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マスター:一条もえる
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/28


みんなの思い出



オープニング

 風のない、穏やかな朝だ。
 海岸沿いの道を通勤途中の車が走り、それに平行して通っている鉄道の線路には、雀がとまっていた。
 突如。
 雀たちがなにかを察知したのか、一斉に飛び立つ。
 線路の一方は海、もう一方は山だ。山の木々の向こうから、「なにか」がぬぅッと巨体を現した。にもかかわらず、木々はそよとも揺れない。
 ディアボロだ。木々をなぎ倒すでもなく現れただけに、かえって辺りの日常の風景との対比が異様であった。
 まるで達磨だ。ただし、表面は肉を固め損ねたかのようにぶにょぶにょと、あるいはどろどろとした黒いもので覆われていたし、顔に当たる部分には、ぽっかりと穴が開いているだけだった。
 体の下では肉塊がうねうねと蠢き、その蠕動で前へ進んでいた。
 腕がないのかと思えば、そうではなかった。
 道ばたに建つ倉庫から、巨大な手のひらが生えてきた。違う。ディアボロの手が倉庫をすり抜けて出てきたのだ。それも、体とはまったく違う方向から。二の腕に当たるところが長く長く伸び、それを自在に動かしていたのだ。
 近くにいた車は慌てて方向を変え、戻ってきた道を帰っていく。
 ディアボロはそれを追うわけでもなく、ただその場にたたずんでいた。


 久遠ヶ原学園なんていうところにいると、はっきり言って他人事なのだが。
 世間は受験シーズンまっただ中である。
「うちの従兄、受験なんですよー。一浪しちゃってて、今年は特に大変そう!」
 などと、学園生徒にとっては取るに足らない、お気楽な時候のひとネタでしかないが。
 受験生は、大変なのである!
「あああ、大丈夫かな……いや、大丈夫。やることはやった、荷物もチェック済み、体調も……あーあー、えへんえへん。よし、喉の痛みもなし……!」
 件の従兄、マナブはせわしげに机の周りを片付けると、布団をかぶって天井を見上げた。
 いよいよ国立大学入試だ。
 一浪してしまった身としては、これ以上の親への負担は避けたい。私大も、ましてやこれ以上の浪人生活などあってはならない。なにより、願ってやまない第一志望ではないか。
 こう言ってはなんだが、マナブの成績は良かった。
 町の小中学校では、常にトップだった。小さな町だ、それだけなら井の中の蛙だが、県庁所在地の進学校に進んでからも学内トップクラス。全国模試だって、なかなかの順位をキープしていた。先生からは、地元の大学ではなくもっと上の大学を狙ってはどうかと勧められていた。
 しかし、希望する学科や学費のことを考えて地元某県の国立大学に決めたのだ。
 ところが、まさかまさかの不合格。報告したときの、学校の驚きといったら。
 このマナブ、実に不運というか本番に弱いというか。
 昨年のセンター試験はインフルエンザ。ショックのせいか、その後も体調が万全に戻らないまま追試の日を迎えた。結果は言うまでもなく。
 雪辱を期した今年のセンター試験でも、腹を下して途中離席を繰り返す始末。
 もう後がない! かろうじて合格圏ギリギリに踏みとどまれたマナブには、この二次試験で高得点をたたき出すしかないのだ。
 たたき出すしかないというのに。
「寝過ごしたーッ! 目覚ましは? なんで2時? うわぁ〜、時計が遅れてる〜ッ!」
 普段が普段だけに、マナブは慎重に慎重を期している。うっかり止めてしまったときのため、携帯電話のアラームだってセットしていた。
 ところがその備えも、充電していたつもりが接触が悪かったとみえ、夜中の間に電池切れを起こしていた。
「だだだ、大丈夫! こここ、こんな事もあろうかと、乗る電車は1本早くのに決めてたから!」
 焦る気持ちを抑えて荷物を引っ掴み、駅に向かう。
 マナブが住むのは、県庁所在地までは小一時間ほどの、海沿いの小さな町。海から山へのわずかに開けた土地に家々がひしめき合うようなところで、県庁所在地に行くには海岸沿いを走る国道か、それに併走している鉄道しかない。
 少し高台にある、海がよく見える駅。天気は快晴。波は穏やか。
「よーしよし、まるで俺に声援を送ってくれているようだぜ!」
 さっきまでの焦った気持ちが穏やかになってくる。駅の自販機で甘いコーヒーを買い、白い息を吐く。
 10分ほど待つと、上り線に電車が滑り込んできた。この電車に乗って終点まで。そこから路面電車を使って、会場となる大学まで。
 何度も繰り返したルートだから、所要時間もじゅうぶんに把握している。たとえ1本遅くしたこの電車でも、試験開始の1時間前には到着できるはずだ。
 大丈夫、大丈夫。マナブは自分に言い聞かせ、おもむろに単語帳を開いた。
 ところが。
 発車してまもなく。隣町に行くには海岸沿いの道からひとつ峠を越えないといけないが、まだそこにもたどり着いていないくらいのところで、電車は止まってしまったではないか。
『――ただいま、進行方向に天魔出現の報告を受けたため、列車は緊急停止しております。
 こちらに向かっている様子はありませんが、線路の安全が確認されるまでしばらくお待ちください』
 という、車内アナウンス。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! しばらくって、何分だ? おい!」
 たとえ代替のバスが来てくれたところで、県庁所在地に行くには線路と隣り合わせになった国道しかないのだ。当然、天魔が出現したすぐそばになる。通れるはずがない。
 つまり……天魔がいる限り、試験会場にはたどり着けない。
「俺は、俺は試験会場に行かなくちゃいけないんだーッ!」


