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マスター:立鳥鳴秋
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/08


みんなの思い出



オープニング

●悩む少年

「う〜〜ん」
 悩める少年が廊下を歩いている。
「う〜〜ん、どうしたらいいのか?」
 頭を抱え込み、途方に暮れていた。
「何をそんなに悩んでいるんだ?」
 困り果てている生徒を見つけ、声を掛ける教師。
「最近、今のままでは駄目だと思うんですよ。新しい物が欲しいんですよ」
「何をそんなに手に入れたいんだ?」
「通り名ですよ、通り名」
「え、」
 驚く先生。
「おまえは『間違われる者』で有名じゃないか。加えて『当日、体調を崩す』も知ってるぞ。更におまえは、それをネタにして、笑いを取っているじゃないか?」
 少年こと天川朔夜は呼び名をネタにする。どんな名前さえ、少年にかかれば享楽の材料となる。
「それはそれ」
 両手をもって、手許の品を遠くにやる仕草と共に、力強く語る。
「シリアスな称号が欲しいんですよ。格好いい呼称で呼ばれたいんです」
「そう言う物か?おまえは今だって十分にすごいぞ。皆を笑わせる事はすごい才能だぞ」
 きょとんとした教師。それ以上のすごい物を持っていると力説する。
「オレだって、まだ14歳ですよ。強い姿に憧れますよ。竜に剣鬼、紅蓮、漆黒、爆ぜる、屠る。そんな言葉で表されたい」
 天川は、強く、格好いい姿に憧れ、心を奪われる。周囲の強者達に思い焦がれる年頃だ。
「どうするかなぁ? 天川、確か、戦闘は苦手だったよな?」
「そうですよ、苦手ですよ。だからこんなに悩んでるんじゃないですか。本当の竜の天魔に前線で戦う自身ありませんよ。援護に回るのが精一杯ですよ」
「ちょっと、思いつくには思いつくんだが。あまり良い方法と言えないからな」
「何ですか? 方法があるなら教えて下さい」
 天川は、今すぐ知りたいと急き立てる。
「称号はさぁ、詰まる話が、名称通りに認められればいいんだろう。えーっと、だからな」
 教師は言うのが良しとは思えず、言葉を濁す。
「早く、早く話して下さい」
 待ちきれない様子で教師をどんどん急かす。
 希望と好奇を織り交ぜている視線を向けられ、とうとう教師が説明を始めるのであった。

●ミミズが竜へと化けるお話

「ぶっちゃけ、依頼の内容を大げさに伝えればいいんだよ。依頼遂行時の行動なんて、当事者達しか知らないんだから、学園に戻ってきたら自由に話せばいい」
「そんな事して、ばれませんか?」
「それはおまえ達次第だよ。嘘は入れない方がいいと思うぞ。学生のハッタリなんて教師は直ぐに気付くからな」
「なら、どうしろって言うんですか? オレには無理ですよ」
「そんな簡単に落胆するな。出来事の部分部分を抽出すればいいんだよ。よく写真と実物が全然違う事があるだろう。あれと一緒だ。悪い事は見せず、いい事だけ見せればいいんだ。
 それにな、一概に竜と言ってもな、たくさんいるんだよ。ミミズの事を赤竜と言ったり地竜と言ったり、はたまた土竜とも呼ばれる時もある。土竜は更にモグラの時もある。他にも石竜でトカゲもあるな……」
「それを聞いてると竜ってなんかしょぼいと言うか、みすぼらしくて嫌になってきます」
「いやいや、これは竜を意図的にパッとしないように言っただけだ。実際竜は、かつての恐竜や、青龍などの神獣など、もっとすごい存在がほとんどだ。おまえだって、ミミズやトカゲの事を知らなかっただろう?」
「知りませんでしたけど」
「そう、それでいいんだ。みんなが知らないんだから、竜と言ったら格好いいんだ。もし、竜が雑魚の者だと分かっても、それをネタにすればいいんだ。例えば竜がミミズの事とばれたなら、ミミズ相手に真剣に真面目に戦う様を演じてみせればいい。そしたら、それはコメディー称号じゃないか。『竜を屠る』、すなわち『ミミズをちょん切る』だ」
 教師は畳み掛けるように力説する。善悪を別として、称号を得る解決策として自信のある話をするのは愉快であった。
「やるならくれぐれも気を付けろよ。嘘とか付くんじゃなくて、本当に相手を竜と見定めろ。自分が本当に相手を竜と見据えていたら、直に竜と戦ってる気持ちになるに違いないんだから。
 何でもいいから、本当の竜と戦うイメージを掴むんだぞ。例えば相手を斬りつけ、両断する。そして、片一方がびくっと動いた瞬間に斬りつける。両断するも、敵は2つ共が動いていた。そんな風に考えて戦闘するんだ。実際は両断した片方は斬った勢いが残っており、その為動いていただけだ。死を確認する前に、分断した敵に追撃し、敵を2つの生命体にする事を阻止したと考えればいいんだ」
「何かすごく称号を手に入れられるような気がしてきました」
「くれぐれも、学園で宣伝する事を忘れるなよ。天魔が竜のようであったと主張しろよ。如何に敵がすごかったか説明しろよ」
「オレたちは本気で戦えばいいですね。両断したら、追撃し、それによって敵が1体から2体になるのを防いだと考え、その間に敵に攻撃される。こんな風に色々考えますね。先生の言った事以外にも様々な竜と対峙した場面を考えます」
 そして、少年は、シリアスで格好いい称号を絶対に得ると決めるのであった。

