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マスター:monel
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/08


みんなの思い出



オープニング


 紗枝子はしとしとと降り続ける雨に打たれ、熱くなっていた頭もすっかり冷め切ってしまった。
(もう、なんで追いかけて来ないのよ……普通傘もささないで女の子が飛び出したんだから追いかけてくるでしょ)
「駄目なひとなんだから……」
 ほろりと零れた独り言が思っても見ないほどの泣きそうな震え声で。
 紗枝子は立ち止まり崩れるように蹲る。
「なんでこんなになっちゃうんだろう……」

 きっかけは些細なことだった。
 彼のためにがんばって作った鍋なのに、彼は春菊が入っていたから食べないと言い出したのだ。
 売り言葉に買い言葉。
 悔しくなってどうでも良くなっていた昔の事まで掘り返すようにして彼を詰ってしまった。
 最近上手く行ってなくて落ち込んでるのは分かっていたのに。
 励ますつもりで土鍋まで持ち込んで作ってたはずなのに。

「もう……だめ……なの……かな」
 溢れ出る涙を抑えることが出来なくて。
 震える唇が止まらなくて。
 誰も居ないのは分かっていても否定してほしくて、搾り出すように口に出した言葉がやけに生々しくて。

 ぱら、ぱら、ぱら……

 だから後ろから聞こえて来た雨を受ける音に、紗枝子は勢い良く振り返った。
「遅いんだか……ら?」
 そこに見えたものを理解できないまま、紗枝子の世界は反転し、暗闇に堕ちた。


 北村香苗が現場にたどり着いた時は夜になっていた。
 地元で最近頻発しているという通り魔の話を聞いて、居ても立ってもいられずに説明を聞くのもそこそこに調査に来たのだ。
 雨の降る夜道に出ると聞いて、夜道を歩いていく。動きを阻害しないように傘はささずに合羽を着ている。
 ただの通り魔であれば撃退士の自分が解決できるはずだ。
 天魔の仕業であっても戦う術は授業で習ってる。
「実戦はまだだけど……きっと大丈夫よね」
 夜道を一人で歩く心細さは撃退士になっても変わらない。
 怖さをごまかすために独り言でまぎらわせようとしているが、人通りの無い狭い道に消えていく自分の声が頼りなく、怖さを増していった。
「この道なんでこんなに薄気味悪いんだろ。うー……どうせ出るなら早く出てくればいいのに」
 きょろきょろと周囲を警戒していると、後ろからぱらぱらと雨が何かに当る音が聞こえてくる。
「来たわね……いい加減にしなさいっ!変態っ!」
 頃合を見計らい盾を構えて振り返る。
 強烈な一撃をなんとか受け止め、反撃をしようと盾を下ろした瞬間、ぎょっとしたように固まる。
「むぐっ……むぐっ……」
 じたばたと暴れながら両手を振り回すとようやく息が出来るようになった。
「な、なんなの……」
 自分を縛った相手を探して真っ暗な空を途方に暮れたように見回すのだった。


「君達も知ってるだろう?暗い夜道に後ろから走ってくるようなお化けの話を」
 髪を気障ったらしく片手で梳いて狩野淳也(jz0257)は皮肉な笑みを浮かべる。
「都市伝説の模倣とはね。助かる者が居ないのになぜか噂は広がるものさ。天魔って奴等のセンスはわからないね。君達はわかるかい?ふん」
 わざとらしくため息をついてみせる淳也は、やれやれと首を振るとぱんっと両手を打ち合わせた。
「さて、君達にも分かるように今回の事件を簡単に説明しようか」
 手にしたマジックをホワイトボードに簡易な地図を描いていく。
「天魔が現れる場所と条件は決まってます。狭い橋の上かつ雨の降る夜にだけ出てきます」
 サラサラとマジックを走らせながら印を付けていく。
「橋の真ん中にくると背後から襲われます。そこを撃退してください」
 二本線の間に丸印を書いただけの簡単な地図をトントンと叩く。
「たまたま、偶然に、一人の撃退士が先行して行っている。僕の説明すら聞かずに走っていったから今頃敵に遭遇してるかもしれないね」
 涼しい顔でコーヒーを飲みながら世間話のように話す。
「君達も後輩は可愛いだろう、きっと一人で泣いてるだろうからついでに助けてやってくれ」
 話は終わりだ、と詳細な資料の紙束を渡すと部屋を出て行こうとする。
 扉を開けかけて、振り返ってついでのように付け加えた。
「あぁ、忘れていた。敵は単体じゃないかもしれない。被害者はほとんど一撃で切断されていたが、切断だけでなく足が潰れたような例も報告されている。ものすごく強い力で縛られた可能性があるということだ。まあ、油断しなければ大丈夫さ」
 気をつけて、そう告げると今度こそ部屋を去っていった。