リプレイ本文

 県庁所在地に降り立った撃退士たちはすぐに車に乗り移り、現地へと向かう。
 天気は良く、日差しも暖かい。通学通勤の人々もさぞかしさわやかな気持ちで家を出て行けるだろうと思うほどの、春の陽気を感じる朝だ。
「天魔の出現さえなければね」
 藤井 雪彦(jb4731)は車内で携帯電話を手にして、なにやら調べている。
 横合いからのぞき込んだ黒百合(ja0422)が、
「あらァ……電車、止まってるのね」
 と呟いた。車窓から外をのぞくが、国道のそばに線路は見えない。もう少し先を急がなくてはならないようだ。
「無理もないのである。民間人が巻き込まれたら、一大事なのだからして」
 撃退士には奇妙な風体の者も多いが、懲罰する者(jc0864)はその最たるひとりであろう。なにしろ、全身をすっぽりと白い布で包んでいるのだから。もごもごと動いているのは、うむうむと頷いているんだかいないんだか。
「8時24分県庁所在地駅着、止まってる上り列車ってこれだろうね」
 と、雪彦。
 県庁所在地から県南部に向かう鉄道は、途中で海岸沿いを通る路線と内陸を走る路線とに分かれる。本来、本線は海岸沿いの路線だったのだが、いま現在は内陸の路線に特急列車が通るようになっている。
 そのため事件現場となっている海岸沿いの路線は各駅停車のみの、まさしく田舎の鉄道そのもの。
 うへ、という表情を浮かべたのはラファル A ユーティライネン(jb4620)。
「1時間に1本とか。乗り遅れたら大惨事じゃねーか、それ」
 傷が癒えないまま参戦となった彼女は、車のシートに深く座って体を預けたまま顔をしかめた。
「それほど客は乗っていなさそうだけどね」
 と、アサニエル(jb5431)。すぐそばを国道が通っているし、こんな路線を利用するのは、免許を持っていない学生くらいのものだろう。
「問題はその、学生さんなのでしょう? その電車に乗っておられるのでは?」
 ユウ(jb5639)が助手席から振り返る。
「だと思うよ。すれ違ったときに聞いただけだけど……聞いちゃったからにはなぁ〜」
 一人だけが特別なのではない。特別なのではないが。
 雪彦は苦笑いし、肩をすくめた。
 隣に座るラファルは、
「別に受験生とかは、どうでもいいけど」
 と、素知らぬ顔をする。傷が痛むせいかどうかわからない。
「長いこと電車止めてたら、鉄道会社も商売あがったりだからね。さっさと片付けるにこしたことはないよ。そう思うだろ?」
「まぁね。さっさと片付けてやるかぁ!」
 そう言って、ラファルは笑う。
 と、そのとき。ハンドルを握っていたミハイル・エッカート(jb0544)が、左手の中指でサングラスを持ち上げながら振り返った。
「そろそろおしゃべりは終わりにしよう……現場だ」
 いつしか車は県庁所在地のベッドタウンを離れ、ちょっとした峠にさしかかっていた。
「よし。試してみたい新技もありますからね。
 日本の鉄道の、分刻みの運行スケジュールを阻害するなどという非道なディアボロには、その実験台になってもらいましょう」
 口調こそ穏やかながら、戦意旺盛なエイルズレトラ マステリオ(ja2224)。その証拠に、先陣を切って車から飛び降りた。体をほぐすように構えを取る。
「さて……ディアボロはどこにいるかな」
 銃を手に、ミハイルは辺りを見渡した。


