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マスター:中路歩
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/07/23


みんなの思い出



オープニング


 あたしらでもさ、死ぬんだぜ?
 そりゃあ常人よりも頑丈にできてるけど、死ぬときは、あっさりさ。
 怖ぇか? あたしは怖いね。死ぬなんて冗談じゃない。

 けどさ。

 もし誰かと自分の命を天秤に掛けなきゃならなくなったら、どうする?
 ……あたしはさ、自分の命を優先しちまった。
 結果生き延びたさ。あぁ、今もこうして生きてる。

 でも、そんとき以来、まともに眠れたことがねーんだ……。 

――とある元撃退士の言葉より



 町には、黒い雨が降っていた。
 全身の汗や返り血を流してはくれるが、容赦なく体温を奪ってくる。濡れた髪や服が重いし、
得物を握った手は痺れたように感覚が無くなっていた。
 酷く、疲れている。
 立っていることも難しくて、膝をつき、荒い呼吸を繰り返す。

 いったい、何匹の敵を殺しただろう。
 いったい、どれだけの時間戦い続けてるのだろう。
 
 あと、何匹殺せば、どれだけ戦えば、終わるのだろう。

「来たぞ! また敵だ!」
 仲間の叫びに、あなたは疲弊した身体を酷使してなんとか立ち上がる。
しかし、目にした光景に目眩を覚えて、よろめいてしまった。
 仲間が支えてくれたお陰で倒れずに済んだが、いっそ、
このまま気絶した方が楽だったかも知れない。

 敵だ。
 また、敵だ。
 敵、敵、敵だ。
 見渡す限り、どこを見ても、敵、敵。
 建物の向こう側に、建物の屋根に、建物の中から。敵敵敵。敵。

 逃げ出したい、逃げ出してしまいたい。
 いや、本来なら逃げるべきなのだろう。仲間達は全員消耗しきっているし、
下手をすれば全滅する。

 しかし――それを決断しきれない。
 あなた達の後ろには、無力な一般人がいるのだ。


● 
 状況はシンプルにして、最悪だ。
 ゲートの出現により、この町は悪魔の支配領域に入ってしまった。 
 当然ながら一般人は町から出ることができなくなり、
久遠々原学園は事態の鎮圧のために12人の撃退士を派遣した。

 しかし問題が起こる。

 ディアボロの数が、あまりにも多すぎたのだ。
 その町の住民の数よりも多い、と言えば、その凄まじさがわかるだろうか。

 魂の収穫どころか、町の人間を皆殺しにしかねない数だ。これでは、
ゲートを潰す前に町の人間に多大な被害が出てしまう。
 そこで撃退士達は6人と6人の二手に分かれて、片方がゲートの破壊を、
もう片方が住民の救助を行う事となった。

 あなたは住民の救助の班に加わり、奮戦する。
 数百人規模の住民を町内の大病院へと避難させ、それを背にしながら、
押し寄せてくるディアボロと戦っていた。

 ところが。

 ゲート破壊班が多大な被害を受け、撤退したとの知らせが入った。

 しかし、だからといってあなた達は撤退できない。
なにせゲートが破壊されない限り結界は解除されない。つまり、一般人は脱出できない。
 だからといってあなた達がゲートの破壊に出向くことも、難しい。
倒しても倒してもディアボロは幾らでも出現し、現状でも手一杯なのだ。

 そして何の打開策も見つからぬまま……
 今に、至る。



 決断せねばならない。

 ゲート破壊班が撤退した以上、今の窮地はいずれ学園にも伝わるだろう。
ということは、やがて救援も来てくれる。
 しかし、いつになるかは検討もつかない。
下手をすれば住民も、自分達も、全滅してしまうかも知れない。
 
 ならば、一か八かでゲートの破壊に向かうか? ゲートを破壊すれば、
町内のディアボロは一気に霧散するだろう。
 しかし、ここからゲートまでの距離は遠い。全力で走っても10分以上はかかる。
ゲートに到達し、破壊するまでにどれほどの被害が出るのか。
いや、そもそも破壊できるのか。ゲート破壊班が壊滅して撤退したことを忘れてはならない。

 もしくは……。
 恥も外聞もプライドも捨てて、逃げ出すか。自らが生き延びるために。
 撃退士ならば結界の外に脱出できる。今の状況を思えば、誰も責めはしないだろう。
 ただ、住民は誰一人として助からない。

 それとも、それとも、それとも……。

 様々な可能性や選択、IFが脳内をぐるぐる回る。
 考えている間にも、敵は押し寄せてくる。

 戦って戦って戦って戦って戦って……その果てに、どうする?


