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マスター:中路歩
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/16


みんなの思い出



オープニング


 日本海にぽつんとある島に、ドーンとそびえるでっかいビル。
 それが、近隣の住民達が『クリムゾン・B社』の超高層建築物を説明する際に用いる共通文面だった。
 とはいえ、その立地を別にすれば、さりとて怪しい会社なわけではない。
 天魔との戦時中と言えど、経済は廻り続ける。この会社もまた日本の経済を回す大企業であり、
久遠ヶ原学園に対しても多額の援助金を支払い続けていた。

 以前、サーバントの群れより救われたことをきっかけに本格的な交流が始まり、
CB社と久遠ヶ原学園の親交はより近いものとなっている。
 今では社長であるエメラ・プレシデントも個人的に学園へ遊びに行ったりと、
関係は良好と言えるだろう。
 学園との繋がりが強くなったお陰か、天魔の標的にもされずに済んでいた。

 ――しかし。
 この会社は、まったく違う意味での脅威によって、窮地を迎えようとしている。

● 
「あー、やめといた方がいいと思うけど」
 CB社本社 摩天楼敷地内、社員居住区にて。
 エメラが扉に手を伸ばしたところで、開発部門主任であるギーナは慌てたように体を割り込ませてくる。
 しかし、掃除器具で完全武装したエメラは、確固たる覚悟を持って視線を返した。
「いえ、いえ! 今日は絶対に隅々までお掃除します! 
ほら、ここからでも異臭がするじゃないですか。またゴミを溜め込んでいるのでしょう」
「いや、なんつーか今度のは、前に掃除してもらったときの比じゃないっつーか……」
 ギーナは困ったように頭を掻いている。それだけでまた、フケが落ちてくる。
お部屋のお掃除が終わったらお風呂に入ってもらおう、とエメラは心に決めた。
 髪だけじゃない。纏っている白衣は汚れ過ぎてて染みだらけだし、足には便所サンダル。
いつだって咥えっぱなしの、棒キャンディ。
 不潔なのが悪いとは言わないが、健康を害するレベルとなれば話は別だ。
「そもそも、そんなん社長がやらなくてもよくねーっすか? 
ほら、前の事件で『黒い烏』とか言う奴から名刺もらってたし。何でもヤるっつってたし」
「確かに頂いておりますが、このような清掃作業をお願いするなんてご迷惑極まりないでしょう。
社内の乱れは社長であるわたくしの責任。非力であるわたくしにできることなら、全力で何とかしたいのです」
「……何とかならねぇと思うんだけどなぁ……」
 ギーナが顔を背けた。

 今だ! と、エメラは判断した!
 カードキーを持った手を、ギーナの脇から扉へと伸ばす。

「失礼しまっ――わっ」
「あ! 馬鹿!」
 しかしエメラは壊滅的に運動神経が悪かった。たった大きな一歩それだけで足をもつれさせて、
思いっきり顔面から扉に激突する。
 それでも鳴り響いた電子音は、扉の解錠を意味したはずだ。
「あいたた……。さ、さぁ、主任さま。お部屋を拝見させて頂きますよ!」
 鼻を抑えながら身を起こして、振り返る。
 が、
「……主任さま?」
 いなかった。
 遠ざかっていく足音に目を向けると、全力疾走で逃げていくギーナの後ろ姿が。
「あ、ちょ、主任さま!? どうして逃げるんですか、待ってくださ――って足速っ!」
 現役を引退したとは言え、元々ギーナは10年以上も天魔と戦い続けていた大ベテランの元撃退士だ。
その身体能力はとんでもなく、逃走に活用されてはどうしようもない。
 しかしそもそも、どうして急に逃げ出したのだろう。

 ――と、思ったのも、この瞬間までだった。
 理由は、すぐにわかった。

 ミシィ
 メキ メキ
「……ぇ?」
 ギーナの部屋の扉を振り返ると、様子がおかしい。
 扉はカードキーを当てればスライドして開くはずなのに、途中で詰まっているというか、
なんか向こう側からすごい圧迫されてるというか。
 ……そう。強大な何かが、向こう側からブチ破ろうとしているというか。
「え、えっ」
 ミシッ ミシッ
 ベキッ
 扉に亀裂が走り、変形していく。冗談のような光景だ。
「えっ、ええぇっ!?」
 ここに至ってエメラはあとずさったが、もう、遅い。
 次の瞬間、扉が完全に砕け散った。
 そして――飲み込まれた。

