●集いし者は何を考える
撃退士は集まった。
岩井次郎さん、登美子さん夫妻をディアボロの脅威から守る為に。
敵は巨大な虫。トンボ、ゴキブリ、ムカデ、サソリ型のディアボロ。
「不快害虫なんざもう見飽きた、でけぇだけの虫なんぞ芸がねぇ」
度重なる依頼を達成してきた麻生 遊夜(
ja1838)。巨大な虫も面白みに欠ける敵である。
「巨大昆虫、普通は自重で潰れそうな気がしないでもないが…」
大澤 秀虎(
ja0206)は感じる、敵の巨大となった体の在り様を。そこに意味があるのか思案する。
「この前は白亜期の恐竜に会ったが、今度は石炭紀の昆虫か…
古生物好きな天魔がいるのかねえ、いい趣味してるよ」
一方、再度の古生物型の天魔に、不破 玲二(
ja0344)は悪魔の思考を考える。
巨大な虫。地球上にもかつて存在した。
石炭紀。ジュラ紀や白亜紀よりも前の時代。地球の酸素濃度が濃く、シダなどの巨大植物、そして巨大虫が辺りを横行闊歩していた。
ディアボロ。悪魔が作りし者。嘗ての生物の姿は、創造が簡単なのか分からない。ただ、今ある生物を大きくしただけかもしれない。
しかし、撃退士は、分かる事だけでも考える。大きさや形の意味や特徴を考える。
「私はそんなに虫は苦手じゃないけど…。みんなは違うのかしら…?」
田舎に住んでいた九鬼 紫乃(
jb6923)にとって、虫は見慣れたものだ。
「最近、昆虫しか相手にしておらんの」
「赤トンボの羽を取ったら油虫♪油虫の足を取ったら柿の種♪」
イオ(
jb2517)は、昆虫との戦闘が続くことにげんなりし、蒼唯 雛菊(
jb2584)は敵の主要な移動の機能を奪うことを思案する。
2人は全く虫を恐れない。今回のメンバーは虫に強いものが集まった。それは、苦手意識からの不用意な動きの束縛を意味しない。皆が確と敵対できるだろう。
「でも、斬った張ったしかできないのが辛い…」
雛菊は辛さも滲み出る。人間の老夫婦に育てられたことに思いを馳せる。しかし、老人の多くにとって、天魔の出現は最近のこと。人生の大半を天魔を知らずに過ごした老人の天魔への思いはわからない。
自らが悪魔である事の影響を考える。
「夫婦を驚かせたくないのでな。大き目のフードをかぶって角は隠しておくぞよ」
イオも雛菊と同じ悪魔である。相手の事を考え、フードをかぶる。
優しい悪魔たち。一般人に憎悪として見られる可能性を考慮しての、人への控えめな行動を決める。
作戦を立てる。メンバーの特徴を考慮して、2人の護衛と6人の戦闘に分ける。
基本、籠城戦。万が一の場合は夫妻を連れて避難するが、原則、家などに阻霊符を用いて、夫妻を守る。腰を痛めたおじいさんの事を考えてこそ、移動はできる限りしない。
皆のおじいさん、おばあさんへの優しさが方針を決める。
トンボ、ゴキブリについては翼を狙う。ムカデは顎を、サソリは尾を狙い、毒持ち部位を破壊する。
「特にゴキブリとムカデは確実にしておきたい、見失うと厄介過ぎる」
「トンボは複眼だし回避率は高そうだな」
遊夜はゴキブリ、ムカデの隙間への隠れに注意し、玲二はトンボの速さ、身の躱しを危惧する。
「形状と速度を考えれば、点の攻撃では不利か、散弾銃でもあればいいんだが、いやろくに訓練していないものを使おうと考えるのが愚策、流れ弾で被害を出すわけにも行かんか」
敵の能力を考え、秀虎は面での攻撃を思案するも己の向きではない。
「イオらの連携で面の攻撃となるのじゃ」
イオは応える。個々では点であっても皆の攻撃が面と成り得ると。
そして皆が作戦を頭に入れ、ディメンションサークルに進んでいく。
●幸せのために皆は戦う
木々が揺らめき、葉はこすれあい、木漏れ日が差し込む。
転移装置から、出現した場所は山の中。
「楓、ここがどこだか分かるか?」
「ちょっと待って、尾根や沢を見る限り、集落から然程遠くないぞ」
現在地を確認するのは、紅織 史(
jb5575)と里条 楓奈(
