●意気込みを
「何や言い分が腑に落ちん会長サンやけど…商店街の人らが困ってんのは確か、か。ほな、ちょっくら盛り上げてみるとしよかいな。明るくなっ! 」
葛葉アキラ(
jb7705)は商店街の面々を見渡して明るく声を上げた。
「オ祭リ大好キアルネ。ソレニ、ショッピングモールモ面白イガ、商店街ノ方ガ色々ワクワクガ詰マテテ面白イアルネ。盛リ上ゲテ楽シンデ一挙両得ネ」
アキラの声に、王・耀華(
jb9525)がこくりとひとつ頷いた。
にこりともしていないが、とてもやる気になっているようだ。
●ライバル
まだ祭りの客がまばらな午前の早い時間、木嶋香里(
jb7748)は後藤会長に料理対決の趣旨を説明していた。
「つまり、料理対決を行い試食としてワシを初めとする一般参加者に審査をしてもらい、投票で勝者を決めると、そういうことじゃな?」
キラリと目を輝かせる。
「そうです。楽しいイベントに出来る様に頑張りますよ♪」
「うちも料理人として頑張らして貰うでェ!手は抜かへんよ、香里ちゃん!」
扇をバサッと広げてニィっと笑う。
料理の腕は二人ともかなりのモノ、これはよい戦いとなりそうだ。
●鉄人達の料理
じゃん、じゃーーん
どこか馴染みのあるBGMを流し始めたのはご存知八百屋だ。
そして一筋のスポットライトがあたる。
「私の記憶が確かならば…、この番組は商店街の提供でお送りします」
司会役、ユノ=ゲイザー(
jb9677)は聞き覚えのあるフレーズと共に 商店街の垂れ幕を指差し、高らかに料理対決の開始を宣言した。
「スラッと長身美人料理人は、和風サロン「椿」の若女将、フリルをあしらったパーティードレスに輝くポニーテールが印象的な木嶋香里。これに対抗するのは、煌びやかな和洋折衷の着物に身を包む、大阪弁の実力派料理人。葛葉アキラ。二人の料理人の対決が、今、ここに始まります」
紹介を一気に終えたユノはすっと舞台袖へ。食材達にスポットが当たる。
「食材は全て商店街のご好意により無償で提供されているですぅ」
ライトを浴びつつ緋流 美咲(
jb8394)はマイクを握りPRを始める。
商店街の売名もバッチリだ!
「朝採り立ての野菜をお店に並べている八百屋さん。見てください、みずみずしさが全く違います!」
ザルの上で朝露を浴びた野菜。
「肉類も全く臭みはありません!」
ブロックの肉を鷲掴みにし、一人の観客の下へ。
「コレハ素晴ラシイネ。何ノ臭イモシナイアル!」
耀華さん!表情!表情!!
少し笑ってくれても良いんですよ!サクラなんですから!
「これらの食材をどう調理していくのか。戦いのゴングが今鳴り響くですぅ!」
ぶぁぁぁーーーん!!