 車から降りて、わずか数分。
 韋駄天のごとく走った雪彦は、まばらに生えた木々の陰にたたずむそれを発見した。同じく、召喚した鳳凰が上空から「ピーィ!」と警戒を促すような鳴き声を発する。
「うん、気づいてるよ! みんな!」
「あぁ、捉えたぞ」
 ミハイルは狙撃銃を構えてディアボロに狙いを定めると、引き金を引いた。
 銃弾はディアボロの体表で弾け、グズグズと不快な音をあげて肉が泡立つ。
「もともと酷い見た目が、いっそう酷くなったな。気分が悪くなるほどだ」
「さすが、素早いのである」
 懲罰する者の白い布が揺れたのは、感嘆の頷きだったのだろう。
「大いに見習わねばならないところだが、我が輩も参戦した以上は、後れを取るつもりはないのである」
 言うや、掌中に『炸裂符』を生み出して放つ。それも命中。
「……深手には遠いのである」
「いや、いいよ。この調子だ!」
 いちばんに発見した者が後れを取るわけにはいかない。
「急ぐんだ! さっさと消えてもらうよ!」
 雪彦はディアボロを見据えて両の手のひらを突き出すと、鋭い風の刃を無数に放った。
 それはディアボロの体表を傷つけ、ぶにょぶにょとした肉塊のようなものがちぎれ、飛び散る。
 ディアボロが感情のよめない、うつろな顔を撃退士たちに向ける。
「なんです、やる気ですか?」
 エイルズレトラは意にも介せず、
「どーん!」
 と、渾身の力で掌を打ち付けた。
 大地を踏みしめ、アウルの力が込められた一撃だ。3メートルを超す巨体にもかかわらず、ディアボロの体が一瞬宙に浮き、大きく後退する。
「おぉ。阿修羅の技、なかなかおもしろいですねぇ♪」
 と、手応えを感じて手のひらを見つめる。
 油断したつもりはないが、その手応えを確かめた瞬間が、わずかな隙を生んだのか。
「跳びなッ!」
 アサニエルの声に、反射的にディアボロの方を見る。しかしディアボロに、改まって危険な挙動は見られない。
 それでも視界の端に何かを感じて、大きく跳び下がる。
 体術に自信のあるエイルズレトラだからこそ、致命傷を避け得たのだ。
 アサニエルの目に映ったのは、傍らの小屋から突き出た、巨大な腕だった。
 粗壁をすり抜けて飛び出たそれは、大きく手を広げてエイルズレトラを握りつぶそうとでもするかのように、迫る。
 指先がわずかにかすっただけで、エイルズレトラの小さな体は吹き飛ばされ、宙を舞った。
「大丈夫かい? こんなところで寝ていると、電車に轢かれるよ」
 アサニエルが飛び、その腕をつかむ。痛みはするが、骨などに致命的な打撃は受けずに済んだようだ。
 エイルズレトラは苦笑いしつつ、
「轢かれるくらいなら、路線は復旧したんでしょう。万々歳じゃないですか」
 などと言い返しながら、アサニエルに傷を治してもらって戦列に復帰する。
「やっかいだね」
 アサニエルが舌打ちする。
 射程が長いのも、そうだ。後方から支援する形になる撃退士まで、攻撃に晒される。
 それに加え、敵の本体は線路脇の斜面に鎮座しているが、その斜面や周囲に立つ小屋などの死角から腕が伸びてくるのだから。
「阻霊符で動きを遮るかい?」
「いや……それはまずい」
 と、反対したのはミハイル。
「ディアボロが線路に近い。架線もある。透過能力を発揮しているぶん、かえって周辺への被害が少なく済んでいるんだろう」
 辺りを見渡して言うと、
「そうだな、いったん線路から引きはがそう。それなら、多少の被害が出てもなんとかなる」
 逆に線路や架線が損傷した場合、列車が通過できるようになるまでには相当かかるだろう。今日中でも無理かもしれない。
「了解。あっちの道路か、いっそ海の方まで転がしてやればいいんだね?」
 ラファルがそう言って、腕まくりするような仕草を見せた。