jb4066)。事前に地図を用意し、地形を理解している。
本来ならば、多くの人が生活し、活気に満ちた空間。天魔の襲来に避難した住民。山の中は、木々だけが揺らめき、静寂に満ちる。
撃退士たちは動き出す。日常を取り戻す為に。
「敵より遅く到着なぞ洒落にならん…急ぐぞ」
楓奈は、家の方向を読み、早急に岩井夫妻宅へと向かう。
「確かに急いだ方が良いね、何が起こるか解らないし」
史も楓奈に続く。友人である二人は誰よりも手際よく進めていく。
皆も続く。岩井夫妻宅へと向かっていく。
進む、進む、草木をかき分け、山の中を集落へと、岩井夫妻の元へ。
眼前、上空にトンボが襲来。
猛スピードで撃退士の場へと飛んでくる。
「気をつけろ。トンボだ」
逸早く、敵に気づいた秀虎が皆に知らせる。柄を持ち、抜刀できる態勢を維持する。
皆が声を聞き、トンボの方を振り向く。
スピード衰えることなく飛び続けるトンボ。
トンボの狙いは紫乃だった。勢い良く紫乃に飛びかかり、脚で捕捉をしようとする。
「……私は大丈夫です」
警戒が功を奏した。もしトンボに捕われ連れ去られていたら、人間である紫乃にとって、上空から落ちるのは危険なことだ。上手く降りれても1対1で天魔と戦うのは分が悪い。
「ダメージはそれほどありません」
紫乃は、皆に被害の程を伝える。
トンボの視野は大きかった。複眼かつ動き回る事で、360℃をカバーするトンボの方が敵の感知を早くした。
「私ら護衛班は先に岩井宅へ向かうぞ」
「後ろは任せるね」
楓奈と史が全力で岩井夫妻宅へと進行する。
既に家への距離は近い。後方からの敵は戦闘班に任せて全力で進む。
トンボは勢いを削がれるも、そのまま上空へと飛び続ける。
戦闘班は周囲を確認。新たな敵の出現の有無を確かめる。
「他の敵はいないようじゃのう」
敵が1体と分かり、イオが光の玉をトンボに放つ。
「夫妻の送迎で忙しいんだ、さっさとお引取り願おうか」
続いて遊夜と玲二が銃をぶっ放す。
トンボの羽に血の様なエフェクトが浮かび上がる。
遊夜の弾丸が的中したのだった。トンボの位置が分かるようになる。
そして、岩井夫妻宅へと皆も進んでいく。
再度の攻撃を警戒するも、来ることはなかった。1対6で戦う事はないらしい。周囲を警戒し夫妻宅へと向かって行く。
岩井宅へ到着した史と楓奈では扉を開けるや声をかける。
「遅くなった。我ら二人が貴方方の護衛を、外では仲間が殲滅にあたってくれている。安心して欲しい」
「楓、それは硬いよ?少しの間大変だと思いますが、安心して下さいね」
撃退士の到着を確認すると、即座に次郎さんが言う。
「妻を早く避難させてくれ」
自らが動けなくなった為に妻までも危険に晒している事が許せなく思っている。
「大丈夫ですよ。撃退士の方々も来てくだっさたことだし」
登美子さんがおじいさんへと声をかけ、安心を2人で分かち合う。
「少し、腰を見せてもらっていいですか?」
おばあさんが夫の体から離れると、史がアウルを腰に当てる。
「おお、ありがとうね、腰が良くなってくる気がするよ」
おじいさんは、治療を受けて良好な変化を感じる。今回のぎっくり腰に細胞の活性化が役立ったかは、医者ではない為分からない。しかし、心理的には安心を与えた事は確実だ。
「次は、冷罨法を施します」
史に代わって、楓奈が治療を試みる。
「お二人にはお子さんが居られるんですか?」
史は楓奈が治療する間には、夫妻へと話しかけ、気が少しでも紛らうように心がける。
「腰の具合はどうでしょう?まだ痛みは酷いですか?」
友人である、楓奈と史は2人で手際よく治療を進めていく。
そうこうしている内に戦闘班も家へ到着。
「お待たせしました岩井さん。どうかご安心下さい、我々撃退士が来たからにはもう安心ですよ」
玲二が到着と同時に、夫妻に話しかける。
続いて、遊夜に紫乃、秀虎、雛菊が顔を出し、全員を駆けつけた事を知らせ安心させる。