リプレイ本文


 降りしきる雨は激しさを増し、体の芯から熱を奪い去っていく。
 北村香苗の盾を構える腕には無数の傷が付き、流れる血は留まることなく雨に流されて消えていく。
 橋や川に当る雨音が大きくなってきている。その中で自分以外のどこかでぱらぱらと雨をはじく音が聞こえる。
 北村は周囲を素早く旋回している敵の姿を捉えることが出来ずに、ただ小さくなって盾を構えることしか出来なかった。

 撃退士達が橋に近づくと、橋の上に落ちたランタンの小さな灯りが雨の激しさを露にしていた。その灯りがわずかにしか届かない場所から、時折金属がぶつかり合うような戦いの音が聞こえて来た。
 遠くでぼんやりと光るアウルは先行している撃退士のものだろう。その光にまとわり付く様に黒い影が帯状に覆っているのが見える。
「先行しとる撃退士っちゅうのはあれやな。夜に雨か……夜は俺のもんやで?昔の血が疼く……ってな」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は漆黒のアウルに身を包み、翼を広げて暗闇の空へと飛び立つ。
 腰に明るく光るランタンをつけたエルレーン・バルハザード(ja0889)は暗い橋をひた走り、敵の注意を引くべく叫び声を上げる。
「このっ!ぷりてぃーかわいーえるれーんちゃんがあいてだあっ、来いッ!」
 その声と灯りに北村は応援が来たことに気付き、身体を締め付ける痛みをこらえて警告を発する。
「気をつけてっ、こいつら黒くて見え難いからっ!すごく薄くて空を飛び回るから攻撃が当てにくいよっ!多分、2匹いるわっ!」
「そんな妖怪いたよね……薄い布の妖怪、確か」
 神埼 晶(ja8085)は駆け寄りながら小さく呟き、自分用に使いやすくカスタマイズしたリボルバーを構える。
 そのまま北村にまとわり付いている黒い影に狙いを定めて弾丸を撃ちだした。
 タイミングが悪かったのか、気配を察したのか、黒い影は弾丸が発射されると同時に拘束を解き空へと舞い上がる。
「きゃっ……あ、あれ?」
 弾丸が当ると思い込んでいた北村は目を瞑って衝撃に耐えようとするが、新たな痛みが襲って来ないことに気付いて、気の抜けた声を上げる。
「外しちゃったわね……安心して、それ、マーキングだから」
 北村は、神埼の言葉から、当った弾丸は相手の居場所を掴む特殊なアウルであり、ダメージは与えない、と授業で習っていたことを思い出してほっとため息を漏らす。
 黒い影は暗い空へと溶け込むようにその姿を消していく。
 東雲 桃華(ja0319)はエルレーンの少し後方、神埼と背中合わせの位置に位置取り、静かに呼吸を整える。
 斧を体の中心に真っ直ぐに立て、周囲の音に耳をそばだてる。雨の音の変化だけに注意を向けながら静かに闘気を燃やしていく。
 闘気が燃やされることで集中力が高まり、微妙な音の違いも聞き分けられるようになる。
 地面に落ちる雨の音、川に落ちる雨の音、仲間の身体に落ちる雨の音のほかに、素早く風を切る音と雨を弾く音が聞こえる。
 だが、音はぐるぐると周囲を回り、正確な位置を捕らえることは難しい。
「北村さん、無事かっ!」
 千葉 真一(ja0070)も北村の声を聞いて暗闇の中を走り出す。
「変身っ!天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
 千葉はヒーローとして天魔を討つべく、光を纏い、ゴウライガに変身する。
 闇に紛れて忍び寄る通り魔にこれ以上犠牲者を出すわけには行かない、強い信念を胸に抱き、千葉は敵を迎え撃つべくエルレーンの側に駆け寄る。
「北村ちゃん、もちょっとがんばー」
 ジェンティアン・砂原(jb7192)は北村に駆け寄り、微笑みを浮かべる。
 その微笑で北村には周囲がぱっと明るくなったように感じた。否、実際に明るく輝いていた。
「暗闇を得意とするなら明るくしちゃえばいいのさ。ねっ」
「た、助かったぁ……」
 アウルの輝きに照らされて、なんでもないようににっこりと微笑む砂原に安心し、北村は力が抜けたようにどたっと尻餅をついた。


