●事件を聞いて
空は澄み渡り、木々は揺れ、爽快な風が吹き抜け、行楽日和が辺り一面に広がっている。
「今日は頑張ろう。にぃちゃん♪。でも鳥型っていい思いでないからな……」
「大丈夫だよ、一緒に頑張ろう薊」
心配に思いながらも、大好きな兄に甘える藤沢薊(
ja8947)と紀浦 梓遠(
ja8860)。
梓遠も大事な弟と共の依頼で、常より人見知りせずに皆に馴染む。
「仲良しさんですね〜。私も混ぜてなの」
和やかな会話を聞き、紅鬼 姫乃(
jb3683)が会話に混ざる。しかし、片手には生肉を持ち、どこか奇妙な物である。敵に肉を投げ持ち帰らせる、それがこの生肉の目的、作戦名『おーにーく』だ。
「奴らを一刻も早く討ち、子供を助ける。それだけだ」
谷屋 逸治(
ja0330)は淡々と意志を強く言い放つ。
「取り戻す際にもできるだけ傷つけない様にしたいね」
親御さんの元へと無事奪還し安心させる、と杉 桜一郎(
jb0811)は注意深く邁進する。
「浚われた子供、きっと凄く怖いおも…って、ギア、別に心配してるわけじゃないぞ、人界で騒ぎ起こされるのが嫌なだけなんだからなっ」
蒸姫 ギア(
jb4049)は万能蒸気の力で捜し出し救出すると意気込んでいる。
●情報を得る
「その時着ていた服とか、子供の特徴教えて貰えないかな…安心して、絶対ギア達が助けてくるから」
「はい、お願いします。あの子は、赤のTシャツに、ベージュ色のパンツを着ています。これからいっぱい遊ぼうとしていたのに、今頃もっと家族で居るはずだったのに…」
ギアは両親に話を聞く。子供を目前で、手を掴みながらも攫われてしまった両親は、悲しみに暮れている。
「飛び去った方向は分かりますか?」
「山の頂上へと飛び去ったとお聞きしましたが、どのようにですか」
地図と照らし合わせながら、薊と梓遠も話を聞いていく。
「山の頂上に向かって一直線に進んでいきました。本当にどうしてあの子が……」
子供を助けて欲しいと、悲しみをこらえながらも、つらい状況を思い出しながら
一刻も早く解決できるようにと説明をする。
一方、姫乃は辺り一面を走り回っていた。生肉は持ってきた物のディアボロが既に死に物体と生った肉に興味を示すか微妙な物だ。それ故に生きた猪か鹿を探していた。
走り回っている内に猪を発見した。そして一気に駆け寄り、捕まえる。超常的身体能力を持つ撃退士にとっては猪一匹の狩猟など容易にこなす。
猪は暴れる中も手足折って動けなくする。ディアボロへの皮肉と誘拐時の状態を少しでも再現し、作戦成功を高める為だ。
集まった6人は戦闘班と救出班に分かれていった。
●解決への道順
湖に着いた戦闘班の逸治、梓遠、姫乃の3人は辺りを確認した。
「湖の沿岸にディアボロ2体、2体まとまっています」
敵の配置と数を梓遠が皆に伝える。
「俺も確認した。それに子供は見つからないな」
逸治も確認し救出班へ注意するようにと、その旨を連絡する。
「『おーにーく』を実行致します」
大和撫子を思わせる口調で言うと、姫乃は気配を消しディアボロの元へと猪を投げた。
最初は肉を持ち帰らせようと考えていた。しかしディアボロ2体の内、1体でも救出班の元に飛んで行ったら救出班の負担が大きくリスクが高い。しかし今回集まった撃退士たちには、それをカバーするだけの能力がある。
作戦を一部変更した。持ち帰る場合も飛んでいく方向が分かり次第、即攻撃をすることにした。2体を必ずその場で撃退すると。
もしも、仮にも飛び去って行ってしまっても、梓遠がいる。梓遠はアウル力を脚に集中することで、誰よりも多く移動できる。
「さて、うまくいけばいいのだけれどね・・・」
姫乃は作戦がどうなるか不安に思いながらも、様子をうかがう。
ディアボロは興味を持ったのか、猪をじっと見て止まっている。嘴で突き何か確認しているかのような仕草を見せる。
ほんのつかの間、突いていた処に嘴を広げ猪を咥える。
作戦は成功だ。
そして梓遠は拳銃を、逸治はライフルを構える。
敵はまだこちらに気づいていない。方向が分かり次第、攻撃すると意識を集中する。
当たらなくてもいい。敵が飛んで行かず、ここに食い止めればいい。自分たちに意識を向かわせればいいと。
ディアボロが翼をはためかし、飛び立つ。上昇し北へと進んでいく。