リプレイ本文


 Piii……―――

『は、はは、ははははは!!』
『生くるは悲惨死ぬるは無惨蒙昧浮世に名を遺す。生生生生暗生始、死死死死冥死終』
『いやだ、死にたくない、死にたくないよう。お母さん、やだよう』
『こないで! こないでぇえ! いぁ、あ”あ”!! 痛い、痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃい』
『だ、大丈夫だよ、かか、か、帰れるよ、ね? そうだよ、ね? 帰れるよね?
ね? ねぇ、ねぇぇええええ! うんって、うんって言ってよ、言えよぉおおおお!』

 ……Tu―……Tu―……


――救援要請の音声ログより。



 闘い抗い絶望を噛みしめ決断せよ、と。
 そんな幻聴を聞いた。
「おぇ、げぁ……げほっ、えほっ……。――はぁ、はぁー……はぁー……」
 紫園路 一輝(ja3602)は自らがぶちまけた吐瀉物を見下ろし、
ギリ、と歯噛みする。
「抗ってるし……」
 一輝は口元を袖で拭い、しかし、その袖もまた真っ赤に染まっていることに悪態をつく。
 袖だけじゃない。
 彼女の全身は、自身の血と、返り血と、ディアボロの臓物の欠片に塗れていた。
「マジで、キツいけどね……」
 そして、リボルバーの引き金を引く。
 殺到してくるゾンビの1匹が、頭を吹っ飛ばされて崩れ落ちる。
しかしあっという間に他のゾンビに踏みにじられ、屍は見えなくなった。
「多すぎなんだよ、こいつらぁっ!」
 叫び、森田直也(jb0002)はショットガンをぶっ放す。今度は一気に3匹が肉塊になるも、
やはり数で押してくるゾンビどもに踏み越えられ、下敷きになり、路上の染みと化す。
 撃っても撃っても撃っても、減らない。まったく減らない。
 もう、どれだけの時間、戦い続けているだろう。
 あと何匹殺せば、終わってくれるんだろう。
『ははっ、二つ向こうの地区まで大渋滞だ。人気者は辛いねぇ』
 なんて無線越しの享楽的な声は、鷺谷 明(ja0776)だった。
『状況は絶望的。敵の数は無尽で我らの消耗は甚大。救援も、期待ぐらいはしていいんじゃないかね。
だからまあ、愉しもうか。おっと危ない』
 一輝の死角から迫ってきていたゾンビの脚が千切れ飛ぶ。遅れて、銃声が轟いた。
ライフルの遠距離狙撃だ。
 支えを失ってよろめくその個体は、続く斬撃によって完全に事切れる。
地面に伏せたときには、完全に二つに分かたれていた。腐敗と臓物と死の臭いが、
戦場を更に酷に染める。
「く……」
 北辰 一鷹(jb9920)は抜刀・祓魔を鞘に収め、膝をついた。
既に疲弊とダメージで身体は限界に近いようだ。
 それでも尚、彼の目に灯る熱意は、衰えていない。
「楽しむかどうかは、ともかく。救援を待って、ここに踏みとどまり続ける事には同意します。
――皆の笑顔を、守らなければ」

 今、この街は悪魔のゲートの支配領域下にある。
 ゾンビ型ディアボロが町中に蠢いており、生き残った住民達は全員、
撃退士達が背後に庇っている大病院の中に避難していた。
 大病院は対天魔用の指定避難施設であり、高い壁と頑丈な門で守られている。
撃退士達が奮闘しているお陰もあり、今以上の被害は出ていない。
 が、それゆえに撃退士たちはゲートを潰しにいくことができない。
いずれ学園から送られるであろう救援を頼みに、持久戦をせざるを得ない状況だ。