 優しい灯りに包まれた橋の上で、黒い敵の姿は若干見えやすくなったものの、その姿は暗い空と同化していた。空を飛ぶ黒い影の位置をはっきりと掴むのは難しい。
 ゼロは光の及ばない遥かな上空に佇む。上から見ると明るい橋の上を飛び回る黒い影ははっきりと見えた。だが、その動きは早く、確実に捕らえられるその時まで闘気を高めてじっと機会を伺う。
 エルレーンは周囲を警戒して動き回るが、相手の姿を捉え切れてはいなかった。そこへインフィルトレイターの鋭敏な聴覚を駆使してエルレーン周辺の警戒にあたっていた神埼から警告が飛ぶ。
 その耳は確実に雨と風を切り裂いて近づいていく影を捉えていた。
「エルレーンさんっ!上空から風切り音!来たよっ!」
 エルレーンはとっさに宙に体を投げ出し前に転がる。ほぼ同時に二つの影がエルレーンの居た場所を横切り、橋を削る。影はそのまま勢いを殺さずに宙へと飛び立とうとする。
 だが、待ち構えていた撃退士達はその瞬間を見逃さなかった。
「捕まえたわよっ!」
「ゴウライ、ダブルナッコォッ!」
 東雲は身長よりも大きな巨大な斧を軽々と振り回して影が逃げようとする方向を切り払う。だが、当るかに見えたその漸撃も、ふわり、と影は自らの身体を裏返すようにして避ける。
「思ったよりも速いわねっ」
 東雲はすぐ様距離を取り、反撃される隙を作らない。
 千葉はエルレーンが居た場所に飛び込み、素早い突きを放つ。東雲の斧をかわした影はさらに身体を捻るが、身体の芯をずらすことが出来ずに千葉の拳で吹っ飛ばされる。もう一方の影はくるりと360°回転し、拳圧で身体を揺らしながらもダメージを負わずに宙を舞う。
「手応えが軽いっ!」
「えるれーんちゃんをなめるなーっ!」
 思ったほどの手応えを得られずに一瞬体が硬直する千葉をカバーするように、エルレーンが特殊な4足歩行の生物のようなアウルを周囲へ放つ。
 千葉の拳により地面を這っていた1体は急上昇して避けるが、曲芸のように身体を回転させていた1体は避けることも出来ずに不可思議なアウルに蹂躙されていく。

「なんだか分からないけれど凄い……」
 撃退士達の戦いを見て北村がぽつりと呟く。
「凄いねー、どうなってるんだろう、あれ……あ、怪我。だいじょうぶ?」
 砂原も表現に困ったのか絶句するが、北村の指先に滴り落ちる血に気付き、北村の袖をまくる。ぱっくりと開いた傷口から血がどくどくと溢れ出していた。
 そっと傷口を押えた砂原の掌からアウルの光が漏れ出すと、北村は傷口に温かみを感じる。
「暖かい……」
「はい、こっちは大丈夫だよ。足も怪我してるんでしょ。見せてごらん」
 屈んで裾をたくし上げ、骨まで潰された足の治療を行う砂原に、北村はぽーっとした表情で見とれてしまう。
「ん、どうしたのかな?まだ痛む?」
「えっ!いえっ、あっ、ありがとうございますっ」
 慌てて頭を下げる北村に砂原が何かを言いかけた時、神埼の鋭い声が響き渡る。