●現れた竜の依頼

 天川朔夜は待ち続けた。
 竜の依頼が届くのを。ミミズにモグラ、トカゲ何でも良かった。竜と言える者の討伐依頼なら、何でも受けると依頼を探し続けた。
 ついに来た。
「よし、ミミズだ。土竜の討伐だ」
 ミミズ型サーバントの撃退依頼。
 我先にと依頼を手に取り、確認する。
 全長50cmのミミズ型を40体、討伐。
 難易度は易しい。
「これなら、不安はないぞ。易しいの依頼ならオレでも十分に達成できるぞ」
 依頼の内容に歓喜し、即座に仲間を集め準備を始めた。

●竜を屠りに

 天川は眠れなかった。
 喜びの興奮が収まらず、期待に胸を膨らむませてあれこれ考える。シリアスな称号を得たらどうするかと。既に、持っているかのように考え続ける。
 翌朝。
 当日、体調を崩すのであった。
 天川は熱を出した。高熱を出し、「ベットで安静にしていなさい」と言われるのであった。
 そして、集まった撃退士たちは進んでいく。
 天川を残して、称号を得る為に向かっていった。

 天川にとって、いつの時か、この出来事もネタになるだろう。
 しかし、今は悔しい気持ちに満ちるのであった。


リプレイ本文

●依頼へと集まる者達

 集まった面々はそれぞれに思う。
 易しい依頼?
 奇天烈な依頼?
 竜を屠る依頼?
 目的を奇妙にに思う者あり、初の任務となり、努力を心がける者あり。
 しかし、そんな彼らは進んでいく。
 思惑が異なれど、協力し、目的を共にした仲間達だ。

「まろにとっては初任務となる。足でまといにならぬよう夢ゆめ気をつけるゆえ、どうかよろしく頼む」
「よろしくなのぢゃ」
 後藤知也(jb6379)は挨拶を交わし、初任務と相成り依頼に慣れていない旨を皆に伝える。現在の己の実力をはっきりと理解し、奢ることない礼儀正しい青年である。
 それに応えた、木花咲耶(jb6270)。桜色の髪をなびかせ、挨拶する。
「『初依頼なんだし、戦闘依頼うけるなら易しいのからはじめろよ』ってアドバイス受けてこれ受けました」
 真面目にやれば容易な依頼。初めての依頼に丁度いいと黒崎 啓音(jb5974)は準備する。
「けど…称号、欲しいなぁ……」
 しかし、口を衝いて出て来る希望。
 撃退士、天魔と戦い平和を目指す者。しかし、小学生の黒崎が、格好いい称号に憧れるのは至極当然のことである。
「称号の為に敵を倒すのかね…?「鶏が先か卵が先か」かね?ふむ…愉快、愉快…くっくっくっく」
 冲方 久秀(jb5761)は、本末転倒だと思うも、若いとはそういうものなのだろうと納得している。
 干支が2回りほど小さい者達に囲まれた、アラフォーの冲方。どこか達観したかのように言い回すも、それを愉しみと依頼に当たる。
「奇妙な依頼になったが、たまにはいいか」
 一方、凪澤 小紅(ja0266)は珍しい依頼と思い、どのようにしようか思案する。
 そして皆は進んでいった。

