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ドコドコドコドコ……
\ウッホッホウッホッホウーッホウーッホ!/
芝生の緑が眩しく光るグラウンドに、ゴリラ達のドラミングと雄叫びが響き渡る。
全てが黒のゴリラ達によるパフォーマンスに会場の雰囲気は最高潮に熱く盛り上がっていた。
「おー、見渡す限りゴリラの山……」
選手用の入場口から、そっとグラウンドを覗き込んだ湯坐は燃え上がる闘志を見せる、黒き野生の賢者達の姿に顔を引きつらせる。
「これってラノベでいうコメディーパートですよねわかります」
湯坐は北村が捕まっているのを見て、ラノベだったら活躍するところだしーっ、とやる気を見せる。
「これは……デカいですね。これもブカブカ……」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は会場の端にうず高く積み上げられた地方撃退士達の体を漁っていた。
「アメフトだったらやっぱり必要ですからね」
エイルズレトラは探すのだ、EYEをShieldするような格好良い何かを。
すごく速い選手には必需品なのだ。少なくとも数日前に読んだ漫画ではそうだった。
出来るだけ小柄な選手を探し、エイルズレトラはユニフォームを片っ端から引っ剥がしていくのだった。
「うん、ゴリラだ。……ゴリラだね」
ジョシュア・レオハルト(
jb5747)は呟く。
なぜ、ゴリラなのか、と。
「たまーにいるよね、なんでこんなの作ったんだろ的なサーバント」
霧谷 温(
jb9158)も目の前のゴリラ達を眺めながら相槌を打つ。
考えてはいけない、感じるのだ。そして彼らはディアボロなのだ。だからきっとセーフなのだ。
テト・シュタイナー(
ja9202)は円陣を組んで気合を入れているゴリラ達を前に、腰に手を当てて深く頷いていた。
「ゴリラならば、アメフト界から征服することも可能だと考えた訳か。分かるぜ」
分かってしまったのか、テトさん。
テトは腕を組んで諭すようにゴリラに向かって呟く。
「お前それ久遠ヶ原でも同じ事言えんの?」
ふっ、と鼻で笑ってゴリラを見下すような眼差しを向ける。
「オレタチ サイキョウ! ニンゲン ツヨイ!」
瀬波 有火(
jb5278)は何故か片言になって言い放つ。
「クオンガハラ チカラ スベテ! ヨワイヤツ ヒキツブサレル!」
調子に乗り過ぎた哺乳類もどきを駆逐せんとする意欲が、有火をバイオアルカへと変貌させる!
「ドーモ、ゴリラ=サン。……だっけ?」
有火改めバイオアルカの片言に刺激されて霧谷も片言で返す。
テトは隣で再び深く頷く。
「ゴリラ死すべし、慈悲は無い、インガオホー」
撃退士達はショッギョ・ムッジョな何かを醸し出す。サツバツ!
『みんなー☆頑張って、ねっ☆』
眩い七色の光が御手洗 紘人(
ja2549)の身体を包み込むように、回転しながら立ち上る。
頭上で交わった光はキラキラと輝く光となって、爆発すると周囲に桜吹雪を舞い散らした。
先ほどまで御手洗が居た場所には、華麗なチアガール魔法少女・チェリーが踊りながら現れる。
『チェリーが応援してるからねっ☆筋肉と筋肉のぶつかり合い混じり合い☆……うふふっ、今年は豊作間違い無しね』
可愛らしく応援しているが、色々と欲望がにじみ出ていた。
紳士的なゴリラ達はワイワイと騒ぐ撃退士達の準備が整うまで、じっと待っていた。
準備運動を終えた有火が前に飛び出した瞬間、ゴリラ達あ野生を取り戻して一斉に走りだす。
さあ!試合開始だ!
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「ふ、魔法系知略系キャラの俺としては、やる事は一つ……」
ぶつかり合うゴリラと撃退士を見ながら、湯坐は目をキラリと光らせる。
「飛べば!問題なし!空から魔法撃っときゃ万事解決!ラノベ的にも間違い無し!さあ、出てこい!俺の陰陽の!つばっさああああー!?」
ジャングルでは余計な口上は命とりなのだ!
