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マスター:一条もえる
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/20


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 紀元前7世紀。
 文王・武王によって開かれた周王朝が中華を総覧する力を失い、諸侯が相争っていた、いわゆる春秋時代。
 と。そんなことは撃退士たちにとって、世界史の授業を受けているときくらいしか関係のないこと……のはずなのだが、なにせ夢だから。


「時、きたれり!」
 放っていた偵人からの報告を受けたその男は、それを聞くや大声を上げた。
 腹の底から放った大声に、家人たちが驚いて仕事の手を休めたほどである。
 男の名は鮑叔牙(ほう・しゅくが)。
 鮑叔牙は聞くが早いか、自邸を飛び出して主君の元へと奔った。従者が馬車の支度をする間ももどかしく。
「我が君!」
 鮑叔牙は情熱家である。興奮で顔を上気させて室内に駆け込むと、その主に拝礼した。
 報告を聞いた主君はしばし放心したようにわずかに頭を振ったが、すぐに鮑叔牙の情熱に染められたように、自らも頬を紅潮させた。
「死んだのか……!」
 彼の主君の名は小白(しょうはく)。斉(せい)という国の公子である。公子とは、諸侯の子のことだ。
 小白の父はすでに亡くなり、異母兄がすでに斉公の位についていた。
 それは少しもおかしいことではない。ただ、それならば小白は公族として田土を賜り、場合によっては参政し、安穏とした暮らしをしているはずであった。
 ところが、彼の兄は酷薄な人物であった。あるいは、愛情に大きな偏りを持つ人物であった。
 小白は遠ざけられた。
 さらなる危険を感じた鮑叔牙は進言し、この主従は他国へと亡命した。亡命によって身の危険からは脱したものの、主従はこの小国において歓迎されたとは言えず、亡命生活は厳しいものとなっていた。
 だが鮑叔牙が「必ず斉は乱れる」と予見したように、事態は混迷を極めたのである。
 まず異母兄が、その従弟に殺された。それは従弟の待遇を悪くしたことに端を発し、従弟は異母兄を恨む配下と結託して乱を起こしたのである。
 ところが、即位した従弟というのも、先代の斉公に愛されていたのをいいことに、奢侈を当たり前のように思っていた人物であったので、国内を納得させることは出来なかった。
 故に、国人によって殺された。
 すなわち、斉の国には君主がいなくなったのである。
「長くのご辛抱でした。今こそ、帰国なさる好機です!」
 なんとしても小白を斉公の位につけたい、という思いが鮑叔牙にはある。
「よし。一刻も早く、斉に戻るぞ!」
 小白の声に家臣たちはワッと行動を始め、散らばった。
「そのとおりです。躊躇っているゆとりはありません」
 鮑叔牙が表情を引き締めると、小白も熱に浮かされたような面持ちを改め、頷いた。
「公子・糾(きゅう)がいる」
「そのとおりです。なにより、その下には管夷吾(かん・いご)がおります……!」


 中等部3年、塩谷麻里奈(しおのや・まりな)は図書委員である。
 が、今の彼女は公子・糾の腹心である管夷吾、こと塩谷麻里奈なのである。なにせ夢のことだから。
 この主従もまた難を逃れ、こちらは斉の隣国である魯(ろ)に亡命していた。
「我が君我が君! やっぱり、予想通りでしたよ!」
 こちらも情報を掴んでおり、麻里奈はスカートの裾を翻しながら糾のもとに駆けつけた。どういうワケか、彼女は学園の制服のままである。なにせ夢のことであるので、気にしてもしかたがない。
 こちらも急ぎ帰国の準備を整えた。
 ただ小白と違うのは、こちらは魯の後援を取り付けたことである。
 すなわち、魯は帰国する糾のために軍勢を出してくれることになった。
「これならば、即位に反対する者がいても手の出しようもない。軍が整うのを待ち、堂々と入国すればよい」
 そう言う家臣もいたが、麻里奈は納得しなかった。
「そうかな……。鮑叔牙のことだから、もう行動を起こしているかも」
 しばし思案した麻里奈は、配下を呼び寄せて耳打ちした。
 先に入国されては、困る。


