ……と、歌音 テンペスト(jb5186)は考える。

「というわけで。まずは、まな板から復興させてみよう」
「はい?」

 縞猫を抱いたまま、笆 奈津希が首を傾げた。頭上に疑問符が浮かんでいる。
 ちらりと奈津希を見た歌音は、首を横に振りつつ目を伏せた。

「少しは育ったかなあと期待してたけど、成果は出ていないようね……」
「はあ。何の話です?」
「ここよ」

 とんとん。自分の胸を親指で示す歌音。
 う、と奈津希が呻いた。

「……あれからちょっとしか経ってないですから」

 歌音と奈津希。
 この二人、夏休み中に猫カフェで一度遭遇している。
 そのとき話題に上がったのが、奈津希の胸である。
 絶壁である。ぺたんこである。

「そんな奈津希ちゃんに、カッティングボード卒業のための定番食品を持ってきたわ!」
「カッティングボード……」

 奈津希の小声を華麗にスルーし、じゃーん!と歌音は牛乳を取り出した。
 寝ていた黒猫が薄く目を開けた。縞猫と白猫がすんすんと鼻を鳴らし始める。

「まな板の上に立派なメロンを育てる! そのためには牛乳が欠かせないのよ!」
「……毎日飲んでますけど」
「あら、そうなの? じゃ、ちょっと趣向を変えましょう」

 取り出したるは五枚の皿。
 とくとくっと牛乳を注ぎ、三枚は歌音を見上げる猫たちの前へ。
 そして四枚めが奈津希に手渡される。

「はいこれ。奈津希ちゃんの」
「え。あの」
「うんうん、シチューもおでんもごくごくいってるわね! シャミーもいい飲みっぷりよ!」

 歌音から皿を渡され、奈津希は困った。
 飲めないことはない。飲めないことはないが、飲みづらい。
 シチュー(白猫)、おでん(縞猫)、シャミー(黒猫)のように、ぴちゃぴちゃ舐めるわけにもいかないし……
 他に器は無いのか、と尋ねるべく、顔を上げた奈津希。
 思わず疑問が口をついた。

「……何してるんですか」
「れ?」

 ぴちゃぴちゃ。歌音が牛乳を舐めていた。
 器用だ。いや、そうじゃなくて。え? なんで?
 混乱する奈津希をよそに。

「ごろにゃ〜ん♪」

 歌音は、すっかり猫になっていた(?)。
 思い思いに奈津希に甘える三匹に混ざって、体をすり寄せてみたり、ふんふんとにおいをかいでみたり。

(……どうすればいいの)

 牛乳の入った皿を持ったまま、奈津希はただただ困惑することになった。



●露天風呂復旧隊!


「すいすい〜っといきます!!」

 デッキブラシを持った神雷(jb6374)が、物凄い勢いで滑っていた。
 『磁場形成』で浮き上がっている彼女。
 さながらアイススケートでもしているかのようである。

「……露天風呂、使えるようになりましたの?」

 そんな神雷を横目に、橋場 アトリアーナ(ja1403)が誰ともなく尋ねた。

「うん。依頼の合間にちょっとずつ直してたからね」

 応急処置だけど、とナナシ(jb3008)が答えた。

「この感じだと、お湯を張れるのは早くて明日かしらねェ?」

 ちょっと残念だわァ、と黒百合(ja0422)は肩を竦める。

「露天風呂はお預けでござるか……楽しみは明日以降にとっておくでござる」

 こく、とエルリック・リバーフィールド(ja0112)が頷いた。

 五人は、使われていない露天風呂を掃除していた。
 天魔の一件の直前に使用を停止し、近く修理をする予定だったという。
 女将の許可を得て、使える程度までナナシが直した。
 壊れている箇所が見える場所にあり、そこまでひどくなかったのが幸いだった。