「…射線確保、特殊弾、装填……撃つ」
逸治は弾丸にアウル力を集中し解き放つ。
「絶対助けるし…絶対潰す」
寸時遅れて、梓遠も弾丸を放つ。
狙いは翼。当たらずとも注意を引く為の攻撃。
不意を突いた2人の弾丸は注意を引くには十分だった。ディアボロは弾丸を受け撃退士を認識する。
突如として襲われたディアボロは目をぎらぎらに怒りをあらわに。
そして戦闘の火蓋は切って落とされた。
一方、救出班では誘拐現場から湖に向かって子供を捜していた。
戦闘班から敵1体は場所不明と聞き、慎重に探索する。
「どんな小さな手がかりも、見逃さないんだからなっ」
ギアは翼を顕現し上空から子供を捜す。子が身につけていた物が落下していないかを双眼鏡で丹念に探す。
「巣は木の上だったり岩穴だったりしないかな?」
上空から手がかりを探していくが、子の衣服等は見あたらない。子の身につける物は、とても小さい。それを探すのは至難の業だ。
しかし、上空からの探索こその発見がある。樹上に巣はないと分かる。1メートル半の敵に、子供の巣。それは大きな空間を必要な為に、上空からの一望で無いことが容易に分かる。他の撃退士に樹上にないと連絡をし捜索を続ける。
薊は敵の奇襲に警戒しながら探索する。かつて兄を天魔に殺された薊にとって、理不尽に家族を失った時の天魔への恨みが分かる。そのために子供の安全を最優先に捜索をする。
樹上に巣はないと報告を受けた桜一郎は、誘拐現場から湖までの道中を探索する。山で生まれ育った桜一郎は、山を走るのに慣れている。道から外れて尾根、沢をも駆け回る。仲間に上空を頼み、自分の優れた所を生かして探し続ける。
救出班の3人は着実に巣の位置を絞っていく。樹上になく地上にあり、予想される位置も当初より大幅に狭まってきた。
ちょうどその時、救出班の3人は、戦闘班から湖にて敵は北に飛んでいった、と報告を受ける。その情報を加味して位置を推定する。全ての情報を点と点で結び、統合するとある特定の位置が浮かび上がる。そこは岩石群がある場所だった。
岩石群に向かった救出班はそこに洞穴を発見。未だ敵1体の不明である為、薊と桜一郎は待機し、ギアが潜行して洞穴へと入っていった。
洞穴に入ると、すぐにディアボロがいた。羽を休めているようであり、ディアボロが子供に構っていない、と好機と思い子供に近づく。
「もう大丈夫…だから後ほんの少しだけ、じっとしてて」
ギアは子供に小声でささやき、注意深く洞穴から連れ出していった。
外に出ると、中にディアボロが居ると仲間に連絡をする。子供怪我を皆で治していく。
「癒しの蒸気よ…ほら、もう痛くない。笑顔で戻って、両親を安心させてあげなよ」
「もう大丈夫。俺らが必ず助ける」
ギアと薊が優しく声を掛けながら、治療を行い、子供の怪我は治っていく。子供は撃退士の皆に助けられ、アウルの光に包まれて、つい目前まで1人で恐怖に震え上がっていたのが徐々に収まっていく。
子供を助け出したがディアボロがいる限り安全ではない。ギアが子供に付き添い万全を期し、桜一郎と薊が討伐に向かっていた。
戦闘班では。
空にディアボロが2体。撃退士に怒りをあらわに臨戦態勢をとる。
逸治は後退しつつ、射程を十分に取り弾丸を放つ。弾丸は浅くだが肉を穿ち、ディアボロは地に落ちる。
「さっさと落ちろ!」
それに続いて、梓遠は高速の一撃で衝撃波を飛ばし、もう1体をも地に落とそうとする。
しかしディアボロも三度の銃撃を受け十分に警戒をしていた。大きなダメージを与えられず、敵は攻撃を受けると即座に梓遠に向かって飛んでくる。
直前に攻撃された撃退士に向かって行く。
攻撃直後の梓遠は回避が遅れる。其所にディアボロの体当たりが炸裂した。空からの加速に、全体重を掛けての突進。梓遠と同程度の大きさを持つ敵の体当たりは威力が大きく、梓遠を突き飛ばす。
ディアボロは突進が終わるとそのまま空中に舞い戻る。
「ふふふ、あなたたちがしていたことを姫乃もしてあげましょう。ね♪」
姫乃は地に落ちたディアボロへと大鎌を振り下ろす。狙いは翼、ディアボロが子どもにしたこと、そっくりそのまま返すつもりで。
大鎌は深く翼を貫いていく。血が噴き出し、既に敵の命は、空前の灯火。
「ぐぎぁぎぁぁーー、ぐぎぁぎぁぁーー」