 圧倒的な量の、ゴミ袋に。



 数時間後。
 
「あーと、うん。なんかどーにもならねーから、あんたら久遠ヶ原にどうにかしてもらおうかなーって」
 主任と呼ばれる女性――ギーナは気怠げに言った。
「だからやめといた方が良いっつったのに……」
 などとギーナは言っていたが、あなたはそんな言葉など耳に入っていない。
もっと言えば、ギーナの姿すら見ていない。
 彼女が背にしている、ゴミ屋敷と化した建築物に目を奪われていた。
 10階建ての、なかなかに広いマンションである。話に聞けば、社宅として使われている棟にひとつだという。
 しかし今や、玄関口からちょっと覗いてみるだけでも、膨大な量の白いゴミ袋で埋め尽くされており、床が見えない。
中を歩こうとすれば、ゴミ袋を踏み越え、よじ登り、乗り越えなければならないだろう。
 確かに酷い状況である。
 ……とはいえ、所詮はゴミだ。わざわざ学園を頼らずとも、業者を呼べばいいのではないだろうか。
「と、思うだろ?」
 こちらの内心を見透かしたかのように、ギーナは肩を竦める。そして、顎で社宅玄関口を指し示した。

「これより! 我らの社長の救助活動を開始する!」

 CB社警備員である撃退士達が、意気揚々と腕を突き上げているところだった。
「第一、第二分隊との連絡は途絶えてしまったが、それでも進まなくてはならぬ! いくぞー!」
 そして、6人の警備員達は社宅へと踏み込んでいく。
 ギーナは醒めた目でそれを見やってから、端末を操作してあなた達にひとつの映像を見せる。
それは、たった今突入した警備員達の様子をリアルタイムを写したものだった。
 そこには――

 ドガァァァァン!
『な、なんだこのゴミ袋! 触ったら爆発したぞ!』
 ドガガガガガガガガッ!
『うわぁぁぁ! なんでガンタレットがこんなところにいいいっ!?』
 キイィイイイイイイィイイイン!
『ね、粘着罠に丸鋸トラップだとぉ!? ひぃ、くるな、来るなァァァァッ!』
 シンニュウシャ ヲ ケンチシマシタ。
『な、なんじゃぁこりゃあああああ!』

 ゴミ屋敷内とは思えぬ、激戦……というか一方的な暴虐が繰り広げられていた。
 なんとゴミ袋には、何故か対人トラップの類が紛れているのである。
 言葉を失うあなた達だったが、ギーナは、
「いやぁ。なんつーか、開発の試作品とか失敗作とかも紛れてるっぽくてさぁ。
ふつーの人間どころか、うちの撃退士でもなんともならないわけよ」
 悪びれなんぞまったく無い、「ぁーまいったまいった」的にめんどくさそうな顔をしていた。
「んで、あんたらに頼みたいってのがさ、うちの社長もどっかに埋もれてるっぽいのよ」
 そしてサラッととんでもないコトを言ってきた。
「ぶっちゃけどこに埋まってるかもわかんねーんだよね、たぶん最初の雪崩で流されてるだろうし。
――っつーことで、ま、ヨロシク」
 ゴミ屋敷と化した社宅のどこかから、少女の泣き声が聞こえた気がした。


