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マスター:monel
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/06/20


みんなの思い出



オープニング



 北村香苗が四国の街からダッシュで学園まで帰ろうとしていたのはまだ寒さの残る季節だった。
 いくら山深い四国とはいえ、撃退士の脚であれば迷ったとしても数日の内に交通機関にはたどり着けただろう。
 足を踏み入れた山で偶然天使がサーバント達を鍛えているという状況に出くわさなければ。

 並み居るサーバント達を叩き伏せ、気合を入れて立ち上がらせているキアーラを見た北村はこっそりとその場を立ち去ろうと考えた。
 残念ながら、それは叶わなかった。
 なぜなら、崖を駆け下りていた北村は急には止まれなかったからである。
 真っ直ぐに訓練中のサーバントの群れに突っ込み、キアーラの背中に勢いよくぶつかり、キアーラを押し倒してしまったのだ。
「何者か知らぬが、不意打ちとはいえ私に土をつけるとは気に入った。良いだろう! 訓練に加えよう!」
 がっしりと掴まれた腕に肩を外されそうになりながら、北村はかくかくと頷くことしかできなかった。

 それから幾つの日と月が巡ったであろうか。
 訓練を重ねた北村は、ある日いつもの様に牛鬼とがっぷり四つに組んでいた。
「そこまでだ! 貴様達に最後の難関を与えよう」
 キアーラの鋭い声に従い、牛鬼達と北村は素早く整列する。
 一人ずつ来い、と告げて山頂へと登って行ったキアーラの背中が見えなくなったころ、牛鬼達の視線に押されるように、北村が後を追って足を踏み出した。

 山頂では、キアーラが仁王立ちになって眼下の絶壁を見下ろしていた。
「獅子はおのれの子を千尋の谷に突き落とし、自分で這い上がったものだけを育てる、と聞いた事がある」
 嫌な予感を感じた北村は咄嗟に逃げようとしたのだが、気付いた時には放り投げられていた。
「あれ、思ったより高い……」
 微かに聞こえた声を最後に、北村香苗の意識は途絶えたのだった。




 月明かりがぼんやりとわずかな陰影を浮かび上がらせる。
 その影は頭上の木々の葉が作り出した錯覚か、それとも影の中に身を潜める獲物であるのか。
 樹上の人影は僅かに枝を揺らして暗がりへと飛び降りる。
 風の音とは異なる微かな音に反応したのか、暗がりに潜んでいた猪は死地から脱しようと草叢の中を走り出す。
 だが、気づくのが遅かった。
 甲高く、短い叫びが暗い森の中に響き渡る。
 やがて、ぐったりとした猪を背負った人影は猿のように樹上へと登り、木々を伝って闇の中へと消えて行く。

 ねぐらに戻った人影は倒木の陰に持ち込んだ猪を吊るし、血抜きをしている間に火を起こす。
 手早く準備を終えた人影はボロボロになった布切れを身体に巻き付け、火の側で横になって目を閉じる。
 気まぐれな風が木々を揺らし、月明かりが目を閉じた人物の顔を照らす。
 その表情はやつれ、汚れ、疲れているが、生命力に満ち溢れている。
 月明かりが揺らぐと、その人物の周囲に佇む複数の黒い影を照らしだした。