 各々がデッキブラシやタワシ、水を撒くためのホースを持ち、落ち葉を集めたり汚れを落としたり。
 露天風呂の清掃は、順調に進んでいた。
 ……進んでいたのだが。

「あ」

 つるんっ。
 『磁場形成』で遊んでいた神雷が滑った。
 宙を舞うデッキブラシ。

「え?」

 何事かと振り返ったアトリアーナ。
 襦袢姿の神雷が飛んできていた。

 ごっ。

 鈍い音がした。

「わあああ!? アトリーっ!!」

 ぽーんとタワシを放り投げ、目を回したアトリアーナにエルリックが慌てて駆け寄る。
 気絶している神雷を見て、ナナシが乾いた笑みを浮かべる。

「……まあ、そうなるような気はしてた」
「大丈夫ゥ? 死んでないでしょうねェ?」

 口では心配しつつ、黒百合は笑っていた。
 人手が減り、陽も傾いてきたということで、本日の作業はここで切り上げられた。



「……う」
「アトリ!」

 アトリアーナが目を開けると、心配そうなエルリックの顔があった。膝枕の視界である。
 ゆっくり体を起こし、ここが旅館の客室であることを視認する。

「アトリ、拙者がわかるでござるか!?」
「エリー、ですの」

 返事を聞いて、エルリックはようやく安堵の息を吐いた。
 記憶が飛んでいたらどうしようかと気が気ではなかったようだ。
 まだどこかふわふわしているアトリアーナに状況を伝える。

「……お風呂は後で、ですの?」
「左様。今は、他の方々が入っているはずでござる」
「そうですの……」

 ぽふ。エルリックの膝に倒れ込むアトリアーナ。
 心配そうな表情に戻ったエルリックに、微笑みを向ける。

「しばらく……こうしてますの……」
「そうでござるか……せっかくでござるし、耳かきなどいかがでござろう?」
「ん。お願いしますの」

 ひと波乱あったものの、部屋でのんびりと過ごしたエルリックとアトリアーナ。
 この後、アトリアーナが耳かきのお礼としてマッサージを施したのだが……
 ちょうどこの時間帯、部屋の外までエルリックの悲鳴が聞こえたとかなんとか。



 ところ変わって大浴場。

「はふぅ。気持ちいいですねえ」

 神雷が、のほほんと呟いた。
 頭に立派なたんこぶができていた。

「…………」

 同様に湯船につかる黒百合は、少々不機嫌である。
 浴場にお酒を持ち込もうとして、女将から止められたせいである。

「あ、こらっ。暴れないの!」

 ナナシは、黒猫(シャミー)を連れてきて洗っていた。
 その頭にはタオルが巻かれている。

「……ふむゥ。ここはひとつゥ……」

 にやり。黒百合は『遁甲の術』を使った。
 黒猫を洗うナナシの背後に近寄る。
 今こそ、帽子の中身を確認するチャンス。

「!!」

 タオルに手が触れる直前、何かを感じたナナシが飛び退いた。
 チッ。露骨に舌打ちする黒百合。

「もう少しだったのにィ」
「油断も隙もないわね……」
「素直に見せてくれるなら、面倒が少ないんだけどねェ?」
「悪いけど、それは無理な相談よ」
「交渉決裂ゥ。じゃ、実力行使ということでェ♪」

 ……忍軍二人による追いかけっこがはじまった。
 どちらかが自分と同じ目に遭いそうだなあ、と思いつつ。

「平和ですねえ」

 はふぅ、と神雷は息を吐いた。
 体を振って水を落としていた黒猫が、フンッと鼻を鳴らした。



●趣味の時間


「おかみさん。何か手伝えること、ありますか?」

 調理場に顔を出した礼野 智美(ja3600)が、割烹着姿の初老の女性に尋ねた。
 柔和な笑顔を浮かべて、その女性――この旅館の女将が質問を返す。

「あら、智美ちゃん。おかえりなさい。お仕事で疲れたでしょう? 休まなくても大丈夫?」
「大丈夫です。ぜひ手伝わせてください」

 この場所を使わせてもらっているのだから、少しでも恩返しを、と智美は常々考えていた。
 自分たちはボランティア側。本来なら、女将に迷惑をかけてよい立場ではない。

「そうねえ、奈央ちゃんと一緒にお夕飯の準備をしてくださる? 私は大広間の方を見てきますから」

 お願いしますね、と軽く頭を下げて、女将が調理場を後にする。
 部屋の奥で材料を切っていた笆 奈央が、顔を上げた。

「珍しいな。弟くんとは別行動か?」
「ええ。稽古をつけてやる予定でしたが、今は外に」
「稽古か。何なら私が相手をするが?」
「遠慮しておきます。夕食の準備が先です」
「それもそうだな。手合せは、またの機会か」