八百屋のドラ。
先に動き始めたのは香里だ。
頭の中に料理の構想は既に出来上がっていたようで、テキパキと食材を選んでいく。
「素晴らしいお肉ですね♪」
リポーターの美咲からお肉を受け取ってニコッと微笑む。
すかさずその笑顔をスマホでパシャリ。
その姿を見てクスッと笑うも、いざ厨房に入ると料理人の顔に。
一品目のローストビーフに取り掛かる。
大きな肉を見事に裁いて筋を取り除く。
そして一気に強火で表面を炙る。それにより肉汁を内に閉じ込めることができる。前面をカリッと焼き上げたら中にじんわり火を通す為に赤ワインによるフランベだ。
フランベをによって高く上がった炎が見る者を魅了し、又香ばしい匂いも当たりに広がる。
無表情だった耀華も、あまりのいい匂いにゴクリと喉を鳴らした。
しかし彼女はもう行かねばならない。
ぐぅとなりそうになるお腹を押さえ、料理会場をそっと後にした。
一方その頃、アキラもメニューが決っていた。
「香里ちゃんが肉ならうちは魚や。旬の鰹にするでェ!」
アキラの掛け声にあわせ美咲が魚をビチビチを跳ねさせる。
スラッと出刃包丁を取り出し、手際よく鰹を捌いていく。
「なんという切れ味ーっ!流石商店街の金物屋さんの一品は違います!」
「先ほどのローストビーフを作ったフライパンも全く焦げて居なかったわ。私の記憶が確かなら、あのフライパンも金物屋さんの一品よ」
美咲とユノの金物屋押しに、店主は満足そうに頷くのだった。
●これぞコンテスト
「ギリギリ間ニ合ッタアル!」
青地に赤い花をあしらったチャイナに身を包んだ耀華が、エントリー時間直前にコンテスト会場に駆け込んだ。
風でひらりと舞うチャイナの下には白い長ズボンと黒い旗鞋。
まずは客の心をグッと引き込む。
勢いをつけて側転、連続バク転からのバク中をくるリと、華麗に決める。
ふわふわと、長めのチャイナが耀華の軌跡を追うように舞った。
突然のパフォーマンスに観客のボルテージも上がっていく。
ビシッと決めると同時にぶぁぁーーん!とドラがなった。
「おおお!いいぞー!」
ワーワー声援を上げ始めたのは商店街の人々。
それに呼応するように一般客からも声援が上がる。
すーっと舞台中心に戻ってきた耀華に、司会の女性が、このコンテストに参加したきっかけを問う。
「剣舞ノカコヨサ、中華ナイイトコロ。コノ金物屋サンノオタマノ輝キ、見テ貰ウ為ネ」
すちゃっと、量の腰に腰に刺していたおたまを両手に引き抜く。
そのままPRタイムに突入!
金物屋のおたまをくるくるっと回して剣舞を始める。
ひゅんと跳ねたかと思うとくるリと空中で一回転、音も無く着地しオタマを鳴らす。
笛の音に乗って煌びやかに客を魅了してゆく。
くるくると、横に、あるいは空中へ。それはおたまも、耀華も。
後からついてくるチャイナが、それは印象的な剣舞だった。
●コンテストとはなんだったのか
耀華の剣舞の裏側、そこには二人の美咲が待機していた。
この二人、美咲にして美咲にあらず。
実は変化の術を使用した鎖弦(
ja3426)である。
別会場でリポーターをしている美咲本人が、このコンテストに間に合うように時間を稼ぐ算段のようだ。
「流石です鎖弦さん!何処からどう見ても美咲さんです!」
もう一人の美咲、シエル・ウェスト(
jb6351)が鎖弦をみて拍手する。
シエル同様に変化の術で十分に美咲だ。
鎖弦はすーっとステージへ移動して自己紹介を始める。
「商店街より参りました緋流家長女、緋流美月です、本日は皆様に商店街の歴史について知って頂こうと思っております」
すっと、小さいメモ帳を取り出して一息つくと、商店街の歴史について話し始めた。
圧倒的長さで。
「━━。と、いうわけで御座いまして、おはぎの素晴らしさはその種類の多さ、またそれぞれの併せ持つ━━」
気がついたら全ておはぎの話題に変わっていた。
何を言っているのか解らないと思うが、俺も何をされたのか(以下略
延々と語った鎖弦は、満足気にステージを後にする。
そして舞台袖に入ったかと思ったらその瞬間変化の術を解き。黒髪ウィッグをつけて着物に早着替え。
まるで武家の姫君の様な出で立ちで、すーっと再びステージ上へ。
「月詠鎖姫と申します…どうかお見知り置きを」
先ほどとは声質を変えて、極力淑やかに。
「現在の文化にそぐわないものは、消え行く運命、されどこのまま消え行かせるのはいささか悲しいのではないでしょうか」
ふっと目を細め、少し伏せる。
上手く間を使いながら、商店街の存続と、是非商店街にも足を運んで欲しいと訴えかけ、鎖弦のステージは終了した。