皆が老夫婦を仲の良さを見て温かい気持ちになる。しかしそんな中、紫乃は自らの因習だらけの家では見れない光景に、笑顔半ばの面差しで羨ましく思う。
「1人は外で待機しているのぢゃ」
イオは、雛菊が悪魔だからと接触を避けることを理解しつつも、イオらとともに一緒に守っている者がいる事を夫妻に伝える。
そして、史と楓奈は2人は夫妻の護衛につき、戦闘班の6人は外へディアボロ退治に向かう。
6人は敵を探す。家の周囲から徐々に範囲を広げていく。
遊夜と玲二は熟練した技術をもとに、特に広範囲を探していく。敵の一部でさえ見えれば発見可能だ。
一方、紫乃はアウルで雷を顕現し空へと放つ。発生する音や光で注意を引く為だ。しかし、反応はない。敵は、ただじっと敵が捕捉できるのを待っているのかもしれない。
皆で協力し探し続ける。建物裏や壁と壁の隙間など、敵の潜める場所を探り求める。
「サソリ発見だよ」
雛菊が皆に連絡すると、皆が駆けつける。
「キンッ、キンッ」
サソリが鋏を動かし、尾を雛菊へ向ける。連絡する間にもサソリは近づき襲ってくる。
攻撃を見るや雛菊は空へと跳躍する。
「黒狼、蒼唯雛菊行きます!」
声と共に大剣を振り下ろす。敵の発見から、連絡の間に広い場へと移動していた。辺り構わず振り回す。
仲間が各方面から到着。
「ゴキブリもだぜ」
壁に張り付くゴキブリ。遊夜が見つけ、皆に伝える。
「トンボもこちらへ向かってきてるぜ」
既に皆が到着し、臨戦態勢。敵はサソリとゴキブリが集まっていた。そこにトンボが向かい、3体で撃退士と応戦する模様だ。
玲二と遊夜はその場で索敵を行い、ムカデが潜んでいないか確認する。
発見できず。しかし、1体だけならば、万が一でも護衛班で対処できるだろう。
護衛班にこちらの情報を伝え、戦闘に入る。
ゴキブリが動く。地を這い、秀虎へと迫る。
「紙一重の勝負なんざしたくはないが」
言葉と共に闘争心を解き放つ秀虎。
ゴキブリが歯をむき出しにし噛みつく瞬間。
「シュッ」
抜刀術。秀虎の刃がゴキブリを捉える。
「キーン」
殻へと直撃。秀虎の抜刀術が見事に決まった。ゴキブリの攻撃は秀虎へと届かず、後退させられる。
そこに、トンボが追撃。秀虎を脚で掴む。力が強く、秀虎は抵抗を見せるも離れられない。
玲二と遊夜が弾丸を放つ。地から仲間のすぐさまの敵をめがけた弾丸。やや敵の上寄りに放つ。
トンボは弾丸が掠り、秀虎を離す。
敵の連撃が幸運なほど決まった形だった。
秀虎は直ちに態勢を立て直し、武器を構える。
混戦となる中、イオがサソリにワイヤーを絡める。この場へとイオは忍び寄っていた。
「今じゃ」
イオが皆へとサソリの捕縛を伝えると同時に、サソリの尾へと紫乃は燃え盛る炎の槍を打ち立てる。
さすがに一撃での破壊には至らない。しかし連撃が続く。
秀虎が直刀で斬り込む。
「刺されてたまるか」
そこへ、雛菊が大剣を振り下ろす。力強い一閃が尾を分かつ。
尾の切断と同時に、サソリは飛び跳ねるように前方至近にいた、秀虎へと鋏を切りつける。
攻撃を受けるも、毒はない。耐える間に仲間の攻撃が到達する。
続いて、イオに紫乃がアウルを放った。
一直線に敵へと命中し、サソリは息絶える。
一方、護衛班では。
史と楓奈は、ムカデの襲撃に備える。戦闘班が発見できないとなると、見えない場所にいる可能性が高い。
ヒトの気配を感じ、いつ襲ってきても不思議はないと警戒は緩めない。
定期的に2人は外を確認する。
「アヤ、ムカデだ」
襲撃は突然。楓奈は史に声をかけると同時に、刀を払う。
「楓、大丈夫か?」
「問題ない、地中にいたんだ」
史は楓奈を心配するも、毒を受けるも致命傷となるほどではないらしい。家の前に位置を取り、2人が臨戦態勢になる。
「悪いが、ここを通す訳にはいかんのでな」
「楓の言う通り、ここまでさ」
楓奈がスレイプニルを召喚し、史が大鎌を構える。
ムカデは動きを見せない。毒で弱まるのを待っているのか?