 黒い毛並を纏った森の賢者の、厚い胸板を。
 



「狩野さん。そういえば最近北村さんは何をしてるんですか?」
 関東の情勢をまとめるのに疲れた遠山が、息抜きに狩野へと問いかける。
「うん? いや、知らないな。電話番をほったらかしてどこかへ行って以来見てない。顔を出し難いのか、アメフトでも見に行ってるんじゃないか?」
 狩野は空になっていたコーヒーの替えを探して視線を彷徨わせながら、適当な感じに答える。
「アメフト? あれ、北村さんってアメフト好きでしたっけ?」
 唐突に出て来たアメフトという言葉に引っかかった遠山は、コーヒーのポットを渡しながら軽い感じで問いかける。
「あぁ、確か地方の撃退士達から手紙が来ていたんだ」
 がさがさと積み上がった書類を漁って、一枚の手紙を見つけた狩野がコーヒーの香りに目を細めながら遠山に渡す。
「へぇ、撃退士が出場可能なアメフトか……。あ、アメフトと言えば、どこかの撃退署が面白い試みをしてるというニュース、みました?」
 すっかりくつろいでしまった遠山は、休憩時間を伸ばそうと記憶を振り絞ってどこかで見たニュースを思い浮かべる。
「ほう、知らないな。どんなニュースなんだい?」
 会話に乗って来た狩野に、遠山はニヤリと笑いかける。
「何でも、コンピューターを積んだV兵器を開発してるって噂ですよ。それが、アメフトのプロテクターに似てるって話でした。なんでも愛称は『メカゴリラ』だとか」
 その話を聞いた狩野は溜息をついて、飲み干したカップを机に置いた。
「V兵器に頭脳を乗っけてどうしようというんだ。装備した者と違う動きを始めたら止められないじゃないか」
 そういい捨てて、仕事は再開される。
 少しでも休憩を長くとりたいという遠山のささやかな願いが叶う事はなかったのだ。



 アメフトの会場は今や最高潮の盛り上がりを見せていた。
 いつもの様に彼等がやって来たのだ!
 そう、彼等の名前は! GORILLA!!
 並み居る地方撃退士達を案山子のように薙ぎ倒す恒例のパフォーマンスが終わり、今は撃退士達の介抱とグラウンドの整備を行っている。
 北村香苗の過酷な体験談が書かれたパンフレットを観客席で配っているゴリラも居る。
 実に紳士的で好感が持てる、とコアなファンは語った。

 そして観客達をヒートアップさせるパフォーマンスも行われていた。
 伝説のボールとして有名な北村香苗が、今回はゴリラ達の先頭に立っていたのだ。
「ニンゲン ディアボロ カンケイナイ。ジャングル ヒツヨウ ツヨサダケ。ヨワイモノ ボール ナル」
 片言でマイクパフォーマンスをして見せた北村に、観客は熱狂する。
 ゴリラ達は熱に浮かされた様に北村香苗を担ぎ上げた。
 そして、自然発生的に観客達は足踏みを始め、スタジアムを地響きで揺らし始める。

 求めているのだ、決着を。
 求めているのだ、勇者を。

 そう、学園の撃退士達がスタジアムに現れるのを待っているのだ!

 だが、運命に導かれし撃退士達が現れる前に、会場は騒めきだす。
 倒れていたはずの地方撃退士達が何かに操られるように立ち上がりだしたのだ。
 そして妙にカクカクとした動きを見せながら、ゴリラ達に向かって、腕を伸ばして掌を向ける。
 掌には眩しいほどにアウルが凝縮され、一斉に放たれた。

 ゴリラ達が居た場所は集中砲火により激しい土埃が舞い上がる。
 神聖はフィールドに対するあまりにもあまりな暴挙に、会場はからはカエルが潰れるような悲鳴があちこちから響き渡った。
 土埃を突き抜けて飛び出してきたゴリラ達を迎え撃つメカゴリラを着込んだ撃退士達。
 激しい戦いが今、始まった……!

 そんな時、フィールドに入口に立ち尽くした貴方達が取った行動とは……!


リプレイ本文



「偉い人は言いました」

 入場口では霧谷 温(jb9158)がフィールドで戦うゴリラを真剣な表情で見つめてポツリと呟く。

「1日楽しみたかったら、GORILLAと戦いなさい」

 フィールドではメカゴリラ達はなす術もなくゴリラに蹂躙されていた。
 ショルダータックルをすると肩に取りつけられていた電源スイッチが押されて、自重に潰されてしまう欠陥があったのだ。

「1年楽しみたかったら、ボールになりなさい」

 もはや逃げるしかない、と入口に逃げて来たメカゴリラが霧谷の横を必死の形相で走り抜けていく。

「一生楽しみたかったら?」

 激しい音と共にメカゴリラ達はフィールドへと弾き飛ばされていく。
 霧谷の右から放たれたのは瀬波 有火(jb5278)の手加減抜きの烈風付き。それによりメカゴリラのメカニックな所を粉砕して機能を止める。
 霧谷の左から放たれたのはテト・シュタイナー(ja9202)の電磁誘導により加速された雷弾。全身から焦げ臭い煙を上げて動きが止まったメカゴリラをジョシュア・レオハルト(jb5747)のマフラーが絡めとりフィールドへと投げ返す。