歓声とフラッシュの量から考えても、まずまずの集客効果が予想される。
「それでは私の番ですね!行って来ます!」
軽快な音楽に乗せて、シエル登場。
「緋流家が次女、緋流美遙と申します!」
元気よく挨拶したかと思うと、そっと座布団を取り出し、ステージ中央に座る。
バサッと扇子を広げ、コホンと咳払い。
会場も、何が始まるのかと注目している。
「商店街なるものには数々の思い出が詰まっているものでございます。例を挙げるならば旦那と歩いたアーケード」
『あなたはいつもあの店でアタシと昼食食べました』
『俺はお前にあの店で初めて指輪を渡したな』
『…あらやだあなた…アタシに指輪を渡したのはあのレストランの中でしょう?』
「食い違う互いの思い出!噛み合わない思い出話!」
『あの頃のお前が一番可愛かったのに!』
『今は可愛く無いと言うの?!あなたのために美容してるのに!』
「それは井戸端会議で奥様方に勧められ買っただけ!」
『何のためにこれだけ買ったと思ってるの?!全部あなたの為なのに!』
「同じ女性故言わせてもらうと、この場合は『あなた』とかいて『アタシ』と呼びます」
まさかの漫談である!
高校生くらいの若い女性が漫談とは、と会場のボルテージ(主に年配)があがる。
長い漫談で時間を稼ぎつつ、年配の心を鷲掴み。
鎖弦の美貌とシエルの漫談で、一部ターゲットの客層を後に引き込む事に成功したとか、しなかったとか……。
●勝敗の行方
料理対決も終盤を迎えていた。
「ほな、ちょっくら盛り上げるでェ!」
キャベツとたまねぎを大量に用意し、意識を集中して光纏を発現する。
アキラの後ろにはアメノウズメノミコトの幻影が、ぼうっと現れ、そこから剣撃が飛ぶ。
幻影から現れた剣達は、ひとりでにキャベツとたまねぎを斬り刻む。
一部まな板まで切り刻んでいるがそこはご愛嬌と言うものである。
この演出には客も大興奮。
「実に楽しそうに料理をしていますアキラに対し、ひたすら丁寧に、まるで芸術作品を作るかのように香里は料理を進めております!」
美咲の実況で、客の視線は一気に香里へ。
アキラほどの派手さは無いが、非常に丁寧に、それでいて手際よく料理を進める。
そんな友人を見ていたいが、ここら辺で美咲の時間は限界である。
二人とも頑張ってね、と小さく目配せし、自分はコンテスト会場へ走り始めた。
本当は二人の料理が食べたかったのに、残念だなと、呟きながら。
「時間も僅か、二人の料理は間に合うのかー!?」
ユノが大げさに叫ぶ。
確かに一見、二人ともまだ料理は完成していない。
しかしこれも演出、そして温かい料理を観客に食べさせたいという気遣い。
最後の瞬間と同時に、無事完成。
「ローストビーフとさわらのチャンチャン焼です。旬のさわらと美味しそうなお肉を使わせて頂きました♪」
「春キャベツと新玉葱のキッシュ、それに鰹のピリ辛生春巻きや。旬にこだわって準備したで!食べてみてや♪」
抽選で選ばれた一般客に料理が振舞われると、直ぐに絶賛の声が聞こえ始める。
更に嬉しいことに、これ作ってみたいという奥様方の声。
「こちらのお肉は商店街で購入できます、是非試してみてください♪」
「野菜や魚はやっぱり専門の店から買うんが一番や」
香里とアキラを交えてワイワイと。
もう勝敗などどちらでもよいが、一応の決着は付けなければならない。
「非常に接戦だったと聞いておりますが、会長、結果の発表をお願い致します」
ユノのナレーションの後に会場の照明が落ち、ドラムロールが流れる。
そしてスポットライトはアキラの元へ。
「この勝負、葛葉アキラの勝利とする!味に関してはほぼ互角、いや寧ろ香里嬢の方が上だったかも知れん…。しかしあの素晴らしいパフォーマンス、そして旬にこだわったメニュー選択、それらが━━」
「うわ!これめっちゃ美味しいやん!なにこれ!レシピ教えてぇな!」
「アキラさんのも美味しいです。後でお互いレシピ交換しましょう♪」
本人達には勝敗なんかどうでも良かった様で。
会長の声を掻き消して、二人の楽しそうな声と、勝負の終わりを告げるドラが空に響き渡った。
●看板三姉妹出揃う
長々続いていた漫談も遂にラスト。
もはや聞いているのはご老人の方のみ。他は静かに寝息を立てている。
「お互い不毛な闘いを繰り広げる羽目になるのは言うまでもなく!旦那が謝るまでこの言い争いは続く!」
「思い出が詰まっているとは言え良いものとは限らない!!」
「……一言多かった事をお詫び申し上げます。」
キリッと締めたが、その締めって商店街的に大丈夫なの?