ゆっくり立ち止まっていた湯坐は格好の的であった。
翼で飛び立とうとする直前、ゴリラ達が次々とタックルを仕掛けてくる。
「ちょ、待ってくださいよ!古今東西ラノベでは変身シーンとか待ってくれるもんじゃないですか!っていやあああ!掴まないでっ!堅い!肉が!筋肉が!胸板がァーッ!」
もはや黒い山にしか見えないほどゴリラに囲まれて、湯坐の叫びがこだまする。
『アメフト、それは男と男がくんずほぐれつしちゃう、汗と泥の男臭〜い競技。……大好物です!』
蹂躙される湯坐を見ながら、心のシャッターを切りまくるチェリー。
『イケメン×ゴリラも良いと思ったけど、リバもなかなか……あ、いっけな〜い☆チェリーもちゃんとフォローするよ☆』
チェリーが黒塗りの符を放つと夥しい数の影が絡みついていく。湯坐に。
「うわぁっ!なんだーっ!」
ようやく脱出しようとしていた湯坐を捕まえる無数の影。
『あ、間違えてイケメン捕まえちゃった☆』
チェリーは可愛く舌を出して、テヘッと笑ってごまかした!
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ジョシュアは戸惑っていた。
なぜ試合なのだ、と。
ディアボロ退治と救助の依頼だったはずじゃなかったのか、と。
入場する前に、注意を促してはいたのだ。
観客もまだ残っているから敵の動きには注意しましょうね、と。
「やっぱり、聞いてなかったね、有火……」
真っ直ぐに突撃してゴリラと仲間を元気に跳ね飛ばしている有火を眺めて、諦めたように呟く。
そして一緒になって突撃していっている仲間達へ悟りきった目を向けるのだった。
テトは有火に突進してくるゴリラに向かい、両腕を取りまくアウルの幾何学模様を砲口のように変化させる。
「汝はゴリラ、我が意は螺旋。交わればゴリラツイスターァァァ!」
テトの叫びと共に、ゴリラが舞い上がる。そう、それは華麗なトリプルアクセル!霊長類としての本能に優れたゴリラは、言霊の影響を強く受ける。テトの言霊がゴリラに干渉したのだ。たぶん。
優雅に回転するゴリラは、着地を決めて綺麗にポージングをして動きを止める。
「今のわたしはとにかく走りたい気分なの!なんとなくだけど!」
有火は真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐに駆け抜ける。
観客に向かってお辞儀をしているゴリラなど障害にはならないのだ。
ゴリラは錐揉みしながら宙を舞う!
バイオアルカが駆け抜けた後には、草一本残らないのだ!
「今だっ!」
星の輝きで眩く光った霧谷はその脚の速さを活かして逃げ回っていた。
試合開始からしばらくは、その輝きで注目を集めていたが、今はもう眩しいだけだと目をそむけられがちになっていた。
目立つからこそ目立たない。
まさにニンジャのワザマエを見せる霧谷は、倒れたゴリラを踏み台に高く飛び上がり、北村(ボール)を抱きかかえたゴリラ目掛けてワイヤーをひっかけることに成功した。
そのまま、強引に引っ張り、地面に転がる。霧谷が。
「うわわっあっわああー!」
猛然と駆け抜けるゴリラの勢いに負け、ワイヤーを自らの脚に絡めてしまった霧谷は、地面をバウンドしながら引き摺られていくのだった。
「ニンジャには、頭に巻いた布を地面に付けないように走る修行法があるんですよ」
「知ってるのか、ら……って何の話ですかエイルズレトラさん」
一人真面目にディアボロ退治を目指して機甲弓を放っていたジョシュアの側で、何故かグラサンをかけたエイルズレトラが呟く。
背中に手書きで『21』と書かれた大き目のプロテクターを着込んだエイルズレトラは、訳知り顔で頷く。
「でも、任せてください。僕も速さには自信があるんです。絶対にボールを奪って見せますよ」
ぐっとサムズアップをしてエイルズレトラは全力疾走で走り去って行った。
見送ったジョシュアの視界に、有火が真っ直ぐ突っ込んできている姿が飛び込んで来た。
「……またか」
有火の突撃には慣れているジョシュアは、膝をついて機甲弓を斜めに構える。
なんということでしょう。
有火の勢いを殺すことなく、かつ、ジョシュアへのダメージを最小限に抑える絶妙の角度。思わず駆け上ってしまいたくなるようなその角度はまさに匠の技。
猛然と走る有火は、ジョシュアの構えた盾を駆け上がり、宙へとダイブする。
その頃、ゴリラの囲みから抜け出すことに成功した湯坐は翼を広げて空へと舞い上がっていた。
「ふははっ!空に飛んだ俺は無敵にチート!魔法で圧殺してやグェッ!」
空から魔法を放とうとしていた湯坐に頭から突っ込んで来る有火。
有火の全ての前進エネルギーが湯坐に受け継がれる!