「今度こそ捕らえたよっ!敵は川から迫ってきていますっ!」
 マーキングを成功させた神埼は敵がやってくる方向を指し示す。
 黒い影は見えにくいが、方向さえ分かればその位置を特定することも不可能ではない。撃退士達には灯りに照らされて濡れた身体が光っている影の姿がはっきりと見えた。
「ふふんっ!悪い天魔なんか、私があっとゆうまに……ころすころすころすッ!」
 再びエルレーンが4足歩行の生物に似たアウルを突撃させるが、ひらりひらりとかわしエルレーンに向かって突撃してくる。
 全てをかわされると思っていなかったエルレーンは悔しそうに睨み付けるが、動きの止まった彼女に影が巻き付き、締め上げる。
 何の抵抗も無くエルレーンの身体が捻り潰されたように見えたが、そこにはぐしゃぐしゃになって切り刻まれたスクールジャケットがあるだけで、すぐ近くで本人が勝ち誇ったように叫んでいた。
「ばーかばーかっ!あんたの攻撃なんか、あたるわけないんだからっ」

「空はお前らだけのもんとちゃうで?調子に乗っとったら潰されるでっ!」
 エルレーンに飛びかかろうとしていたもう1体の影に狙いを定めて、上空から漆黒のアウルを纏ったゼロが勢いをつけて真っ直ぐに飛んで来る。
 すれ違い様にきらりと煌くワイヤーを広げ、影に絡める。影は身体の端、鋭利な刃物のような場所でワイヤーを防ぎ、切り裂かれないように器用に身体を捻るが、その勢いのまま橋に叩きつけられ、締め上げられる。
 ジタバタと動いたことでワイヤーが絡んだのか、徐々に身動きが取れなくなっていった。
「アホやなこいつ。今の内や、しばき回すで!」

「IGNITION!」
 敵が動きを止めたのを確認した千葉はアウルを臍下丹田へ集束し、太陽のような輝きを集めていくと、どこからとも無く綺麗な発音で声が響き渡った。
 その間に東雲は高めた闘気を身に纏い動けない敵に向かって巨斧を振りぬく。
「このチャンス、確実に頂くわっ!」
 振りぬいた巨大な斧は橋に転がる影に叩きつけられ、影はゼロのワイヤーが許す限り吹っ飛び、その身体にさらにワイヤーを食い込ませる。
「逃がさへんで」
 ワイヤーをヒヒイロカネに戻し、瞬時に活性化させたゼロの漆黒の拳が影に振り下ろされ、拳の先から凝縮したアウルが杭のように飛び出して影を貫く。
 攻撃が動けない1体に集中している隙に、まだ自由に飛び回っている1体の影が再びエルレーンを狙うが、側に迫ってきたところを神埼がリボルバーで狙い撃つ。
「マーキングを当てた以上、私の目を盗むことは出来ないよ。マグナムアウル弾をぶち込んでやるわよ」
 放たれたアウルの弾丸は確実に影の身体を抉る。影はかわそうと身体を捻るが、何度もかわす姿を見ていた神崎は、相手の動きを確実に読んで狙いを外さない。
「止まらないっ!エルレーンさんっ!」
 身体に穴を開けながらも影は勢いを止めることなくエルレーンの身体を切り裂き、その身体を真っ二つにする。
 だが、そこには二つに切り裂かれたスクールジャケットが舞うのみで、エルレーンは別の位置から狙いを定める。
「あったれーっ!」
 三度放たれる不思議生物は、自由に動く影にはかわされてしまう。4足歩行のアウルはそのまま進み、ゼロによって橋に打ち付けられていた影を蹂躙して消えていく。
 ぼろぼろになってもまだ蠢く動けない影に止めを差すべく、千葉は空高く飛び上がる。
「ゴウライ。バスターキィィィック!!」
 丹田に生み出した太陽の輝きを脚に移し、彗星の如く軌跡を残しながら橋に転がる影に飛び蹴りを放つ。
 その必殺の一撃に耐えられなかったのか、千葉の蹴りを受けて黒い影は霧散するように飛び散っていく。