 一日千秋というが、今のマナブにとっては1分が1000年のように感じる。
 まだかまだかと思わず貧乏揺すりをしていると、車内にアナウンスが始まった。
『――撃退士8名がすでに現場に到着し、天魔と交戦中です。もうまもなく、安全が確保され次第、この列車は発車いたします。
 なお、遅延証明書が必要な方は――』
「わぁ、やった!」
 たとえ遅刻が許されたとしても、別室で受けるプレッシャーにマナブが耐えられるかどうか。しかし少なくとも、撃退士の到着を聞いて少しは楽観できるようになったのは確かである。
 単なる車内のアナウンスで撃退士の戦いまで説明する必要は無いのだが、それはミハイルが事前に、乗客に知らせるようにと申し入れていたからだった。
 その撃退士たちが、ディアボロを線路から追い払おうと奮闘している。
「ずいずいずっころばしごまみそずい、と♪ そこをどいてもらうよダルマ野郎!」
「あまり無理はしないでよ、ラファルちゃん」
「誰に向かって言ってんの!」
 雪彦に言い返したラファルだが、痛みで動きが鈍いのも事実。気遣いはありがたく受け取り、迂闊に飛び込むような真似はせず距離を置いて、なんと口腔からビームを放つ。
 ユウは翼を広げ、飛翔するのではなく、地を蹴って低く低く跳躍する。そうしてディアボロの脇に迫る。
「あちらですね!」
「よぉし、もう1回どーん!」
 と、エイルズレトラとも一緒になって、体ごとぶつかるようにしてディアボロに一撃を加える。
 渾身の、アウルの力が込められた一撃は、撃退士たちの倍ほどの体高を持つディアボロの巨躯さえ持ち上げた。ディアボロは無様に、転がるようにして線路から落ちていく。
「我が輩も続くのである」
 懲罰する者は仲間達に負けじと、線路から道路に飛び降りてディアボロを追撃する。
 手にした符が放たれると、ディアボロの腹の辺りで爆ぜた。それに満足せず、懲罰する者はなおもディアボロに迫る。
 ディアボロはぽっかりと空いた頭部から何かを吐き出した。
「まずいッ!」
 雪彦が飛び出す。
 それは音でもあり衝撃でもあり、また懲罰する者をすっぽりと覆う白い布が揺らぎ、またいくらか裂けたところを見ると何らかの飛沫でもあったようだ。それが懲罰する者と雪彦とを襲った。
 雪彦が飛び出したのは、その狙いの先に、歩行者用の踏切があったからである。
「ここまできて線路が通れませんじゃ、来た甲斐がないからね」
 盾を眼前に構えて顔への直撃は避けたものの、礫でも浴びたかのように全身と、そして鼓膜とが痛む。
「あの娘のため以外にこれだけ体を張るなんてないんだから。結果出してくれないと割に合わないなぁ」
「ぬぬ。不覚であるが、まだまだ戦えるのである」
「無理するんじゃないよ」
 呆れたように言ったアサニエルは注意を引きつけるべく、上空から炎を放ち、ディアボロの顔面へと命中させた。
「ちょっと焼き加減がレアすぎるかい? もっとウェルダンの方がお好み?」
「私も、負けていられないわねェ」
 などと、どこまで本気なのか知らないが黒百合は対抗意識を見せ、ディアボロに肉薄する。
 ディアボロは少女を絡め取らんと、巨大な腕を右から、そして下から伸ばしてくる。
 握りつぶせてしまいそうなほどに巨大な掌が、黒百合を襲う。
「ぺちゃんこになるのはごめんだわァ」
 などと軽口を叩くが、見かけほど余裕はない。
「だったらあえて、懐に飛び込むのはどうかしらァ!」
 下駄がカツンと鳴り、黒百合は一気に距離を詰めた。
 長く長く伸びた腕はぐるぐるに巻かれたロープのように黒百合の周りを囲い、自身が絡み合い邪魔になって、攻撃することなどできまい。
 ニィ、と可憐な少女には似つかわしくない凄絶な笑みを浮かべると、白い爪を、ディアボロの腹に突き立てた。腕が下に降りていくと、爪がどろどろの肉をそぎ落としていく。
 さらには大きく口を開き、長く伸びた犬歯をディアボロに。
 突如、腕が一気に縮んだ。
 巻き取られるように体に張り付いた部分もあり、幾重にも束になったところではぐねぐねと形を変えていつしか1本となり、掌は瞬く間に懐に戻って黒百合を捕らえた!
「攻撃できない……なんてことはなかったんですねェ」
 仲間達もひやりとしたが、黒百合は無事だった。
 巨大な掌によってつぶされたのは、彼女の上着だけだ。
 しかしそれにしても、妙である。先ほど黒百合は痛打を与えたつもりだったのだが。
 考え込んでいる場合ではない、またしても腕が迫る。
「目障りだ、さっさとくたばれ!」
 ミハイルはその掌に向かって、銃弾を放った。
 銃撃を受けたディアボロが身をよじり、ぶるぶると腕を振るわせた。
 ふと、思い至ることがある。
「ラファル、この鬱陶しい腕に食らわせてやれ。あるいは、こちらが本体かもしれないぜ」
「なるほどね」
 頷いたラファルが逆の手に雷撃を命中させると、なるほどディアボロは大きくのけぞった。
 黒百合の一撃がさしたる効果を得られなかったのも、あるいはそれが『急所』に命中していなかったせいではなかろうか。
「わかりました。狙いは外しません!」
「ユウさん、こっちは抑えておくよ」
 エイルズレトラは狙いを腕に定め、アウルで生み出したカードを命中させた。
 絡め取られた腕を、上空から舞い降りたユウが切り裂く。漆黒の魔剣でもって、ディアボロの肉体を常闇で覆うかのように斬る。
「先輩方の前で僭越ではあるが、首級は我が輩がいただくのである」
 とどめを刺そうとした懲罰する者であったが。
 隼の姿を模したアウルの塊が雷電のごとき光を放ち、ディアボロに襲いかかったではないか。
「悪いな。銃が、こいつを餌にしたいって言うもんでね」
 ミハイルは銃を手に、片頬を持ち上げた。


『――長らくお待たせしました。まもなく発車します。次に停まります駅は――』
 討伐に成功した撃退士たちは、危険が及ばない程度に近くに待機させていた作業員を急ぎ呼び寄せ、点検作業をしてもらった。
 撃退士たちの配慮もあり、目立った損傷箇所はなし。まもなく、止まっていた電車が動き出す。
「は〜ぁ、一時はどうなることかと思ったぜ」
 大きく息を吐いたマナブは、次の駅に着いて顔を上げた目の前に、異様な風体の男女がいて面食らった。
 口元や手元が薄汚い血のようなもので汚れているが、よく見てみると可憐な少女だ。
「あらぁ、あなたが受験だっていう学生さんかしら」
「え、えぇ。はい」
「そう。ちょっと面倒なことになったけど、焦らないで頑張りなさいねぇ。運不運はあっても、やってきた努力に嘘はないんだからぁ♪」
「そうなのである」
 と、顔を出したのはさらに異様な風体の男(?)。白い布がもぞもぞと動く。
「運とはやっかいなものである。悪いときはとことん悪い」
 だが今回、不運であってもそれを振り払えたのである。これを、流れを変える端緒としようではないか」
「遅れたとはいっても、試験開始時刻に間に合わないって事はなさそうだから。まぁ、頑張りなよ」
 と、今度は金髪の少女がマナブの胸元を叩く。
 どうやら彼らが、天魔を倒してくれた撃退士のようだ。
『――ドア、閉まります』
「ありがとう! 俺、頑張るから! ありがとう〜!」
 電車の最後尾(といっても2両編成だが)から手を振るマナブに、ユウも小さく手を振って返した。
「……間に合いそうで、よかった。うまくいくといいですね」
「合格したら……そうだね、花束贈らないといけないなぁ」
「気が早いですよ、雪彦さん」
「そうかな? でも、すぐなんじゃないかなぁ」
 きっと大丈夫。
 撃退士たちは電車が大きくカーブを曲がって見えなくなるまで、その姿を見送っていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
重体: −
面白かった!:2人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
我輩はお化けではない・
懲罰する者(jc0864)

高等部3年21組 男 陰陽師