「GORILLAとトモダチになるんだ」

 霧谷はメカゴリラが弾き飛ばされると同時に全身を眩い光で覆っていく。


 観客達はフィールドから脱出したメカゴリラ達が激しい音と光と共にフィールドへと弾き返された様子を見て、息を飲む。
 静寂に支配された会場に小さな音が聞こえて来た。

 ずんずん、ちゃっ。
 ずんずん、ちゃっ。

 霧谷が踏み鳴らす足踏みに合わせて有火とテトが壁を殴ってリズムを刻む。
 その音が伝わった観客が期待に目を輝かせて足踏みを合わせる。
 やがて会場全体が一体となり地響きと共に揺れ動きだす。

 うぃーうぃーと適当に口ずさむ霧谷が一際眩しく発光し、有火、テトと一緒に会場へ姿を現してポーズを取る。
 その姿を見てさらに会場はヒートアップし、ロックな魂を歌い上げるのだった。


「……え、カッコつけて入場する感じなの!?」
 アニエス・ブランネージュ(ja8264)は理の人だ。しかし、教師を志す熱い仁の心も持っている。
 地面に倒れて丸くなっているメカゴリラの決意溢れた気絶顔を、そして真っ直ぐなゴリラ達の真剣な眼差しを見て分からないはずがあろうか。
「いや、わかった。余計な言葉は不要だな」
 仲間達の熱いアウルを肌で感じて、アニエスも重力に逆らうような無理な姿勢でカッコイイポーズを取り会場を盛り上げる。

「あはは、光ってる……、光ってる……」
 深いため息で口から魂が出そうな気がして、ジョシュアはマフラーで口元を覆う。
 分かってはいたんだ、これがGORILLAだと。
 零れそうになる涙をグッと押しとどめて、仲間達の後について行く。

「いやー今日も奴らは元気ですねー」
 満を持して最後に登場した湯坐・I・風信(jc1097)は片手で髪をかき上げつつ、ビシッとゴリラ達を指さす。
「前回は引き分けになったけど、三度目の正直で引導を引き渡すフラグですね」
 三日三晩鏡の前で練習したきらーんと輝く頭の良さそうなポーズを決める湯坐。
 だが、霧谷の光が眩しくて目立っていないどころか、会場からは良く見えない。
「うぉぉ、目が、目がぁぁぁ!」
 近づき過ぎた湯坐は余りの眩しさに目を押さえて転がるが、それすらよく見えない。

 ジョシュアはそんな湯坐を見て、またホロリ、と零れそうになる涙をぐっとこらえるのだった。
 だって、男の子だもん。




 歓声溢れる会場を沈めたのは、マイクがハウリングする音だった。

『決戦の地へ足を踏み入れた撃退士たち。待ち受けていたのは、かつて共に戦った伝説のボール、北村香苗だった。
 お願い! 思い出して北村さん!
 あなたがいなかったら誰がボールになるっていうの!?』

 北村が投げ捨てていたマイクを拾って会場へアピールした有火に、会場から野太くも黄色い声援が送られる。

「邪魔者は消えたぜ。さぁ、決着の時だ!」
 テトは足元に丸まって転がるメカゴリラを蹴りあげる。
 メカゴリラは綺麗な弧を描いてゴリラ達の胸板へと吸い込まれるように落ちて行く。

 KICKOFFだ!!

 一斉に駆け出してくるゴリラ達に向かって、霧谷と湯坐が前へ出る。
 二人とも胸に熱い想いとボールを詰め込んでいる。
 ゴリラが厚い胸板をアピールしてくるならば、男として負けるわけにはいかない。
 しかし、ドラミングをして咽る程度の胸板では勝てない……ならばボールを胸に詰めればいい!
『うおぉぉぉ!!』
 ゴリラ達に負けないほどの胸板を手に入れた男達は、勇猛果敢にぶつかって行く。
「僕は、この胸板で勝負する!」
 ジョシュアはマフラーで絡めとった湯坐を勢いよくゴリラの胸板へとぶつける。
「うわっ、なんでっ!」
 ゴリラに向かっていた湯坐は一旦退き戻されて、再びゴリラにぶつけられ、目を回しながら抗議の声を上げる。
「胸を借りるって言葉があるよね……って何言ってるんだ僕!?」
 真顔で上手い事を言ったジョシュアは、途中で頭を押さえて我に返る。
「これが……ゴリラフィールド……兄さん、頭が痛いよ……」
 頭を押さえて蹲るジョシュア。ゴリラへ飛び込む男達。
『うわぁぁぁ!!』
 そして、あっさりと弾き返された。
「なるほど、アメフトのボールは楕円形だ。つまり胸に入れると横に張り出して腕の動きを阻害するんだね」
 冷静なるアニエスが冷たい眼差しで足元に転がる哀れな男達を分析する。
「あったんだね、ボール。誰も使わないから無いかと思ってた……」
 ジョシュアは湯坐の胸元から零れたボールを哀し気に見つめるのだった。

「何故だ!」
 霧谷の叫びがフィールドに木霊する。
「俺達は胸にボールを詰めて胸板を厚くし」
 ぐいっと親指で自分の胸元を指し、今度はゴリラ達を指さす。
「お前達は厚い胸板でボールを持つ」
 そして訴えかける様に叫ぶのだ。
「そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!」
「違うのだ!!」
 霧谷の魂の叫びも、アニエスにはっきりと拒絶される。
 力強いアニエスの言葉に、はっと視線を上げる男性陣。
 腕を組んだアニエスの胸を見て、霧谷は敗北感に膝を折り、ジョシュアは顔を真っ赤にして視線を逸らし、湯坐は鼻血を吹き出して周囲を赤霧で埋め尽くす。
 健全なる全年齢MSとして、具体的なセクシー描写はゆるされないのだ!

「いくぜテメェ等ぁ!」
 そんな無駄なダメージを受ける男性陣を横目に、テトと有火は果敢にゴリラの群れにタックルを決める。
 ゴリラを弾き飛ばしてどこかへ走り去った有火はともかく、テトは魔法で吹き飛ばしているが、これはタックルなのであろうか。
 その疑問を抱いたアニエスに、テトは腰に手を当てて自信満々に答える。
「この魔法に使うのは俺様のアウル、故に魔法は俺様の体の一部……即ちこれもタックルなりッ!」
「なるほど、理に適っているね。しかし……」
 うむ、と頷くアニエスだったが、視線を前に向けて呟く。
「堅い胸板……じゃなかった、硬い陣容だ。弱気になるわけじゃないけど、このままでは負けてしまいそうだ」
 有火とテトに崩されたフォーメーションをすぐさま立て直して、津波のように押し寄せるゴリラ達に、アニエスは危機感を感じ取る。
 なぜなら、ゴリラ達は丸くなったメカゴリラを多数抱えていたのだ。
「『ヨワイモノ ボール ナル』つまり、ボールはこのフィールドに多数転がっているというわけか……」
 フィールドに無数に転がるボール、メカゴリラをボールと認定したのはそもそもテトが最初であった。
 このまま、有火とテトがゴリラを駆逐したとしても、その間に大量得点を奪われる事は間違いないだろう。
「人は社会を築き、弱肉強食だけではない助け合いの精神を得た。だから……ここでボールになるボクは決して自分を弱者だなんて思わない」
 白衣を翻し、胸を張ってアニエスは宣言する。
「行こう、胸のボールでボクが2点取る! 後は任せるよ!」
「ちょっと、強調しないで……!」
 ついついアニエスのボールを見つめてしまうジョシュアは真っ赤な顔で視線を外そうとし、そんな自分をニヤニヤと見ている有火に気づく。
「僕は! むっつりなんかじゃ! ないんだー!!」
 むっつり疑惑を拒絶するジョシュアだったが、いつもの切れは無く、逆に「何を動揺してるんだ」とアニエスに詰め寄られて耳まで真っ赤になるのであった。
「このままではまずい、色んな意味で……このゴリラフィールドを! 僕は拒絶する!!」
 目の前に迫る二つのボールをそっと柔らかく包み込む天使のような匠の技でアニエスを絡めとる。
 そして、まだ蹲っていた霧谷の背中を踏み台に、大きくジャンプしてゴリラの群れを飛び越えようとするのだった。