「この数日が、運命の岐路です」
 そう言って、鮑叔牙は小白を促した。
 少しでも早く斉に入国するためには、間道を進むことが適当と考えられた。
 険しい山と隘路を進まねばならないが、それさえ乗り越えれば距離はずいぶんと近い。長い坂道をひたすら登り続け、前方にそびえ立つ崖を見たら右に曲がるとよい。山をくだれば、そこは斉の国だ。
 大人数が移動するには厳しい道だが、不幸中の幸い、他国の支援を受けられぬ小白はその従者が従うのみである。かえって都合がよいとも言えた。
 国人への根回しも、すでに行っている。
 国政を預かるふたりの大臣は、このたびの内乱を「公室の私闘」と見なして、旗幟を明らかにしなかった。異母兄も従弟も、薄徳の君主だったせいもあろう。
 しかしながら、鮑叔牙は彼らの支持をうまく取り付けることができた。いまは表立ってではないが、帰国しさえすれば、彼らは小白を後援してくれるはずである。
 十分に手は打った。しかし、恐るべきは知謀の士・麻里奈の出方なのである。


リプレイ本文

 忙しく駆け回る従者たちのなかで、城里 万里(jb6411)だけが取り残されてぼんやりとしていた。
「万里は、久遠ヶ原学園中等部3年、苦手な教科は英語……夢ですね、これは」
 周りの者は(万里から見たら)薄汚れた、見慣れない衣服を身につけている。これが夢でなくて何であろう。
「ぎゅ〜っと頬をつねってみて……痛くないですの」
「俺は痛いぞ妹よ! つねるんなら、自分の頬をつねってみろ!」
「嫌ですの。痛いですから。お兄さまが、可愛い妹の代わりに」
「嫌だ」
 駆け寄った兄・城里 千里(jb6410)の頬を遠慮会釈なくつねっていた万里は、残念、と肩をすくめた。
「まぁいい。それどころじゃない。準備はいいか、出発するぞ」
「いつになく溌剌としてますね。お兄様らしくもない。……夢ならもっと、おいしいご飯が食べられるようなのがいいのに」
「あはは、それは小白様が斉公に即位するまでの我慢だね!」
 雪室 チルル(ja0220)は笑って、小白が乗る兵車に飛び乗った。
「我が君、体躯は小さいですが、ひとかどの武人です。必ず君をお護りするでしょう」
 そう言ってチルルを推挙したのはリチャード エドワーズ(ja0951)で、チルルが兵車の右……すなわち護衛の武士となり、リチャードが手綱を手に御を務める。
「ご褒美があれば、やる気も出ますけど」
「腕試しのチャンスだよ?」
「いえ、それはちょっと」
 そんなやりとりをよそに、リチャードに、千里は声をかけた。
「塩谷麻里奈のことですか」
 リチャードの顔に、色合いの違う苦悩が見えたからである。心底をのぞかれたリチャードは苦笑し、
「君に対して忠を尽くすのはもちろんだが、友に対しても義を果たしたい」
 と、前を向いた。
 両公子の動きは、斉都にも届いていた。
「公子・糾が、魯軍とともにこちらに向かっているようです」
 佐倉井 けいと(ja0540)はあえて、そう言ってみた。彼女が仕えている大臣……高氏が、内心では小白を支持していることは知っている。
 高氏は頷いたものの、それ以上は応えなかった。
「姑息と言えば、そうあるね。両方を天秤にかけるなんて」
 沈思する高氏のもとを退いたけいとに、屋敷の庭を眺めていた天藍(ja7383)が微笑んだ。
「それも仕方がない。両者ともに、即位する根拠はある」
 もっと言うならば、高氏を尊重する意向が両者にある限り、どちらが斉公となっても大差ない。
「一方を拒絶する理由もない、ということか」
「そういうこと」
 唐突に発言したフランクス・スマートリー(jb2737)に、けいとは頷く。
「少なくとも、表だっては動かないだろう。汚名をかぶるだけだから」
「だったらせいぜい、公子・小白が即位する地ならしでもするあるかね」
 よっこいしょ、と天藍は立ち上がって、わざとらしく肩を叩く。
「……魯軍の動きを探ってこよう。高氏に許しをもらってくる」
「任せたある」
「あぁ。やるだけやろう。……どれも、公子・小白を護る者たちがうまくやってくれてこそ、の話になるが」
 フランクスはけいとと入れ替わるように、高氏の居室へと向かった。