「凄い……凄い、凄いっ!」
 撃退士達の戦いを見つめて感嘆の声を上げる北村に、砂原は優しげに声をかける。
「北村ちゃんはここでちょっと待っててね、僕も少しは仕事しておかないと、ね」
 砂原は北原の頭を軽く撫でて少し離れると、空に向かって手をかざす。
「うーん。この辺かな。ねっ、これだけ離れてれば結構安全でしょ。ディアボロ相手に痛いのはヤだからねっ」
 北村に向かってウィンクを一つして、真剣な表情で集中してアウルを高める。
 辺り一帯に砂原のアウルが膨らんだかと思うと、橋の反対側の端の先、川の上にアウルが凝集されていく。
 そこから、無数の彗星が生まれ、川へ水音を立てて落ちて行った。
 その彗星の一部は撃退士達から逃げようとしていた影をも捕らえ、橋の上に押し戻す。
「流石にこれは避けられなかったみたいだね」
 彗星に翻弄される影の姿を見て、くすりと、砂原は笑みを漏らす。

「東雲流古斧術を舐めないでね」
 少し離れて影の様子を伺っていた東雲は、彗星に撃たれて落ちてきた影に素早く近づくと、無防備な姿に斧を振るう。横薙ぎに振るわれた巨斧は影をしっかりと捉え、飛び立とうとしたその身体を再び橋に叩き伏せる。
「私の業が一撃で終わるなんて思わないことね」
 叩き伏せた勢いを殺さないように斧を回転させ、今度は縦に振りぬく。
 その一撃は天魔の身体の一部を大きく切り裂いただけでなく、橋まで切り裂き、周囲へ大きく亀裂を走らせる。
「最後の美味しいところはもらうで?」
 彗星郡を空へと飛ぶ事で避けていたゼロだったが、橋の上でのた打ち回っている黒い影の上空に移動すると、自身の体重をかけて滑空し、影の身体を深々と漆黒の杭で撃ち貫く。
 衝撃で橋の一部がゼロを残して瓦解する。黒い影は一緒に落ちながら夜の雨の中へと霧散していった。


「次からは一人で突っ走らない。分かった?」
 戦いは終わり、気が抜けたような、気だるい空気が流れる中、座り込んだままの北村の頭をぽんぽんと撫でながら砂原は言い聞かせる。
 北村は殊勝な様子で下を向いて、何度も頷いていた。
「北村さん、大丈夫?」
 神埼も駆け寄ってきてまだ跡の残る脚の様子を確認する。
「骨は大丈夫かな……念のため包帯を巻いておくよ。無茶しないおまじないだからしばらく外しちゃだめだよ」
 手馴れた様子で包帯を巻き終え、神埼は北村の額を軽く小突く。
「自分一人で何ができると思ってんねん。ましてや敵の情報も聞かんと飛び出したらしいやないか」
 ゼロはそんな北村の様子を見て、呆れながらもしっかりと説教をする。
 周りの撃退士達も同意するように深々と頷いて同意を示す。
 一人で飛び出すことは熟練の撃退士でも危険を呼ぶ行為であることは、経験があればあるほど、身に染みて分かっていることだった。
 しかし、下を向いて反省していたかのように見えた北村はばっと顔を上げるとキラキラとした目で6人の撃退士を見つめる。
「ごめんなさい……で、でもすっごいですね!みんなすっごく好良かった!これが撃退士なんだっ、撃退士の戦いなんですねっ!憧れますっ!私も慣れますかねっ!わーっ、気合が入るなーっ!」
 きゃーきゃーと騒がしい北村に呆れ顔のゼロが少し強めにぽかりと頭をはたく。
「人の話はしっかり聞けっちゅう話とったやろ。でも、ま、生きとってよかったわ」
 イテテと頭を押え、ちゃんと聞いていましたよーと頬を膨らませる北村に、撃退士達は呆れながらも笑みをこぼすのだった。


依頼結果