「もう誰も死なせない、殺させない。守らなければならないんだ……。
俺の最後の力が枯れるまで、絶対に、絶対に絶対に絶対に退くわけにはいかないんだ……」
「落ち着いて。鷹ちゃん!」
 虚ろな目で言葉を紡ぐだけの一鷹の身体を掠めるように、数多の矢が通り過ぎる。
それらは一鷹へと向かう敵を押し留めると同時に、一鷹を我に帰らせた。
「す、すみません、スピネルさん」
 スピネル・クリムゾン(jb7168)は一鷹の後方で、にへ、と表情を笑み崩しながら頷き返す。
「絶対、皆で帰るんだもん。悪い子なんかに負けないんだよ!」
 ぶい、と指を立てて明るく笑う。しかしそんな彼女でさえ疲労は大きいようで、
番えていた矢を足元に取り落とした。見せまいとしているが、息も乱れてかなり憔悴している。
 皆、疲れ切っている。
 それでもゾンビは押し寄せてくる。
 遠距離攻撃で弾幕を張っても、ジリジリと押し込んでくる。
 必然的にゆっくりと後退することになるが、どん、と背中に触れた硬さに振り返らざるを得ない。
 いつの間にか、病院を守る門に背中が当たる程、追い詰められていた。
「くそ……。前に出る、後方支援は頼むぜ!」
 直也は得物をトンファーに切り替え、叫びながらゾンビの群れへと突撃する。
一鷹もそれに続き、スピネルと一輝は支援射撃を開始した。

 でも、終わらない。



「いかんな……」
 レアティーズ(jb9245)は壁上から戦場を見下ろし、高所から支援攻撃を続けながらも、顔を顰める。
 それは今の状況に対する素直な感想であり、しかし、そこに絶望感は微塵も無かった。
 と。
『さてさて、諸君。特別ゲストが現われたようだよ』
 レアティーズよりも更に高所。大病院屋上にいる明からの無線だった。
 眼鏡越しの冷徹な目は、それを捉える。

 ゾンビどもを薙ぎ倒しながら真っ直ぐ突き進んでくる、巨大な筋肉の塊のような、
ヒト型のバケモノを。



 咆吼に、街が震えた。
 大型ディアボロはゾンビを蹴散らし、踏みつぶし、門に向かって突撃してくる。
その手で鷲掴みにして振り回しているのは、なんと、軽自動車だ。
「みんな、攻撃を集中させるんだよ!」 
 すぐさま、全員の攻撃が大型へと集中する。それらは確かに大型に傷をつけ、
肉を抉っていき――しかし大型はまったく動きを止める気配はない。
 焦り、息が乱れ、手が汗ばむ。ただでさえ疲れ切っていて、視界が霞む。
「お兄、お姉……」
 スピネルは最愛の家族達を思い浮かべて、呼吸を整えて、ゆっくりと、弓を構える。
 世界から音が消えて、聞こえるのは自分の息づかいと鼓動だけ。
 時間の流れ緩やかになり、大型ディアボロの一挙一動をハッキリ認識出来る。
 ……射線が、通った。
「おしおきだよ」
 矢を放つ。
 それは風を裂いて突き進み、味方の武器を構えた腕の間を通り抜け、ゾンビの耳を掠め、
振り回される軽自動車の割れたサイドウィンドウを通過して――
 大型の右目に埋没し、後頭部から矢尻が抜けた。
 頭部を破壊された大型は命を絶たれる。突撃の勢いのままつんのめり、転がり、
うつ伏せに倒れ込んだ。
「やった!」

 しかし。

『千客万来だ。まだ来るぞ』
 明の声に、ハッと振り返る。
 大型は一体だけでは無かった。もう一体はとうとうゾンビの群れを突破し、
撃退士達を豪腕の射程内に捉えている。
「っ!」
 一鷹と直也が躍り出るも、膂力で押し負けてしまう。ふたりは大きく吹き飛ばされ、
地面を転がった。
 次に大型が狙うのは、一輝だった。
 一輝がそれに気付いて振り返ったときには、既に、攻撃は終わっている。
 大型に身体を鷲掴みされたかと思えば、門に叩きつけた。
「あっ、がっ……ぁっぁあっ!」
 全身の骨が軋む。
 肺から空気が搾り出され、呼吸が出来ない。
 レアティーズとスピネルがフォローしようとするが、大型と一輝の距離が近すぎるから迂闊に攻撃できないし、
自らもゾンビの群れに纏わり付かれて、対処ができない。
 一輝の意識が、混濁する。呼吸が出来ない。
 このままだと、握り潰されてしまう。
「ああ……ぁ……」
 ――それでも。
 ――君ならこんな状態でも修羅を通し前しか見てないんだろ?
 なんて、考えて。
「……まけ、られな、ぃ……い!」
 隻眼を見開いた。
 目の前にある醜悪の口の中に、銃口をねじ込んでやる。
 引き金を引く。叫び、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ!
 大型は一輝を放り捨てるように解放し、血と脳漿だらけの頭を掻きむしって暴れまくる。
これでも尚、絶命しないのか。
 しかし。天より降りた蛇がその額を噛み貫き、ついに、大型は静かになる。
「正直……。愉しそうで我慢できなくなったのでね。ははは」
 門を飛び越え大型の屍の上に立った明は、悪びれもなく肩を竦めていた。