 それきり、智美と奈央は口を噤んだ。
 包丁がまな板を打つ音。空腹を誘う良い香り。無言の空間。
 ふと、奈央が調理の手を止めた。

「礼野」
「はい」
「女将も言っていたが、少し休んだらどうだ」

 時間に余裕があれば、各部屋を回って掃除をしたり、女将に声をかけて仕事を手伝ったり。
 奈央の目から見た智美は、とにかく働きたがっているように見えた。
 逡巡の後、智美が少し恥ずかしそうに話し始める。

「……普段は常に家事をしているもので。空いた時間の使い方が……」

 ああ、と奈央は苦笑した。
 仕事が無い状態が落ち着かない、というのは共感できる。

「そういうことなら納得だ。……私たちより働き詰めの人もいるし、な」
「……そうですね」

 立派な旅館だ。休業中とはいえ、女性一人では大変だろう。
 二人は、再び口を噤んだ。



●夕暮れの喧騒


「さて。必要な資料はこんなものかしらね」

 グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)の目の前には、書類が山積みになっていた。
 自室で一人、伸びをする。ここからが本当の仕事だ。

(……あの町は被害が大きかったから……ここは人手が足りてなくて……)

 復興計画。その要約を、明守華はまとめていた。
 強敵は退けた。しかし、状況は停滞気味だ。
 大きな傷を負った人がたくさんいる。体にも、心にも。
 現地に滞在する明守華たちが、これからすべきことは何か。
 明日以降の為に、現状を正確に把握し、優先順位をはっきりさせておく必要があった。

(ええと……こっちを先に片づけて……うん、これも手伝った方がいいわ)

 自然に熱が入り、だんだんと盛り上がってきたところで、外が騒がしいことに気づいた。
 明守華が窓の外に目をやると、駐車場で子供たちが遊んでいた。
 撃退士の誰かが巻き込まれているようだ。

(甘えたい盛りってことよね……)

 子供たちにとって、撃退士は憧れの存在でもある。
 それを抜きにしても、家族と離ればなれになっているのだから、抱える不安は大きいはずだ。

「……残りは後にしましょうか」

 レジュメの作成に区切りをつけ、明守華は部屋を出た。


 ――数分後。

「今だっ!」

 すこーん。スチール缶が宙を舞った。

「あっ!? いつの間に!?」
「やったあ! オトリ作戦、大成功っ!!」

 わいわいと盛り上がる子供たち。その隣で、ぐぬぬと唸っているのは明守華である。
 現在、カンけり0勝2敗。明守華が勝てないのは、経験の差によるところが大きい。

「もう一回! 今度こそ全員捕まえてみせるわ!」
「えー? まだやるの?」
「今度は鬼ごっこしよーぜ! 鬼は明守華ねーちゃんな!」

 すまし顔で駐車場にやってきた明守華だったが、今ではすっかり子供たちに馴染んでいた。
 その輪から少し外れた場所で、真木綿 織部が小さく息を吐く。

「お疲れのようだな」

 声をかけられ振り向けば、制服姿の神凪 宗(ja0435)が立っていた。
 頭から右目にかけて巻いてある包帯が目を引く。

「……その傷は?」
「治らんほどのものではない」
「そうか」

 一度言葉を切り、織部は視線を子供たちに戻した。
 宗が隣に並び、同じように駐車場を眺める。
 視線はそのままに、織部が再び口を開いた。

「話は尚子から聞いている」
「……ああ」
「あの時は迷惑をかけた」
「気にするな。真木綿が元気そうで何よりだ」
「今度は、そちらが重傷だがな」
「耳に痛いセリフだな」

