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マスター:monel
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/16


みんなの思い出



オープニング


 強く輝く光の側では小さな光は霞んでしまう。
 彼は生まれてこの方23年間ずっと強い光の影で生きていた。
 彼は世間一般から見れば充分優秀と言える経歴を重ねてきた。
 子供の頃からテストでもかけっこでも学校で上から数えたほうが良い成績を残してきた。
 大学も超が付くほどの一流校を優秀な成績で卒業している。
 エリート官僚への第一歩も踏み出した。
 誰もが羨む人生を歩んできた、そう言っていいだろう。

 だが、彼は一度も満たされることはなかった。
 彼の側には常に一番を譲らない男がいた。
 彼は常にその男を目標にして頑張ってきた。
 だが、そんな彼を置いて、彼は手の届かない場所へと行ってしまった。
 アウルに目覚め、撃退士になるという。
 世界を救いたいそうだ。
 全てを投げ打って戦う覚悟を決めたそうだ。
 
 許せなかった。
 なぜ、一度も勝てなかったのか。
 なぜ、一度も相手にしてくれなかったのか。
 なぜ、一度も認めてくれなかったのか。

 なぜ、彼だけが力を手に入れたのか。

 彼は思う。
 撃退士を上回るほどの力を手にすることが出来れば、本気で相手になってくれるだろうか。
 そう、例えば……


 天木壮介はトンネル崩落の事後処理のため、現地の撃退署に応援に駆り出されていた。
 トンネル内では気絶していたが、奇跡的に怪我は軽く、頭を数針縫っただけで入院することもなかった。
 一通り取り調べが終わった後は、処理に駆り出されている現地の撃退署員の仕事の肩代わりを行わなければならなかった。
 まずは撃退署へ電話や手紙、メールで持ち込まれる天魔に関する情報の整理だ。
 誰かがやらなければならないが、それほど重要でもない仕事、つまり怪我人の応援者の仕事だった。
 天木は嫌がる事もなく、真面目に仕事をこなして行った。
 天魔絡みの事件に巻き込まれたためとは言え、事件の現場に居て何もできなかった事が悔しかったのだ。
 それに寄せられてくる情報のほとんどは屑だとしても、中には埋もれてしまいそうな重要な情報があるかもしれない。
 天魔を倒す一穴となるような情報を求めて、山のような情報に挑み続けるのだった。
 
 天木がその手紙に目を止めた事に深い理由はなかった。
 敢えて言えば勘のようなもの。
 悪く言えば、情報整理に飽きてきた時に丁度良い言い訳が手に入った、その程度のものだった。
 短い手紙には信憑性もほとんどなく、悪戯だとして捨ててしまっても良かったのだが、息抜きがてら自分で探ることにしたのだった。
 手にした情報は具体性がない割りに詳細な場所と時間の指定があった。
 丁度今から行けば間に合う場所だ。
「ま、ナイフ持って暴れてたりすると後味悪いしな」
 ちょっと出てきます、と告げて手紙に書かれた場所へ向かうのだった。

『悪魔に誘われています。私を止めてください。場所と時間は……』


 指定された喫茶店で頭を抱えているサラリーマンが入り口付近のテーブルに座っていた。
 男はその若さにしては、靴や眼鏡にお金がかかっており、一流企業か官僚といった雰囲気に見えた。
 ただし、ちょっとした物音にも敏感に反応し、せっかくの服装もおどおどとした態度で台無しになっていた。
「失礼、悪魔に誘われてるってのは貴方ですか?撃退庁の天木といいます」
 恐らくこの男だ、と目星をつけ、男の前にすっと座る。
 突然現れた天木に怯えたような表情を見せて、男は縮こまった。
 天木は怯えさせないように優しげな笑顔で笑いかけ、話を続ける。
「失礼、手紙を拝見しました。悪魔に誘われているとか。詳しく話をお聞かせいただけますか?」
 穏やかに話かける天木に、男は縋りつくように前のめりになり、血走った目を見開いて口を開く。
「酒を飲んでいたんだ。あんただってそう思う時ぐらいあるだろ!俺は望んじゃいないんだ!くそっ!もうすぐ時間だ、助けてくれよ!」
 いきなりヒートアップした男に唖然としながら言葉を続けようとしたが、不意に大剣を背負った男が飛び込んでくる。
「待てっ!お前は間違えている!考え直せっ!」
 唯でさえ叫びだした男に注目が集まっていたところに、日常生活ではまず見ない大剣を背負った男が現れ、店内の客は悲鳴を上げて壁際に避難する。
 天木は顔を手で押さえてため息を付くと、乱入してきた男をなだめる。
「いいから剣は仕舞えよ、街中だぞ。あんたは撃退士だな、この男の知り合いか?」
「うるせぇよっ!お前に俺の気持ちが分かるかっ!くそっ!お前には負けねぇぞ!俺は力をもらうんだっ」
 こっちもか、と天木はため息をこらえて元々話をしていたサラリーマンに振り向きかけ

 ゾクリと悪寒を感じる。
『力が、欲しいか』

 横に小男が立っていた。全く気配を感じずに、凄く近く、目の前に現れるまで気付かなかった。
 それだけではない。年寄りにも少年にも見える男は、確かに口を開かずに言葉を発した。
 いや、脳裏に直接話しかけてきたのだ。
 天木は転げるように隣のテーブルを倒しながら飛び退る。
 テーブルのコップが落ちて割れる音に店内は騒然とする。
 天木が自分が居た場所を見ると、小男の手がサラリーマンの体を貫いている姿だった。
 剣を持ち込んだ男が尻餅をついて這うように距離を取る。
 サラリーマンは体をボコボコと鳴動させながら、その存在を変質させていく。
 小男が天木のほうを見て、唇の端だけを動かして笑ったように見えた。
 次の瞬間、小男の姿は消え、体を変質させ続ける男だけが残ったのだった。


「緊急の仕事だ。近くにいるのは君たちだけだ、せっかくの休日に申し訳ないが急いで急行して欲しい」
 貴方の携帯に斡旋所からの電話がかかってきた。
 休暇中に遊びに来ていた地方都市、そこで天魔騒ぎが発生したようだ。
 話によると喫茶店に突然悪魔が現れ、ディアボロを生み出して消えたそうだ。
「簡単に説明しよう。喫茶店は2階にあります。出口は階段の一つだけ、窓は通りに面しています。ディアボロは出口近くに居るため、中に人が取り残されています。現地では撃退士と思われる男がディアボロと対峙しています」
 状況は分かったか、と確認する狩野に貴方は続きを促す。
「客の避難とディアボロ退治を急いでくれ。何者か分からないが撃退士の男も無事なら助けてやってくれ。以上だ。通話は近くにいる学園生全員に繋いでいる、相談はこのまま通話で頼む」
 あなたが了解の返事をすると、複数の声が同じように応えるのが聞こえた。
 問題の喫茶店にはそれほど離れては居ない。
 あなたが雑踏の中を駆けはじめるのだった……


リプレイ本文


 輸入家具屋では大人びた赤毛の青年が黒髪がクールな少女と一緒に家具を探していた。
 落ち着いた佇まいの二人は穏やかな時間を共有していた。
「これなどは大きさも手触りも良いですよ。色も天草さんにとても良く似合っています」
 落ち着いた色合いに鮮やかなラインの入ったクッションを手に取り、ヴァンサン・D・バルニエール(jb9933)は天草 園果(jb9766)へ渡す。
「まあ、本当に……」
 天草はクッションを撫でながら真剣な表情で吟味をしている。
 その表情をヴァンサンは微笑みを含んだ眼差しで見守っていた。
 穏やかな時間は同時に鳴り響くコール音に遮られる。
 二人は視線を交わし、狩野からの緊急連絡に耳を傾けるのだった。

「先輩!すぐ向かいましょう!」
 天草は手触りを確かめていたクッションを慌てて元に戻し、ヴァンサンの手を引く。
 電話を取った瞬間から表情は険しくなり、狩野から送られて来た地図に目を走らせる。
「そうだな。……早く家具を選びたいんだ、此方は」
 小さく頷いた天草の表情を、先に駆け出したヴァンサンは見れなかった。

 本屋で好きな本を探していたイアン・J・アルビス(ja0084)はマナーモードで震える緊急呼び出しに気づいて急いで外に出る。
 かけていた眼鏡を外したイアンは狩野の話を聞くに連れ徐々に真剣な表情となり、周囲の人ごみを縫うようにして走り出す。
「街中で暴れるとは言語道断。早急に排除させていただきます」
 その目に宿るのは天魔への怒りと焦燥、そして何よりも信念が込められた決意。
 イアンの全力疾走の足音がアスファルトに響くのだった。

 お気に入りの青い装いに身を包み、ステッキを突きながら街をぶらついていた逆廻耀(jb8641)はショーケース越しに柔らかそうな座椅子的なソファを見つめていた。
 買うつもりはなかったが、その居心地よさを想像して何か離れがたいものを感じていた。
 そろそろ行こうと歩き始めたところで狩野からの緊急連絡に気づく。
「現場は2階、か……やれるだけはやっておくか」
 現場へ向かう前に投げ出すようにお金を置いてソファを担いで走るのだった。

「ふぁー……」
 駅前のベンチに座ってあくびをしながらぼんやりと通行人を眺めていた嶺 光太郎(jb8405)は緊急連絡に気づいて舌打ちを漏らす。
「ちっ、折角ごろごろしてたっつーのに……ついてねぇ」
 面倒臭そうに狩野からの情報を聞き、狩野に天木とも連絡がつくように要請する。
 途中までは走っていたが、通行人にぶつかりそうになること数回、溜息をついて赤黒い翼を現出させる。
「あぁっ、面倒臭ぇ!近道でいくしかねえな」
 ふわりと宙に舞い上がると、巻き上がる騒ぎをよそに現場へと一直線に飛んでいくのだった。

「君が天木君かな。久遠ヶ原の尼ヶ辻だよ」
 電話がつながった天木へ尼ケ辻 夏藍(jb4509)が話しかける。
「此方はもうすぐ到着するよ。私は窓から透過して突入するからね。周りの人が驚かないようにフォローを頼むよ」
 電話の向こう側から激しい物音と悲鳴、助けが来たことを説明している天木の声が聞こえてくる。
 天木に作戦を説明しながら、尼ヶ辻は喫茶店へと急ぐのだった。


 ヴァンサンと天草が現場についた時、喫茶店の前を歩く通行人達のほとんどは事件に気づいていなかった。
 漏れてくる悲鳴に数名がちらりと窓を見上げ、すぐに興味を失くしたように視線を逸らしていた。
「まずは通行人の避難と客の安全確保だ。その後は速やかに片付ける」
「こっちは私がなんとかします。先輩は喫茶店へ急いでくださいっ」
 天草はヴァンサンに告げると、大きく息を吸い込んで通行人に向かって大声で叫ぶ。
「天魔が現れました!すぐに避難してださい!私は久遠ヶ原学園の撃退士です!ここは危険です!すぐに離れて!」
 生徒手帳を掲げて叫ぶ天草に最初は戸惑っていた通行人だったが、学園の儀礼服に気が付いた一人が悲鳴をあげて転がり出すように逃げ出す。
「大丈夫、すぐに収まります。落ち着いて押さないように逃げてください!」
 駆けつけたイアンは逃げ惑う通行人に声をかけながら喫茶店へと急ぐ。
 店内へと続く階段でヴァンサンに気づいたイアンは小さく頷き、二手に分かれて店内へと突入する。

「しかし、なんとまあ、久しぶりに外に出れば騒がしいことだね」
 尼ヶ辻はパニックが広がっていく人ごみをかき分け、喫茶店に近づくと翼を広げてふわりと二階へと飛び上がる。
 そのまま、空中を歩くように窓ガラスを透過して喫茶店の中へと入っていく。
「お疲れ様、加勢に来たよ」
 翼を収めながら、怯える客を庇うように立っていた天木へと声をかけるのだった。
 
 ヴァンサンは厨房を駆け抜け、腰をかがめてカウンター越しに喫茶店の内部の様子を伺う。
 騎士甲冑を纏った鬼のような異形は長大な騎士槍を振り回し、長剣を両手で握りしめる撃退士の胸を強かに叩く。
 撃退士は攻撃を受け止めきれずに壁に叩き付けられ、ピクリとも動かなくなった。
「良く頑張ってくれました、ここから先は何とかします!」
 入口から駈け込んで来たイアンは撃退士が吹っ飛ばされる光景を目にして、アウルを載せた叫びを騎士甲冑に放つ。
「僕が相手だっ!こいっ!」
 イアンの叫びに騎士甲冑は振り向きざまに槍を突き出す。
 喫茶店の中を衝撃派が迸り、テーブルを蹴散らしていく。
 イアンは落ち着いた様子で盾を顕現化し、衝撃を受け止めるのだった。
 ヴァンサンは騎士甲冑が槍を振りぬいた隙にカウンターを乗り越えて倒れた撃退士の下へと駆け寄る。
「こっちから逃げるぞ」
 ぐったりとした撃退士を担ぎ、店の隅にいる客に脱出を促そうとするが、青褪めた顔で震えて固まっている。
「仲間が敵を抑えてくれているからね、大丈夫だよ」
 尼ヶ辻はスキルの準備をしながら敢えて騎士甲冑に背を向けて穏やかな表情を客に見せて落ち着かせようとする。
 だが、頭では理解しても震える脚が前に出て行かないようだった。
「駄目だ!遠すぎる!引き返してくれ!」
 震える客を励まして走らせようとしていた天木がヴァンサンに叫ぶ。
 喫茶店の端まで届く攻撃を見せた騎士甲冑に対し、テーブルや椅子が散乱するカウンターまでの10mを全員が走り切れないと判断したのだ。
 ヴァンサンはそおの状況を見て小さく頷き、撃退士を担いだまま全力で駆け戻っていく。

 喫茶店の外では天草の働きにより喫茶店周辺からの一般人の避難が進んでいた。
 ヴァンサンが意識のない撃退士を担いで出てくると、遠巻きに見つめる野次馬からどよめきが湧き上がる。
「彼を頼む」
 ヴァンサンは短い言葉と共に天草へ撃退士を託すと、すぐに店内へ取って返す。
 撃退士を受け取った天草が喫茶店を見上げると、喫茶店の窓ガラスが弾けるように割れ、キラキラと光を反射させながら降ってくるのが見えた。


 騎士甲冑に肉薄したイアンは槍を振り上げた相手の動きに危険を察してシールドを構えて動きを止めにかかる。
 だが、先ほどの衝撃波のモーションとは異なり、イアンを巻き込むように槍を振り回し始める。
 大きく振り回された槍はイアンだけでなく、客に語り掛けていた尼ヶ辻をも巻き込み激しく旋回する。
 背中を抉られ跳ね飛ばされた尼ヶ辻を天木が受け止めるが、勢いを止められずに一緒に倒れ込む。
 尼ヶ辻を助け起こした天木は、支える手に滴る尼ヶ辻の血の量に顔を顰める。
「大丈夫かっ!くそっ酷い傷だ……」
 割けた着物からどくどくと血が流れ続けるが、尼ヶ辻は手で天木に下がるように指示し、窓ガラスに向かって符を構える。
「道を塞がれたのなら切り開くだけだね」
 符から放たれた水龍が窓ガラスを砕くと同時に逆廻と嶺の二人が店内に飛び込んでくる。
「早く!こっちだ!……ちっ!じっとしてろよ!」
 飛び込んで来た逆廻は怯える客を片手に一人ずつ掴んで道へと飛び出す。
 ふわり、と宙に飛び出したことで抱えられた二人は悲鳴をあげるが、予想していたような落下はなくそのまま宙を飛んでいく。
 違和感を感じて悲鳴が止まった二人は急に柔らかいソファに落とされて短く驚きの声をあげる。
「次がつかえてるんだ、早くどけよ。……怪我は無いよな?ほら早く行けっ」
 逆廻は二人に荒っぽく声をかけるが、少し心配気にちらりと様子を伺い、次の客を運ぶために喫茶店へと飛ぶのだった。

 同じく飛び込んで来た嶺は、槍を振り回した後で体勢の崩れていた騎士甲冑に、黒く禍々しいレガースを叩き込みアウルを敵に注ぎ込む。
 嶺のアウルに浸食された騎士甲冑はぐらりとよろめき、天井を仰いだまま動きを止める。
「好き放題暴れやがって、面倒くせえな」
 朱色に輝く髪をかき上げながら面倒そうに愚痴る嶺だったが、素早い動きで着地と同時に飛び退り仲間が自由に動けるように距離を取る。
「うおぉぉ!」
 騎士甲冑が見せたその隙をイアンは見逃さずに、気合と共に剣を力任せに叩き付ける。
 金属同士がぶつかるような激しい音と共に、イアンの剣は火花を散らして甲冑を切り裂いた。
 追い打ちをかけるように尼ヶ辻の放つ水龍のようなアウルが騎士甲冑を襲い、イアンが切り裂いた甲冑の割れ目から肉を食い破る。
「……ふぅ」
 店内を泳ぐように戻ってきたアウルの水龍を、尼ヶ辻は溜息を吐き出しながら取り込む。
 水龍が全身に纏わりつき光を放って消えると、背中にばっくりと開いていた傷が塞がっていく。

 一連の攻撃によろめいた騎士甲冑だったが、槍を頭上に掲げて振り回し始める。
「それは禁止です」
 動きを見切っていたイアンが回転の軸となる腕に盾を叩き付ける。
 腕の動きを制限された騎士甲冑は嫌がるように動きを止めて距離を取る。
 だが、そこには嶺が迫っていた。
 低い姿勢から流れるように回し蹴りを放つ。
 全身のアウルを叩き込むように放たれる蹴りは騎士甲冑の体勢を崩し、再び動きを止める。
 体勢を立て直そうとする騎士甲冑の背に、今度は氷の鞭が叩き付けられる。
「待たせた、片付けるぞ」
 カウンターを乗り越えヴァンサンが戻ってきたのだった。


 店内に残っていた客は天木を残して6人全員を逆廻が運びだした。
「あんまり暴れるんじゃねぇよ、運びにくいんだよっ」
 悪態をつきながらもしっかりと支えて飛び出していく。
 最後の客が脱出したのを確認し、天木は道路へと飛び出そうと走る。
 その姿が注意を引いたのか、騎士甲冑は天木に向かって槍を突き出す。
「っと、危ねぇっ!」
 嶺はとっさに床に手をついて、アウルの壁を出現させる。
 壁は天木の姿を隠すように立ちふさがるが、騎士甲冑の放った衝撃波は壁を打ち破って天木に向かって飛来する。
 一瞬だったがその姿が隠れたのが幸いしたのか、直撃を免れた天木だったが、アウルの無い一般人である天木は衝撃派が掠っただけで足が折れるのを感じた。
「くそぉっ、ついてねぇ!」
 痛みに大声を出しながらも2階からダイブするように飛んだ天木を下で待ち構えていた天草が受け止める。
「もう、大丈夫です」
 痛みを堪えて冷や汗を流す天木を安全な場所へ運んで声をかけた天草は、まだ争いの音が聞こえる喫茶店へと走る。

 天草は荒れ果てた喫茶店へ気配を消して侵入する。
 姿勢を低くして倒れたテーブルや柱の陰に隠れるようにして、その接近を気取られないように騎士甲冑へと近づいていく。
 隠れるものが無くなるまで近づき、敵の隙を伺う天草はヴァンサンと視線をかわす。

 騎士甲冑の放つ槍をイアンが確実に押さえていく。
 どれほど槍をふるってもびくともしないイアンだったが、騎士甲冑は怯むことを知らずに槍を振るい続ける。
 だが、それは他の撃退士達にとっては好機であった。
 拳に闘布を巻いた尼ヶ辻と嶺が上下に打ち分ける攻撃を放ち、距離を取ったヴァンサンが放つアウルの玉が二人を援護する。
 さらに、救助を終えた逆廻が宙を舞いながら飛び込んでくる。
「全員救助完了だ、遠慮なくやるぜ」
 一対の両刃斧を構え、腕にアウルの鎖を巻き付けた逆廻が空中で身を捻ってクルクルと回転しながら、曲線的な攻撃を仕掛ける。
 これまでとは違う角度からの攻撃に、騎士甲冑はよろけるように後ろへ下がる。

「今だっ!」
 ヴァンサンの声に天草は飛び出す。
 その手からは闇を高密度に固めた矢が放たれる。
「先輩っ!」
 天草の攻撃に合わせるようにしてヴァンサンが創り出した氷の鞭がしなる。
 息の合った同時攻撃は騎士甲冑を打ち砕き、ディアボロの体に突き刺さる。
 どぅ、と音を立てて後ろ向きに倒れ、騎士甲冑は動かなくなるのだった。


 荒れ果てた店内でを見回して嶺は溜息をつく。
「こんだけめちゃくちゃになっちまったら片付けるのも大変ろうな」
 めんどくせえ、と呟きながら壊れたテーブルを一か所に集めていく。

 逆廻は助けた撃退士や一般人に応急処置をしながら、その状態を確認する。
 ほとんどは軽傷、怯えているだけで無傷、という状態であったが最初に飛び込んでいた撃退士と天木の怪我は酷いものであった。
「ったく、無茶しやがるぜ」
 文句を言いながらも応急処置を施していく逆廻の後ろから、ぬっと手が出て来て撃退士の傷へアウルを送り込む。
「怪我自体は何とかなりそうだね。命に別状はないようで良かったよ」
 尼ヶ辻は傷が塞がっていくのを確認して、その場を立ち去っていく。
「私は少し疲れたからね、家に戻るよ。やはり外に出るべきではなかった」
 手を振って去っていく尼ヶ辻にイアンが声をかける。
「そんなことはありませんよ、僕らが居たから被害が軽微で済んだのです。外の世界も悪くありませんよ」
 真面目な口調で語るイアンの言葉に、尼ヶ辻はそれでも、と呟く。
「働き過ぎたね。充電期間、というものが必要なんだよ」
 それでは、と尼ヶ辻は去っていく。

「先輩に怪我が無くて良かった……で、デートは残念ですけど……ま、また行きましょうね!」
 天草はこっそりとヴァンサンにささやく。
 ヴァンサンは柔らかく微笑みながら、頷く。
「大丈夫ですよ。明日も明後日も、これからも。私たちにはまだ時間は沢山ありますからね」
 すっと手を差し出して天草の手を握り、壊れたテーブルの散らばる店内をエスコートして出ていくのだった。


 天木は救急車で運ばれながらじっと目を瞑りあの悪魔の言葉を思い出す。
 あの悪魔が見透かしたように残していった言葉、あれは
「俺に言っていた、のか……?」
 目を開いて鈍く痛む脚を見つける。
 傷は塞がったが折れた骨がつながるにはもうしばらく静養が必要だろう。
 撃退士が何度も耐えていた攻撃が掠っただけで壊れた脚と、失うことも覚悟した脚を簡単に治療した撃退士を思う。
「力、か……」
 天木は目を瞑り、じっと思いに沈み込むのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 無気力ナイト・嶺 光太郎(jb8405)
 思い出重ねて・天草 園果(jb9766)
重体: −
面白かった!:7人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
胡蝶の夢・
尼ケ辻 夏藍(jb4509)

卒業 男 陰陽師
無気力ナイト・
嶺 光太郎(jb8405)

大学部4年98組 男 鬼道忍軍
撃退士・
逆廻耀(jb8641)

高等部3年3組 男 ルインズブレイド
思い出重ねて・
天草 園果(jb9766)

大学部2年118組 女 ナイトウォーカー
必死にさしのべた手・
ヴァンサン・D・バルニエール(jb9933)

大学部3年286組 男 アカシックレコーダー:タイプB