 これで大型を二匹仕留めた、が。
「ダメだな。後退しよう」
 レアティーズは冷静に、皆にそう告げた。
 大型を仕留められたが、既にゾンビの群れは目と鼻の先にまで接近している。
ここに留まっていては、退路どころか身動きが取れず、嬲り殺しにされるだろう。
 撃退士達は仕方なく門を開き、第一防衛ラインを放棄することとなった。
 門の内側――広大な駐車場には、車や木々で積み上げたバリケードがある。
 きっと何とかなる。

 ――はずだった。



 この絶望的な状況。
 撃退士でさえ、一歩間違えれば狂気に侵され、正常な判断ができなくなる。
 なれば。

 一般人が、平静でいられるはずはなかった。
 パニックを起こさないわけは、なかった。

「これは……」
 直也は愕然と、表情を強ばらせた。
 門を開いたのをキッカケに、病院内部から一般人が溢れ出てきたのだ。
 全員ではない。100人もいないだろう。
 しかし正常な判断をできなくなった彼らは、バリケードを乗り越えて、開かれた門目掛けて走ってくるのだ。
 自分達の足で逃げだそうとして。
「馬鹿野郎ぉぉっ! 戻れぇぇぇっ!」

 直也の叫びは、届かない。



 ――直也は、仰向けに倒れていた。
 どうやら気を失っていたらしい。
 身を起こす。
 しかし、激痛が全身を貫いた。
「いっ!! ああっがッ!」
 痛い、痛い!
 全身傷だらけで、血まみれだった。
 腕や脚や肩や腹や、幾つも引き裂かれた痕があり、肉を噛み千切られている。
 ……そうだ、必死に戦ったんだった。
 身を挺して住民たちの盾となって、必死に喰らいついて――

 病院駐車場内にゾンビの姿は無い。
 ただ、屍が折り重なっているだけだ。
 ゾンビのと――人間の、屍が。
 きっとまだゾンビは来るだろう。今はただ、群れの一つをやり過ごしたに過ぎない。
 しかし――
「嘘だ、嘘だ……。またあんな思いをするなんて嫌だったのに。なんで、なんでなんで……
いや、イヤだぁぁ……」
「お、俺は、光になるって、……決め、た……。俺、は……なんのために、生きて……」
「う、っう……お兄、お姉…………会いたい、よぉ……」
 あまりにも凄惨で絶望的な状況。撃退士達の殆どは、戦意喪失状態となっていた。
 と、足音が近づいてくる。
「あまり動かない方がいいな、森田くん。きみの傷が一番深刻だ」
「……あんたは、大丈夫なのか? 鷺谷」
 明は直也の傍らに屈むと、くつ、くつ、と笑みを零す。
「肉体的なことかな? それとも精神的に? 答えは両方ともYESさ。人はどうせ、いつか死ぬ」
 それに、と言葉を続け、明は笑みを深める。
「私は喜劇よりも悲劇が好みでね。あまりの楽しさに少し我を忘れてしまったが、もう元通りさ」
「楽しい――だって……?」
 睨み付けるも、明は気にすることなく、救急箱だけを残して笑いながら離れて行った。
どうやら、バリケードの修繕に向かうらしい。
 直也もそれに続こうとするが、動けない。
 激痛のせい、とも言える。しかしそれだけのせいとも言えない。
 心が、折れていた。
「俺は……」