リプレイ本文

※このリプレイはコメディ作品です※


 黒神 未来(jb9907)は折り畳みテーブル上に広げた見取り図に手をつきがら、顔を顰めてしまった。
 嵌め込み窓越しに見えるのは、今やデスハウスと化している社宅棟である。
救助活動とはいえ今からあそこに入らなきゃいけないとなれば、そりゃあ、テンションは低くなる。
「俺達がやらなくてどうする(こほー)」
 しかし、未来の対面に立つ南條 侑(jb9620)は、落ち着いた様子で首を横に振った。
「社長は精神年齢はともかく(こほー)、体はまだ年相応子供だ(こほー)。
命に関わる(こほー)」
「……なぁ侑クン」
「なんだ(こほー)」
「暑くないん? というか絶対息苦しいやろ」
 侑は幾重ものマスクに防眼ゴーグル等々を身に付けた、完全防御態勢である。
他にもマスクをつける等の対策を施している仲間はいるが、彼はとにかく徹底していた。
 なんというか、ちょっと怪しい。
「匂いがあるってことは目もやられるからな(こほー)」
「や、そうかもしれへんけど……。まぁいいか」

 なんてやり取りをしていると、背後の扉が勢いよく開かれる。
 それだけで、今、未来たちがいるプレハブ小屋全体が揺れた。というか天井が今絶対傾いた。
「あらぁー、脆いわねぇ」
 犯人である黒百合(ja0422)は何故かひとり楽しそうに、グラつく天井を見上げて……、
叩きつけるように扉を閉じる。
 当然揺れるプレハブ小屋。更に傾く天井。悲鳴を上げて軋む建築材。
「きゃはぁ♪ 揺れる揺れるー」
「や、やめい!」
 そして悲鳴じみた未来のツッコミ。思わず黒百合に駆け寄り、冷や汗の垂れる顔をズイッと近づける。
「ここはセーフゾーンやろ! 救助した人を連れてきてアフターケアする場所やろ!
使う前にぶっ壊れたらどーするんや!」
「んー。そうなったらそうなったとき? 終わったことは仕方ないしー」
 不安になることを笑顔で言ってくれた黒百合である。
 未来は一度咳払いをして、「あのな?」と言葉を切り出す。
「今回の目的は討伐とかやなくて、救助活動なんよ。だから――」



 建物の一階層が吹っ飛んだ。
 強烈な爆音と爆風が収まったと思ったら、ゴミ山や壁の天井の一部が吹っ飛んでおり、炎に包まれていた。
 なんか悲鳴も聞こえた気がした。
「けっこー頑丈じゃねーか、この建物。こいつは壊しでがありそうだな」
 あっはははは! と愉快そうに笑うのは、
なんか両腕にすっごいゴッツイ重火器を装着してるラファル A ユーティライネン(jb4620)である。
「とにかく綺麗さっぱり片付けりゃぁいいんだろ? さぁ、お掃除開始しようぜー!」

 ――その後ろで、未来は『orz』の格好に崩れ落ちていた。
「……うん。なんとなく、こういうオチやと思っとった……」



 四階層にて。
 神ヶ島 鈴歌(jb9935)はゴミ袋を踏みしめ、足を止めた。
「あ、この辺りですぅ〜。この辺りにいますよぉ〜」
 その手に広げている屋内見取り図には、幾つか赤丸がつけられている。
これは社宅内に踏み込む前に、黒百合が前もって生命探知を行って位置情報を記してくれたものだ。
「それじゃあ〜、早速助けに――」
「待て」
 一歩踏み出しかけた鈴歌を、冷静な声と、腕が遮る。
 鈴歌が顔を上げると、牙撃鉄鳴(jb5667)は額に付けていたナイトビジョンを目元にスライドさせていた。
暫し無言のまま、側頭部辺りにあるダイヤルを弄っている。
「――機雷がある。要救助者の、ほぼ頭上だな」
 やがて口を開いた鉄鳴の言葉は、淡々としていながらも確信に満ちていた。
「んー。それじゃあ、どうしましょう〜」
「纏めて吹っ飛ばしちまおうぜ!」
 活き活きとした返答は、背後から。ラファルだ。
そしてドタバタ聞こえるのは、きっと未来と侑辺りが暴れたがる彼女を抑えようとしてるのだろう。
 ラファルが大暴れを自制してくれてる理由は、『建物自体が倒壊して社長が死ぬかも』という一点のみなのである。
さぞや、うずうずしてるに違いない。