●竜への作戦

 洞窟へ向かう間に作戦を立てる。
 今回の依頼は、撃退士にとっては容易な敵だ。
 しかし、目的はそれだけではない。
 緻密な作戦。
 皆の意見の一致。
 皆での協力がひときわ大事となる。敵を倒せばいい、それだけではない。
 竜を屠る事が重要なのだから。
「さくや達も、敵を竜と信じなければならんのお。
 『土竜』と呼ばねば」
「これは妙案ではないか!」
「サーヴァントは土竜と認識します」
 後藤は土竜という発想に感嘆し、秋月 奏美(jb5657)は涼しくはっきりと了承する。秋月のクールな返事は、これがどこか不思議な様子を一縷も見せない。
「土竜との戦闘なのですね・・・敵は強大かもですが、皆でなんとか撃破しないと」
 炎武 瑠美(jb4684)は、真っ先に気持ちを切り替え、強敵となる竜を想像する。
 続いて、皆も竜を倒すと同意して、強敵との手強き相手への戦術を考える。
「スキルを使用した遠慮も手加減も無い攻撃での激戦だ」
「少し洞窟に戦いの傷跡が残るかもしれません。もちろん洞窟が壊れる規模は駄目ですが」
 人と竜の戦い。
 凪澤は竜なる者に手心不要と言い放ち、炎武は全力の威力を危惧し、洞窟という場へ傷が残ることを考える。
 炎武と凪澤の2人は、以前に依頼にご一緒した縁を相まって、協力して竜の頭上を取ろうと連携を考える。
 一方、後藤と冲方も、連携して少しでも有利にしようと思案する。
 正義感に溢れる性格の後藤は、称号の為の戦闘に疑問を持っている。だが、そんな事をおくびにも出さない。
 後に天川へ講釈しようと考えるも、仲間達の目的を阻害することはない。
 全力で敵を倒す、その1点を意識し事に当たる。
 そして皆は準備する。
 竜の様に洞窟の有り様を報告する為にとカメラを用意し、各自スキルを活性化する。

●相見える竜の群れ

 洞窟についた撃退士達。
 光景を見て、息を呑む。
「何やら揺らめいておる。これが土竜と言うやつかの?」
 木花は、地を蠢くサーバントを見て土竜と認識する。
「戦場は広いと聞いておったが、そのほとんどを土竜が埋め尽くしておるとはな。」
 洞窟の奥に進む道を塞ぐように竜が這っている。
 一部の者には、敵の終わりを見ることが能わない。
 未だ、敵と距離を取っている。
 現状では敵は2,30mも先にいる。校庭の中央から端っこの敵を見るような距離。
 そんな距離では、最長50cmの地を這う敵を視認するには、ぼやけてしまう。
 そこは、終わりが見えぬ程の竜の大群が迫る様。
「天川殿が悩み抜いて高熱を出すのも分るような気がするのお。
 しかしのお、ここで引き下がっては、高熱を押してまで土竜を倒そうとしておった天川殿に顔向けが出きぬ。悪いが、主には洞窟の肥しになってもらおうぞ」
 木花は、竜を肥やしへとすると決意する。洞窟への養分へ、そして称号という役に立つ物へとの2重の意味を込めている。
 そして、冲方がカメラを構え、写真を取り出す。
 その場をカメラに納め始める。ピントを逸らし巨大な敵を彷彿とさせるように写真を撮る。
「我ながらよく撮れた写真だと思うのだがね…くっくっくっく」
 満足な写真が撮れて笑いがこぼれる。
「この正義の刃を必ずや敵に食らわせ、土産話をこんど生まれいづる我の子供に捧げん!」
「ひとりの力では、到底倒せるはずもないが、さくやには頼れる仲間がおる。
 皆一丸となって、全力で攻撃すれば、勝利を掴めるはずぢゃ」
 後藤は戦闘へと気持ちを切り替え、木花は強敵との相対に仲間を胸に勝利を誓う。

●屠りし竜

 土竜へと接近する。
 敵を確認。
 即座に、後藤が阻霊符を展開する。
 瞬間を、確と見ておく黒崎。後ほどこの様を宣伝する為だ。
 一番に攻撃を放った木花。光纏によって、花弁舞い散り、桜色に染まった様子は、洞窟に桜が聳えるようだ。
 土竜へと焦点を定め、炎の球体を撃ち放つ。
 続いて、凪澤が放った一点集中。
 木花の攻撃の軌跡をなぞるように、直線上に飛んでく衝撃。戦闘前には闘争心を放っておいた。闘気が保った攻撃は地面をえぐる勢いで進行する。
 一番正面の敵は衝撃に飛び散った。
 攻めの手を休めることなく攻撃は続く。
 秋月が直剣をふるう。燃え上がるような炎の剣が土竜に一閃する。
 そこに黒崎が、槍状の炎を顕現させる。
 続け様に炎武が脚甲により蹴りを見舞う。
 そこは、赤色の戦場だ。
 黒崎によって、炎を覆われる土竜。加えて、うっすらと赤く光る凪澤に、燃え上がる炎のような直剣を構える秋月。更に赤いオーラを纏った炎武の連撃。
 炎に囲まれた戦場となる。
 後藤が魔術書から生み出した、白と黒の矢が土竜へと到達する。
 土竜は蠢く。
 倒された仲間を埋めるように進撃する。
 前線の土竜が撃退士へ噛みつく。黒崎に炎武、秋月へと。
 土竜は、数が凄まじい。
 しかし、お互いが動きの邪魔をしている。全ての個体が撃退士へと到達することが出来ない模様。
 移動できない土竜を前に、撃退士達が攻撃に移る。
 再度、凪澤は一点集中の衝撃を放つ。先程ダメージを与えた個体を目指して撃ち放つ。
 再三の攻撃に敵は散っていく。
 散りゆく土竜の1体が秋月へと跳んでいった。
 跳ぶ土竜。
 狼狽える秋月。
 秋月にとって敵は、飛行していた。戦闘最中に横から飛んできた土竜。
 壁側の土竜に向かって斬り込んでいた秋月は、中央で戦う凪澤を見ていなかった。
 そのため、凪澤の攻撃によって跳ばされたと理解していなかった。
 飛行する土竜。
 そのように感じ取るしかない状況。
 飛んできた土竜が壁に付くや否や、秋月は直剣を振りかざした。
 壁へと斬り込む直剣。
 敵の胴体は四散する。
 剣を抜き去り再び構え、戦闘に戻る。
 土竜は動く。隙間を作らぬように前線へと進出し、噛みつき回る。
「さくやは、盾になってくれる仲間の後ろから陰陽師らしゅう攻撃ぢゃ」
 木花は炎陣球を撃ち放つ。
 何度でも全力でアウルを放つ。
 敵はどんどん減っていく。
 黒崎はアウルを鞭状に結晶化して、土竜目掛けて鞭を打ち込み後衛へ下がる。活性化するスキルを変える為に、一度後ろに下がり安全な態勢をとる。
 続いて、炎武も蹴りを見舞い、後ろへ引く。凪澤と協力して、頭上を狙う為だ。
 前衛が減った所に、冲方と後藤が連携する。
「冲方どのぉ! 我らの連携をとくと見せつけてくれようぞ!!」
 後藤は弱まった土竜へ焦点を当て、アウルを放つ。
 土竜が退く。
「求めよされば与えられん…天川殿が望むのであれば手に入るであろうよ…」
 そこに冲方が立ち込み、横ざまから土竜に斬り込んだ。
 言葉通りに、自ら進んで求める姿勢を体現し、土竜を屠っていく。
 土竜は進撃する。
 前線の冲方に秋月に土竜が群がっている。
 しかし、その中には木花の方へと、後衛へ必死に進撃する個体もいる。
 その隙に、炎武と凪澤と準備が整った。
 凪澤が腰だめに剣を構える。
 剣へと炎武が乗り込んだことを確認すると。
 全力で振り抜いた。
 いわば人間カタパルト
 勢いに乗って跳躍する炎武。
 スピードもさることながら、高々度から土竜を目掛ける。 
「炎武式………メテオインパクトっ」
 土竜へ見舞う踵落とし。高々度からの自由落下のスピードにのせた力強い一撃。
 土竜を粉砕。
 地へ傷跡を残す強い衝撃。
 土竜を一撃倒せるほどの威力であった。
 削られた大地に立つ炎武。
 しかし、土竜の群れは炎武に攻め寄ってくる。
 攻撃を確実に当てる為に軍の中心を目指した。
 人間カタパルトからの必中の攻撃。その為にはその必要性があった。
 その不利を被るほどの威力があった。
 炎武を囲む土竜に皆が攻撃する。
 木花が風の刃を生み出し、後藤がアウルの矢を生み出した。
 立て続けに放ち、側面の敵を倒す。
「若さとは良いものよ…くっくっく…その欲望こそが力の根源だ…」
 続けざまに、冲方が斬り込み、秋月が追随する。
 黒崎は、その間に別のスキルを活性化する。
 確実に敵をトドメて行く。
 敵を確認すると残る土竜は既に3体。
 進撃する土竜。
 しかし、土竜の多少の攻撃は気にせず、再度攻撃に移る。
 秋月が直剣を斬り込み、凪澤は剣を構えて、大きさと重さで土竜を切り裂く。
 続いて、黒崎に後藤、木花がアウルを集結していく。
 氷に風の刃、白と黒の矢。放たれたアウルは、敵を射貫いて屠っていく。
 残る1体。
 土竜へと冲方が斬り込み、炎武が大剣を振り下ろした。
 ドラゴンキラー。
 竜を屠りに大剣となった。
 遂に全ての土竜が撃退し達によって屠られるのであった。

●竜との戦場

 竜を倒した洞窟は、凄惨たる場へと変貌を遂げている。
 戦闘が終わり、冷静に戦場の具合を吟味する。
 辺り構わず、戦闘の傷跡が残っている。
 撃退士に竜が動き回る。そして、撃退士が斬り飛ばした部位も壁へとぶち当たっている。
 そこは100平方メートルを超える戦場だ。
 地は削れ、壁には斬撃の跡。
 そして、周囲のどこかしらにも竜が飛び散った痕跡が見て取れる。
 木っ端みじんとなった竜の破片が辺り一面に広がっている。
 その場は、元の姿が分からぬ程の物達が席巻する。
「土竜自体の撮影はこれでは無理ですね…」
 炎武は、土竜を報告の為に撮影しようと考えていたが、不可能となっていた。
「せめて戦いの傷跡くらいは使い捨てカメラで撮影していきましょう」
 そして、痕跡だけでも撮影する。
 続いて黒崎、後藤の2人がカメラを回す。地や壁だけでも激戦の様子を写真に撮っていった。

●報告する土竜の有り様

 7人は戦いの様を報告する。
 激戦の写真を片手に語る竜の様態。
 炎武は竜の頭上を取る為に、凪澤が剣を振った反動をを利用しての高い跳躍。そして頭上からの強い一撃を放ったのだと。
「仲間は体勢を崩しながらも、大剣でヤツを切り裂き、地を蹴った仲間はヤツの頭上から渾身の拳を振るったのぢゃ」
 不利となろうとも、連携して敵へと拳を振るった旨を伝える木花。
「まさか土竜が跳んで仲間に襲い掛かるとは思わなかった」
 敵が跳び回るという予期せぬ行動をしたと伝えて、凪澤は強敵と印象づける。
「阻霊符使ったら土の中から猛スピードで地表に飛び出して空中に浮かんで。
 攻撃回数が多く……」
 黒崎は、敵の動きを仔細に述べる。敵の伸縮の様や、個体数の多さを、上手に伝える。
「怪我してないじゃないか?そんな攻撃が多い敵ならもっと傷だらけになるはずだろう」
「怪我が少ない?運ですよ。生き延びたのは運ですよ」
 巧みに言い表す黒崎。
 加えて小学生が熱心に話す様は、信頼を与える。
 そして、皆の宣伝は学園へと広がっていくのであった。