 ところでこの少し前、鼻血が収まった湯坐は考えていた。
(所詮奴等はゴリラ。地を這う悲しい生き物……)
「ふ……前回と同じ俺とは思わないで下さいね。今までの戦いで奴らの速度は知っている! だからその前に、いでよ! 陰陽の翼! 空さえ飛べば俺無双!」
 これまでにない早口で決め台詞を叫び、空へと舞い上がる湯坐。
 遥かなる青空へと飛翔し、重力から解放されたフリーダムに翼を大きく広げる。
「やった……! やってやった! ついに俺は捕まらずに空に」
「丁度良かった、背中借りるね」
「ふぎゃっ」
 背中にジョシュアとアニエスの二人分の衝撃を感じ、くっきりと靴跡を付けられたまま、地面へと叩き付けられる。
 地面は『おかえり』というように湯坐を歓迎して激しく抱擁する。
 本日2度目の鼻血であった。
「くっ、何だか前も同じ展開があった気が……やっぱりぃぃい!」
 地面に落ちた湯坐に殺到したのは、黒き津波ことゴリラの胸板によるおしくらまんじゅうだった。
 暑苦しくもじっとりと湿った胸板に包み込まれて意識が遠のいていくなか、湯坐は思い出す。

 あの日の高揚を
 そして主人公感を
 そうだ、俺が……俺達がボールだ!

「思い出すんです北村さん! 俺達がなんであるか……! 貴女はゴリラじゃない! ボールだ!!」
 ゴリラの群れに消えて行く湯坐の叫びとサムズアップを北村は涙無くして見れなかった。
「あれ……何だか前にもこんな……ちょ、なんでゴリラ!?」
 涙を流した事により記憶を取り戻した北村。だがその事は果たして北村にとって幸せな事であったのだろうか。
 気が付けばゴリラに担がれてゴールに向かって走っているという異常な……いや、何度も経験したことのある馴染みの光景がそこにあった。
「いやぁぁ、うっひゃぁぁ!!」
 パニックを起こしたヒロイン的な叫び声を上げる事すら伝説のボールには許されない。
 北村がボールとしての自分を取り戻したと同時に吹き荒れる北風にゴリラもろとも吹っ飛ばされる。
「思い出したようだな、ボールとしての宿命をよ! オラァッ、このままゴールまで吹っ飛ばしてやんよ。名付けて北風超特急だ!」
 テトの放つ暴風により、ころころと飛ばされていく北村ボールとゴリラ達。
 だが、ゴリラ達も無駄に鍛錬を積んできたわけではない。
 飛ばされていく中で伸ばした腕、北村に触れた指先で強引に軌道を変える。
 暴風域から北村だけが飛び出していく。
 宙を飛ぶ北村目掛けて殺到するゴリラ達。
 その隙間を縫うように、光り輝く鎖がするすると伸びて行き、北村を捉えて地面に引き摺り降ろす。
「フィーッシュ!!」
 霧谷だ! 踏み台になっても諦めない漢、霧谷だ!
 会場は光り輝く眩しい男の復活に湧き上がる。
「思い出せ! 思い出すんだ北村さん! 楽しかったあの時を! 伝説のタッチダウンを!」
「私は楽しくな……うわぁーっ!」
 そのまま鎖をブンブンと振り回して、放り投げる。
 北村の叫び声はドップラー効果で小さくなっていき、代わりに地響きを立ててゴリラ達が殺到する。
「行け! 真のアメフトを教えてやれ!」
 シールドを展開してゴリラ達を迎え撃つ霧谷。
「伝説のボールは俺達のものだ! お前達には渡さなふひぇっ」
 ぷちっと潰されて地面に埋まり込む霧谷であった。