問題ありません、だってもうご老人しか聞いていませんから。
パチパチと拍手で徐々に客が目を覚ましていく。
そして満を持して登場である。
「鎖弦、シエルさんお待たせしましたですぅ!」
肩で息をしながら何とか自分の番に滑り込む。
そして長女美月、次女美遙を引き連れてステージ中央へ。
「緋流三姉妹三女緋流美咲!」
スポットライトが美咲へ集まる。
「常にシリアスな長女のおはぎを食べる速さは光の如く…皿の上のおはぎが一瞬にして消えるという日常…」
ライトに照らされた鎖弦は、高速でおはぎを食べ続ける。
「次女の漫談は隠れ蓑…チーズ教で、チーズ狂!流れる血はチーズ!煮え沸る脳はブルーチーズ!チーズのためなら去ぬ、が座右の銘…」
続いてシエルがどやぁと胸を張る。
「三女は妄想百合Mっ子という性癖に目覚めた…」
最後に美咲自信がちょっと顔を赤らめつつ。
「さぁ!この魅力的三姉妹に会いたくば商店街に訪れるといい!」
ばぁぁーーん!!とドラ。
今回一番働いているのはもしかしたら八百屋の店主かもしれないなぁ…。
●結局のところ
「コンテスト、一位になれなかったのは残念ですぅ」
三姉妹での評価はもらえたものの、個人を決めるコンテスト。
ましてコンテストの体を成していませんでしたし。
「私女ヨ。何故迷ウネ」
耀華は高評価だったものの、男性なのか女性なのか審査員が揉めたらしく結果二位となった。
「まぁまぁ、一位を取ることが今回の目的ではないのですから」
ニコッと香里に微笑まれる。
確かにその通りだ。商店街の魅力は十二分にPRできたに違いない。
「ここのおはぎは中々いい。持ち直してくれるといいが」
出店にあった全てのおはぎを謝礼と称して略奪し、高速で消していく鎖弦。
「チーズも中々のものです」
シエルも同様に料理会場に残されていたチーズを貪る。
不意に自分の漫談を思い出して、苦笑なんかしつつ。
「あなた達はいいわね。私は間近で料理を見ていたからお腹すいたわ」
終始裏方に勤めたユノが溜息をついた。
「なんや、ユノちゃんお腹すいてたんか、さっきの残りでよければあるで?」
「あ、私も、皆さんで食べようと思って少し多めに作っておいたんです♪」
りんご飴とチョコバナナを頬張りつつ言うアキラに、香里が自分も、と袋を取り出した。
最終的には会長や商店街の人も集まって大宴会になるのだった。
●後日談
一定の固定客がついたようで、年配の客が増えていた。
又美人三姉妹と姫のような看板娘が居る、と言う噂が流れ、美人目当てに訪れる客も少なくは無いようだ。
「素晴らしい効果じゃな!よし!緋流三姉妹と鎖姫グッズを大量生産じゃ!そして第二回料理対決の開催準備も進めるんじゃぁー!!」
寄り合い会場、今日も元気な後藤会長の叫びが響き渡った。
この商店街の未来は、明るい━━?
了