 織部が小さく笑った。
 それに気づかず、宗が続ける。

「子供の相手を手伝おうか、と思ったが……必要なさそうだな」
「ご覧の通り、増援なら間に合っている」
「……あれは?」

 織部と宗の正面、子供4人と明守華が鬼ごっこで盛り上がるその向こう。
 同じ年頃の少年が2人、何やら言葉を交わしている。
 ああ、と織部が目を細めた。

「彼に任せた。私も気になったが、歳の近い同性が話し相手の方がいいだろう」
「そういうことなら、余計な口出しは控えておくか」
「神凪はまず怪我を治した方が良い。子供の相手はそれからにしておけ」
「……経験談か?」
「まあな」

 ひどい目に遭ったよ、とばかりに織部は肩を竦めた。
 尤もな意見かもしれん、と宗は思った。
 視線の先では、明守華が子供たちに振り回されていた。
 皆の表情は明るいが、なるほど怪我人には少々激しすぎる運動になりそうだ。



「――こんばんは」

 声をかけられたが、少年は無視した。
 そっぽを向く彼の正面に回り込んできたのは、礼野 明日夢(jb5590)である。

「これ、一緒に食べませんか?」

 明日夢が掲げたのは、飴がたくさん入った袋だった。
 少年は無言で首を振る。明日夢から逃げるように、顔を逸らした。

(……うーん。どうすればいいのかな……)

 依頼から帰ったとき、皆と距離を取る少年に気づいた明日夢。
 義姉である智美に相談し、お菓子を持ってきたものの、反応は良くなかった。

 普段は周囲が女性ばかり、知り合いの男性は明日夢より年上ばかり。
 同世代の同性と関わる機会は、明日夢にとって貴重と言えた。

「えっと……お名前、聞いてもいいですか?」
「…………ケイタ」

 明日夢より一つだけ学年が上の少年は、ようやくぽつりと言葉を発した。
 引き出せたのはたった一言だったが、明日夢は安心し、同時に喜んだ。
 笑みを浮かべて自分も名乗る。

「ボクは明日夢って言います。ケイタさんは、あっちのみんなと遊ばないんですか?」
「いい」

 ふるふると首を横に振る。
 不思議そうに見つめる明日夢に、ケイタはぼそぼそと理由を語った。

「……なかよしは、おわかれがつらいから」

 ぽつりぽつりとケイタは続けた。
 天魔のせいで、学校のみんなに会えなくなった。
 お父さんやお母さん、家族のみんながどこに行ったのかもわからない。
 人と別れる、ということが、とてもつらいとわかった。
 だから、ここの人たちとは距離を置く。おわかれがつらくならないようにする。
 ケイタの考えを聞いた明日夢は、しばらく黙り込んだ。
 難しい顔をしていた明日夢だったが、小さく頷き、自分の思いを口にした。

「ボクも、おわかれはつらいって思います。だけど、なかよしがいないと、さびしいと思うんです」

 ケイタは、じっと明日夢を見つめた。
 明日夢も真っ直ぐに見つめ返す。

「ケイタさんも、ボクも、いつまでここにいるのかはわかりません。
 でも、きっといつか、おわかれする日がくると思います。
 そのとき、『さよなら』って……『またね』って言える友だちがいないのは、とてもさびしいことだと思うんです」

 だから。明日夢は笑顔を浮かべた。

「一緒にお菓子、食べましょう。ボクと、なかよしになってくれませんか?」

 ケイタは、明日夢の顔と菓子袋を交互に見た。
 長い沈黙だった。近くでみんなが遊ぶ声が、やけに大きく聞こえた。
 明日夢の中で、不安がどんどん膨れ上がってきた、そのとき。

「ん」

 ケイタの手のひらが差し出された。
 明日夢は、今度こそ満面の笑みを浮かべ、その手に飴玉を落とした。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

銀と金の輪舞曲・
エルリック・R・橋場(ja0112)

大学部4年118組 女 鬼道忍軍
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
ArchangelSlayers・
グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)

高等部3年28組 女 アストラルヴァンガード
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB