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「初っ端ぶっ放すよ」
ディアボロ達が武器を構えた直後に動いたのは黒夜(
jb0668)。
正面に立ち塞がる4体の敵へ無数の影の刃を放ち、敵を切り刻む。
「ちぇっ。いつもの調子が出ねー。さすがゲート……厄介だな」
全て薙ぎ払うつもりだったが、2体の敵にかわされ、攻撃が当たった敵もよろめきながらも立っている。
ゲート戦の厄介さに舌打ちをする。
黒夜の攻撃を避けた敵が前に出ようとしたところへケイ・リヒャルト(
ja0004)が光り輝く弾丸を放つ。
敵はその弾丸をも避けようとするが、敵を通り過ぎる際に爆発し、細かい光の粒が敵に降り注ぐ。
片手で髪をかき上げながら、メイドのシェリルに向かって拳銃を向ける。
「お痛が過ぎるようね……良いわ、さくっと片付けて貴女も引き摺り出してアゲル」
シェリルはケイの挑発にくすりと微笑んで答える。
「ほれっ」
嶺 光太郎(
jb8405)は黒夜の影の刃により動きが鈍った敵に向かって一気に距離を詰める。
杖士から放たれた魔法弾を素早いステップでかわし、アウルで作った無数の土塊をぶつける。
杖士には目もくれず、剣士との距離を詰めるが、追撃を加える前に体勢を立て直した敵が剣を振るい、嶺は寸前で止まる事でかわす。
「……確かにうざってぇな」
面倒臭そうに頭をかきながらも、しっかりと相手を見据えて構えを取る。
草摩 京(
jb9670)は立ち込める埃をものともせずに突進し、白く光り輝く太刀を槍者へと叩き付ける。
槍士は槍で受け止め石突で強かに草摩を突いて距離を開けるが、白い光に蝕まれるように鎧の一部がぼろぼろと崩れていく。
剣士と槍士の動きが止められている隙に、鈴木悠司(
ja0226)は弓士と杖士の間を駆け抜ける。
すれ違う際に二筋の光が煌めき、ディアボロの鎧の一部が弾ける。
鈴木の手にはいつの間にか毒々しい色の曲刀が握られていた。
●
撃退士の正面への突撃が始まると同時に、周囲の敵も押し寄せてくる。
只野黒子(
ja0049)は撃ち込まれて来た矢と魔法弾を手にした双銃で受け流す。
ぼんやりと紫を帯びた双銃は衝撃を完全には抑える事は出来なかったが、怯むことなく杖士に反撃の銃撃を放つ。
目の前で攻撃の意思を見せる只野に向かって剣士と槍士がそれぞれの得物を打ち振るうが、只野は身軽に宙を舞いその攻撃を避ける。
自らの体の代わりに残すのは毒のミスト。
活性化したワイヤーを通じてアウルを流し込み、剣士と槍士を巻き込む形で散布する。
只野の反対側に立ち塞がったのはキイ・ローランド(
jb5908)。
勢いよく武器を振り上げるディアボロ達にも臆した様子は見せずに、肩をすくめて盾を活性化させる。
「サプライズパーティかい?生憎こういうのは飽きてるんだ。この催し、早々に終わらせて貰うよ」
仲間の動きを背中で感じ、自らの立ち位置を素早く確かめ盾を持つ手に力を込める。
剣が、槍が、矢が、魔法弾が、次々とキイを襲うが、円形の盾を機敏に動かしさばいていく。
一部盾で受け損ねた攻撃もあったが、表情を動かすことなく盾についている刃物で剣士の甲冑を切り裂く。
「何だかサーカスを思い出しますねえ」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は氷のドームの天井を眺めて呟く。
空気は揺らぎ、戦いが始まる。
エイルズレトラは突撃する仲間達の背後から襲い掛かってくる敵に優雅に一礼をして見せる。
「奇術師エイルズと申します。どうぞ、お見知りおきを」
ディアボロ達は反応することもなくエイルズレトラに切りかかるが、自然な動きで攻撃をかわしていく。
振り下ろされた槍の一撃でエイルズレトラが真っ二つにされたかに見えた瞬間、エイルズレトラの姿は二つになっていた。
「そちらの僕もよろしくお願いしますね」
後ろに控える弓士に向かって行く影分身を紹介しつつ、両手を脇に広げる。
「カードはお好きですか」
両手から零れる大量のカードは周囲の存在を包み込むように舞い散る。
多くは無数のカードで体を切り裂かれながらも拘束から脱出するが、剣士はカードに包まれて身動きが取れなくなるのだった。
●
鈴木は弓士に張り付くようにして斬撃を放つ。
だが、背後に居る杖士の魔法弾の衝撃により、狙いが逸れる。
「邪魔……だね」
振り向きざまに曲刀を振りぬき、杖士に向かって衝撃波を飛ばす。
まともに受けた杖士は片腕を肩からもぎ取られる。
衝撃で体が泳ぐ杖士に向かって、鈴木が距離を詰めていく。
その背中を狙って弓を引き絞る弓士に対し、黒夜はワイヤーを飛ばし、甲冑を切り裂こうと火花を上げる。
「すんなり切れねーな」
黒夜が力を込めると、甲冑の表面を削ってワイヤーが外れる。
ワイヤーが外れた瞬間、黒夜に向かって矢が放たれる。
「ってーな」
太ももに突き刺さった矢を抜いて、黒夜は再び狙いを定める。
鈴木は杖士を圧倒するように曲刀を振るう。
前へ、前へ、前へ。
下がることなど考えていない勢いは、杖士の反撃をも押しつぶすような勢いで飲み込んでいく。
魔法弾の衝撃に口の端に血の泡を滲ませながらも、ディアボロは真っ二つに切り刻む。
剣士と対峙している嶺は互いに高速の攻防を繰り広げていた。
鋭い突きをかわし、鳩尾を狙って蹴りあげる。
剣士は体を反転させて蹴りをかわし、その勢いで横薙ぎに剣を振るが、嶺はしゃがんでやり過ごす。
「あぁーっ、めんどくせぇ」
距離を取り合い構え直す一人と一体。
再び踏み込み、剣を避けるのも面倒だと蹴りを放つ嶺。
交差する剣とレガース。
嶺は肩から胸にかけて切り裂かれ、血が派手に吹き出した。
だが、剣士は蹴りぬかれた胸を押さえてフラフラと揺らいでいる。
「くそっ、避けれたはずなんだがな……だが手ごたえは十分だな」
痛みに顔をしかめながらも、反応の鈍い敵へゆっくりと近づき、レガースで蹴りあげる。
草摩は槍士を相手取り強打を繰り出す。
白く光る太刀を構える草摩の身体もぼんやりと光っており、魔と引き付け合うように一撃が重くなる。
槍士の一振り一振りも光に集まるように草摩の身体を捉えていく。
ケイは二度目の打ち合いを果たした草摩を援護すべく、ディアボロの片足を狙い撃ち、その身体をよろけさせる。
その隙にキイが自分の目の前の敵を盾で押し退け、アウルの光を草摩へと送り込む。
「ありがとうございます……ですが、この相手はここで」
姿勢を低く太刀を構え呼気を細く吐き出す。
片足の自由を失った槍士は受け身の姿勢ながら、槍を肩の上に構え瞬時に突き降ろす構えを取る。
緊迫する間は瞬きを数度するほど。
すぐに地を蹴って飛び出した草摩は、突き下ろされる槍を掻い潜り、胴を両断する。
矢をかわしながらでは決定的な一撃を決める事が出来ず、黒夜は少しずつ甲冑を削るように切っていく。
矢は最初の一撃以外は当たる事もなく、優位のまま敵を追い詰めていく。
「弓を引き絞ってる時がねらい目よ、動きも止まるわ」
ケイの銃弾が見本を見せるように攻撃に移ろうとしていた弓士を貫く。
「……こうかな?」
黒夜はケイの言葉を瞬時に理解し、ワイヤーを引き絞り、甲冑をばらばらに切り裂くのだった。
●
敵の攻撃をさばきつつ、正面の戦況を確認していた只野は呼吸を整えて自らの傷を癒す。
「毒の効果が出るのは、もう少し、でしょうか」
只野を追いかけて来た剣士と槍士の動きは、はっきりとした毒の効果は見て取れない。
剣士が鋭い突きを放つが、只野は受けることも出来ず、避け損ねた攻撃を耐え凌ぐ。
側に居た槍士へ爪の魔具を叩き付け、甲冑を抉り取りながら弾き飛ばし、前に出ようとしていた弓士にぶつける。
「良い場所だね」
鈴木が弾かれた槍士と受け止めた弓士の前に走り込み、曲刀を煌めかせる。
槍士は庇うように弓士を突き飛ばし、甲冑を粉々に砕かれて崩れ落ちる。
弓士は体勢を崩しながらも技を出し終えた瞬間を狙って鈴木に矢を放ち、鈴木の腹部に矢が突き刺さる。
「まだ大丈夫だよっ」
キイは正面突破と共に合流を果たして自らの傷を癒していたが、鈴木の様子を見て癒しのアウルを送り込む。
鈴木は飛びかけた意識を引き戻し、腹部に刺さった矢を自ら引き抜く。
「ふぅ……」
鈴木は溜息のような吐息とを漏らし、再び新たな敵に向かって走る。
血の匂いに誘われたのか、鈴木の周りにディアボロ達が集まってくる。
次の瞬間、突然ディアボロ達が火花を散らして炎に包まれる。
気配を消していた黒夜が、背後からアウルによる炎をまき散らしたのだ。
炎で捻じれる甲冑の様子を見ならが、黒夜は再び乱戦の中に消えていく。
只野を攻め立てる剣士にアウルで作った土塊をぶつけて、嶺は走る。
狙いは土塊ではなく、それを追うように走ったその脚。
レガースを鋭い角度で振り下ろし、剣士の半身を砕き、只野が残る半身に爪を振るう。
甲冑は吹っ飛びながら粉々に砕けていく。
キイが押しとどめていた敵は草摩とケイが一部を相手取る。
剣士は素早い動きで草摩とケイの攻撃をかわすが、剣士の攻撃もまた草摩には届かない。
後ろから杖士が魔法弾の援護を放つが、草摩は太刀でその魔法弾を叩き落とす。
「この程度の動きならば、既に見切りました。ご覚悟を」
草摩は舞うような足運びで剣士の攻撃を無力化し、太刀を剣士へ叩き付ける。
静かに自らの構えを崩さない草摩を攻めあぐねたのか、動きが止まった。
その隙を見逃さず、ケイの銃弾が剣士の剣を弾く。
「あら、銃弾が飛んでくるなんて予想外だったかしら?」
ふっ、と銃口を吹くふりをして見せ、ケイは嗤うのだった。
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その頃、エイルズレトラは囲まれていた。
おやまあ、と周囲を囲むディアボロを見回し、エイルズレトラは両腕を広げる。
「僕を囲むなんてあまり賢くは無いようですね」
エイルズレトラを中心としてカードが舞い散る。
既に何度もこの攻撃を受けていた槍士は一歩引いてカードから逃れるが、2体のディアボロがカードに巻き込まれる。
剣士はカードに埋もれるように倒れ伏し、槍士は立ったままカードの虜となる。
「カードが気に入ったようですね。では特別なカードも贈りましょう」
エイルズレトラはカードに覆われてもがく槍士に歩み寄ると、虚空から一枚のカードを出現させ、槍士の甲冑へカードを差し込む。
エイルズレトラがカードを手放して後ろに下がると、槍士は甲冑の内側から弾けるように爆発し、周囲にカードを振りまく。
「おっと危なかったですね」
カードの間を縫うように放たれた矢がエイルズレトラを撃ち抜くように放たれる。
矢が刺さったかに見えたエイルズレトラは平然と立ち塞がり、その足元には矢が刺さったスクールジャケットが転がる。
突きかかってきた槍士を無造作な仕草かわし、すれ違いざまに2枚のカードを差し込んで爆発させる。
そのまま、ゆっくりと弓士へと歩み寄る。
近づくまでも放たれる真正面からの矢は、エイルズレトラには当たらない。
「これでチェック、ですね」
エイルズレトラはカードを差し込みながら無造作に手を振る。
透明の爪が甲冑をひっかけ、弓士は宙に放り上げられ、地上へと落下する前に爆発する。
甲冑の破片が周囲に転がる中、正面の仲間へ目を向けると、血まみれとなった鈴木が最後となった杖士を仕留める姿が見えたのだった。
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「素晴らしいですわ、お見事でした」
戦いが終わったドームにぱちぱちと拍手が響く。
微笑みながら戦いを眺めていたシェリルが撃退士を祝福していた。
「あら……次は貴女の出番でしょ、メイドさん?せっかくの舞踏会だもの、楽しましょう」
ディアボロとの戦いで受けた傷でふらつきながらもケイはシェリルを挑発する。
「まあ、『稽古』のようなものだと思って下さい。死なない程度の軽い物で」
エイルズレトラが提案すると、草摩も言葉を続ける。
「既に勝敗は決しましたが……貴女には興味がありますわ」
撃退士達の言葉を面白そうに聞いていたシェリルは、にっこりと微笑み頷く。
「では軽いデザート代わりに」
準備が出来るまで待ちますわ、と撃退士達を見渡すのだった。
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シェリルの周囲を6つの影が囲む。
草摩、ケイ、只野、鈴木、エイルズレトラにその召喚獣であるティアマットのスペード。
「お先にどうぞ」
ふわりと日傘をさすように巨大な戦斧を担ぎ上げ、シェリルはぼんやりと佇む。
ケイの腐敗を込めた射撃を合図に四方から撃退士達が飛びかかる。
草摩は肩に太刀を担いだまま前傾姿勢で踏み込み、全身をしならせて白く白光する太刀を回転させ、最高のタイミングで斬撃を放つ。
「良い……ですわね」
丸い眼鏡の奥で碧の瞳が三白眼に吊り上がり、戦斧でその攻撃を受け止める。
草摩の太刀を受け、無防備になった背後からエイルズレトラが足元へワイヤーを滑らせ、足をすくおうとするが、小さなメイドは微動だにせず、喰い込んだワイヤーから血が滴る。
側面からは只野が足にアウルを込め、瞬時に距離を詰める。
その勢いのまま爪を振り抜き、シェリルの顔に三本の傷をつけるが、顔を背けたメイドからは浅い手応えしか伝わらない。
反対側からは鈴木が曲刀を滑るように振り抜き、背中に切り付けるが、鉄の塊を叩いたように手が痺れる。
「実に面白いですわ」
それでは、と草摩の太刀を弾いて斧を振り上げる。
「私の拙い技ですが、堪能してくださいね」
振り上げた斧を地面に勢いよく叩きつけると、周囲に衝撃波が走る。
咄嗟に只野は魔法盾を展開し、エイルズレトラはスクールジャケットを残して飛び上がる。
だが、濛々と立ち込める土煙が晴れると、そこに立っていたのは血を吐く只野と射程外にいたケイだけだった。
エイルズレトラは攻撃を避けたが、召喚したスペードが受けたダメージが伝わり、着地前に意識を失っていた。
「……」
何か言いかけた只野だったが、圧迫感を感じてすぐに盾を展開、振り回される斧を受け止め、数m飛ばされる。
ケイが放った白い弾丸は片手で握りつぶされ、只野が放った雷撃を軽いステップでかわされる。
只野が意識を失う前に間近に見たのは、喜悦に濡れる碧の瞳だった。
その様子を見て、嶺がケイとシェリルの間に走り込む。
「そこまで、な。ここまで」
わざと緊張感が抜けたような声をだして、只野を担ぐ。
あら、と小首を傾げたシェリルはクレーターの出来た床と倒れ伏す撃退士達を見て、口元を隠して可笑しそうに笑う。
「少し、本気になってしまいましたわね」
スマホを構える黒夜とじっと見つめているキイに向かってくすり、と笑い、軽くお辞儀をする。
「綺麗に撮れましたでしょうか。万全の状態でしたら、もっと楽しかったでしょうね。それでは、お送りしましょう。」
戦いの余韻で濡れる緑の瞳を瞬かせ、撃退士を転送する。
撃退士達はシェリルの姿が消える前に確かに聞いたのだった。
「また、楽しみましょう……」