重力から解放されたのも束の間、再び地上へと引き戻される。
地上では分厚い胸板を誇示するようなゴリラが待ち受ける。
「……ふ、だが俺はここで正統派に熱くなる台詞を知っている。ラノベで読みましたから!」
決め顔でゴリラの抱擁の中に堕ちていく。
「さあ!今のうちに、彼女を助け……やっぱりいやだぁ!助けてください!助けてください!」
黒い胸板の悪夢が再び湯坐を襲う!
「あー、落ちたね」
ゴリラの中心で助けを叫ぶ湯坐を眺め、ジョシュアは確認したように呟く。
だがまあ、彼女を助けろと言ってることだし、と湯坐を残して北村救助へと向かうのだった。
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『あ、巻き込んじゃった☆いっけなーい☆』
目の前には眠りを誘う魔法の霧が広がり、ゴリラと寄り添うように霧谷がすやすやと寝ていた。
『……これも資料に良さそう、うふふ☆』
ゴクリと生唾を飲みこみまじまじと見つめていたが、魔法少女の鉄則を思い出して慌てて周囲を見回す。
魔法少女は逆転勝利しなければならないのだ。そのためには危機的状況が必要だ!
ボール北村を守って走り続けるゴリラの前に、チェリーは両腕を広げて飛び出していく。
『皆の未来を守るため……チェリーは絶対に負けないんだから!』
立ち塞がるチェリーを激しいタックルが襲う。
衝突の衝撃で舞い上がった土埃が風に流された後には、ビクンビクンと痙攣するゴリラと、満足そうなチェリーの姿がもつれ合って倒れていた。
一体何があったのか?この一瞬の壮絶な戦いを解説しよう。
ゴリラが迫って来た一瞬に、チェリーの広げていた手は前に突き出される。
両の掌が添えられたのはゴリラの黒く分厚い雄っぱい。
触れた瞬間にチェリーはしっとりと濡れた肌と、しなやかな筋肉を感じ取り、高速で揉み倒す。
素早く動く指に反応して、熱を帯びた雄っぱいは鉄のように堅くなり、高く盛り上がる。
『揉まれてカップが上がったのね……って胸の事は言うなーっ!』
一人逆上したチェリーの指先から電撃が走る。
雷に打たれたように硬直したゴリラはチェリーを巻き込みながら倒れるのだった。
後にチェリーは語る。
『あの弾力……かなりのレベルの高さだったわ。そうね、4A+、といった所かしら』
そう語るチェリーの頬は桜色に染まり、いつもに増して可愛らしかったとインタビュアーは記している。
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「そろそろお遊びは終わりですよ、行けっ!ハート!」
エイルズレトラはブカブカのプロテクターが邪魔して速く走れず、ようやく前線へとたどり着いた。
隣に浮遊しているヒリュウに命じて、北村ボールを持つゴリラへ突進させる。
ゴリラに近づいたヒリュウは、口をあんぐりと開けて巨大な風船を吐き出した。
その風船に添えられるヒリュウの前肢。キラリと光る爪。
ヒリュウの目論見にゴリラが気づくが、時すでに遅し、鋭い爪意に貫かれた風船は全てを薙ぎ払って爆発する。
そのインパクトはゴリラを、ヒリュウを、ボール(北村)を薙ぎ払う。
「あ、結構きついですね」
ヒリュウの受けたダメージを共有したエイルズレトラは、全身の骨が軋むのを感じる。
通常では気絶するほどの衝撃だったが、プロテクターのお陰で耐えきれた!凄いね!プロテクター!