 まぁ、それはそれとして。
「機雷は触ったら即爆発、って言ってましたよね〜」
「そうだな――」
 鉄鳴は顎に指を添えて、考えてくれているようだった。
 そして何か思いついたのだろうか。
 大きなリボルバー拳銃を取り出すと、手首のスナップだけで銃をトップブレイクさせ、弾倉を確認。
同じように小手先の動きで拳銃を元に戻すと、手の中で一度クルリと銃を回転させて、銃口を前に突きだして――
 撃った。
 爆発した。
 悲鳴が聞こえた。
「……はぇ?」
「考えたが、無理だと結論づけた」
 淡々堂々と言い切った。そして、自分の耳元を指し示す。
「成人男性の呼吸音であることは確認していた。撃退者なら、これくらいじゃ死なない」
「そ、そうなんですかぁ〜……」

 とにもかくにも、爆発によって周囲のゴミが吹き飛び、要救助者の姿を捉えることが出来ていた。
真っ黒焦げだけど、鉄鳴の言うとおり、ちゃんと生きている。
「じゃあこの人を安全なところまで運びましょう〜♪ 手伝ってください〜♪」
「あ、ほんならウチが手伝うでー」
 そうやって潜行状態で駆け寄ってきてくれたのは、未来だった。
「ありがとう御座いますぅ〜♪」
「そんじゃあ、いちにのさー――っと……こ、この兄ちゃんけっこー重いなぁ……」
 未来は少しバランスを崩して、鈴歌もつられて前のめりになり、
「おっ、っと、――っとぉ?」
 一歩、二歩、三歩……、
 カシュッ。
 嫌な音がした。
 しかしその刹名、未来の目が光る!
 そのトラップが起動したのと、未来が動いたのは、ほぼ同時だった。
「――ふぅ、危ないところやったでぇ」
「……未来さん〜……」
 確かに未来は無傷だった。鈴歌も無事だった。
 だって、未来が要救助者を盾にしたのだから。
「こ、これも貴重な犠牲や! 人類の発達のためにはしゃあないっていうか――うぇえっ!?」
 未来の悲鳴で、気付いた。
 盾にしてしまった要救助者の体にびっしりとくっついているG!
 今の罠は――Gを射出する罠だったのか!
 思わずふたりは同時に放り出してしまい、要救助者はそのまま別のゴミ袋へと転がっていき――

 カシャッ
 カシュッ
 キュィィィン!!!

 数多の罠を起動し始めた!
 ガンタレットが出現し、丸鋸が飛んできて、粘着網が降ってきて!
 気絶して転がる要救助者が、罠を次々と起動していく!!!
「は、早くアレを拾わな!」
「走ります〜! 待てーですよ〜!」
「おい、待て。そっちにも別の罠が――」



 九階層。
「……何をしている?(こほー)」
 黒百合が、救助したばかりの女警備員の傍らに跪いている。介抱しているのかと思ったら、
「うふふー。ちょーっと、疲れちゃったからぁ」
 その警備員の指先を口に含み、ちぅちぅと血を吸っていた。
 先の四階層での要救助者の扱いと言い、こんなんで良いのだろうか。
 侑はゴーグル越しに眉間をほぐしてから、ゴミ山へと向き直る。
「おーい、社長! エメラ! 意識があったら返事をしろー!(こほー)」
 ここまで何度も叫んできた言葉だ。しかし、今まで返事があったことは一度もない。
 ……が、

「――ぃ……」

「!! ここか!(こほー)」
 仲間達に声を掛けて、ゴミ山を取り除いていく。
 そこには……白く小さな細い手が、ぱたぱたと揺れていた。
「エメラ!(こほー)」
 侑はその手をしっかり握りしめると、一気に引っ張り上げる。
 現われた姿はボロボロな、しかし紛れもなく、救助対象である社長その人だった。
 社長はその場にへたり込み、顔を上げた。
 が、その表情が凍り付く。
「……どうした?(こほー)」
 と言った後で、気付いた。自分の今の姿は、怪しまれるそれであると!
 社長は小さく悲鳴を上げ、そのまま後ろ向きにゴミ山を転げ落ちて――

