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マスター:一条もえる
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/14


みんなの思い出



オープニング

 とある市から、学園に依頼が来た。
 それ自体は特に何も述べることはない。よくあることである。
 しかしどういうわけか、「事件解決に当たる前に、この場所を訪ねるように」と、斡旋所からの付記があった。
「あらあらあらあら、まぁまぁまぁまぁ。天気の悪い中、わざわざごめんなさいね」
 すこし高い声で一行を出迎えたのは、ひとりの老婦人だった。
 撃退士たちが訪ねた老婦人の家は、市の閑静な住宅街……大きな屋敷が多く建ち並ぶ一角の、ひときわ広い敷地を持ったところにあった。4、5年ほど前に亡くなった老婦人のご主人は、何期も市議会議員を務めた後に市長にもなった方だということを思い出し、納得する。
「冷えちゃったでしょう、お飲み物は何がいいかしら。コーヒー? それとも紅茶の方がいいかしら? そうそう、紅茶と言えば、このまえお友達からもらったお茶がとても美味しかったの。私ね、普段はあまり紅茶は飲まないんだけど、『騙されたと思って飲んでみてよ、美味しいんだから!』なんて、ずいぶん熱心に勧めてくれたものだから、せっかくだから飲んでみたの。そしたらとても美味しくて。
 皆さんにもぜひ飲んでみてもらいたいわ。スミさん、スミさーん!」
 今時の一般の住宅にはまず無い応接間のソファに腰を下ろした一行は、受けた依頼内容を改めて思い返してみた。
 目の前のテーブルに、家政婦さん(この人がスミさんだろう)が人数分のカップを置く。出された紅茶からはなるほど、よい香りが立ち上っている。
 事件が起こったのは、市の下水道である。
 市の職員が定期点検を行っていたところ、水路でうごめく巨大な……水面から見えていた部分だけでも2メートルはある……物を発見したのだという。なにやらヘドロのようなもの(下水道の汚れも含まれるかもしれないが)に覆われ、顔かたちまではっきりはしなかったが、落ちくぼんだ1つの眼窩と「おおおおお」とうめき声を上げる口を持っている人型の怪物であった。
 どこかの気まぐれな天使が適当に作ったあげく、放置した野良サーバントではないか、というところに学園の判断は落ち着いている。
 ようは、そのサーバントを撃退すればよいのだが……。
「どう、美味しいでしょう?
 そのお友達のね、田中さんっていうんだけれども、その方がこの間、イギリスに行ってきたんですって。田中さんの息子さんがね、あちらの会社で働いているから、孫に会うついでに観光もしてくるって。だったら私ももらってばかりじゃ申し訳ないから、娘のいるアメリカに行こうかしらって思ったんだけど。ちょうどそのとき、病院で検査を受けないといけなかったものだから。いえいえ、悪い病気とかじゃないのよ? 年を取ると、それなりに定期検査も受けてみた方が安心だから……」
「あ、あの、すいません。それで、どういうご用件で……?」
「あらやだ! ごめんなさいね、主人が亡くなってからは最近はお客さんもあまり見えなくなったものだから、つい賑やかなのが嬉しくて……」
 賑やかなのはあなただ、などとは撃退士は決して口にしない。
「それがね、先日ちょっとした用事で出かけたとき……さっき話した検査のあとでしばらく外出してなかったときだったから、派手かしらとは思ったんだけれど、ちょっとお洒落してペンダントを着けていったのね。
 そうそう、そのとき一緒だった鈴木さん! 凄く大きな宝石を着けてて、びっくりしちゃったわ。とても綺麗な……サファイアって仰ってたわね。だから私が『派手すぎないかしら』なんて、何の心配もいらなかったの。
 あぁ、それで、そのとき身につけていたのが、主人から昔、むかーしに貰ったルビーのペンダントだったんだけれど、帰って洗面所でうがいをしているときに……やっぱり古かったから、くたびれていたのね。チェーンが切れてしまって、排水溝に流れて行っちゃったのよ。
 そんなに値段の高い物じゃないんだけれど、やっぱりそれなりに思い出もあるでしょう? なんとか皆さんに、探してきては貰えないかと思うの。もちろん、お礼はさせてもらうつもりなのよ。困り果てていたときに、たまたま主人が昔お世話になった方で市役所にまだいらっしゃる方がお見えになって。本当にたまたまなのよ、皆さんのことを話してくださったものだから。ぜひ、お願いしたいと思ったの……」
 一行が老婦人の家を出た頃には、すでに日はとっぷりと暮れていた。
「えーと……なんだっけ?」
「美味しい紅茶を見つけ出す……下水道で?」
「いや、たしか田中さんの息子さんを捜索するとかしないとか……」

 撃退士たちがあくびをかみ殺し、ぐるぐると頭や肩を回しながら老婦人の家を後にしていた頃。
 下水道には、汚水をボタリ、ボタリと垂らしながら徘徊するサーバントの呻き声が響いていた。
 水路をゆくサーバントを、2匹の鼠が背後から恐ろしげに見つめている。1匹の視界に黒い、鞭のような物が横切ったと感じた瞬間、「ジィッ!」と小さな叫びを残し、傍らにいた仲間の姿は消えてしまっていた。身を隠す間もなく、もう1匹の姿も細い通路から消え失せ、あとにはサーバントの呻き声と水の音だけが響く。
 落ちくぼんだ眼窩が、緑色に妖しく光る。


リプレイ本文

 マンホールの蓋を上げ、壁面にある梯子を伝って下水道に降りた和泉早記(ja8918)は、
「わぁ……」
 と、小さな歓声を漏らした。それが水路に思いのほか反響したので、慌てて口元を押さえる。
 下水道に入るなど初めての体験だが、さながら地底の大洞窟である。ざぁざぁという水音が響き渡り、光の届かぬところ……異世界に続くかのようにも思える、闇の彼方へと水は流れていく。
「ふむ……こりゃ面倒そうだな」
 市から借り受けた照明を背負った相馬晴日呼(ja9234)は闇に彼方に光を向け、頭を振った。サーバント討伐より、この水路から宝石を見つけ出すことの方が厄介に思える。
「せめて、まことの洞窟ならばよかったがの」
 鼻が曲がりそうじゃ、と白蛇(jb0889)は顔をしかめた。
「まことの洞窟なら、流れる水はさぞかし澄んでおろう」
 仕方のないことかもしれないが、生活排水の流れる下水道は耐え難い、とまではいかないにしても臭気に満たされていた。
「長居すると、身体にまで臭いが染みついちゃいそうだね」
 と、最後の数段を飛ばして着地したソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は辺りを見回した。
「……何してるの?」
 見ると天菱 東希(jb0863)は落ち着かない様子で、周囲をきょろきょろとうかがっている。かと思うと、突然、
「ひぃッ!」
 と悲鳴を上げ……そうになったところを必死の形相でこらえる。
「……地下だもん。水滴ぐらい、落ちてくるよ」
「そ、そうはいっても。ビックリするのはどうしようもないッスよ」
 とか言う間にもまた、彼方で何なら甲高い音がして、ビクッと身を固くする。
「な、なんなんスか、いったい?」
「大丈夫ですよぉ。たぶん……鼠さんの鳴き声です」
 そう言って闇の向こうをうかがった月乃宮 恋音(jb1221)の方が、よほど肝が据わっている。意外にも、と言ったら失礼かもしれないが、こういった場所は思いのほか平気そうだ。
「では、始めましょうか」
 イリン・フーダット(jb2959)は太刀ならぬ熊手を片手に、一行を促す。背には、たも網。身にまとうのは作業着。他の面々も、長靴や腰まで覆う防水着を着用し、おもいおもいの作業道具を持ち込んでいる。
「……これで、宝石を落としたっていうのがあの老婦人の虚言だったりしたら、目も当てられないな」
 市から借り受けた大型の照明を背負いつつ、晴日呼は呟いた。そこまで悪質ではなくとも、たとえば勘違いとか。
「まさか。さすがにそれはないんじゃないッスか。話し好きなだけで……悪い人じゃないと思うッスよ」
「そうだな」
 なんとなく、久方ぶりに祖父母や両親に電話してみたくなった。

「敵は近くにはいそうにないですね。あくまで、少し見た限りの話ですが」
 先頭で地下水路に潜った袋井 雅人(jb1469)が戻ってきた。
「時折見かけるのは、鼠か、なにやら蠢く虫のみよ」
 ヒリュウ『千里眼』を召喚し、先行させた白蛇も、同様のことを言った。東希が「うへぇ」という顔を見せた。しきりに背後を気にしているのは、決して怖じ気づいているのではない。警戒しているのである。
 一行はひとかたまりになって、下水道を進んでいく。一行が潜った入り口からは、下流に向けて進むことになる。老婦人の家からは道が外れているので、よほどのことで水が逆流でもしない限り、このあたりにペンダントはないであろう。一行は多少の注意を払うだけで、どんどん進んでいく。
 そうこうするうちに、別の水路と交差したところにたどり着いた。歩いてきた方から流れてきた水は、一行からみて左手の水路から流れ込む水と合流し、さらに奥へと流れていく。
「このあたりからですねぇ……」
 作業着のチャックを胸の中途半端な高さで止めた恋音が、わずかに身を震わせた。サーバントが目撃された場所は、この先である。怪物と遭遇することを考えると恐ろしいが、怯むわけにはいかない。
 恋音は気を取り直し、真剣な面持ちで闇の彼方を見据えた。
「ルビーが落ちてるかもしれないのも、このあたりからだね」
 左手の水路の方向に、老婦人の家があるはずである。ナイトビジョンをかけたソフィアはそちらをうかがうが、
「あっちは後で、かな」
 と、前に向き直った。サーバントを発見、退治した後に本格的な捜索を行うというのが、一行の定めた方針である。
 左手の水路と合流したところで、通路は何段かの段差が設けられていた。合流し、水量の増えた水路はここから少し、深くなっているようだ。段差を流れ落ちる水の、ざぁざぁという音が響く。
 そこからさらに、歩くことしばし。
 水音の中に奇妙な、うなるような音が反響し、混じり始めた。
「……俺、宝石とかあまり詳しくないんですけど……」
 早記が唐突に口を開く。
「ルビーって、赤かったですよね。緑色なのって、サファイアでしたっけ?」
「紅玉と呼ばれるくらいじゃからの。……敵じゃッ!」
 白蛇が鋭く叫び、一行の間に緊張が走る。
 下水道の向こう、おぉん、おぉん、と呻き声を上げるのは、紛れもないサーバント。全身からぼたぼたと汚水を滴らせながら、下半身は水に浸かったまま、水路をふらふらと徘徊している。
 緑色に鈍く輝くのは奴の目なのか。果たして見ているのかいないのか。中空に虚ろな視線を彷徨わせるかのようだが、「それ」は確かに、撃退士たちの存在を認めたのだった。
「ここからは逃がさぬぞ!」
 白蛇は阻霊符を発動させるとともに、スレイプニル『千里翔翼』を召喚し、背にまたがった。
「が、がんばりますよぉ……!」
「なんて不気味な……」
 恋音が放ったライトニングが空を走り、また早記の放った火球がサーバントの体表で弾けた。
 おおおおおおおッ!
 サーバントが大きくのけぞり、身をよじりつつ怒りの雄叫びをあげる。恨みがましく(恋音にはそのように見えた)こちらを睨むサーバントの姿に首をすくめるが、気持ちを奮い立たせて、次弾を構える。
「おかわりだよ!」
 ソフィアの放った炎もまた、サーバントの体表を焼く。あたりにはヘドロの焼ける、嫌な臭いが溢れかえった。
 怒り狂ったサーバントは腰まで水に浸かっているにしてはずいぶんな速さで撃退士たちの列に迫り、長い腕を振り回して襲いかかってきた。
「下がってください!」
 イリンが一行の前に飛び出し、活性化した盾でその一撃を受け止めた。重い。なんという重い一撃か。
 イリンは歯を食いしばってその腕を押し返すと、火炎放射器で反撃する。
 のたうち回るサーバントはなおも怒りに身を任せ、壁だろうと撃退士だろうと、お構いなしに拳を打ち付けてきた。
 こうなると、通路に一列で並んでいるのはいい的だ。
 早記はためらうことなく汚水の中に飛び込んだ。一行は散開し、敵を取り囲むようにして立ち向かう。

「腕力自慢なんスかね……」
 死角にまわった東希の放った弾丸は、サーバントの肩の辺りで弾けた。傷ついていないはずはなかろうが、なにぶんどこからか身体で、どこからがまとわりついた汚れなのかわからない敵である。
「手応えがないのはやりにくいな」
 二丁拳銃で立て続けに弾丸を撃ち込んだ晴日呼が、口をへの字に曲げた。
「そんなの、焼き払って吹き飛ばせばいいんだよ!」
 そのうち動かなくなる。と、言うソフィアの声に、苦笑いを浮かべる。
「そんなものかな」
 もし万が一、ルビーがこの身体に張り付いたりでもしていたら、厄介だ。……ざっと見た感じでは、その様子はなさそうだが。
 敵の膂力は侮れない。しかしイリンは端正な顔に汗を浮かべつつも、その攻撃を受け止めている。
 その隙に、恋音はサーバントの背後に回り、その背に雷撃を浴びせるべく身構えた。
 この一撃が命中すれば!
 しかし、そのときだ。
 水面が不自然に波立ったかと思うと、恋音の視界の端をなにやら黒いものが襲った。
「きゃッ!」
 それはさながら鞭のようにしなり、彼女の腹を打つ。何が起こったのか分からなかった。サーバントの緑の目はこちらを見ておらず、太い腕は壁をむなしく殴りつけていたというのに。
 はじき飛ばされた身体は水路に落ち、意識がもうろうとする中で、かろうじて手に力を込めて通路にしがみつき溺死を免れる。
 そこに再び、恐るべき鞭が襲う。
 そこにイリンが、体勢が崩れることなど厭わずに飛び込み、身代わりとなった。
「くッ……」
 下水道の壁に叩き付けられ、肩の骨がきしむ。
 なおも、触手は彼らを襲う。
「やらせないッ!」
 突如、サーバントの周りで旋風が巻き起こる。ソフィアだ。サーバントはその風にあおられ、触手は狙いを外す。
 その間にイリンは恋音を抱き起こし、後ろに下がらせた。
「なるほど、奥の手はそれであったか。……いや、わしらが油断しすぎたのかもしれんな」
 水面を警戒しつつ、召喚中の背にまたがった白蛇は額の汗をぬぐった。
 一見して人型のように思えたサーバントの下半身は、無数の触手をもつ蛸のような姿をしていたのである。サーバントは足を水につけて歩き回っていたのではなく、たゆたっていたのだ。
 その姿が露呈したから、というわけでもあるまいが。立ち直ったサーバントは今度はその触手をもたげ、襲いかかってくる。
「『千里翔翼』、やるぞ!」
 召喚獣が宙を駆け、サーバントの横腹に、叩き付けるような一撃を打ち込む。
 雄叫びを上げるサーバントの前に立ちはだかり、主従は挑発するように鼻を鳴らす。
 負けてはいられない。敵の注意が白蛇とその召喚獣に向いた瞬間を狙って、晴日呼が銃弾をたたき込んだ。
「やっちゃえやっちゃえ、その調子!」
 ソフィアの放つ炎に炙られ、サーバントは苦悶の叫びをあげる。
「ほら、ヘドロがきれいに剥がれてきたよ」
 タネがわかってしまえばというわけではないが、それと分かっていれば歴戦の撃退士のこと、対処することも可能である。
 交戦することしばし、サーバントの巨体はついに、大きな水音を立てて下水道に倒れ伏した。

「……引っかかったりはしてないみたいだなぁ」
 ペンライトを口にくわえ、手元を照らしながらサーバントの身体をまさぐっていた晴日呼が呟いた。
「やはり、どこかに落ちてるんですねぇ……」
 恋音も幸い、大きな傷を負わずには済んだ。ズキズキと痛みはするし、少し頭もふらふらするが、行動できぬほどではない。
「流れてしまわないように、網を張っておきましょぉ」
 そう言って水路に網を張り渡し、一行はもと来た水路をさかのぼっていく。
 全員が腰まで水に浸かり、真剣なまなざしで水底を睨む。しかし、すくい上げられるのは汚らしい泥ばかりだ。
「秘境探検の、予行演習みたいなものと思えば……」
 そう言って、早記が力なく笑った。
 左足の辺りだけが生暖かい。「あぁ、あそこの配管から流れてきている風呂の残り湯のせいかなぁ」と、納得する。風呂の残り湯が流れ込むとは、秘境の風情にはなんとほど遠いことか。
 一行はどんどん水路をさかのぼり、件の分かれ道まで戻ってきた。
 ここからは、手分けして捜索をすることにした。
「……ちょっと、水増えてきてませんか」
 底の泥を通路によけた早記が、辺りを見渡して言った。別れてから、さほど時間も経たない頃である。
 言われてみれば確かに、先刻よりも水の量は増し、脛ほどの深さになりつつある。
「そろそろ避難した方が良いかもしれませんね」
 そのことに気づいたのは、他方を捜索していたイリンも同様であった。
 戦っている間に、思いのほか時間が経過してしまっていたようだ。
 まだそれぞれの区間の探索は十分ではない。が、これ以上はいかに撃退士といえども危険ではある。一行は入ってきたところとは別の入り口まで向かうと、そこから地上に戻ってきた。
「上手く引っかかってくれてるといいッスけど」
 と、東希は黒い雨雲を仰いだ。

 雨が降り続いている間に出来ることはない。一行は全身の汚れを落とし、着替えを済ませて雨が止むのを待った。水かさが元に戻るのは、明朝になってしまうかもしれない。
 恋音は老婦人の家に現状の報告に向かい、
「あれはさすがに……ね」
 と、苦笑いしつつ遠慮したソフィアは市の方へ足を向けた。
 さて、件のペンダントは。
 その現場を確認した者は誰もいないが。ペンダントは増水した水に押し流されて下流へと流れていった。増水した水の勢いにはひとたまりもなかったのだ。
 それでも、一行が設置した網には目論見通りにかかったのだ。間違いなく。
 しかし。
 夕刻、一行の携帯に市から連絡があった。下水道が異常に増水しているとのことだった。
 ペンダントほどの小さな物を絡め取ろうという網である。その目の細かさは、下水道に流れる様々な物……それこそヘドロや藻のたぐい……までも絡め取ってしまっていた。
 あッという間に目は詰まり、水の流れを妨げたのである。
 顔色を変えた一行だが、もはや打つ手はない。祈るように朝を待つ間に、網は水の圧力に耐えきれず、翌朝にはどこか下流にまで流れていってしまった……。
 悄然とした面持ちで老婦人宅を訪れた一行に、老人はにこやかな笑顔を向けた。
「いえいえ、こちらこそ面倒なことを頼んでごめんなさいね。いいのよ、なにせ長い間タンスの中にしまってて、『そう言えばあんなのもってたっけ』なんて、久しぶりに思い出したくらいの物だったんだから。
 それよりも町の皆さんに危険が迫らなくて、その方がよっぽど大事なのよ。皆さん、よく頑張ってくださったわ。
 お疲れでしょう? 疲れたときには甘い物が一番なのよ。スミさんね、とてもお菓子を作るのが上手なの。最近は私、甘い物をお医者様に控えるように言われてるから、あまり腕を振るってもらう機会もなかったんだけど。皆さんがいるなら、スミさんもやりがいがあるわ……」
 増水の危険もあるということで、市としては退治は雨が止んでから。しばらく時間がかかるだろうという見通しだったようだ。
「えぇ? もう退治してくださったんですか?」
 職員はその前に片を付けてしまった撃退士たちのすばやい行動に賛辞を送り、なんとたまたま居合わせた市長まで1人1人の手を取って喜んでくれ、一行としては悪い気はしなかった。
 だが、その気分も吹っ飛んだ。
 老婦人は「こんなに大勢でお菓子を食べるなんて久しぶり」と、陽気に笑って勧めてくれたが……それでもやはり、その横顔には寂しさが浮かんでいるように見えたのである。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
撃退士・
和泉早記(ja8918)

大学部2年49組 男 ダアト
子猫の瞳・
相馬 晴日呼(ja9234)

大学部7年163組 男 インフィルトレイター
強さを知る者・
天菱 東希(jb0863)

大学部1年55組 男 ナイトウォーカー
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
守護天使・
イリン・フーダット(jb2959)

卒業 男 ディバインナイト