「霧谷っち、あにえってぃ、いんくるりん、ジョシュア君、テトちゃん、そしてあたし。みんなの想い……受け取って!」
 霧谷からパスされたボールの頸椎を、有火は皆の想いを抱いて力いっぱいにがっしりと掴んで、フィールドを駆け抜ける。
「みんなの想いを込めたボールを受け取れるのはあなただけ、だからお願い、受け取って――テトちゃん!」
 全身のバネを活かして全運動エネルギーをボールの頸椎に込めて振りかぶる。

 走馬灯のように駆け巡る猛特訓の日々。
 楽しかった海水浴。
 砂で作ったお城。
 美味しかったイカ焼き。
 食べておけばよかったかき氷。
 全ての思い出を力に変えて、有火が放ちます。流星の極み。

「あるかしゅーてぃんぐすたーーー!!」
 凄い勢いで飛んでいく北村を止めようと、何体ものゴリラが果敢に挑みかかり、弾かれていく。
 その先に待ち構えているのは、テトだ。
「霧谷、お前の勇姿、無駄にはしねぇ。獲ったぜ、レジェンドボール。勝敗を決めるのはコイツだ、ああぁぁぁああ!?」 
 有火からのパスをしっかりと受け止めたテトは、ボールの勢いを止める事なく一緒にゴールへと飛んでいく。

 きらり、と空の一点が瞬く。
 そう、空高く舞い上がっていたジョシュアとアニエスだ。
「いっけぇ!」
 アニエスを器用にマフラーで操り、テトと北村へぶつける。
「そうだ!私で2点、伝説のボールで2点、テト君で2点、2×2×2=8点だぁぁぁ!!」
 アニエスは叫びながら北村とテトを抱擁するように抱きしめ、そのままタッチダウン!
 大逆転の大勝利だ!




 仕合が終わり、ジョシュアは怪我人の介抱に忙しい。
 地面に埋まった3人はジョシュアの神の兵士の働きにより気絶することなく、ジタバタと苦しそうに下半身を蠢かしている。
 なお、霧谷と湯坐は反対側のゴールにメカゴリラと一緒に地面に埋め込まれている。
 そんな混乱の最中、ヒーローインタビューに有火が答えている。
「――それでは、本日のヒーロー有火さんでした」
「応援ありがとう! 次回『決着、そして伝説のその先へ』君の頭蓋でタッチダウン!」
 ウインクをばちこーん☆と決めた有火に会場から惜しみない拍手がふり注ぐ。
 空を見上げると、星になった霧谷が笑いかけてくれているような、そんな気がする。

『迫りくる 黒い胸板退けて 今こそ決めろ 必殺しゅーと』
(霧谷 温 辞世の句)
 ※死んでません。

 地面に埋まっていた3人を掘り起こしたゴリラ達は、誇り高く胸を張って去って行った。
 いつかまた出会う事があるだろうか、彼らの行方はようとして知れない。

 アニエスは後にこの試合の事を思い出すと、全身から汗が流れようになったという。
「ふっ……この青春、きっとボクの教師人生に役立てる」
 ホロリと落ちる涙は、青春の味がした。

(完)


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: バイオアルカ・瀬波 有火(jb5278)
 黒い胸板に囲まれて・霧谷 温(jb9158)
重体: −
面白かった!:9人

冷静なる識・
アニエス・ブランネージュ(ja8264)

大学部9年317組 女 インフィルトレイター
爆発は芸術だ!・
テト・シュタイナー(ja9202)

大学部5年18組 女 ダアト
バイオアルカ・
瀬波 有火(jb5278)

大学部2年3組 女 阿修羅
白炎の拒絶者・
ジョシュア・レオハルト(jb5747)

大学部3年303組 男 アストラルヴァンガード
黒い胸板に囲まれて・
霧谷 温(jb9158)

大学部3年284組 男 アストラルヴァンガード
伝説を呼び起こせし勇者・
湯坐・I・風信(jc1097)

高等部3年4組 男 ダアト