●天川へと伝えに

「土竜は、地をも揺るがす強敵であった」
 木花が真っ先に言葉に出す。
「竜を屠ったんですね」
 即座に言葉を返した天川の表情は、満面の笑みに満ちている。
「私らは、称号を得る活躍を出来たであろう。天川殿も大丈夫か?」
「体調なんてもう全然OKですよ」
 お見舞いがてらに、冲方が皆の竜を屠る活躍を保障する。
 天川は既に体調がよくなっており、手をぶんぶん振り回す。笑みが耐えることなく喜んでいる。
「証拠写真で学校に出さなかったのもらったんだ」
 黒崎は、激闘の写真を天川へと見せる。
「おおーー。激戦だ。一帯が竜の残骸じゃないか」
 竜が跡形もなく飛び散る様、見る影もない様を見て、天川は喜ぶ。
 そして、激戦の模様を黒崎が説明していく。
 そんな状況が続く中に、後藤が天川へと釘を刺す。
「称号とは、自分から求めるものではないぞ。敵を選んでことにあたり得られるようなものでもない。仮に得たとしてもそんなのはなんの価値もない。撃退士として研鑽を積み、全力を尽くして任務にあたれば必ずや周囲の人々は評価し、結果己の欲するカッコイイ称号とやらは自然手に入っていようぞ」
 後藤は、称号を自ら求める事について講釈を垂れる。
「ごめんなさい。
 僕も寝込んでる間に、色々な人に称号について聞きました。最初はどんな格好いい称号があるばっか聞いていたんですけど、称号は重荷にもなると知りました。
 簡単に称号を得ようとみんなを巻き込んで、ごめんなさい」
 後藤の説明を理解した上で、天川はみんなに対して謝った。
 しかしそんな事では終わらない。
 努力して得る称号の大切さを理解するも、無用な物に価値を見出すことは、お笑い好きの天川にとって、造作もなく、ネタともなる。
 皆が依頼に行っている間に、竜を屠る事もネタになるのか考えていた。
「称号について意味も調べてみたんですよ。そしたら何と、『多く、一定の身分・資格を示すものにいう』だったんですよ。
 そう、だから僕は、多くない時、すなわちレアケースとして『竜を屠りし者』を持つはずだったんですよ」
 意気揚々と語る天川。
 既に、この事件も笑いのネタとなりかけている。
 そこに凪澤が、一歩前に出る。
「天川には、『竜を屠る予定だった者』の称号を」
「………」
 一瞬、戸惑う天川。何が何だか分からなかった。
 直後、笑いに満ちた。
 みんなが笑う。
 意表を突かれた天川。称号を得るとは、思いもしなかった。
 失敗の称号。しかし、笑いとしては大成功だ。
 そして皆で笑い合うのであった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

繋いだ手にぬくもりを・
凪澤 小紅(ja0266)

大学部4年6組 女 阿修羅
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
炎武 瑠美(jb4684)

大学部5年41組 女 アストラルヴァンガード
臨機応変・
秋月 奏美(jb5657)

大学部3年258組 女 阿修羅
無駄に存在感がある・
冲方 久秀(jb5761)

卒業 男 ルインズブレイド
竜を屠りし者・
黒崎 啓音(jb5974)

高等部1年6組 男 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
木花咲耶(jb6270)

小等部5年4組 女 陰陽師
魂に喰らいつく・
後藤知也(jb6379)

大学部8年207組 男 アストラルヴァンガード