飛んでくる北村ボールをキャッチしたエイルズレトラはゴール目掛けて疾走する。
……つもりだったが、全身のダメージと何より北村の重さに耐えかねて、田舎道を老婆が歩く程度のスピードでのろのろと進んでいた。
ダメージで視界が霞むなか、横で誰かが手を上げているのに気付いた。
「誰なのかは全く分からない。なんでこんなに暗いんだろう……」
(サングラスで)視界が霞む世界では誰もがゴリラに見える。
へろへろのエイルズレトラは、それでも希望を込めてとパスを投げる。
そのパスを繋げた瞬間、激しく突っ込んで来たゴリラのタックルをまともに受けて、エイルズレトラは意識を失うのだった。
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ボールを受け取ったゴリラは、踏み出した足もとにぐにゅりという嫌な感触を感じた。
下を見下ろすと潰れたバナナがあった。
「そんな、愛と怒りと悲しみのシャイニングバナナが通じないなんて……!」
霧谷は動揺して、足についたバナナを芝生にこすりつけようともぞもぞしているゴリラに単身走り寄る。
「マーグナァムナッコォォォ!」
ロケットパンチを両手で持って殴りつける。
バナナが取れたか片足立ちで足の裏を確認していたゴリラはよろけてボールを手放してしまう。
素早く手を伸ばし、霧谷がボールの脚をキャッチして、そのままジャイアントスイングで仲間へとパスする。
両手両足を伸ばしたまま回転して飛んでいくボール改め北村を眺め、地響きと共に突進してくるゴリラに振り返る。
「俺の死を無駄にするな!頼んだぞ!」
勇ましい掛け声と共に、親指を立てながらゴリラの海へと沈んでいく姿は涙なしでは見られなかった。
北村の頸をゴキッとつかんだ有火は、テトに縮地を付与する。
「一緒に行こう、テトちゃん。ここからがあたしの……ううん、あたしたちのショータイムだよ!」
深く頷くテト。真っ直ぐにゴールラインの向こう側を指さし、有火へと叫ぶ。
「聞け、有火!奴等の弱点はタッチダウンだ。それでタッチダウンするぞ!」
バッチリアイコンタクトも決まり、走り始めた二人の青春。
(テトちゃん、ボールを投げるから先に行って。目の前のゴリラは私が止めるから!)
目線でテトに合図を送る有火に、テトはバチンとウインクを返す。
(わかった!有火は行け!私があのゴリラを倒す!)
かくしてゴリラを越えて投げられた北村は誰も居ない芝生の上に投げ出される。
ゴリラは二人がかりの突撃に敢え無く撃沈するのだった。
這って逃げようとする北村を見て、二人は顔を見合わせ頷く。
「ボールはまだ生きてるわ!」
北村を守る様に立ち塞がるゴリラ達。
それを掻い潜っていち早くたどり着いた有火が北村を抱えて上空へと飛び上がる。
「テトちゃん!」
「有火!」
二人の息のあった友情パワーにより、ツープラトンパイルドライバーが地面へと突き刺さる!タッチダウンだ!
「俺達の勝利だ!」
暮れなずむ夕日のが眩しく輝く中、ハイタッチ&ドヤ顔でゴリラを振り返る二人に、ゴリラ達は悔しそうに、だが誇らしげに去っていった。
(第三部 完)
「って、完全に頭突き刺さってましたよ……良く生きてましたね」
ジョシュアの甲斐甲斐しい治癒によって北村が息を吹き返した事だけは最後に記しておこう。