 カシャッ
 カシュッ
 シンニュウシャ ヲ ケンチシマシタ

 嫌な音と、不吉な機械音声が、聞こえた。
「……主任……、半年くらい減給処分をくらうが良い……(こほー)」




 セーフゾーンにもたれかかるギーナは、くしゃみの後に身を震わせる。
 そしてふと、自分の作った《警備ロボ》について思い出した。
 夢とロマンを詰めた、自信作だった。なのに予算オーバーなんて……。
「……合体変形って、絶対良いと思うんだけどなァ」
 と、呟いた瞬間。
 ゴミ屋敷の屋上付近が、大きな音を立てて爆発した。




 一瞬、侑にも何が起こったかわからなかった。
 いきなり天井が崩れて瓦礫が降り注ぎ、気がついた時には――『それ』が目の前に存在していた。
 ここは九階層だが、『それ』が立ち上がっただけで天井がブチ抜かれて、青空が広がっている。

 シンニュウシャ ヲ ハイジョ シマス

 ロボットだった。
 大きい。ゴミ袋が折り重なり、つなぎ合わされ、ゴミそのものがヒト型となって立ち塞がっているようだ。
恐らくはゴミ袋のナカの罠と連結しているのだろうが……。
「あれぇ〜。エメさんはどこに行っちゃったんでしょぉ〜」
 鈴歌の言葉に、ハッと辺りを見渡す。
 ロボットの重みゆえか、壁や床の一部が崩落している。
ラファルと鉄鳴の姿が見当たらないし、もし社長も崩落に巻き込まれたのだとしたら……!?

 ……しかし幸いな事に、すぐに見つける事ができた。
 ――ロボットを形成しているゴミに埋もれている、細い腕を。

 これでは迂闊に攻撃する事もできない。
 ――はずなのに。

「えーとォ、社長さん、まだ生きてたら一切身動きしていで下さいねェ」
 馬鹿でっかい槍を手にした黒百合は、またもや不吉な事を呟きつつ、進み出て、
「――少しでも動いたら……五体満足は保障しませんよォ?」
「あ、おい、待――」
 静止も虚しい。
 黒百合は満面の笑顔で突撃して、豪槍・ロンゴミニアトを叩きつけたッ!
 全長6mはあろうそれは強く撓り、見た目に違わない豪快さで、ロボットの腰部に直撃した――だけでは、留まらない!

 ヒュォォォォォォッ!

 槍に増設されているのは、なんと補助用スラスターだった。
鋭い空気吸入と排出の音を伴い一気に炎を吐き出して、衝撃の強さを倍に、倍にして――ついに、振り抜かれる!
 ロボットの腰部位が、ごっそり持って行かれた。
 持って行かれたあとの空洞にちょこんと残っているのは、気絶している社長だけである。
「なんて無茶を……」
 侑は額に浮かんだ汗を拭うも、槍を担いで振り返る黒百合は相変わらずの笑顔だった。

 カシュッカシュッカシュッ。

 また、嫌な音。
 ロボットは全身の至る所からガンタレットを出現させ、弾丸の連続射撃を叩き込んできた。
 しかしそれに真っ向から反するように、ひとつの小柄な影が突っ込んでいく。
「たとえ罠でもゴミでも、エメさんにイジワルするのはメッ! なのですぅ〜!」
 悪夢のように荒れ狂う跳弾の全てを櫂潜り、肉迫するのは、鈴歌だった。
彼女は床を蹴って跳躍し、横手の壁を蹴ってもう一度宙を舞う。
そこを狙ってロボットが拳を突き出してくるも、なんと彼女はその手の甲に着地していた。
 鈴歌は「にぃっ」と良い笑顔を見せてから、大鎌を薙ぎ払った。
ロボットの腕部分は完全に両断されて、巨体は大きくバランスを崩して蹈鞴を踏む。

 ところが、
 それにより、気絶した社長の体がロボットから放り出された。
 その先には――破壊された壁。つまり、地上9階の高みがあるだけだ。
 しかし、飛び込んだ侑がその手をギリギリの所で掴んだ。
「くっ……!」
 がくん、と重みが掛かって、上半身が外へと露出する。体勢が悪く、床も崩れそうだ。
 そこへ、