敵が不動の好機を逃さず、ムカデへと向かい結界を展開する。
ムカデは気配を消すことに優れ、隠れることが得意であった。しかし、毒以外の力は弱い。
回避できずに、陣に束縛される。
停止したムカデへと、スレイプニルが顎へと一撃を放つ。毒部位を破壊する。
続いて史が大鎌を振り下ろす。ムカデの全長以上の大鎌の一撃
ムカデは動けぬままに両断され息絶える。
撃退し終わると、楓奈の毒も既に引いていた。食らった被害も治癒膏で回復する。
残るの戦闘班の退治する天魔だけとなる。
戦闘班では。
サソリが息絶え、トンボに狙いを定める。
玲二がトンボへと射撃する。敵の動きを封じ、遊夜の技を必中させる為だ。
「なぁ…てめぇも墜ちて来いよ、俺みたいに」
遊夜は神経を研ぎ澄ました対空射撃を放つ。放たれた弾丸はトンボの羽を穿つ。
力を振り絞るようにトンボは残った羽を使って、遊夜の場へと下降する。
執念の一撃を見せる。遊夜に噛みついた。
直後に、トンボは地に囚われる。
「よし、二度と飛び上がれないようにしてやれ」
サソリを撃退した直後とはいえ、誰も気が緩んでいない。
雛菊が大剣を振り、イオのアウルが放たれる。
羽をもがれたトンボは回避も何もできずに、無残に散った。
残るはゴキブリ1体。
紫乃が槍型の放物線を放つ。ゴキブリの元で爆発する。
ゴキブリは躱す。しかし次へと繋がる。上からの攻撃に前へと避けた。
「さすがに、こっちも余裕が無いんでな、さっさと決めさせてもらう」
秀虎が抜刀する。
ゴキブリは刃に討たれ、宙に出される。
その瞬間を見据えて、遊夜が対空射撃を放つ。
羽がもがれて地に落ちる。
しかし、落ちたからと言って終わりでない。
飛べないに過ぎない。地を這えばいい。移動すべてが飛行で行われるトンボと違う。
地を猛スピードで這いつくばり、イオに噛みつく。
即時、イオが反撃に出る。至近距離でアウルを放つ。
ゴキブリは受けた勢いと共に、重心が傾く。
そこへ、玲二が銃を撃ち更に不安定に。
本来は飛行で飛べば逃れたけれど、羽なき今は地に足付くまで動けない。
雛菊が大剣を振り上げる。殻に覆われていない、腹への一撃。
放物線を描くゴキブリ。
「これでサヨナラだ、さっさと帰りな」
遊夜が止めのショットを撃ち放つ。
ゴキブリは土へと帰すのであった。
●幸せを守り通したその先は
「ありがとうございます、撃退士のみなさん」
「妻を助けてくれて本当にありがとうございます」
登美子さん、次郎さんは感謝を述べる。
「また、夫婦そろって孫に会えると思うと……」
感極まって涙を流す。
撃退士たちは岩井夫妻の幸せを、夫妻の子供、孫と繋がる幸せを守り通した。
多くの幸せを守るのであった。