ディアボロは泣き叫び、猛然と攻めかかる。最後の命を振り絞るように。一番身近な者へと、直前の攻撃を受けた姫乃へと襲いかかる。
怒りにまかせ、勢い凄まじく攻撃を放つ。
ナイトウォーカである姫乃は防御が撃退士の中で最弱だ。その弱点につけ込まれ大きな傷を受ける。
ふと、その攻撃止まる。横から大きな衝撃を受けたのだった。
「この距離なら…当たる…!」
ディアボロが姫乃に一心不乱に攻め立てる間に、距離を詰めた逸治のライフルから射出された弾丸だった。アウル力を集めて放った弾丸である。
瀕死の身体に横手からの攻撃を受けディアボロは地に倒れていった。
空中にいるもう1体のディアボロは、仲間の悲鳴を聞き、討伐されたのを感じ、怒り狂う。
再度、梓遠に突進してくる。目を爛々と怒りに輝かせ単調な突進。
一度攻撃を受けた梓遠は冷静さを取り戻し、相手を正面から相対する。怒り狂った敵の攻撃。一直線に向かってくる。動きこそ速い物の単調な攻撃。敵のモーションをしかと見て、ステップを取り横に回避する。
「翼が無けりゃあ飛べないもんなぁ!? 」
そして真横から大剣を振りかざす。身の丈を超える大剣の攻撃。翼を両断し地に落とす。言葉通りに翼を無くし地べたに這わせる。
そこに姫乃が大鎌を振り落とす。戦いが続き、攻撃を受け、狂うように執拗に。
そして漸く、数多なる攻撃を受けディアボロは死すのであった。
一方、救出班では、薊と桜一郎が戦闘を開始していた。
ディアボロは洞穴にて羽を休めている。
拳銃を構えた薊はアウル力を集中し、桜一郎は手の中に札を生み出していく。
敵がこちらに気づいていない現在、攻撃に集中し、確実に当てる。
外れた攻撃は洞穴の崩壊を招き危険である。
「子供の敵は、俺の敵だ! 子供を狙ったことを悔やんで消えろ!」
天魔への憎悪にまみれながら、薊は銃をぶっ放す。
それに続いて、桜一郎が衝撃波を放つ。無理せずに、一つ一つ着実に努める。洞穴の奥へと追い込まれない為にと入口からの攻撃だ。
不意に攻撃を受け、ディアボロはのたうち回る。
ディアボロは攻撃と分かり、敵を認識すると、翼を広げ一直線に飛び、薊を引っ掻く。最年少の薊を狙う。子供の方が弱そうに見えるのか、はたまた小さい者の方が新鮮で良いのか。
「子供を舐めるな!」
薊は攻撃を受けるも、すぐに態勢を整え反撃をする。入口に立つ薊は敵を外に連れ出そうと、位置に気をつけ攻撃する。攻撃は当たるも威力が弱い。だが、敵を洞穴の外へと引っ張り出した。
これで洞穴内の戦闘を脱し、崩壊する恐れが無くなり、周りを気にせず攻撃が出来る。
ディアボロが桜一郎に襲いかかる。薊の憎悪にまみれた表情に恐怖を感じたか、攻撃の対象が桜一郎に代わる。
桜一郎へと鉤爪を振るうが、正面から注意深く攻撃を受ける。メンバー最大の防御を誇り、かつはっきりと相対していた為に被害はさほど大きくない。
そして、桜一郎は札を構える。ディアボロの魂を吸い取り、スタミナを削りつつ、自身は回復する。
しかし、桜一郎と薊の2人は攻撃力に劣る。ディアボロはまだ一向に衰える様子が無く長期戦を覚悟する。
そこに突如、ディアボロへと光が放たれる。
光は逸治の放った弾丸であった。
戦闘班が湖でのディアボロを撃退士駆けつけてきたのであった。1対2から1対多となり、囲むように位置を取り、武器を構える。
ディアボロは退路をなくした処に集中砲火を浴びせる。
姫乃が胴体向かって大鎌を振りかざし、梓遠が大剣を翼に向かい振り下ろし、桜一郎が札を炸裂させ、薊はアウルを集め銃を解き放つ。
周り一面から攻撃を受けディアボロは為す術もなく地へと倒れ臥した。
●いつもの日常へ
撃退を終えた面々に逸治が救急箱を使用し、応急手当を施す。そして子供を病院に搬送する為に救急車を手配した。
「頑張ったから、ご褒美♪」
薊は子供に飴を渡して自分も舐める。仕事の後の穏やかな一時を取り戻す。
「家族が一緒にいれるって、素敵だね。頑張ったからハグして!」
子供が家族と再会するのを見て、薊は梓遠の元へと行き、言いながらもハグをする。
「素敵だね、薊」
言葉を返しながら、薊の頭を撫で撫でする。
「余った肉でバーベキューでもしませんかなの?」
姫乃は、使わないで済んだ生肉を食べようと提案する。
子供を救い出し、ディアボロを討滅した撃退士たちは胸を撫で下ろし、いつもの日常へと戻っていった。