 路傍の石で車輪が浮き上がりそうになるほど急いで、リチャードは馬を走らせていた。
「君よ、しっかりと掴まっていてください!」
「昼夜兼行で進もう。ぐっすりと眠るのは、斉都についてからだよッ!」
 チルルはそう言って、従者たちに発破をかける。両者の必死さが一行を染め上げ、従者たちはまさしく必死の形相でついてきた。
 とはいえ、限界もある。山間の道にさしかかるあたりで、一行はいったん足を止めた。
「もう歩けません〜!」
 万里が地面にへたり込み、泣き言を言う。ふつうなら苦言を呈されそうな有様だが、その口振りがあまりに大げさなので、従者たちからは笑いが漏れる。
 その様子を横目に見つつ、千里は瓢の水を口に含んだ。
「少しは引き離せただろうか」
 公子・糾に対しては、そうに違いない。しかし。
 小白が帰国を急ぐことくらい、麻里奈は予想しているであろう。それを黙って見過ごすはずがない。
「お誂え向きに、ここからは道が狭い。襲ってくるとしたら、このあたりか」
 リチャードも同意だったようで、彼は小白に、 
「君よ、ここからは衣服の下に甲をおつけください」
 と、促した。
「刺客がいるというのか」
 小白はむせて口に運んでいた水を吐き出すと、大いにうろたえた。
 水を飲み、小腹を満たした一行はふたたび坂道を上り始める。
 その様子を、崖の上から見下ろす目があった。
「来た来た! 予想通りね!」
 ぴょん、と飛び上がったのは嬉しさのあまりか。麻里奈は普段なら可愛らしく見える、だが今はずいぶんと性悪に見える微笑みを見せ、配下に合図を送る。
 襲撃の地点はあらかじめ見当をつけていたとおり。長くまっすぐな坂道が続き、麻里奈の立つ崖に突き当たる、この場所。
 合図とともに潜んでいた麻里奈の配下が一斉に立ち上がり、襲いかかった!
「申し訳ないですけど! お命ちょうだいしますーッ!」
「やはり来たか! 皆、敵に備えよ!」
 千里が叫ぶと、従者たちはすぐさま小白の乗る兵車を護りつつ、武器を構えた。
「いい発想だったけど、相手が悪かったね!」
 大剣を振りかぶったチルルが兵車を飛び降り、飛び出した。血路を開くつもりだ。
「リチャード、公子様は任せたよッ!」
 身構え、矛を突き出す敵兵を、得物ごと貫く。
「次は誰だッ!」
 伍長とおぼしき敵兵を見つけたチルルはそちらに向き直り、ふたたび大剣を振り下ろす。さすがに腕に覚えがあるらしく、伍長はその一撃を避けて矛を突き出すが、首をわずかに傾けただけでチルルはそれを避ける。渡り合うこと二、三合で、伍長は得物を弾き飛ばされ、腰の短剣を抜く間もあればこそ、胸を突かれて地に伏した。
「さすが」
 感嘆の声を上げたリチャードだが、冷静に手綱を握り直す。
「敵兵にかまうことはない。突破するぞ!」
 叫ぶと、従者たちが矛をそろえて、怯みを見せた敵の囲みを突破する。チルルがふたたび、兵車に飛び乗ってくる。
「え、えぇ〜、なんでー!」
 策は完璧だったはずなのに。
 思わぬ手強さに狼狽えつつも、麻里奈は弓を手に取ると、引き絞って矢を放つ。
 そもそも慣れていないのか、へろりん、とでも音をつけたくなる所作だが、それでも撃退士が放った矢。思いのほか鋭く、飛ぶ。
「させるかッ!」
 それを予期していた千里が銃を構え、引き金を引く。
 矢は銃弾に弾かれ、勢いを失った。かろうじて小白までたどり着き、へその辺りに命中はした。
「大事ない」
 甲をつけていたこともあり、矢はわずかな傷を付けただけだった。
「これなら、回復の必要もないくらいですね。『聖なる刻印』のおかげで、万が一の矢毒もきっと大丈夫」
 と、万里は無意識に、ぺしッと軽く腹を叩いた。
 しかしリチャードは手綱をチルルに預け、覆い被さるようにして囁く。
「君よ、そのままお体を起こさずに」
 リチャードは小白の体を横たえたまま、兵車を進ませた。
「なにか考えてるね」
 と、チルルが笑う。
「え? やった?」
 麻里奈自身が驚いた。が、すぐに小さく拳を握りしめ、身を翻す。もはや奇襲の意味はない。
 千里は銃弾を放った直後から、得物を太刀に持ち替えて、崖に迫っていた。敵兵を切り捨て、比較的緩やかなところから崖を駆け上げる。
 気付いた麻里奈は、慌てて逃げようとした。が、木の根に足を取られ、
「きゃーッ!」
 崖をごろごろと転がり落ちた。「メガネ、メガネ」とずれた眼鏡を直している隙に、千里は手を伸ばしてその襟首をひっ捕まえようとする。
「きゃー! きゃー!」
 だが、麻里奈は腰が抜けたように四つん這いになりながらも、ばたばたと足を動かして逃れ、すぐに敵兵が助けに駆けつけたこともあって、千里の手中に収まったのは制服のスカートだけ。
「お兄様、深追いは禁物ですの。斉都に帰り着くことが優先です」
 万里は小白の兵車が通り過ぎたあとに大岩を転がし、兵車が通れぬように道を塞いだ。
 敵が多勢であるはずもないが、万が一ということもある。
 千里が用意した温車(霊柩車)に小白を隠し、一行は斉都へとひた走った。


「お帰りなさいませ」
 小白の……いや、新しい斉公の馬車を、フランクスは額ずいて出迎えた。
 斉都では士大夫のみならず庶民までが出迎え、歓声が小白を包む。
 その様子を、天藍は望楼から見下ろしていた。庶人にまで小白の帰還を知らせ、宴の支度をさせたのは彼である。一方で、怪しげな輩がいないかどうか、目を光らせていた。
 宗廟で先祖に即位を知らせた小白が晴れて斉公となると、これで続いた混乱も少しは治まるかと、人々は安堵のため息を漏らす。
 斉都で奔走した撃退士たちが、肩の荷を下ろした瞬間である。
「公子・糾には魯の後ろ盾がある。両国の関係がよいのは喜ばしいことだが、はたして即位を見届けたあと、すんなりと帰国するだろうか?」
 けいとはそのように、斉の国人に語って回った。
「魯によって、斉の国政が壟断されるという事もあり得る」
 公子・小白なら安心だ、とまでは言わない。ひそかな声はけいとのものだと気取られることのないまま、国人へと染み渡っていく。
 そうした頃合いに、天藍は国政を担うもう一人の大臣……国氏を訪ねた。
 曰く、「公子・糾は御しにくい」と。
「扱いにくい上に、武威を好むのは乱のもとです。そうした君主より、平凡な君主を抱いた方が、『あなた様は』やりやすいってもんでしょう?」
 と、意味ありげな視線を送った天藍だったが、国氏はそれを制して、
「斉の国あっての我である。決して逆ではない」
 と、厳しい顔を向けた。
 とはいえ、国人の間に広がる声を国氏も聞き及んでいる。
「公子・小白の評判は聞き及んでいる。君として抱くことに不満はない。汝の言葉は重く受け止めよう」
 国氏のもとを退いた天藍は、苦笑いを見せた。
「どうやら、国氏を見くびっていたある」
 とはいえ、そうして国人の支持を取り付けたからこその、速やかな即位であった。
 しかしながら、斉公と撃退士にのんびりと宴を楽しむゆとりなどない。
 魯の軍勢は斉都に迫っているのである。
 だがすでに、けいととフランクスによって師旅は整えられており、あとは命令を待つのみという状態であった。
「さすがだね!」
 当然のように先陣を志願した、チルルが仲間の周到さを称えた。
「我が君の即位は秘した方が、敵の虚をつけるのではないか」
「いや。それは一理あるが、敵の大義を失わせ、こちらの心をひとつにする方が意義があるだろう。それもまた、敵の虚をつくに違いない」
「なるほど。任せよう」
 けいとの言葉に頷いたリチャードは先駆し、
「すでに公子・小白は即位した。公子・糾は勝手に国境を越えることなきよう」
 と、通告した。
「なんで? うそッ!」
 その瞬間まで、主君の即位を信じ意気揚々としていた麻里奈の顔色が変わる。
「案ずるな。どのみち、いつかは干戈を交えねばならぬ相手よ!」
 狼狽する麻里奈を責めることなく、公子・糾は大声を放った。魯公も頷き、悠然と行軍していた魯軍がにわかに動く。
 砂塵が舞い、魯軍の赤い旗が激しく動いていくが、麻里奈はすでに感づいていた。
 ――負ける。
 小白はすでに、国人を掌握している。軍勢だけなら魯軍の方が多いが、内からの支持なく、外からの圧力だけで斉公を立てるには、いささか無理がないか。
「ここで破れては、今までの苦労が水の泡だ!」
 迫る魯軍の横合いから、リチャードが率いた伏兵が立つ。
 彼ばかりか、チルルもまた、魯軍の不意をついて攻撃を仕掛けた。肩に乗せるように構えた大剣を渾身の力で振り下ろすと、放たれた光が立ちはだかる敵兵をなぎ倒す。
 強敵と見て、多くの矢がチルルを襲う。しかし彼女は笑みさえ見せて、
「当たらない当たらない! 当たったら運が悪いだけッ!」
 と、突進をやめない。
 先ほどは退くことを優先したリチャードだが、ここでは遠慮は無用だ。同じく大剣を振るい、車上の甲士を転落させた。
 もともと虚をつかれた魯軍である。強がってはみても兵には狼狽があり、撃退士たちの奇襲によってさらに混乱は広がった。
「全滅させる必要はない」
 けいとの率いる隊が、魯軍の背後に回って退路を脅かす。
 魯軍は完全に受け身となって、ついには潰走した。


「うぅッ……いったい、どういうつもりですか?」
 魯都を囲まれるのがよいか、それとも麻里奈を渡すのがよいか。
 そのようにして、麻里奈の身柄は斉公に引き渡された。
 麻里奈は気丈に撃退士たちを睨み付け……ているつもりかもしれないが、縛られて半泣きになっている。
「さぁさぁ、ズバッといってくださいよう」
「……お前さん、どうしてあの男を主と認めたんかね? 金か、名誉か、成り行きか。それともまさか、惚れでもしたか?」
「ななな、何を言ってるんですかぁ!」
 天藍が問うと、麻里奈はのけぞりながらも、律儀に答える。
「なにかこぅ、使命感? みたいなのでしょうか」
 なにせ、いきなりそんな立場に放り込まれた夢だから。
「意外とふわっとしてるあるねぇ。まぁ、いいある。ここで死んでしまうのは簡単だけど、それで満足できるほど、お前さんは自分の才を出し切れたのかねぇ?」
「どうしてそんなことを……?」
 心が揺れる。訝った麻里奈を遮るように、リチャードは斉公に訴えた。
「我が君、彼女は天下の才です。私など、足元にも及びません。その偉材が足下にある幸運を捨てれば、君は天下を失い笑いものとなるでしょう。
 麻里奈、きみの才で公を支え、斉の民を栄えさせてもらいたい。何より友として、私はきみを死なせたくない。どうか私を、不義の友にしないでくれ」
 そう言われた麻里奈の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「かつて私がお皿に残ったお菓子の取り分を多くしたとき、リチャードさんは私を食いしんぼだと笑いませんでした。私がダイエット明けだと知っていたからです!
 私を産んでくれたのはお母さんですが、私をよく知ってくれているのはリチャードさんかもです!」


「まだまだ天下には英雄がいる。せっかくの夢だ、起こしてくれるなよ!」
 そう万里に言い残して、千里は西方へと旅だった。
「家督を譲るって……譲られるものなんて別にない、一般家庭ですけど?」
 果たして、いつまで続く夢であるのか。
「どんな君主になりたいですの?」
 即位して間もないとき、万里は小白に尋ねた。
「周王室が蛮夷に脅かされぬよう、乱れた世を救おう」
 そう言った小白は、それまでよりも一回りも二回りも大きくなったように見えた。
 かくて斉公・小白は、やがて天下を総覧する覇者となり、死後に桓公と諡される。
 その片腕となった麻里奈、さらに彼女を世に顕した撃退士たちの名もまた、不朽のものとなる……かもしれない。
 なにせ夢のことだからなぁ。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
撃退士・
佐倉井 けいと(ja0540)

大学部5年179組 女 ルインズブレイド
鉄壁の騎士・
リチャード エドワーズ(ja0951)

大学部6年205組 男 ディバインナイト
懐かしい未来の夢を見た・
天藍(ja7383)

大学部8年93組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
フランクス・スマートリー(jb2737)

大学部3年253組 男 インフィルトレイター
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター
片付けも大事!・
城里 万里(jb6411)

大学部1年190組 女 アストラルヴァンガード