「無様だな、人間」

 突き放すような、冷徹な声。
 僅かに顔を上げると、目の前に、レアティーズが立っていた。
「ほんの1〜20人死んだだけじゃないか。いつまでそうやってメソメソしているつもりだ?」
「なんだと……っ」
 直也は今度こそ頭に血が上り、痛む身体を酷使して立ち上がる。しかしそのままよろめき、
直也はうつ伏せに倒れ込む。
 レアティーズは助け起こすこともせず、冷たく、見下すだけだ。
「お前が――いや、お前達がそうやってやる気を無くしている理由は、
私にはまったく理解できない。だが理解しようとも思わない」
 冷徹な天使は眼鏡のブリッジを指で押し上げ、戦意喪失している全員を振り返った。
「たかだか10や20や30死んだところで、奴らにとってはほんの1ステップに過ぎない。
お前達は忘れてるのかも知れんが、大病院には今死んだ十倍以上の人間が残っているのだぞ。
まだゲームは私達に圧倒的に有利に動いている」
「ゲーム……?」
 レアティーズの物言いが気に入らなかったのか、楽しげな明以外の者達の目は厳しい。
しかし彼は構わず、続けた。
「お前達にやる気がないのならば、私はさっさと撤収するだけだ。脆弱だとか罵るも結構。
こんなところで死のうとは思わんからな。――ここで死んで悪魔から一勝を得るよりも、
ここで一敗してあとで百勝する方を選ばせてもらう。第一、勝ったとて生きてなければ、
悪魔の悔しがってる顔が見られん」
 と。
 ぱん、ぱん、と手を打ち鳴らす音が。
「悪いくない説法だとは思うんだがね」
 明は全員の視線が集まった後に、黒い空を指さした。
「――さあそら、絶望が来たぞ」
 途端、強風が突きつける。
 続けて、地が揺れた。

 恐れていた可能性が、現実になる。
 キメラ型のディアボロが、来襲したのだ。

 明は楽しげに口角を吊り上げて、レアティーズは忌々しげに目を細める。
 状況は最悪過ぎる。ここは病院内の駐車場だ。バリケードだって意味は成さないし、
戦意喪失者が多すぎる。
「ふん。退き時だな……」
 レアティーズは明言通り、その場を立ち去ろうとして――足を止めた。

「うおおおおおおおおおおあああああ!」

 一鷹が武器にアウルの光を纏って突撃し、誰よりも早く、第一撃を加えていた。
愚直なまでの突撃であり、しかし、それが却って奇襲となったらしい。
 キメラは鮮血をぶちまけながら絶叫し、蹈鞴を踏む。一鷹を見る目には、深い憎悪があった。
 それでも一鷹は踏みとどまり、叫ぶ。
「それじゃあ、生きてやりますよ! 皆の笑顔の為に戦って、そしてっ! 
『その笑顔を見る為に』、自分の為にも戦ってやる!」
 それはもしかしたら、この場だけのヤケクソなのかもしれないが。
先ほどまでとは段違いの雰囲気を纏う戦士が、そこにはいた。
その後ろでも、一輝とスピネルが、身を起こしている。「やってやる」、と。
 キメラは鬱陶しげに喉を鳴らし、バリケートの車をひとつ尻尾に巻き付ける。
 そしてそれを、撃退士ではなく、病院へと直接投擲した。
 しかし――宙を横切る車両の上に、人影が、降り立った。

「俺は……。自分に優しくねぇん、だよ!」

 重体の身体を酷使して動いた直也が、トンファーを車両に叩きつける。
ギリギリの所で車両は大地に叩きつけられ、大破した。
「ふふ、良い空気だ。みんな、愉しみたまえよ」
 明も攻撃へと加わり、いつの間にか、全員が戦線に復帰していた。
 レアティーズもまた、これで撤退する理由は無くなる。
「……ふん。これでは、見下せんな」

 撃退士は総力を振り絞り、キメラへと立ち向かった。




 白い天井があった。
 身体の節々が痛いから、死んではいないのだと思う。
 どうやら、少なくとも自分は、生き延びられたらしい。
「また病院か……早く退院しないと」


 終


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 命の掬い手・森田直也(jb0002)
 能力者・レアティーズ(jb9245)
重体: −
面白かった!:7人

紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
『三界』討伐紫・
紫園路 一輝(ja3602)

大学部5年1組 男 阿修羅
命の掬い手・
森田直也(jb0002)

大学部8年1組 男 阿修羅
瞬く時と、愛しい日々と・
スピネル・アッシュフィールド(jb7168)

大学部2年8組 女 アカシックレコーダー:タイプA
能力者・
レアティーズ(jb9245)

大学部5年308組 男 ダアト
鮮やかなる殺陣・
北辰 一鷹(jb9920)

高等部3年8組 男 ルインズブレイド