「手を離せ」

 どこからともなく、冷静な声が聞こえてきた。
 内容はとても正気だとは思えなかったが……、
「お前は空を飛べないだろう?」
 それで察した。
 侑は僅かに躊躇いつつも、社長の手を、離す。
 社長の体は宙に放りされ出て……しかしすぐに、黒い翼が攫っていく。
 鉄鳴は社長の体を抱えると、地上に向かって滑空していった。
これで少なくとも、社長の身柄は確保した事になる。

 あとは――
「け、けっこー強いなぁ!」
 侑の横に、未来が吹っ飛ばされてくる。
 黒百合と鈴歌もまた、後退してきた。
 全員がここに至るまでで疲弊しきっており、十分に力を出せないのだ。
しかも足場や場所も悪く、4人は壁の大穴を背にして立っている。
「あらぁ。これは、ミイラ取りがミイラって奴かしらねぇ」
 そんなやり取りをしている間も、ロボットは、近づいてくる……!



 ラファルは気付いたら、ゴミ屋敷の前に放り出されていた。
 9階層から直接落ちたならまず助からないだろうから、きっと幾つか段差に引っかかったのだろう。
 登って合流するか、と考えていたら……、ばさり、と傍らに着地する人物がいた。
「お、鉄鳴じゃん? それって社長?」
「あぁ……ラファルか。上で色々あってな、無事救出した」
 鉄鳴がそこまで説明したところで、
「あ」
 ラファルは、ぴーんと閃いた。
 社長がここにいるってことは……、
「つまり俺、大暴れして良いってことじゃねーか!」
「まぁ、そうだな。依頼は完了したし別に止めんぞ。俺は報酬を貰って、もう行く」
 鉄鳴は今度こそ、社長を連れてセーフゾーンへと向かっていった。
 そして、ラファルは、
「……よーっし!」

 ガトリング砲装備。
 十連魔装誘導弾式フィンガーキャノン装着。
 多弾頭式シャドウブレイドミサイル装填。
 俺式60mmスモークディスチャージャー展開。
 デストロイドモード起動!!

「全砲門、開けぇぇ!!」
 全ての武装を展開し、ゴミ屋敷そのものに、叩き込む!
 ゴミ屋敷はまるでダルマ落としにように形を崩していく。
 一階層が潰れ、続いて二階層が潰れて、三階層、四階層――そして……、
「……」
 八階層を潰したところで、呆然と立ち尽くしている四人の仲間達と、目が合った。
 しかしそれも一瞬のことで、すぐに事態を察した彼らはラファルの射線上から逃げ散った。
「ははっ! これで、フィニッシュだ!」
 なんかロボット的なのが居た気がするが、そんなの気にしない。
 ラファルはゴミ屋敷がスクラップの一片になるまで、撃ち続けた。



「とても心配したのですぅ〜……ご無事で良かったのですぅ〜♪」
 なんとか意識を取り戻した社長に、鈴歌はぎゅぅーっとハグをした。力一杯、抱きしめる。
 ――しかし、社長はまるで魂が抜けたように呆然としていた。
なにせ目の前に広がるのは、瓦礫の山である。
 侑と未来は、小さな両肩に手を置く。
「まぁ……無事だったんだ、それでよしとしよう」
「……その、なんや。シャワーでも浴びんか?」
 社長は力なく、こくんと首を縦に振る。

 ――と、その手を黒百合が握った。彼女もまた、社長を慰めるのかと思いきや……、
「うふふー。疲れちゃったからぁ、少し吸わせてくださぁいー」
「へ?」
 黒百合は、社長の指にカプリと噛みついた。

 瓦礫の山と化した社宅の傍から、社長の小さな悲鳴が響いた。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
 総てを焼き尽くす、黒・牙撃鉄鳴(jb5667)
重体: −
面白かった!:4人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
総てを焼き尽くす、黒・
牙撃鉄鳴(jb5667)

卒業 男 インフィルトレイター
その心は決して折れない・
南條 侑(jb9620)

大学部2年61組 男 陰陽師
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー
翠眼に銀の髪、揺らして・
神ヶ島 鈴歌(jb9935)

高等部2年26組 女 阿修羅